魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第47話「魂の牢獄」

Side アリア

 

「よぉ――や「がははははっ。久しぶりやのぉ嬢ちゃん!」ちょ、コラァ!」

 

 

千草さんが何かを言おうとしたらしいですが、大鬼の豪快な笑い声にかき消されました。

本当に久しぶりですね。

それほど時間は経っていないと思うのですが。

 

 

「お久しぶりですね。ええと・・・」

「酒呑や。嬢ちゃんでも飲める酒、持って来たったからのぉ」

「ちょ、勝手に話さんと「アリアは~ん♡」だぁ――っ!」

 

 

今度は月詠さんですか。

なんですか、そのキラキラした瞳。

そんな目で見ても何もしてあげませんよ。

 

 

「アリアはん、アリアはん。うちは信じとったえ」

「一応聞いておきましょうか。何をです?」

「アリアはんなら、きっとロクでもない理由で危ないことし」

「酒呑さん。ちょっとこの子向こうに投げといてくれます?」

「こうかぁ?」

 

 

ごぅんっ・・・轟音を立てて、月詠さんが投げ飛ばされて行きました。

その先には、突然の乱入者に呆然としていたヘルマン卿。

 

 

「ぬぅ、なんだねキミは?」

「アリアはんのいけず~。・・・でも、こっちも斬りがいありそうやね~」

 

 

しばらく、そこで遊んでおいてください。

こっちは状況の整理に忙しいんです。

 

 

「よ、よっしゃ今度こ「ふっふっふ・・・俺は強くなったで!」またか! またうちは後回しか!」

 

 

目を閉じたまま腕を組み、犬耳をピコピコさせながら、小太郎さんが言いました。

話し出す順番でも決めているのでしょうか?

そして千草さんは、なぜ小太郎さんの犬耳を見て、腕をウズウズさせているのでしょうか。

 

 

「俺はここに来るまでに、かなりキツい戦いを経験してきたで!」

「あんたは突っ込んどっただけやろ」

「目に見えるようですね・・・」

 

 

千草さんの言葉に、なんとなく想像してみます。

・・・うん。絶対に突撃してただけに違いありません。

小太郎さんは、ビシィッ、と適当な方向を指さして、目を開いて。

 

 

「さぁ! あの時の決着をつけよーぜネ」

「酒呑さん。この子は向こうでお願いします」

「これでええんか?」

 

 

ごぅんっ・・・と、これまたもの凄い音を立てて、小太郎さんが投げ飛ばされました。

 

 

「なんだお前ワ!」

「新手ですネ」

「うおおぉぉ・・・っと、俺は女は殴ら・・・って、軟体動物やないか! なら問題あらへんな!」

「それって差別~」

 

 

そっちで適当に遊んでいなさい。

たぶん、スライムよりも貴方の方が強いでしょう。

まったく、バトルマニアの方はこれだから困ります。

 

 

「そう言えば、あの方はどうしたんです? ほら、狐のお面をかぶった・・・」

「ああ、茨木のことかいな? あいつは来とらんよ。というかこの姉ちゃん、ワシしか呼べんねん」

「ああ、なるほど・・・」

 

 

そう言えば、京都でも木乃香さんの力を借りていましたね。

あの時は、他にもたくさんいましたが・・・。

一体だけに絞った結果、酒呑さんだけが召喚できたと。

 

 

「・・・進歩したのかしていないのか、微妙な所ですねぇ」

「やかましぃわ! あんたらみたいな化物と一緒にせんといてんか!」

「あら、千草さん。相も変わらず美しい金髪ですね。羨ましい限りです」

「バカにしとるんか!? ・・・まぁ、ええわ。ほら!」

 

 

京都で『バルトアンデルスの剣』を使った際に、適当に若返らせて見たのですが・・・。

なぜか、金髪になったのですよね。

しかもそれを見ていると、妙な気分になるんですよね・・・。

まぁ、とりあえず、千草さんが差し出した風呂敷包みを受け取るとしましょう。

 

 

「・・・言われた通りの物を集めてきたで。薬品、素材、札、鱗に呪具」

「・・・確かに。では受け取っておきましょうか」

 

 

中身を軽く確認して、『ケットシーの指輪』の中に収納します。

・・・さて、これでほぼ揃った。

後は・・・。

 

 

「・・・アリア先生」

「茶々丸さん。ご苦労様です。真名さんは引き受けてくれましたか?」

「はい。任せろとのことです」

 

 

ならば重畳。

さて、後は色々と片付けて帰りましょうか。

別に、村上さんを救い、瀬流彦先生を連れ帰れば終わるのですが・・・。

その前に。

 

 

「・・・軽く、復讐の一つでもやっておきますか」

 

 

 

 

 

Side ヘルマン

 

「うふふふ、うふふふふふふふふ」

「むぅ・・・!」

 

 

なんという邪気だ。これではまるで、人間と言うより我々の側の存在ではないか。

先ほど、似たような太刀筋の人間と斬りあったが、この娘は・・・。

 

 

「にとーれんげき、ざ~んまけ~ん!」

「『悪魔パンチ(デーモニッシェア・シュラーク)』!!」

 

 

退魔の剣は確かに私の天敵だが、圧倒的な魔力と拳圧で距離を取れば問題ない。

相手の刀にさえ注意しておけばよいのだからね。

当たらなければ、どうと言うことはない!

 

 

ばんっ!

 

 

「ぐむ・・・!」

「クスッ・・・」

 

 

右肩が斬られた。

魔力も拳圧も、障壁すらも素通りされるこの剣は・・・!

 

 

「・・・斬魔剣、弐の太刀」

 

 

当たったら、かなり問題なんだがね。

力が制限されていなければ、まだかわせるのだが。

仕方が無い。半身失うつもりで石化させてもらうとしよう。

 

 

先ほどの白髪の少女が、アリア君が来る前に事態を収拾し撤退をせねば・・・。

 

 

「解けなさい。『エクセリオン』」

 

 

瞬間、何か細い物が私の身体の周りを取り囲んだ。

なんだ!?

 

 

「・・・ぬぅん!」

 

 

魔力を込めたアッパーを放ち、それごと頭上に吹き飛ばす。

だがちょうど良い。そのまま頭上が開けたので、このまま飛んで逃げ・・・!

 

 

タァンッ!

 

 

「ぐ、お・・・!」

 

 

何かに胸を撃ち抜かれた。

なんだ!? 銃弾か? バカな、結界内で放出系が効果を発揮するはずが・・・。

 

 

「残念ながら、逃げられませんよ」

 

 

なんとか地面に着地すると、ひゅん、ひゅん・・・と、何かワイヤーのような物を操っているアリア君がいた。

その両側には、緑色の髪の自動人形らしき物と、凶悪な刃物を持っている人形がいた。

 

 

アリア君は何か得体のしれない、薄い笑みを浮かべている。

その笑みは悪魔の私ですらも、何か寒い物を感じた。

 

 

「キミは、本当に人間かね・・・?」

「・・・人間ですよ。決まっているじゃないですか」

 

 

そう言って微笑んだアリア君は、むしろ可憐ですらあった。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

「・・・良い銃だね。これは」

 

 

確か、『GNスナイパーライフル』という名前らしいけど。

素晴らしい所は、周囲から集めた魔力で弾丸を作ってくれることだ。

つまり自前だ。これで弾代に悩まされずに済む。

しかも魔力で作られていながら、実弾として発射されると言う便利さ。

一見、普通の弾丸のように見えるだろう。

 

 

ただ、私には少し大きいかもしれないな。

後で少し調整が必要かもしれない・・・おっと。

 

 

タァンッ!

 

 

結界外に逃げようとした悪魔を狙撃する。

並の人間なら追い切れないだろうが、私の魔眼からは逃げられない。

 

 

アリア先生からの依頼は、「悪魔が結界外に出る素振りを見せたら狙撃しろ」と言う物。

まぁ、有り体に言えば、「倒すまで逃がすな」と言うことだろう。

見かけによらず、怖いことを言ってくる人だ。エヴァンジェリンの影響か?

 

 

「何人か見ない顔もいるけど・・・」

 

 

そっちは依頼に入っていないから、放っておいて良いだろう。

こんな良い銃を貰った上に、現物だけど宝石まで貰ってるんだ。

張り切って、仕事をさせてもらうさ・・・お、また上に来たか。

 

 

そう言えば、この銃で狙撃する時に言わなければならない台詞があるらしい。

茶々丸が言っていた・・・確か。

 

 

「・・・狙い撃つ」

 

 

タァンッ!

 

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

な、なんだか状況がややこしくなってきたネ。

見たことのない顔が何人か。

スライムとか言うのを2匹相手に、今目の前で戦ってる犬耳の子もそうネ。

 

 

「あ、あの子・・・」

「知ってんの宮崎!?」

「え、えっと・・・」

「確か小太郎って奴だ! 修学旅行で兄貴と戦ったんだぜ!」

 

 

小太郎と言うアルか。

荒削りながら、良い動きをするネ。我流アルか?

 

 

「・・・仕事デス」

 

 

髪の長いスライムが、水牢のすぐ前に出てきたアル。

そう言えば、もう1匹いたネ。

そのスライムは、髪の部分が液体になったかと思うと、水牢ごと私達を飲み込もうと・・・。

 

 

「・・・いただきマス」

「た、食べる気です!?」

「ゆ、ゆえ~・・・!」

 

 

夕映の言葉が本当なら、かなり不味いネ。

アリア先生は、あっちのおじさんにかかりきりアルし・・・。

他の人間も、それぞれ忙しいネ。

 

 

「ア~・・・へぶっ!?」

「なっ!?」

 

 

食べようと口を広げたスライムが、突然四散したネ。

どこかから飛んできた大きな手裏剣が、スライムを吹き飛ばしたアル。

こ、これは・・・!

 

 

「か・・・」

「・・・うむ。危機一髪でござったな」

「楓!?」

 

 

 

 

 

Side 楓

 

ニンニン。

なかなか危ないタイミングでござったな。

途中から、拙者の出番がないのではと危ぶんだでござるが、そうでもなかったでござる。

どうしてか、古達の場所は守りが薄かったでござるからな。

 

 

「むむ・・・」

 

 

それにしても、アリア先生は不思議な技を使うでござるな。

ネギ坊主が使う物とも、刹那が使う物とも違うでござる。

京都でも拙者、遊びとは言え一撃で倒されてしまったでござるし。

・・・興味が尽きない御仁でござる。

 

 

「楓! 後ろアル!」

「むむっ・・・!」

 

 

先ほど倒したはずの・・・スライム? が、どばっ・・・と、液状になって襲いかかってきた。

人間離れした再生力!

これはっ・・・。

 

 

「おぉらぁっ!」

 

 

と、別のスライムと戦っていたはずの犬耳の少年が、黒い気のような物を腕に纏わせて、拙者に襲いかかろうとしたスライムを再び四散させた。

なかなか、できるでござるな。

 

 

「油断やで! 糸目のねーちゃん!」

「おお、これはかたじけないでござる」

 

 

見れば、元いた位置にも犬耳の少年が。となると、こちらのは分身でござるか。

・・・犬耳の少年が倒したはずのスライムが、また再生したでござるな。

どうも、なかなかにタフな相手のようでござるな。

 

 

「へっ、おもろいやないか。ねーちゃん、下がっとれや」

「・・・ふむ、これは心外。それでは出てきた意味が」

 

 

楓忍法、16分身。

 

 

「無いでござるよ」

「・・・・・・上等ォッ!」

 

 

参る。

 

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「明日菜君! お待たせ!」

「せ、瀬流彦先生!」

 

 

悪魔もスライムもいない今、僕の邪魔をする者はいない・・・って。

なんだかちょっと、いやかなり情けないような。

結局、アリア君来ちゃったしなぁ・・・。

 

 

と、とにかく。

ぶちっ、と明日菜君のペンダントを千切り取って、踏みつぶして壊す。

結界が、壊れた。やった!

 

 

でも、明石教授のチームに合図はできない。

何か、アリア君の知り合いっぽい鬼も巻き添え喰っちゃいそうだし。

 

 

「う・・・瀬流彦君? 状況はどうなっているのかね・・・」

「が、ガンドルフィーニ先生! 休んでなきゃダメですよ!」

 

 

明日菜君の拘束を解こうとした所で、ガンドルフィーニ先生が目を覚ました。

アバラ骨が数本折れてるんですよ!?

 

 

「・・・あれは、アリア君じゃないか。なぜここに?」

「えっと・・・」

 

 

なんて言ったらいいかな?

生徒を守りに? 僕達を助けに? 実際の所わからない。

けど、一つだけ言えることがある。

 

 

「・・・アリア君がいなかったら、僕達、石にされてました」

「それは・・・」

「アリア君が、僕達を守ってくれたんです」

 

 

もちろん、もしかしたら何か他の目的があったのかもしれない。

でも、結果として僕達はアリア君に守られた。

それは、変わらない。

 

 

「・・・ガンドルフィーニ先生、あの」

「何も言わないでくれないか・・・」

「でも、ガンドルフィーニ先生!」

「・・・・・・<闇の福音>は、危険なんだ」

 

 

・・・すみません、ガンドルフィーニ先生。

僕、最近その認識が崩れつつあるんです。

 

 

「でも、アリア君は」

「・・・わかっている。いや、わかっている・・・つもりだ」

 

 

ガンドルフィーニ先生は、指で眼鏡を押し上げると、懐から予備の拳銃を取り出した。

何をするつもりだろう・・・?

 

 

「・・・アリア君を、援護する」

「ええぇ!? でも骨がっ!」

「そんなことを言ってられないだろう・・・それに結界が解けた今、それくらいはできるはずだ」

「・・・私も、行きます」

「刀子先生!?」

 

 

刀を杖代わりに、刀子先生も立ち上がった。

明らかに足に来てるんだけど・・・でも、目がかなり本気だった。

 

 

「・・・あの腐れ悪魔に、せめて一撃当てないことには気が済みません」

「な、何か個人的な恨みでも?」

「別に何も」

「瀬流彦君は、そのまま生徒の保護に当たってくれ」

「え、ちょ・・・2人とも!」

 

 

行っちゃった・・・。

・・・でも、良い傾向かもしれない。

これで少しでも、アリア君への誤解が解けると良いな。

 

 

「あ、あの・・・」

「あ・・・ああ! ごめんごめん明日菜君。忘れてたわけじゃないんだ!」

「は、はぁ・・・」

 

 

どちらにせよ、戦闘で僕が役に立てるとも思えない。

生徒を一人ずつ、保護していこう。それが僕の役目だ。

とは、言っても・・・。

 

 

明日菜君のこの拘束、どうやったら解けるんだろう?

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

アリア先生の指輪型魔法具『ワイヤーリング』と、私の仮面型魔法具『ペルソナ』による連携攻撃、その名も<攻撃:連携・殲滅の舞踏>により、ヘルマン卿を追い詰めていた時。

魔法封じの結界が壊れたようです。

 

 

「アリア先生」

「ええ、気付いています」

 

 

顔全体が覆われる白く尖った狐のような仮面をかぶった私が声をかけた所、アリア先生も気付いていたのか、頷きで返してきました。

 

 

私の仮面の端から幾条にも伸びる無数の白いリボンがヘルマン卿の周囲を取り囲み、時に縛り上げ、時に刺突します。

そしてさらにその大外から、アリア先生のワイヤーが包み込むように展開されます。

・・・アリア先生との共同作業です。

頭の上に乗っている姉さんも、羨ましいですが。

 

 

ただ、どういうわけか、ヘルマン卿はアリア先生には反撃してきません。

そこだけは、評価できるのですが。

しかしアリア先生が敵と定めた以上、私の敵です。

その時、アリア先生が何かを考え付いたのか、周辺を見渡して。

 

 

「チャチャゼロさん。30秒間、前衛をお願いします」

「キリキザンデイイカ?」

「構いませんよ。・・・月詠さん? 一応言っておきますが、離れておいた方がいいですよ」

「え~、アリアはんのいけず」

 

 

ちなみに月詠さんは、ワイヤーとリボンの間隙を縫ってヘルマン卿を斬り続けていました。

まさか私達が操作を失敗することも無いので、間違って攻撃することもありません。

 

 

「・・・あ、でも別にやっちゃってもいいですよね」

「あかんに決まっとるやろ!?」

 

 

アリア先生の言葉に、千草さんが突っ込みを入れています。

このお二人の関係は、あまり良く知りませんが。

ちなみに千草さんは、酒呑さんの肩の上に座っています。

 

 

「『悪魔パンチ(デーモニッシェア・シュラーク)』!!」

「無駄な・・・っ!」

 

 

ヘルマン卿が、悪魔パンチを地面に向けて撃ちました。

地面から巻きあげられた石で、ワイヤーとリボンが一瞬、弾き飛ばされます。

これは。

 

 

「流石に打開策を見つけるのが早い・・・」

「どうするんや嬢ちゃん?」

 

 

酒呑さんの言葉に、ふむ・・・と、アリア先生が考え込んだ時。

 

 

「雷鳴剣!!」

 

 

突如ヘルマン卿の背後に現れた刀子先生が、刀を振り下ろしました。

稲光とともに、大きな爆発が起こりました。

刀子先生は、確か前半の戦いで倒れたはずでは。

 

 

「ぐむううぅぅ・・・!」

 

 

煙の中から出てきたヘルマン卿は、左腕の一部が消えていました。

傷口から、黒い靄もような物が滲み出ています。

一方で刀子先生は、煙が晴れた後、再び倒れていました。

反撃されたのか、力尽きたのか・・・。

 

 

ガァンッ、ガァンッ!

 

 

「ぬうぅっ・・・」

 

 

そのヘルマン卿の足を打ち抜いたのは、銃弾。

発射音からして、龍宮さんの物ではありません。

魔力反応も違います。

 

 

「あれは・・・」

「ガンドルフィーニ先生の物と思われます」

「・・・・・・そうですか」

 

 

アリア先生は、ガンドルフィーニ先生達の真意を図りかねているようです。

私としても、判断が付きません。

悪魔を倒すことを優先した結果なのか、それとも・・・。

 

 

「・・・まぁ、いいです。酒呑さん」

「なんや、嬢ちゃん」

「ちょ、人の式神と勝手に話を進めんといてくれへん?」

 

 

千草さんの言葉を華麗に無視して「ちょお!?」・・・。

アリア先生は、ニコリと笑いました。

 

 

シャッターチャンスです。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

なんや、ようわからんけど力が使えるようになったで!

うっしゃあ!

 

 

「『疾空黒狼牙』!」

 

 

狗神を出して、一気に目の前の軟体動物3匹に叩きつける!

 

 

「・・・当たるかヨ!」

「避けマス」

「簡単だネ!」

 

 

上に飛んで、軟体動物は狗神をかわした。

けどな、そこには・・・。

 

 

「拙者がいるわけでござるな」

「ヌオッ!?」

「「「楓忍法、『四つ身分身・朧十字』!!」」」

 

 

やたら密度の高い糸目のねーちゃんの分身が、3体まとめて攻撃。縛り上げた。

あの分身、俺の分身よりも密度濃いんちゃうか?

とにかく、動きが止まった。今や!

 

 

「今でござるよ!」

「任せとけ! ・・・我流・狗神流!」

 

 

瞬動で飛んで、軟体動物の上に。

気を両手の拳に集めて、練り上げる。

できるだけ大きく、多くの量の気を練って・・・一気に撃つんや!

消し飛ばしたる!

 

 

「『狼牙双掌打』!!」

「ダメ押しに、もう一撃でござる!」

 

 

俺の攻撃と挟みこむ形で、大きな気弾を糸目のねーちゃんが撃った。

ずきゅんっ・・・と、音を立てて、軟体動物の身体が震えた。

何かを打ち抜いた。その感触があった。

挟撃された軟体動物は、そのまま地面に落ちた。

 

 

「・・・どうや!」

 

 

糸目のねーちゃんの横に降りて、軟体動物を見る。

すると・・・。

 

 

「うう、あんなガキどもニ~・・・」

「いやぁ~ん・・・デスゥ」

「まぁ、悪役デスシ・・・」

 

 

黒い煙を上げながら、軟体動物どもは砂になって消えた。

へへ・・・勝ったみたいやな。

 

 

「いやぁ、どうにかなったでござるな」

 

 

おっと、糸目のねーちゃんに礼言っとかんと。

一人でも問題無かったやろうけど、それでも一緒に戦れて気持ち良かったしな!

何よりも、ちゃんと言っとかんと千草のねーちゃんがうるさいからなぁ。

 

 

「えーと・・・助かったわ! 糸目のねーちゃん!」

「そっちは分身でござるよ~」

「・・・へ?」

 

 

ぼむんっ、と音を立てて、目の前のねーちゃんが消えた。

慌てて振り向いてみると、本物のねーちゃん・・・が、おった。

・・・俺に見抜けん分身なんて。

 

 

「・・・ねーちゃん、強いな」

「なんのなんの、お主こそまだ力を隠しているでござろう?」

「げ・・・」

 

 

そこまでバレとるんかいな。

不味いなー、千草のねーちゃんに怒られてまうかもしれん。

さっきも、グラサンのおっさんとかノしてしもうて、エラい怒られたのに。

 

 

「それでは、拙者はクラスメイトを助けに行くでござるよ」

「お、おう・・・ねーちゃん、名前は? 俺は小太郎や」

「長瀬楓でござる・・・ニンニン」

 

 

おお、あれが忍者か・・・。

東には、西に無いもんがいっぱいあるんやなぁ。

 

 

えーと・・・楓ねーちゃんは、なんや4人くらいおる方に行った。

なんか、見覚えのあるねーちゃんがいる気がするけど。

 

 

せやったら、俺は楓ねーちゃんの行ってない方を助けに行くかな。

なんや隅の方で、髪の短いねーちゃんが別枠で捕まっとるし。

うん、そーしよ・・・。

 

 

・・・・・・なんや、忘れとるような気がする。

なんやったかな・・・?

 

 

「・・・あ!」

 

 

ネギはどこや!?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「それでは、お願いしますね!」

「よし来たぁ!」

「せやから人の式神、勝手に使うなて言うとるやろ!?」

「どるぅああああああっ!!」

 

 

いつだったか京都でそうされたように、酒呑さんの棍棒に乗り、空高く投げ出されます。

自分で飛ぶよりも、こっちの方が楽なので。

そのまま、空中でくるり、と体勢を入れ替えまして。

 

 

「・・・アイキャン・フライ」

 

 

魔法具『飛翔する翼』を起動。

空中に足場を作り、そこにずだんっ、と足を付けます。

真下には、チャチャゼロさんを先頭に、集団で攻撃されるヘルマン卿。

 

 

ちらり・・・と、魔力反応を頼りに遠くを見れば、建物の屋根でライフルを構えた真名さんが視界に。

狙いが私で無いとわかっていても、怖いですね。

 

 

左手には黒き魔本、『千の魔法』。

右手には黄昏色の剣、『“姫”レプリカ』。

 

 

『千の魔法』、№60。

 

 

来たれ深淵の闇(アギテー・テネブラエ・アピュシイ) 燃え盛る大剣(エンシス・インケンデンス) 闇と影と(エト・インケンディウム・)憎悪と破壊(カリギニス・ウンプラエ) 復讐の(イニミーキティアエ・デース)大焔(トルクティオーニス・ウルティオーニス)

 

 

ぐぐっ、と力を込めて、真下へ向けて飛びます。

本来なら詠唱する必要はないのですが、これが合図にもなりますので。

 

 

チャチャゼロさんと茶々丸さんがヘルマン卿から離れます。

倒れている刀子先生は、千草さん(というか、酒呑さん)が担いで行きましたね。

月詠さんは・・・まぁ、いいです。何やら「ゾクゾクやわぁ~」とか言ってますので。

京都でも大丈夫だったのですから、今回も死にはしないでしょう。

 

 

我を焼け 彼を焼け(インケンダント・エト・メー・エト・エウム) 其はただ焼き尽くす者(シント・ソールム・インケンデンテース)

 

 

右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』を発動。

術式設定を制御します。

 

 

「『奈落の(インケンディウム)業火(ゲヘナエ)』!!」

 

 

術式、固定完了。行けます。

続いて、固定した『奈落の(インケンディウム)業火(ゲヘナエ)』を『“姫”レプリカ』に付与します。

 

 

「術式付与、完了・・・是、“地獄の焔姫”!!」

 

 

固定した術式が『“姫”レプリカ』に取り込まれた瞬間、魔法の力を付与された刀身が黒い炎に覆われ、周囲の空気を焼きながら燃え上がりました。

闇の、炎。

 

 

相も変わらず、制御の難しい魔法ですね。

・・・でも!

 

 

「こ、これは・・・・・・ぬぉっ!?」

「逃がしません・・・『停止世界の邪眼(フォービトウン・バロール・ビュー)』!!」

 

 

茶々丸さんが左眼に漆黒の片眼鏡を装着、ヘルマン卿の動きを止めてくれました。

あの片眼鏡は、視界内、あるいは視界内の特定の物の時間を止めることができます。

 

 

「はああぁぁぁ・・・・・・っ!!」

 

 

右腕を、『“姫”レプリカ』を、大きく振りかぶって。

皆の・・・仇!

 

 

「・・・・・・ぁぁぁああああっ!!」

 

 

振り下ろしました。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

目が覚めた時、状況が一変していた。

 

 

ガンドルフィーニ先生達がいて。

茶々丸さん達もいて。

小太郎君や、京都で見た剣士の人もいて。

楓さんまで。

 

 

スライムが倒されていて。

そして、ヘルマンは、どうしてかボロボロになっていて。

 

 

僕は・・・?

 

 

そして、この声。

ステージに響くこの声は、呪文の詠唱だ。

でも、誰が?

誰・・・。

 

 

「『奈落の(インケンディウム)業火(ゲヘナエ)』!!」

「え・・・」

 

 

空。

空に、人がいた。

それは、見覚えのある顔で。

 

 

「なんで・・・」

 

 

その人を、僕は知っていて。

でも、あんまり好きじゃなかった。

昔から。

 

 

「なんで、アリアが・・・」

 

 

アリアは。

アリアだけは。

アリアだけは、昔から。

 

 

「なんで、アリアが魔法を・・・?」

 

 

アリアだけは、昔から僕に厳しかったから。

 

 

「どうしてアリアが、魔法を使えるの・・・っ!?」

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・トドメを、刺さなくてもいいのかね・・・?」

 

 

身体の7割程が消し飛んだヘルマン卿が、弱々しい声で語りかけてきました。

もう、数分もしない内に魔界に還されるでしょう。

 

 

「6年前も今も、貴方は使われただけ・・・それに、貴方はそれほど悪い人には見えませんから」

「キミは・・・」

 

 

ガンドルフィーニ先生がなぜか眼鏡を取って、目元を拭いています。

瀬流彦先生は・・・あ、まだ明日菜さん達の拘束解けてないんですね。

 

 

茶々丸さんとチャチャゼロさんは、無表情ですね。まぁ、普段からあまり表情の動かない方々ですしね。

そして千草さん、なんですかその胡散臭い物を見るような目。後でお話がありますよ。

月詠さん? ・・・生きてますよ普通に。今は酒呑さんの肩に担がれてます。

 

 

「ふ・・・」

 

 

ヘルマン卿が、どこか温かみのある笑みを浮かべました。

 

 

「ふふははは、アリア君。キミはとんだお人良しだ「なんて、言うと思いました?」・・・何?」

「許す? 貴方を? 誰が? どんな理由で?」

 

 

笑みを浮かべて、ヘルマン卿を見下ろします。

周囲の誰もが固まってしまって動かない中、千草さんだけが「やっぱりな」とか呟いて、しきりに頷いていました。

絶対に後でお話、いえ、OHANASIです。

 

 

「6年・・・6年ですよ? 村の皆が6年間も石にされていると言うのに、貴方をこの一瞬で許せ? 冗談じゃありませんよ。あまりにも不公平です」

「む・・・」

「でも、トドメも刺しません。なぜなら貴方への報復をどうするかを考えるのは、私ではないからです」

 

 

復讐するか、報復するかを考える権利は、実際に石にされた人達が決めるべき。

私一人で決めて良い問題では、ないのですから。

だから。

 

 

「そのカードは・・・?」

 

 

私の手には、牢獄の絵が描かれた一枚のカード。

カードの名前は、『魂の牢獄』。

 

 

「だからそれまで・・・貴方を幽閉します。光も音も届かない、永遠の牢獄へ。泣こうが叫ぼうが、誰にも聞こえない暗黒の牢獄へ。何、大丈夫ですよ。死にはしません。どれほど絶望しようが狂おうが、このカードの中に封じられた魂は傷一つ付かない」

「な・・・」

「さようならヘルマン卿。そしてようこそ、我が牢獄へ」

 

 

カードを向けて、発動ワードを言葉にします。

 

 

「罰ゲーム!」

 

 

カッ・・・と、カードが一瞬輝き、視界を奪います。

そしてそれが収まった後には・・・ヘルマン卿は、影も形も残っていませんでした。

一方で、カードの絵柄が変化しています。ヘルマン卿の絵が追加されています。

まさに音も無く。

ヘルマン卿の魂は、我が手に堕ちました。

 

 

・・・これも、石化解除の役に立つでしょう。

ふふふ・・・さぁて。

忙しくなりますね。夏休みまでには仕上げないと。

 

 

「注意すべきか・・・? いや、でも相手は悪魔だし・・・そもそも、まず謝罪するべきか・・・いや、しかし・・・」

 

 

なにやらガンドルフィーニ先生がブツブツ言ってますが、正直どうでも良いですね。

・・・でも、さっきのことについてはお礼を言うべきなのでしょうか・・・。

 

 

「ぐわはははははっ、相も変わらず元気の良い娘っ子じゃのぅ!」

「やっとることはえげつないけどな・・・」

「うふふ、素敵です~・・・がくり」

 

 

千草さんが明らかに引いている中、酒呑さんだけが、かんらかんらと笑っています。

月詠さんには、もう何も言うことがありません。

 

 

「・・・明日の夕食は、お赤飯でしょうか」

「マダハエーンジャネーカ?」

 

 

茶々丸さんとチャチャゼロさんは、いつもと変わらない対応。

まぁ、まだお赤飯には早いかもしれませんね。

材料が揃ったと言うだけですし。

 

 

「・・・もう少し」

 

 

ネカネ姉様、アリアはもうすぐそちらへ行けそうです。

アーニャさん、必ずご両親を助けてみせます。

待っていてください、スタン爺様、皆。

 

 

紹介したい人達が、いるんです。

 

 

 

 

 

「なぁ~、こっちのねーちゃん助けたってーな」

「こ、こっちも助けてくれると、ありがたいんだけど」

「お、お願い、早く助けて・・・あ、足が・・・」

「・・・拙者の結界破壊も効果がないでござる」

 

 

上から、小太郎さん、瀬流彦先生に明日菜さん・・・なんで長瀬さんがここに?

そして皆さん、比較的真面目に人質を解放しようと頑張っていますね。

ヘルマン卿が消えても魔法が消えないと言うのは・・・石化と同じ原理ですか?

でも水牢はスライムが作ったんですよね・・・?

 

 

・・・というか。

ネギ先生が少し離れた位置から私のことを見てるんですけど。

言いたいことがあるならはっきり言えば良いのに。

 

 

・・・まぁ、良いでしょう。

とりあえず、まずは目の前のことを。できることから少しずつ。

ですよね、シンシア姉様?

 

 

 

 

 

アリアは、助けたい人を助けます。

 




アリア:
アリアです。
快感です。ぶっ放してやりました。そしてヘルマン卿の回収に成功。
悪魔編もようやく終わりです。
あとは原作がどう動こうと知ったことではありません。
お好きになさればよろしい。
うふふ・・・。

今回使用した魔法具は以下の通り。

“姫”レプリカ:剣の舞姫様提案。
(作中の“地獄の焔姫”も剣の舞姫様の許可・提案を受けての物になります)。
ペルソナ:元ネタはシャナ。提供は司書様。
魂の牢獄:元ネタは遊戯王。提供者はhaki様です。
停止世界の邪眼:水色様の提供です。
ワイヤーリング・エクセリオン:提供は景鷹様。
ありがとうございます。

アリア:
次話は、悪魔編の後片付け的な回です。
関係者それぞれが、事件の後始末をするお話。
さて、悪魔編の後、私を取り巻く環境はどうなるのでしょうか?
では、またお会いしましょう。

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