魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第39話「逢瀬」

Side 学園長

 

「は、話はわかったぞい」

「どのようにわかったのか、明確に言葉にしていただきたいですな」

 

 

こ、これはいったい、どういうことじゃ。

今日の仕事も終わりさて帰宅と言った段になって、新田君が来たのじゃが・・・。

突然、「一部教師の労働環境の不均衡」について糾弾し始めた。

 

 

・・・要約すると、「ネギ君を働かせろ。アリア君を休ませろ」なんじゃが・・・。

目がマジじゃ。本気と書いて、マジじゃ。

 

 

「ま、まぁ、ネギ君も頑張っておることじゃし・・・」

「具体的に、どのように頑張っているのですかな」

「そ、それはじゃの・・・」

 

 

新田君は一般人じゃからのぅ。説明できん部分が多すぎるわい。

・・・というか、認識阻害の魔法が弾かれている気がするのは、気のせいじゃよな?

新田君、一般人じゃよな?

 

 

「では、くれぐれも・・・・・・くれぐれもお願いします」

「そんなに念を押さんでも・・・」

「明日の朝までに処理されていなかった場合」

「な、なんじゃな?」

「・・・言われねばわかりませんか?」

「・・・・・・いや、十分じゃ」

 

 

どんなことになるのか、知りたくもないわい。

新田君は生徒から恐れらてはいるが、逆に慕われてもおる。

ある意味、下手な暗示よりも強い関係じゃな。

 

 

純粋な教育者ではいられぬ、我が身が辛いの。

というか、本当にどうなるんじゃろ・・・。

 

 

部屋から出ていく新田君を見送りながら、そんなことを考えた。

 

 

しかし、どうするかの・・・。

ネギ君の仕事量を増やすのはできるだけ控えたい所じゃ。

魔法球でも取り寄せるかの・・・しかしあれは問題も多いしのう。

いっそのこと、図書館島の地下に・・・。

 

 

「・・・なるほどなぁ」

 

 

突然、がしっ・・・と、後頭部を掴まれた。

な、何者・・・というか、声に聞き覚えが。

 

 

「ここ数日、妙に疲れた様子で別荘に倒れこんでくると思ったら・・・そういうことか」

「ケケケ・・・マエカラコノアタマ、キッテミタカッタンダヨナ」

 

 

ふ、ふおおぉぉ、な、何か頭に鋭利な物が突き付けられておるぅ~・・・。

というか、もう完全に誰かわかってしまったのじゃが・・・。

 

 

「動かないでください」

 

 

がしょんっ!(ズドンッとも聞こえた)。

応接用のテーブルを踏み潰し、もはや床が沈んどるんじゃないかという勢いでわしの眼前に置かれたそれは、なんというか・・・。

大砲じゃった。

 

 

「ふ、ふぉおおおおおっ!?」

「『セワード・アーセナル 165mm多目的破砕・榴弾砲』。木っ端微塵になりたくなければ動かないでください」

「安心しろ、簡易版だ。完全版は転移しきれん。だが威力は十分だから安心しろ」

「イチゲキヒッサツヲアナタニ♪」

 

 

どこが簡易版!?

え、わし死ぬの? ここで死ぬの?

 

 

「な、なんの用でここに」

「うん? いやいや、どこぞの馬の骨から連絡が来てな」

 

 

まぁ、今回のことでポンコツに格上げしてやってもいいが。

そう言って嗤う。だ、誰のことじゃろ?

 

 

「さて、じじぃ。今から私が言うことに「イエス」か「はい」で答えろ」

 

 

それ、拒否権なくね?

せめて、曾孫の顔を見たかっ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

一瞬、自分がどこにいるのかわからなかった。

 

 

私は校門前にいたはず・・・。

しかし今私の目の前に広がっているのは、果てしない雲海。

そして至る所に浮かぶ、巨大な直方体の塊。

私は、その中のひとつの上に立っています。

これは・・・。

 

 

「どうかしたのかい?」

「・・・!」

 

 

振り向けば、すぐ後ろに、フェイトさんが。

いつ着替えたのか・・・白いスーツ姿に。

いえ、本当にいつ着替えたんです?

 

 

「疲れたろう、座ると良い」

 

 

フェイトさんが示した先には、2人分の食事が用意されたテーブル。

シックな作りの椅子のひとつを軽く引いて、私を見ると。

 

 

「どうぞ、お姫様」

 

 

・・・えっと、対処が追いつきません。

そこでふと、自分の服装を見ます。こちらもスーツ。

むぅ・・・。

 

 

「・・・・・・フェイトさん」

「なんだい?」

「10秒ほど後ろを向いていてください」

「・・・なぜ?」

「いいですから」

 

 

繰り返して言うと、フェイトさんはゆっくりと後ろを向きました。

その間に、一枚のカードを創造。魔力を注いで、効果を発動。

次の瞬間には私はスーツではなく、黒のイブニングドレス姿に。

 

 

・・・魔法具、『イブニングドレス』

お着替え用魔法具のひとつです。用意しておいてよかった。

ローブ・デコルテ・・・胸元が少し開くデザインなので、少々恥ずかしいのですが。

 

 

「もういいですよ」

「・・・・・・では、改めて」

 

 

ゆっくりと振り向いたフェイトさんは、しばらく私を見た後、何事もなかったかのように椅子を引いたままの体勢で一礼して。

 

 

「・・・どうぞ、お姫様」

「ありがとうございます」

 

 

私が座る動作に合わせて、フェイトさんが椅子を前へ。

・・・それにしても、何も無しですか。まぁ、急ごしらえですしね。

でも、何か一言くらい・・・。

 

 

「・・・綺麗だよ、アリア」

「・・・っ」

「色違いの瞳に、良く映える」

 

 

み、耳元で囁かないでくださっ・・・!

 

 

「さて、いただこうか」

 

 

そしてやはり何事もなかったかのように、向かい側の席に座るフェイトさん。

その飄々とした態度が、なんだか気に入りません。

・・・くぬやろー・・・。

 

 

「肉と魚はどちらが好きかな? 一応両方用意したんだけど」

「・・・お魚で」

「では、こっちだね」

 

 

ある程度整え終えた後、フェイトさんがグラスに飲み物を注ぎます。

それを受け取りつつ・・・。

 

 

「あの・・・」

「何かな?」

「私、一応未成年なんですけど・・・」

「ノンアルコールだから問題ない」

 

 

そうですか、用意の良いことで。

フェイトさんが顔の高さにまでグラスを持ち上げるのに合わせて、私もグラスを持ちます。

 

 

「乾杯」

「・・・乾杯」

 

 

ディナーの、始まりです。

 

 

 

 

 

Side 環

 

「な、なななな・・・!」

 

 

さっきから、暦が下の方を見ながら、わなわなと震えてる。

私達がいるのは、フェイト様達のやや上空、距離は5キロ。

 

 

「暦、見えるの?」

「見えますっ! フェイト様の凛々しいお姿がばっちりと! ネコなめんなっ!」

 

 

ネコが目が良いなんて聞いたことないけど。

それに暦は豹族で厳密にはネコじゃない。

 

 

「・・・だ、誰あの子!?」

「アリア・スプリングフィールド。サウザンドマスターの娘」

「それは知ってるっ!」

「フェイト様が勧誘するつもりの子」

「そういうことでもなくてっ!」

 

 

じゃあ、何。

 

 

「そもそも迎えに行こうって言い出したのは暦」

「だってこの間の通信でフェイト様の様子がいつもと違ったし、ちょうど旧世界に来てたし・・・」

 

 

私はその通信を聞いていないから、よく知らない。

暦についてきただけ。

 

 

「でも暦、フェイト様にお願いされて嬉しそうにしてた」

「だ、だって任務以外でお願いされたの初めてだったし・・・お着替えを手伝えたし・・・」

 

 

顔を押さえて悶え出した暦は放っておいて、私はアーティファクトの維持に専念する。

アーティファクト『無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)』。

これは、無限の拡がりを持つ閉鎖結界空間を発生させるアーティファクト。

私の力。

 

 

魔法理論的には、私を殺しでもしない限り出ることはできない。

もちろん、私が任意で出入りを認めない限りはの話。

 

 

「わ、私だって2人きりで食事なんてしたことないのに・・・」

「大丈夫、暦。私もない」

「うう・・・」

 

 

うなだれる暦。

なんでそんなに落ち込むのかわからない。

 

 

私達はフェイト様に救われた。その恩返しのために生きている。

フェイト様の望みが叶うなら、それ以外はいらない。

だから、これでいい。

 

 

・・・これでいい、はず。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「・・・それで」

 

 

食事を楽しんでいると、アリアが話題を変えてきた。

話題と言っても、それほど深い話はしていないけどね。まだ。

 

 

「今日はどういったご用件ですか?」

「キミに会いに来た・・・という理由では、不足かな」

「・・・本気ですか?」

「間違いではないよ」

 

 

そう、間違いじゃない。

僕はキミに用があって来たんだからね。

 

 

「キミに会うために、ここに来たのさ」

 

 

そしてそんな僕の言葉に、彼女は少し顔を赤らめて俯いた。

その姿に、少し可笑しくなる。

・・・少し前までは、なかったはずの感情だ。

感情・・・。

 

 

・・・そうだね。

もうひとつ、用件があるとするなら。

 

 

「・・・すまなかった」

「はい?」

「京都でキミを刺したことを、まだ謝罪していなかった」

 

 

最初にしておくべきだったね。

 

 

「謝罪して終わらせるつもりはないけれど・・・まずは、言わせてほしい」

「・・・・・・」

「すまなかった」

 

 

僕がそう言った時の彼女は、なんというか軽く驚いているようだった。

ぽかん、という表現があいそうな表情。

 

 

「・・・アリア?」

「え・・・ああ、いえ! いいんですいいんです。はい。結果的に何もありませんでしたし!」

 

 

・・・かなり危ない状況だったと思うんだけど。

本当なら、ネギ・スプリングフィールドを貫くはずだったあの一撃。

あれをアリアが受けた時は、驚いた。

まさか、死にかけてまで兄を庇うとは思わなかった。

兄・・・兄か。

 

 

「お兄さんが、大切なんだね」

「・・・いや」

 

 

その時のアリアの反応を、どう言えばいいのか。

 

 

「いやいやいやいや、違いますよ」

「違うのかい? ・・・てっきり」

 

 

てっきり、兄が大切だから庇ったものと思っていたよ。

でもアリアは、まるで呪文のように「いやいや」と言い続けていた。

むしろ「やいやい」と言われてるんじゃないかと疑ってしまいそうになる。

 

 

「兄のことは、大切じゃない?」

「違いますよ! なんでよりにもよってフェイトさんがそんなこと言うんですか!」

「・・・すまない。気を悪く」

「いくらフェイトさんでも言って良いことと悪いことがあります! あ、ああ、あ~! 気付きました! 今気付きましたよ! フェイトさん、私をあのファザコンと同類だと思っていたんですね! ああもう、シリアスキャラだと思って油断してましたぁ! 覚悟しなさい! 覚悟してくださいよ! これ食べたら私が兄様をどんなに嫌いか、朝まで聞かせてさしあげます!」

 

 

なんだかよくわからないけど、気を悪くさせてしまったらしい。

彼女はプリプリしながら、食事に戻っていく。

メインの魚をフォークで刺している。かなり凶悪に。

これまでは音ひとつ立てずに食べていたのに・・・。

 

 

まぁ、彼女に朝まで付き合うのも、悪くはないけれど・・・。

さすがに、そこまで環君や暦君に負担はかけられないし。

僕も時間が押していてね。

 

 

それよりも、アリア。

 

 

兄が嫌いだと言うのなら・・・。

兄が大切ではないと、言いきれるのであれば。

それさえわかれば、それでいい。

それなら。

 

 

「それなら・・・」

 

 

それなら。

 

 

「アリア」

「なんですか?」

「・・・僕の仲間にならないか?」

 

 

ぴたり、と、彼女の手が止まった。

ただ自分の言葉に、少し違和感を感じる。

何か違うな。

 

 

「キミに、僕の仲間になってほしい」

 

 

違う。しっくりこない。

アリアは、ただ僕を見つめている。

白い髪の間から、色違いの瞳(オッドアイ)が僕を見つめている。

そこにどんな感情が込められているのか、僕にはわからない。

 

 

「キミに・・・」

 

 

次の言葉を発した瞬間、アリアの指が、グラスを倒してしまった。

同時に、僕は納得できた。

 

 

「僕と一緒に、来てほしい」

 

 

アリアの瞳が、揺れた気がした。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

思わず、両手で顔を覆ってしまいました。

顔が熱い。

フェイトさんの顔を、見ることができません。

 

 

これまでの人生(前世含む)で、こんな経験は初めてです。

これまで・・・。

 

 

これまで私を、私だから欲しいと言ってくれた人間が、いったい何人いたでしょうか?

思わず倒してしまったグラスから飲み物がこぼれ、テーブルクロスに染みを作っています。

それすらも、今はどうでも良い。

今は。

 

 

「・・・わ、わた、し・・・は」

「うん」

「私は、フェイトさんの組織のことをよく知りません」

 

 

いまいち何を目的にしているかがわからないので。

お父様のチームと敵対していたという情報しか、持っていないのです。

両手を下ろして、フェイトさん・・・は、見れません。俯いておきましょう。

 

 

「教えるよ、全て。キミが・・・来てくれるならね」

「・・・先に教えましょうよ」

「秘匿情報が多くてね。僕も外部の人間には漏らせないんだ」

 

 

まぁ、そうでしょうね。

むしろここでベラベラ喋られても困りますし。

 

 

「それで、返事はもらえないのかな? なんなら時間を置いても構わないけど」

「そう、ですね・・・」

 

 

返事。

べ、別に愛の告白とかじゃないのですから、深く考える必要はないですよね。

フェイトさんの組織・・・「完全なる世界」でしたか?

そこには興味ないんですよね。

でも・・・。

 

 

ちらりと、フェイトさんを見ます。

彼は、静かに私を見ていました。

 

 

フェイトさん。

 

 

フェイトさんと一緒に、行く。

フェイトさんについて行って、一緒に世界を敵に回す。

悪くない、と思います。

そんな未来も、悪くないかもしれない。

 

 

・・・でも。

 

 

「・・・フェイトさん」

「ああ」

「貴方と共に行く未来も、悪くない。それが私の、正直な気持ちです」

「なら・・・」

「いいえ」

 

 

もし私が、一人のままだったなら、もしかしたなら。

麻帆良に来る前の私であったなら、もしかしたなら。

修学旅行までの時の私だったなら、もしかしたなら。

 

 

「でもそれは、仮定の話に過ぎません」

「そうだね。僕も仮定の話は好まない」

 

 

一も二もなく、貴方に縋ったかもしれない。

貴方の提案に、乗ったかもしれない。

でも。

 

 

「答えは、ノー、です。フェイトさん」

「・・・理由を聞いてもいいかな?」

 

 

でも、今の私には。

 

 

「・・・家族が、いますので」

「・・・ネギ・スプリングフィールド?」

「まさか」

 

 

そんな理由なら、即座に頷いていますよ。

兄様・・・いえ、ややこしいと言うのなら、あえてこう呼びましょう。

 

 

「『ネギ』のことは、どうでもいいです」

「なら、誰のことを言っているんだい?」

「知りたいですか?」

「ああ、とてもね」

 

 

私の、家族。

 

 

「その質問に答える前に、ひとつだけ、言っておきたいことがあります」

「聞こうか」

「フェイトさん。貴方は先ほど、私に「ついてこい」と、言いましたが・・・」

 

 

エヴァさんは、言うことがいつも厳しいけど、本当はとても優しくて。

茶々丸さんは、いつもとても優しいけど、時々過保護で。

チャチャゼロさんは、いつも刃物振り回すけど、実は頼りになるお姉さんで。

さよさんは、普段はポヤポヤしてるけど、意外と物知りだったり。

スクナさんは、最近畑仕事ばかりしてるけど、一番みんなのことを想っています。

 

 

シンシア姉様、ネカネ姉様やアーニャさん、スタン爺様達とは違う、もうひとつの家族。

裏切りも背徳もない、魂の血族。

やっと手に入れた、私の家族。

離れたくない。

家族はいつも、一緒だから。

 

 

「フェイトさん。貴方こそ、私の所に来ませんか?」

「何・・・?」

「私は貴方に、来てほしいです」

「・・・・・・・・・」

 

 

一緒に。

そう言うと、フェイトさんは固まってしまいました。

理解できないと言う顔、そして、理解したと言う顔。

そして・・・。

 

 

「・・・無理だ」

「でしょうね・・・なので私は家族のことは教えません。貴方だって貴方の組織のことを教えてくれないのです。お互い様ですよ」

「確かにね」

 

 

それに、私には目的もありますし。

フェイトさんの組織でもできそうな感じはしなくもないですが・・・。

 

 

他にも、面倒を見なければならない生徒達がいますしね。

木乃香さんと刹那さんを筆頭に、3-Aの生徒達を無事卒業させるまでは。

・・・あら、こう考えると意外と身動きがとれませんね、私。

 

 

「・・・フェイトさん」

「なんだい」

「それでも、私が欲しいですか?」

「欲しいね」

 

 

そ、そこで即答されるとなんとも・・・。

 

 

「私も、貴方が欲しいです。フェイトさん」

「そう、嬉しいよ」

「京都でのあの一瞬が、忘れられません・・・」

 

 

あの、一瞬。

初めて出会った時に感じた、「何か」。

貴方と戦って、生まれかけた「何か」。

貴方に貫かれた時に聞こえた「何か」。

 

 

その「何か」が、私に一種の飢餓感のような感情を植え付けてくる。

貴方を。

フェイトさんを、手に入れろと。

 

 

そしてこれは、フェイトさんも感じているかもしれない、感情。

飢餓感。

必ず貴方を手に入れる。

 

 

「だけど、キミはその家族とやらに縛られていて」

「貴方は、組織によって所有されている」

 

 

私は貴方の所に行けなくて。

貴方は私の所に来られない。

そこから導き出される答えは、ひとつだけ。

 

 

これは2人だけの、宣誓。

 

 

「フェイトさん・・・」

「・・・アリア」

「貴方を」

「キミを」

 

 

 

「「奪い取る」」

 

 

 

フェイトさんの視線を、真っ直ぐに受け止めます。

足を組み、笑みを浮かべます。

フェイトさんは表情を変えずに、私を見つめています。

 

 

「必ず貴方を、その組織だか何だかから引き剥がしてみせましょう」

「そう。なら僕も言おうか。必ずキミを、キミの家族から引き離す」

 

 

言っていることは同じ。そして単純です。

「欲しいから奪う」。それだけですね。

 

 

・・・素敵。

私は、力強くリードしてくれる男性が好きですよ?

フェイトさん。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「それで、どうするの?」

 

 

略奪と言うのは気が引けるけど、そうしないと来てくれないのであれば、そうするしかない。

そして現状、環君のアーティファクト内に閉じ込められているキミは、袋のネズミ。

どうすることもできない。

 

 

例外は、環君を殺してしまうことだけど。

僕の目の前で数キロ先の環君の所まで行き、倒すことはできない。

まぁ、本来魔法世界人である彼女達はここには来れないはずだけれど、手段と言うのはいつでもある物でね。

 

 

「・・・ここからの脱出は不可能。そんな顔をしていますね」

「・・・表情は変えていないはずなんだけど」

「なんとなく、わかりますよ」

 

 

そう言って彼女は、まるで僕を挑発するように笑った。

その両眼が、薄い赤色に輝いて見える。

これは・・・。

 

 

ビシィッ!

 

 

世界に、亀裂の走る音がした。

な・・・。

 

 

「そ、そんなバカな!?」

 

 

突如、僕の右隣に出現した暦君が、驚きの声をあげる。

左隣に、環君が。

どうやら、アーティファクトの附属効果で作り出した幻影のようだね。

 

 

だがそのアーティファクト『無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)』が作り出した閉鎖空間が、みるみる内に浸食され、外部との境界が失われていく。

明らかに、環君の意思に反した現象だ。

 

 

「あら、そんな可愛らしい子を2人も侍らせて、楽しそうですね?」

「・・・・・・まぁ、ね」

 

 

どういうわけか、答えにくかった。

環君と暦君が一瞬嬉しそうな顔をしたのは、気のせいということにしておこう。

 

 

「・・・この世界は完璧です。魔法理論的に外界と完全に分離されています」

「そ、そうですよ! なのになんで、こんな・・・」

「・・・ありえない」

「ええ、結構解析に時間がかかりました。でも、私の瞳からは逃れられない・・・」

 

 

そういえば、アリアは京都でも僕の魔法をいくつか無効化して見せたね。

そして今、アーティファクトにすら対抗できることを示した。

 

 

とん、と、彼女がテーブルを叩いた、瞬間。

 

 

「堕ちろ・・・そして、巡れ」

 

 

まるでガラスが砕けるような音が響き、空間が元に戻る。

そこから見えるのは、麻帆良の夜景。

 

 

「なんだ・・・どこかと思えば、学園の屋上だったんですね」

 

 

意外と近かったですね。

そう言って、彼女は笑う。

その笑みは、とても。

 

 

「そ・・・それでも、3対1です!」

「逃がさない・・・」

「ええ、これは厳しいですね。一人なら」

「アーティファクト、『時の回廊(ホーラリア・ポルティクス)』・・・敵陣遅延!」

 

 

暦君のアーティファクトの効果で、アリアの周囲の空間の時間が遅延状態になる。

つまり、アリアはゆっくりとしか動けない・・・。

 

 

「少々、格好をつけさせてもらえるのであれば」

「なっ・・・」

 

 

いつの間に、背後に。

いやこれは、京都でも一度見た。

 

 

「『時(タイム)』は、私の配下のカードです・・・なんて」

 

 

彼女の手には、一枚のカード。仮契約カードとは、また別の種類。

アデアット。

そう呟いた彼女の手には、黒い魔本。

 

 

「さて、それでは・・・」

「あ・・・」

「ま、待ちな・・・」

「嫌です♪ 『テレポート』」

 

 

最後に、にこりと微笑んで・・・。

アリアは、光の中に消えた。

転移か・・・『追跡』ができない所を見ると、普通の魔法じゃないね。

彼女の言う、家族とやらの情報もない。個人で接触したわけだからね。

 

 

彼女の生徒やウェールズの人間を人質にとることもできるけど。

アリアに嫌われては意味がないし、何より一般人に危害を加えるのは本意ではない。

 

 

「フェイト様!」

「いいよ2人とも。追わなくて」

「でも」

「今日はご苦労さま。僕の身勝手に付き合わせて、悪かったね」

 

 

いえそんな、と慌てる暦君達をそのままに、僕はアリアの消えた場所を見ていた。

主を失った椅子が、寂しげに存在している。

・・・アリア。

 

 

今日の所は、ここまでだ。

 

 

「いつか・・・」

 

 

いつか、キミを攫いに行くよ。

 

 

そう呟いて、僕も席を立った。

もともと、無い時間を無理矢理割いてここに来ているんだ。

これ以上は留まれない。

 

 

「戻ろうか、暦君、環君」

 

 

とりあえずは、僕の居場所へ。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「遅かったな」

 

 

管理人室の前で仁王立ちしていると、どういうわけかドレス姿のアリアが帰ってきた。

近くで転移反応があったから、気付いてはいたが・・・。

 

 

「こんな時間まで、どこをほっつき歩いていた?」

「・・・・・・し、仕事?」

「私の目を見て話せ」

 

 

そう言うと、アリアはますます視線を逸らしてきた。

良い度胸だ、被告人の分際で。

両手で顔を挟んで、もにもにしてやる。

 

 

「ひ、ひゃふぇえふらふぁい~」

「やかましい! 見え透いた嘘を吐きおってからにこんガキャーっ!!」

 

 

もにもにもにもにもにもにもにもにもに。

・・・いや、それ以前に。

 

 

「なんだそのいかがわしいドレスはあぁぁっ!!」

「いかがわしい!? だったら普段エヴァさんが着てるドレスはどうなるんですか!?」

「私はいいんだ!」

「なんという理不尽。でも納得できちゃいます・・・!」

「マスター」

 

 

茶々丸が、じっと私を見つめてきた。

な、なんだ・・・?

 

 

「アリア先生も、背伸びをしたい年頃なのです」

「お、お前はいつもアリアの肩ばかり持つんだな!?」

「いえ、若干私も傷つきます・・・せ、背伸びって・・・」

 

 

ふん・・・まぁ、良い。説教は後だ。

その前にやることがある。

 

 

「エヴァさ~ん」

 

 

来たか。

バカ鬼が、大量の段ボールとさよを持ってきた。

・・・待て。なんでさよを持ち運んでるんだ?

 

 

「面倒だったから、さーちゃんを持って、その上に段ボール乗せた」

「・・・まぁ、いいが」

 

 

いちいち突っ込んでいられん。

 

 

「それで吸血鬼、スクナは何をするんだ。収穫か?」

「話を聞いてなかったのかお前・・・」

「ケケケ、ヒッコシダロ」

「引っ越し?」

 

 

頭上に「?」を浮かばせながら、アリアが問う。

それに対し、手を振りながら答える。

 

 

「ああ、お前は今日付けで女子寮管理人を解雇された」

「解雇!?」

 

 

む、もっと違う表現だったような気もするが・・・。

まぁ、結果が同じならいいか。

 

 

「明日の昼から、業者だか何だかが管理する。お前はお役御免と言うわけだな」

「え、え~・・・なんでいきなり」

「ふ・・・さぁな」

「エヴァさんが学園長先生にお願いしたらしいです」

「さよ! 余計な口を挟むな!」

 

 

は~い、と返事だけは良いさよ。

まったく、茶々丸もそうだが、ウチの連中は私を何だと思っているんだ。

 

 

「はぁ・・・まぁ、仕事が減るのは大歓迎ですが」

「なんだ? 先に説教されたいのか?」

「先にも後にも嫌です。それで・・・私の住居はどこに?」

「私の家に決まっているだろ」

 

 

ふん・・・なんだその顔は。

こうでもせんとお前、そのうち過労死するだろうが。

10歳で過労死とか、どんな人生だ。

まぁ案外、あの新田とかいう教師の言が功を奏したのかもしれんが。

 

 

「・・・エヴァさん」

「・・・・・・なんだ」

 

 

嫌なら言え、無理強いはせんぞ。

 

 

「・・・ありがとうございます」

 

 

・・・ヘラヘラ笑うな、バカが。

面倒ばかりかけるガキだ。

どうせ今日も面倒なことを背負い込んできたんだろう。

 

 

放っておくと碌なことにならん。

しっかりと、目の届く範囲に置いておかんとな。

そうでないと、勝手にどこかに行きかねん。

妙な所ばかり、あのバカに似おって。

 

 

まったく、手のかかるガキだよ、お前は。

 

 

・・・アリア。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
疲れました。
慣れないことをするもんじゃありませんね。
てっとり早く略奪すればいかったですかね。
でも、たぶんフェイトさん私よりも強いんですよねぇ。


今回の魔法具は2つ。

セワード・アーセナル 165mm多目的破砕・榴弾砲 :
元ネタはフルメタルパニック。提供は景鷹様です。
イブニングドレス:黒鷹様の提供です。
ありがとうございます。

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