魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第33話「4日目・夜および5日目・帰還」

Side アリア

 

「うちは、魔法と関わり合いたくありません」

 

 

そう木乃香さんに告げられたのは、就寝時間直前の夜のことです。

刹那さんと一緒に相談があると言うことで、私の部屋に連れてきて、第一声が、これです。

・・・関わり合いたくない、と、言ったって・・・。

 

 

「でも木乃香さん、貴女は・・・」

「うちのこととか、魔法のこととか、せっちゃんから聞きました」

 

 

いつものふんわりとした雰囲気ではなく、強い目で木乃香さんは私を見ています。

隣に座る刹那さんも緊張はしているものの、揺らいではいません。

 

 

「一日、考えて・・・決めました。うちは魔法とか、そういうのから、逃げたいと思います」

「・・・逃げる、ですか」

「魔法の方から寄ってきても、逃げられるようになりたいです」

 

 

そこで、ぺこり、と木乃香さんは私に頭を下げてきました。

え・・・。

 

 

「逃げ方とか、隠れ方とかを、うちに、教えてください」

「それは・・・」

 

 

それはもちろん、教えるつもりでした。

私の魔法具をいくつか与えて、使い方を数カ月も教えれば、魔法関係者のほとんどから、ほぼ完璧に隠れることができるはず。

そう、考えていたのですけど・・・。

 

 

困惑して刹那さんを見れば、目を伏せられるばかり。

木乃香さんは、どういうつもりで・・・。

 

 

「近衛木乃香は、個人の意思でもって、ここに来ているということだろうさ」

 

 

・・・エヴァさん。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

さよやチャチャゼロを相手に茶を飲みながら、アリア達の話に口を出す。

というよりも、アリアが混乱しているようだから、そうでもせんと話が進まん。

 

 

「・・・近衛詠春からだ」

 

 

ほれ、と、一枚の紙を投げ渡してやる。

その内容を見たアリアは・・・本気か? とでも言いたげな顔を見せる。

もちろん、私は本気だ。

近衛詠春にも、働いてもらわねばな。

 

 

ま、単純に言えば、近衛木乃香とその周辺のことの面倒を見てやる代わりにいろいろ条件を出してやったというだけのことだ。

それを関西呪術協会の長という立場で、言わせたにすぎん。

 

 

学園に帰ってから、じじぃにも見せるが・・・。

じじぃの泡を食った顔が、今からでも思い浮かぶ。

ククク・・・楽しくなってきたじゃないか。

 

 

「お前はどうも引き受ける前提で、近衛詠春と取引したようだが・・・私に言わせれば、甘いな」

「でもエヴァさん、彼女は」

「ええんや、アリア先生。うちも、今回のお父様はひどい思うえ」

「木乃香さん・・・」

 

 

まぁ、結局のところアリアは、根が優しいからな。

教師という自分の立場も、普段の言動も、奴を縛り付けることになるのだろう。

 

 

「・・・それで? 近衛木乃香、桜咲刹那。ウチの従者に物を頼むんだ。何かしかの代償を払う覚悟はあるんだろうな・・・?」

「エヴァさん!?」

「何を驚いているんだ、アリア?」

 

 

言ったはずだ。今の近衛木乃香は、関西の長の娘としてではなく、個人としてここに来ていると。

ならその代価を払うのは、本人であるべきだ。

 

 

「庇護すべき対象を、一方的に、全力で助ける。ま、そういう考え方もあるだろうな。それはいいさ」

「なら・・・」

「だが、今の奴は違う。奴は、お前の庇護を求めに来た、哀れな生徒ではない。自分の意思でここに来て、協力を求めに来た、一個人だ。そういった者に無償で力を貸させるほど、私は優しくはない」

 

 

近衛木乃香があくまでも、父の言に従ってここにいるのならば・・・私は別に何も言わん。

アリアの仕事の内と、割り切ったかもしれん。

だが近衛木乃香が自分の意思でここに来た以上、こいつはもう、アリアの「庇護すべき生徒」ではなくなった。

 

 

アリアの言を借りるのならば、「自分のことを、自分で決めた」人間だからな。

 

 

「もし、お前が今の近衛木乃香を無償で助けると言うのならば、それは逆に、近衛木乃香を侮辱することになる」

「それは・・・」

「近衛木乃香はもう、多少なりと魔法を知り、立場を知り、自分で決めた。次はお前だ。アリア」

 

 

生徒としての近衛木乃香は、教師としてのお前にとって、庇護するべき対象だったかもしれん。

だが、一個人としての近衛木乃香は、お前が救うべき、どんな理由をも持っていない。

 

 

「一個人として、そして私の従者としてのお前は、近衛木乃香を助けることに、どんな利点がある?」

「・・・・・・・・・」

「これまでのことは、まぁ、良いだろう。だが、これからは別だ」

 

 

赤の他人を無償で助けて良いのは、正義の味方だけだ。

だが、お前はそれを嫌だと言った。

なら、お前が取るべき行動は、それ以外でなければならない。

お前は、もう少し、自分のために何かをするべきだ。

 

 

近衛木乃香は、自分のために、お前の力を借りに来ている。

ならばお前も、自分のために、近衛木乃香に何かを要求しなければならない。

それが、等価交換というものだ。

むしろ無償で助け続ければ、それが当然と相手が勘違いすることだってある。

その時お前は、どうなる?

 

 

「違うか、アリア?」

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

優しい方だ、と、思う。

これまでのことで、アリア先生の優しさは十分にわかった。

感謝も、している。

 

 

けどその優しさは、すごく、危ういもののように見えた。

立場のせいなのかそれとも性格のせいなのかは、私にはわからない。

ただ他人を救うために、平然と命を差し出せると言うのは、やめてほしいと思う。

・・・私も、偉そうなことは言えないが。

 

 

「・・・うちは、何をしたらええん、アリア先生?」

「木乃香さん・・・」

「何をしたら、アリア先生に、物を教えてもらえるん?」

 

 

このちゃん・・・。

このちゃんは、今、すごく無理をしている。

私には、わかる。

 

 

本当はちゃんと魔法を学んで、直接アリア先生に恩返しがしたい。

ここに来るまでの道中で、このちゃんはそう言っていた。

私も、同じ気持ちだった。

 

 

泣きついて、謝って、力をくださいと、叫びたい。

貴女の役に立ちたいと、貴女を守り、支えたいと、訴えたい。

本当は、そう言いたい。

 

 

けどアリア先生は、それを望んでいない。

望んでいないことを押し付けて、困らせることは、もっと嫌だった。

アリア先生はこのちゃんが、もしかしたら私も、裏に関わってほしくないと思っている。

だから魔法を知りながら、普通の人間として生きるという一番難しい道を選んだ。

それが、アリア先生の願いだから。

それが、一番の恩返しになると思ったから。

・・・そして、私も。

 

 

「私も、お願いします。アリア先生」

「刹那さん?」

「人を、このちゃんを、守るためのすべを、教えてください」

 

 

 

 

 

Side  アリア

 

「私はこのちゃんを守れませんでした。肝心なところでは、アリア先生に頼ってばかりでした」

「そんな・・・」

 

 

いや、貴女は十分、頑張っていたと思いますよ・・・?

 

 

「もちろん、エヴァンジェリンさんが言う対価・・・先生が望む何かを、お渡しする覚悟はあります」

「対価、なんて、そんな」

「これが私と、このちゃんの、意思です」

 

 

木乃香さんと同じ、強い瞳・・・。

決意を固めた、綺麗な目です。

もうこれ以上、何を言っても動かない、揺るがない人の目。

 

 

この2人は魔法に関わらないという、決意を示してくれました。

それはすごく、嬉しかった。

初めて、報われた気分になりました。

けど、現実には・・・。

 

 

「・・・アリア」

 

 

エヴァさんが、いつの間にか、すぐ隣に来ていました。

ぽむっ、と、頭に手を置かれます。

 

 

「お前は、何をしに麻帆良に来た?」

「そ、れは・・・」

「生徒を守りに来たのか? 違うだろう? お前にはお前の目的があって、麻帆良に来た。そうだろう?」

「・・・はい」

 

 

私には、助けたい人達がいます。

その人達は今も、助けを待っている。

私を待っているわけではないけれど・・・とにかく、助けを必要としている。

そのために、なりたくもないマギステル・マギの修行と称して、麻帆良に来ました。

 

 

そのための環境が、人が、ここにはあると思ったから、来たんです。

人助けに来たわけじゃ、ない。

 

 

「それで、どうだ? 目的は果たせているか? 目的を果たすために、集中できているか?」

「・・・いえ」

「だろうな。仕事に追われ、生徒に追われ、対処に追われているお前だ。自分の目的に専念できるわけがない・・・いや、あるいは、じじぃなどはそれを狙っているのかも知れんが・・・」

 

 

とにかく、と、エヴァさんは続けました。

 

 

「お前は、いつか言ったな。自分の行動は、自分で決めるべきだと。そしてそれに責任を負うべきだと」

「・・・はい」

「今、お前は近衛木乃香と桜咲刹那に、無償で手を差し伸べたがっているが、あの2人が求めているのは、そういうことではないはずだ。違うか?」

 

 

木乃香さんと、刹那さんを、見る。

静かに、頷かれました。

 

 

「対等・・・とは、とても言えんがな。2人の言っていることは、ガキの戯言に過ぎん。世の中そんなに甘いもんじゃない」

「だから、私は」

「だが、自分で決めた。拙い判断だが、自分で決めたんだ」

 

 

・・・わかっています。

私はそれを、尊重しなければならない。

それが、どれほど難しくても。

 

 

「そしてお前は、自分の目的に専念できていない。それは、お前自身が、お前が決めたことを実行していないということだ」

「・・・っ」

「お前は目的があると言って、私に代価としてその身を差し出した。・・・何かを求めるなら、何かを与える必要があると知っていたはずだ。なら、すべきことがわかるはずだ」

 

 

・・・代価。

何かを求めるときに、叶えてくれる相手に差し出す物。

 

 

木乃香さんは、「魔法から逃げる手段」を、私に求めています。

刹那さんは、「木乃香さんを守る方法」を、私に求めています。

 

 

そして私は、2人に、代価を求める権利が、いえ、義務がある。

2人が、生徒としてではなく、個人として私に、正義の味方ではなく、「悪の魔法使い」アリア・スプリングフィールドに何かを求めているのなら。

対価が、必要です。

 

 

・・・・・・「守るべき生徒」が、また2人、減りましたか。

ただ、今回は・・・。

 

 

「・・・近衛木乃香さん」

「はい」

「・・・貴女に、関係者から身を隠すための、そして身を守るための魔法具と使用法を教えます」

 

 

代価は。

 

 

「・・・私の研究に、協力してもらいます。魔力と血液を、定期的に提供してください」

「・・・わかったえ」

 

 

極東、いえ、一説では旧世界最高とさえ言われる、魔力。

それも、退魔の家系。

その血液には魔を退けるための情報が、凝縮されているはず。

どちらも、私の役に立つ。

 

 

「・・・桜咲刹那さん」

「はい、アリア・・・さん」

 

 

さん、ですか。

「先生」としてでは、なく。私、個人に。

 

 

「貴女に、木乃香さんを、人間一人を守るための魔法具と使用法を教えます」

 

 

対価は。

 

 

「私の研究に、協力を。神鳴流の退魔の秘密と、やはり血液を、提供してもらいます」

「・・・未熟者ですが」

 

 

魔に対して、絶対的な強さを持つ神鳴流の、秘密。

そして半分が魔に属する身でありながら、退魔の技が使える刹那さんの血液にも価値がある。

どちらも、必要な情報を含んでいる可能性が、高い。

 

 

「「よろしく、お願いします」」

 

 

再び2人が、頭を下げてきました。

少し、いえ、かなり複雑な気分ですが・・・。

 

 

子供が自分の手を離れると言うのは、こういう気分でしょうか・・・。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「・・・これで、関西で僕に関係していた人間は、全部、かな」

 

 

月が中天に差し掛かる頃、僕はまだ関西呪術協会の本山の中にいた。

目の前には、僕の『永久石化』で石になった関西の重鎮の一人。

 

 

僕が関西の中に入り込むのに、協力してくれていたのだけど・・・。

最近、独自に動こうとしていたから、悪いけど消えてもらうことにした。

 

 

まぁ、いつまでもよそ者の僕に協力してくれるとは思っていなかったけど。

あとは適当な仲間を呼んで、彼になりすましてもらうだけだ。

これで、関西呪術協会への影響力を確保できる。

 

 

20年前の大戦でも、よく使った手法。

まぁ、一種の入れ替わりと言う奴だね。

 

 

「イスタンブールの方も上手く掌握できたし、次は・・・東」

 

 

まったく、サウザンドマスターのせいで組織力が低下してから時間のかかる手しか使えないのが辛い。

・・・まぁ、それも、もう少しの辛抱だけど。

全ては、完全なる世界のために。

 

 

「・・・これは」

 

 

彼の所持する書類の中に、ひとつ、気になる物があった。

タイトルは、「スクナ消失と西洋魔法使いの関連性」。

 

 

「アリアか・・・」

 

 

まさか、オリジナルのスクナを持っていかれるとは思わなかった。

つくづく、僕の予想を上回ってくれる。

 

 

「・・・それでこそ、だ」

 

 

ただ今のところ、関西の方から余計なちょっかいは出してもらいたくないな。

まだ、東でやらなければいけないこともある。

・・・月詠さんがいてくれれば、関西での事後処理は任せてもよかったんだけど。

 

 

千草さん共々、姿を消されるとは予想外だった。

まぁ、それは別に構わない。

問題は、アリアをどうするかだ。

 

 

正直、あの力は脅威だ。

とはいえ、簡単に抹殺できるとも思えない。

アリアだけでなく、その周囲の戦力も異常だ。

と、なれば・・・。

 

 

「・・・こちらに、引き込めばいい」

 

 

仲間にしてしまえば、脅威にはならない。

そのためには。

 

 

「・・・東へ」

 

 

西洋魔法使いの本拠地。

麻帆良学園へ、向かう必要が、あるね。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「はーい、皆さん、修学旅行は楽しかったですかー?」

「「「「いえ――――――いっ!!!!」」」」

 

 

しずな先生の言葉に、やたらとテンションの高い3-Aのみなさん。

・・・むしろ、これから修学旅行に行くのかと疑いたくなりますね。

いったい、どこにこれだけの元気があるのか・・・。

 

 

「だから、幼稚園かっての・・・」

 

 

そうは言いますが長谷川さん。

貴女が2日目のイベントに参加していたの、私、知ってますからね?

あとノートパソコンをしまってください。

 

 

「アホばっかです」

「だ、ダメだよゆえ~、そんなこと言っちゃ・・・」

「昨夜のことを教えてくれないのどかなんて知らないです」

「うう、だ、だから早くに寝ちゃったから・・・」

「あはは、まーいーじゃん、楽しかったんだし」

 

 

綾瀬さん達も、それなりに楽しめている様子ですね。

・・・一部、警戒すべき点があるようですが。

あと綾瀬さん、早乙女さん。貴女達が両手いっぱいに抱えている本は、私の財産で賄われたことをお忘れなく。

 

 

「・・・アリア先生」

 

 

ギターケースを肩にかけた真名さんが、こちらへやってきました。

相変わらず、クールな佇まいですね。

私もあと10年もすれば、こんな雰囲気を出せるに違いないです・・・。

 

 

「・・・何か、同盟協約に反することを考えていないかい?」

「ま、まさか、真名さんは中学3年生ですよ」

「まぁ、その件は次の会合で追求させてもらおう」

 

 

おおぅ、なぜかピンチです。

私は、真名さん、千鶴さんと「大人っぽい同盟」を組んでいます。

定期的に会合・・・まぁ、お茶会を開いているのですが。

これは、制裁対象になるかも・・・。

 

 

「それはそれとして、刹那のアレはアリア先生かい?」

 

 

アレ、と言われて示された方を見てみれば、刹那さんが木乃香さんと楽しそうに何かを話していました。

それは修学旅行前には、見られなかった光景。

一番大きな、変化と言えるかもしれません。

・・・願わくば、彼女達の判断が奏功しますように。

 

 

「・・・私は、何もしていませんよ」

「そうかい・・・それじゃあ」

 

 

次の稼ぎ時には呼んでくれよ、と、真名さんは去って行きました。

・・・呼べと言われても、高そうなんですよね。

 

 

なお、すでにスクナさんはここにはいません。

魔法具『双(ツイン)』で作った私の分身と共に、『どこでも扉』ですでに麻帆良へ。

今頃は、別荘の中でしょう。

・・・別荘の中では好きにしていろとのエヴァさんの言葉ですが、なんだか、すごく不安なんですよね。

『コピーロボット』の一件以来、分身に対する信頼感にヒビが入っていますからね・・・。

 

 

「あ、あの、アリア」

 

 

不意に、何か細長い物体を抱えた兄様が声をかけてきました。

・・・ウェールズにいた頃に比べて、声をかけられる回数が増えている気がします。

というか、妹に声をかける時くらいしゃきっとしていただきたいのですが。

 

 

「なんでしょうか、ネギ兄様」

「あの、さ・・・」

 

 

もじもじと、何事かを言い淀んでいる様子。

・・・なんだっていうのでしょう。

 

 

「・・・それは?」

「え・・・あ、これは、長さんからもらった、お父さんの手掛かり」

 

 

はぁ、手掛かりですか・・・。

どうせ、碌でもないものなのでしょうね。

というか原作でもあったような気がしますが、はて、なんでしたか・・・?

まぁ、忘れるということは大したことではないのでしょう。

 

 

「・・・うん?」

 

 

兄様の後方に、明日菜さんがいました。

え・・・なんでしょう。明日菜さんは、「頑張れ!」的なジェスチャーをしてますけど。

というか、なぜか周囲が静まり返っています。

 

 

・・・早乙女さん、「ラブ臭」ってなんですか。

そんなものあるわけないでしょう。

というか、みなさん、「禁断の関係!?」とか言うのやめてください。

減点しますよ?

・・・エヴァさん、お願いですから騒がないでください。

茶々丸さんは録画を止めて。

 

 

「・・・あの、アリア!」

「はぁ・・・」

「僕、頑張るから!」

「・・・・・・・・・はぁ」

 

 

何を?

まぁ、頑張ること自体は、悪いことではありませんしね。

 

 

「ネギ先生とアリア先生も、締めの一言をお願いしまーす!!」

「あ、はい! ・・・兄様も」

「う、うん!」

 

 

直後、荷物に足を取られて転ぶ兄様。

 

 

・・・・・・まぁ、兄様ですから。

 

 

 

 

帰りの新幹線は、疲れ切ったみなさんが眠りこけているおかげで、とても静かでした。

毎日がこれなら、助かるのですけどね。

 

 

「まったく、毎日こうなら良いものを・・・」

 

 

教員の車両で、同じようなことを思っていたのか、新田先生がぼやいていました。

あはは・・・。

 

 

「アリア先生も、お疲れなら休んでいても構いませんぞ」

「・・・いえ、昨晩はご迷惑をおかけしてしまったので」

「そうですかな? ・・・あまり無理はしないように」

「ありがとうございます」

 

 

・・・新田先生、無意味に優しいですね。

ありがたいのですが、なんでしょう。

こう、とても、くすぐったい気分です。

原因が、原因だけに、なおさら。

 

 

「・・・そういえば、ネギ先生の姿が見えませんな?」

「ああ、ネギ先生なら、3-Aの車両で生徒の皆とお休みに」

「まったく・・・困ったものですな」

 

 

しずな先生の報告に、急激に不機嫌になる新田先生。なんですかこの落差。

・・・ぐっと来ちゃったじゃないですか。

 

 

「アリア君は、紅茶で良かったかい?」

「あ、はい・・・ありがとうございます」

 

 

車内販売のお姉さんから、瀬流彦先生が紅茶を受け取り、渡してくれました。

そして耳元で、そっと一言。

 

 

「昨日は、あまり力になれなくて、すまなかったね」

「いえ・・・瀬流彦先生のおかげで、後ろを気にせずに済みましたから」

 

 

事実、瀬流彦先生のおかげで、生徒の脱走と、私が仕掛けた罠に生徒がかかるということもなかった。

罠にかかった敵を捕らえてくれたのも、瀬流彦先生です。

内と外、どちらかを気にし過ぎても、できなかったでしょう。

攻守のバランスのとれた、瀬流彦先生だからこそ、できたこと。

 

 

後方を気にせずに戦えるというのは、前線に立つ者にとって、心強いものです。

・・・この点は、学園長の人材の選択が、正しかったということになるのでしょうか。

 

 

「む、何の話ですかな?」

「え、いやぁ、あははは・・・」

「あ、そういえば、アリア先生・・・(この間の女性用品は、いかがでしたか?)」

 

 

こそこそと、小さな声で話してくれるしずな先生に、私も小声で返します。

 

 

「あ、はい・・・(その、以前いただいた物の方が、肌に合うみたいで・・・すみません)」

「あら、そうなんですか・・・じゃ、またお休みの日にでも買いにいきましょうね」

「はい、ぜひに」

「あれ、アリア君としずな先生は次の休み、どこかに行くんですか?」

「あ、ええと、それは・・・」

「あら、ダメですよ瀬流彦先生、女性の話に勝手に入っちゃ」

「え、そ、そうなんですか。すみません・・・」

「そうだぞ瀬流彦君、男が女同士の会話に入ってはいかん。痛い目を見るぞ」

「なんだか、実感がこもってますね新田先生・・・」

 

 

そんな私達を乗せて、列車は走り、一路麻帆良へ。

本当に、いろいろありました・・・。

 

 

帰ったら、別荘で少し休みたいです・・・。

学園に戻ったら、事務処理がいくつかあるので・・・15時頃には、教師陣も解散できるはず。

それから、18時に次の予定がありますから・・・別荘内でなら、2日ほど時間が取れるはずです。

こういう時、一日が一時間という別荘の存在はありがたいですね。

 

 

 

 

 

 

アリアは、少し、疲れました。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
長い京都編が、とりあえず、終わりました。
本当に、長かったです・・・。
もう、5日間が一ヶ月くらいに感じました。



アリア:
次話からは、少しガス抜きをした後、京都編の事後処理と、弟子入り編、悪魔編へと、続いていく予定です。
ただ、話の展開によっては、変化していくかもしれないので、絶対とは言えませんね。
やれやれ、いったいどんな面倒事が起こるのか・・・。

では、またお会いしましょう。

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