魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

50 / 90
第45話「悪魔」

Side 夕映

 

外に出て、改めて「別荘」とやらの凄さを実感したです。

まさか本当に、中での一日が外での一時間だとは・・・。

 

 

「ゆえー、濡れちゃったし、先にお風呂行く?」

「あ、そうですね。それが良いです」

 

 

エヴァンジェリンさんの家から戻ってくる途中、急な雨に見舞われたです。

今も降っていて、結構激しい雷雨のようです。

 

 

着替えなどを用意して、のどかと寮の大浴場に向かうです。

この時間なら、それなりに人がいると思うです。

 

 

「今日は大変だったね・・・」

「そうですね・・・」

 

 

結局、私達はエヴァンジェリンさんの「誓い」とやらを受け入れたです。

そうでないと帰してもらえないばかりか、感覚を奪われるなど・・・本来なら受け入れがたいことです。

 

 

確かに、少し浮かれすぎていたのは事実です。

冷静になって考えてみれば、他人の家に勝手に上がりこむなど、してはならないことです。

けれど・・・。

 

 

「ねぇ、ゆえは・・・」

「なんです?」

「ゆえは、魔法使いになりたいの?」

「なりたいです。のどかは、違うですか?」

 

 

現実は、つまらないです。

何も変わらない毎日。でも今は、幻想的で魅力的な非日常な世界が目の前にあるです。

それに、触れてみたいのです。

 

 

「わ、私は・・・最初はネギ先生が魔法使いだって知って、ドキドキしてたけど・・・」

「けど?」

「でもネギ先生は、あんなに大変な思いをしているんだなって思うと・・・ちょっと、考えちゃう、かな」

「なるほど・・・」

 

 

確かにネギ先生の過去には、少し考えさせる部分があったです。

その意味でも、自分が浮かれすぎていたかもしれないと、思うです。

 

 

「お、帰り遅かったねー二人とも」

「あ、ハルナー・・・」

 

 

浴場につくと、ハルナもいたです。

というか、気のせいでなければ3-Aメンバーの半数近くがいるです。

 

 

「塗るだけで美人になれる、お昼のモン太さんも絶賛! 『ぬるぬる君X』!」

「マジで!?」

「ちょっ・・・それ貸してゆーな!」

 

 

・・・相も変わらず、にぎやかなクラスです。

というか、裕奈さん達はまた妙な物を持ちこんでいるですね。

 

 

 

 

 

 

Side 超

 

またなんというか、ノーテンキな連中だネ。

今は明石サンが持ってきた妙なクリームで騒いでいるヨ。

 

 

「あ、珍しいね。超さん達が寮の大浴場に来るなんて」

「おー、村上サン。那波サンは一緒じゃないのカ。珍しいネ」

「お互いに失礼な会話ですねー」

 

 

私と村上サンの会話に、隣にいたハカセが苦笑しているネ。

まぁ、私は普段は大学の方の浴場にお邪魔してるし、村上サンが那波サンと普段一緒に行動しているのも確かネ。

 

 

「ちづ姉は、今日はなんか遅くなるって。最近近所の子供の面倒とか良く見てるみたいだから、それじゃないかなー。超さんは?」

「学祭に向けて、『超包子』の開店についての話し合いヨ」

「わ、そっか。もうすぐなんだ」

「そうネ」

 

 

もちろん、それだけじゃ無いけどネ。

隣のハカセと五月を見ると、「わかっていますよ」と、頷いてくれたネ。

 

 

「・・・それじゃ、大学に戻らないといけないから、私達は先に出るヨ。開店したらよろしくネ」

「あ、うん。楽しみにしてるね」

「中間テストの後に開店する予定ですから」

 

 

ハカセに続いて、待ってます、と五月が言うのと同時に、私達は湯船から出たネ。

村上サンに手を振って、浴場の外へ向かうネ。

 

 

・・・その時視界に、何か半透明な液体が、浴場の隅で動いているのを見つけたネ。

スライム。

となると、今日がヘルマン卿の襲撃日・・・カ。

 

 

くるり、と振り向くと、湯船の中でなんだかんだと騒いでいる朝倉や古、綾瀬サン達が見えるネ。

何も知らずに、ノーテンキに笑っているヨ。

自分達が、夢のような毎日から抜け出そうとしていることも知らず、笑ってるネ。

 

 

この楽しく空虚で何不自由ない世界から。

偽りの楽園の中から、それを知らずに捨てようとしている連中。

せいぜい・・・。

 

 

「・・・お手並み拝見ネ。ネギ坊主」

 

 

 

 

 

 

 

Side 美空

 

うっわーマジで?

見なかったことにできないかなーアレ。

 

 

「あっれー? ねぇ、夕映とのどか知らない?」

「え!? し、知らないよ!?」

「・・・ほんとに?」

「ほ、本当だよもー。私が何を知ってるってのさ!」

 

 

ごめんハルナ、本当は知ってる。

朝倉達が今、ドロドロしたお湯・・・てか、水? に引きずり込まれたのを。

できれば見たくなかったー。

 

 

だって、「関わっちゃいけません」って匂いがプンプンするもんねコレ。

でも・・・。

 

 

「村上さんまでいなくなっちゃってるしさー」

 

 

最後、なんか朝倉達に挨拶してたっポイんだよね。

これって、もしかしなくてもヤバい?

 

 

「ミソラ・・・シスターに・・・」

 

 

私の手を握ってボソボソ喋ってるこのちっちゃい子は、シスター仲間のココネ。

ついでに言うと、私のマスターでもあるんだよね~。

 

 

・・・よし!

 

 

「シスターシャークティーに全部押し付けて後は知らんフリ! これだ!」

「・・・メンドー、くさがり・・・」

「酷くないっ!?」

 

 

失礼だね~ココネ。

私はただ、自分の手に余るコトには手を出さないってだけだよ。

 

 

だって結局は、それが誰にも迷惑かけない生き方じゃん?

できもしないことを出来るって言うより、よっぽど良いっしょ。

 

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

まったくもー、エヴァちゃんってば。

そりゃ、勝手に入ったのは悪かったけどさ・・・。

 

 

「何もあんな言い方しなくても良いじゃない!」

「ご、ごめんなさい明日菜さん。僕のせいで・・・」

「別にあんたのせいじゃないわよ。入ろうって言ったの私と朝倉だし」

 

 

まぁ、今回は仕方無い、かな。

勝手に入ったのは悪いことだし。

・・・でも、う~ん。やっぱり納得できない!

 

 

「・・・まぁまぁ、五体満足で帰してもらって良かったじゃねーですか、姐さん」

「あんたって・・・エヴァちゃんやアリア先生の前以外では態度でかいわよね」

「ギクリ」

 

 

わざわざ声に出して言うんじゃないわよ。

まったく。

 

 

「ネギ、明日の着替え、ちゃんと用意できてる?」

「え~っと・・・」

 

 

ロフトの上でごそごそやり出すネギ。

木乃香がいなくなってから、ご飯だ家事だと大変。

できないわけじゃないけど・・・結構、しんどい物なんだって初めて知った。

木乃香って、こんなのを毎日ニコニコしながらやってたんだから、すごいわよね。

 

 

ピンポーン。

 

 

「・・・誰でしょう?」

「ああ、いいわよ。私が出るから」

 

 

ったくもう、誰よ。こんな時間に。

そんなことを思いながら、部屋のドアを開けると・・・。

 

 

「美しいお嬢様に、花を一輪」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「明日菜さん?」

 

 

どたどたと物音がして、顔を出してみる。

なんだろ・・・。

 

 

「失礼するよ。ネギ・スプリングフィールド君」

 

 

黒い帽子に黒いコート。

黒ずくめの男の人が、明日菜さんを小脇に抱えて立っていた。

なっ・・・。

 

 

「な、なんですか、貴方は!?」

「兄貴、気をつけろ! 一般人じゃねぇ!」

 

 

一般人じゃない? なら・・・魔法使い!?

壁に立てかけてあった杖を握って、ロフトから降りる。

男の人は、窓を割っている所だった。

 

 

「その人を、離してください!」

「キミの仲間と思われる者数名をすでに預かっている。無事帰して欲しくば、私と一勝負したまえ」

「え・・・」

「何だとぉ!?」

 

 

預かっているって・・・。

そんな、他にも誰か。

 

 

「学園中央の巨木の下にあるステージで待っている。仲間の身を案じるのならば、他に助けを求めるのも控えた方が良いね・・・」

「『契約執行(シム・イルゼ・パルス・)90秒間(ペル・ノー・ナギンタ・セクンダース)』、ネギ(ネギウス)スプリングフィールド(スプリングフイエルデース)!」

 

 

行かせない!

自分への魔力供給で身体強化して、飛びかかる。

男の人が、ひょいっと明日菜さんを上に放る。え・・・。

 

 

「ふん!」

「ぐっ・・・」

 

 

魔力のこもった拳の連打。

一撃、二撃、三撃、四撃・・・追いつけない!?

 

 

「ぬむんっ!」

「あぐっ・・・!?」

「あ、兄貴―――っ!?」

 

 

腹に強烈な蹴りをもらって、後ろにあったベッドの柱にぶつかる。

身体強化はまだ残ってたから、身体にダメージはほとんどないけど、ベッドの柱は折れた。なんて威力なんだ・・・。

 

 

「それではネギ君。待っているよ」

「くっ・・・待て!」

 

 

再び明日菜さんを抱えなおした男の人は、窓から飛び降りた・・・待って!

 

 

「いない・・・」

 

 

窓から顔を出しても雨が降っているのがわかるだけで、誰もいない。

転移魔法かな。それくらいしか・・・。

 

 

「あ、兄貴。どうすんだ?」

「もちろん、助けに行くよ!」

「け、けどよ。一人で大丈夫なんですかい!?」

「助けを呼ぶなって、言ってた・・・一人で行くしかないよ」

 

 

それにあの男の人、僕のことを知ってるみたいだった。

僕のせいで、明日菜さんを巻き込んじゃった・・・。

 

 

「なら、僕が・・・僕が、なんとかしないと!」

 

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「どういうことですか学園長!」

「まぁ、落ち着きなさい明石君」

「これが落ち着いていられますか!」

 

 

明石先生、興奮してるなぁ。無理もないけど。

今学園長室には、他にガンドルフィーニ先生や弐集院先生が集まってる。

共通点を探すなら・・・娘さんがいるってことかな。

僕は違うよ?

 

 

「メルディアナから警告が来ていたそうではないですか」

「封印されていた爵位級の悪魔が、麻帆良に向かっていると・・・」

「向かっているかもしれん、じゃ。正確にはの」

「学園長!!」

「明石君も、少し落ち着きたまえ」

 

 

うわぁ・・・明石教授がどんどんヒートアップしてる。

いつもは一番学園長に詰め寄ってるガンドルフィーニ先生が、抑え役に回るってよっぽどだよ。

 

 

「しかし学園長、今回のは酷いんじゃないですか?」

「何がじゃの? 弐集院君」

「爵位級悪魔が麻帆良に来るかも、なんて情報。どうして伝えてくれていないんですか?」

「そうは言うがのぅ・・・」

 

 

学園長は椅子に深く沈み込んで、溜息をついた。

 

 

「人員も増やせん。警備のシフトも増やせん。予算も増やせん・・・こんな時期に、来るかもわからん悪魔に対策を講じることはできん」

「しかしっ・・・!」

 

 

まぁ、確かに。

本国から人員や資金を融通してもらうってわけにもいかないし。

変な情報流して、余計なことに労力を割きたくないって気持ちも、わからなくもないけど。

 

 

「一番不味いのは、当人達が知らないってことなんじゃないかなぁ・・・」

「何か言ったかね、瀬流彦君」

「い、いえ。なんでもありませんよ」

 

 

あははは・・・と笑って、適当にごまかす。

本当はこんな態度とっちゃダメなんだけど、今は話の中心になりたくない。

 

 

・・・まぁ、とにかく。

狙われる確率の高そうなアリア君とネギ君には、こっそり伝えておこうか。

あ、でもネギ君はどうしようかな。伝えるとかえって不味いような気もする。

いずれにせよ、一般の生徒に被害がないことを祈るしかないかな。

タカミチさんも出張でいないし、まだ来ると決まったわけでもないし・・・。

 

 

と、その時。部屋の扉が勢い良く開いた。

 

 

「学園長先生っ!!」

 

 

入ってきたのは、シスターシャークティー。

麻帆良の教会に勤めてるシスターで、魔法関係者でもある女性だ。

 

 

「な、なんじゃな、シスターシャークティー」

「い、今、私が指導している生徒から連絡がありまして・・・」

 

 

息を切らせながら、シスターが言ったことは、想定していた中でも最悪の物だった。

 

 

「い、一般の生徒が数名、魔法生物らしきものに攫われたと・・・」

 

 

本当に、最悪だ。

 

 

 

 

 

Side ヘルマン

 

「ちょ、ななな、何よこの格好は―――っ!?」

「はっはっはっ。お目覚めかね、お嬢さん」

 

 

ちなみにその服装(少々派手目な下着姿)については、完全に私の趣向だ。

囚われのお姫様が寝間着姿と言うのも、趣に欠けるからね。

 

 

「あ、起きたみたい!」

「明日菜―――――っ!」

「え・・・って、皆!?」

「彼女達はまぁ、観客兼人質だよ」

 

 

アスナとか言ったかな。

彼女の視線の先には、ネギ君の仲間らしき4人の少女を水牢の中に捕らえてある。

アヤセユエ、ミヤザキノドカ、アサクラカズミ、そして・・・クーフェイ。

浴場で一緒に話している所を一網打尽にしたようだ。

 

 

「ちょっと、なんで皆服着てないのよ! あと・・・」

「なんだね」

「なんで村上さんがいるのよ!? 関係ないでしょ!?」

 

 

うむ、そこは私としても頭の痛い所だ。

少し離れた所に、個別の水牢が用意してあるが、その中で少女が一人眠っている。

ムラカミ・・・と言う名前なのかね。よくは知らないが。

 

 

「服を着ていないのは、浴場で攫ったからだ。そちらのお嬢さんは成り行きの飛び入りでね」

「こ、こんのエロジジィ――――っ!!」

 

 

ひゅごっ・・・という風切り音を立てて、アスナ嬢が蹴りを放ってくる。

うむ、良いね。一般人にしては見事だ。だが・・・。

 

 

「なっ!?」

「ネギ君のお仲間は生きが良いのが多くて嬉しいね」

 

 

その蹴りを、右手で受け止める。

思ったよりも重い一撃のようだ。当たっていたら、そこそこ痛かったろうね。

ぎりっ・・・と、力を込めると、簡単に骨が軋む。

 

 

「・・・っ」

「おお、声を上げないのかね。強情・・・いや、勇敢なお嬢さんだ」

「あ・・・あんた! 何が目的!?」

「教える義理はないね。ただ、大人しくしておくことをお勧めするよ。何しろクライアントからは・・・キミ達を殺してしまっても良い、と依頼されているからね」

 

 

手を離しながら、一応は警告しておく。

人質が死んでしまっては、ネギ君も戦いにくいかもしれないからね。

まぁ、もしそうなっても、それはそれで復讐として戦ってくれるかもしれないがね。

 

 

「・・・そこのお嬢さん達も、大人しくしていてくれたまえよ」

「あぅぅ・・・」

「むむ・・・」

 

 

正確な依頼内容は、ネギ君とその仲間がどの程度か調べること、ただし。

想定以下だった場合は、私の好きにして良いことになっている。

さて・・・。

 

 

「ネギ君、キミは・・・どこまで使える少年になっているのかな?」

 

 

雨の中、遠距離から捕縛用の魔法を放ってくるネギ君の姿を捉えながら。

私は、彼への期待を抑え切れなかった。

 

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

勝てないアル。

ネギ坊主の戦いを見ていて、直感的にそう思ったネ。

 

 

ネギ坊主は、時々何か・・・何かを撃つような仕草をしてるアルが、何も起こらないアル。

何をするつもりかはわからないアルが、想定外なのは見てとれるアル。

つまり・・・。

 

 

「・・・最悪の状況ネ」

「そんなの見たらわかるよ、くーちゃん!」

 

 

む、声に出ていたかネ、朝倉。

 

 

「あ、あのー、ここから出してくれませんかー・・・?」

「お願いしてどうするですか、のどかっ」

 

 

本屋と夕映が、この水の塊の外にいる女の子に話しかけてるアルが。

芳しい返答は得られてないみたいアル。

 

 

「私達特製のその水牢からは出られませんヨ」

「溶かして喰われないだけ有難く思いナ」

「それも、時間の問題かもですガ」

「ど、どういうこと?」

 

 

その女の子3人は、同じような顔でケケケ、と笑ったネ。

嫌な笑い方ヨ。

 

 

「あのガキが負けたら、お前ら生きて帰れないかもナ」

「そんな!?」

「え、それマジで!?」

 

 

朝倉達は、食い入るような目でネギ坊主の戦いに目を向けるアルが・・・。

あれは、無理ネ。実力差がありすぎるヨ。

今も、ほとんど一方的にやられてるアル・・・。

 

 

不覚ネ。

私は強き者と戦い、散る覚悟は幼い頃に済ませてアルね。

たとえそれが奇襲であっても、そんな物は言い訳にしかならないと教わったネ。

 

 

でも朝倉達は・・・彼女達だけでも、なんとかならないアルか。

なんとか・・・。

 

 

私に出来ることは、何かないアルか。

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「断る」

 

 

リビングのソファでうだうだしていると、茶々丸が盆に黒電話を乗せてやってきた。

茶々丸が持った受話器に対し、相手が何かを言う前に答えてやった。

ここの番号を知っている奴で、今のタイミングでかけてくる奴など一人しかおらん。

 

 

『ま、まだ何も言っていないのじゃが・・・』

「どうせ、悪魔を撃退してくれとかそんな所だろう」

『おお、その通りじ「断る」・・・どうしてもかの?』

「何か私にメリットがあるか?」

 

 

そこそこの力を持った悪魔が麻帆良の中に侵入してきたのは知っている。

最初に気付いたのは、私では無くバカ鬼だがな。

ぼーや達を雨の中、叩き返してやった後、「んん? 妙なのがいるぞ」とかなんとか。

その後さよのアーティファクトで位置関係を調べた所、ぼーやの関係者を中心に世界樹の下に続々と人が集まり出した。

 

 

決定打はアンノウンの数と、アリアの「知識」だ。

なんだったか・・・ヘルマンとか言う、伯爵級の悪魔らしいが。

 

 

「ちなみに、アリアを行かせるつもりもないぞ」

『な、なぜじゃ?』

「アリアはお前の大事な大事な孫の護衛で忙しい。なんと言っても外には爵位級の悪魔がうろついているからな、側を離れるわけにもいかんだろうよ」

『・・・悪魔は一体しか確認されておらん』

「どこかに隠れていないとどうして言えるんだ? 侵入も察知できなかったくせに」

『む・・・』

 

 

だいたい、なんで私達が貴様らのために働かなければならんのだ?

前にも似たようなことを言った覚えがあるが・・・。

今さら、アリアを貴様らの好きに使わせるつもりはない。

 

 

京都で懲りたのでな。

 

 

「貴様らでなんとかすれば良いだろう? なぁ、正義の魔法使い」

『・・・魔法を無効化する結界が張られておる』

「だから?」

 

 

おそらくは神楽坂明日菜の魔法無効化能力を利用しているのだろう。

なかなか面白いことを考え付く相手だな。

 

 

なんにせよ、魔法が使えない状況を想定していない方がおかしい。

私の家族は全員、魔法無しでも自分の身くらいは守れるぞ。

 

 

「まぁ、せいぜい己の不明を呪うが良いさ。私達には関係ない」

『ま、待つのじゃ!』

「茶々丸、切れ」

「イエス、マスター」

 

 

がちゃり、と、茶々丸が受話器を置いた。

3秒後にまたかかってきたので、茶々丸にコードを切らせた。

これでようやく、静かになった。

 

 

「・・・アリア、魔力を抑えろ。家が壊れる」

「・・・はい」

 

 

隣に腰かけているアリアから、かなりの魔力が漏れ出しているので注意する。

・・・いや、だから抑えろと言うに・・・勢いを増してどうする。

 

 

私達の前には、『遠見の鏡』とか言う魔法具が展開されている。

そこには、広場のぼーや達の様子が映し出されているわけだが・・・。

村上夏美の存在を確認してから、アリアが「その気」になっている。

不味い兆候だ。

 

 

当然、「行くな」と命じた。

 

 

このタイミングで行けば、バカ共が喜ぶだけだ。

そういう所は、アリアもまだ甘いと言うか温いと言うか。

 

 

「・・・マスターは心配性です」

「茶々丸、お前な。いい加減その方向での突っ込みはよせ」

 

 

・・・ふん。

 

 

 

「木乃香と刹那は?」

「さよさん、スクナさんと共に、学園から戻った直後に別荘の中に。中で7日は過ごすよう伝えてあります」

「よし・・・」

 

 

なら、何も問題は無いな。

後は、全てがこちらに有利になるように動くだけだ。

 

 

せいぜいあがけ、正義の魔法使い。

 

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・誘惑に駆られますね。

 

 

ネギ先生とヘルマン卿の戦いの推移を見守りながら、心の中で、呟きます。

エヴァさんと茶々丸さんの視線を感じますが、特に何も言ってはきません。

 

 

・・・ヘルマン卿は、そう時間を置かずにネギ先生を追い詰めるでしょう。

その時、巧妙に状況を読んで介入する。ネギ先生に集中しているヘルマン卿を背後から倒せば良い。

あるいは学園サイドに策を授けてネギ先生達をヘルマン卿と五分に戦わせて、ヘルマン卿が疲弊の極に達した所を討ちます。

 

 

驚くほどたやすく、ヘルマン卿を倒すことができるでしょう。それこそあっけなく。

あっけなく、村上さんを救うことができる。

私になら、たぶんできる。私の中の冷静な部分がそう囁くのです。

誘惑を感じる、というのはそういうことです。

 

 

しかし、今の私はエヴァさんの従者として行動しています。

ならば、私の行動はおのずと制限されます。されなければなりません。

 

 

それに・・・今の私には、他にもやらなければならないことがあります。

この『複写眼(アルファ・スティグマ)』で。

 

 

「・・・式を解析・・・」

 

 

遠距離でも問題ありません。

遠見でも姿を確認さえできれば、構築式を盗むことができます。

 

 

・・・呪いの解呪の手順は、逆算と似ています。

例えるなら、答えから公式を探り当てる作業。

 

 

<普通の人間+永久石化=石像>

 

 

これが、私がこの数年間取り組んでいる呪いの式。

最初と最後の解析はすぐにできます。

ただ永久石化の魔法構築式だけは、術者によって微妙に異なるのです。悪魔ともなれば、なおさら。

その構築式が、喉から手が出るほど欲しかった。

 

 

<石像-永久石化=普通の人間>

 

 

石像と化した村人から永久石化の効果を取り除くためには、ただ魔法具で解除するという手法はとれませんでした。

完全に石化、つまりは仮死とも言える状態にある以上、大雑把な解呪は村人の身に危険が大きすぎる。

だからこの6年間、慎重に計算を重ねてきました。

 

 

何度も計算をやり直して。

何度も何度も構築式を書き直して。

何度も何度も何度も材料を集めて、分量を調整して、実験結果を比較して。

それ以上の失敗を重ねて。

少しずつ、答えに近付いてきたのです。全ては。

 

 

全ては、この瞬間のために。

呪いの解呪のための、最後の公式を手に入れるために。

 

 

・・・待っていてください。

スタン爺様、皆。

今すぐに、行きます・・・!

 

 

 

 

 

 

Side 楓

 

「むむむ・・・」

 

 

並々ならぬ気配を感じて来てみれば、これはかなり不味いのではないでござるか?

明日菜殿達が捕まり、ネギ坊主がそれを助けるべく戦っているようでござるが・・・。

 

 

「どう見ても、勝てそうにないでござるな・・・」

 

 

あの黒ずくめの御仁は何者でござるか?

明らかに人間離れした動き。

今のネギ坊主には太刀打ちできないでござる。

 

 

「ネギ坊主も、頑張ってはいるようでござるが」

 

 

というか、あの御仁が拳を振るうと、地面が砕けたり離れた所が吹き飛んだりしているでござるが。

あれは、どういう理屈でああなっているのでござるか?

わずかな期間、古に拳法を習った程度ではどうにもならないでござる。

 

 

「・・・どうするでござるか」

 

 

流石に、クラスメイトや担任を見殺しにするというのは、目覚めが悪い。

とはいえネギ坊主に加勢しても、あの御仁を相手にするのは今の拙者では少々荷が重そうでござるな。

・・・と、なれば。

 

 

「あの御仁がネギ坊主に集中している隙に、人質の明日菜殿達を救出し、離脱・・・」

 

 

それくらいしか、策がないでござる。

敵わぬ相手からは逃げるのも一手。

正面から戦うばかりでは、芸が無いでござるよネギ坊主。

もっとも、それすらできるかどうか、わからぬでござるが・・・。

 

 

「・・・ニンニン」

 

 

甲賀中忍、長瀬楓。

いざ、参る。

 




アリア:
アリアです。現在エヴァさんにお預けをくらっています。
介入したいんですけど・・・。
お許しがでません。なんということ。

今回は、ヘルマン卿が人質をとり、ネギ先生と戦い始める所までですね。
その間の、色々な人達の思考が描かれているようです。


アリア:
さて次話は、ヘルマン卿も大詰め。
さて・・・どうしましょうか。
では、またお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。