魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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例によってアンチです。
苦手な方、お気をつけください。


第22話「京都修学旅行編・3日目」

Side 明日菜

 

「ちょっと、どーすんのよネギ! こんなにいっぱいカード作っちゃって、一体どう責任とるつもりなのよ!?」

「えぇっ!? 僕ですか!?」

「あ、当たり前でしょ!?」

 

 

私は今、ネギを叱りつけている。

そんな私の手には、仮契約カードがいっぱい。宮崎さんのカード以外はスカだけど。

でも、これはないでしょ!?

 

 

「もう、アリア先生になんて言えばいいのよ~っ」

 

 

せっかく、ネギと私を信頼して任せてくれてたのに・・・。

私がそんなことを考えていると、諸悪の根源の一人と一匹が、訳知り顔で肩を叩いてきた。

 

 

「まぁ、いーじゃねぇっスか」

「そーだよ明日菜、細かいこと言いっこなしだよ」

「あんたたちねっ! 少しは反省するとかしなさいよ!」

 

 

どこ吹く風で聞き流す朝倉とカモ。くっ、むかつくわね!

 

 

「っていうか、こんなことがアリア先生に知れたら・・・・・・っ!?」

「・・・明日菜? どったの?」

 

 

急に黙り込んだ私に、朝倉が不思議そうな顔をしたけど、それどころじゃない。

だって、朝倉の後ろには・・・っ!

 

 

「・・・・・・我に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)

 

 

とんでもなく目の据わったアリア先生がいたから・・・。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・・・・我に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)

「へぶおぅっ!?」

 

 

私がそう呟いた瞬間、魔法具、『マグダラの聖骸布』が発動、朝倉さんの肩にいたカモを赤い布で縛り上げ、捕縛します。

同時に、周囲に人払いを込めた隔離結界を張ります。

 

 

「・・・魔法具、『リングダガー』」

 

 

さらに、懐から取り出した、小さな短剣が横向きについているリングを、本来のダガーナイフに戻す。

ナイフの刃を、朝倉さんの脇腹に突きつけます。

少しでも動けば・・・切れますよ? ふふふふ・・・。

 

 

「・・・さて、説明してもらえますよね、朝倉さん。そしてカモ」

 

 

こいつらのせいで、私のファーストとセカンドが・・・!!

嫌ではなかったですけど、それでも軽く済ませてよいものではなかった。

 

 

「どんな説明を聞かせてくださるのか、楽しみですね。まぁ、罪状は変わらないわけですが、ね」

 

 

おや、どうしたんですか、朝倉さん。

顔色が、悪いですよ?

 

 

「あ、アリア先生、落ち着いて・・・」

「これが落ち着いていられますか!!」

 

 

今回の朝倉さんの行動は、悪ふざけの範疇を越えるものです。

 

 

「・・・それで、朝倉さんはどういうつもりで、クラスメイトの命を危険にさらすような真似を?」

「い、命って、そんな大げさな・・・」

「ほぅ? ずいぶんと魔法の世界の事について詳しいですね。朝倉さん。なら不勉強な私に教えていただけませんか? いったい、何を根拠に「安全だ」などと思ったんです?」

「だ、だって、ネギ先生は・・・」

「ネギ兄様が魔法使いとしてスタンダードだったなんて、初めて知りましたね」

 

 

朝倉さんの言葉を、私は嘲笑いたくなりました。

まぁ、ネギ兄様しか魔法使いを見たことがないんですから、仕方ありませんね。

ならば直接、身体に教えてさしあげましょう。

 

 

次に私が取り出したのは、一見すると、ただのメガホンです。

兄様達も、それを見て、怪訝そうな表情を浮かべました。

しかしこれも、立派な魔法具です。

その名も魔法具、『叫名棍』。

 

 

さぁ、恐怖してもらいましょうか、朝倉和美。

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「あ、姐さん、それはいったい?」

 

 

天井から、赤い布で縛られてぶら下がっているカモ君が、不思議そうに聞いていた。

アリアはそれには答えずに、どこからか取り出したメガホンを、朝倉さんの耳元に近付けて。

 

 

「・・・・・・『動くな、朝倉和美』」

「・・・・・・っ!?」

 

 

その瞬間、朝倉さんの様子が・・・。

 

 

「アリア!? 朝倉さんに何をしたの!?」

「・・・・・・今言った通りですよ。朝倉さんは私が許さない限り、永遠に動けません」

「え」

 

 

朝倉さんの顔が、引き攣った。

でも本当に動けないのか、ぷるぷる震えるだけで、その場からは動かなかった。

 

 

「この魔法具で名を呼ばれた相手は、全身の神経を呼んだ者に支配されます」

「なっ!?」

「えぇえっ!?」

「ちょっ・・・マジで!?」

「なんだよそりゃあ!? アーティファクトっスか!?」

 

 

そんな魔法具、聞いたこともないよ!

どうしてそんなものを、アリアが!?

 

 

「・・・あ、アリア? そのマントは・・・?」

 

 

いつのまにか、アリアは真っ黒なマントを着ていた。

本当にどこから取り出してるんだろう、空間魔法かな・・・?

でも、アリアは魔法が使えないはずじゃ・・・。

 

 

アリアは口元に嫌な笑みを浮かべると、持っていたナイフを上に投げた。

そして、黒いマントの一部が広がって、ナイフを包み込んだ。

マントが元に戻った時、ナイフは、無くなってた。

これは・・・?

 

 

「このマントに包まれたものは、この世界から消滅します」

「しょ、消滅って?」

「そのままの意味ですよ?」

 

 

明日菜さんの問いに、何が面白いのか、アリアが笑いながら答える。

どうしてそんな顔で笑えるのか、僕にはわからない。

 

 

「このマントに包まれたものは、人間だろうとなんだろうと、消えてなくなります。消滅という言い方が曖昧でわかりにくいと言うのなら・・・・・・死にます」

「しっ・・・!?」

「アリア!」

「ちょ、ちょっと待った姐さん!」

 

 

アリアは朝倉さんに抱きつくような体勢をとった。

そしてそれに合わせるように、黒いマントが朝倉さんを包み込み始めた。

 

 

「ほら、朝倉さん。魔法は「安全」なのでしょう? なら怖がること、ないじゃないですか」

「う・・・うぇ」

「ああ、でも・・・早く逃げないと、死んでしまいますよ?」

 

 

あ、動けないんでしたっけ。

アリアはそう言って、クスクス、と笑った。

朝倉さんは、今にも泣き出しそうな顔をしてるのに・・・。

 

 

意味がわからなかった。

なんでアリアがこんなことをするのか、わからなかった。

 

 

「・・・・・・ねぇ、ネギ兄様」

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

魔法具、『六魂幡』をザワザワと操りながら、呆然とした表情を浮かべる兄様に声をかけます。

 

 

「兄様、昨夜私は言いましたよね? 魔法を知られた場合の対処法を。説得するか、記憶を奪うか、そして・・・」

 

 

殺すか。

そう言って、私は朝倉さんに抱きつくようにしながら、『六魂幡』の中に彼女を引き込んでいきます。

 

 

「・・・朝倉さんは一度、ネギ兄様から頼まれていたはずですね? それでこのようなことをされると、私としても、とりたくない手段を取らざるを得ないんですよね・・・」

 

 

こんなことで、本国から目をつけられても嫌ですし。

 

 

「ねぇ、朝倉さんは魔法をなんだと思ったんです? 便利な人助けの道具? ファンタジーな楽しい玩具? なるほど、そういう側面もありますね」

 

 

それでもそれは一側面でしかありません。

 

 

「でもね、魔法はとても危険な要素も含んでいるんです。考えても見てください。その気になれば簡単に人を殺せる。そしてこの世界の法律で捕まえることは難しい。証拠品をこの世から隠せるんですから。誰にも見えないところに・・・」

 

 

それは結局、使う人の感情一つで制御されているにすぎません。

現に兄様も、一度は茶々丸さんを殺しかけました。

そして今、朝倉さん。貴女は私に殺されかけています。

 

 

「そしてもし、魔法使いの世界と言いうものがあって、国がいくつもあり、しかも戦争直前の状態にあるとしたら・・・? そして私と兄様の父親が、一方の陣営から敵視されていたら・・・?」

「そんな!? 父さんが恨まれるなんて、そんなこと・・・」

「そんな兄様に、身を守る力を持たない従者ができたら・・・? 格好の人質になるとは、思いませんか? ねぇ、朝倉さん?」

 

 

空気の読めない兄様は、無視しました。

傷ついたような表情をしていましたが、知ったことではありません。

朝倉さんは、青ざめた顔でガタガタと震えていました。

 

 

「あ、アリア! やめてよ。なんでこんな・・・」

「そ、そうよアリア先生! 朝倉だってほら、反省してるし・・・」

 

 

反省、ねぇ・・・。

私は天井からぶら下げているカモの方を見ると、それも『六魂幡』の中へ引き込むべく、魔法具を操作しました。

この下等生物、以前私にされたことを忘れかけているようですねぇ。

 

 

「ひ、ひいぃぃっ!? あ、兄貴~!」

「か、カモ君!?」

 

 

鬱陶しいですねこの下等生物。兄様に助けを求めやがりました。

味を占めているのかどうなのか・・・。

 

 

「・・・・・・アリア!」

 

 

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

な、何よこの状況。

私は、正直どうしてこんなことになってるのか、わからなかった。

どうして・・・。

 

 

「・・・・・・どういうおつもりですか、兄様?」

 

 

感情が全然こもってない、そんな声で、アリア先生がネギを睨んでる。

どうしてネギが・・・。

 

 

「兄様は何故、私に杖を向けておられるのでしょうか?」

「・・・・・・カモ君と朝倉さんを、放して」

 

 

 

どうしてネギが、アリア先生に杖を向けてるの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ちょっ・・・ネギ!」

 

 

明日菜さんが、悲鳴のような声を上げる。

それでも僕は、アリアに杖を向けたままだ。

だってそうしないと、アリアは朝倉さんとカモ君を殺しちゃう。

そんな気がした。

 

 

「・・・・・・それで、兄様はそんなものでどうしようと言うのですか?」

 

 

でも、アリアは朝倉さんに隠れるように、僕を見ていた。

焦りなんて、少しも見せずに。

 

 

「私を攻撃しますか、拘束しますか? それも良いでしょう、なら、やりなさい」

「アリア先生、何言って・・・」

「でも兄様にはできません。なぜなら、この位置取りでは、私よりも先に朝倉さんに当たるからです。それでも良いというのなら、どうぞ」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・できませんか。そうですか・・・・・・なら、この下等生物を先に殺します」

「・・・! やめっ・・・」

 

 

黒い、よくわからないそれが、カモ君を包み込みそうに――――!

 

 

「・・・・・・アリア!!」

 

 

僕は、両手で杖を握りしめて、魔力を込めた。

 

 

「やっ・・・」

 

 

アリアの魔法具に魔力が満ちるのと、僕の杖に魔力が込められるのは、ほぼ同時。

・・・拘束用の魔法なら、当たっても怪我はしない!

すみません、朝倉さん!

 

 

「やめてぇ――――――――!!」

 

 

明日菜さんの悲鳴が、聞こえた。

 

 

 

 

 

その時。

 

 

 

 

 

「そこまでだっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「そこまでだっ!!!」

 

 

・・・間に合ったか。

 

 

突然、旅館の中で結界が張られた上、異様な魔力の高まりを感じて来てみれば、なんだこれは!

アリアは奇妙な魔法具でカモと朝倉を拘束していて、ぼーやは、そのアリアに杖を向けている。

なんとなく、流れはわかるが・・・。

 

 

「・・・とにかく、二人ともやめろ。ここをどこだと思ってる」

 

 

こんな場所でやっていいことではない。

アリアとて、そんなことはわかっているはずなのだが・・・。

 

 

「・・・・・・エヴァ、さん」

 

 

毒気を抜かれたような顔で、アリアがこちらを見た。

黒い布のような、奇妙な魔法具が、カモと朝倉から離れていく。

ぼーやも、ほっとした顔で、杖を下げた。

 

 

私も、胸を撫で下ろす気持ちだった。

ぼーやがどうなろうと知ったことではないが、ここでアリアがぼーやに何かすれば、アリアがかなり面倒なことになる。

ただでさえ、学園の正義バカどもに目をつけられているんだ。

 

 

奴らごときに、アリアがどうこうできるとも思えんが・・・。

それにしても、アリアらしくない。

どうしたというのだ・・・。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

危なかった。

エヴァさんが来てくれなければ、どうなっていたか、わかりませんでした。

私は朝倉さんから少し離れて、呼吸を整えると、再び兄様を見据えました。

 

 

「・・・・・・・・・今後、私は魔法関係の事で朝倉さんがどんな目に合おうと、関知しませんので。兄様で勝手に責任をとってください。当然、宮崎さんのこともです」

 

 

発動中の魔法具をしまうと、朝倉さんの呪縛も解かれました。

ヘナヘナとへたりこむ朝倉さんを一瞥した後、今度はカモの首を掴みます。

 

 

「ぐぅえっ!?」

「お前も・・・これ以上面倒を起こすようなら、強制送還などと悠長なことを言わず、消しますよ?」

「き、肝に銘じてっ!」

 

 

『マグダラの聖骸布』を解除、カモを投げ捨て、そして次に、兄様を見ます。

かなりキツい睨み方をしたからか、ネギ兄様は、ひっ、と身をすくめました。

 

 

「兄様も・・・いい加減、ご自分の立場と力を自覚なさったらどうですか? 正直、次にこういうことがあったら、私は兄様の修行の停止をしかるべきところに進言せざるを得ません」

「そ、そんな!」

「ならせめて、ご自分の不始末くらい、自分でつけてください。もう、うんざりです」

 

 

まぁ、それでも兄様の修行が停止されることはないのでしょうね。

・・・というか、これは修行になっているのでしょうか?

 

 

「それとも・・・切羽詰まったら、ご自慢のお父様が助けに来てくれるとでも思っているんですか?」

「・・・っ!? そ、そんなことは・・・」

「そうですか。なら、もう少し考えてから行動してほしいものですね」

「ちょ、ちょっと言いすぎじゃ・・・」

 

 

私が兄様の心の傷を抉るような物言いをしていると、さすがに哀れに思ったのか、明日菜さんが口を挟んできました。

 

 

「・・・明日菜さんも、中途半端に兄様に関わるの、やめていただけませんか?」

「なっ・・・」

「では、仕事がありますので」

 

 

一切の反論を許さず、私は兄様たちに背を向け、歩き出しました。

言いたいことは言いましたし・・・あとは知りません。

朝倉さんの事も、宮崎さんの事も、もはや兄様自身でどうにかしていただく他ありません。

他の生徒は引き続き守りますが・・・このままでは、私が守るべき生徒と言うのも、近く半減するかもしれませんね。

守れなかった生徒が増えるというのも、面白くな・・・。

 

 

 

「・・・ぅ」

 

 

 

急に何かが、込み上げてくるような感覚に襲われました。

口を、おさえます。

たまらず、走り出します。

 

 

「・・・おい、アリア!?」

 

 

 

 

 

気持ち、悪い。

 

 

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

マスターに、さよさんとアリア先生の部屋の前で待つように言われ、待ち始めて5分ほどたった時のことです。

アリア先生が、来ました。

 

 

「アリ・・・」

 

 

さよさんの声にも反応せずに、アリア先生は扉を乱暴に開けて、中に駆け込みました。

さよさんは何が起こったかわからなかったようですが・・・・・・私のセンサーには、アリア先生の身体の異常が、はっきりと映っていました。

 

 

「アリア先生!」

 

 

中に入ると、洗面所の扉が開いていました。

アリア先生は・・・。

 

 

「かふっ・・・うぇ・・・ぇはっ・・・!」

 

 

嘔吐していました。

 

 

私はすぐに行動します。

棚から大量のタオルを取り出し、アリア先生のそばへ。

嘔吐の際、戻した物で喉を詰めてしまう場合があります。背中をさすり、通りを良くします。

 

 

「えふっ・・・ち、茶々ま・・・」

「喋らないで、そのまま全部、出してしまってください」

「・・・か、はっ・・・ぅえぇっ・・・げっ・・・え・・・・」

「頭を下に、大丈夫です。・・・・・・さよさん」

「は、はいっ。エヴァさん呼びますか!?」

 

 

入口の所でオロオロしていたさよさんに、声をかけます。

 

 

「マスターはもうすぐ到着します。それよりも、飲み水と、小さめのスプーン。あとできれば、氷をお願いします」

「へ? は、はいっ。わかりましたっ!」

 

 

嘔吐の場合、何より脱水症状が心配されます。

ただ、急に水分を補給すると、逆に胃を刺激してしまい、余計に戻してしまいます。

ですから、小さめのスプーンで一口ずつ、様子を見ながら水分を補給します。

一口サイズの氷があれば、それでも構いません。

何があったのかは、正直わかりかねますが・・・。

 

 

「う、ううぅぅぅぅ・・・」

 

 

今はとにかく、アリア先生です。

 

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

辛かった。

苦しかった。

悲しかった。

そして何より・・・・・・悔しかった。

 

 

 

生徒を、守れなかったことが。

魔法の世界から、遠ざけることができなかったことが。

そして何より、八つ当たりしてしまったことが、悔しくて仕方がなかった。

 

 

だって、そうでしょう?

何も、魔法具まで使って、脅しつける必要はなかった。

あんなものは、八つ当たり以外の何物でもありません。

 

 

でも、認めたくなかった。

 

 

私の過失で生徒を守れなかったなんて、認めたくなかったんです。

 

 

フェイトさんのことに気を取られて、注意を怠ったのは、私の過失。

仕事が忙しいなどと言い訳して、生徒全員の行動に気が回らなかったのも、私の過失。

生徒を守ると言いながら、結局生徒の深いところにまで踏み込めなかったのも、私の過失。

そして、エヴァさん達が心配しているのを知っていて、何も相談しなかったのも、私の過失。

 

 

何が教師ですか。生徒のことを何一つ解決できていないではないですか。

何が転生者ですか。精神年齢の高さなど、何の役にも立たないではありませんか。

原作の知識すら、まともに活用できやしないではありませんか。

私は・・・。

 

 

「・・・・・・アリア先生」

 

 

私の身体をタオルで甲斐甲斐しく拭いてくれていた茶々丸さんが、不意に、ぎゅっ、と、私を抱きしめてくれました。

一瞬、拒みそうになりました。だって、私、今、汚れ・・・。

 

 

「・・・人間は、一人で何かを抱え込むと、潰れてしまうと、マスターから聞いたことがあります」

「・・・・・・う」

「でも、だからこそ・・・人間は、家族と一緒にいると、マスターは言っていました」

 

 

私達では、家族になり得ませんか。

 

 

茶々丸さんは、そう言いました。

茶々ま、ちゃ・・・・・・・・・!

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

心のどこかで、アリアがまだ10歳の子供だということを忘れていた。

そんなことを、今さらながらに痛感している。

 

 

いつも平然とこなしていたから、それが普通だと思い込んでいた。

何もかもを見通しているかのような、あの瞳が、アリアそのものだと、思っていた。

 

 

「・・・そんなはずが、ないのにな」

 

 

余裕など、あるはずがないのに。

 

 

背後からは、アリアの嗚咽と、それを宥める茶々丸の声しか聞こえない。

 

 

目的のこと、夢のこと、兄のこと、生徒のこと、魔法のこと、修学旅行のこと。

時折聞こえてくる、アリアの気持ちに、頭を殴られたかのような気分になる。

 

 

こんな時に何もできない自分が苛立たしい。

アリアが褒め称えてくれた600年の知識も、役には立ってくれない。

 

 

懐から、アリアとの仮契約カードを取り出す。

衝動的に、破り捨てたくなる。

こんなものでアリアを繋ぎとめられると、一瞬でも考えた自分が情けない。

昨日の自分に会ったら、迷わず殺してやるところだ。

 

 

「茶々丸さん、もらってきました~って、エヴァさん?」

「・・・さよ、か」

 

 

ミネラルウォーターとスプーン、あと袋一杯の氷を抱えて、さよが戻ってきた。

 

 

「・・・スプーンは一つでいいと思うぞ」

「はぅっ!?」

 

 

掴めるだけ掴んできたのだろう。20はある。

まぁ、今はちょっと無理そうだから、少し待たせるか。

隣に座るよう促すと、さよはおとなしく、その場に腰かけた。

 

 

しばらくの間は、何も話さずに、ただ座っていた。

・・・アリアの嗚咽がBGMというのは、最悪の気分だったが。

 

 

「・・・・・・私、ですね」

 

 

ぽつり、と、独り言のように、さよが口を開いた。

 

 

「60年間、ひとりぼっちで、幽霊やってたんですよ」

「・・・ああ」

「だから、アリア先生が見つけてくれて、友達です、って言ってくれて、すごく嬉しかったんです」

「・・・・・・ああ」

 

 

『その呪い、私なら解けます』

 

 

誰も解こうとすらしてくれなかったサウザンドマスターの呪い。

それを、わざわざ解きに来てくれたアリア。

嬉しかった。

私に優しくしてくれた、初めての人間。

・・・あのバカは、優しくはなかったしな。

 

 

「でも、アリア先生って、一人でなんでもできちゃう人だから・・・いつか、捨てられちゃうんじゃないかって、不安で」

 

 

『私には、目的があります』

 

 

目的があって私の下に来たアリア。

では、その目的が達せられたら、また私から離れていくのかと、不安だった。

認めたくはなかったが・・・。

 

 

 

いや認めよう、私は、怖かったのだ。

アリアを手放したくなかった。

 

 

 

「・・・だから、仮契約っていうのをすれば、ずっと一緒にいられるんじゃないかって、思ったんですけど・・・」

「・・・そう、だな」

 

 

だが、結局はこのザマだ。

アリアを私のモノにしたくて―――――結局、傷つけてしまった。

 

 

「・・・・・・はしゃぎすぎちゃった、のかなぁ・・・・・・」

 

 

さよはそう言って、膝の間に顔を埋めた。

もしかしたら、泣いているのかもしれない。

 

 

私も、泣きたい気分だ。

 

 

窓の外からは、自由行動を始めたのだろう。生徒達の笑い声が聞こえる。

だが私は、しばらくここから動くつもりはなかった。

 

 

 

・・・・・・アリアが泣き止んで、私が何発か殴られるまでは。

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回はお見苦しいところをお見せしました。
次回からはまた、いつもの調子に戻るかと思います。


今回、私が使用した魔法具は。
『マグダラの聖骸布』、元ネタは「Fate」です。
おにぎり様、アイデア提供ありがとうございました。
『リングダガー』『叫名棍』『六魂幡』は、それぞれ「MÄR」と「封神演義」が元ネタです。
司書様、アイデア提供ありがとうございました。

なお、私が作中で多用する『闘(ファイト)』などのカードは、「カードキャプターさくら」が元ネタとなっております。


次回は、私とさよさんのアーティファクトの説明が入ります。
一応オリジナルになる予定ですが・・・。
自分で創る以外の道具は初めてですので、ちょっと楽しみです。


それでは、またお会いしましょう。

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