Side 明日菜
「変な夢・・・」
修学旅行の後の日曜日、いつもの配達の後、二度寝した。
目が覚めたら、もうお昼だった。
寝すぎちゃったわね・・・。
「ん~・・・?」
会った覚えの無い人がたくさん出てくる夢だったわね・・・。
なんか高畑先生に似た感じの渋いオジサマと、あれは。
あれは・・・。
「あ、おはようございます明日菜さん」
「明日菜の姐さん、おっす!」
「あ、うん・・・って、何やってんのあんたら」
朝っぱらから・・・あ、もうお昼か。
とにかく、ネギは大きな紙を何枚も広げてカリカリと何かを書き込んでた。
何かと思って、ネギの部屋になってるロフトに飛び移った。
それにしても流石に朝食抜いたから、お腹すいたわね。
机の上にあったチョコをひとつもらう、一個ぐらい良いわよね?
「長さんからもらった手掛かりを調べていたんです」
「ああ、なんかもらってたわね」
ネギが得意そうに見せてくれたそれには、麻帆良の地下の地図・・・って、これすごいじゃない!
「父さんがあそこで最後に研究していた物みたいで・・・」
「すご・・・い、けど、何この字。読めないんだけど・・・」
「それは僕もちょっと・・・今、解読してるところなんです!」
ふ~ん。
正直、そういう難しいことはわかんないけど。
まぁ、本人が楽しそうだし、いっか。
「今回の事で、いろいろとやらなきゃいけないことができて、大変ですけど・・・」
「そっか」
「見ててください明日菜さん。僕、頑張りますから!」
「あ・・・」
・・・うん?
今、何か胸がドキッて・・・気のせいよね?
ピンポーン♪
そうよね、気のせいよね!
ネギ相手にドキドキするとか、あり得ない・・・って、今のピンポン何よ!
「お邪魔いたしますネギ先生♡ せっかくの日曜日、お茶など御一緒いたしませんか?」
「やほ~。あ、明日菜まだパジャマ?」
「ネギく~ん、遊ばな~い?」
「今日部活お休みでさ~」
「ネギ君カラオケ行こ~♪」
「ネギ先生―っ!」「忍者ごっこで遊ぶです~♡」
「なんなのよあんたらは~っ!」
ええと、いいんちょに朝倉に、まきちゃん達運動部メンバーに、チアの三人組。鳴滝姉妹・・・。
どう考えても、来すぎでしょ!?
ここ2人部屋よ! ネギ入れたら3人だけど!
「人の部屋で騒ぐんじゃないわよ!」
「旅行明けの休みだってのにね~」
「その通り・・・って朝倉! 人の部屋勝手に撮るんじゃないわよ!」
「あはは・・・およ? 近衛は?」
あれ、そういえば・・・買い出しにでも言ったのかな?
ピンポーン♪
あ、やっぱり・・・じゃなくて!
まだ来るの? もう部屋がパンクするわよ!?
「誰よ!・・・って」
「・・・・・・随分と賑やかですね」
「ひゃ~、すごい人やな~」
そこにいたのは、アリア先生と木乃香だった。
やばっ、私ってばアリア先生に「誰よ!」とか言っちゃった・・・。
それにしても、何しに来たんだろ。
Side 真名
そわそわ、うろうろ、がさがさ。
今の刹那の様子を語るなら、そういうことになるだろう。
さっきから座ったかと思えば立ち上がり、荷物をまとめたかと思えばそれを確認する、という繰り返しだ。
刹那のことは仕事でもたまに組むし、こちらのことに干渉してこないし、同居人としてはやりやすい方だと思っていたんだが・・・。
今日に限っては、そうじゃないらしい。
「・・・刹那」
「な、なんだ!? 私は極めて冷静だぞ!?」
「・・・・・・・・・まぁ、別にそれでもいいが」
経験上、こういうのは否定しても意味が無い。
「もう少し、落ち着いてくれないか。さすがに気になってくる」
「そ、そうか・・・すまない」
「まぁ、わかってくれればいいんだが・・・」
ちらりと、これまで部屋を共有してきた同居人の後ろの段ボールの山を見る。
山と言っても、刹那はそれほど私物を持ち込む奴ではなかったから、そこまで多くは無いが。
「それにしても、随分と急だな。修学旅行の翌日に引っ越しか」
「ああ・・・」
昨夜いきなり荷物をまとめだしたから、何事かと聞いたら、返ってきた答えは「引っ越し」。
一瞬聞き間違えたかとも思ったが、あそこまで荷物をまとめられてしまうと本当だと思うしかない。
「・・・寂しくなるな」
「お前でも、そんなことを思うんだな」
「ふ、意外か?」
「いや・・・」
まぁ、知らない仲でもないし、私も人間だ。
少しくらいは、そういう感傷に浸ることもある。
「まぁ、転校するわけじゃないんだし、夜の警備でも・・・」
「あ、その、すまん。私はもう夜の警備には出れないかもしれない」
「・・・そうなのか?」
それは、困ったな。
今さら、刹那以外の人間と組めと言われてもな。
まぁ、報酬さえもらえれば文句は言わないが。
「詳しいことは言えないんだが・・・」
「いや、言わなくていい。事情は人それぞれさ」
「・・・すまない」
「いいさ」
というか、謝られるようなことじゃない。
クライアントの都合で予定が変わることなんて、この業界じゃよくあることだ。
「楽しかったよ、刹那。お前と組めて」
「・・・・・・ああ、私も。お前と組めて良かった」
別に、そんなに驚かなくても良いだろ?
こういう日も、ある。
「それで、引っ越し先はどこなんだ?」
「ああ、それは・・・・・・」
刹那から聞いた引っ越し先に私は軽く驚いて、すぐに可笑しくなった。
なんだ、様子がおかしいと思ったらそういうことか。
良かったじゃないか、刹那。
Side 夕映
修学旅行の時から、のどかの様子がおかしいです。
なんというか、私に隠し事をしているような気がするです。
今まで、そんなことはなかったですのに・・・。
「どしたの夕映? まだ悩んでんの?」
「ハルナ・・・」
「気になるなら、本人に聞けばいいじゃない」
「教えてくれないのです・・・」
ネギ先生関係だとは思うのですが、何か悩んでるのはわかるです。
のどかは大事な親友です。
力になりたいのですが、話してくれないことには。
今日は図書館探検部の活動日です。
本当なら、地下に潜りに行くですが、今日は件のネギ先生からお呼びがかかっています。
のどかのためにも、ここで待つです。
本でも読むですか・・・「陰陽道と西洋魔術」。
「こんにちはー!」
棚から本を出した所で、ネギ先生が来たです。明日菜さんも一緒ですね。
のどかはまだ、飲み物を買いに行ったままですね。
「やっほーネギ先生♪ あと明日菜も」
「私はおまけか!」
「保護者でしょ?」
ハルナは明日菜さんとじゃれ始めたです。仲いいですね・・・。
えっと、それでネギ先生が見せたいものとは・・・?
「あ、これなんですけど・・・」
Side ハルナ
うっひゃー、ネギ君の持ってきた地図、すごいわ。
大学部の人でもこんなの持ってないよ。
こんなの持ってるネギ君のお父さんって何者? ここの卒業生?
うふふ、それにしても・・・。
「「こ、こんにちわっ(ゴチンッ!)」」
ネギ君とのどかが、挨拶して頭をぶつけてる。
くっは~、今どきそんなベタなのラブコメでもないよ?
修学旅行の後、改めて顔を合わせて、お互いに意識してるみたいね。
二人とも初々しい~♡
これはのどかにも脈があるかも?
――きゅぴ~ん――
「ぬむんっ!? 匂う、匂うよ淡く甘酸っぱい『ラブ臭』がっ!!」
「ラブ臭!? なんですかそれは!?」
「そ、そんなもんしないわよ・・・」
むむっ・・・明日菜のあたりが妖しい!
・・・おろ?
「どしたの明日菜、なんか元気ない感じ?」
「そういえば、そうかもです」
「あ~・・・ちょっとね」
ふ~ん?
ネギ君と何かあったってわけじゃなさそうだけど。
夕映とのどかも微妙な感じだし、修学旅行のあたりから、なんかきな臭いね。
なんも起こらなきゃいいけど。
Side アリア
「それにしても、みんな驚いとったな~」
「・・・そうですね」
まぁ、ルームメイトがいきなり引っ越すとなれば驚きもするでしょう。
明日菜さんなどは、かなり残念がっていましたし。
木乃香さんも、多少は寂しそうですが・・・。
なぜかネギ兄様の部屋に大集合していた生徒の皆さんも手伝いを申し出てくれましたが、事情が事情だけにお願いしにくいですし、何より旅行明けの休日です。
お手伝いは、またの機会にでもお願いしましょう。
「・・・みんな、良い人達です」
「なんか言うた~、先生?」
「あ、いえ。なんでもありません」
・・・今後は、少しは一般の生徒との交流も考えないといけませんしね。
まだ少し先の話ですが、進路指導とかは信頼関係が大事ですから。
ほとんどは高等部にエスカレーターでしょうが、それでも準備は必要です。
四葉さんとか、葉加瀬さん、千鶴さんなどは、少し特殊ですし。
あ、いえ、もしかしたら長瀬さんや真名さんなども特殊な方向に・・・?
というか、3-Aの生徒の大半は進路とか考えてないんじゃ・・・。
と、とにかく。
生徒が自分で決めた進路に上手く進めるよう、できる限りの選択肢を用意する。
それが、先生の仕事です(新田先生談)。
木乃香さんのこの引っ越しも、ある意味ではその一環ですね。
「荷物はこれで全部ですか?」
「あ、ちょっと待ってな。ネギ君のとこにうちの本とか置きっぱなしに・・・」
荷物の入った段ボールを廊下に出しながら、汗を拭います。
案外、多いですね・・・。
というか今気付いたんですけど、魔法関連のアンティークとか、堂々と壁にかけないでください兄様。
意外と収集癖があるんですよね。昔から。
「あ、アリア先生、チョコ食べる~?」
「え・・・あ、はい、いただきます」
ロフトから降りてきた木乃香さんの手には、どこから持ってきたのか、お皿いっぱいのチョコレート。
それなりに疲れていますし、何より甘い物は大歓迎です。
では、ひとつ・・・。
「・・・ん?」
なんでしょう、このチョコレート。
・・・かすかな、魔力・・・。
これは・・・・・・っ!
「木乃香さん! これ食べ―――」
「うん?(もぐもぐ)」
「―――ましたか! なるほど!」
木乃香さんが今まさに食しているこのチョコレートは、惚れ薬入りです。
しかも性別に関係なく、食べた直後に最初に見た人間を好きになるという代物。
明らかに非正規品。なんでこんなものが・・・いえ、それよりも。
・・・はい、ここで問題です。
今、この部屋にいるのは?(私と木乃香さんだけです)。
木乃香さんは今?(私の目の前で惚れ薬入りチョコを食べています)。
つまり?(・・・・・・・・・)。
さ、させませんよおぉぉぉっ!
「『複写眼(アルファ・スティグマ)』!」
忘れている方もいるでしょうが、魔法学校での私の専攻は呪いの解呪。
魔法学校でロバートが実妹に年齢詐称薬を仕込んだ時も、ミッチェルが肉体強化の魔法薬を落としてしまった時も、私は切り抜けて来ました。この程度がなんですか!
とにかく!
チョコの解析に1秒、理解に1秒、無効化術式の構築に2秒、術式を乗せた魔法具の現出に3秒、発動に1秒、そして無効化に2秒、合わせて10秒!
10秒あればっ・・・!
「なぁ、アリア先生・・・」
「ち、ちょっと待ってください。具体的にはあと7秒」
「アリア先生って、可愛いな~♡」
・・・え。
Side 茶々丸
「・・・・・・!」
センサーには反応しませんでしたが、今、何かを感じました。
なんでしょうか、アリア先生の身に何かが起こったような気がします。
「茶々丸さん、どうかしました?」
「・・・いえ、問題ありません」
今はとりあえず、ネギ先生達へお出しするお茶の準備を優先しなければなりません。
コーヒーで良いでしょうか?
「さーちゃん、スクナはお腹がすいたんだぞ!」
「もう、また? キャンディしかないけどいい?」
「おお、だからさーちゃん好きだぞ!」
「そんなこと言ったって、一本だけしかあげないよ?」
頭に姉さんを乗せたスクナさんに、さよさんがキャンディを与えています。
あれはたしか・・・アリア先生がスクナさん用にと渡しておいた、魔法具『ロリポップグリーンハーブ』。
体力回復効果があるキャンディなのですが、スクナさんには効果があるのでしょうか?
一応、映像に残しておきましょう。
「なんだか、舌がす~っとするぞ・・・」
「ハーブだからじゃない?」
どうやら、スクナさんはハーブが苦手なようですね。
スクナさんには、日本茶などの方が合うのかもしれません。
「ケケケ・・・コーヒーダスノカヨ?」
「いけなかったでしょうか?」
「・・・マ、イイカ」
「はい、良いです」
それでは、お持ちしましょう。
Side エヴァンジェリン
アリアは何故、このぼーやをいつまでも兄と呼んでいるのだろうな。
目の前で無駄にキラキラした目で私を見るぼーやを見ながら、そんなことを思う。
「弟子・・・だと?」
「はい!」
少なくとも、アリアからこのぼーやの良い所を聞いたことはない。
愚痴ならいくらでも出てくるというのに。
だがそれでも、アリアはぼーやを見捨てない。何故か?
「・・・アホか貴様」
「え・・・」
「ちょっ、そんな言い方ないでしょ!」
結局は、兄だから、なのだろうな。
あれは口では兄を嫌っているが、実際の所はどうなのだろうな。
それほど嫌いなら、さっさと離れればいいのだ。
「ぴーぴー喚くな神楽坂明日菜。一応、ぼーやと私はまだ敵なんだぞ?」
「え、でも京都では助けてくれたじゃない」
「別にぼーやを助けに行ったわけじゃない」
教師の責務とか何とか言い訳していたが、結局は家族を見捨てられないのだろう。
だから、今でもスプリングフィールドと名乗っている。
本当に煩わしいなら、名を捨てれば良いのに。
そしてアリアがそれを理解していないはずがない。
「戦い方などタカミチにでも習え。私は弟子など取らん」
「タカミチは海外に出張したりでほとんど学園にいないし・・・」
「とにかく知らん。帰れ」
「でも京都での戦いを見て、魔法使いとしての戦い方を学ぶならエヴァンジェリンさんしかいないと!」
私が今、かろうじてぼーやの相手をしてやっているのは、あくまでもアリアの兄だからだ。
それ以外の理由では、ぼーやには会わん。
だいたい、近衛木乃香や桜咲刹那のこともある。
ぼーやの私への弟子入りなど、すでに状況が許さん。
何より、私にその気がない。
「私の強さに感動するのはいいがな、私は忙しいんだ。ぼーやに構ってる時間などない」
「そんな・・・」
「ちょっと! こんなに頼んでるのにひどいんじゃない!?」
「頼んだだけで物事が通れば世の中苦労せんわ!」
第一、私だって暇じゃないんだ。
アリアの研究を手伝ってやらなきゃならんし。
茶々丸が最近私に対してだけ反抗期だし。
チャチャゼロは相変わらず刃物を振り回すし。
さよは未だに結界魔法以外は上手くできんから練習も見てやらなきゃならんし。
バカ鬼は無意味に畑を拡大しようとするから注意しなきゃならんし。
近衛木乃香と桜咲刹那をどう苛めるかも考えなければならんし・・・。
・・・む、意外と本当に忙しいな私。
「でも、ネギはまだ子供なんだし!」
「子供に頼まれればなんでもしなきゃいかんのか? 実の子供ならいざ知らず、ぼーやにそこまでしてやる義理はない」
「ちょっとくらいいじゃない!」
「話を聞いとるのかお前・・・というか、随分ぼーやの肩を持つな神楽坂明日菜。惚れたか?」
「そ、そそそ、そんなわけないでしょ!?」
それにだ。
もしここでぼーやを弟子になどしてみろ。
確実にアリアの機嫌を損ねる。そうでなくとも傷つくのは必至。
そうなると、最近アリアの肩しか持たん茶々丸が何をするかわからん。
少し前までは私に忠実な従者だったのに、どうしてこうなった・・・。
・・・いや待て。なんで私が従者の顔色を窺わねばならんのだ?
「けどよーエヴァンジェリンの姐さん。アリアの姐さんには随分目ぇかけてるじゃねぇか」
「黙れ小動物。その舌でアリアを語るな・・・煮て喰うぞ」
小動物を睨んで黙らせる。いっそ消してやろうか?
気のせいでなければ、この小動物を始末すればアリアの好感度が上がる気がする。
「え、あ~、そういえばよく一緒にいるわね・・・それって贔屓じゃないの?」
「それにアリアの魔法具って、もしかしてエヴァンジェリンさんが・・・」
「そうなの?」
本当に人の話を聞かんガキ共だな・・・。
というか、私はぼーやの目の前でアリアの魔法具に驚いて見せたこともあったと思うが。
まさかとは思うが、こいつ魔法具だけ見てアリアは見えてないとか言い出さんだろうな?
まぁ、あれがアリアの自作だとわざわざ明かす必要はないな。
面倒なことになるのは目に見えてる。
「とにかく、ガキの遊びに付き合う趣味はない、帰れ」
「でも、エヴァンジェリンさん!」
「アリア先生とは一緒にいるのに、なんでネギはダメなのよ!」
「やかましい! しつこいぞ貴様ら!」
・・・いい加減にしろよ小僧ども。
なぜアリアが良くてぼーやがダメかなど、理由を挙げるだけで一日が終わるわ!
私は部屋の扉の方へ行き、どがんっ、と開けると。
「さぁ、帰れ! 私は忙しいんだ!」
「・・・マスター、お茶をお持ちしました」
「茶など出さんで良い!」
む・・・ちょうど茶々丸が戻ってきたか。
私は茶々丸が持っていた盆を取り上げると(・・・なぜコーヒー?)。
「茶々丸、ぼーや達をつまみ出せ。なんなら力尽くでも構わん」
「イエス、マスター」
まったく・・・無駄な時間を過ごした。
これなら、近衛木乃香の引っ越しを手伝った方がまだいくらか有意義だったかもしれんな。
確か、桜咲刹那と同室にするんだったか?
「エヴァンジェリンさん!」
「同じことを何度も言わせるなよ小僧」
貴様がアリアの兄でなければ。
アリアが貴様に何かを求めていなければ。
貴様など、私にとって何の価値もない。
貴様はもう少し、兄と呼ばれることの意味を考えるが良い。
私は、私達は「家族」にはなれても、「兄」にはなれんのだから。
・・・そう考えると、余計に腹立たしくなってくる。
ナギの情報も持っていないようだしな。
むしろ、それについてもアリアの方が何倍も役に立ってくれそうな気がする。
アリアが自分で父親を探すとも思えんがな。
・・・とにかく。
私がぼーやに言ってやれることは、一つだけだ。
「帰れ・・・そして、二度と来るな!!」
Side 刹那
思ったよりも早く、荷運びが終わった。
まさか、真名が手伝ってくれるとは思わなかった。
今度お礼に、餡蜜でも奢ろうと思う。
「けど、夜の警備をやめるとなると、報酬がなくなるな・・・」
何か、新しいアルバイトとかを探そうか。
しかし、私にできる仕事なんて・・・それにこのちゃんの傍にいないと。
・・・まぁ、一人で考えてもしょうがない、か。
「・・・なんだ?」
予定よりも遅いので、このちゃんの部屋にまで来てみると、なんだか部屋の中が騒がしい。
いくつか段ボールも廊下に出ているし、まだ途中のようだ。
ノックをしても、反応がない・・・というか、バタバタという音が聞こえる。
「このちゃん? アリア先生? 入ります・・・」
すると、そこには。
「・・・よ?」
アリア先生に抱きついている、このちゃんがいた。
・・・・・・・・・え?
「ふ、二人とも・・・?」
「ああっ、せ、刹那さん! ちょっとこれ、助けてください~っ」
「ああ~ん。アリア先生好き好き、好きや~♡」
このちゃんはアリア先生を後ろから抱きしめて、頬ずりしている。
羨ま、じゃなくて、ええと、こういう時は・・・。
「し、失礼しました・・・?」
「え、なんでですか! 私かなり助けを求めてるでしょ!?」
「いえ、それがこのちゃんの望みなら、と・・・」
「私の意思は!?」
「あ、せっちゃんや~」
このちゃんが私に気付いたのか、ほにゃ、と微笑みかけてくれた。
アリア先生を抱きしめたまま、私を手招きして。
「せっちゃんも・・・やる?」
「ひぅっ!?」
「・・・・・・いいん、ですか?」
「受け入れた!? それもかなりあっさりと!」
「もちろんやよ~、せっちゃんだけやえ?」
「えと・・・」
どこか艶やかに私を手招くこのちゃんに、何かを諦めたようなアリア先生。
このちゃんだけでもアレなのに、アリア先生まで・・・。
なんとなく、生唾を飲み込んでみる。
「では・・・失礼します」
「はぁ、もう。好きにしてください・・・」
Side アリア
左右から木乃香さんと刹那さんに抱きしめられながら、溜息をつきます。
なんだか、最近はこういう役回りばかりですね・・・。
「す、すみません・・・」
「良いですよ別に・・・」
「まぁまぁ、惚れ薬のせいやって」
なんで知って・・・ああ、さっき散々騒ぎましたからね。
その時に口走ったような気がします。
というか、自覚してる時点でアレですがね。
私がこの程度の解呪にてこずるわけもないので・・・。
とはいえ。
「ま、そういうわけですので・・・言いたいことがあるなら聞きますよ。木乃香さん」
「え・・・」
「・・・ええの?」
「いいですよ・・・今なら何を言っても、惚れ薬のせいです」
そういうことに、しておきます。
今しか言えないことというのも、あるでしょう。
すると、木乃香さんは私の頭に顔を埋めて、囁くような声で。
「もう・・・ネギ君や明日菜と会うたらあかんの?」
そう、言いました。
刹那さんが、息を飲むのがわかりました。
口数が少ないと思えば、そんなことを考えていたのですか。
木乃香さんは、優しい人ですからね・・・。
「・・・別に、金輪際会うなとは言いません、が・・・」
授業とかで顔合わせますしね。
それに表と裏の区別のつく人なら、別に好きに付き合ってくれて構いませんよ。
もっとも、そうできる方は少ないですが。
そしてその中に、ネギ兄様や明日菜さんはおそらく入らない。
「兄様達だけでなく、卒業したら・・・つまり身の隠し方を修得した後は、私やエヴァさん達にも近付かない方がいいです」
「アリア先生、そんな・・・」
「・・・どうしても?」
「それが、私とお二人の契約ですし。何より・・・」
何より魔法や裏のことから逃げると決めたなら、私と付き合ってはいけません。
私自身が区別をつけても、周囲の環境が私を表の世界で生かしてはくれないでしょう。
普通の人間として生きるのであれば、二人にとって私は邪魔です。
それに卒業した後は、教師と生徒は別の道を歩むものです。
それが、「普通」でしょう?
「・・・寂しいえ」
「・・・そうですか」
「寂しい、え・・・」
そのまま、ぎゅう、と抱きついてくる木乃香さん。
気のせいか、その吐息は熱を帯びているように感じます。
「・・・このちゃん、泣かんといて」
「せっちゃん・・・」
「大丈夫やから・・・」
そして刹那さんも、そんな木乃香さんを強く抱きしめます。
・・・あの、間に私がいるので、加減してくださいね。
それにしても、やるせないですね。
寂しいと、木乃香さんが言って。
泣かないでと、刹那さんが言う。
そんな二人の手を、握ってあげることしかできません。
・・・世界はいつも、思い通りにならない。
こんなはずじゃない、ことばかり。
いつだって、誰だって、そう。
どこかの誰かが、そんなことを言っていましたね。シンシア姉様。
アリアも、そう思います。けれど。
いつか・・・。
<その頃の千草組>
Side 千草
「はっはぁ、行くでぇ! 最後の勝負や!」
「ようかいはきりあきたんやけど~」
「だ~もう! あんたら、たまには後衛を気にしぃ!」
うちらは今、富士の樹海で一つ目の巨人らと戦りおうとる。
なんでも、ダイダラボッチの一種らしいけど・・・身長はゆうに10メートルはあるやろな。
スクナに比べれば、可愛いもんやけど・・・。
「『疾空黒狼牙』!」
「ざ~んが~んけ~ん!」
ただ小太郎も月詠はんも、前のめりすぎるわ!
サポートする方の身にもなりぃ!
それにしてもあの金髪の子!
アリアはんの霊草はまだマシやったけど、あの子の要求する薬品のほとんどが店には出回ってないもんてどういうことや!?
アレか! 楽しんどるんか、うちを苦労させて楽しんどるんやろ!?
覚えとれよ、東の本拠に着いたら・・・。
・・・・・・頼まれたもんノシ付けて渡したるわっ!
「ああ、もう。うちはこんなとこで何しとるんやろうなぁ!」
「お、なんや千草のねーちゃん。最近えー感じに気ぃ乗っとるなぁ!」
「うふ、きりがいがありそうです~」
「やかましいわ!」
こんなこと、さっさと終わらせたる。
うちには、立ち止まっとる暇なんてないんや!
アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回は、修学旅行直後の日曜日のお話。
兄様はエヴァさんへの弟子入りをあえなく断られた模様。
まぁ、成功してもらっては困るわけですが・・・。
今回の魔法具は・・・。
ギャラリー様提供の、ロリポップグリーンハーブ(BAYONETTA-ベヨネッタ-)。
ありがとうございます。
アリア:
さて次話は、少しばかりシリアスの予感?
エヴァさんへの弟子入りが失敗した兄様はどうするのか。
見ものですね。
では、またお会いしましょう。