魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第30話「3日目・舞踏会・後編」

Side エヴァンジェリン

 

「ええい・・・しつこいぞ、じじぃ!」

『そこをなんとか、頼めんかのぉ?』

 

 

左手の通信用の水晶からは、弱り切ったじじぃの声が聞こえる。

さっきからぼーやの支援をどうのとうるさいが・・・私は今、それどころではないのだ!

 

 

「だいたい、なんで私がぼーやの手伝いをしなくちゃならんのだ!」

『他に人がおらんのじゃ・・・』

「は、私には関係のないことだ・・・せいぜい自分の甘さを後悔するといいさ」

 

 

そもそも、京都に来なければ良かったのだ。

アリアはきちんと忠告したはずだがな。

それを無視した以上、相応の報いを受ければいい。

 

 

『・・・ん。エヴァさん・・・』

 

 

む?

水晶以外から、通信・・・いや、これは念話か!

懐からアリアとの仮契約カードを取り出すと、やはりアリアからの念話だった。

 

 

危うく茶々丸に取り上げられるところだったが、死守した。

茶々丸め・・・最近、どうも私への態度がアレだ。

成長したと喜べばいいのか、正直、複雑だった。

とにかく。

 

 

「じじぃ、別件が入った。切るぞ!」

『ち、ちょっと待』

 

 

面倒だったので、水晶そのものを砕いた。

カードを額に当てて、念話に応じる。

 

 

「おいアリア! 今どこにいる、すぐに・・・」

 

 

戻ってこい、と言おうとしたが、先にアリアの方が話し始めた。

簡単な事の顛末から始まって、現在の状況説明。

まぁ、ほとんどはどうでもいい関西呪術協会やら何やらの話だったが。

・・・つまりは。

 

 

くっ、と、唇の両端がつり上がるのを感じる。

つまるところ、アリア、お前の言いたいことは、こうか。

 

 

「・・・助けが、必要というわけだな? 我が従者(アリア)

 

 

 

 

 

Side アリア

 

堕ちる――――。

魔力が枯渇した私は魔法具を創ることも、『千の魔法』を維持することもできません。

後は、重力に身を任せるのみ。

下は湖。

 

 

・・・ここだけの話、私、泳げないのですよね・・・。

 

 

「アリア先生!!」

 

 

その時、がしっ・・・と、誰かが私を空中で受け止めてくれました。

この声は・・・。

 

 

「アリア先生、捕まえたえ~」

「だ、大丈夫ですかアリア先生っ・・・!」

 

 

木乃香さんに、刹那さん?

それは背中の翼が美しい刹那さんと、彼女に抱えられた『夜笠』を身に付けた木乃香さんでした。

木乃香さんが、私を背中から抱きかかえるような姿勢。

つまり、刹那さんは2人分の体重を支えているわけで。

 

 

「・・・あの、刹那さん?」

「お気に、なさ、らず・・・!」

 

 

そんなに必死に翼を動かして、そんなことを言われましても。

というか・・・。

 

 

「てっきり、下に降りたものと思っていました」

「はい、一旦は、降りたのですが・・・っ」

「せっちゃんがアリア先生が危ない~って、またすぐ飛んだんよ」

「・・・木乃香さんを抱えたままで?」

「あ、や~ん、言わんといて~な先生~」

「・・・」

 

 

・・・なんでしょう、急に疲れてきました。

 

 

「あんたら! 何をやっとるんや!?」

「天ヶ崎千草!」

 

 

スクナの肩のあたりにしがみついた千草さんが、こちらを見上げていました。

右肩を怪我しているのは、刹那さんとの戦いの傷でしょうか。

 

 

「さっさと離れぇ。うちの力では、スクナを制御できひん!」

「何を・・・」

「はよ逃げぇて、言うとるんや!」

 

 

千草さんが怒鳴るようにそう言った、次の瞬間。

それまで静かだったスクナの目に、赤い光が灯りました。

 

 

 

グウゥゥオオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!!!!

 

 

 

突然。

突然スクナが咆哮を上げて、凄まじい力をまき散らし始めました。

力の奔流が、湖全体を襲う。

湖の外にまで被害が及ばないのは、まだ無事な結界があるからか・・・。

 

 

「ネギ先生達は・・・?」

 

 

刹那さんの声に、眼下の様子を窺います。

するとネギ兄様は明日菜さんに背負われながら、岸にまで避難しているようでした。

とりあえずは、大丈夫そうですね・・・。

 

 

「と、とにかく、離れます!」

 

 

刹那さんは必死に翼を動かしながら、木乃香さんと私を安全圏まで運ぼうとします。

 

 

「せっちゃん、待って」

「お嬢様!? しかし・・・!」

「アリア先生も、お願いや・・・あの人も助けたってほしいんや」

 

 

あの人とは、千草さんのことでしょうか?

私も驚きましたが、刹那さんの驚きはそれ以上でしょう。

刹那さんにとって千草さんは、憎しみの対象ではあっても救済の対象ではないでしょうから。

 

 

「あの人、悪い人やない思うんよ」

「し、しかしお嬢様・・・!」

「あの人、うちにひどいこと、しぃひんかった」

 

 

誘拐は十分「ひどいこと」の部類に入ると思いますが。

まぁ、誘拐犯にしては人が良いのも確かでしょう。

木乃香さんの魔力が欲しいだけなら、木乃香さんの人格を破壊でもして、人形にすればよかった。

それをしなかった、いえ、できなかった所は千草さんの甘い所なのでしょうね。

 

 

「それに、あの子も」

「あの子?」

「・・・リョウメンスクナノカミ」

「・・・!」

 

 

なぜ、木乃香さんがその名前を。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

なぜ、お嬢様があの鬼のことを・・・スクナのことを知っている?

呪術で眠らされていたはずなのに。

 

 

アリア先生が、私に視線を向けてくるが・・・私は、困惑することしかできない。

私も、教えていない。

天ヶ崎千草が、何か喋ったのか・・・?

 

 

「うち、夢の中であの子とお話してたんよ」

「夢、ですか・・・」

「あの子、寂しいて、泣いてたえ」

 

 

お嬢様は、スクナについて話し出した。

スクナはもともと、飛騨の人々を守護していた聖者だった。

ただ民衆から崇められるその存在を危険視した者達によって、無理矢理に封印された・・・。

その者たちが何者かは、スクナも知らない。

ただ、陰陽師ではなかったとしか、わからない。

以来1600年、この地に封印され続けている。

・・・それは。

 

 

「あの子、一人は嫌やて、泣いてたえ」

「・・・・・・そうですか」

「お嬢様・・・」

「お願いや、せっちゃん、アリア先生。あの子を助けたってほしい。あの子、うちの・・・魔力? か何か、ようわからんけど・・・それ、全部使えば封印も破れるかもしれんのに、使わへんかった」

 

 

お願いや、と、お嬢様は泣きそうな顔で言った。

お優しい方だ、と、思う。

私のようなものと親しくしてくださるだけでも、お優しいのに・・・天ヶ崎千草や、スクナまで。

 

 

私も、お嬢様の願いは叶えたい。

けど私にはそんな力はないし、アリア先生も・・・。

 

 

「・・・・・・私には、もう力が残っていません」

 

 

そう、アリア先生は魔力切れを起こしている。

現に今も、私が運んでいるような状態だ。

けれど、それを責める気分にはなれない。

アリア先生がお嬢様や私のためにしてくれたことを思えば、無理もないことだったからだ。

 

 

「私にはもう、何もできないのです」

 

 

俯いたまま、どこか辛そうな声音でアリア先生は言った。

アリア先生・・・。

 

 

「・・・なら、うちの力は使えへんかな?」

「お嬢様?」

「うちの・・・魔力? なら、なんとかならへん?」

 

 

確かに、お嬢様の魔力は極東一の保有量を誇る。

それ故に、天ヶ崎千草のような人間にも狙われた。

だがお嬢様は陰陽師としても、魔法使いとしても訓練を受けていない。

いくら魔力量が高くても・・・。

 

 

「・・・・・・ひとつだけ」

 

 

ぽつり、と、アリア先生が口を開いた。

どこか迷っているような、アリア先生にしては頼りない声音だった。

 

 

「ひとつだけ・・・方法が、あります」

 

 

 

 

 

Side 千草

 

何をやっとるんやろな、うちは。

 

 

暴れるスクナの肩に必死になってしがみつきながら、うちはそんなことを考えとった。

・・・親の仇を討つんや言うて、必死に術を学んで、20年。

 

 

ようやく、仇の尻尾を掴んで、その方法も考えついて。

月詠はんや小太郎まで巻き込んで。

フェイトはんは・・・協力はしてくれはったけど、何を考えとるかわからへんかったな。

ま、とにかく。

 

 

結局は情に絆されて、この様や。

ほんま、何をやっとるんやろうなぁ・・・。

 

 

・・・堪忍なぁ、お父はん、お母はん。

うち、なんにもできひんかった・・・。

 

 

「・・・・・・なんや?」

 

 

今、何か光って・・・って。

あの子ら、まだ・・・!

 

 

「逃げぇて、言うたやないか!」

 

 

この、阿呆!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『・・・助けが、必要というわけだな? 我が従者(アリア)

「はい、我が主(エヴァさん)

 

 

気取った物言いのエヴァさんに、同じような言い回しで答えます。

事実、エヴァさんしか頼れる人がいません。

 

 

『まったく、しょうがない奴だ・・・・・・まったく、しょうがない奴だな!』

「なんで二回言いましたか」

『まぁ、わかった。とにかく、そのなんとかという鬼の外郭のみを破壊して、中身は傷つけるなと、そういうわけだな?』

「・・・ええ、お願いできますか?」

『ふふん、私を誰だと思っている、任せておけ。ただ、まだ少し距離があるからな・・・一分半、いや、一分、持ち堪えろ。それでなんとかしてやる』

「・・・了解しました。では、一分後に」

 

 

一分。

この力の奔流の中では、致命的にまでに長い。

エヴァさんとの念話を切り、木乃香さんと刹那さんを、見ます。

 

 

「・・・用意は、良いですか?」

「「はい(な)!」」

 

 

元気よく答えてくれる、木乃香さんと刹那さん。

そして私の胸に回されている木乃香さんの手に、触れます。

・・・正直なところ、気が乗りません。

生徒から・・・。

 

 

「アリア先生」

「・・・なんでしょう、木乃香さん」

 

 

きゅっ、と、私の手を握り返してくる木乃香さん。

その顔には、どこまでも優しい微笑み。

 

 

「うちの友達を、助けてください」

「・・・その願い、引き受けました」

 

 

・・・それが、貴女の望みならば。

木乃香さんの手を強く握り、そして、『全てを喰らう』・・・!

極東一と言われる木乃香さんの魔力を、『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で取りこみます。

 

 

「んんっ・・・!」

 

 

魔力を奪われる独特の感覚に、木乃香さんが身をよじります。

・・・生徒から魔力を奪うと言うのは、気分の良いものではありませんね。

木乃香さんの魔力残量の半分ほどを吸収した後、手を放します。

 

 

「・・・魔法具、『天使のはね』」

 

 

少しぐったりしている木乃香さんを刹那さんに任せて、魔法具を使用します。

『天使のはね』は、使用者の身体を浮遊状態にする魔法具です。

高速では飛行できませんが、コストが低く、扱いが容易です。

 

 

「あ~、アリア先生、きれ~な羽根。せっちゃんとお揃いやね」

「お、お嬢様・・・」

 

 

私の背中に生えた羽根を見て、木乃香さんは羨ましそうな視線を向けてきます。

・・・なんでしたら、後でさしあげましょうか。

 

 

「・・・刹那さん。木乃香さんを安全な所へ」

「は、はい!」

「アリア先生・・・」

「・・・お任せください。木乃香さんの力、無駄にはしません」

 

 

にこり、と、笑うと、木乃香さんも安心したように、ほにゃ、と、笑ってくれました。

その信頼に、応えるために。

荒れ狂うスクナを前に、一振りの刀を創造します。

 

 

「・・・轟きなさい、『天譴』」

 

 

・・・2人は、離れましたね。

 

 

「卍解」

 

 

かっ・・・と、私の真下の湖から、白い閃光。

そこから現れたのは、数十メートルはある漆黒の鎧武者。

 

 

「・・・『黒縄天譴明王』・・・!」

 

 

私の動きに合わせて動くこの巨人で、スクナを、押さえ付けます!

しかし、スクナも当然、抵抗します。

 

 

グウゥゥオオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!!!!

 

 

咆哮と共に放たれる雷撃。

それが鎧武者の身体を打つたびに、私の身体にも同じだけのダメージが・・・!

 

 

「この、おとなしく、しなさい!」

 

 

しかし、制御を離れたスクナは、手のつけようがありません。

いつまでも、もたない。腕が4本あるというのが、特に不味い。

まだですか・・・。

 

 

グウゥゥオオオオオオオォォォォォォンッッ!!!!

 

 

スクナの2本の腕は、鎧武者で押さえられますが、残りの2本に、押し切られ・・・!

殴られました!

倒れる・・・!

 

 

まだですか。

 

 

 

「・・・エヴァさん!」

「なんだ、アリア?」

 

 

 

不意に。

不意に、背後から、抱きすくめられるのを感じました。

 

 

「来たぞ、アリア」

 

 

にかっ、と、どこかシニカルで、悪戯者のような笑みを浮かべるエヴァさんがそこにいました。

エヴァさんは私の頭を、くしゃ、と撫でました。

・・・照れます。

 

 

「良く頑張ったな、アリア。ま、私に言わせれば、まだまだ、だがな」

 

 

『黒縄天譴明王』を、解除。

エヴァさんの、後ろに。

 

 

「私が今から、最強の魔法使いの最高の力というものを見せてやろう。いいか、よーく見ておけよ! よくな!!」

「だからなぜ、二回言うのですか」

「大事なことだからだ!」

 

 

身体中から魔力を発しながら、エヴァさんが魔法の詠唱に入ります。

 

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 契約に従い我に従え、氷の女王、来れ!『とこしえのやみ えいえんのひょうが』!!」

 

 

放たれるのは、広域凍結呪文。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』で解析する限りにおいて、最大範囲は150フィート四方。

まともに受ければ、避けることも、防ぐこともできない。

強力にして無比なる殲滅魔法。

 

 

スクナでさえも、ひとたまりもなく凍結してしまいました。

・・・中身は傷つけないでくださいよ。

 

 

「全ての命ある者に等しき死を、其は安らぎ也・・・『おわるせかい』」

 

 

ぱちんっ・・・と、エヴァさんが指を鳴らした瞬間。

全てのものが、砕けて消えました。

・・・千草さん、生きてるといいですけど。

 

 

「アハハハハハッ・・・バカめ、それなりの力を持っていたようだが、この最強無敵の悪の魔法使い、<闇の福音>の敵ではないわ! アハハハハハハハハハッ!!」

 

 

圧倒的な勝利に、高笑いするエヴァさん。

なんというか、自分があれほど手こずっていた相手を一瞬で倒されるというのは、妙な気分になりますね。

流石は、ラスボスと言ったところでしょうか。

 

 

「くくく・・・どーだ、アリア! この私の圧倒的な力をしかとその目に焼き付けたか!?」

「・・・はい。流石はエヴァさんですね」

「そーか! そーか、そーか!」

 

 

腰に手を当てて高笑いするエヴァさん。そんなに嬉しいんですか・・・。

 

 

「そういえば、茶々丸さんは?」

「あはははは・・・む? 茶々丸なら旅館だ。さよを一人にするわけにもいかんしな」

「そうですか」

 

 

本当に意外と面倒見いいんですよね。

さて・・・。

 

 

「・・・それで、なんだ。アリア、お前ので、デートの相手というのはどいつだ? 今すぐ氷漬けにして・・・って、おいコラ、どこに行く!?」

 

 

 

 

 

Side 千草

 

し、死ぬかと思うた・・・。

 

 

「さ、寒・・・」

 

 

氷漬けになったスクナの残骸から這い出ながら、命のありがたみを噛み締める。

 

 

誰かは知らんけどスクナを倒すとは、化物やな。

まぁ、しゃあない。

命が助かっただけ、儲けもんやろ。

 

 

「とりあえず、ここから離れて・・・」

 

 

一度逃げて、仕切り直しやな。

小太郎達も拾えるとええんやけど・・・。

 

 

「天ヶ崎千草さん」

「・・・っ!」

 

 

例の白い子・・・アリアはんが、空から降りてきた。

さっきの、スクナを倒したらしい金髪の子も一緒やった。

・・・終わった、な。

 

 

「・・・うちを、捕まえに来たんか? それとも、殺しに来たんか?」

「当然だろ? それともお前は、他人を傷つけておいて自分が傷つく覚悟はない、とか言うつもりなのか? ・・・三流の悪党だな」

 

 

金髪の子がバカにしたような目で、うちを見る。

アリアはんは・・・なんの感情も見えへんな。よくわからん。

 

 

はは、まさか、こんなお嬢ちゃん2人にやられるなんてな。

夢にも思わんかったわ。

 

 

「・・・個人的には、貴女にはさほど興味はありません。むしろこの場で首を刎ねてさしあげても良いのですが・・・」

 

 

ぶんっ・・・と、いつの間にか持っとった西洋物の剣を、うちに突きつけてくるアリアはん。

 

 

「・・・魔法具、『バルトアンデルスの剣』」

「・・・なんの、つもりや」

「取引です」

 

 

取引?

 

 

「天ヶ崎千草さん。私に協力してください。その代わりに、命を助けてさしあげます」

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

身体に直接、攻撃を受けたのは初めてだった。

正直、アリアの力があれほどとは思わなかった。

 

 

「それに・・・<闇の福音>」

 

 

真祖の吸血鬼までもが出てくるとは、思わなかった。

 

 

今回、僕が受けた任務は2つ。

一つは、リョウメンスクナノカミの調査。

かの鬼神の力を手に入れること。これは、すでに達成済み。

 

 

もう一つは、サウザンドマスターの子供達が、今後こちらの脅威となるかどうか。

アリアに関しては、もう十分だろう。

実力は十分に脅威だ。ただ、敵対するかどうかは、まだわからない。

兄の方は・・・。

 

 

視界には、自分の生徒に囲まれているネギ・スプリングフィールドの姿がある。

サウザンドマスターの息子。アリアの兄。

 

 

・・・試させてもらうとしようか。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「す、すごい・・・」

 

 

エヴァンジェリンさんの魔法が、一撃であの大きな鬼を倒した。

前に学園で戦った時には、あんな力は使われなかった。

あれが、エヴァンジェリンさんの本当の力なんだ。

 

 

僕も、あれくらい強くなれたら。

 

 

それに少しの間だけど、スクナと戦ったあの巨人。

あれは、アリアの魔法具・・・?

 

 

少し前から、アリアの魔法具の力がすごいって言うのはわかってるつもりだった。

どうやって、アリアはあんな魔法具を手に入れたんだろう?

 

 

僕もいくつか魔法具は持ってるけど、アリアの魔法具はそれとはまったく違う物みたいだ。

今度、聞いてみよう。

教えてくれるといいな・・・。

 

 

「う・・・」

 

 

み、右手が・・・!

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「ネギ、どうしたの!?」

「あ、兄貴~!」

 

 

ネギ先生達とは少し離れた位置に、お嬢様と共に降りる。

すると、ネギ先生達の方が騒がしかった。

何かあったのだろうか・・・?

 

 

「どうかしましたか?」

「あ、刹那さん・・・に、木乃香! 無事だったのね!」

「せっちゃん達が助けてくれたから、大丈夫やえ。って、ネギ君どないしたん!?」

 

 

ネギ先生の右手が、ほとんど石化していた。

おそらくは、フェイトの石化魔法を、掠らせるかどうかしたのだろう。

 

 

それが、右肩のあたりまで浸食している。

このままなら完全石化まで・・・いや、それ以前に首に達した段階で窒息しかねない。

実際ネギ先生の顔色は悪く、息も荒い。

危険な状態だ。

 

 

「ど、どど、どうすんのよ!?」

「どうするもこうするも・・・そうだ! 木乃香の姐さん、ネギの兄貴にちょっとチュウしてくんねーか!?」

「へ?」

「この非常時に何言ってんのよっ!?」

「いや、違ぇよ姐さん! 仮契約だよ仮契約!」

 

 

仮契約。

その単語を聞いた時、私は反射的にお嬢様の前に立った。

まるで、背中に隠すように。

・・・・・・え?

 

 

「どないしたん、せっちゃん?」

「え!? い、いえその・・・」

 

 

自分でも、どうしてこんな行動に出たのかはわからない。

だから不思議そうなお嬢様に、明瞭な答えを返すことができなかった。

 

 

「・・・と、いうわけさ。わかったか明日菜の姐さん!」

「よ、よくわかんないけど、木乃香がネギと仮契約すると、ネギが助かるっていうのは、わかった!」

「そこしかわかんなかったのかよ!?」

 

 

お嬢様の潜在力なら、確かに何かのきっかけさえあれば、すぐに開花するだろう。

それこそネギ先生の石化を治癒するだけの効果は、望めるかもしれない。

ただ、それで仮契約、というのはどうなのだろうか。

なんというか、こう・・・引っかかる。

 

 

「ひゃっ・・・お、押さんといてぇな、せっちゃん」

「ふぇ!? あ、も、申し訳ありません!」

 

 

どうやら背中にお嬢様を隠したまま、下がろうとしたらしい。

ど、どうしてこんな行動に出るのか、わからない。

 

 

「さぁ、木乃香の姐さ「だ、駄目です!」んなっ!?」

「刹那さん?」

「せっちゃん?」

「え、あ、その、駄目というか、その・・・そう! あ、アリア先生の意見も伺った方が・・・!」

 

 

わたわたと無様に手を上げ下げしながら、言葉を絞り出す。

な、何をやっているんだ、私は!

 

 

「アリアの姐さんは今、いねーじゃねーか!」

「そ、それは、そうなんですけど・・・」

「時間がねーんだ、早くしねぇと兄貴が!」

「・・・せっちゃん。うち、構へんよ」

「お嬢様!? し、しかし・・・」

「ネギ君を助けるのに、せなあかんのやろ? その、か、仮契約? とかいうやつ」

 

 

ま、待ってくださいお嬢様。

具体的には、アリア先生が戻られるまで・・・!

しかしお嬢様は私の背中から離れて、ネギ先生の下へ。

 

 

「さぁ、木乃香の姐さん!」

「わかったえ」

 

 

ど、どうする。どうすれば。

ネギ先生を見殺しにすることは、確かにできない。

なんらかの方法で助けなければ。

けれどその手段が、ネギ先生とお嬢様の仮契約というのは、心のどこかで引っかかる。

駄目だと叫ぶ、自分がいる。

どうすれば・・・!

 

 

「・・・何か、随分と盛り上がっているようですね」

「アリア先・・・生?」

 

 

待ちかねたその声に振り向けば。

そこには。

 

 

そこには、左眼から血を流してエヴァさんに肩を借りて立つ、アリア先生がいた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ぐぇあっ!?」

 

 

とりあえず、下等生物を踏み潰しておきます。

人がいないことを良いことに、このカモは・・・。

 

 

「まったく・・・それで、どういう状況ですか?」

「ネギが・・・って、アリア先生、それ、大丈夫なの?」

 

 

明日菜さんが心配そうな声を上げるのは、私の左眼が原因でしょうか。

現在、だくだくと血を流しています。

ついでに言えば右眼も限界ギリギリで、物が霞んで見えます。

魔眼の機能は、ほぼ使えない状態です。

 

 

「あ、アリア先生、その、ひょっとして、それ・・・うちの、せい?」

「木乃香さんが心配するようなことでは、ありませんよ」

「でも、先生・・・」

「刹那さんが心配することでも、ありません」

 

 

ちゃんと笑えているのかどうかわかりませんが、安心させるべく、笑顔を浮かべます。

 

 

「エヴァちゃん、すごい魔法使いなんでしょ? ネギを治すことってできない?」

「エヴァちゃん言うな。・・・あと私は治癒系は苦手なんだ、不死だから」

「そ、そんな・・・」

 

 

悲壮な表情を浮かべる明日菜さん。

・・・まぁ、流石にこのまま死なせるわけにはいきませんね。

最後のなけなしの魔力を振り絞って、石化解除の魔法具を創ります。

 

 

その名も、『金の針』。

大抵の石化を解除する、金色の針です。

・・・村の皆には、効果がありませんでしたけど。

 

 

『金の針』を、兄様の石化した腕に突き刺します。

すると瞬時のうちに石化が解除され、針も砕けて消えます。

そして、兄様の意識も回復します。

 

 

「すごい・・・」

「なんだ、その魔法具? 私も見たことが無いぞ」

「こう見えて私、石化に関してはプロですよ?」

 

 

魔法学校の専攻も呪いの解除に関する研究でしたし。

あくまで本職は補助・回復ならびに解呪なんですってば。

 

 

「あ、アリア・・・・・・その、あ、ありがとう」

「・・・いえいえ、兄様も、先ほど、私を助けようとしてくださったでしょう?」

 

 

まぁ、正直、手出し無用でお願いしたかったのですが。

兄様の立場からすれば、仕方のない判断だったのでしょう。

 

 

兄様に手を差し伸べると、少し驚いた顔で固まりました。

・・・失礼な兄様ですね。

兄様はまず明日菜さんを見て、木乃香さんを見て、刹那さんを見て、最後にエヴァさんを見てから――その間待つ私って優しい――手を伸ばしてきました。

そして。

 

 

「・・・っ」

 

 

霞む右眼、『複写眼(アルファ・スティグマ)』の視界の中で、見覚えのある魔法構成と、存在を確認しました。

フェイトさん。

 

 

「障壁突破、『石の槍』!」

 

 

再現されるいつかの奇襲。しかし今の私は、魔力が無い。

狙いは、兄様ですか。

とっさに、兄様を突き飛ばし、皆さんを庇うように、前に。

石化の効果は、『リボン』で消せる、けれど。

 

 

 

ズムッ・・・という鈍い音、次いでお腹から走る灼熱感。

かふっ・・・と肺から息が漏れ、臓器の潰れる音と骨の折れる音が脳内に響きます。

 

 

 

一瞬、私とフェイトさんの視線が交わります。

私の血が、フェイトさんに触れる。

瞬間。

 

 

 

<て せい  てみ  、な  い、こ >

<  くもあ ま 、た   んぎ  だ>

 

 

 

え?

 

 

 

< んし をこ  つ りでつ  たの >

<  らはそ   だ ら、まぁ、つ  て れ ?>

<ま、そ  お し い  >

 

 

 

擦り切れたような、声が。

声が。

 

 

 

<そ  して 、よ  ごく だ ぇ>

<げ   きな  どう  る >

<たの め  、  で い  >

 

 

 

・・・誰?

貴方達は、誰?

だ・・・。

 

 

 

「・・・貴様ぁっ!!!」

 

 

エヴァさんの怒声。

現実に、意識が戻る。

 

 

悲鳴が響き渡る中、エヴァさんが倒れる私と入れ替わるように飛び出し、フェイトさんを殴り飛ばしたところまでは見えましたが・・・そこからは、ちょっと見ている場合ではありません。

ヤバいですね、死ぬかもしれません。

 

 

「アリア先生!?」

「し、しっかりしてください!!」

 

 

刹那さんと木乃香さんが私を支え起こしてくれますが、すでに下半身の感覚がありません。

『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』が無い今、自動回復は望めません。

と、というか、意識が・・・。

 

 

く・・・。

 

 

ま、まだ・・・が・・・あ・・・に・・・。

あ・・・。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・。

 

 

 

 

ねえさま。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
死にました・・・。
え、本当に?


今回使用した魔法具は、以下の通りです。
『天使のはね』:元ネタは「FF」、提供者はプチ魔王様です。
『黒縄天譴明王』:元ネタは「ブリーチ」、提供はギャラリー様です。
『バルトアンデルスの剣』:元ネタは、「オーフェン」です。
提供者は、月音様です。
『金の針』:元ネタは、「FF」です。
提供は、ケイン青川様、プチ魔王様です。
ありがとうございます。

では、またお会いできることを、祈っております。
・・・会えますよね?

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