魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第48話「変わるモノ、変わらないモノ」

Side 夏美

 

あれ・・・?

 

 

「あら、おはよう。夏美ちゃん」

 

 

ちづ姉?

目を覚ますと、そこはいつもの部屋で。いつもの朝だった。

あれ・・・私?

 

 

「私、お風呂で・・・」

「ええ、そうよ。のぼせて倒れたんだって、アリア先生が今朝早くに送って来てくれたのよ」

「・・・アリア先生?」

「覚えていないの?」

 

 

覚えて・・・?

う~ん、お風呂場でお湯をかぶっちゃったあたりから、よく覚えてないや。

 

 

「どうしたの、ぼうっとしちゃって。怖い夢でも見たの?」

「ん~・・・そうかも」

「うふ、じゃあ今夜は一緒に寝てあげましょうか?」

「ちょ、もー、子供扱いしないでってば!」

 

 

まったくもう、ちづ姉は。

保母さんを目指してるからなのか、私が子供っぽいからかはわからないけど、すぐそんなこと言っちゃうんだから。

 

 

『目を覚ませばまた、いつもの朝です。教室で元気な姿を見せてくださいね』

 

 

んー? アリア先生・・・?

 

 

あれー・・・?

なんだか、とっても大変な目にあったような気がするんだけど。

夢だったのかな?

 

 

「・・・まぁ、そうだよねー」

 

 

犬耳の男の子とか、いるわけないもんね。

でも、ちょっとカッコよかったな。

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

「・・・これが、今回の件の報告書、かね?」

「は、その通りであります」

 

 

ガンドルフィーニ君を先頭に、わしの前に並んでおるのは、今回の件に関わった魔法関係者達じゃ。

明石君、弐集院君、神多羅木君、刀子君、シスターシャークティー、そして、瀬流彦君。

今朝になって、報告書を提出しに来たと言うのじゃが、随分と早いの・・・。

 

 

「・・・侵入してきた悪魔は撃退、攫われた生徒も全員無事、か」

 

 

結果としては、上々じゃの。

わしが知っておる範囲の情報とも、そう違いはない。

ただ・・・。

 

 

「悪魔を撃退したのは、明石君の対悪魔呪文担当チームとなっておるが」

「はい。後で生徒達を褒めてやってください」

「それは・・・まぁ、そうじゃの」

 

 

明石君は、わしの言葉に普通に返してきた。

いや、わしが遠見で見ていた範囲では、対悪魔呪文は発動すらしていなかったような。

 

 

「ネギ君は奮闘したものの、全体には影響を与えず、とな?」

「・・・はい。私達が到着した際には、すでに気を失っていました」

「そ、そうかの・・・」

 

 

刀子君も、普通に返してきた。

ま、まぁ、爵位級悪魔を相手に足止めしたわけじゃから、無駄ではあるまい。

本人にとっても、良い経験になったじゃろうな。

 

 

まぁ、ここまではまだ良い。

ただ、三つ目の報告。これは・・・。

 

 

「・・・アリア君は、一切関与していなかった・・・じゃと?」

「はい。アリア君はずっと自宅にいました。僕が最後に連絡したので、保証します」

 

 

確かに、瀬流彦君を通じて最後に連絡をとった。

そして、「無理でした」と報告されておる。

しかし・・・こやつら。

 

 

「アリア君は、その場に・・・」

「いえ、おりませんでしたな」

「いませんでしたね」

「いなかったと思います」

「来たという話は聞いておりません」

 

 

こやつら・・・。

 

 

「いや、わしが見ていた限り・・・」

「これは不思議ですな。現場におられなかった学園長が、我々の知らないことを御存じとは」

「いや、それはじゃの・・・というか、わかっておるじゃろ?」

「いいえ、皆目見当が付きませんな」

 

 

こ、こやつら・・・。

 

 

「あ、アレじゃないですか? 遠見の魔法で」

「遠見・・・となると、生徒が危害を加えられそうになっていた所も、見ていたと」

「葛葉達が倒された時も、ただ見ていたわけだな」

「・・・いえ。組織のトップが軽々に動いてはならないことは、重々承知していますから」

「しかし、犠牲を強いるというのは、主の教えに反する行為です」

「いやぁ、学園長に限って、そんなことはないでしょう」

「弐集院先生の言う通りですよ。学園長に限って、まさか!」

 

 

こやつら、普通に虚偽の報告を上げてきておるううううぅぅぅぅぅっ!!!!

 

 

し、しかも、「見ていた」とは言えない雰囲気・・・!

ひ、一晩でここまで変わるとは。

こ、これはわし、かなり不味い状況なのではないじゃろうか。

タカミチ君が出張でいないのが、せめてもの救いか。

 

 

「・・・まぁ、その件はともかく。学園長」

「ほ?」

「折り入って、ご相談したいことがあります」

 

 

そういって、ガンドルフィーニ君達は、懐から白い封筒を取り出した。

な、何か嫌な予感が・・・。

 

 

「私達はこのまま、貴方の下で働くことは難しいと感じておりまして」

「ほ?」

「今指導している生徒が手を離れ次第、我々は職を辞させていただきたいと思います」

「ほ、ほおおぉおぉ!? そ、それは困るぞい!?」

 

 

麻帆良の戦力が、半減してしうまう!

そ、それは、非常に不味いぞい・・・。

 

 

「無論、学園長にも都合がおありでしょう。幸い指導を始めたばかりの生徒も多いので・・・最大3年ほどは、これまで通りに勤めさせていただきます」

「ど、どうしてもかね?」

「我々も、命は惜しいので」

 

 

ふ、ふぉおお・・・。

し、しかし、それは困るぞい。

色々と、予定が変わってしまうわ。

 

 

「3年もあれば、新規で人を雇うなり、本国から融通してもらうなりできるかと」

「僕達も、新しい職を探すこともできますし」

「わ、私はけ、結婚・・・とか」

「私は、このまま大学の教授職を本職にしようかと」

「明石教授は、手に職あるから良いですよねー」

「シスターシャークティーは、どうなさいます?」

「私は元々、教会の仕事の収入で暮らしていけますので・・・」

 

 

・・・ま、不味いぞ。本気じゃ、こやつら・・・。

ガンドルフィーニ君などは、マギステル・マギを目指しておるはずでは・・・。

・・・まぁ、ここでなくとも、目指せるのじゃが。

 

 

本国か・・・。

今、麻帆良など旧世界の魔法学校の管理、統率を任されておるのは、確か。

メガロメセンブリア元老院議員・・・。

 

 

クルト・ゲーデル氏。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

ネギが、もの凄く落ち込んでいる。

今も、座り込んだまま動かない。

 

 

「ね、ネギせんせー、大丈夫でしょうか・・・?」

「そうね・・・っていうか、本屋ちゃん達は大丈夫なの? その、色々と・・・」

 

 

今回も、というか、今回は本当に危なかった思う。

一歩間違えれば・・・先生達が来てくれなかったら・・・。

 

 

「・・・わ、私は、それは怖いなーって思いましたけど・・・でも、大丈夫、です・・・」

 

 

着替えに部屋に戻ったんだけど、ネギは戻ってこなかった。

授業あるのに・・・と思って来てみれば、本屋ちゃん達も来てた。

なんというか、本当にネギのことが好きなのねー。

 

 

夕映ちゃんは、本屋ちゃんが心配って感じだけど。

今もほら、難しい顔して・・・って。

 

 

「ど、どうしたの、夕映ちゃん・・・?」

「え・・・いえ、今さらながらに、考えさせられていると言うか・・・」

「へ・・・?」

「・・・でも、のどかが・・・」

「え・・・私ー・・・?」

「・・・いえ、なんでもないです」

 

 

黙り込んじゃった・・・。

朝倉はどうだかわかんないけど、くーふぇも、ネギに何も言わずにどっか行っちゃったし・・・。

アリア先生は、村上さんだけ連れて行っちゃうし・・・。

・・・楓ちゃんと、どうしてか来た龍宮さんは、アリア先生について行ったけど。

 

 

ネギは、自分のことで一杯一杯だし。私だって・・・。

これから、どうなっちゃうんだろう・・・。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

どうして・・・。

どうして、アリアが魔法を使えるの・・・?

 

 

アリアは、魔法が使えないって、自分で言ってたのに・・・。

 

 

・・・アリアは、魔法が使えないことで有名だった。

魔法学校の生徒の中で、魔法が使えないなんて、アリアくらいだった。

最初に聞いた時は、驚いて・・・可哀そうだと、思った。

 

 

父さんみたいに、なれないと思ったから。

 

 

それが、いつからかな・・・すごく、鬱陶しく感じるようになったのは。

 

 

魔法学校に入りたての頃、少しは同年代の子供と遊ぶように言ってきた時かな。

勉強したかったから、そんな暇なかったけど。

・・・アリアは、いつも誰かしらと一緒にいた気がするけど。

 

 

アーニャに手伝ってもらって、禁呪書庫に忍びこんでるって知られた時かな。

アリアにバレた次の日からは、アーニャが来れなくなって・・・。

すごく、喧嘩したのを覚えてる。

結局、僕一人で忍びこんでたけど。

 

 

麻帆良に来てからは・・・はっきりと、仲が悪くなった気がする。

そういえば、最近、兄様って呼ばれなくなったような・・・。

呼ばれ方なんて、気にしたこともなかったけど。

 

 

京都でも。そして、昨日の夜も・・・。

アリアは、いつも僕が理解もできないようなことをしていたけど・・・。

昨日のは、一番だったな・・・。

 

 

「あ、兄貴ー・・・」

「ごめんカモ君、もう少し一人にして・・・」

「いや、でもよー・・・」

 

 

それに・・・。

 

 

『・・・え? 私は村上さん以外の方は、助ける気ゼロですよ?』

『あ、楓さんは拾っていきましょうか(「拙者でござるかー?」)』

『明日菜さん達? ネギ先生の従者その他を、どうして私が面倒見なくちゃいけないのですか』

 

 

それに・・・。

 

 

『第一、この魔法具だってタダじゃないんです』

『だってこれ、私の自作ですから。欲しいなら金払えです。500万くらい』

 

 

「・・・・・・っ」

 

 

僕は・・・。

僕は、どうすれば良いの・・・?

 

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

な、なんだろうこの状況は。

今、僕は学校の屋上に呼び出されているんだけど・・・。

 

 

「瀬流彦先生、食べないんですか?」

「あ、ああ、うん・・・」

 

 

アリア君、ここでその気遣いはかえって厳しいよ。

重箱に詰められた卵焼き、おにぎり、野菜にお肉・・・。

つまり、この状況を一言で言うなら。

 

 

昼食にお呼ばれしていた。

 

 

「なんだ、私の食事が食えんというのか?」

「でもこれ、茶々丸さんが作ったのですから、むしろ茶々丸さんの食事ですよね」

「メイドイン、茶々丸さんです」

「アリア、お前な・・・あとさよ、それは何か違うぞ」

「え・・・あ、これ、絡繰君が作ったんだ。すごいね」

「恐れ入ります」

 

 

絡繰君は、座ったまま頭を下げてきた。

ちょっと遠慮しつつ、一口食べる。

・・・うん、すごく美味しい。

 

 

「これなら、毎日食べたいくらいだよ」

「なんだ貴様、来て早々に茶々丸を口説くとは良い度胸だな。アア?」

「ぶふっ・・・い、いやそういうつもりじゃ」

「エヴァさん。昼間から血の花咲かそうとしないでください」

「・・・ちっ、夕食に招くべきだったか」

 

 

え、何それ。夜だったら僕、殺されてたの!?

・・・夕食には誘われても行かないようにしよう。僕は固くそう誓った。

でも、そんな機会があったら怖くて断れないんだろうなぁ。

 

 

「そう言えば、千草はどうした」

「千草さんは、月詠さんと共に学園長に挨拶に。なんでも、西の長から連絡を受けたようで」

「なんで茶々丸さんが知っているんですか?」

「私が一番、まともそうだとのことで」

「・・・千草さんめ」

 

 

さっきから話題に上っている千草というのは、あの鬼を使役していた陰陽師の人のことかな。

あの犬耳の子供、神多羅木先生を突破してきたらしいし。

その意味でも、一度話してもらう必要があるからね。

 

 

でも、あの人達、京都では敵だったんだよね。

それが今や、一緒に悪魔と戦った仲だって言うんだから、人生何が起こるかわからないよね。

その時、アリア君が、あふっ・・・と、欠伸をしていた。

 

 

「アリア先生、眠そうですねー」

「え・・・あ、そっか。アリア君、寝てないのか!」

「瀬流彦先生もでしょう?」

 

 

いや、僕とキミとじゃ意味が違うと思うんだけど。

本当に、アリア君は、なんというか・・・。

 

 

・・・あの後、関係した魔法先生、皆で話した。

今回の件を、学園長にどう報告するか。

 

 

一番の問題は、アリア君をどう扱うかだった。

アリア君は村上さん以外は助けなかったから、ガンドルフィーニ先生はあまり良い顔をしてなかったし。

正直、揉めなかったとは、言わない。

 

 

ただ、アリア君のおかげで事件が解決したのも確か。

それに、アリア君に近付かないようにと命じていたはずの学園長が、いざとなったらエヴァンジェリンに助けを求めたと言うのも、マイナス要因だった。

関西との関係とか、悪魔の情報のこととか、色々あったし。

 

 

少なくとも今の体制のままで働く気には、なれないみたいだ。

今回の件は一歩間違えれば、誰かが死んでた。

というか、僕がまず死にかけてる(石になる所だった)。

それも、一般人の生徒を巻き添えにして。

 

 

学園長が今の考えを改めてくれない限り、僕達は・・・。

いや、話が逸れたね。

結局、アリア君本人が去り際に言った言葉が、通ることになった。

 

 

『主人に怒られますので、いなかったことにしてください。その方がそちらも好都合でしょう?』

 

 

ガンドルフィーニ先生達は、どうしてアリア君が表に出て行こうとしないのか、不思議そうだったけど。

僕にはなんとなく、わかる気がする。少しだけ。

いつだったか、エヴァンジェリンも言っていた。

 

 

『ぼーやからアリアに乗り換える気か?』

 

 

乗り換える・・・うん。嫌な言葉だ。

嫌な言葉は、けしてなくならない。

それに、ネギ君のこともあるし。

 

 

アリア君が魔法を使える、なんて話が公になったら・・・。

 

 

「・・・瀬流彦先生?」

「え・・・ああ、うん、何?」

「予鈴、鳴ってますよ。早く行きませんと」

「え・・・ええ!? あ、本当だ!?」

 

 

アリア君に言われて、初めて気付いた。

い、いっけね。遅刻なんてしたら新田先生にどやされちゃうよ。

 

 

「エヴァさんはどう・・・あ、サボりですか」

「ちょっと待てさよ。お前の言動には気になる部分がある」

「えー、じゃあ、授業出るんですかー?」

「サボるに決まってるだろうが。あんなかったるいもん出てられるか!」

 

 

・・・生徒が「サボる」発言をしているのに注意できないって、なんだかなぁ。

命が惜しいから、絶対にしないけどさ。

 

 

「あ、でもアリア君、寝て無いんだよね。大丈夫?」

「大丈夫ですよ。むしろ、この偏頭痛が心地よくて」

「「いや、それはダメだろう(でしょ)!!」」

 

 

・・・あ、エヴァンジェリンとハモっちゃった。

ガンドルフィーニ先生が聞いたら怒るかな。

いや、そもそも信じてくれないだろうな。

 

 

あの<闇の福音>が、こんなに普通の生活をしてるだなんて。

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

まったく、アリアめ・・・。

私は今日、学校ごとサボろうと思っていたのに。

 

 

「・・・ああ、ちょっと待て瀬流彦」

「え・・・な、名前で呼ばれた!?」

 

 

なんだ、私が名前で呼んだら問題なのか。

やはり、ポンコツのままで良かったかな・・・。

 

 

「・・・これを持っていけ」

「えっと・・・これは?」

「私の秘蔵の酒の一本だ。特別に分けてやる。新田とか言う教師とでも飲むが良い」

「わ、わわっ・・・」

 

 

瀬流彦に投げ渡したのは、カゴシマ産の芋焼酎。その名も『魔王』。

一時期に入手が困難になった、幻の名酒だ。

 

 

「えっと・・・どうしてこんな物を僕に?」

「別に理由など、どうでも良いだろう」

 

 

なんとなく、くれてやりたい気分になったんだよ。

他の教師連中のことは知らんが、貴様や新田とか言うやつの名前は、アリアから良く聞くんだ。

しずなとか言う女の名前も、割と聞くがな。

 

 

「・・・なんだ。ヘラヘラと笑いおって」

「え、ああ、ごめん。たださ・・・」

「ただ、なんだ」

「アリア君のこと、大事に想ってるんだなぁって思って」

「黙れ。殺すぞ」

「ごめんなさい!? え、でもなんで!?」

 

 

急にアタフタしだした瀬流彦を見つつ、上から下までジロジロと観察する。

・・・ふん。こいつはやはりポンコツで十分だな。

 

 

実際、私にとってはどうでも良い人間なんだがな。

まぁ、アリアの同僚となれば、話くらいはしてやってもいいさ。

ただ・・・。

 

 

「・・・今度、アリアや茶々丸を口説いたら首を飛ばすからな。当然、さよもだ」

「しないよ!? 立場を考えてよ!」

 

 

どうだかな。

まぁ、さよに手を出した場合、私よりも先にバカ鬼が制裁に行くかもしれんがな・・・。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

いや、昨日は良い夜だった。

最初は、学園長のあの後頭部を撃ち抜いてやろうかと本気で悩んだ物だが・・・。

最終的には、黒字になったからな。

 

 

やはり、報酬をきちんと払ってくれる人間は良い。

こちらも気分良く、仕事ができると言う物だ。

 

 

「いやぁ~、昨夜は大変だったでござるな」

「ふふ、お疲れだな、楓」

「真名こそ、眠くはないでござるか?」

「そう言う楓も、眠くなさそうだな?」

「ニンニン」

 

 

まぁ、楓なら一日や二日寝ていなくても、問題無いだろう。

ちなみに事件の後、アリア先生に仕事の報告に行ったら、楓もそこにいた。

だから、楓は私が昨夜の件に関わっていることを知っている。

 

 

ちなみに、私の知っている「昨夜」と、楓が記憶している「昨夜」はおそらく微妙に違うはずだ。

アリア先生から説明を受けた上で、楓は昨夜の記憶を消されて・・・というより、書き換えられている。

確か、なんとかと言う本だったかな。それを使っていた。

 

 

楓は、基本的な記憶はそのままだが、「魔法」に関する記憶は持っていない。

例えば、あの悪魔のことは「普通の暴漢、誘拐犯」ということで記憶している。

もちろん、事件に協力したことは覚えているし、関係した人間の顔も覚えている。

だが、「魔法」に関する部分だけは違う。

「銃」や「普通の拳」や「爆弾」として記憶している、らしい。

村上については、良く知らないが・・・。

 

 

本当なら全ての記憶を消す所を、「できれば、自分が何をしたかは覚えていたい」という楓の願いを入れて、アリア先生が調整した。

そこまで器用に記憶を操作できると言うのは、正直、怖いくらいだ。

 

 

なので、私としても会話に気を遣う。

まぁ、報酬さえ払ってくれれば、何も文句はない。

記憶操作の協力料、餡蜜10杯・・・。

 

 

「・・・む?」

「どうしたでござる?」

「いや・・・」

 

 

何か、視線を感じる。

・・・教卓の前から、ネギ先生がこちらを見ていた。

そう言えば、次は英語だったか。

 

 

「はい、授業ですよーって、何をやってるんですか、ネギ先生?」

「え、あ・・・っ」

 

 

すぐにアリア先生が来るが、ネギ先生はアリア先生の顔を見て、顔をしかめた。

アリア先生はにこやかに笑いながらも、「?」と、頭の上に疑問符を浮かべている。

 

 

あれは絶対、わかっていてやってるな・・・。

ネギ先生の「らしくない」変化に、教室内が、にわかにざわついた。

 

 

いずれにせよ、良くない兆候だ。

目当ては私か、それとも楓か・・・。

頼むから面倒は起こさないでくれよ、ネギ先生。

 

 

クライアントに報酬の上乗せをせびるような、無様なことはしたくないんだ。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

おお、おお~・・・。

なんというか、面倒そうな空気出してるね~、あそこ。

 

 

ゆーな達なんかは、「ケンカ?」とかなんとか言ってるけど、あれはちょっと違うよね。

ネギ君が、一方的にアリア先生に何かを感じてるって所かな。

実際、アリア先生はいつも通りに接してるわけだし。

 

 

ネギ君ねー・・・英雄の息子様だかなんだか、よく知らないけど。

面倒事だけは、勘弁して欲しいね。

これまで通り、無関係でいることにしますか。

 

 

アリア先生は・・・うん、いいや。

少なくとも、面倒を持ってこないだけで、私にとっては良い人だよ。

 

 

クラスの連中の雰囲気も、一晩でガラリで変わっちゃったね~。

 

 

明日菜は・・・うん、普通に心配って顔。

本屋は・・・うん、恋する乙女だ。私に関係しない所で頑張ってー。

ゆえ吉は、むしろその本屋を心配してる感じ。

朝倉は、「あちゃー」みたいな顔してる。いつもと同じか・・・ちょっとテンション低め?

くーちゃんは・・・何か難しい顔で、ネギ君を見てるね。くーちゃんが真面目に考え事って、珍しい。

 

 

桜咲さんは、何か平静だね。我関せず、そんな感じ。

木乃香は・・・関西のお姫様って聞いただけでビックリだよ。でも最近、笑顔が怖い。

龍宮さんは・・・私とおんなじ? 「面倒事は勘弁」って顔だ。

 

 

他にも、いろいろ・・・明らかに様子のおかしいネギ君を見て、ざわざわしてる。

いいんちょ、「南の島に!」とかはやめた方が良いと思うよー。

 

 

・・・まぁ、いいや。

私には、関係のないことだもんね。

 

 

これまで通り、無関係でいさせてください、まる。

・・・あ、「まるまる」になっちゃった。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「失礼しますえ」

「どうも、神鳴流です~」

「・・・どーもやで」

 

 

夕方、月詠はんと小太郎を連れて、東の長の所へ来た。

確か、近衛近右衛門とか言う名前やったかな。

強硬派の中には、東に走った裏切り者なんて言う人間もおるけど。

 

 

本当なら、昼までには来るつもりやったんやけど。

今回の件を西の長に知らせたら、そのまま待たされてしもうた。

どうも、組織としての対応をしとったらしい。

 

 

「おお・・・これはこれは、ようこそ麻帆良へ。関東魔法協会理事、近衛近右衛門じゃ」

「関西呪術協会から東への暫定大使、天崎千草どす」

「え~と・・・骨と皮ばっかりで斬りがい「ていっ!」ぐ~・・・」

「なんや、弱そうなじーさんや「ちょいやっ!」ぐが~っ・・・」

 

 

月詠はんと小太郎の額に札を貼って、眠らせた。

初対面で何を言うつもりやったんやこの子らは・・・。

特に小太郎は、あのネギとか言う子が塞ぎこんでしもてて、相手にされんで拗ねとるからな・・・。

 

 

「ほ・・・か、彼女らはどうしたのかの?」

「さぁ? 長旅で疲れたんとちゃいますやろか」

 

 

ちなみに、気付いてもらえたやろか。

うちのここでの名前や。

 

 

天ヶ崎 (あまがさき)→ 天崎 (あまざき)。

 

 

若返っとるし、髪の色も変わっとるし、大丈夫やと思うけど、念のために少し名前を変えといた。

どこかから、うちの名前が漏れとるかもしれんしな。

 

 

そして、肩書き。

暫定大使。

来月くらいに、関西から正式な大使が来るまでの「繋ぎ」や。

月詠はんと小太郎は、うちの付き人というか、補佐みたいな形になる。

補佐・・・。

この二人が、うちの補佐・・・?

そんなん。

 

 

「無理に決まっとるやろが!!」

「ほ、ほぉ!? そ、そこまで無理なことは書いとらんと思うんじゃが・・・」

「え、あ! い、いや、なんでもないどす」

 

 

ほほほ・・・と、笑ってごまかす。

あかんあかん、つい声に出してしもうた。

 

 

近右衛門はんは、西の長、詠春はんの言葉を、うちが文章にした手紙を読んどる所やった。

本当はここに来るまでに渡された手紙があったんやけど、今回の件を報告したら、急遽内容を変更することになったんや。

 

 

まぁ、内容をまとめると・・・。

 

 

「あんまり舐めた態度とっとると、いてまうどゴルァ?」

 

 

・・・やな。ちなみに冒頭のこの部分を読んだ段階で、近右衛門はんの顔が青くなっとった。

まぁ、アリアはんらから聞いた話やと、木乃香お嬢様に気を遣ってくれとるようには思えへんしな。

先月末に、誘拐したうちが言えた義理やないけどな。

 

 

後は、まぁ・・・色々やな。

関西側が今回の件を問題にせぇへん代わりに、東にはちょいと骨を折ってもらおうて腹や。

 

 

「・・・しかし、この件は本気かの?」

「本気も本気、かなり本気みたいですわ」

 

 

詠春はんも、ようやるわな。

このじーさんが断れへん状況を作っといて、ちょっと頑張れば通りそうな要求をするんやから。

 

 

西洋魔法使いの言う「本国」。

えーと・・・「連合」やったかな。

そこに・・・。

 

 

「本国に、関西呪術協会の出張所を作るというのは・・・」

「何分、こっちはそっちのツテはないんで・・・そちらの協力が必要やそうで」

 

 

ちなみに、うちはここの暫定大使職が終わったら、その出張所の所長になる予定や。

まずはここで。

ここであかんかったら、西洋魔法使いの元締めの所へ。

 

 

親の仇を探す言うのも、なかなかしんどいわ。

まぁ、元々そういう条件で、詠春はんの使いっ走りみたいな役目を引き受けたんや。

 

 

待っとってや、お父はん、お母はん。

うちは、いつか仇を討って、墓前に報告に行くからな。

 

 

・・・にしても、長い後頭部やなぁ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ヘルマン卿の件で何か追及があるかと思えば、特にありませんでした。

終業時間まで、呼び出しも無し。

他の先生方が、思ったよりも私の意見を通してくれたのかもしれません。

拍子抜けとは、このことですか・・・。

 

 

「あふっ・・・」

「人が見てるぞ、先生?」

「・・・これは失礼」

 

 

欠伸をしてしまった所、エヴァさんに注意されました。

確かに、はしたなかったかもしれませんね。

油断大敵。まだ、今日が終わったわけではないのですから。

 

 

今は、エヴァさんや茶々丸さん、さよさんと一緒に、学園長室へ向かっています。

目的は、2つあります。

 

 

一つは、千草さん達を迎えに。

この時間には学園長の所へ行くと、お昼頃に連絡がありましたから。

 

 

いろいろとお話もしたいですし。

手伝って欲しいことも、無いでもありません。

なんなら、髪の色を戻して差し上げても良いですし。

スクナさんと酒呑さんのコンビにも、多少興味がありますし・・・。

式神召喚の練習に、木乃香さんに茨木さんの召喚をさせてみてもいいかもしれません。

 

 

そして、2つ目は・・・。

 

 

「・・・それで、今度はどんな悪いことをするんですか?」

「人聞きの悪いことを言うなアリア。私は正当な対価をもらいに行くだけだ」

「エヴァさんって何かしましたっけー?」

「さよさん。マスターは全力でうたた寝をしておりました」

 

 

全力でうたた寝。

それはそれで、なんだかすごいような、すごくないような・・・。

 

 

「私の従者をタダで使えると思うのか? せいぜい、ふっかけてやるさ」

「即答で断っていたくせに・・・」

「結果が全てだよアリア。そうだろう?」

 

 

まぁ、結果として・・・私は学園長の願いを叶えてしまったのですよね。

その意味で、ご褒美を強奪に行くと言うのも悪くありません。

ふっかける、と言うと・・・。

 

 

「500万くらい?」

「・・・なんだその額は」

「・・・忘れてください」

 

 

いえ、なんとなく覚えている数字でして。

私としたことが、照れます。

 

 

「・・・シャッターなチャンスです」

「茶々丸さん、最近良く言いますねー。それ」

「では・・・狙い撃つぜ?」

「それも何か違うと思います」

 

 

後ろの2人はともかく。

いざ到着、学園長室。

 

 

中からは、千草さんの話し声が聞こえてきます。

そんな中、エヴァさんは両手を腰に付け、胸を張って、迷うことなく・・・。

 

 

扉を蹴破りました。

 

 

「じじぃ! 後頭部の手入れは十分か!?」

 

 

・・・なんですか、その掛け声。

 

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「・・・そう、ヘルマン卿は失敗したの」

『ハ・・・どういうわけか、魂を回収できませんでしたので』

 

 

申し訳ありません、と、調君が謝ってきた。

まぁ、調君のせいではないから、別に謝らなくても良いんだけど。

 

 

それにしても、魂を回収できなかったというのは不思議だね。

 

 

「・・・死んだの?」

『いえ、魔界の序列に変動は無いとの報告があります』

「生きているってことか。まさか、麻帆良にまだ留まっているわけでも無いだろうけど・・・」

『召喚師によると、肉体は滅んだとのことで・・・』

 

 

肉体は滅んだのに、魂は戻っていない?

そんなケース、聞いたこともない。

 

 

それに・・・。

 

 

「・・・キミは、今度麻帆良に出向するって?」

 

 

僕は今、関西呪術協会の一室にいる。

警備が厳重になってはいるものの、協力者がいる僕は、いくらでも出入りできる。

まぁ、その協力者は「完全なる世界」の工作員が成り代わった者だけどね。

 

 

問題は、僕が配したその協力者が、麻帆良に大使として就任するってこと。

西条とか言う、名家ではないけど、強硬派の若者に影響力のある存在なんだけど。

そんなキミを、東へやると言うのは・・・。

 

 

『・・・フェイト様?』

「少し、静かに・・・いろいろと考えてるから」

『ハ・・・』

 

 

表向きには、西の失地回復がどうとか、やる気のある若者を西洋魔法使いの所にやって、関西の力を誇示する目的なんだろうけど・・・。

 

 

近衛詠春は、「紅き翼」としての人脈を甦らせつつある。

連合のリカード元老院議員、アリアドネーのセラス総長、帝国のテオドラ皇女・・・。

その他にも、魔法世界での自身の人脈を駆使している。

彼は、公的な世界では顔の広い方だからね。

 

 

さらに言えば、クルト・ゲーデル元老院議員と公的に接触しようとしているらしい。

最初に聞いた時はまさかと思ったけど、「紅き翼」の中で彼だけは、剣術の師弟として、季節の便りを交わす程度の付き合いは残していたと聞いている。

 

 

それが功を奏しているかは微妙だけど、帝国はすでに前向きな返答をする予定だと報告を受けている。

となれば、連合も帝国への対抗上、なんらかのことはするだろう。

それが全て上手くいったとすると・・・。

 

 

「・・・ねぇ、調君」

『は、はい・・・』

「・・・関西の強硬派が分散して遠方に追いやられたとして、僕達がそれらを覆すべく手を打って戻ってきた時にはもう、近衛詠春は組織をまとめてしまっているよね」

『ハ・・・おそらくは』

「そうなると・・・彼の暗殺や失脚は、無理か・・・」

 

 

今でさえも、出入りはできても近付けるわけじゃない。

残った穏健派や中庸派は、元々近衛詠春の支持層だ。

いざという時の保険に、麻帆良への牽制の駒が欲しかったんだけど・・・。

 

 

それにしても、あの腑抜けていた近衛詠春が、ここまでの積極策を打ってくるとは思わなかった。

まさか、今さら娘の帰る場所を確保しようとでもしているのか?

いや、そんなことでここまで徹底的にはやらないだろう。

 

 

誰かの入れ知恵か・・・?

一番最初に思い浮かぶのは・・・。

 

 

「・・・・・・アリアか?」

『は? 誰ですか?』

「キミは、気にしなくて良い」

『はぁ・・・』

 

 

まさか、考え過ぎだろう。

アリアは別に、関西に影響力があるわけじゃ・・・・・・。

・・・いや、スクナの本体を確保していたな。それに近衛のお姫様も・・・。

これ以上ないほどのカードを、彼女は握っている。

 

 

そうなると、ヘルマン卿の魂についても、アリアか?

ヘルマン卿には、アリアには無抵抗でいるように命じさせていたから、あり得ないことじゃない。

魂が還らないのも、アリアの力だとすれば、どうだ?

 

 

「・・・・・・・・・よそう」

 

 

流石に、考え過ぎだろう。

今は、今後のことを考えるべきだろう。

 

 

「それで、キミが麻帆良に行くのは・・・」

 

 

辞令の紙を手に取り、日程を確認する。

麻帆良への赴任は・・・。

 

 

「・・・6月の19日」

 

 

この時期は、確か。

以前、麻帆良に行った際に広告を見た覚えがある・・・。

 

 

「・・・・・・麻帆良祭の、前日か」

 




アリア:
アリアです。
とりあえず、悪魔編はこれでほぼ、完全に終了です。
これからは、緩やかに次章に続いていくことでしょう。

作中で出てきた「魔王」は、黒鷹様の提供です。
ありがとうございます。

アリア:
次話からは、緩やかに学園祭編へと話を進めつつ、各生徒主体の番外編がいくつか続きます。
時系列は、悪魔編終了から学園祭まで。
基本的に、本編の要素が強い番外編となります。
では、またお会いしましょう。

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