魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第38話「再会の夜」

Side アリア

 

警備員さんとの朝の挨拶(厳さん。62歳の男性)。

警備員さんとお話をしつつ、玄関の掃き掃除(厳さんとの会話はひとつの楽しみですね)。

納入された備品の検品(個人の物は除きます)。

女子寮への不適切なチラシ投函の有無(正規の郵便屋さんが来る前にやらねばなりません)。

各部屋の電気・ガス・水道のチェック。

廊下などの防犯カメラの整備とテープの交換。

大浴場の清掃(あ、今日は調子の悪い給湯器の整備もしないと・・・)。

・・・以下省略。

 

 

まぁ、私の朝の仕事をいくつか挙げてみました。

ふふ・・・10歳にさせる仕事ではありませんね。

私が転生者でなければこの寮、魔窟と化しているのではないでしょうか。

 

 

「浴場設備の整備とか、もうこれ業者の仕事ですよね・・・」

 

 

魔法具『レストレイション』で壊れた給湯器を直しながら(結界は張っていますよ)、そんなことを呟いてみます。

私の身体から光の粒子が湧き出し、それが対象を包み込むとまるで新品のように修復されます。

これでどうにか、今日も使えるでしょう。

さて、次は廊下掃除でもしますか。

 

 

女子寮全部の廊下というと、結構な量になります。

休日とかは時間がとれるので楽なのですが、今日のような平日は、朝のうちにしておかねばなりません。

工学部からお掃除ロボットでも借りましょうか・・・。

 

 

「あ、アリア先生。おはよ~」

「あら、和泉さん。おはようございます」

 

 

廊下をモップで掃除している時、和泉さんが部屋からひょっこり顔を出しました。

起こさないように気を付けていたのですが、なんたる失態。

 

 

「申し訳ありません。起こしてしまいましたか?」

「あ、ううん。ちょっと前から起きとったから」

「それは・・・早起きですね」

 

 

時計を見ると、まだ6時にもなっていません。

登校時間はまだ先です。

昨夜何時に寝たのかは知りませんが、もう少し寝ていても良いと思いますよ?

 

 

「アリア先生、まき絵見んかった?」

「いえ、見ていませんが」

 

 

聞けば、まき絵さんはロードワークに出ていてまだ戻っていないとか。

何か事情がありそうですが、本人の言っていないことを私に言うのはどうかと思ったようで、和泉さんも詳しいことは言いませんでした。

と、和泉さんが何かに気付いたように私を見て。

 

 

「あ、大変そうやね先生。手伝うわ」

「え、いやそれは・・・」

「ええからええから。早起きしすぎて暇やったし」

 

 

予備のモップを手に、廊下を拭き始める和泉さん。

え、ちょ、生徒に仕事を手伝わせるわけには・・・。

 

 

「あの、和泉さん。ありがたいのですが・・・」

「ふんふふ~ん♪」

 

 

・・・聞いちゃいねーですか・・・。

まぁ、いいです。あとこの階だけですし。

しかしそうは言っても、手伝わせて何も無しというのもアレですね。

 

 

「後で朝食を御馳走しますよ」

「え、ほんまにっ!? 朝ご飯何?」

「そこは聞いてくれるんですね・・・」

 

 

現金な方ですね。和泉さんも。

ちなみに今日の朝食は、甘い甘いハニートーストです。

 

 

「先生って実は甘い物好き?」

「甘い物の嫌いな女性などこの世に存在しません」

「あ、あはは・・・あ、まき絵も一緒にええかな?」

「構いませんよ」

 

 

チョコレートソースも付けましょうか。

苺は外せませんよね。もちろん。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「む・・・」

 

 

茶々丸とチャチャゼロを伴い、朝の散歩をしている所だ。

世界樹広場にまで足を伸ばしてみると、ぼーやと・・・佐々木まき絵だったか、その2人が何やら騒いでいた。

ぼーやが何かやってみせているようだが・・・。

 

 

「あの型は中国拳法のようです」

「ふん、カンフーとかいう奴か」

「ケケケ、マーアノガキニハチョウドイインジャネーカ?」

「確かに、お子様にはお似合いだな」

 

 

まぁ、カンフーの修行をするというならそれでいいさ。

アリアの方に行きはしないかと思ってはいたが、何か打ち込む物があるうちは大丈夫だろう。

それがなくなった時は・・・。

 

 

「あれー? エヴァちゃん、茶々丸さんおはよー」

「ちっ・・・気付かれたか」

「ちょっ、何よその言い方~」

 

 

チャチャゼロを見ると、すでに茶々丸の頭の上で動かなくなっていた。

それでいい。

佐々木まき絵がこちらへと駆け寄ってくる、ぼーやも一緒だ。

そのまま乳繰り合ってれば良いものを。

 

 

「エヴァンジェリンさん・・・」

 

 

なんだぼーや。

そんな目で見て、何か言いたいことでもあるのか?

一切聞かんがな。

 

 

「ん? なになにネギ君。エヴァちゃんと何かあったの?」

「え、えっとあの・・・」

「お前には関係のない話だ佐々木まき絵。行くぞ、茶々丸」

 

 

何か言われる前に立ち去るとしよう。

明日からは、この世界樹広場には近寄らん方が良いな。

 

 

「ん? ん? どゆことネギ君?」

「あ、えっと・・・弟子入りをお願いしたんですけど。ダメだって言われて・・・」

「ふ~ん? ねぇねぇエヴァちゃん。なんでネギ君弟子にしてあげないの?」

 

 

話の全容を知らないくせに口を出すな佐々木まき絵。

いや、この場合ぼーやの方に問題があるのか?

魔法使いの弟子入り問題を表の人間に教えてどうする。

 

 

いったいどんな教育を受けてきたんだ?

メルディアナというのは、能無しばかりか?

 

 

「ねーエヴァちゃんってば。なんでそんなイジワルするの?」

「ふん。子供の遊びに付き合う趣味はないんだよ」

 

 

お前のようなガキっぽい奴と話す趣味もない。

そう言い残して、後は立ち止まることはない。

さっさと戻らんと、バカ鬼が朝食を食べ尽くしかねんしな。

さよのことだ。どうせ甘やかしているんだろう。

 

 

「なっ・・・ななな、何よエヴァちゃんだってお子様体型のくせに! ふーんだいいもんね! ネギ君きっと凄くすごーく強くなっちゃうもんねー!」

 

 

一部に聞き捨てならない単語があったようだが、これ以上は付き合いきれん。

と言うか、何故ぼーやでなくお前が言うんだ?

 

 

「エヴァちゃんなんかに教えてもらわなかったって、ネギ君ならすぐに達人になるよ~だ!」

「え、ちょ、まき絵さん!?」

 

 

達人ね・・・まぁ、才能だけはあるようだから、おそらく達人にはなるだろう。

それも、相当強くなる。

 

 

だがなぼーや、達人になったその後は。強くなったその後は。

どうするつもりだ?

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「剣道、ですか・・・・・・」

「う、うん」

 

 

ネギは相変わらず、一人で頑張ろうとしてる。

それが、なんだかとても不安だった。

 

 

ちょっと前から・・・たぶん、京都でネギのお父さんの写真を見てからだと思う。

なんだかそのうち私の知らない所で、大怪我していなくなっちゃうんじゃないかって。

不安で、仕方がなかった。

 

 

それだけが理由じゃないけど、とにかく。

私も私なりに強くなっておこうと、お昼休みに刹那さんに、「剣道を教えて」ってお願いしたかったんだけど・・・。

 

 

なんだか、刹那さんはものすごくヤツれてた。

 

 

「それはすごく良い考えですね・・・ただ、私は最近とても忙しいので・・・」

「う、うん。というか、大丈夫なの?」

「え・・・あ、はい。大丈夫です。このちゃんの状況は把握していますので・・・」

 

 

いや、木乃香のことじゃなくて刹那さんのことを聞いてるんだけど。

確かに顔はヤツれてるけど、動き自体はしっかりしてるし、受け答えもはっきりしてるけど。

 

 

「とりあえず、剣道部で手の空いてる方に聞いてはみますね・・・」

「あ、ありがと」

「せっちゃ~ん!」

「あ、このちゃんに呼ばれているので・・・」

「う、うん。じゃあ・・・」

 

 

刹那さんを見送って、改めて思うんだけど。

木乃香と刹那さんは最近ずっと一緒にいる、それはいいんだけど。

何をやったらあんなにヤツれるんだろ?

2日くらい前までは、普通だったのに。

 

 

「あの2人、今同居してんだよね~」

「なんでこのクラスの人間はいつも突然現れるのよ・・・」

 

 

朝倉が私の肩に腕を回して寄り掛かってくる、重いんだけど。

 

 

「同居してて、翌朝ヤツれて登校ってことは、こりゃーやっぱアレじゃない?」

「あれってどれよ」

「それはほら、大きな声では言えないよーな(ごにょごにょ)」

「・・・ちょ、何考えてんの!?」

 

 

そんなわけないでしょ!?

・・・でも、確かに親友って言っても一緒にいすぎなような気も。

いやいやいやいや、ない! それはないわ! だって刹那さんだもん!

 

 

「あれ~、明日菜、何考えてんの~?」

「あんたが言ったんでしょ!?」

「声大きいよ~」

「ぐっ・・・!」

 

 

このパパラッチは・・・!

 

 

まぁ、それにしたって。

あんなにヤツれてまで、何をやってるんだろ?

 

 

「ところでさ、あんた近衛がいなくて生活できてんの?」

「う・・・」

 

 

 

 

 

Side ハルナ

 

「ハルナ、話って何?」

「ん~、ちょっとね~」

 

 

のどかを呼び出して、ちょっとお話。

夕映がここのところ、マジで元気ないからね。

あの子ものどかには強く出れないから、ここは私の出番!

ってなわけで。

 

 

「のどか。あんたさ、夕映や私に隠してることあるでしょ?」

「ふぇ?・・・えぇっ!? な、ないよ?」

 

 

わっかりやす!

我が友人ながら、純粋過ぎて逆に心配になるわ。

 

 

「本当に?」

「ほ・・・ほ、ほんとだよ?」

「・・・ほぉんとぉにぃ~?」

「あ、あうぅ~・・・」

 

 

のどかの柔らかいほっぺをぐにぐにしながら、にじり寄る。

・・・思い切り目を逸らされた。本当にわかりやすいわね。

 

 

「・・・ネギ君のこと?」

 

 

のどかの肩が、びくって震えた・・・図星か。

まぁ、今のどかがここまでの反応を見せる話題って、それくらいだと思うけどさ。

ふむ、ネギ君のことか~。そうなると、根掘り葉掘りは聞きずらいなぁ。

いつか絶対聞き出すけど。

 

 

「それってさ、ど~しても話せないこと?」

「う、う~ん・・・そこまでじゃ・・・ない、と思うけど」

 

 

ふむ、そこは微妙なわけね。

できれば話したくないけど、どうしてもなら話しちゃうかも。そんなレベルか。

 

 

「私・・・は、まぁいいや。夕映にも話せない?」

「え、う・・・」

「最近、のどかが自分に話してくれないって、落ち込んでるの知ってるでしょ?」

「・・・・・・うん」

 

 

まぁ、どんな話かはわかんないけどさ。

私的には、ここで2人が微妙になるのは嫌なわけよ。

親友だしね。

 

 

「全部は無理でも、ちょっとだけでも話せばさ、夕映も元気になるし」

「・・・うん」

「のどかも、少しは楽になるかもよ?」

 

 

この子も溜めとくタイプだからね~。

要所要所で抜いとかないと、パンクしちゃうし。

 

 

「・・・そうかな」

「そうそう!」

 

 

ばしばしと背中を叩いて、発破をかける。

本当に世話が焼けるよこの2人は。

まぁ、それだけ大事に想ってるってことかな。

 

 

「うん。じゃあ・・・ちょっとだけ、話してみる」

「ん、よし!」

 

 

よかった~。

ここ最近の夕映は、のどかがいないと「のどか・・・」ってすごく悲しそうに言うから、うっと・・・じゃなく、心配だったのよ。うん。

 

 

友達思い、それが私。うん。

 

 

「いつか私にも聞かせてね?」

「わ、わかった。じゃあ話せるようになったら・・・」

「うん。待ってるよ~」

 

 

まぁ、そこまで待つつもりはないけどさ。

今日の所は、これでいいよね。

 

 

「あの、ハルナ」

「ん~?」

「・・・ありがとう」

「どういたしまして~♪」

 

 

思い切り抱きしめて、ぐりぐりする。

ああ、もう、可愛いわね~。

こういう娘こそ、幸せにならないと。

 

 

まぁ、相手が10歳の子供先生ってのは正直どうかと思うけど。

ネギ君と上手くいくといいな。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

それにしても、ネギ坊主は反則気味に飲み込みが良いアルな~。

 

 

「ほい、負けアルネ」

「あぅ~」

 

 

ここ2日ほど、放課後にネギ坊主に組み手で技を教えてるアルが。

普通1カ月はかかる技を3時間で覚えるとか、異常としか思えないネ。

世の中、不公平アル。

 

 

「も、もう一度お願いします。くーふぇさん!」

「私のことは老師と呼ぶがいいネ!」

「はい、老師!」

 

 

それにしても、このネギ坊主。

最初は、単に強くなりたいだけかと思ったアルが・・・。

 

 

どうも、違うみたいアルな。

拳のひとつ、蹴りのひとつに、何かを感じるネ。

私も修行中の身アルから、それが何かはわからないアル。

 

 

「よくやるわねー」

「明日菜もやってみるアルか?」

「んー、拳法とかはちょっと」

 

 

むぅ、それは残念アル。

明日菜も才能はあると思うアルに。

 

 

「はい、ソコ右手甘いアルよ~」

「はぶっ」

 

 

今はまだ、こんなに簡単に倒せるアルけど。

ひょっとしたら、いつか私より強くなるかもしれないアルな。

 

 

「ネギくーん!」

 

 

お? 何かいっぱい来たアルね~。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

くーふぇさん・・・老師と組み手してたら、まき絵さんと亜子さんがお弁当をたくさん作ってきてくれた。

わぁ、木乃香さんがいなくなってからは外で食べてたから、嬉しいな。

・・・もの凄い量だけど。

 

 

その後お弁当を食べながら、いろんな話をした。

趣味のこととか、拳法のこととか、学校のこととか。

そこで、日曜日にまき絵さんが新体操部のテストだって聞いた。

まき絵さんは、自信ががないって言うけど・・・。

 

 

でも見せてもらったまき絵さんの演技は、新体操に詳しくない僕でもすごいってわかるくらいだった。

 

 

「す、すごーいっ!」

「全然いいじゃないですかーっ!」

「でも、スカートでやらん方がええよ」

 

 

亜子さんだけが、まき絵さんの肩を叩いて注意してた。

 

 

「う、うん。でも先生が私の演技は子供だって・・・」

「そんなコトないですよ! 僕、新体操のことはよくわかりませんが、とっても良かったです!」

「そ、そうかな」

「はい! まき絵さんらしい素直でまっすぐな美しい演技だと思います!」

「あ、ありがとーネギ君」

「まき絵さんなら絶対合格しますよ!」

「さすが外国人、褒め言葉に照れがないわね・・・」

 

 

テストまで時間がないけど、ここまで来たらやるしかないですよ!

僕がそう言うと、亜子さんもうんうんと頷きながら。

 

 

「そうそう。今朝だってアリア先生に言われたやん」

「アリアに?」

「ああ、うん。今朝偶然一緒になったんよ」

 

 

亜子さんによると、アリアはまき絵さんにこう言ったらしい。

 

 

『私は新体操のことはわかりません。なので、まき絵さんが絶対に合格するとは言えません』

 

 

・・・あれ?

 

 

「え、そんなこと言ったの!?」

「あ、うん。言われたよ~」

「な、なんでそんな明るいんですか!?」

「あはは。続きがあるんよ」

 

 

『ただ、まき絵さんが努力なさっている方だとは知っています。なので、まき絵さんが合格することを心から祈っています』

 

 

「それでね。アリア先生が朝ご飯の苺を分けてくれたの~♪」

「なんか、ものすごく泣きそうな顔してたけど・・・」

「あれ、そうだっけ?」

「ふ~ん・・・え。ということは何? あんたら朝ご飯一緒したわけ?」

「そうだよ~」

 

 

アリアってそんなに苺好きだったっけ・・・。

・・・アリア。

アリアは今日も、エヴァンジェリンさん達と一緒なのかな。

 

 

アリアは今、何をしてるんだろう?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

仕事が終わりません。

ここまで来ると、もはや新手の苛めなのではないかと疑いたくなります。

 

 

「・・・く、ふぅ・・・」

 

 

椅子の背もたれに身体を押し付けて、両手を上に、大きく伸びをします。

目薬、まだあったかな・・・。

 

 

中間テストまで約一カ月。

問題と答案用紙はまだいいとしても、方向性を記した報告書は提出しなければなりません。

ええと、授業以外の配布物の手配と、GW中の課題の準備も、あとは・・・。

 

 

「アリア先生」

「あ・・・新田先生、こんにちは」

「こんにちは・・・と言っても、もうこんばんはの時間ですが」

「え・・・」

 

 

外を見ると、なるほど、もう日が落ちる時間ですね。

・・・そういえば、お腹も空きましたね。

確かに、こんばんはの時間ですね。

 

 

「・・・ネギ先生が見えませんな」

「ええ、もうお帰りになりました」

「ふむ・・・先日提出された英語の授業方針について確認したかったのですが」

「と、言うと?」

「ここなのですが・・・」

「ああ、これは・・・」

 

 

内容は単純な物で、指導綱領で規定された英語を卒業するまでに生徒に教えるために、どの単元をどの順序で授業に取り入れるか、そのことについての物でした。

まぁ、卒業までに最低限はやっておかないと、高校で困りますからね。

エスカレーターと言えど、まったくの無条件で上がれるわけではないですし。

 

 

「なるほど。それはわかりましたが・・・これはネギ先生の担当のはずでは?」

「一応、副担当なので」

 

 

私の表の仕事は、3-Aの副担任と英語の副担当です。

ことごとくネギ兄様のサポート役ですね。わかります。

 

 

「・・・アリア先生」

「なんでしょう? ・・・英語の中間テスト問題の締め切りは来週ですよね?」

「ええ、GW明けで構いませんよ」

 

 

ビビりました。一瞬GW前かと思いましたよ。

締め切りは大切です。これを守ることが、仕事における信頼への第一歩ですから。

今まで一度だって締め切りを過ぎたことがありません。

実はひそかな自慢だったりします。当たり前のことですけど。

 

 

「アリア先生、今日はもう良いですよ。女子寮の管理人も兼任しておられるのでしょう?」

「あ、大丈夫ですよ。ある程度は朝にやっていますので」

「朝に?」

「ええ、朝に」

 

 

抜かりはありませんよ。

帰った後は、管理人室に設置してある要望書入れから、生徒の要望を確認して翌朝の仕事を決めたり。

緊急の用件の場合は、ここに連絡するよう掲示してありますし。

 

 

・・・なんですか新田先生。そんなに険しい顔をして。

何か、ミスをしたでしょうか、私。

 

 

「失礼ですがアリア先生。机の上の書類は?」

「え・・・あ、左が処理済み、右が未処理の書類です」

 

 

書類の整理は大事なことです。

わからなくなったりしたら、大変ですから。

 

 

新田先生は険しい表情のまま書類が積まれている私の机を見た後、綺麗に整頓された隣の兄様の机を見て。

・・・おおぅ、なんだか一段と眉間の皺が深く。

 

 

「・・・ちなみにアリア先生、今朝は何時に起きましたか?」

「今日ですか? えっと・・・3時半くらいかと」

 

 

仕事のスタートが4時過ぎですから、たぶんそれくらいだと思いますけど。

 

 

「何時に眠られましたか?」

「え・・・と、10時だと思います」

 

 

別荘使ってるんで、時間の感覚がたまに狂うんですよね。

でも、たしか昨日は10時に就寝したはず。

なんでも、10時から2時は眠らないと身体の成長に悪いって聞いたので。

 

 

「・・・あの、新田先生?」

 

 

なんだか雰囲気が、ものすごく怖いんですけど。

新田先生は片手で眼鏡を押し上げながら、もう片方の手で私の頭に触れました。

・・・・・・?

 

 

「・・・今日はもう帰りなさい」

「え、でもまだ・・・」

「そして明日の朝は私の所に来るように。お話があります」

 

 

・・・絶対にこれ、叱られますよね。

思い当たる節が、あんまりないです。

 

 

そして新田先生は、私に背を向けて歩き出しました。

スーツが翻って、かなりかっこいいです。

 

 

「あ、あの、新田先生」

「私はこれで。少々・・・・・・学園長に話さねばならないことができたので」

 

 

そのまま、職員室を出ていく新田先生。

あれ、気のせいですかね。今新田先生の身体からオーラ的な物が見えたような・・・。

学園長に話って、なんでしょうね?

 

 

「あはは、これは新田先生、かなりキテるなー」

「あ、瀬流彦先生」

「やっ」

 

 

いつの間にか側まで来ていた瀬流彦先生は、いつもの笑顔で手を振ってきました。

最近、良く見かけますね。いろんな所で。

 

 

「あ、それでさアリア君。GWのことなんだけど」

「はい、私は4日にお休みをいただいております」

「うん。それなんだけど、たぶんGW中全部お休みになると思うよ」

「・・・でも、それだと」

 

 

生徒がお休みでも、教師は違います。

授業の下準備とか、やることが多いのです。

特に私は、学生寮の管理人でもありますし。

 

 

「先生達のお休みを割り振るのは主任の仕事。で、その主任の新田先生があの様子だから」

「はぁ・・・」

「それにアリア君、明らかにオーバーワーク気味だから、無理にでも休ませるつもりなんじゃないかな?」

 

 

たぶんだけどね、と、瀬流彦先生は言いました。

休んでいないといっても、別荘使ってるんで・・・。

逆に言うと、別荘がないとヤバいということですが。

 

 

「あ、そうそう。この間学園長に、アリア君とネギ君のことを聞かれたよ」

「・・・そうですか」

 

 

まぁ、予想の範囲内ですね。

今の所、私と接点のある魔法先生は瀬流彦先生だけですから。

 

 

「どっちも良い子だって答えておいたから」

「そ、それは・・・」

 

 

たぶんですが、学園長の求めてる答えは別の物だと思うんですけど。

瀬流彦先生も、それは知ってるはずでしょうに。

最後に瀬流彦先生は、私の耳元に口を寄せて、小声で。

 

 

「・・・本国にせっつかれてるって、ぼやいてたよ」

「・・・そうですか」

「じゃあ、僕も上がりだから。ちゃんと休みなよ?」

「はい。ありがとうございます」

 

 

そのまま手を振って、瀬流彦先生を見送ります。

・・・本国。元老院ですか。

なんとなく、顔に触れます。

 

 

かつてスタン爺様が、「母親に似ている」と評した私の容姿。

実際に会ったことがないのでわかりませんが・・・おそらく、より似てきていることでしょう。

・・・お母様に。

 

 

「・・・帰りましょうか」

 

 

夜勤の先生に挨拶をして、帰るとしましょう。

あまり遅くなると、エヴァさん達が心配しますからね。

10時頃には、別荘に入らないと。

そういえば、そろそろ別荘内で一年近くが経ちそうですね。

今日にでも、『魔女の若返り薬』を飲んでおきましょうか。

 

 

「五月にしては、肌寒い夜ですね・・・」

 

 

書類を片づけて、学校を出ます。

夜と言っても、まだ7時にもなっていませんが。

なんだか、人通りが少ないですね。

夕食は外で食べましょうか。今から作るのも面倒です。

それに、別荘に行けば茶々丸さんが何か作ってくれるでしょうし。

 

 

別荘を使っているからでしょうね。一日がすごく長く感じます。

普通の人よりも、長い時間。

こういうのって、結構・・・。

 

 

 

「・・・仕事は、終わったのかい?」

 

 

 

・・・校門を過ぎた所で、声。

振り向けば・・・。

どくん、と、心臓が強く鼓動したかのような感覚。

 

 

 

「良い夜だね。アリア」

 

 

 

白い髪に、まるで感情の見えない瞳。

端正な作りの、でも表情のあまり動かない顔に、依然と変わらない詰襟姿。

 

 

・・・貴方、登場する場面と場所を間違えていませんか?

貴方が今もたれかかっているのは、どこの学校の校門だと思っているんですか。

大胆不敵にも、程があるでしょう。

 

 

 

「もし、キミの予定が空いているのなら・・・どうかな」

 

 

 

そのまま、私に近付いてきて・・・眼前に。

・・・顔、近いですよ。

 

 

 

「一緒に、食事でも」

 

 

 

・・・少し細められた、無感動な瞳。

その瞳に、吸い込まれてしまいそう。

ぞくぞく、します。

 

 

そのまま・・・どれくらい経ったでしょうか。

数秒かもしれませんし、数分かもしれません。

もしかしたら、永遠であったかもしれません。

 

 

私は、自分の口元が綻ぶのを自覚しながら・・・。

ゆっくりと、答えました。

 

 

 

「・・・喜んで」

 

 

 

そういえば、異性と二人きりで食事、それもディナーをご一緒するのは初めてですね。

貴方はいったい、私の初めてをいくつ持っていくつもりなのでしょうね・・・。

 

 

 

 

 

・・・フェイトさん。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
じわじわと色々な物が動き出した。そんな話でした。
というかフェイトさん。
貴方ここで出てきてどうするんですか。
せめて悪魔襲来まで待てば良いのに。
それとも、そんなに・・・。


今回の使用魔法具は以下の通り。
漫画「レストレイション・マジック」より、『レストレイション』を。
提供者は月音様です。
ありがとうございます。


アリア:
さて次話は・・・。
・・・・・・まぁ、そういうことです。
では、またお会いしましょう。


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