魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第32話「4日目・午後」

Side ネギ

 

昨日、僕はアリアの側にいることができなかった。

僕は、逃げたんだ・・・。

 

 

だって、僕は。

目の前でアリアが死にそうになってるのに、何もできなかった。

あの時だけじゃなくて、僕は結局、何も、できなかったんだ。

何も、誰も、守れなかった。

6年前と違って、力を得たはずなのに・・・。

 

 

それに何よりも、認めたくなかった。

アリアが、人が、死にそうになってる時に、僕は。

アリアを、羨ましいと思ってしまったなんて・・・。

 

 

そんなの、マギステル・マギじゃない。

お父さんとは、全然違う・・・。

 

 

お父さん、か・・・。

長さんにお父さんの事を聞いたけど、結局、ここにもお父さんの手掛かりはなかった。

でも、お父さんがいた部屋を見れただけでも、よかったかな・・・。

 

 

「なー兄貴、本当にアリアの姐さんに会いに行かなくていいんですかい?」

「うん・・・」

 

 

長さんも、もう傷も治ったし、大丈夫って言ってたし・・・。

それに僕のせいであんな大怪我したんだし、きっと会ってくれないよ・・・。

 

 

「・・・いやでも、妹に怪我させ、じゃなくて、怪我したのに行かないってのは」

「いいんだ」

 

 

カモ君はアリアに会いに行った方が良いって言うけど、今の僕じゃ・・・。

もっと強くなって、皆を守れるくらいに強くなれば、きっと。

きっと、アリアも・・・。

 

 

その時、僕の頭に思い浮かんだのは、エヴァンジェリンさんの魔法とアリアの魔法具。

いけないとはわかっていても、どうしても、思ってしまう。

力が欲しい。

大切なものを全部、守れるくらいの力が。

 

 

「・・・ネギ君、ちょっといいかな?」

 

 

長さん?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

・・・なんだか、居心地が悪い。

屋敷にいた頃から、どうも嫌な視線を感じる。

お嬢様・・・このちゃんや、私への敵意などは感じないが、気になる視線だ。

 

 

「なぁ、せっちゃん」

「え、あ、はい、おじょ・・・じゃなく、このちゃん?」

 

 

つい以前の癖で、「お嬢様」と呼んでしまいそうになる。

お嬢様と呼ぶと、かなり不機嫌になってしまうので、注意が必要だ・・・。

 

 

「アリア先生、大丈夫なんかな? 来ぃひんかったけど・・・」

「あ、それは・・・エヴァンジェリンさんによると、仕事があるので、先にホテルに戻るとか」

「スクナちゃんは、どないするんやろ? うち、なんも考えんと、助けてって言うてしもた・・・」

「このちゃん・・・」

 

 

このちゃんは昨夜の騒動から、何かを考えこんでいる。

どうも魔法のことや、昼に話した私の護衛についても、思うところがあったようなのだが・・・。

 

 

「木乃香、刹那君」

「! 長・・・」

「お父様?」

 

 

ネギ先生と何かを話していた長が、こちらへやってきた。

ネギ先生はなぜ、ここにいるのだろう・・・?

いや、そもそもネギ先生の希望で、長はここに連れてきているわけだが。

アリア先生のことを抜きにしても、アリア先生と同じように、仕事があると思うのだが・・・。

 

 

私の目礼に応えた後、長はこのちゃんの方を向き、話し始めた。

 

 

「木乃香・・・今回の事、いや、それだけじゃないが、今まで黙っていて、すまなかった・・・」

「うん・・・」

「それで、今後のことだが・・・」

 

 

すると、長は少し言いにくそうな表情を浮かべた。

なんだ・・・?

 

 

「・・・アリア先生に、木乃香のことを頼んでおきました」

「え・・・」

「・・・・・・それは」

「麻帆良に戻った後は、魔法の事などはアリア先生を頼って・・・」

 

 

おかしい。

実際に聞いたわけではないが、アリア先生はこのちゃんを裏に関わらせたくないと考えていたはず。

無論、私もそうだ。

このちゃんには平和に、平穏に、生きてほしい・・・。

 

 

・・・とにかく、アリア先生はこのちゃんが魔法に関わらないことを、願っていたはずだ。

エヴァンジェリンさんが、アリア先生が瀕死の重傷を負っていた時も、このちゃんとの仮契約を拒んだことから、それは容易に想像できる。

 

 

そのアリア先生に、このちゃんを頼む、というのは、少し・・・。

いやかなり、信じられない話だ。

 

 

「長、それは・・・」

「なんで?」

「え・・・」

 

 

長に詳しくわけを聞こうとしたその時。

このちゃんが、怒っているような泣いているような、そんな顔をしていた。

 

 

 

 

 

Side 木乃香

 

「なんでなん?」

 

 

なんで、そんなことするん?

お父様かて、アリア先生が大怪我したん、知っとるはずやんか。

それやのに、うちの面倒なんて見てもろうたら、また、おんなじことが起こるかもしれへんやん。

アリア先生だけやない。

 

 

せっちゃんも、うちが知らんかっただけで、危ないこととか、怖い思いとか、たくさんしてた。

うちが知らんかっただけで、ネギ君とか、エヴァちゃんとか・・・たくさんの人に、迷惑をかけてしもた。

うちが、知らんかっただけで。

うちは。

 

 

「うちは、嫌や。うちのせいで誰かが傷つくなんて、嫌や」

「しかし、木乃香・・・言いにくいことですが、木乃香が嫌だと言っても、あなたを狙う人間がいるのです」

「それでも、嫌や!」

 

 

英雄の娘とか、才能が凄いとか、そんなん言われても、なんにも嬉しくなんてない。

争いの火種になんか、なりたくない。

うちが魔法とか、そういうものに関わって、せっちゃんやアリア先生みたいに誰かが傷ついていくのを見たくなんてない。

 

 

せっちゃんから、うちのこととか、魔法とか、少しやけど聞いた。

聞いてから、ずっと、考えとった。

こんな何も知らんで、のんびりしとったうちが、もし、うちを守ってくれた人達に恩返しが出来るなら、どんなことやろかって。

 

 

「うちは・・・」

 

 

エヴァちゃんが、言うとった。

アリア先生やせっちゃんは、うちに魔法に関わって欲しくないんやって。

普通に生きて、幸せになってほしいって。

 

 

「うちは」

 

 

アリア先生が言うとった。

他の事はどうだって良い、自分の事は、自分で決めろて。

どんな結果になっても、後悔だけはせぇへんですむように。

自分で。

 

 

「うちは、魔法に、関わらへん」

 

 

うちを守ってくれた人は、皆、うちに魔法に関わるなて言うた。

ならうちは、絶対に、魔法に関わるわけにはいかへんやんか。

 

 

「うちが何言うても、襲われるっていう、お父様の気持ちも、わかるえ、けど」

「木乃香」

「うちは、関わらへん。逃げる。逃げてみせる。逃げるために必要なことは、学ばんとあかんかもしれん。でも、それだけや。それ以上は嫌や」

 

 

うちは、魔法とかに、関わらへん。

向こうから来ても、無視する、逃げる、隠れきる、関わってなんてやらへん。

 

 

身勝手で、無茶な我儘言うとるいうことは、わかっとる。

でも。

うちは、普通に生きる。生きたい。

ううん、生きていかなあかんのや。

だってそれが、皆の気持ちやもん。

 

 

「うちは、近衛木乃香は、魔法に関わりたくない。お父様の跡を継いだりも、せぇへん」

 

 

お父様も、そして・・・うちのことを頼まれたって言う、アリア先生も。

 

 

「うちのことを、勝手に、決めんといてください」

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

・・・ほう?

 

 

正直、私は近衛木乃香に対してさほど興味はなかったが・・・。

今日初めて、少しだけ興味が出てきた。

桜咲刹那と共に走り去った近衛木乃香の背中を見ながら、そんなことを考えた。

 

 

てっきり流されるままに、父親の言いなりになるものだと思っていたが・・・。

というか、近衛木乃香が何を言ったところで、奴を取り巻く環境は何一つ変わらん。

結局は桜咲刹那のような護衛が、奴を守り続けることになるだろうし、目覚めてしまった魔力は戻らん。

 

 

仮契約をしていないとはいえ、近衛木乃香の存在は、政治的にも、その他の理由でも、けして無視できるものではない。

・・・とはいえ、非公式とはいえ、あそこまでまともに魔法や関西のことを拒否されてしまえば、よほどの過激派でもない限り御輿として担ぐだけでも難しそうだがな。

本人にその気が無いのだから、担いでも仕方がない。

 

 

・・・ふん。今まで様子を窺っていた連中が、一気に散ったか。

今頃は、先ほどの一部始終を、自分達の主に報告しているところだろうさ。

派閥の長、関西の長老・・・候補はいくらでもいる。

これから、関西は荒れるな。まぁ、私には関係ないな。

 

 

「・・・ふん、いい気味だな、近衛詠春」

「あはは・・・」

 

 

乾いたような笑みを浮かべる、近衛詠春。

笑っている場合では、ないと思うがな。

 

 

「後継者に逃げられた組織の長・・・いや、この場合、一方的に親離れを宣告された父親、という方が正しいのか?」

「・・・そんなことを言いに、わざわざ?」

「まさか、そこまで暇でもない」

 

 

私もすぐに桜咲刹那と近衛木乃香を連れて、旅館に戻らねばならん。

 

 

それに結局、ここにはナギの手掛かりはないようだしな。

・・・目の前の男が、意図的に隠している可能性も否定できんがな。

まぁ、いい。

 

 

「・・・それで、なんでしょう?」

「いや、何、学園のじじぃ共に言ったことをお前にも伝えておこうと思っただけさ」

 

 

にぃ、と、笑みを浮かべてやる。

すると失礼なことに、近衛詠春は私の笑みを見て顔を引き攣らせた。

・・・何をそんなに怯えているのだ?

何か、後ろ暗いことでも、あるのか?

 

 

「ウチのアリアが、世話になったようだから、な?」

 

 

アリアは、私のモノだ。

アリアを傷つけるモノ、アリアの願いを邪魔するモノ、アリアがしようとすることを阻害するモノ。

全て私の、いや、私「達」の敵だということを、わからせてやろう。

 

 

私のモノを対価もなく、好きにできるなどとは思わないことだ。

・・・アレはそこの所、もう少し教育する必要があるからな。

だが私に聞かれてしまったのが、運の尽きだったな。

近衛詠春、いや・・・。

 

 

「・・・なぁに、すぐ済むさ、小僧」

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「まったく、ネギも妙な所で頑固なんだから・・・」

 

 

妹さんのことが心配なら、お見舞いにでも行けばいいのに。

まぁ、私が昨日の夜に様子を見に行ったら、すんごい怖い顔したエヴァちゃんに「面会謝絶だ」って追い返されちゃったけど・・・。

 

 

「今の僕じゃ駄目なんです、とか、意味わかんないわよ」

 

 

ネギは今、お父さんの別荘の一階で長さんからもらった何かを抱えて本棚の間を行ったり来たりしてた。

・・・何してんだろ?

 

 

「ネギのお父さん、かぁ・・・」

 

 

ネギが憧れてる、なんだかすごい人、くらいにしか、思ってなかったけど・・・。

ふと、側にある、机の上の写真を見る。

 

 

ネギのお父さんと、長さん、あと、お友達って人が何人か映ってる、けど・・・。

なんだろう、何か、そう、何か・・・。

 

 

「・・・足りない・・・?」

 

 

なんだろう、何か足りない気がする。

初めて見る写真だし、破れてるとかでもない、けど。

 

 

何か・・・誰か、いない気がする。

ネギのお父さん達と一緒に、ここに映っているべき、「誰か」。

だ・・・。

 

 

「はぁ~いっ、アッスナ!」

「ひゃあ!?」

 

 

い、いきなり抱きついてくるんじゃないわよ、朝倉!

 

 

「っていうか、いたんだ?」

「ひどっ!? 朝からずっと一緒だったじゃん!?」

「冗談よ・・・あれ、本屋ちゃんは?」

「ん」

 

 

下を指差す朝倉。

見てみると、たくさんの本を抱えて、ネギを手伝ってる本屋ちゃんがいた。

へぇ・・・。

 

 

「ん~・・・なんだか、いい雰囲気じゃない?」

「そーね・・・記事にしたりすんじゃないわよ?」

「わぁかってるって、お姉さん」

「誰がお姉さんよ!?」

 

 

などと言い合いながらも、パシャパシャとネギと本屋ちゃんの様子をカメラで撮っていく朝倉。

まったく・・・。

 

 

石にされたって聞いた時は、結構、心配したんだけど・・・。

無事に戻れてよかったな、とは思う。

まぁ・・・。

 

 

「石のままの方が、平和だったかも・・・」

「さっきからひどくない!?」

「あ、あれ? いや、心配してたのよ?」

「そんなこと言うなら、班別の写真、明日菜抜きで撮ってやる~」

「ちょ、ごめんってば!」

 

 

まぁ、アリア先生が怪我したりとかいろいろあったけど・・・。

皆、結局は無事だったし。

結果オーライってことで、いいわよね?

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「ん~ふ~ふ~」

 

 

膝の上で芋虫のようにゴロゴロしながら、月詠はんはなんというか、興奮しとるみたいな声を出しとった。

身体中、未だにアリアはんにやられたらしい糸がこんがらがっとる。

 

 

「とけないです~、むりにうごくとうちのからだがきれてしまいますわ~」

「すまん、月詠のねーちゃん、俺でも解けんとは思わんかったわ・・・」

「いいですよべつに~、うふ、うふふふふ、アリアは~ん・・・」

 

 

例によって、小太郎が大きなことを言うて解こうとしたけど、解けんかったからな。

ただ小さくなっとる小太郎と、ウネウネしながら嬉しそうにしてる月詠はんは、明らかに話が噛み合ってないみたいやけど・・・。

 

 

「・・・アリアはん、か」

 

 

最初は白い髪の10歳の見習い魔法使いやて「聞いて」、うちは特に警戒してへんかった。

今はおらんけど・・・フェイトはんが気にしてたくらいやった。

 

 

ところが蓋を開けてみれば、アリアはんはうちの企みを全部潰して、しかもスクナの封印も完全に解いてしまいよった。

化物やで、あんなん。

しかも。

 

 

「しかも最後に、あんな毒吐いていきおって・・・!」

 

 

 

 

<回想や!>

 

『それにしても・・・貴女はいったい、誰に騙されたのでしょうね?』

―――どういう意味や。

『騙されたでしょう? 貴方はまるで自分で考え付いたかのように、封印解除の祝詞を紡いでいましたけど・・・失礼ながら、貴方の実力では、この封印の解除ワードを探せるはずがないんですよね』

―――それは。

『文献か何かで見ましたか? それはありえないですね。 この封印は、1600年前の物を土台に、18年前に陰陽術で組まれた混合術式です。陰陽術の知識しかない貴女が、見つけられるはずがない』

―――うちは、20年かけて、見つけたんや。

『不可能です。18年前の分ならともかく、1600年前の封印には、解除の概念がありませんでした』

―――なに?

『解けないのですよ、この封印。私も、解けない。まぁ、だから解除ではなく、破壊してるわけですが・・・』

―――破壊やて?

『おっと失言。まぁ、ちょっと考えてみてくださいよ。こんな強大で巨大な生き物を封印した人間が、再び解こうとか、考えますか? 今はともかく、かつては西洋魔法使いなど存在しないのに』

―――それは。

『兵器として利用するため? まさか。だって、この封印は、対象を長い時間をかけて、消滅させるように組まれています。利用するためなら、力を減じるような封印を作るのは、おかしいでしょう?』

―――けど・・・。

『1600年前の、陰陽術以外の構築式で組まれた封印を、貴女は解けない』

―――けど、実際にうちは。それに、18年前かて。

『そう、解けた・・・不完全でしたがね。だから、不思議で仕方がないんですよ。そこで私は考えました。誰かが、この封印の不完全な解除法を18年前に試し、かつ、貴女に吹き込んだのではないか、と』

―――そ、そんなはずは・・・。

『そもそも、私にすら解き方がわからないこの封印を、不完全ながら解除できるとなると・・・私よりも、はるかに高位の術者です。でも、貴女は違う。なら、誰が? そう考えるのが、自然でしょう?』

―――そんな、そんな、こと・・・。

『第一、なんでしたか・・・貴女が今回のことを思い立った直接の理由は、仇打ちでしたよね? ご両親の』

―――そうや、取引前に教えたやろ。

『ええ、そうですね。貴女は私の研究に協力する。その代わりに命を助ける、そういう契約ですね』

―――まぁな。

『名前は?』

―――なに?

『ご両親の仇の名前は、なんというのですか? ご存知なのでしょう?』

―――それは、東の・・・。

『西洋魔法使いは、東以外にもいますよ? それ全部を全滅させるつもりだったのですか?』

―――う、いや、そんな・・・。

『そもそも、20年前の大戦で殺されたと、感情を込めて力説しておられましたが・・・』

―――なんや。

『不思議な点がひとつ。どこで殺されたんです? どんな風に?』

―――どう、って、そんなん。

『20年前の大戦は、私の記憶するところでは、魔法使いの世界で起こった戦争のはず。陰陽師である貴女のご両親は、どこでどうやって大戦に巻き込まれて、亡くなられたのでしょうね?』

―――なんや、何が言いたいんや、あんたは。

『だから、言ったではありませんか』

『貴女はいったい、誰に騙されたんです?』

『いつ、どこで、誰に、何を、吹き込まれたんですか?』

―――――――――。

『・・・・・・視えます』

『貴女の頭の中に、視たことのない魔法陣が、視えます。・・・・・・貴女』

 

 

 

  ――――――記憶を、弄られていますよ――――――

 

 

 

 

<・・・回想、終わりや>

 

 

 

「記憶が、改竄されとるやと・・・!」

 

 

確かにそういう術があるのは、知っとる。

だけどそんなもん、かけられた覚えがない。

 

 

と、いうか。

そんなアホなことが、あってたまるか・・・!

もしそうなら、うちは、なんのために今まで・・・!

・・・認められるか!

 

 

「んふふふふ・・・」

「・・・なんや」

 

 

うちは今、本山を遠望できる丘におる。

木陰に座って、今後どうするかを考えとるんやけど・・・。

膝の上で芋虫になっとる月詠はんが、嬉しそうな目でうちを見とった。

 

 

「ええどすなぁ~・・・いまの千草はんなら、うち、きりあいたいわ~・・・」

「・・・アホ言いないな」

 

 

冗談やないえ。

縛られとってよかったわ・・・。

 

 

「んで、千草のねーちゃんはどうすんのや?」

「せやなぁ・・・」

 

 

どのみち、西にはおりたぁないな。

 

 

「とりあえず、東に向かお思うてるわ」

 

 

取引のこともあるしな・・・。

アリアはんに要求された霊草やら、なぜか一緒におった金髪の子に要求された薬品やら、探しながら行かんとあかんから、少し遠回りになるけど・・・。

 

 

本物にしろ偽物にしろ、「東に仇がいる」いう情報は東に行けば、はっきりする思うし。

 

 

「東て、ネギのところか!?」

「・・・なんや、随分と気に入ったんやなぁ」

 

 

まぁ、小太郎も同年代の友達おらんし、ちょうどええのかな・・・。

 

 

「うふ、アリアはんのおるところやね~」

「・・・あんたも、ついてくるか?」

 

 

身体をくねらせながら、「いきますぅ~」と答える月詠はん。

なんか、難儀な旅になりそうな面子やな。

 

 

「・・・にしても、あんたら、よくうちのことがわかるなぁ・・・」

「けはいとかで、わかります~」

「俺は、匂いやな!」

「わかる奴には、わかるいうことやな・・・」

 

 

気をつけとかんと。

にしても、アリアはん。

何も、こんな若づくりにせんでもええやんか・・・。

 

 

片手に持った手鏡の中には、10代後半くらいの、金髪の異人がおった。

顔立ちとかはあんま変わってへんから、基本的には若返って金髪にされただけ。

髪染めた思えば、違和感無いけど・・・。

 

 

「金髪に思い入れでもあるんかいな・・・?」

 

 

一番思い浮かびやすい髪の色やて言うとったし。

そういえば、一緒におった(封印解除の最中に居眠りしとったけど)子も、金髪やったし。

・・・まぁ、ええわ。

 

 

「・・・ほな、行こか」

「おう!」

「あるきにくいです~」

 

 

前途は洋々、とはいかんけど。

自分の目で、真実を見極める。

 

 

いつまでも、あんな小娘に、舐められてたまるか。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

なんでしょう、この状況は。

 

 

私は今、ホテルの自室にいます。

というより、自室の中央で、正座させられています。

目の前には、仁王立ちしたさよさんと、その後ろに控える茶々丸さん。

いかにも、「お説教されてます」なポジショニングです・・・!

どうやらエヴァさん、昨夜の一部始終を伝えていたようで・・・。

 

 

「聞いてるんですか!? アリア先生!」

「は、は・・・それはもう」

「私達が今まで、どんな気持ちで待ってたと思うんですか!?」

 

 

さよさんはもう、泣いてるんだか、喜んでるんだか、怒ってるんだか、よくわからない状態になっています。

 

 

「ケケケ・・・オシオキノジカンダナ」

 

 

チャチャゼロさんは、その横で、やたらと凶悪なナイフを研いでいました。

お願いですから、しゃーこしゃーこと、音を立てないでください。

正直、怖いです。物理攻撃は勘弁してください。

 

 

一方、茶々丸さんはというと。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

無表情で、かつ無言で、私を見つめていました。

なんとなく、とても悲しそうな顔をしているようにも、見えます。

・・・何気に、一番キツいです・・・。

死にたくなるほど、悪いことをした気分にさせられます・・・。

 

 

かれこれ、戻ってから30分、この調子です。

ちなみにスクナさんは、部屋の隅で、八つ橋を食べています。

何か、挨拶もそこそこに、「京都なら八つ橋」とか、いつか私が言ったのと同じことを言いだして、がっつき始めました。

 

 

貴方、気を付けないと腹ペコキャラ認定されますよ・・・!?

 

 

そんなことを意味もなく考えていると、さよさんが、私を力強く、びしぃっ、と、指差して。

 

 

「ばちゅげーむ!!」

 

 

・・・噛んだ。

可愛いです。

 

 

「ばつげーむ!!」

「罰ゲームですか」

 

 

言い直したさよさん。でも突っ込みませんよ。

突っ込むと、振り出しに戻りそうですからね

 

 

確か、最近さよさんがハマっている漫画に、そういうシーンがあったような気がします。

某ゲーム王にでも憧れているのでしょうか。

 

 

「アリア先生には反省の色が見えません!」

「・・・見えませんか」

「見えません!」

 

 

無意味とは知りつつ、チャチャゼロさんに救いを求めるような視線を・・・。

 

 

「ササレルノトキザマレルノ、ドッチガスキダ?」

「どっちも嫌です・・・」

 

 

茶々丸さんを見ます。

悲しげな瞳で、見つめられました。

なんですか、その悲しみを背負った瞳。

目を合わせられません・・・。

 

 

「すーちゃん! アリア先生を押さえてください!」

「わかったんだぞ、さーちゃん」

 

 

どういうわけかさよさんとスクナさんは、互いをちゃん付けで呼び合う仲になっています。

まだ、会って30分なんですけど・・・って!

 

 

「ちょ、スクナさん、何を!?」

「ごめんだぞ、恩人。でも、八つ橋が京都なんだ」

「意味がわかりません・・・!」

 

 

スクナさんは私を背後から羽交い絞めにして、ロックしました。

見た目以上に力が強いので、抜けられません。

え、ちょ、これ、何をされるのでしょうか・・・!

 

 

すると、さよさんは、どこからかテレビを持ち出してきました。

さらに、茶々丸さんがそのテレビにコードを差し込み、自身のボディと接続します。

え、なんですか。何かの映像を見せられるのでしょうか。

 

 

「・・・こほん、アリア先生」

「な、なんでしょう」

「これから流す映像は、できれば永久に封印したかったのですが・・・いた仕方ありません」

「え、なんですかこの入り。すごく不安になるのですが」

「ちなみに、麻帆良祭にて商品化、通常版は3800円。限定版は9800円で販売予定です」

「たっか! なんですか、そのぼったくり値段!!」

 

 

え、なんですか?

私の留守中にいったい何が!?

 

 

「・・・この人形に、見覚えがありますね?」

「はぁ・・・それは、私の身代わりとして置いて行った、『コピーロボット』じゃないですか・・・」

 

 

さよさんの手に握られているのは、すでに役目を終え、元の人形の姿に戻った魔法具、『コピーロボット』。

 

 

「それが、何か?」

「・・・(にっこり)・・・」

 

 

・・・・・・・・・なんでしょう、嫌な予感しかしません。

 

 

「・・・あ、しご、仕事に行かなくちゃ――――」

「今は、休憩時間だそうです」

「く・・・あ、綾瀬さん達と、古書市に行かないと――――」

「すでに、先生のお財布のお金を渡して、行ってもらってます」

「いつの間に!?」

 

 

逃げ道が次々と・・・!

ヤバいです。身体が、魂が、かつてないほど「逃げろ」と叫んでいます・・・!!

 

 

「さ、さよさ、ゆるし―――「ダメです♪」―――だ、だめもとで、チャチャゼロさ「アキラメナ」―――す、スクナさん、離し「無理だぞ」―――ち、茶々丸さん!」

 

 

私は、最後の砦、茶々丸さんに救いを求めます。

心優しい茶々丸さんならば、きっと・・・!

 

 

しかし茶々丸さんは、悲しそうな瞳で私を見つめたまま、首を横に振りました。

う、裏切りましたね、私の気持ちを裏切りましたね!?

 

 

そして、無情にも。

テレビに、映像が・・・。

た、助けてシンシア姉様・・・!

 

 

 

 

 

 

 

アリアは、大ピンチかもですっ・・・!

 

 

 

 

<ここからは、音声のみになります>

 

 

「な、なんですかこれ・・・あ、あれは私・・・じゃなくて、コピーですか。なんだ、ちゃんと仕事してるじゃ・・・って、あれ? なんで新田先生の後ばっかりついて・・・ほら、新田先生が困っているじゃない・・・困ってます・・・よね? え? ちょ、何、勝手に新田先生に飲み物奢らせてるんですか! ああ、もう、後で顔を合わせにく・・・い? な、なんでズボンの裾、握って・・・え、ちょ、ま、待って待って待って待ってください! 何、手を繋ごうとしてるんですか!? 新田先生に迷惑じゃ――――握り返した!? 新田先生、握り返しましたよ!?」

「くいあらためますか~?」

「どこの宗教ですか!? いいからこれ止め―――――わあああああぁぁっ!? ちょ、き、休憩中に膝の上にっ・・・膝の上に乗ろうとしちゃだめええええぇぇぇっ!! いやあああああああああっっっ! 違う違う違う違う違う違う違う違う違うんですっ! 誤解! 誤解ですってば新田先生! それ私じゃないです! だからそんな、「やれやれ」みたいな顔で受け入れないでください!! 貴方キャラ違うじゃないですか!? 初日に「淑女のなんたるか」を私に説いたの貴方でしょ!? い、いや、だからちょっと待って! お願いだから私の話を聞いてください!! それ違う、違うんですっ・・・! ごめんなさいっ! もうほんとごめんなさいだから許しっ・・・ひぅっ!? ちょっ・・・だ、だめ、胸に頭擦りつけながら寝ちゃらめえええええええええええっっっっ!!!!」

 





アリア:
アリアです、もう駄目かもしれません・・・。
未だかつて、ここまでのダメージを受けたことが、はたしてあったでしょうか、いや、ありません。
・・・私が反語法を使わざるを得ないとは、ふふ、衰えたものですね・・・。


アリア:
次話は、おそらく京都編最終章になります。
長かった修学旅行も、ようやく終わります。
では、またお会いしましょう・・・。


うう、どんな顔で新田先生に会えばいいのかわからないです・・・。

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