魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第24話「3日目・関西呪術協会」

Side ネギ

 

ど、どうしよう。

木乃香さんが起きるのを待っていたら、どういうわけか綾瀬さんにパルさん、朝倉さんまでやってきちゃった・・・!

 

 

「私としたことが・・・!」

 

 

鞄の中に、じーぴーえす? とかいうものを仕掛けられていたらしい刹那さんが、地面に膝をついて落ち込んでる。

僕も一緒に落ち込みたい・・・。

 

 

「まー、賑やかで楽しいえ」

 

 

木乃香さんはそう言うけど、僕には特使としての仕事が・・・。

ど、どうしよう~。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「「「「「お帰りなさいませ、このかお嬢様!!」」」」」

 

 

鳥居をくぐった途端、大勢の巫女さんが出迎えてきてくれました。

この人たち・・・。

 

 

「……す、すごい」

「ちょっとビックリです」

「いいんちょ並みのお嬢様だったんだね~」

 

 

みなさんが驚く中、木乃香さんが心配そうに明日菜さんを見ました。

 

 

「明日菜、うちの実家おっきくて引いた?」

「ちょ、ちょっとね。ま、まあね」

 

 

顔が引きつってますよ明日菜さん。

 

 

「なら……ええんやけど」

「家がでっかくても木乃香は木乃香でしょ。私はそんな事気にしないわよ」

 

 

なかなか良いことを言いますね。

というか、逆にここまで大きいとむしろ邪魔ですね。

やはり理想は、小高い丘に白い一軒家でしょう。

白い大きな犬がいれば、言うことがありませんね。

それにしても・・・。

 

 

「・・・・・・・・・(ちらり)」

「わわっ・・・」

 

 

当たり前と言えばそうですが、朝倉さんが私を避けています。

心配せずとも、もう何もしませんよ。

それよりも、なんとか綾瀬さんと早乙女さんを宿泊先に戻す方法を考えませんと・・・。

 

 

 

その後、巫女さんの案内で大広間に案内されました。

ものすごく大きな部屋の真ん中に、座布団が人数分・・・これ、なんて羞恥プレイですか。

なんで巫女さん達は壁際に控えているのでしょうか・・・?

お願いですから、雅な音楽とか流さないでください。

 

 

「お待たせしました」

 

 

緊張しまくっている様子の兄様達を眺めていると、上座に一人の男性が姿を現しました。

ゆったりとした動作、しかし隙の見えない身のこなし。

・・・さすがは、大戦の英雄の一角と言ったところですか。

 

 

「し、渋くてステキかも・・・」

「アンタは・・・」

 

 

男性から向かって、右から一列目が兄様、明日菜さん、木乃香さん、刹那さんに私。

そして二列目に宮崎さん、綾瀬さん、早乙女さん、朝倉さんの順に座っています。

 

 

「ようこそ明日菜君、木乃香のクラスメイトの皆さん。そして担任のネギ先生にアリア先生」

「お父様、久しぶりや~」

「ははは、これこれ」

 

 

娘に抱きつかれてデレデレな中年の父親。

正直、見ていて面白いものではありません。

 

 

兄様は、学園長から預かっていた親書を渡しました。

 

 

「東の長、麻帆良学園学園長、近衛 近右衛門から西の長への親書です。お受け取りください」

「確かに承りました。大変だったようですね」

「い、いえ」

 

 

西の長、近衛詠春さんは親書の内容を確認すると、どこか苦笑したようでした。

・・・どうせロクでもないことが書いてあるんでしょうね・・・。

 

 

「・・・いいでしょう。東の長の意を汲み、私達も東西の仲違いの解消に尽力するとお伝え下さい。任務ご苦労! ネギ・スプリングフィールド君!」

「は、はい!」

 

 

「表向き」の試練を乗り越え、嬉しそうにする兄様。

そしてそれを微笑ましそうに見る詠春さん・・・このあたりはタカミチさんと一緒ですね。

 

 

「今から帰ると日が暮れてしまう、今日は泊っていくと良いでしょう。歓迎の宴をご用意しますよ」

 

 

宴と聞いて歓声をあげる生徒のみなさん・・・。

マズイですね、どうも面倒なことに巻き込まれそうな予感がします。

綾瀬さんと早乙女さんを引っ張って帰らないと・・・。

 

 

「・・・申し訳ありませんが、私はホテルの生徒たちの引率の仕事がありますので・・・」

「えぇっ! アリア先生、帰ってしまうん?」

 

 

なんで引き留めるんですか木乃香さん。

貴女は刹那さんがいれば十分でしょう。刹那さんもそんな不安げに私を見ないでください。

 

 

「先程、引率の総責任者の新田先生という方へ連絡致しました。申し訳ありませんが今晩はこちらに宿泊してもらい、明日、宿泊先の方へお送りします」

「・・・・・・は?」

 

 

な、何を勝手なことを・・・。

新田先生の名前を出せば私がなんでもOKすると思ったら大間違いですよ。

 

 

「・・・今、この京都で一番安全な場所はここです」

 

 

それは勘違いです。

・・・ああ、でもそうか、安全じゃないなら私がここにいた方がいいのでしょうか?

いやいやいや、騙されてはいけませんよ、私。

私の生徒はここにいる人達だけではないのですから・・・。

 

 

「せっかくの申し出、大変有り難く思いますが、私もお給金を頂戴している身分です。勝手なことはできません」

「しかし・・・」

「連絡までしていただいて恐縮ですが、お暇させていただきます」

 

 

さて、と・・・。

 

 

「戻りますよ、綾瀬さん。早乙女さんも」

「は~い・・・って、なんで!?」

「私達だけ戻らねばならないのです!?」

 

 

綾瀬さんと早乙女さんに声をかけますが、まぁ、予想通り、かなり渋られました。

え~と・・・。

ヒソヒソ話をスタートです。

 

 

「・・・・・・その、兄様と宮崎さんに気をきかせてさしあげようと」

「・・・そ、それは確かに重要です・・・!」

「あ、な~る・・・でも宴が、御馳走が・・・」

「それは途中、私が何か御馳走しますから、それで我慢してください」

「う、まぁ、それなら・・・あれ、でも朝倉は?」

「あ~・・・・・・アレです。兄様と宮崎さんのベストショットを撮っていただかないと」

 

 

まったく興味ありませんがね。

 

 

「な、なるほど・・・考えてるですね先生」

「それほどでも・・・木乃香さんと刹那さんは、まぁ、実家らしいですし」

「明日菜は?」

「どうするです?」

「兄様の保護者みたいな・・・・・・ほら、兄様寂しがるかもしれませんし」

「あ~、それはあるかも。あの2人仲いーもんね」

「兄様と宮崎さんの仲を、上手く取り持ってくれそうですし」

「な、なるほどです」

「でも先生、私らも興味あ、じゃなくて、見守りたいんだけど?」

「宮崎さんに嫌われますよ? 彼女、極度の恥ずかしがり屋ですし。最悪進展しなくなるかも」

「そ、それは困るです・・・」

「う~ん、しょうがないかぁ・・・」

「さらに・・・」

 

 

懐から、一枚のチラシを取り出します。

ふふ・・・こんなこともあろうかと、用意しておいたこの一枚!

 

 

「「き、京都古書見本市・・・」」

「なんでも、今では手に入らない貴重な本が格安で手に入るとか・・・」

「なんと!」

「ど、同人誌とかも・・・ある?(ヒソヒソ)」

「もちのロンですよ、早乙女さん(ヒソヒソ)」

「マジで!?」

「・・・今戻っていただけるのであれば、全ての会計を私が持っても・・・」

「「戻る(です)!」」

「よろしい」

 

 

説得完了。多少強引ですが、ざっとこんなものです。

まぁ、嘘ではありませんしね。

宮崎さんにとっては、チャンスには違いありません。ホテルでは無理でしょうから。

 

 

「・・・っていうか先生、なんだかんだでネギ君とのどかのこと応援してくれてるんだ?」

「ですです」

 

 

それは盛大な勘違いです。

 

 

 

「ふ、2人とも、帰っちゃうの・・・?」

「ごめんなさいです、のどか・・・でも、しっかりやるです!」

「ふぇ?」

「ネギ先生とお泊りして~(ゴニョゴニョゴニョ)」

「ふぇ、ふえええ~~~////」

 

 

2人に何かを吹き込まれた宮崎さんが、真っ赤になって頭から煙を出しています。

横にいた兄様が慌てていますが、まぁ、いいですね。どうでも。

 

 

「明日菜さん、ネギ兄様をよろしくお願いします」

「え、あ、うん!」

「ありがとうございます。・・・ほら、戻りますよ2人とも!」

 

 

兄様を明日菜さんに預けて、さて帰りましょう。

宮崎さんと別れを惜しむ綾瀬さんと早乙女さんを見ながら、ふぅ、と溜息をつきます。

 

 

・・・・・・貴女達を、石になんてさせない。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

アリア先生が帰ってしまう。

そのことに、私は少なからず動揺してしまった。

そして何よりも、動揺している自分が、意外だった。

 

 

京都に来る前は、自分一人でお嬢様を守っていたのに。

今はアリア先生がいないというだけで、こんなにも不安になってしまうなんて・・・。

 

 

「刹那さん」

 

 

すると、アリア先生の方から声をかけてくれた。

な、なんだろうか・・・。

 

 

「申し訳ありません。諸々の事情により、戻らねばならなくなりました」

「あ、はい。その・・・アリアせんせ」

「これを渡しておきます」

 

 

私の声を遮って、アリア先生が何かを私の手に握らせてきた。

それは、青い宝石だった。これは・・・?

 

 

「・・・魔法具、『ピンチになったら』です」

「・・・・・・え?」

「『ピンチになったら』、です」

 

 

いえ、繰り返してもらわなくともちゃんと聞こえています。

 

 

「私が7歳くらいの時、兄様への当てつけに考えた物です」

「は、はぁ・・・」

「これを割ると、私にそれが伝わります」

 

 

それは、どういう・・・?

 

 

「もう、刹那さんの手には負えなくて、にっちもさっちもどうにもこうにもならなくなった時、これを割ってください。私、飛んで来ますので」

「あ・・・」

「わかりましたか?」

 

 

にこ、と、微笑みかけてくれるアリア先生。

その気遣いが、たまらなく嬉しかった。

本当は年上の私が、しっかりしなくてはいけないのに・・・。

 

 

「・・・あと、これと、これも渡しておきます」

 

 

そう言って渡されたのは、小さな数珠と、指輪だった。

どちらからも、微弱な魔力を感じる。魔法の品であることは、明白だった。

 

 

「これを絶えず、身に付けておいてください」

「え、でもこれは・・・」

「きっと貴女を、守ってくれます」

 

 

ね? と、笑いかけてくれるアリア先生に、強張っていた口元が少し緩むのを感じる。

先ほどまで感じていた不安や動揺は正直、拭い切れていないけれど。

この女の子に、失望されない程度には、頑張ろうと思えるようにはなった。

 

 

「大丈夫です。アリア先生の手を借りずとも、お嬢様を守り切って見せます!」

「やん、照れるわ~」

「おお、大胆な愛の告白!?」

「え、何? 桜咲さんってそっちの人だったの?」

「ゆ、ゆえ~・・・」

「愛の形は人それぞれですよ。のどか」

「一枚撮っとく?」

 

 

え、ちょ、なんでこのタイミングで来るんですか・・・!

 

 

「仲が良いようで、大変良いことです」

「アリア先生、帰ってしまうん?」

「ええ、引率の仕事がありますので」

「仕事・・・ですか」

「ええ、教師ですので。綾瀬さん、早乙女さん。行きますよ」

「あれ? そういえば、何で2人は帰っちゃうの?」

「ん? うふふ~、いろいろあるんだよ、明日菜」

「ですです」

「意味わかんないわよ・・・」

「仕事・・・」

 

 

仕事。

明日菜さん達の会話に参加せず、不意に引っかかったその言葉について、考える。

 

 

以前にも、引っかかった言葉だ。

アリア先生との会話の中では、異彩を放っていると言っていい。

引率の仕事。引率・・・修学旅行なのだから、あって当たり前の仕事だ。

アリア先生の・・・教師の仕事。

教師。

 

 

ふと、ネギ先生を見る。

明日菜さんと宮崎さん、2人と楽しそうに会話をしている。

・・・ネギ先生から、仕事という単語を聞いたことがあっただろうか。

 

 

ネギ先生・・・ネギ先生は、教師だ。

立場的には、アリア先生と同じ。

いや、担任なのだからより重い立場を背負っているはずでは・・・?

なら当然、その仕事は副担任のアリア先生よりも多いと考えるのが自然・・・。

 

 

「・・・え?」

「どないしたん、せっちゃん?」

「い、いえ・・・なんでもありません」

 

 

訝しげなお嬢様に返事を返して、同時に浮かんだ考えを心の中で反芻する。

もしかして・・・。

 

 

 

もしかしてアリア先生がしているだけの仕事を、ネギ先生はしていないのではないか?

 

 

 

・・・・・・そんなはず、ない、か。

もしそうなら普通、上役が注意するものだろうし・・・。

でも・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

綾瀬さんと早乙女さんを伴い、屋敷の外へ。

 

 

「あ~あ、やっぱりもったいなかったかな~」

「仕方ないです。のどかのためです」

「そうだけど~・・・」

 

 

急がないと、もう日が暮れ始めています。

転移できれば早いのですが、まさかこの2人にそんなことをするわけにもいきません。

とにかく、早く戻って他の生徒の様子を見なければ・・・。

身体がもう一つ欲しいとは、こういう時に思うことでしょう。

 

 

「待ってください」

 

 

その時、背後から声をかけられました。

振り向いてみれば、そこには、関西の長、近衛詠春さん。

 

 

 

「アリア君・・・と、呼んでも?」

「・・・・・・お好きなようにお呼びください」

 

 

なんの用でしょう・・・どうせ、ロクでもないことなのでしょうね。

と、先に・・・。

 

 

「綾瀬さん、早乙女さん。先に行っておいてください。私は木乃香さんのお父様と少し話してから行きますので」

「うちの者に、下まで送らせましょう」

「・・・・・・どうも」

「おお・・・巫女さんだ。しかも生!」

「だからどうしたです・・・」

「わかってない。夕映はわかってないよ・・・!」

 

 

・・・まぁ、いいですけど。

綾瀬さん達は、巫女さんに伴われて先に階段を下りて行きました。

さて。

 

 

「・・・それで? 何の御用でしょうか」

 

 

そういえば生徒の親御さんと会うのは私、これが初めてですね・・・。

おお、何か緊張してきましたよ?

 

 

「刹那君からの報告では、幾度となく木乃香を守ってくれたそうですね。父親として、お礼を言わせてもらいます」

「いえ、こちらこそ、お子様をお預かりしていながら、何度も危険な目に合わせてしまいました」

 

 

まぁ、それ以前の話でもあるんですけど。

 

 

「まぁ、そのお話はまた3者面談や授業参観の機会にしましょう」

「はは・・・そうですね、行けるかどうか、ちょっとわかりませんが」

 

 

むしろ関西の長がそんな理由で東の本拠地に来たら、混乱が起きるでしょうね。

 

 

「・・・それで、わざわざ私を呼び止めた理由をお伺いしましょう」

「・・・・・・・・・木乃香のことです」

 

 

あ、なんとなく言われることが分かってきましたよ。

この流れは・・・。

 

 

「これからも、木乃香の事を守ってほしいのです」

「・・・それは、まぁ。生徒を守るのは教師の務めですし」

「・・・そういうことではなく」

 

 

詠春さんは首を横に振り、私の手を取ってきました。

これは、セクハラではないのでしょうか・・・ああ、詠春さんにとっては友人の子供だから、距離感が近いのでしょうか。

それでもこれはないです。

 

 

「・・・どうやら今日、木乃香はシネマ村で重傷を負った刹那君を救ったとか・・・」

 

 

いや、私その場にいませんでしたから。

まぁ、だいたいの展開は知っていますし読めますけど。

 

 

「そうですか」

 

 

魔法の素質に目覚めたということですね。

・・・防げなかったのは、少し後悔です。

 

 

「・・・私は、木乃香に平穏な生活を歩んでほしいと思っていました。だから魔法の事も伝えず、麻帆良に通わせることにしたのです」

「・・・はぁ」

「しかし今回の事で、木乃香に魔法を隠すことは難しくなりました。何も知らないまま、今回の騒動に巻き込まれ・・・このままでは、むしろ危険なのかもしれません。だから」

「・・・え。ちょっと待ってください。まさか私に魔法を教えろ、とか言うつもりですか?」

「まさにそれです」

 

 

それです、ではありませんよ。

何故、私? 

私は魔法使えないんですって、知らないわけないでしょうに。

というか、なんで陰陽術ではなく魔法を教えたがる・・・?

 

 

・・・どこから突っ込んだらいいんでしょう。

というかこれ、私、怒っていいんですよね、シンシア姉様。

 

 

「・・・ふざけてるんですか?」

 

 

少し乱暴に詠春さんの腕を振りほどくと、詠春さんは驚いたような表情を浮かべました。

 

 

「どうして私が、そちらの都合に巻き込まれなければならないんですか?」

「それは・・・」

「父親の戦友だからですか? だとしたらお生憎様ですね、私は父が大嫌いですから。そもそも中途半端なんですよ。あなたも、学園長も・・・いえ、あなた方全員ですね」

 

 

魔法から遠ざけるなら、もっと場所を選ぶべきです。

なぜ西洋魔法使いの本拠地に、しかも関係者を集めたクラスに入れるんですか。

意味がわかりません。

 

 

「そもそも、木乃香さんの意思を確認していないあたりが、気に入りません。魔法を知りたくないというのが彼女の意思ならば、私は一人の教師としてそれを守ったかもしれません」

 

 

人はすべからく、自分の道を自分で歩むべきなのです。

それを周囲の勝手な都合で隠したあげく、簡単に諦め手の平を返す。

詠春さんと学園長は婿、舅の仲と聞きますが、なかなかどうして似た者同士ですね。

 

 

「だいたい、貴方本当に木乃香さんを守ろうとしているんですか?」

「それは、当たり前でしょう!」

「なら、なぜさっき助けに行かなかった!」

 

 

心外だと叫ぶ詠春さんに、私も怒鳴り返します。

 

 

「さっき、ここの入口で! 自分の娘が攫われかけていた時! なぜ助けに行かなかった!」

「それは!」

「知らなかった、ですか? そうですか。それは不思議ですね。ならばなぜあの巫女達は、見計らったかのようなタイミングで、門の前に勢揃いしていたのでしょうね!」

 

 

私たちが来ると同時に出迎えた巫女さん達。

自分たちの本拠地の入口で何が起こっているか、知らないなんてそんなバカな話があるものですか。

父親なら・・・何があっても、娘を助けに来るものでしょう。

父親だと、言うのなら。

子供を救って見せなさい。

 

 

・・・不愉快です。

私はそのまま踵を返し、綾瀬さん達の後を追います。

まさかとは思いますが、人質にでもされたら面倒ですしね。

 

 

「アリア君!」

「申し訳ありませんが」

 

 

ぴしゃり、という表現が似合うような声音で返事をする私。

 

 

「必要以上に私に期待しないでください。私は、期待されるのが大嫌いなんです」

 

 

私に出来ることなんて、そんなに多くはないんです。

勝手に期待して、勝手に失望していればいい。

私には、関係ない。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「ふぃ~~、いいお湯ね~♪」

「・・・・・・ええ」

 

 

宴会の後、桜咲さんとお風呂に入る。

このお風呂がまたすごく大きくて、改めて木乃香ってお嬢様なんだな~と思った。

 

 

それにしても、宴会では参ったわね。

悪酔いした朝倉が、本屋ちゃんにお酒を飲ませるなんて・・・。

というか、なんで未成年の食事にお酒が出るのよ。

 

 

「あ、そう言えば木乃香ってさ・・・・・・桜咲さん?」

「・・・・・・・・・」

 

 

桜咲さん、またぼ~っとしてる。

なんか宴会のあたりから、こんな感じなのよね。

どうしたんだろ?

 

 

「・・・あの、神楽坂さん」

「え、あ、うん、何? ・・・っていうか、明日菜で良いわよ。呼びにくいでしょ?」

「あ、はい・・・では、私も刹那で・・・」

 

 

刹那さんは照れたように笑ったけど、すぐにまた元の難しい顔に戻っちゃった。

なんか、左手に数珠みたいなのが巻いてあってそれをたまに撫でたりしてるけど・・・。

なんだろ?

 

 

「えと、それで、何? 刹那さん」

「あ、はい。その・・・明日菜さんは、どうしてネギ先生に協力しているのかな、と」

「へ?」

「非常に今さらな質問だとは思うのですが・・・明日菜さんは一般人なのに、こんな危険な目にあって、どうしてネギ先生と一緒にいるのかな、って、不思議に思ったので・・・」

「え、あ、あ~、それは・・・」

 

 

一言で言えば、ほっとけないから。

あんな子供が一人で頑張ってるのをただ黙って見ているなんて、できなかったから。

まぁ、面倒事はごめんだけど・・・。

 

 

「だってネギって、見てるだけで危なっかしいじゃない?」

「それは・・・そうですね」

「それにほら、すごく一生懸命じゃない? 良くも悪くも」

「・・・・・・・・・」

 

 

そ、そこで黙られると、すごく気まずいんだけど・・・。

 

 

「と、とにかくさ、なんというか・・・心配なわけよ」

「心配・・・それだけですか?」

「うぇ?」

 

 

刹那さんは、なんだか目を丸くしてる。

え・・・私、そんな変なこと言った?

 

 

「せ、刹那さんだって、木乃香のこと、すごく大事にしてるじゃない」

「それは、そうですが・・・でも、私がお嬢様を守りたいと思う気持ちと、明日菜さんがネギ先生を助ける理由は、きっと、違うと思いますよ」

「へ・・・」

「・・・あ、すみません。変なこと言いましたね」

「あ、うん・・・いいけど」

「そろそろ上がりましょう、のぼせてしまいますし」

 

 

そう言って、刹那さんはさっさと湯船から出ちゃった。

・・・結局、何の話がしたかったんだろ。

ま、いっか。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

すっかり日も暮れて、夜だ。

今、僕は関西呪術協会本部を一望できる、大木の枝の上に立っている。

眼下の景色は平和そのもので・・・お姫様を狙った襲撃があったなど、まるで感じさせない。

 

 

「どないするんやフェイトはん。親書も渡ってしもたみたいやし・・・」

 

 

隣では千草さんが、打つ手なしと言わんばかりに天を仰いでいる。

まぁ、あれだけの警備を正面から突破するのは難しいだろうね。

なら。

 

 

「・・・大丈夫。僕に任せて」

 

 

正面から、行かなければいいだけだ。

 

 

「フェイトはんの力は信用しとるつもりやけど・・・大丈夫なんか?」

「うん。探査してみたけど、手強いのは近衛詠春だけ。あとは少し時間をかければ無力化できるレベルだよ」

「・・・あの、白い髪の子は?」

「今は、いないみたいだ」

 

 

そう、いない。

アリア・スプリングフィールドがいない。

それだけのことに、なんだか妙な気持ちになる。

落ち着かない気分というのだろうか、こういうのを。

 

 

「・・・・・・ほんまに大丈夫か?」

「どうして?」

「なんというか、落ち込んでるように見えるえ」

「・・・・・・・・・」

 

 

落ち込む、僕が?

・・・・・・あり得ない。

僕は千草さんにもう一度「大丈夫」と告げた後、行動を開始した。

 

 

まずは護衛を一人ずつ排除して、それから近衛のお姫様を攫う。

アリア・スプリングフィールドがいようがいまいが、関係ないはずだ。

だけど。

 

 

 

 

やはり僕は妙に、落ち着かない気分だった。

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
一言申し上げれば、「脱出、成功」です。
最悪の場合、綾瀬さん達に張り付いて護衛する必要がありましたが、なんとか引き上げることに成功しました。
あとは、いざという時、刹那さんが私を頼ってくれるかどうか、ですね。
呼ばれるとして、いつ頃になるか・・・。
デートの時間には、間に合わせたいところですね。

アリア:
なお、今回の話の中で私が刹那さんに渡した魔法具をここで明かしてしまいます。
『リフレクトリング』と『見切りの数珠』、元ネタはFFです。
発案者は、プチ魔王様。ありがとうございます。
具体的な効果は、次話で描写することになるでしょう。

次回は、修羅場、前半です。
では、またお会いしましょう。

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