魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第37話「守るとは」

Side ネギ

 

頑張るって決めた。

でも、最初の一歩目で躓いた。

そんな気分だった。

 

 

「元気出せよ兄貴」

「そーよ、気にすることなんかないわよ」

 

 

カモ君と明日菜さんはそう言ってくれるけど、僕は、どうしたら良いかわからなかった。

もし今度何かあったら、明日菜さんやのどかさんを守れるように頑張るって決めたのに・・・。

 

 

どうして、エヴァンジェリンさんは僕に魔法を教えてくれなかったんだろう。

僕は、強くなりたいだけなのに・・・。

 

 

「それにしても、木乃香の姐さんが引っ越しちまうなんてな」

「そうね・・・家の事情らしいけど、何かあったのかしら?」

 

 

あ、そっか・・・木乃香さんがもういないんだった。

木乃香さんのご飯がもう食べられないって思うと、少し寂しいけど・・・あ。

 

 

「あ、あれは・・・?」

「くーふぇじゃない!?」

 

 

くーふぇさんが、よくわからないけど、すごく人相の悪い人達に囲まれてる!

なんだか、「喧嘩だ」とか、「部長に50枚」とか聞こえるけど、た、助けないと!

 

 

「いやいや、心配ないでござるよネギ坊主」

「楓さん!」

「い、いきなり現れるんじゃないわよ!」

 

 

どこから現れたのか、楓さんが「あれはいつものことでござる」って説明してくれた。

い、いつものこと?

 

 

「クーは去年の格闘大会で優勝しているでござるからな。挑戦者が後を絶たんのでござるよ」

 

 

ほら、と示してくれた先では、くーふぇさんが次々と男の人達を薙ぎ倒しながら。

 

 

「弱い! 弱いアルネ! もっと強い奴はいないアルかーっ!」

 

 

と、叫んでいた。

なんだかとても痛そうな音を立てながら、男の人達が地面に沈んでいく。

すごい、くーふぇさんがこんなにも。

 

 

「ま、まだじゃあ、フェイ部長!」

「遅いアルネ!」

「ごはぁっ!?」

 

 

こんなにも、強いなんて。

あれはたぶん、中国拳法っていう物だと思う。

 

 

「あ、ちょ・・・ネギ!」

 

 

駆け出して、思う。

僕は強くなりたい。

強くなって、みんなを守れるようになりたい。

今度こそ。

 

 

「くーふぇさん!」

「んぉ? おお、ネギ坊主。にー・・・」

「やあぁっ!」

 

 

右の拳を、撃ってみた。

くーふぇさんは驚いた風もなく、僕の手を弾くと。

 

 

「『炮拳』!!」

「・・・・・・っ!?」

 

 

お腹に、くーふぇさんの右拳が、突き刺さった。

そのまま、仰向けに倒れる。

 

 

意識が、飛びそうになった。

駆け寄ってきた明日菜さんや楓さんが何か喋ってたけど、最初は聞き取れないくらいだった。

魔法障壁の上からでも、こんなにダメージがあるなんて・・・。

 

 

「ちょ、ネギ! あんた何してんの!?」

「いやぁ、見事に入ったでござるな。でも教師がいきなり生徒に殴りかかるのはどうかと思うでござるよ?」

「す、すまないネ。大丈夫アルかネギ坊主。かなり強く打ってしまたアル」

「・・・だ、大丈夫です。いきなりごめんなさい、くーふぇさん・・・」

 

 

明日菜さんに支えられながら、立ち上がる。

まだ痛い、すごいな・・・。

 

 

「く、くーふぇさんって強いんですね」

「それほどでもないアルよ。私よりも強い人はたくさんいるネ」

 

 

くーふぇさんは、気恥かしそうにそう言ったけど。

でもくーふぇさんが僕よりもずっと強い人だっていうのはわかる。

中国拳法。

 

 

「くーふぇさん、あの・・・」

「何アルカ?」

「その・・・僕に」

 

 

僕の知ってる魔法使いはみんな、僕よりもずっと強い人ばかりで。

エヴァンジェリンさんも、タカミチも。

龍宮さんも、刹那さんも。

・・・きっと、京都で会った白髪の少年も。

 

 

僕は弱くて。このままじゃ何も守れなくて。

強くならなくちゃ、何も守れないから。

みんなを守るなんて、できるわけがないから。

だから、まずは。

 

 

「僕に、中国拳法を教えてください」

 

 

力があれば、みんなを守れる。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

力があっても、守れない物がある。

私は今、それを学ばされている気分だ。

 

 

「せっちゃん、今日の晩御飯何がええ?」

「私は、このちゃんの好きな物でいいんじゃないかと・・・」

「うちは、せっちゃんの好きな物を作ったげたいんやけどな~」

「う・・・」

 

 

ローラーブレードで登校するこのちゃんについて走りながら、私は昨日のことを思い出していた。

寂しいと言って、泣いていたこのちゃんを。

夕凪の入った竹刀袋を、握り締める。

 

 

自分を責めた所で、現実が何も変わらないことはわかっている。

けれど、思ってしまう。

もっと、やりようがあったんじゃないかと。

 

 

「もうすぐ中間テストやな~。せっちゃん、ちゃんと勉強しとる?」

「も、もちろんです」

 

 

私はこのちゃんを守るために、神鳴流を学んだ。

そして今では、完璧ではないにしても、ある程度このちゃんを守れていると思う。

少なくともチンピラ相手なら、何百人いた所で指一本触れさせずに守れるだろう。

 

 

けれど神鳴流では、このちゃんの寂しさや悲しみを癒すことはできない。

私はこれから、このちゃんのために何ができるのだろう。

何を、すべきなのだろう。

 

 

「テストまでもう一カ月切ってるから、勉強せなあかんえ?」

「だ、大丈夫ですよ・・・・・・たぶん」

「もう、しゃーないな~」

 

 

アリア先生は、私にこのちゃんを守るための力を与えると言ってくれた。

そこは、少しも疑っていない。

私はきっと、今よりも強い力を手に入れる。

もちろん、そのための努力は惜しまないつもりだ。

でも・・・。

 

 

「せっちゃん?」

 

 

力だけではきっと、この笑顔は守れない。

最近、強くそう思うようになった。

私は。

 

 

「・・・はい、このちゃん」

 

 

私は、貴女を幸せにできているだろうか。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・気に入らんな」

「は?」

「いや、なんでもない」

 

 

茶々丸にそう答えながら、自分の席に座る。

最近は、朝のホームルームに出た後すぐにフケることにしている。

 

 

呪いは解けているので、本来なら学校になど来る必要はないのだが・・・。

茶々丸やさよの様子は見ておくべきだと思わなくもないし、アリアが3-Aのガキ共に振り回される様を見るのは愉快だ。

 

 

チャチャゼロとバカ鬼は、今頃は別荘で畑仕事か、さもなくばアリアが渡した『透明マント』でも着こんで麻帆良を探索しているだろう。

ま、それはさておき・・・。

 

 

最近、桜咲刹那が腑抜けているように見える。

最近と言っても、ここ2日程度のことだが。

近衛木乃香と和解してからと言うもの、以前のような鋭さは鳴りを潜めてしまっている。

 

 

何をぐずぐずと悩んでいるかは知らんが・・・。

貴様にしゃんとしてもらわんと、こっちの計画が狂いかねん。

これは、予定を早める必要があるか?

 

 

「・・・マスターがいじめっ子の顔をしています」

「おいそこのボケロボ・・・お前、口数が増えたんじゃなくて単純に口が悪くなったんじゃないのか?」

 

 

アリアが来てから急速に成長したようだが、何か間違ったような気がする。

ハカセに定期的にメンテナンスされているはずだから、どこかが悪いということはないと思うが。

 

 

「・・・ふん」

 

 

教室の隅で、近衛木乃香と談笑している桜咲刹那を見る。

・・・緩みきった顔をしおって、馬鹿が。

 

 

「茶々丸、アリアに伝えろ。今夜ヤる、とな」

「よろしいのですか? 予定では・・・」

「構わん。奴のようなタイプは、追いつめられんと何もできん」

 

 

本来なら、2か月ほど技術的なことをさせてからと思っていたが。

桜咲刹那の場合は、先に一度潰してやった方が良い。

ある意味で・・・ぼーやに似たタイプだ。

 

 

「自分以外の誰かを守ると言うのは、簡単じゃないんだよ」

「つまり、マスターは桜咲さんが心配なのですね」

「ばっ・・・おま、違うわっ!」

 

 

いいか、勘違いするなよ?

私があの小娘どもを構うのは、アリアが気にしているからだ。

それだけだからな!

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「ネギ君をどう思うかね?」

 

 

昼休みに学園長室に呼ばれて、開口一番に学園長にそう問われた。

どう答えたものか迷ったけど、ここは普通に答えることにした。

 

 

「そうですね。良い子だと思いますよ。真面目で、ひたむきで。生徒にも慕われていて」

 

 

我ながら当たり障りのない答えだな~。

でも、確かに生徒には慕われて見えるし。

先生と言うより、年下の可愛い男の子として見られてる気もするけど。

 

 

他の先生達の見方も、だいたい同じだと思う。

明石先生とかは娘さんが彼のクラスにいるから、また違うのかもしれないけど。

新田先生は、どうだろう。ちょっと厳しめかもしれない。

 

 

「・・・では、アリア君はどうじゃな?」

「はぁ・・・」

 

 

あ~、聞きたいのはそっちか。

今のところ、ネギ君ともアリア君とも接点があるのは、魔法先生の中では僕だけだから。

どう答えたものか。まぁ、ここは無難に・・・。

 

 

「ネギ君に負けず劣らず、良い子だと思います。仕事熱心だし、聞き上手だし、問題のある生徒からも一目置かれてるみたいですし」

 

 

うん。ネギ君と同じ数だけ褒めたと思う。

こういうバランスって、大事だよね。

 

 

「・・・アリア君について、詳しそうじゃの?」

「いえ、それほどでも。新田先生やしずな先生の方が詳しいと思いますよ?」

 

 

事実だと思う。

特に新田先生は京都でのアリア君(偽)以来、妙にアリア君に肩入れしてるみたいだし。

学園祭の教師陣のスケジュールも、今から調整してるみたいだし・・・。

しずな先生は、お休みの日にはよく連れ出してるみたいだし。

・・・あ、たまに休み明けのアリア君が妙におしゃれだったのは、そのせいかな。今気付いた。

 

 

「そろそろネギ君にも、本格的な魔法使いの修行をさせようと思っておるのじゃが・・・」

「ああ、いいんじゃないでしょうか」

 

 

ようするに、師匠をつけるってことかな?

でもネギ君の師匠となると、誰がやるんだろう?

 

 

「早く修行を始めろと、本国からも矢のような催促でな?」

「あはは・・・」

「魔法先生にも協力を求めることになると思うでな。その時は・・・」

「わかりました・・・といっても、僕に教えられることなんてなさそうですけど」

 

 

実際、僕は戦闘とかはあんまり得意じゃない。

ネギ君がなりたがってるような魔法使いになるには・・・タカミチさんとかの方がいいと思う。

これがアリア君の修行なら、また別だと思うけど。

 

 

「ところで、京都の件の報告書じゃが」

「あ、はい」

「もう少し詳しく書けんかのぅ? 本国が詳細を知りたがっておってな・・・」

「はぁ・・・でも僕は、学園長の命でホテルの護衛をしていましたし、外の状況まではちょっと」

「そうかの・・・」

 

 

ふぅ、と深く溜息を吐く学園長に、ちょっとだけ申し訳ない気分になる。

でも、アリア君との約束だしね。

自分の仕事の分の報告には嘘は書いてないから、虚偽報告でもないし。

 

 

ネギ君のことには深く関わらない。手頃な距離感を保つこと。

アリア君の事情は詮索しない。あくまで中立の立場を保つこと。

その代わり・・・まぁ、これは別の話。

 

 

立場って大事だなぁ・・・なんて思う、今日この頃。

ガンドルフィーニ先生が聞いたら、怒るだろうなぁ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「こんばんわ、アリア先生」

「今日は何するん?」

 

 

木乃香さんと刹那さんがエヴァさんの家に来たのは、夜の9時です。

本当ならもっと早く来ていただけるはずが、私の仕事が長引いてしまって・・・。

というか、いい加減教師の仕事と女子寮管理人の兼任に限界を感じてきています。

まぁ、それはいいです。

2人にはお泊りの準備もしてきてもらっています。一週間分くらい。

 

 

「こんなに荷物持って、どこに行くん?」

「やかましい。黙ってついてこい」

 

 

一切の説明をしないエヴァさん。それはさすがにどうかと思いますけど。

行くのは別荘ですがね。

 

 

今日から2人の修行(と言う名の苛め)を始めると聞いて、少し驚きました。

早過ぎると思うのですが、時間がないのも確か。

渡す魔法具の選定は終わっていますから、大丈夫でしょう。

あとは、2人次第。

 

 

「ふあああ~・・・」

「これは、すごい・・・ですね」

 

 

ちなみにこれが、初めて別荘に入った時の2人の言葉です。

まぁ、そうなりますよね。

その後、時間経過の違いなどを説明しつつ、広場へ。

 

 

そこには、茶々丸さん、チャチャゼロさん、スクナさん、さよさんが勢揃いしていました。

 

 

「遅いぞ、吸血鬼」

「時間差があるんだ。仕方がないだろう」

「お腹がすきましたぁ・・・」

「それはスクナさんのキャラクターです。さよさん」

「キャンディならあるぞ。さーちゃん」

「それはさよさんの役割です。スクナさん」

 

 

外での数分がこちらでの数時間ですからね。一食くらい抜いているのかもしれません。

食事中にエヴァさんが来たら、理不尽に怒りだしそうですからね。待っていたのでしょうか。

そのエヴァさんは4人を背にして振り向き、こちらを、特に刹那さんを見て。

 

 

「さて、桜咲刹那。これから苛め(と言う名の修行)を始める」

「は、はぁ・・・」

「エヴァさん。本音と建前が逆になっていますよ」

「トルストイの「アンナ・カレーニナ」の冒頭にこんな言葉がある・・・」

 

 

『幸福な家庭は皆同じように似ているが。

不幸な家庭はそれぞれにその不幸の様を異にしているものだ』

 

 

「つまりは、幸せな奴はつまらん。そういうわけだな」

「え、と、何の話を・・・」

「その意味で、ここのところの貴様はつまらんな。・・・随分と幸せそうじゃないか、え?」

 

 

木乃香さんの手を引いて、刹那さんの側から離れます。

エヴァさんの身体から、『複写眼(アルファ・スティグマ)』でないと見えない物が見えました。

 

 

「・・・? アリアせんせ、どない「がっ!?」・・・せっちゃん!?」

 

 

突然、刹那さんの身体がくの時に曲げられ、地面に叩き付けられました。

両手足と、腰の骨が、通常とは逆の方向に、見えない何かに無理矢理曲げられています。

もう少し力を加えれば、ぽきり、ですね。

 

刹那さんの身体を抑え付けているのは、エヴァさんの操る魔力の糸です。

「人形遣い」のスキルですね。

刹那さんの下へ行こうとする木乃香さんを、手を離さずに留めます。

 

 

「・・・い、糸・・・!」

「その通り。これが実戦なら終わりだな。お前は死に、近衛木乃香を守れない」

「ぐ・・・っ」

「以前の生まれと鬱屈した立場から得た鋭さを持っていた貴様なら、かわせたはずだ。それがなんだ。最愛のお嬢様と和解してから、幸せそうにヘラヘラしおって・・・」

「あかんのっ!?」

 

 

木乃香さんが、叫びます。

 

 

「せっちゃんが幸せにしとったら、あかんの!?」

「ダメとは言わん。だがな近衛木乃香。お前、自分の状態がわかっているのか?」

 

 

刹那さんが撃破され、無防備になった木乃香さん。

そういう事態は、いくらでも起こり得ます。

 

 

「それにだ桜咲刹那。お前、幸せになれると思っているのか?」

「え・・・?」

「白かったな。その翼」

「・・・っ!」

 

 

刹那さんにとってのトラウマ。

禁忌の白き翼。

エヴァさんは、ぐりぐりと刹那さんの頭を踏みながら。

 

 

「髪はどうした。ん? 染めたか? 瞳は? カラーコンタクトか?」

「エヴァちゃんっ!!」

 

 

今度は叫ぶと同時に、全身から魔力を放つ木乃香さん。

怒りで自然に噴き出したものと思われますが・・・。

この反応、「知っている」のですね。刹那さんはきちんと話していましたか。良かった。

これで第一段階はクリア。

 

 

「お前、そのザマで・・・・・・近衛木乃香を守れるのか?」

「・・・守り、ます」

「聞こえんな」

「守り・・・ますっ!」

 

 

エヴァさんのその言葉に、刹那さんが大きく叫びました。

ちらりと木乃香さんを見て――――。

手足に気を集中させて、エヴァさんの拘束を離脱。

刀を抜き、エヴァさんに斬りかかります。

 

 

「ケケケ・・・キッテイインダヨナ?」

 

 

そしてそれを、チャチャゼロさんが受け止める。

茶々丸さんも刹那さんの背後に回り、それを援護します。

死なないとは思いますが・・・。

 

 

「どうした? すぐ目の前の私にすら届かんじゃないか」

「それでも、このちゃんは私の全てです!」

「はっ・・・くだらん! 全てだとかなんだとか、誰もが良くやる勘違いさ!」

「勘違いでも、守って見せます!」

「なら、証明して見せろ!!」

「してみせます!!」

 

 

あ、エヴァさんのスイッチが入りましたね。

もって5分くらいかとは思いますが、頑張ってくださいね刹那さん。

私は展開についていけていない木乃香さんを抱き上げて、瞬動でその場から離れます。

 

 

あ、ちなみに私、『闘(ファイト)』なしで瞬動ができるようになりました。

魔力を集めるのに手間取りますが、なんとかなるものです。

 

 

「すみません、木乃香さん。傷つけてしまって」

「え、えっと、よくわからんけど。大丈夫やえ」

 

 

よくわからないのに許さない方が良いですよ。

あ、エヴァさんが大魔法使いましたね。

茶々丸さんに回復用の魔法具は渡してありますから、倒されては回復され、続行させられるのでしょうねぇ・・・。

 

 

「あの、せっちゃんは・・・」

「たぶん、おそらく、きっと大丈夫です。エヴァさんはちゃんと手加減してくれてるはずなんで」

 

 

断定できない自分が悲しいです。

それなりに離れたので、ここで良いでしょう。

木乃香さんを地面に降ろします。

 

 

「・・・さて、木乃香さん。貴女は今一人です」

「う、うん」

「つまり私が敵なら、この時点でアウトですね」

「あ・・・」

 

 

今の木乃香さんは、対抗手段が一切ありませんので。

刹那さんが倒されたり分離されてしまえば、それで終わりです。

 

 

・・・『魔法具・多重創造』・・・。

 

 

「わっ・・・」

 

 

私達の周囲に、刀や書物、鏡、そして見ただけでは用途のわからない魔法具が同時に現出します。

全て、木乃香さんのために用意した物です。

木乃香さんには、次に別荘から出るまでにこの全ての魔法具の扱いを覚えてもらいます。

魔力の出し方は、感情的にではありますができているようですし。なんとかなるでしょう。

その上で・・・。

 

 

「来たぞ、恩人」

「来ました~」

 

 

さよさんをお姫様だっこしたスクナさんが、転移してきました。

最近、妙に仲が良いのですよね。この2人。

 

 

「ご苦労様です。刹那さんはどうなりましたか?」

「殴られたり蹴られたり斬られたり凍らされたり罵られたり泣かされたりしてたぞ」

「ええ!? せ、せっちゃん!?」

「そうですか。なら安心ですね」

「安心って!?」

 

 

泣く元気があるのなら、まだ大丈夫です。

エヴァさんが本気になれば、泣いてる暇もないですから。

ええ、それはもう想像を絶する・・・・・・・・・・・・。

 

 

「あ、アリア先生? 急にガタガタ震え出してどうしたんですか!?」

「恩人がすげー涙目だぞ」

「あ、ああいえ。とにかく木乃香さん。はっきり言って、このままだと貴女は裏から逃げるなんて無理です。断言できます」

 

 

私の言葉に、木乃香さんが表情を曇らせます。

胸が痛みますが、事実です。

 

 

「そこで貴女には当面、魔力の運用と魔法具の扱いを教えます。そしてもう一つの目標として、スクナさんの主としてふさわしいと、スクナさん自身から認めてもらえるようになってもらいます」

「えと、それってどういう・・・?」

「簡単に言えば、式神になってもらえるよう、契約を結ぶということです」

 

 

スクナさんの場合は霊格が高すぎるので、ただの式神ではなく、より高位の識神になるでしょうね。

ただそのためには、木乃香さんはスクナさんが出す試練に打ち勝ってもらわなければなりません。

 

 

「友達は友達だから、困ってたら助けるぞ!」

「でもすーちゃんがいつでも傍にいるわけじゃないから・・・」

「危機的状況の際には、呼び出せるようにしておいた方が良いですし。何より高位の識神を持つことは、それだけで敵を減らす抑止力になります」

 

 

特に鬼や妖怪はそうしたことに敏感ですから、スクナさんの気を感じればそれだけで手が出せなくなるはずです。

陰陽術を教えるのは、その後でも問題はないでしょう。

そのための準備も、まだ不完全ですしね。

 

 

「・・・それは、必要なことなんやね?」

「ええ、考えた結果として、木乃香さん、貴女には・・・」

 

 

木乃香さんが普通の人間として生きていこうと思えば、多大な労力がいります。

かかってくる追っ手やら、差し向けられる刺客やらがいるとすれば、かなり面倒です。

さらに相手が組織である可能性が高く、それからも逃げるとなると・・・。

 

 

誰よりも、強い力を持ってもらわなければなりません。

相手が二度と関わりたくないと思ってしまうほどに。

あらゆるものを、振り切れるように。

2人で。

 

 

「貴女には、世界最高の大陰陽師になってもらう予定」

「・・・・・・」

「そして刹那さんには、そんな貴女を止められる唯一の存在になってもらう予定です」

 

 

そんな私の言葉に、木乃香さんは。

ただ、真剣でひたむきな目で。

 

 

「よろしく、お願いします」

 

 

と、言いました。

・・・力は、与えられる。けれど木乃香さん。

 

 

そこから先は、貴女達次第。

考えることを、やめないでくださいね。

 

 

可愛い可愛い、私の生徒。

まぁ、基本的に私の生徒で可愛くない方はいませんが・・・。

どうか貴女達の未来が、幸福でありますように。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

『全て順調です。フェイト様』

「・・・そう」

 

 

暦君の報告を通信で聞きながら、目の前に広がる光景を見る。

僕の目の前には、関東最大規模の学園都市。その外縁が見える。

その都市の名は、麻帆良。

 

 

『全世界のゲートの情報も掴みました。工作員の準備次第ですが、いつでも実行できます』

「イギリスのゲートは?」

『それも問題ありません』

 

 

それなら、魔法世界に戻る時は、イギリスのゲートを使うことにしようかな。

けど、今は先に・・・。

 

 

「伯爵の状況は?」

『そちらの時間で、五月中旬には準備が完了します。スライムを使うので、雨の日を選んで決行する予定です』

「・・・そう。わかった」

『標的は、ネギ・スプリングフィールドとその仲間でよろしいですか?』

「それでいいよ」

 

 

暦君は、僕が魔法世界で拾って育てた戦災孤児の一人だ。

まぁ、僕の趣味みたいな物。

他にもいるけど・・・暦君はその中でも、率先して僕の手伝いをしてくれている。

 

 

『アリア・スプリングフィールドの方は、どうされますか?』

「・・・・・・・・・」

 

 

・・・・・・アリア。

 

 

『・・・フェイト様?』

「・・・・・・ああ、いや。必要ないよ。彼女の力は京都で見せてもらったからね」

『はぁ・・・それで、フェイト様は一度こちらに戻られますか?』

「いや・・・もうひとつ、行くところができたからね」

 

 

それを済ませてから戻るよ。

僕がそう言うと暦君は少し訝しげな声で、それでも、わかりました、と答えた。

 

 

そこで通信を終わらせようとしたんだけど。

ひとつ、引っかかることがあった。

 

 

「・・・・・・暦君、ひとついいかな」

『はい、なんでしょうか?』

「・・・もし仮に、事故とはいえ、キミのことを刺した男がいたとしよう」

『・・・はぁ』

 

 

暦君は質問の意図がわからなかったのか、かなり訝しげな声で答えた。

僕自身、自分の質問の意味がわかっていないから、仕方がないけど。

 

 

「その男が再び現れたら、キミならどうする?」

『え、ああ、はい。そうですね・・・・・・』

 

 

暦君はしばらく黙った後、端的に言った。

 

 

『とりあえず・・・』

「とりあえず?」

『獣化して八つ裂きにするんじゃないでしょうか』

 

 

・・・・・・分身体をもう一つ、作っておくことにしようか。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回は、木乃香さんと刹那さんの修行開始風景を描きました。
次に登場する時には、かなり強くなっていることでしょう。

作中解説です。
『魔法具・多重創造』:
複数(10種類以上)の魔法具を同時に創り出します。
通常より多くの魔力を消費し、持ち切れない魔法具はその場に放置されることになります。なので、一人の時は使いません。基本的には。
最大で21個まで同時創造が可能です。
訓練次第で、まだ伸びます。


アリア:
さて次話は、悪魔編へ向けて進展することと思います。
先に、南の島イベントと、図書館島イベントですが。
原作で言うと。
さて、その通りにいくかどうか・・・。
では、またお会いしましょう。

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