魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第31話「京都修学旅行編・4日目・午前中」

Side アリア

 

「びっ・・・くりしたぁ・・・」

 

 

死んだと思いました。

打ち切りかと思いましたよ・・・。

 

 

むくりと起き上がり、はたと気づきます。

傷がありません。

どういうわけか、眼も治っているようです。

いつの間にか白い襦袢に変わっている服装。

その上から、身体をぺたぺたと触ります。

 

 

はて、これはいったい、どういう・・・?

 

 

その時。

がらっ・・・と戸が開けられ――和室なので関西呪術協会でしょうか――木乃香さんと刹那さんが、顔を覗かせました。

 

 

「あ、おはようござ「「アリア先生――っ!!」」ぐふぅっ!?」

 

 

いきなり飛びついてくるお二人。

あまりの衝撃に、女の子らしからぬ声を上げてしまったじゃありませんか・・・。

 

 

「せん、アリア先生っ・・・!!」

「よかっ・・・よかったえぇぇ・・・!!」

 

 

そのまま、私の上で泣き始める2人。

え、ちょ、苦しい上に、状況がわかりません・・・!

 

 

「ふん、起きたか」

 

 

ひょこっ、と、エヴァさんも顔を出しました。

そのままドスドスと、枕元までやってきます。

 

 

「・・・具合は、どうだ」

「え、あ、はい・・・なんというか、絶好調です」

「そうか・・・」

 

 

エヴァさんは、そこで目を閉じました。

え、いえ、あの、助けてほしいのですが・・・。

しかし、エヴァさんは、しばらくそのままでした。

木乃香さんと、刹那さんも、泣きっぱなしです。

 

 

・・・そして、次にエヴァさんが、目を開けた、時。

 

 

 

「この、バカがっっっ!!!!!」

 

 

 

比喩でなく、びりびりと、部屋中に、いえ、屋敷中に響き渡る声量で、エヴァさんが怒鳴りました。

私だけでなく刹那さんや木乃香さんも、思わず身をすくめてしまうほど。

 

 

「自分が、何をしたか、わかっているのかっっ!!!」

「え、え、え・・・」

「死にかけたんだぞ、お前は!!・・・いや、一度呼吸も止まって、死んだんだ!!!」

 

 

え、は・・・し、死んだ? 私が?

 

 

「え、エヴァンジェリンさん、落ち着いて・・・」

「せ、せやえ、アリア先生、病み上がりなんやし・・・」

「お前達は、黙ってろ!!」

 

 

あまりの剣幕に、2人も口を噤んでしまいました。

 

 

「なんのつもりでぼーやを庇ったのかは知らんが・・・ヒーローにでもなったつもりかお前は!!」

「そ、そんなつもりは・・・」

「正義の味方ごっこはごめんだと言っていたくせに、いざとなるとそれか!!」

「そ、それは誤解です!」

 

 

私は別に、正義の味方になりたいわけじゃない。

そんな気持ちで、戦ったわけじゃないんです。

 

 

「じゃあなんだ!! アレか!? 死にたがりなのかお前は!?」

「い、いえ、その・・・」

「お前は気持ちよく庇えて満足か知らんが、見てるしかないこっちはな、たまったものじゃないんだよ!!」

「それは・・・その、申し訳ないと思っ」

「謝罪などいらん!!」

 

 

うう、こっちの言い分を聞いてすらもらえません・・・。

 

 

「な、なら、どうすればよかったんですか・・・兄様を見捨てれば良かったと?」

「そうは言わん! 助けたければ助ければいいさ」

「なら」

「だがな!・・・だが、お前の助け方は、間違ってる!」

 

 

助け方が、間違ってる?

 

 

「自分の命やら視力やらを犠牲にしてまで他人を救うなど、バカのやることだ!!」

「・・・でも、助けられる側は、きっと、それでも助けてほしいと、思います」

「だからどうした。それでも自分の命を軽んじて良いということにはならん」

 

 

私は、死にたくは、ないです。

視力を失いたいわけでも、ないです。

でも・・・。

 

 

「でも、私はきっと、同じことをしてしまいます・・・」

「・・・お前は!」

「だって、そうでないと、守れないものもあります・・・」

「お、お前と言う奴はこの、この、この・・・!!」

 

 

どすんっ、と、その場に座り込んで、エヴァさんが、こちらに手を。

ぶたれるっ・・・反射的に、身をすくめてみれば。

 

 

くしゃっ・・・。

 

 

頭に、優しい感覚。

 

 

「バカが・・・」

 

 

エヴァさんは、私の頭に手を置いたまま、俯いてしまいました。

声が、肩が、少し、震えているように見えます。

あ・・・。

 

 

ようやく、事態が少し、飲み込めました。

死にかけたという私。

起きた私を見て泣いた、木乃香さんと刹那さん。

そして、エヴァさん。

私は。

 

 

「・・・・・・エヴァさん」

 

 

頭に乗せられたエヴァさんの手を、両手で、包んで、顔に押し付けるように、握りました。

目が、熱いのは、怪我のせいではないでしょう。

 

 

「・・・い・・・」

 

 

エヴァさんは、遺される側のことを考えろとか、他人など捨て置けとか、そういうことを、言っているわけじゃ、ないんだ・・・。

ただ、私を。

 

 

「・・・め、なさ・・・」

 

 

私は、バカだ。

結局、自分のことしか、考えてない・・・。

私は。

 

 

「・・・ごめん、なさ、い・・・」

 

 

私は、こんなにも、想われていたのに・・・。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

私は、何か、勘違いをしていなかっただろうか。

昨夜の、そして今のアリア先生の姿を見て、強く、そう思う。

 

 

アリア先生が、傷ついたり、負けたりしない、自分とは違う完璧な存在だと、思っていなかっただろうか?

決めつけて、いなかっただろうか?

 

 

アリア先生だって、無理をすれば疲れるし、無茶を言われれば困る、普通の人間だと、忘れていなかっただろうか?

思い込んで、いなかっただろうか?

 

 

私は、アリア先生が優しいのを良いことに、甘えすぎていなかっただろうか。

寄りかかりすぎて、いなかっただろうか。

 

 

・・・後悔ばかりが、浮かんでは消えていく。

もし次があるのならばその時はと、考えてしまう自分が、嫌だった。

もう私には、「次」などないのに・・・。

 

 

結局、私は最後まで、アリア先生に迷惑をかけることしかできない・・・。

 

 

しばらくの間、静かな時間が過ぎた。

 

 

アリア先生が落ち着いた頃には、私も冷静な状態に戻っていた。

ただ先ほどの醜態を思い出すと、顔が熱くなるのを感じる。

まさか、アリア先生に飛びついてしまうとは・・・。

 

 

それにしても、アリア先生が助かって本当に良かった。

お嬢様などは、まだ涙ぐんでいる。

 

 

「それで、あの、エヴァさん」

「何だ?」

「私は、どうやって・・・?」

 

 

アリア先生が不安そうな顔で、お嬢様を見た。

あれだけの重傷を治そうと思えば、確かに最初に思い浮かぶのは、お嬢様だろう。

ただ。

 

 

「安心しろ。近衛木乃香は誰とも仮契約していない」

 

 

その言葉に、アリア先生はほっとした表情を浮かべた。

そうお嬢様は、誰とも仮契約を結んでいない。

では、どうやってアリア先生が助かったのかというと。

 

 

「恩人が、起きたんだぞ!」

 

 

どたばたと、廊下を走ってくる音が聞こえてきた。

エヴァンジェリンさんが、「ちょうどいい」と、やってきた者を、部屋に招き入れた。

 

 

それは、少し血色の悪い黒髪黒瞳の男の子だった。

年は、アリア先生と同じくらいに見える。

彼は布団から身を起こしたアリア先生を見ると、嬉しそうに笑った。

 

 

「起きたか、恩人!」

「貴方は・・・」

「こいつが、お前の命を救った」

「おう、恩人は恩人だからな! 助けるのは当たり前だぞ!」

 

 

人懐っこそうな笑みを浮かべて、大きな声で喋る。

まるで、話せることが嬉しくて仕方がない、と言わんばかりに。

ただ、私の立場からすると複雑だ・・・。

 

 

彼は笑って、言った。

 

 

「スクナは、恩人を見捨てないんだぞ!」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「じゃあ、お父様呼んでくるわ~」

 

 

あれから簡単に事情を説明してもらい、木乃香さんは詠春さんを呼びに行きました。

私はというと、頭を抱えて布団の上で丸まっていました。

なぜならば・・・。

 

 

サードキスッ・・・!

しかも、相手は男の子っ・・・!

「男の子じゃないからノーカウント」と、言い聞かせてきたのに・・・!

 

 

女の子にすればよかった!

千草さんの陰陽術の知識と、封印解放の祝詞、それに『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』と『複写眼(アルファ・スティグマ)』の能力をフル活用して、スクナの封印を解除。

『バルトアンデルスの剣』の存在変化の力で、人間形態にしたまでは、よかった。

性別がわからなかったので、「カミ」とつくなら男かな、と、同年代の男の子の姿にしたのが、裏目にっ・・・!

 

 

・・・はっ。

そうです、性別不明なら、きっとノーカウントにっ・・・!

 

 

「どうした、恩人。遊びか?」

「触れてやるな、バカ鬼」

「バカ鬼じゃないぞ。スクナだぞ」

「貴様など、バカ鬼で十分だ」

 

 

私が布団の上でどったんばったんとしていると、当事者、スクナさんが、なんにもわかってない表情でエヴァさんとじゃれていました。

・・・なんだか、気にする方がバカみたいですね。

 

 

「あの・・・先生」

「はい、なんでしょう」

「そ、その、ご相談したいことが、ありまして・・・」

 

 

チラチラとエヴァさん達を見ながら言いにくそうに、刹那さんが、話を切り出してきます。

相談、ね・・・。

 

 

「・・・私達は、席を外した方がよさそうだな」

「す、すみません。エヴァンジェリンさん」

「構わんよ・・・行くぞ、バカ鬼」

「嫌だぞ。恩人の側にいる」

「いいから来い。それとも、また凍らせてやろうか?」

「それは、嫌だぞ・・・」

「だったら来い」

 

 

あれは説得じゃないですよね・・・とか、考えながら、スクナさんを引きずっていくエヴァさんを見送ります。

というか、微妙に仲が良いです。

 

 

「・・・さて、どのようなお話でしょうか?」

 

 

真剣な顔で何かを言おうとしている刹那さんに、できるだけにこやかに答えます。

刹那さんは、幾分か迷った様子で話し出しました。

 

 

「じ、実は私、ここから出ていかなくては、いけなくて・・・」

「・・・烏族の掟ですか?」

「! ご存知でしたか・・・」

「ええ、まぁ」

 

 

知ってはいますが、実際に聞くと何言ってるんだろうこの子って気分になりますね。

なんで自分を迫害した連中の掟を守るんでしょう・・・?

 

 

「・・・あの、非常に申し上げにくいんですけど、木乃香さん、ここからが大変なんだと思います。側にいなくていいんですか?」

「それは・・・先生がいてくれますし、それに、私は・・・」

 

 

えー・・・丸投げですかこの人。

私は最強でも無敵でもないんですってば、今回のことでわかったでしょう。

 

 

「・・・で、貴女はどうしたいんですか?」

「ど、どう・・・?」

「木乃香さんの側にいたいんですか? いたくないんですか?」

「そ、それは・・・」

「どうなんです?」

 

 

私の問いかけに、刹那さんは顔を俯かせ、身体を震わせ始めました。

・・・そんなに無理するなら、掟の方を無視すれば良いのに。

真面目というか律儀というか・・・。

 

 

「でもうちはっ・・・人間やないんや! 一緒にはっ・・・!」

「刹那さん。私は貴女を差別した連中の事はどうでもいいんです」

 

 

なんでしたら、今から行って皆殺しにしてきても良いです。

しませんが。

 

 

「先生・・・」

「貴女は今、自分は人外だから、受け入れられないから出ていくと言いました。でも、本当ですか? 貴女の本当の姿を見て、受け入れてくれた人は、一人もいませんでしたか?」

「・・・いえ、お嬢様は、受け入れてくれました。あと、アリア先生も・・・」

 

 

あら、私も入るのですか。嬉しいですね。

何か、口調も戻りましたし。

あと、ネギ兄様達はカウントされないのでしょうか。

 

 

「なら、あと一息です。貴女次第で・・・どうにでもなります」

「・・・・・・」

 

 

黙り込んでしまう刹那さん。

・・・究極的なことを言えば、刹那さんを留まらせることができる人間は、この世に一人しかいません。

そしてそれは、私ではない。

 

 

でもね刹那さん、私は、思うのです。

貴女が一人で生きれば、それで、上手くいったことになるのですか?

他人に露見しなければ、それで成功なんですか?

 

 

魔法具『力(パワー)』を発動、殴・・・るのは、不味いので、軽く押します。

 

 

「わっ・・・!?」

 

 

障子を突き破り、外の庭にまで転げ落ちる刹那さん。

あ、これって体罰になるのでしょうか?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

庭に転げ落ちた後、数秒ほど、呆然とした。

・・・え?

 

 

「・・・な、何をっ!」

「桜咲刹那!!」

「・・・っ!?」

 

 

アリア先生の声に、身を固くしてしまう。

 

 

「貴女は、どうしたいんですか!? 貴女がしたいことを言ってくれないと、私、なんにもできないでしょう!?」

「わ、私は」

「胸を張りなさい、背筋を伸ばしなさい、俯かないでください! 諦めないで、見限らないで、自分で勝手に終わらせないで! 簡単に否定しないで、難解な肯定も駄目です!

他のことなんか、どうだっていいから・・・自分の事は、自分で決めなさいっ!!」

 

 

じ、自分で決めろって、言ったって。

他のことは、どうだっていいなんて、そんな考え方。

すぐに、できるわけが・・・。

 

 

「わ、私は・・・」

 

 

したいこと、なんて。

どうしたいかなんて、そんなこと。

 

 

「うちは、お嬢様と・・・このちゃんと、ずっと一緒におりたいっ!」

 

 

それ以外に、何があるって言うんですか・・・!

でも、私は・・・!

そんな私をしばらく見つめた後、アリア先生は、ふぅ、と溜息を吐いた。

 

 

「・・・だ、そうです。木乃香さん」

「ふぇ!?」

 

 

お嬢様の名前に、私は慌てた。

見れば、柱の陰に、お嬢様が。

な、なななっ・・・!

 

 

「・・・せっちゃん」

「おじょ、お嬢様、これは違くてそのっ・・・!」

 

 

近付いてくるお嬢様に、しどろもどろ、あたふたと、していると。

 

 

ぎゅっ・・・と、お嬢様が、私を抱きしめてきた。

え、ちょ、ちょっ・・・!

 

 

「・・・ごめんなぁ」

「え・・・」

「ごめんなぁ、せっちゃん」

 

 

気付いてあげられなくて、ごめん。

そう、お嬢様は、言った。

 

 

・・・そんな。

お嬢様が謝ることなんて、何もないのに。

私はただ、私がしたいことを、しただけなの・・・。

 

 

・・・あ。

なんだ。

 

 

アリア先生に言われるまでもなく、私はもう。

自分のしたいことを、しているじゃないか・・・。

誰に命じられるでもなく。

自分の意思で。

 

 

「こ・・・」

 

 

気付いてみれば、簡単なこと。

けれど、私は臆病者だから。

 

 

「このちゃん・・・!」

 

 

それだけしか、言えなかった。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

なんのホームドラマだ、これは。

 

 

縁側に出てバカ鬼を構っていれば、突然、桜咲刹那が障子を突き破って庭に転げ落ちた。

それでアリアがなにやら怒鳴り散らした後、桜咲刹那は青臭い願いを叫んで、それを近衛木乃香が聞きつけて、2人で抱き合って涙を流す。

 

 

そのアリア自身は、娘に連れて来られたらしい近衛詠春と共に、奥の部屋に行ったが・・・。

小娘2人の友情物語を見せ付けられている私は、どうすればいいのだ?

 

 

「おい吸血鬼。友達はどうした、泣いてるぞ?」

「その呼び方はやめろ・・・別に、悲しくて泣いているわけではない」

 

 

今は桜咲刹那が自分の出生についてや、これまでの護衛で近衛木乃香を避けていた理由などを、ゆっくりと話している所だった。

近衛木乃香はその一つ一つを、頷きながら聞いている。

 

 

「・・・吸血鬼」

「ああ、目を放すなよ」

 

 

周囲から、友好的ではない気配を多分に感じる。

蹴散らしても良いが、状況が良くない。

 

 

ホテルに帰りたいところだが近衛詠春とアリアを二人にしたまま、戻るわけにはいかん。

それに、このバカ鬼だ。

おそらく近衛詠春は、こいつの正体に勘付いているはずだ。

 

 

理由はどうあれ、こいつがいなければアリアは救えなかった。

アリア共々、西の連中の好きにさせるつもりはない。

借りは返す。それが私の主義だ

 

 

あそこで抱き合ってる2人についても、まぁ、守ってやらんこともない。

でなければ、アリアがしたことが意味を失ってしまう。

 

 

私がここにいる限り、アリアの守るべきものに触れさせはしない。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「百歩譲って」

 

 

予想通り、面倒な話を持ってきましたよこの人。

私は内心、頭を抱えていました。

状況は考え得る限り、悪化の一途をたどっています。

 

 

「百歩譲って、卒業までは、木乃香さんを守りましょう」

 

 

木乃香さんは、私の生徒ですから。。

 

 

「・・・ですがそれは、一人の、私の大切な生徒の一人として、保護するという意味で、です。従者として戦力に数えるわけでも、西と東の外交カードにするためでもなく、ましてや、魔法の師なんかになるという意味ではありません」

 

 

そもそも、魔法使えないんですよ、私自身は。

 

 

「・・・それは、理解しています」

「いや、していないでしょう?」

 

 

苦々しい表情の詠春さん。

でも、私の心境はもっと苦しいんですよ。

 

 

「そもそも、今回の事は、貴方と学園長の見通しの甘さが招いたことでしょう。なぜ私がその煽りを喰らわなければならないんですか」

「アリア君の気持ちもわかりますが・・・木乃香はもう魔法に目覚めてしまった。このままでは一部の過激派に利用されてしまうかもしれない。自衛の手段を得る必要がある」

「そうでしょうね。でもそんなことは、彼女が生まれた時点で分かっていたはずでしょう」

 

 

正統な血統に、大きな魔力。

いくら平穏に暮らしてほしいからって、麻帆良に寄越した意味がわからない。

それでは木乃香さんは陰陽師としてではなく、魔法使いとして育てる、そう宣言したも同然。

不満が爆発するのは、目に見えているではありませんか。

 

 

「・・・・・・どうしても、アリア君が引き受けてくれない、と、言うことであれば」

「なんですか?」

「私としては、他の方に頼まざるを得なくなります」

 

 

・・・他?

 

 

「お義父さん・・・学園長か、あるいは、ネギ君」

「・・・本気で、言っているのでしょうか」

「西で木乃香を教育することはもう、できないでしょう」

 

 

そんなこと知りませんよ、貴方の自業自得でしょうが!!

そう叫べれば、どれだけ楽か。

 

 

木乃香さんを、学園長やネギ兄様に、任せる?

学園長やタカミチさんが、一人の生徒のためにそんなに時間を避けるはずがない。

となれば、自然、ネギ兄様が候補になります。

他の魔法先生では、失礼ですが、西と東のトップの血縁者の教育係として不足です。

 

 

木乃香さんが、兄様の庇護(できるかは知りませんが)下に入る。

大戦の英雄の子供2人が、美しく手を取り合うわけですか。

美しすぎて、涙が出ます。

 

 

つまりは、近衛詠春さん、彼は。

自分の娘を使って、私を脅迫しているわけだ。

私がまさに命懸けで木乃香さんを守った姿を見て、通ると思ったわけですか。

その要求が。

この要求を拒否するということは、木乃香さんを見捨てることと、同義です。

 

 

・・・できない。

少なくとも木乃香さん自身が、自分の意思で裏に関わる決意をしない限り。

彼女が、「私の生徒」である限り。

 

 

「・・・・・・条件が、三つ、いえ、四つあります」

「では、引き受けてくれますか?」

 

 

・・・そうせざるを得ない状況を作っておいて、何を。

木乃香さん自身の意思も、確認していないくせに。

 

 

木乃香さんは今、表と裏の、ライン上にいます。

ここで兄様に任せることは、できません。

兄様の能力以前に、あまりにも危険な位置に木乃香さんがいるのです。

少なくとも裏の世界から逃げるだけの、隠れるだけの力を、与える必要があります。

それは、兄様にはできない。

 

 

「条件を、聞きましょう」

「まず一つ、刹那さんをこれまで通り木乃香さんの側に置くこと。理由は、木乃香さんの心を支えられるのが今は彼女しかいないからです。精神面のケアは、私ではできませんから」

「・・・わかりました」

「二つ、木乃香さんを、次期長候補から外してください。将来、木乃香さんが望まない限り、関西での地位を彼女に押し付けないでください。私も、これ以上組織のごたごたに巻き込まれたくありません」

「・・・難しいですが、それも、承りましょう」

「三つ、木乃香さんには魔法に加えて、将来の保険に陰陽術も教えます。つきましては、書庫閲覧の許可を。持ち出しはしませんので」

「・・・良いでしょう。ただ、秘術などもあるので・・・」

「それで構いません」

 

 

もっとも陰陽術の方は、他にあてがあるのですが。

 

 

「最後の一つは、木乃香さんが私の、つまり西洋魔法使いの庇護下にあることを、隠してください」

 

 

幸いなことに、仮契約はしていません。

これなら、誰が木乃香さんの師であっても、ギリギリ、かわせるはずです。

兄様に任せられないのも、これが理由です。

兄様は、簡単に仮契約しそうで怖い・・・。

 

 

「可能な限り早く、自衛手段を教えるつもりですが・・・木乃香さんが、西の長の娘が、西洋魔法使いに師事しているなどということを、知られるわけには、いきません・・・」

 

 

麻帆良にいるというだけでも、もうかなりアウトですが。

それは、この際、仕方がありません。今さらです。

ならせめて、木乃香さんを敵視する人間の数を減らす努力をしておく必要があります。

 

 

ただでさえ、英雄の子供というのは、敵が多いんです・・・。

 

 

木乃香さんはこれまで通り、普通の女の子として麻帆良に戻ったということに、したい。

正直どこまで効果があるか、疑問ですが。

少しでも時間を、稼がないと・・・。

 

 

「・・・・・・最低の父親だと、思っているでしょうね」

「・・・理解は、できますよ。今、貴方が木乃香さんを守ろうとするなら、私を利用した方が一番リスクもコストもかからない・・・」

「・・・・・・木乃香を、お願いします」

 

 

・・・それでも。

それでもね、詠春さん。私は少しだけ、期待もしていたのですよ。

貴方が自分で、木乃香さんを守ろうとしたのならば。

関西呪術協会という不特定多数ではなく、父親として、木乃香さんを優先してくれたのならば。

父親として、娘をただ守ってほしいと、願われたのならば。

 

 

私はきっと、もっと素直な気持ちで、貴方に協力したかもしれないのに。

 

 

それにしてもどうしてこう、私を取り巻く環境は厳しいのでしょう。

兄様くらい楽観的になれば、楽になるのでしょうか・・・。

 

 

・・・お腹が、痛いです。

 

 

「・・・それはそうと、アリア君。私はこれからネギ君達を私達の・・・<紅き翼>の隠れ家に案内するつもりなんですが、良ければ一緒に・・・」

「いえ、私は興味ありませんから。行きたい方でどうぞ」

 

 

正直もう、お腹いっぱいなんです・・・そういえば、昨夜から何も食べてませんね・・・。

それ以前の問題として。

私は先に旅館に戻りたいんです。

教師としての仕事が私を待っているんですよ。

 

 

何か言いたげな詠春さん。

でも、興味ないのは本当ですし・・・。

話は終わったものとして、席を立ちます。

あ、寝巻のままじゃないですか・・・。

 

 

「アリア君」

「何か・・・」

「スクナの封印に、何かしましたか?」

 

 

その、詠春さんの問いに、背中を向けたまま、答える。

 

 

「何も」

 

 

そのまま、扉を開ける私。その顔を。

今の私の口元を他人が見れば、きっと。

三日月の形に歪んでいると、指摘したことでしょう。

 

 

ざまぁ、みろ。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

アリアが、戻ってきた。

その頃にはもう、近衛木乃香達も、すっかり落ち着いている。

そして、桜咲刹那は、ようやく周囲の気配の変化に気付いたようだ。

 

 

・・・遅いわ。バカ者。

 

 

「エヴァさん」

 

 

少し顔色が悪いが、随分と元気を取り戻したアリアは私を見ると笑顔を浮かべた。

な、なんだ?

 

 

「詠春さんが兄様達を連れて、お父様の別荘に行くそうですよ」

「む・・・」

 

 

ナギの、か・・・。

正直、今はアリアの側を離れたくないのだが・・・。

 

 

「刹那さんと木乃香さんを連れて、行ってきてもらえますか?」

「む? お前は・・・ああ、行かんだろうな」

「ええ、行きたくありません。ただ、刹那さん達には私のことを知る上で必要な話も聞けるでしょうし」

 

 

・・・まぁ、近衛詠春も近衛木乃香達には何もせんだろう。

したとしても私がいれば、大抵はなんとかできる。

だが・・・。

 

 

「お前はどうする?」

「ホテルに戻って、仕事です。いつまでもダミーに任せておけませんし」

 

 

想定通りの答え、か・・・。なら。

 

 

「あのバカ鬼も連れていけ、あいつはここに居すぎると不味い」

「・・・でしょうね」

 

 

周囲に視線を向けながら、言う。

桜咲刹那は、身内からの嫌な気配に少々居心地が悪そうだ。

 

 

「・・・2人を、お願いしますね」

「お前こそ、バカ鬼の荷物になるなよ」

「ええ~・・・私の方が荷物なんですか?」

 

 

苦笑するアリアの頭を、軽く小突く。

病み上がりが・・・本当に反省したのか?

 

 

しばらくは、無茶をしないように見張らせてもらうからな。24時間。

 

 

・・・茶々丸が。

 

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回は怒られたり怒ったり、諭されたり諭したりで、忙しかったですね。

次話は、私よりも、お父様の隠れ家に向かった兄様や、他の方の描写が多いかもしれませんね。
では、またお会いしましょう。

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