魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第20話「京都修学旅行編・2日目」

Side 茶々丸

 

アリア先生の様子が、昨夜からおかしい。

私がそれに気がついたのは、就寝前の挨拶を交わした時です。

アリア先生は最初は私やマスターに気付かず、ロビーのソファに座り込んでいました。

その時の心拍数・体温が、通常時よりわずかに高かったのです。

 

 

マスターに声をかけられてからは通常の状態にまで戻ったので、そのままにしておいたのですが・・・。

 

 

まだマスターやさよさんが眠っている早朝、アリア先生のお世話をしようと部屋を尋ねたところ、先生はすでに起きていました。

というより、眠っていないのではないかと思われました。

 

 

ガイノイドの私にはわかりませんが、人間にとって睡眠はとても大切な要素。

とはいえ「大丈夫」と言われてしまっては、私にはどうすることもできません。

私にできることは、何か、無いのでしょうか・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

清々しい朝です。

今日は修学旅行の2日目。

生徒のみなさんが最も楽しみにしていると言っても過言ではない、自由行動の日です。

私にとっては、最も忙しい日ですが・・・。

 

 

「あ、アリア先生? これはいったい・・・?」

 

 

まぁ、そんなわけでやって来たのは食堂です。

私の右手は刹那さんの左手をがっちり握っています。

え~と・・・。

 

 

「あ、アリア先生、こっちやえ~」

 

 

その一角にニコニコ笑顔な大和撫子、木乃香さんがいました。

朝早く刹那さんと仲良くなるきっかけを作ります、と呼び出しておいたのです。

 

 

「お、お嬢様!? せ、先生、私は・・・」

「はいはい、行きますよ~」

「ちょっ・・・先生!?」

 

 

いやぁ、昨日から考えていたんですけど、もうこうなったら直接ぶつけた方がてっとりばやいですよね。

それに昨日の様子を見るに、刹那さんは木乃香さんをとても大切に思っています。

遠くから見てるだけなんて、もどかしいではありませんか。

 

 

「おはようございます木乃香さん。刹那さんがどうしても朝食をご一緒したいとのことで・・・」

「なっ!?」

「ええよ、うち、せっちゃんに嫌われたんかと思ってたから嬉しいえ」

「え、ええぇ!?」

 

 

そのまま強引に刹那さんを木乃香さんの横に座らせます。

すかさず木乃香さんが腕をホールドします。

 

 

「せっちゃん、うちのこと嫌いなん? 一緒にご飯食べたくないん?」

「い、いえそんな、き、嫌いになんて・・・」

 

 

ぐいぐい迫る木乃香さん、アドバイス通りですね。

一方で若干引きつつ、しかしどこか嬉しそうな刹那さん。

 

 

「・・・では、私は職員の打ち合わせがありますので」

「そうなん? 残念やわ~」

「えっ・・・ちょっ、先生!?」

 

 

なんですか、その助けを求めるような顔。

そんな目で見てもどうもしませんよ。

本当は嬉しいくせに。

・・・さて、新田先生と一緒に朝食をとるとしましょう。

今日の予定についても相談しなくては。

 

 

「せ、先生~っ!!」

 

 

結果から言えば、距離は縮まったようです。

 

 

 

 

~朝食タイム~

 

「新田先生、この“なっとう”なる食べ物はどう食べれば・・・?(前世でも食したことがありません・・・)」

「おお、そう言えばアリア先生は英国出身でしたな。これはこうしてかき混ぜて・・・」

「す、すごくネバネバしています・・・!」

「はい、どうぞ。 ・・・そう言えば、お箸の持ち方、綺麗ですな」

「はむはむ・・・・・・頑張って練習してみました」

「それは感心ですな。最近では日本人でも正しい持ち方を知らない者も多いですから」

「そうなんですか。 ・・・・・・ふむぐっ!?(の、喉に魚の骨が!?)」

「ああ、ほら、ご飯を一口飲み込んで・・・」

「むぐむぐ・・・た、助かりました」

「もっとゆっくり、小骨に気をつけて食べなさい」

「は、はい・・・」

 

 

・・・なんだか不思議です。

新田先生の前だと、自分が子供になったみたいです。

まぁ、身体は子供なんですけどね。

こういうのって、いいな。

 

 

 

 

 

朝食を終えた後は、ホテルのロビーに行きました。

たしか、木乃香さんたちは東大寺に行くんでしたね。

 

 

「おい、アリア! 奈良に行くぞ!」

 

 

突如として声をかけてきたのは、京都に来てからさらにテンションが上がったエヴァさんでした。

 

 

「・・・エヴァさん、私にも仕事が」

「無視しろ! さぁ行くぞ奈良へ!」

「すみませんアリア先生、マスターはアリア先生を連れて行くときかず・・・」

「昨日も、本当はアリア先生と回りたかったんですよね?」

「なっ・・・馬鹿、違うぞ! 違うからな!」

 

 

真っ赤な顔で否定するエヴァさん。

茶々丸さんとさよさんは、どことなく嬉しそうです。

・・・まぁ、どのみち奈良に行かねばなりませんし・・・。

 

 

「・・・いいですよ。今日は、一緒に行きましょうか」

「ふんっ! 当然だ・・・」

 

 

・・・・・・これが、ツンデレというものでしょうか。

茶々丸さんが「記録中・・・」と言っていました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

まったく、馬鹿が。そんなひどい顔で何が仕事だ・・・。

茶々丸が心配するので来てみれば、本当に寝ていないようだな。

昨夜から、少し挙動がおかしかったが・・・何があった?

 

 

無理矢理聞き出しても良いが、おとなしく話すとも思えん。

それに、こういうものはあまり力押しするとこじれるからな。

本人が話すのを待つのが一番だ。

 

 

まったく、この私がなぜこんな気遣いをしなければならんのだ。

 

 

「・・・エヴァさんって、やっぱりツンデレですよね」

「だから、違うと言っとるだろうが!」

 

 

さっさと話せ、この馬鹿が。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「見てください、明日菜さん! 鹿がいっぱいです!」

「ハイハイ・・・ガキね~」

「見てみろ、アリア! 奈良県の半分は鹿で出来ていると物の本で読んだが、本当だったぞ!」

「・・・奈良県民に怒られますよ」

 

 

奈良に到着した私たちは、まず鹿に会いに行きました。

エヴァさんとネギ兄様が同じレベルではしゃいでるって、どういうことなんでしょう?

 

 

「せっちゃん、一緒に回ろ?」

「は、はい・・・お嬢様」

「あん、昔みたいにこのちゃんって呼んで~な」

「い、いえ・・・そ、そんな、恐れ多くて・・・」

 

 

・・・なんですかあの二人。

見ているこっちが恥ずかしいんですけど。

 

 

「のどか、ファイトですよ!」

「ふ、ふぇ~~っ」

 

 

・・・綾瀬さんと宮崎さんは木の影からネギ兄様を見つめていますし・・・。

 

 

「・・・まったく、皆さん何しに奈良まで来たんだか」

「あんたに言われたくないわよっ!」

 

 

明日菜さんの突っ込み。むぅ、何が問題なんですか。

ただ、ちょっと茶々丸さんに膝枕してもらってるだけじゃないですか・・・。

私だって、癒しがほしいんですよ・・・。

 

 

・・・目を閉じて、昨夜のことを少しだけ思い出します。

陰陽師、神鳴流の剣士、そして・・・。

 

 

「・・・・・・フェイトさん」

 

 

誰にも聞こえないように、小さな声で呟いてみます。

・・・・・・心が、ざわつく。

あの感情のない瞳を思い出すと、胸の奥が締め付けられます。

少し、苦しいですね。

 

 

「・・・・・・アリア先生」

 

 

不意に、茶々丸さんが私の名前を呼びました。

 

 

「私はガイノイドです。なので人間の心の動き、というものはよくわかりません。ですが」

「・・・茶々丸さん」

「アリア先生が昨夜あまり眠っておられない、ということはわかります」

 

 

そっ・・・と、頭を撫でてくれる茶々丸さん。

 

 

「少し、お眠りください。私がここにいますので」

「・・・・・・・・・」

 

 

少し、驚いた目で茶々丸さんを見ます。

ふ・・・と、少し、微笑んでいるようにも見える茶々丸さんの顔を見て、私は。

胸の奥に少しだけ温かい気持ちを感じながら、今度は眠るために目を閉じました。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

遠くから見る彼女は、まるで子供のようだった。

 

 

もちろん、ターゲットの近衛のお姫様から目を離すことはしない。

今は護衛の娘と乳繰り合っているようだ。

 

 

それでも、僕は彼女の方を気にしてしまう。

 

 

アリア・スプリングフィールド。

英雄の娘。魔法の使えない、できそこないの子供。

だが、昨夜は千草さんや月詠さんを難なく退けている。

おまけに、僕の魔法まで完璧に防いで見せた。

 

 

知れば知るほどに、よくわからない存在だ。

だから、気になるのかもしれない。

僕と同じような匂いをさせながら、でも僕とは違う何かを感じる彼女を。

 

 

「・・・・・・えらいご執心やなぁ」

 

 

そんな僕をどう思ったのか、半ば呆れたように、千草さんが言う。

 

 

「そないに警戒が必要かいな? そりゃあ昨日はやられてまいましたけど、正直それほどとは・・・」

「・・・腕を無くしかけておいて、よくそんなことが言えるね」

「うっ・・・それを言われると・・・」

 

 

すでに治癒術で治ったはずの腕を、千草さんはもう片方の手で撫でた。

筋肉の繊維まで傷ついていたから完全に治るかは微妙だったんだけど、なんとかなったみたいだ。

 

 

「月詠はんは、まだ無理やな」

「・・・そう。まぁ、死にかけたからね。じゃあ今日は無理かな・・・?」

「せやな。明日が本番になるやろな。小太郎も呼んどかんと・・・」

 

 

そのまま、明日の計画を考え始めた千草さんから目を離して、再び彼女を見る。

緑色の髪の女の子に膝枕されて、気持ち良さそうに眠っている彼女を。

・・・・・・明日か。

 

 

明日、もし鉢合わせするようなことがあれば、何か話してみるのもいいかもしれない。

なぜか、そんなことを考えた。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「・・・・・・あ」

「ん? どうしたのよネギ」

「そ、その、アリアが寝てるみたいだから・・・」

 

 

僕が指差した方を見て、ほんとだ、と明日菜さんが言った。

なんだか珍しいものでも見たみたいな顔。

僕もアリアが人前で寝てるの、始めて見たかも・・・。

 

 

「あーしてれば、普通の女の子なんだがなぁ」

 

 

僕の胸の中で、カモ君が何かぼそぼそ言ってる。

こんなところで喋っちゃ駄目だよ。

 

 

「アリア先生が寝てるからって、妙なことすんじゃないわよ」

「しねぇよ。姐さんだって昨日の見ただろ!?」

「ちょ・・・声が大きいわよ! 他の人に聞こえたらどうすんのよ!?」

 

 

明日菜さんの声が普通に大きいので、すでに注目を集めてるみたい。あわわ・・・。

 

 

でも、カモ君の言うとおり、昨日のアリア、すごかったな・・・。

なんだか凄い道具を使ってたみたいだけど、どれも見たことがないものばかりだった。

僕や明日菜さんたちが敵わなかった相手を、あっという間にやっつけちゃうし。

あの道具、魔法具だと思うけど・・・アリアはいったい、どこであんなものを手に入れたんだろう?

 

 

最近、エヴァンジェリンさん達と仲が良いみたいだけど、エヴァンジェリンさんにもらったのかな。

いいな。あれがあれば、きっと僕も・・・。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

触れる。

触れてもらえる。

声を聞いてもらえる。

それだけのことがこんなにも嬉しいなんて、初めて知りました。

 

 

60年間、麻帆良に縛られていた私にとって、修学旅行は喜びの連続。

新しい身体をくれたアリア先生達には、本当に感謝しています。

 

 

「おい、茶々丸。代われ、私がやる」

「ダメです」

 

 

今は奈良の公園の片隅で、眠っているアリア先生をみんなで見ています。

茶々丸さん、いいな~。私もアリア先生を膝枕して、なでなでしたいです。

アリア先生のお腹に寄りかかってるチャチャゼロさんも、羨ましいです。

 

 

「・・・・・・茶々丸、私はお前のなんだ?」

「マスターは私の大切なマスターです」

「・・・・・・なら、私の命令にはどうすればいいか、わかっているな?」

「マスターの命令は最優先。承知しております」

「・・・・・・よし、なら代わ「ダメです」っておいぃぃっ!」

 

 

さっきからエヴァさんが膝枕を代わるように交渉(?)してるけど、なんだかダメみたいです・・・。

・・・でも、アリア先生も「小さな勇気が奇跡を生む」って言ってました!

あと、このあいだ見た映画でも「女は度胸」とも言ってました!

 

 

あのリハビリの日々を乗り越えた私にとって、このくらい何でもないです!

 

 

「・・・あのぅ、茶々丸さん、私も・・・」

「無理だ、さよ。こうなった茶々丸はどうにもならん」

「・・・少しだけですよ?「おいコラちょっと待て!」起こさないように注意してくださいね」

 

 

わーい。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

小一時間ほど眠った後は、鹿と戯れたり、大仏に対しキリスト式のお祈りをしたりして過ごしました。

エヴァさんが休憩所でお団子を喉に詰めた時には、かなり驚きました。

不死身のくせに死にかけていましたからね。

 

 

「・・・おや?」

 

 

公園の端で明日菜さん、刹那さん、木乃香さん、さらには綾瀬さんが小さく蹲っていました。

・・・体調でも悪いのでしょうか?

 

 

「・・・何をしているんですか?」

「あ、やばっ・・・」

「アリア先生」

「先生、しー・・・やで?」

「のどか、がんばるです・・・!」

 

 

四者四様の反応を見せてくれますが、中でも明日菜さん(上から2番目です)の反応に傷つきました。

私に反応さえしてくれない綾瀬さんにも傷つきましたが。

 

 

「・・・それで、何を?」

 

 

静かにしてほしいなら、そうしますが。

 

 

「あれよ、あれ」

 

 

明日菜さんが指さした方を見ると、ネギ兄様と宮崎さんが、何やらただならぬ雰囲気で向かい合っていました。

 

 

「のどか・・・!」

 

 

綾瀬さんが握り拳で宮崎さんを応援しています。

何でしょうこの気迫は。

 

 

「この空気は・・・まさか」

「そう、そのまさかです!」

 

 

私の呟きに、綾瀬さんがこちらを見ないままに力強く頷きます。

なるほど、これは・・・!

 

 

「・・・中間テストの質問ですかね?」

「なんでこんなとこでそんなことするのよっ!」

「明日菜、しー、やで?」

 

 

私の言葉に激しい突っ込み、じゃあ、なんだっていうんですか。

 

 

「見てればわかるわよ!」

「はぁ・・・」

 

 

じゃあ見ていましょうか。

む? 宮崎さんが何か言うようですね。

 

 

「私、ネギ先生のこと出会った日から好きでした!」

「・・・・・・え?」

「わ、私・・・私、ネギ先生のこと大好きです!!」

 

 

・・・は?

え、あ、そうか! ここで告白イベントですか!

すっかり忘れていましたよ。と、いうことは・・・?

 

 

宮崎さんが走り去った後、ネギ兄様は煙を吹いて倒れました。

おやおや・・・。

 

 

「の、のどか!?」

「ね、ネギ!?」

 

 

綾瀬さんが宮崎さんを追いかけ、そして明日菜さんが倒れた兄様に駆け寄ります。

・・・宮崎さんが兄様を、ですか・・・。

そう、ですか・・・。

 

 

「せ、先生?」

「はい?」

 

 

見てみますと、木乃香さんと刹那さんがどこか怯えたような顔で私を見ていました。

・・・どうしたんでしょう?

 

 

「なんというか・・・」

「ものすごく、無表情で怖かったと言いますか・・・」

 

 

・・・ああ。

 

 

「・・・すみません。ただ私も少々思うところがありまして・・・ね」

「先生は、本屋ちゃん応援してくれへんの?」

「いえ、宮崎さんに思うところはありません」

 

 

むしろ、逆。

ネギ兄様の方が、宮崎さんに似合う殿方かどうか・・・という点に疑問を感じます。

宮崎さんは引っ込み思案な方ですが、一方で自分の意見を持つ芯の強い女性です。

愛情深くもあり、甘えたがりな兄様にとっては理想の相手ではないでしょうか?

でも・・・。

 

 

「・・・まぁ、私にできることは、あまりありませんが」

 

 

他人の恋路に介入するとろくな結果になりませんからね。

ね・・・シンシア姉様?

 

 

 

 

アリアの白馬の王子様はどこにいるんでしょうか?

 




アリア:
はじめまして、そうでない方はこんにちは。
アリア・スプリングフィールドです。
読者のみなさまには、連日私の魔法具案を提示していただき、感謝に堪えません。
魔法の使えない私にとって、魔法具はまさに死活問題。
今後のご支援をよろしくお願いいたします。


アリア:
次話は、2日目の夜のお話です。
昼間は比較的平和でしたが、夜はより警戒を必要とするでしょう。
生徒のみなさんに、平穏な日常をお届けします。

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