魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

45 / 90
第40話「錯綜の序盤」

Side エヴァンジェリン

 

限界だな。

茶々丸とチャチャゼロの攻撃をかわし続ける刹那を見ながら、そんなことを考える。

 

 

GWの間、私達はひたすらに刹那を苛めているわけだが・・・。

正直な所、戦士としての刹那はこれ以上鍛えようがない。

誤解のないよう言っておくが、刹那の才能がないと言っているわけではない。

 

 

「もはや茶々丸とチャチャゼロでは相手にならんか・・・」

 

 

最初は一分ともたなかった茶々丸達の連携を、今では掠らせもせずにかわし反撃すらしている。

刹那はもともと、精神的な面を除けば充分に強い。

ただ打たれ弱く、実力にムラがあった。それさえ除けば・・・。

 

 

「・・・!」

「神鳴流・・・(『Boost』)」

 

 

む、私としたことが。

考え事をしている間に前衛を抜けて来たらしい。

刹那の両腕の真紅の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』が、また段階を上げたのがわかる。

 

 

「斬岩剣!」

 

 

一瞬武装解除を唱えそうになったが、やめる。

刹那の左手には魔法反射の指輪がある。

生半可な魔法は効果が無い。

だが、いくら魔法具で能力を底上げしようとも・・・。

 

 

ズンッ・・・!

 

 

刹那の一撃で、地面が砕ける。

そんな見え見えの一撃に当たってやるほど、私は優し・・・。

 

 

「む・・・」

 

 

左の頬から、血が流れるのを感じる。

見れば左手にもう一本、剣を持っていたようだ。

その剣は、まるでパズルのように刀身が分裂した不思議な剣だった。

たしか『星の紋章(ムールドアウル)の剣』とか言ったか。

射程距離が変化する剣。

技の合間に放たれていたか。もう少し近ければ首が飛んでいたかもしれんな。

 

 

「(『Boost』)」

 

 

さらに、刹那の力が上がる。

なかなか鬱陶しいなアレ。

まぁ、実は刹那に傷をつけられるのはこれが初めてではない。

この別荘内の時間ですでに2カ月以上、刹那に稽古をつけてやっている。

これくらいの傷は何度もつけられている。

 

 

最初は、傷を付けた所で攻撃の手を緩めたりしていたが・・・。

 

 

「神鳴流・・・」

 

 

最近は、そんなこともなくなった。

なかなか良い面をするようになったじゃないか、刹那。

 

 

「斬魔剣!」

 

 

まぁ、だからと言って私に勝てるわけもないが。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「限界ですね・・・」

 

 

ぽつりと、そんなことを呟きます。

そんな私の目の前には、スクナさんと向かい合って座る木乃香さん。

2人の下には、陰陽術の方式で編んだ呪陣(魔法陣みたいなものです)。

 

 

もう数時間もああして見つめあっています。

当然ただ見つめあっているわけではなく、識神契約の最中。

今頃木乃香さんの精神はスクナさんが作り出している幻想世界の中で、試練に耐えているはずです。

イメージとしては、FF1○の召喚獣みたいな感じでしょうか。

 

 

とはいえここ2カ月間、進展がありません。

基本的な陰陽術は書物で学んだものの、実践的な技術はまだ未修得です。

 

 

「識神契約って難しいんですねぇ」

「喋ってる暇があったら制御続けてくださいね」

「はぁ~い・・・」

 

 

そう言いながらさよさんは、無詠唱の『魔法の射手』を20本ほど空中に維持しつつ、同じく空中の『アヒル隊』を動かし始めます。

『アヒル隊』は黄色いアヒル型の追尾型爆弾です。隊というからには複数あるわけで、今は5体。

 

 

そのまま『アヒル隊』めがけて『魔法の射手』を放ちます。

同時に『アヒル隊』は回避行動。攻撃と回避、両方を同時に処理していきます。

少しずつスピードを速めていき・・・最後には目にも止まらぬ速さで。

 

 

通常『魔法の射手』は一度放てば制御が効きませんが、さよさんの矢はほぼ無制限に制御することができます。

エヴァさんの教えた『魔法の射手』に、私が『複写眼(アルファ・スティグマ)』で術式を書き加えたオリジナルの『魔法の射手』。

正直魔法の錬度だけで見れば、もうネギ超えてるんじゃないかなーと思ってます。

 

 

「・・・20本追加」

「はぁ~い・・・」

 

 

ふよん、と無詠唱でさらに20本を追加するさよさん。

中級までの魔法をほぼ学び終え、最近はエヴァさんの課す無詠唱呪文の基礎訓練と私の魔法具の訓練ばかりこなしています。

ちなみにさよさんの得意な属性は闇、氷、風。

 

 

闇と氷が得意だとわかった時、一番喜んだのは実はエヴァさんです。

なんでしたか、「お前を悪の中ボスにしてやる!」でしたか。

 

 

「ふむ、だいぶ制御が上手くなったなさよ」

 

 

そんな所に、エヴァさん達がやってきました。

その後ろに茶々丸さんにチャチャゼロさんが。

さらにその後ろに、氷漬けにされた刹那さんが台車に乗せられています。

 

 

「・・・またですか」

「はい。マスターはまたやってしまわれました」

「問題ないだろ別に。木乃香の治癒術訓練にもなる」

「ケケケ、スゲーワルイカオデコオラセテタナ」

 

 

まったく、何かにつけて刹那さんを氷漬けにするんですから。

何回目ですかそれ。いい加減死ぬんじゃないですか?

 

 

「それで、木乃香はどうだ。進展があったか?」

「少しずつステージを進めてはいるようですが、契約には至っていません」

「バカ鬼だが霊格の高さは折り紙つきだからな。見習い陰陽師には厳しいだろう」

「ええ・・・しかしそれ以前に、限界です」

「刹那も限界だ。これ以上は効果が見込めん」

 

 

限界と言うのは、才能や身体が限界と言うわけではありません。

むしろ教える側、私達の問題です。

 

 

「これ以上は専門家の指導がいります」

「刹那は剣士として、木乃香は陰陽師としての指導者がな」

「はい」

 

 

いくら私やエヴァさんが木乃香さんに陰陽術の知識を詰め込んでも、また刹那さんに戦士としての戦い方を教えても・・・専門外のことは教えられません。

これ以上先へ進むためには、専門家の指導がいります。

 

 

剣士と、陰陽師。

心当たりが無くはないですが、別荘では無理ですね。

 

 

「茶々丸さん、外の時間は?」

「5月5日の朝4時になります」

「ふむ、ではもう一日二日したら、ここを出るか・・・お?」

「あ・・・」

 

 

空中で、ついに制御に失敗したのか『アヒル隊』が爆散していました。

2分ですか。まぁ、こんなものでしょう。

 

 

「こっちも終わったんだぞ」

 

 

のしのし歩きながら、木乃香さんを抱えたスクナさんがやってきました。

どうやらダウンしたようですね。

 

 

「どうですかスクナさん。木乃香さんは?」

「ダメだぞ」

 

 

木乃香さんを「友達」と呼んでいるスクナさんが、ここでは首を横に振ります。

 

 

「この調子じゃ、スクナの王にはなれないぞ」

「いつになく厳しいなバカ鬼」

「こればっかりは、友達でもダメだ」

 

 

これだけ聞くとスクナさんが厳しいように聞こえますが、その実木乃香さんのことを想っての発言でもあります。

まがりなりにも「神」の名を持つスクナさんです。

中途半端な形での契約は、逆に木乃香さんの寿命を縮めることになりかねません。

 

 

「・・・難しいですねぇ」

 

 

改めて、人を育てることの難しさを学びました、まる。

 

 

 

「・・・し、死ぬかと思った」

 

 

ちなみに木乃香さんがダウンしたので、結局刹那さんは自力で氷結を解除していました。

 

 

 

 

 

Side メルディアナ校長

 

「・・・その報告に、間違いはないかの」

「残念ながら、事実です」

 

 

ドネットの報告はいつも正確だ。

それは、ワシが一番よく知っておることだ。

だがこの時ばかりは、間違いであってほしかった。

 

 

ヘルマン卿を封じた『封魔の瓶』が、何者かに奪われたなどと。

・・・スタンに詫びねばならんことが、また増えたな。

 

 

「・・・行方は?」

「わかりませんが、おそらくは・・・」

「麻帆良・・・いや、ネギとアリアの所の可能性が高いの」

 

 

というよりも、それ以外に伯爵を使う理由が思い浮かばん。

メルディアナでも、地下のあの場所に次いで厳重に保管していたはずのあの瓶を簡単に奪えるほどの相手となると・・・。

 

 

「黒幕は元老院でしょうか?」

「確証がないことを言うものではない」

 

 

とはいえ無関係とも断言できん。

全体ではないにしても、一部が噛んでいる可能性が極めて高い。

 

 

「やはり、手元に置いておくべきだったかの・・・」

 

 

だがゲートにも近く元老院の影響が強いメルディアナでは、いつまでも安全を保証できなかった。

だからネギの精神的な未熟に目を瞑ってでも、2人を近右衛門の所へ預けた。

特にアリアの存在を、可能な限り元老院の目の届く範囲外へやりたかった。

 

 

麻帆良はメルディアナと違い自治が認められた場所だ。

さらに言えば、大人の魔法使いも数多く在籍しておる。

元老院の直接的な影響力が無く、ネギとアリアが育つまで安全を保証できる場所が他になかった。

 

 

「・・・とにかく、麻帆良に警告を発しなければならん」

「私の方でも個人的なルートで伝えてみます」

「頼む」

 

 

本来なら何事かが起こる前に手を打つのがワシの仕事だが、今回は後手に回ってしまったようだ。

今はともかく、できることをするしかない。

打てる手を全て打ち、あの2人を、ワシの孫達を守る。

 

 

ドネットが退出した後、引き出しの奥に隠してある小箱を開ける。

そこには麻帆良に行ってからも定期的に届く、アリアからの手紙が保管してある。

 

 

『親愛なるお爺様へ』

 

 

手紙はいつも、そんな言葉から始まる。

だが、本来ならワシにこれを受け取る資格はない。

 

 

・・・魔法が使えないことを知っていながら、ワシはアリアを魔法学校に入学させた。

そして本人の望まぬままに、飛び級で卒業させた。

一時期は、それが原因で苦しい立場に立たせてしまったこともある。

ワシを恨んでおってもおかしくはない。いや、恨んでおるはずだ。

そんなワシを、アリアはまだ祖父と呼んでくれる。

 

 

・・・応えなければならん。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「あ~・・・」

「ちょ、どうしたんですかガンドルフィーニ先生」

 

 

学園長室から戻ったガンドルフィーニ先生は、いきなり懐から出したお酒を煽った。

一応、仕事中なんだけど・・・。

 

 

今職員室には僕とガンドルフィーニ先生しかいないから、大丈夫だと思うけど。

それでも、お酒あんまり強くないのに・・・。

 

 

「・・・学園長から、ネギ君に魔法を教えるようにと命じられた」

「よかったじゃないですか」

「・・・同時に、アリア君には近付かないように命じられた」

「あ~・・・まぁ、仕方ないんじゃないですか?」

「そんな差別的な待遇には賛成できんよ・・・ただでさえ、何かとネギ君に便宜を図ろうという動きが出ているんだ」

「学園長も立場上、ネギ君とアリア君の功績のバランスを取りたがってるんじゃないですか?」

「・・・しかしだね。あの<闇の福音>にサウザンドマスターの娘をいつまでも任せておくわけにはいかないじゃないか。彼女の経歴に傷が残ったらどうするんだ」

 

 

まぁ、エヴァンジェリンが絡んでいなければ、アリア君は評価高いからなぁ。

報告はしていないけど、京都での働きはネギ君や僕をはるかに超えてるわけだし。

今では近衛木乃香さんに近付けるほとんど唯一の魔法関係者だし。

 

 

「・・・彼女には悪いことをしたよ」

「またその話ですか」

「またとはなんだねまたとは!」

 

 

最近、ガンドルフィーニ先生とお酒を飲むといつもこれだ。

今回は僕は飲んでないから、結構キツい。

 

 

「瀬流彦君、キミはわかっていない。彼女はあのサウザンドマスターの娘なんだよ? 何事もなく修行を終わらせれば、兄のネギ君共々マギステル・マギになれたはずだ! 私にはわかる!」

「アリア君は魔法が使えないので、マギステル・マギには・・・」

「それでもタカミチ君のような立派な存在にはなれたはずなんだ! それを・・・」

 

 

手で目を覆って、深々と溜息を吐くガンドルフィーニ先生。

まぁ、確かに無事に修行を終えていればそうなったかもしれないけど。

問題は、その何事かを起こしているのが誰かってことなんだよね・・・。

 

 

「私のせいだ。私がもっと気遣っていれば・・・」

「いやぁ、どうにもならないと思いますよ?」

「それはどういう意味かね!?」

「え、いやその、あははは・・・」

 

 

ガンドルフィーニ先生も悪い人じゃないんだけど・・・。

う~ん・・・案外アリア君の本当の姿を見せたら、結構上手くいくんじゃないかと思うんだけど。

 

 

「両親も故郷も無くしたというのに、生徒の将来を思いやれる優しい子だと聞いてる」

「ああ、しずな先生とかよく言ってますよね」

「だと言うのに、<闇の福音>の従者・・・前途有望な少女の将来を台無しにしてしまった・・・」

 

 

私の責任だよ・・・と、うなだれるガンドルフィーニ先生。

アリア君と一緒に仕事をすれば、そういうの関係なく良い子だってわかるんだけど。

最近、学園長は魔法関係者がアリア君に近付くのを抑えようとしてるみたいだ。

特に僕は、注意深く見られてるみたいだし。

 

 

「ま、まぁとにかく、ネギ君に魔法使いのイロハを教えられるなんて、良いことじゃないですか。ほら、ガンドルフィーニ先生の生徒の・・・高音さんでしたっけ? 彼女とか喜ぶんじゃないですか?」

「・・・何を他人事のように言っているんだね?」

「え?」

「キミも教えるんだよ」

 

 

・・・え?

 

 

「学園長からネギ君の指導員に選ばれたのは、私と神多羅木君。あとキミだ」

「・・・え?」

「まぁ、あと一人つくらしいが・・・」

 

 

ガンドルフィーニ先生の言葉は、途中から聞こえなかった。

僕がネギ君に、魔法を教える?

何の冗談だろう。でも冗談じゃないんだろうなぁ・・・。

アレかな。模擬戦とかで実験台になれとか、そんなのかな・・・。

 

 

・・・この仕事、辞めようかな・・・。

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

午前中に、学園長先生に呼ばれた。

なんだろう・・・?

 

 

「ほっほっ、よく来たのネギ君。調子はどうかの」

「はい、はい。その・・・」

「今日呼んだのは他でもない、キミの魔法使いとしての修行のことじゃ」

 

 

魔法使いの修行?

 

 

「キミが来る前にの、ガンドルフィーニ君には話してあるんじゃが・・・」

「は、はい」

「うむ。何人かの魔法先生で、キミの修行を見ることにした」

「あの、魔法先生って・・・?」

「おお、そうか。ネギ君は知らんかったの。この麻帆良にはの、魔法使いの教師や生徒が多数在籍しておるのじゃ。タカミチ君だけと思っとったかの? ちなみに、瀬流彦君も魔法先生じゃよ」

 

 

学園長先生のその話は、初めて聞いた。

タカミチ以外にも、そんな人達がいるんだ・・・。

まさか、京都で一緒だった瀬流彦先生も魔法使いだなんて。

 

 

「知らなかった・・・でも、どうして僕にそんな」

「それはの、将来有望な見習い魔法使いであるキミにより精進してもらいたいと思っておるからじゃよ」

「し、将来有望だなんて、そんな」

「いや、キミは魔法学校を首席で卒業した秀才じゃ。優れた指導者に師事することで、より成長することができるじゃろう」

 

 

正直、学園長先生の言うことは、僕にはありがたかった。

エヴァンジェリンさんに弟子入りを断られてから、古老師の拳法ばかりやってて、魔法の修行ができなかったから。

これなら・・・。

 

 

「とはいえ、ここにいる魔法先生だけでは、キミの目指す物には届かんじゃろう。そこでじゃ・・・」

 

 

学園長先生は、僕の名前が書かれた紙を渡してきた。

上質な紙でできていて、少しだけど魔力も感じる。

 

 

「図書館島の司書には会ったことがあるかの?」

「い、いえ・・・」

「ほ、まぁあやつはめったに人前には出んからの。いや、出れないのじゃったかの」

 

 

誰の事だろう?

それにこの紙は、何に使うんだろう?

 

 

「図書館島の最深部にはの、ドラゴンがおるのじゃが・・・」

「ど、ドラゴンですか!?」

「落ち着かんか。その紙を持っていれば襲われることはない。それよりもじゃ」

 

 

学園長先生の話によると、図書館島の地下にはとても強い魔法使いの人がいるらしい。

その人はある事情があって地上に出れないけれど、実力はエヴァンジェリンさん並み。

そんなすごい人が・・・。

それに。

 

 

「父さんの・・・!」

 

 

父さんの昔の仲間の人が、図書館島の地下にいる・・・!

 

 

「行きます!」

 

 

それを聞いた時、僕は叫んでいた。

父さんの仲間の人がこんな近くにいたなんて。

そんなことを知ったら、僕はもうこんな所にはいられないよ!

 

 

「話は通してあるからの。なんなら今からでも・・・」

「はい! ありがとうございます!」

 

 

学園長先生にお礼を言って、僕は部屋を飛び出した。

早く、早く・・・!

 

 

「良かったな兄貴!」

「うん!」

 

 

魔法の先生までつけてもらって、父さんの情報まで。

修業先がここで本当に良かった。

図書館島に行こうと、校舎を出た所で。

 

 

「お、おはようございます。ネギせんせー」

「ちょうど良かったです。ネギ先生に内密のお話があるですが・・・」

「へ・・・?」

 

 

今日はお休みで生徒はいないはずなのに、途中でのどかさんと夕映さんに会った。

僕が前に渡した、麻帆良の地図を持って・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「アリア先生は、これからどうされるのですか?」

「そうですね・・・」

 

 

仕事が無い状態というのは、ここに来て初めてですからね。

何をしたら良い物やら。

今も、ハカセさんに用があると言う茶々丸さんについてきただけですからね。

 

 

「とりあえず、茶々丸さんと一緒に行きます。ハカセさんに挨拶しておきたいですし」

「わかりました」

 

 

今日は一日、茶々丸さんとデートでもしますか。

石化解除の研究も、あとわずかで完成しますし。

あとは、近い内に来るだろうあの方を待つのみ・・・。

 

 

あと一歩です、みんな。

きっと・・・「うわっ」・・・た?

 

 

角を曲がった所で、誰かにぶつかりました。

完全に油断していたので尻もち・・・はつきませんね。

茶々丸さんが支えてくれました。

 

 

「危うく恋が始まる所でした・・・大丈夫ですか、アリア先生?」

「・・・食パンをくわえていなかったので、大丈夫ですよ茶々丸さん」

 

 

どこで仕入れてきたのでしょうそんな知識。

まぁ、どの道恋など始まりませんよ。茶々丸さん。

なぜなら・・・。

 

 

「・・・大丈夫ですか、ネギ・・・先生?」

「え・・・」

「あ、アリアの姐さん!?」

 

 

私がぶつかったのは、ネギ先生ですから。

恋など始まるはずもない、あらゆる意味で。

とりあえず倒したままだと私が悪いみたいに見えますので、手を差し伸べてあげます。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

なぜかむっとした顔をして、ネギ先生は立ち上がります。

・・・私の手は、無視の方向で。

ネギ先生の後ろには、綾瀬さんと宮崎さん。

綾瀬さんが手に持っているのは、修学旅行の最後にネギ先生が持っていた物ですね。

と、綾瀬さんが私に近付いてきて一言。

 

 

「あ、あの、アリア先生も魔法使いというものなのですか?」

 

 

・・・・・・結界を展開。

 

 

「のどかと、ネギ先生から・・・聞いたです」

「『忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』、プットアウト」

 

 

問答無用で相手の記憶を奪う白紙の魔法書を右手の指輪型魔法具『ケットシーの瞳』から取り出します。

忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』は私の力で作った物ではなく、エヴァさんの蔵から材料や作成法を引っ張り出して作った物。

特定の記憶を吸い上げて封印する、まさに忘却の魔法具。

ちなみに、『ケットシーの指輪』は一定量の物を収納できる指輪です。

 

 

ぼっ、と出現した『忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』を、綾瀬さんへ向けます。

 

 

「な・・・」

「アリア、何を―――――うわっ!?」

「失礼します、ネギ先生」

 

 

杖を手に、私の動きを止めようとするネギ先生。

しかしそれは茶々丸さんに足を払われ、地面に倒されることで不発に終わります。

ありがとうございます。茶々丸さん!

 

 

朝倉さんに魔法がバレてから、万が一に備えて作っておいた魔法具をよもやこんなに早く使うことになるとは・・・。

というか一度は魔法バレフラグを回避した生徒を持っていかれてたまりますか・・・!

 

 

「申し訳ありませんが、いただいていきます」

「え、う・・・?」

「ゆ、夕映・・・!」

 

 

貴女の記憶を。

宮崎さんの悲鳴が響き渡る中、本が輝きます。

綾瀬さんは、持っていた紙を取り落としました。

記憶を消。

 

 

パァンッ!

 

 

・・・え。

発動直前、私の手から本が弾かれました。

魔力も気も感じなかった。これは。

 

 

「アリア先生!」

「・・・っ!」

 

 

茶々丸さんの声に、数歩下がる。

直後、パパパパ、パンッと、何かが足元に着弾します。

これは、『居合拳』!

 

 

「ネギ君もアリア君も、そこまでだ・・・他の子も」

「タカミチ!」

「・・・タカミチ、さん」

 

 

同じ名を呼びながら、こうまで温度差が出る物なのですね。

ネギ先生はタカミチさんに駆け寄り、私は距離をとったまま。

 

 

「・・・ネギ君。どうして綾瀬君が魔法のことを知っているんだい?」

「そ、それは・・・」

「わ、私が教えたんです。ネギ先生は・・・」

「従者のミスは、マスターに責任がある・・・特に、ネギ君は教師なんだ。管理はきちんとしないといけない」

「う・・・」

 

 

タカミチさんの正論に、ネギ先生が黙ります。

次いで、タカミチさんは私を見ます。

 

 

「アリア君は、今何を?」

「綾瀬さんから魔法関連の記憶を奪おうとしました」

「なっ・・・なんでそんなことをするですか!」

「悪いけど、黙っていてくれないか綾瀬君。そしてアリア君。我々が一般人から記憶を奪う際には手順がある。それは、守ってほしい」

「ま、待ってよタカミチ!」

 

 

ネギ先生が声をあげます。

今度はなんですか・・・。

 

 

「夕映さんは僕の生徒なんだ。勝手に決めないでよ!」

「ネギ君・・・」

「夕映さんのことは、僕に任せて!」

「・・・・・・バカを言いなさい」

 

 

吐き捨てるように、呟く。

他人を背負い込むことを、そんなに簡単に言わないでください。

こっちがどれだけそれで悩んでると思っているんですか。

 

 

「・・・わかった。綾瀬君のことはネギ君に任せるよ」

「なっ・・・!」

「お待ちください。高畑先生」

 

 

私の横に立っていた茶々丸さんが、一歩前に出ます。

 

 

「ネギ先生はこれまでも生徒の皆さんを巻き込む形で仮契約を行ってきました。今回が初めてのケースというのならともかく、ここで恩情を与えるような行為は合理的ではありません」

「む・・・」

「そんなことない! 僕はちゃんと・・・なんでそんなこと言うんですか!」

「黙りなさいこのファザコンが!」

 

 

他はともかく、茶々丸さんを否定することは許さない。

 

 

「ふぁ、ファザ・・・アリアはなんで、僕が父さんを探そうとするといつも」

「別に探すなとは言っていません。他人を巻き込むなと申し上げたいんです」

「そんなことしてないよ!」

「なら、あれはなんですか」

 

 

先ほど綾瀬さんが落とした物。

あれは、麻帆良の地図。

明らかに、一般人には秘匿すべき情報まで載っています。

 

 

「魔法使いの地図を、なぜ一般人に調べさせているんですか」

「そ、それは・・・」

「そこまでにしてくれないかな、2人とも」

 

 

非常に困ったような顔で、タカミチさんが割って入ってきます。

 

 

「とにかく、綾瀬君のことは一時ネギ君に預ける。綾瀬君もそれでいいね?」

「・・・構わないです。もともと私は自分の意思でのどかに、ネギ先生に協力したのですから」

「しかし、綾瀬さん」

「いいですよ。茶々丸さん、もう」

「アリア先生・・・」

「いいんです。ありがとうございます」

 

 

茶々丸さんのその気持ちだけで、十分です。

それに今、綾瀬さんはキーワードを言いました。

自分の意思で踏み込んだと言うのなら、もう何も言うことはありません。

あとは、ネギ先生が責任を負うでしょう。

 

 

・・・徒労感は、半端ないですが。

私は綾瀬さんの方を見て。

 

 

「・・・力尽くで記憶を消そうとして、申し訳ありませんでした綾瀬さん」

「謝罪なんて・・・」

「そうですかそれは重畳。ようこそ非日常の世界へ。お友達と楽しんでくださいね」

 

 

タカミチさんとネギ先生を一瞥した後、茶々丸さんに「行きましょう」と告げます。

頷きを返してくれる茶々丸さん。

 

 

「・・・アリアなんて」

 

 

茶々丸さんに伴われる形でその場を離れる私に、ネギ先生の独白のような声が届きます。

 

 

「アリアなんて、魔法具がなければ、何もできないくせに・・・」

 

 

その言葉に立ち止まろうとした茶々丸さんの手を引いて、構わずにこの場から消えます。

もう、何も言うことはありませんから。

何も。

 

 

「アリア先生・・・」

「・・・大丈夫です」

 

 

茶々丸さんが私の顔を見て、名前を呼んでくれました。

理由は、わかりません。

 

 

 

 

 

Side クウネル

 

「なるほど・・・」

 

 

遠見の魔法で覗き見させてもらいましたが、これはなかなか・・・。

あれが、ナギの子供達ですか。

正直、学園長の頼みとはいえ気乗りしていなかったのですが。

 

 

兄の方はなんというか、私好みの歪み方をしていますね。

父親を求めること以外は全て二の次。

ナギが見たら笑うか怒るか呆れるか・・・。

 

 

そして妹の方も、なかなかの歪み具合。

ぜひとも人生を収集させていただきたいですね。

しかし、それ以前に・・・。

 

 

「猫耳眼鏡スク水セーラー・・・ですかね」

 

 

ああ、でも来るのは兄の方だけでしたか。

実に残念。しかし兄の方もなかなか可愛らしい外見。

でもナギに似ているので少々、いやかなり気持ちの悪いことになるかも・・・。

 

 

なんとか、妹の方に会う手段はないものですか・・・。

学園祭まで待つしかありませんかね。

 

 

ああ、楽しみです。

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回で弟子入り編はほぼ終了です。
ここから一気に、いろいろな人や組織の意思が錯綜していくことになるかと思われます。
ネギを中心とする動きと、私を中心とする動きが中心になるでしょうが、私の意識の外で蠢く物もあるでしょう。
でもあと一歩で、目的のひとつが達成できます。
邪魔は、させませんよ。

今回使用された魔法具は、以下の通りです。
赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』:
元ネタは「ハイスクールD×D」、提供は水色様、コクイ様。
『|星の紋章(ムールドアウル)の剣』:
元ネタは「オーフェン」、提供はFlugel様。
『アヒル隊』:提供は霊華@アカガミ様。
『|忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』:
元ネタは「ダンタリアンの書架」、提供は伸様。
『ケットシーの指輪』:提供はkusari様。


アリア:
次回からは弟子入り編の終盤と、ついに過去編の導入に入ります。
6年前の事件が中心に語られていくパート。
私の原点に関わるような部分。
・・・では、またお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。