魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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番外編③「明石裕奈」

Side 裕奈

 

「・・・ほっ」

 

 

フライパンの上の目玉焼きを、形を崩さないようにお皿に乗っける。

これが意外と難しい。

慣れてないと、真ん中ががぐしゃっとなっちゃうからね。

後は、サラダを添えて、っと。

 

 

ちなみに今、私が何をしているかと言うと・・・。

 

 

「はーい、卵できたよ、お父さん。あと野菜スープと果物ジュース出るからね」

 

 

お父さんに朝ご飯を作ってあげています。

 

 

「おお~、こりゃ、久しぶりに豪勢な朝食だね!」

「は・・・これで豪勢?」

 

 

卵にサラダ、スープとパン。お手製の果物ジュース。

そこまで言うほどのメニューじゃないと思うんだけど?

 

 

「お父さん・・・普段、何食べてるの?」

「レトルトカレーのチンしないやつ」

「レトっ・・・却下! 少しは健康とか気にしなさい!」

「美味しいんだよ? 冷たくて」

「ダメ――――っ!」

 

 

ほんっとにもー、お父さんは!

私がいないと、本当にダメダメなんだから。

 

 

「ごめんね。今月は一回しか来てあげられなくて」

「いやぁ、テスト前だし、仕方ないよ。しっかり勉強しなさい」

「はぁ~い」

 

 

うふふ、それでもお父さんは、「来ちゃダメ」とは言わないんだよね。

こういう時、お父さんが何気に甘いのを、私は知ってるんだ♪

 

 

お父さんは、大学の教職員用の部屋に住んでる。

私もたまにここに泊まって、お父さんの面倒を見てあげてるんだ。

 

 

まぁ、テスト直前の土曜日に何やってんだって話もあるけど。

ちなみに、テストは月曜日。

・・・ちゃんと勉強はしてるよ?

先生やってる親に、つきっきりで勉強を見てもらう。

うん、何も間違ってないよね。

 

 

「それにしても、また料理が上手になったね。ゆーなは」

「えへへ~、そう?」

「うん。・・・これなら、良いお嫁さんになれるよ」

「お嫁さんなら、お父さんのお嫁さんが良いなー♪」

「ぶふぅおっ!?」

 

 

お父さんが、突然むせ始めた。

し、失礼な・・・。

 

 

「げっほ・・・ゆーな、そういうのは小学生までにしようね」

「ちょっ・・・なんで引くかな!? 一人娘がこんな可愛いこと言ってるんだよ!?」

「いや、でもなー・・・」

「ちょっと―――っ!!」

 

 

なんでそんな反応になるかなー。

お父さんの面倒だって見れるし、良いと思うんだけど。

 

 

もうちょっとこう、喜んでくれてもいいじゃない。

 

 

 

 

Side 明石教授

 

ゆーなは、月に何度か僕の面倒を見に来てくれてる。

できれば、学校からも遠いし、面倒をかけたくないんだけど・・・。

 

 

言っても聞いてくれないから、困ってる。

まぁ、なんだかんだで側に置いておきたいと思ってる僕も、問題なんだろうけど。

 

 

「ほら! 早くヒゲ剃って来る!」

「あはは、はいはい」

 

 

服のこととか、掃除とか洗濯とか、身の回りのことを口うるさく言う姿は、見てて飽きない。

顔立ちも、段々と母親に似てきて・・・。

 

 

・・・ゆーなの母親が、夕子が亡くなって、もう10年か。

夕子が今のゆーなを見たら、どう思うかな。僕を見たら?

どうしてか、最近はよくそんなことを考える。

 

 

ゆーなには魔法に関わって欲しくないと思いながら、僕自身が魔法先生なんて職業をやっている。

その矛盾に、目を向けるようになったからか。

それとも最近になって、麻帆良も安全じゃないと感じ始めたからか・・・。

 

 

「おとーさーん、電話――っ」

「・・・あ、ああ!」

 

 

いけない。ヒゲを剃る途中で固まってた。

仕事関連の電話かもしれないし、仕方ない、このまま行こう。

はは、またゆーなに怒られるかな?

 

 

「ほいさっ・・・って、何その顔!」

「あはは・・・知らせてくれてありがとう」

 

 

ほら、やっぱり怒られた。

ゆーなから携帯を受け取って、表示されてる番号を見る。

えーと、この番号は・・・。

 

 

『・・・明石教授? 私、ドネットよ。今、良いかしら?』

「ああ、もちろん」

 

 

おっと・・・ドネットが相手なら、日本語は不味いな。

ゆーなに伝わらないように、英語で話さないと・・・。

 

 

それに、今夜は遅くなるかもしれないから、先に夕ご飯も食べておいてもらおうか・・・って。

今、ゆーなが何かを隠したような?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ふふ、ふふふふふ・・・」

「あ、アリア先生? パソコン画面の前で笑わないでくださいな」

「うふふふふ・・・あ、すみません」

 

 

通りすがりのしずな先生にペコペコと謝って、再びノートパソコンの画面に向き直ります。

そこには、「英語中間テスト問題」と銘打たれた文章が表示されていました。

まぁ、ぶっちゃけると、明後日のテストの問題がまだできていないのです。

普通に、締切を過ぎていますね。

 

 

・・・え? バカなこと言わないでください。

最初から私がやっていれば、2週間前には完成していましたよ。こんな仕事。

じゃあ、なんでできていないか? それは・・・。

 

 

「聞いておるのですか!? ネギ先生!!」

「・・・・・・・・・」

 

 

今現在、新田先生に絶賛怒られ中のネギ先生の仕事だったからです。

先日の悪魔の一件以来、塞ぎこんだままです。

プライベートの問題で仕事に支障が出ると、流石に問題だと思いますよ。

・・・10歳の子供だからと言う言い訳は、残念ながら、もう効果がありませんし。

 

 

いえ、私だって副担任としてできることはしましたよ?

出題範囲をまとめた書類を渡したり、過去の問題からテスト答案の見本を渡したり。

事あるごとに、締切日を伝えてもいましたし。

 

 

ここまでやって、できていない方がおかしいでしょう。

私自身は、担任の仕事に手を出せなくなっていますからね。

新田先生に怒られちゃいますので。

 

 

しかし、ことここに至ればいた仕方ありません。

私がやるしかないではありませんか。

この仕事、もらいました!

 

 

「・・・アリア先生。どうして室内でコートを?」

「冷え症でして」

「まぁ・・・暖房をいれましょうか?」

「いえ、このコートを着ていれば、問題ありませんので」

 

 

しずな先生に心配されるのは恐縮ですが、このコートは脱げません。

私は、電子製品にそれほど強くないので。

 

 

私が着ているのは、男物の大きな蒼いコート。

名前を、死線の蒼(デッドブルー)。魔法具の一種。

効果は、噛み砕いて言えば、パソコンにかなり強くなります。

 

 

電子工学・情報工学・機械工学において、異常な程の知識と腕を入手可能という優れモノ。

最高で128台のパソコンを同時に扱うことができます!

・・・明らかにオーバースペックですが、時間が無いのも事実。

これで古今東西、ありとあらゆる英語問題を入手し、世界最高の問題を作ってあげましょう。

 

 

何、生徒のためなら安い労力ですよ。

別に、仕事が増えて嬉しいとか、そんなんじゃないですよ。

本当ですよ?」

 

 

「・・・あの、アリア先生?」

「はーい、なんですかー?(カタカタカタカタカタカタ・・・)」

「言いにくいんですけど・・・・・・声に出てますよ」

「え」

 

 

しずな先生の言葉に、顔を上げてみれば。

新田先生が、鬼の形相でこっちを見ていました・・・。

 

 

 

 

 

Side 裕奈

 

「「「ええええ―――――っ!? お父さんが浮気!?」」」

「そうよ! これは、一大事だよ・・・!」

 

 

アキラ、亜子、まき絵に連絡したら、すぐに来てくれた。

持つべき物は、友達だよね!

 

 

テスト前に何やってんのって突っ込みは、無しの方向で!

 

 

「・・・あれ? でもゆーなのお父さんて、独身やなかった?」

「うん・・・確か、そうだと・・・」

「シャラーップ! 亜子もアキラも甘いよ!」

 

 

とにかく、これは浮気だよ!

お父さんが落とした、この金髪美女の写真(電話番号付き)が何よりの証拠!

 

 

「き、来たよー!」

 

 

興奮気味のまき絵の声に振り向いてみれば、カフェにお父さんと、例の金髪美女が!

この・・・。

 

 

「このっ・・・女狐がっ!!」

「めぎつね!?」

 

 

くぅ~、私のお父さんと~。

・・・羨ましい!

 

 

「ええやんか。お父さん、あんな綺麗な人と付き合うてるんなら、応援したらな」

「うん・・・それが、良いと思う」

「ええ!? だ、だだだ、だって・・・!」

 

 

だって、そんな。

今までずっと、お父さんと一緒だったのに・・・。

 

 

「獲られるなんて、悔しいじゃん!!」

「ゆーなのパパ好きにも困ったもんやな~」

「ちょっと、危ないレベルだね」

「おとーさんは、私がいないとダメなの!」

 

 

お母さんがいなくなってから、ずっと2人で過ごしてきたのに。

とられるなんて、嫌だよ・・・。

 

 

 

 

Side ドネット

 

「・・・明石教授? 何かすごく稚拙な尾行がいるようだけど・・・」

「ああ、あれね。僕の娘とその友人だよ。なんで尾行してるかは、わからないけど」

「ああ、あれがユーナなのね?」

 

 

なるほど、活発で可愛らしい女の子!

ユーコに聞いたことがあるわ。母親に似て、元気な・・・。

 

 

・・・まぁ、いいわ。仕事の話をしましょうか。

私達の会話は、第三者には他愛のない会話に聞こえるようになっているから、内容が漏れる心配はない。

 

 

「さて・・・爵位級デモン、ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマンについてだけど」

「その件については、本当に助かったよ。気付くのがもう少し遅ければ・・・」

「私の方こそ、もっと早くに明石教授に連絡すべきだったわね」

 

 

校長が公的な立場で警告を発したのなら、急ぐことは無いと思っていたのだけど。

ここの学園長は、どういうつもりで警告を無視したのかしら?

 

 

「明石教授個人を非難するつもりはないのだけど・・・もう少し、なんとかならなかったの?」

「すまない・・・これは、こちらの完全なミスだ」

「そうね。だから、と言うわけではないけど・・・」

 

 

やはり、言いにくいわね。

この件に関する協議責任者が、私と明石教授になっている以上、仕方がないのだけど。

 

 

「この件に関しては、メルディアナは麻帆良に対し、抗議することになると思うわ」

「そう・・・せざるを得ないだろうね」

「ええ・・・さらに、そちらに預けている2人の卒業生の修行に関する中間報告を、大至急提出してほしいのだけど」

「2人・・・アリア君とネギ君か」

 

 

明石教授は、難しい顔をした。

まぁ、卒業生の修行に関しては修行先に一任するのが普通だから、わかるけど。

修行先の内部情報に触れる可能性もあるから。

 

 

ただ、発した警告を無視された以上、こちらとしてもそれなりのことはしなければならない。

来年以降に入学してくる、あるいは卒業していく生徒の将来のためにも、アフターケアは大事な仕事。

 

 

場合によっては、こちらから2人に近い人を、麻帆良に送り込むことも考えなくてはならないのだから。

 

 

「まぁ・・・なんとかするよ。幸い、学園祭と中間テストの間に中休みがあるから、その時までには」

「なるべく早く、お願いね」

「わかってるよ」

 

 

ぎこちなく笑みを浮かべる彼に。

私も軽く、笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

 

Side アリア

 

新田先生に、超怒られてしまいました・・・。

最近あの人、私に仕事をさせないために生きているんじゃないでしょうか。

・・・あながち、間違っていないような気もします。

 

 

「だいたい、なんですか。午前中で仕事終わりって。私はどこの小学生だって言うんですか!」

 

 

いや、そりゃ肉体年齢は小学生ですけど!

 

 

「く・・・こうなったら、別荘に行ってスクナさんの農作業でも手伝いますか・・・いえ、でも最近さよさんと熟年夫婦みたいな空気出してて、疎外感を感じなくもないですし・・・・・・おや?」

 

 

仕事を失い、あてもなく彷徨っていると、一件のカフェ―――というより、カフェの様子を電柱の陰から窺っている女の子を発見しました。

その4人の女の子全てに、見覚えがあります。

 

 

「ちょっと、すんごい楽しそうやで!」

「あれはもう、かなり進展してるよ――っ」

「ぬぐぐむ・・・!」

 

 

・・・なんですか、アレ。

テスト前に何やってるんでしょう・・・。

 

 

「・・・あの、何をやっているのですか?」

「見たらわかるでしょ!?」

 

 

声をかけてみた所、明石さんのテンションが半端ありませんでした。

え、本気で何やってるんでしょうこの人・・・。

 

 

「あ、アリア先生だ~♪ こんにちは!」

「こんにちは、やな。アリア先生」

「・・・こんにちは」

「はい、こんにちは」

 

 

上から、まき絵さん、和泉さん、大河内さん。

話を聞いてみると、明石さんのお父さん・・・つまり明石教授の浮気調査だとか。

ある意味、想像以上の事態です。

おまけに、その明石教授のお相手と言うのが・・・。

 

 

「・・・ドネットさんじゃないですか」

「アリア先生、知ってるの!?」

「なっ・・・まさか、アリア先生が2人の愛でキューピッドな結晶!?」

「落ち着いてください明石さん。もはや何を言っているのかわかりませんよ」

 

 

ドネットさんは、メルディアナ魔法学校の職員の一人です。

自ら教鞭をとることはありませんが、面倒見が良く美人なので、男子生徒の人気の的でした。

卒業以来、季節の便りを交わすくらいの付き合いでしたが・・・。

よもや、この時期に日本に来ていたとは。

 

 

「えっと・・・あの方は、ドネット・マクギネスさん。私の・・・まぁ、故郷の知り合いというか」

「へぇ・・・アリア先生の故郷ってことは、イギリスの人なんだ・・・」

「なるほどなぁ。日本人やないのはわかってたんやけど」

 

 

それにしても、ドネットさんと明石教授が・・・?

そんな話、聞いたこともないと言うか。

そもそも、ドネットさんがこんな時期に麻帆良に来ると言うのも、ビックリです。

 

 

「・・・何かの間違いだと、思うのですけど」

「そんなこと無いもんっ!」

「もん!?」

 

 

 

 

 

Side 裕奈

 

「だって、ほら、まずあのツリ目が怪しい!!」

「ぷっ・・・」

 

 

あ、何がおかしいのアリア先生!

 

 

「だっておかしいもん! うちのお父さんダメダメなのに、あんな綺麗な人が好きになるなんて・・・結婚詐欺に違いないよ!」

「こ、コラコラゆーな!」

「ぶふっ・・・!」

「アリア先生には受けてるみたいだけど・・・」

 

 

受けてほしいわけじゃないの!

私は、真剣なんだよアリア先生!

 

 

「・・・いえ、失礼。明石さんがお父さんのことをどれだけ想っているかは、理解できました」

「え、そう?」

「はい・・・お父さんのこと、本当に好きなんですね」

「ゆーなのは度が過ぎとるけどな」

 

 

何よ~、皆だって自分の家のお父さん好きでしょ?

 

 

「好きだけど、ゆーなほどじゃないよ」

「私は、嫌いじゃないけど・・・」

「まぁ、皆さんお年頃ですからね。微妙な所なのでしょう」

 

 

うんうん、と頷くアリア先生。

いや、お年頃って・・・アリア先生、私達よりも年下じゃん?

・・・って、そう言えば。

ネギ君からは「お父さん」って良く聞く気がするけど、2人のお父さんって、何してる人なんだろ?

それに、アリア先生からは、聞いたこと無い気がする。

 

 

「アリア先生って、ネギ君と2人きりで日本に来てるの?」

「え、ええ・・・まぁ、そんなような物ですね」

「・・・?」

 

 

アリア先生は、かなり曖昧に笑った。

いつもにこやかで、割とはっきり答えるタイプのアリア先生にしては、珍しい顔だった。

 

 

「まぁ、私の話はともかく・・・明石さんのその話は、教授・・・つまり、お父さんにきちんと確認していない、推論なのでしょう?」

「え・・・うん。まぁ」

「でしたら、まずは確認すべきではないですか? この人とお付き合いしているのか、お付き合いしているとして、再婚するつもりなのか・・・」

「で、でも・・・」

 

 

もし、本当だったら・・・。

 

 

「その時は、堂々と反対してあげればよろしい」

「え?」

「え―――――っ!?」

「応援するんじゃ・・・ないんですか?」

「その気のない応援なんて、しない方が良いです」

 

 

アリア先生はそこで、う~ん、と腕を組んで何かを考える素振りをしてから、アキラの方を向いて。

 

 

「ちょっと、想像してみてください。大河内さん」

 

 

 

 

 

Side アキラ

 

「え、私・・・ですか?」

「ええ、大河内さん、水泳部でしたよね?」

「はい」

 

 

確かに、私は水泳部だけど。

それが今、何の関係が・・・。

 

 

「例えば、大河内さんがこれから、大事な大会に出る物として・・・もし、明石さん達がその場にいれば、全力で応援するでしょう?」

「それは・・・」

「あったり前だよ―――――っ☆」

「元気全開で応援するねっ!」

 

 

ちょっと控えめな亜子と、ポーズまで付けるまき絵、「きゅぴーんっ」とウインクするゆーな・・・。

うん、嬉しい。本当に大会に出るわけじゃないけど。

アリア先生も、優しい顔でそれを見てる。

 

 

「・・・そういうわけです。でもそれは、明石さん達が心の底から、大河内さんを応援しているからです。でも、そうではない。心のこもっていない応援をされても、嬉しくないでしょう?」

 

 

・・・うん。

応援してくれるのは嬉しいけど、形だけって言うのは好きじゃない、かな。

 

 

「部活動と結婚はかなり違いますし、単純に比べて良い物ではありませんが・・・まぁ、そういうことです。その気のない応援ほど興の冷める物はありません」

 

 

アリア先生は、妙にはっきりした口調で言った。

私は、そこまで言うつもりは無いけど。

 

 

「それに何より、明石さんがどうしたいのか、です。結婚してほしくないなら無いで、はっきり言ってしまえば良いのです」

「でも、それで喧嘩してしもたら?」

「それもまた良し、ですよ和泉さん。別にそれで全てが終わるわけでも無し・・・。嫌々応援するより、ずっと気持良くいられるでしょう? 泥沼に陥る人も多々おりますが」

 

 

ど、泥沼に嵌ったら不味いんじゃ・・・。

そう思っていると、アリア先生が「でも」と、ゆーなにウインクして見せた。

あ、可愛い。

 

 

「どうなろうと、明石教授が明石さんのことを嫌いになるなんて、ありえないでしょう?」

 

 

・・・うん。そこは、私も賛成。

少し不安そうにしてたゆーなも、その言葉に、いつもみたいに笑って。

 

 

「当然っ!」

 

 

そう言って、ウインクを返した。

 

 

 

 

 

Side 明石教授

 

あれから、ドネットといろいろ話したけど・・・。

やはり、メルディアナに対する麻帆良の立場はかなり弱い。

特に、警告を無視した件が痛い。

 

 

下手を打つと、冷戦状態になるかもしれない。

今後、メルディアナ卒業生の修行先・就職先として麻帆良が選ばれなくなる可能性もある。

 

 

ネギ君とアリア君のことを抜きにしても、難しい問題が山積みだ。

それに・・・。

 

 

「これはこれは、お疲れ様です明石教授。そして、お久しぶりですドネットさん」

「アリア君・・・と、ゆーな?」

「・・・アリアっ!」

 

 

なぜか、ゆーなの手を引いたアリア君がそこにいた。

そしてドネットはアリア君の姿を認めると、駆けよって、ぎゅむっ・・・と、抱きしめた。

 

 

「久しぶりね。少し見ない間に大きくなって!」

「おふっ・・・ちょ、ちょっと待ってドネットさん。生徒の前ですからっ」

 

 

アタフタとドネットの腕から逃れようとするアリア君。

なんというか、平静な姿でいる所しか見たことがなかったから、意外な気分だ。

ドネットのああいう姿も、初めて見るけど。

 

 

ゆーなの友達も何人かいる見たいだけど、意外そうな顔でアリア君を見てる。

・・・ひょっとして、イメージ崩しちゃったかな・・・?

 

 

「あ、あの、お父さん・・・」

「ゆーな?」

 

 

ゆーなが、いつに無くしおらしい態度で、僕の所に来た。

なぜか、もじもじとして、両手を擦り合わせている。

 

 

「どうしたの?」

「そ、そのね・・・あの・・・」

 

 

何か、言いにくいことなのかな?

こういう時は急かさずに、根気強く待つのが良いと、僕は経験で知ってる。

ただ微笑んで、ゆーなの決心がつくのを待つ。

 

 

待つこと数分・・・。

この間、アリア君はドネットと旧交を温め合っていた(ドネットが一方的に温めていたとも言えるけど)。

 

 

ゆーなが、意を決したように僕を見て。

 

 

「お父さん!」

「うん?」

「あの金髪美女と結婚するの!?」

 

 

・・・は?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・ようやく解放されました、アリアです。

 

 

結論から言えば、やはり明石さんの誤解でした。

ドネットさんと明石教授は、十数年ぶりに会ったとかで、結婚などあり得ないと言っていました(それはもう、大爆笑しながら)。

 

 

「な、なんだ・・・じゃあ、私の勘違いだったんだ・・・」

「もう、ゆーなは~」

「えっへへへ・・・ごめーん」

 

 

ちろり、と舌を見せて、明石さんがまき絵さん達に謝ります。

まぁ、誤解が解けたならそれで良いです。

それにしても、ドネットさんは何しに日本へ・・・?

 

 

聞けば、ドネットさんは、明石さんのお母さんのご友人とか。

なるほど、そういう繋がりなのですね・・・。

 

 

「貴女、きっと母親に似た美人に育つわ」

 

 

それが、ドネットさんが明石さんにかけた言葉でした。

 

 

「良かったな~ゆーな、誤解で」

「でも、ちょっと残念かな~、結婚式とか、憧れるもん」

「・・・私も、ちょっと興味が・・・」

「大丈夫! 私がお父さんのお嫁さんになる時に!」

「「「それはやめた方が良いと思う」」」

「なんでよ!」

 

 

・・・ネギ先生とはまた毛色の違う、お父さんっ子ですね。

直接接して、その上でああなら、まだ良いのですが・・・。

 

 

「・・・良かったですね。明石さん」

「あ、アリア先生! 今日は本当にありがとう」

「いえいえ、先生ですから。生徒の悩みを解決するのもお仕事です」

 

 

生徒が仲良くしている所を見るのも、喜ばしいですしね。

 

 

「さて、明石さん、まき絵さん、和泉さん、大河内さん」

「にゃ?」

「へぅ?」

「うん?」

「・・・?」

「気は済みましたか?」

「「「「へ?」」」」

 

 

ニッコリと笑って、がしっ・・・と、明石さんの手を取ります。

それはもう、力強く。

 

 

「さて、ここで問題です。皆さん」

「な、何かなー・・・?」

「明後日の月曜日には、何があるでしょうか?」

 

 

はい、言わずと知れた中間テストですね。

こんな所で、遊んでいる暇はないですね。

特に、まき絵さんとか。

 

 

そのまま明石さんと、さらにまき絵さんの手を取って、ズルズルと引きずって行きます。

 

 

「さーて、これから楽しいお勉強会としゃれこみましょうか」

「え―――っ!」

「そんな――――っ!」

「ええっ、そんなぁ! じゃ、ありません! 和泉さんと大河内さんも行きますよ!」

「んー、現役の副担任に教えてもろた方がはかどるかな?」

「・・・いいかも」

 

 

比較的真面目な和泉さんと大河内さんは、連行しなくても、問題無いですね。

さて、まき絵さんのお部屋でも借りますか。

厳さん(女子寮警備員)がいれば、警備員室でもいいのですけど。

 

 

「それでは明石教授、ごきげんよう」

「え、あー、うん。よろしくね」

「お父さんの裏切り者―――――――――っ」

 

 

ふと、そこで立ち止まって。

 

 

「ドネットさん。名残惜しいですが・・・またウェールズでお会いしましょう」

「ええ、またね。アリア」

 

 

クールに言い放つドネットさん。

でも、さっきまで私をさんざん玩具にしてくれたことは、忘れてませんからね。

 

 

次にお会いするのは、2ヶ月後。

夏休みに入ってからになるでしょう。その時には・・・。

 

 

「お父さ―――――んっ!」

 

 

私に手を引かれながら、明石さんが叫びました。

まったく、往生際の悪い・・・。

 

 

「お母さんのコト、今でも好き―――――――っ!?」

 

 

・・・え、公衆の面前で何を聞いてるんですか、貴女。

そんな明石さんの言葉に、明石教授は。

 

 

「もちろん! ゆーなと同じくらいにね!」

「・・・えへへ」

 

 

平然と返しました。

・・・もう、好きにしてください。明石さんも喜んでいるようですしね。なら良いです。

 

 

「あ、なぁ、アリア先生。他の子も呼んでもええ?」

「・・・部屋に入る範囲でお願いしますね」

 

 

和泉さんにそう返しながら、私は学力の異なる子達をどうやって同時に教えるか、頭の中で計画を立てて行きました。

 

 

・・・・・・お父さん、か。

 

 

 

 

 

 

<その頃のスクナ農場>

 

 

Side さよ

 

拝啓、アリア先生。

農作業って、とっても大変なんですね・・・!

 

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

 

すーちゃんが、もの凄い動きで農場を縦横無尽に飛び跳ねています。

殴り、殴られの大激闘。

制限がかかってていても、すーちゃんは神様。

そんなすーちゃんと互角以上に戦える人なんて、ほとんどいない。

でも今、すーちゃんはそんな相手と戦ってる。

その相手は・・・。

 

 

 

苺だった。

 

 

 

ただの苺じゃなくて、『憤怒の苺』という名前がある(茶々丸さん命名)。

収穫されずに捨てられていった苺達の怨念が結集した存在で、1mの巨大な苺に棒人間みたいな手足が生えている。

自立思考はないみたいで、一応普通に食べれる。

 

 

農作業してると、どうしても収穫できない物や、育ち切れなくて間引いてしまう物もあるから・・・。

そういうのが集まって、ああなっている、らしい(エヴァさんの仮説)。

 

 

「ぬおっ!?」

「すーちゃん! 大丈夫!?」

「大丈夫だぞ!」

 

 

動物みたいに四肢を地面に付けて、すーちゃんが身を低くする。

そのまま、目の前の『憤怒の苺』に飛びかかっていった。

 

 

・・・いけない!

その時、私のアーティファクトに、新しいアンノウンが現れた。

地表に姿が見えない・・・地下!

 

 

どんっ・・・と、目の前の地面が爆発して、もう一体の『憤怒の苺』が。

 

 

「きゃっ・・・」

「さーちゃん!」

 

 

すーちゃんの声。

 

 

・・・・・・発動!

 

 

 

 

Side スクナ

 

「さーちゃん!」

 

 

しまったぞ。

目の前のに気を引かれすぎた。

 

 

煙を振り払って、さーちゃんを探す。

畑が荒れたけど、気にしてられないぞ!

 

 

煙が晴れる・・・いたぞ。

気温が低いぞ・・・?

 

 

「さーちゃん! 大丈夫か!?」

「・・・・・・・・・うん」

 

 

さーちゃんが、すごく小さな声で返してきたぞ。

さーちゃんの足下には、あの苺。完全に凍ってるぞ。

 

 

そんなさーちゃんの手には、大きな青い鎌。

1600年前に知り合った死神とか言う連中が持ってたのにそっくりだけど、これはすごく冷たい感じがする。

 

 

確か、『アイルクローノの鎌』とか言う奴だ。

これを使うと、さーちゃんが笑ってくれなくなるから、あんまり好きじゃないぞ。

 

 

「・・・・・・・・・来た」

「むむむ・・・新しい奴だな」

 

 

ずしゃっ・・・と音を立てて、苺畑の中に、あの妙な苺がまた現れたぞ。

一日に10匹くらい出るから、正直、鬱陶しいぞ。

恩人が何か考えてくれるって言ってた。

なんとかしてくれるはずだぞ!

 

 

「・・・・・・・・・行く」

「おう! 全部ぶっ倒すぞ!」

 

 

今度はさーちゃんと一緒に、苺に向かっていくぞ。

あの妙な鎌を使うと、さーちゃんはすごく強くなるんだぞ。

でも、なんだか嬉しく無い気がする・・・なんでだ?

 

 

「・・・・・・・・・斬る」

 

 

・・・まぁ、いいぞ!

難しいことは、よくわからない!

とにかく!

 

 

 

明日も、恩人に新鮮な苺を届けて見せるぞっ!

 





アリア:
アリアです。今回は明石さんを中心に話が進みましたね。
幸い私は明日も休日(作中では日曜日)。
ここは、生徒の皆さんとテスト勉強に勤しむのも悪くありませんね。
・・・というか、デザートのイチゴを採るのにそんな苦労が。

今回使用した魔法具は、以下の通りです。

アイルクローノの鎌:元ネタは、「伝説の勇者の伝説」。
提供は水色様と水上 流霞様です。
「憤怒の苺」:提供は霊華@アカガミ様。
スコーピオン様
死線の蒼(デッドブルー):元ネタは「戯言シリーズ」、提供はスコーピオン様です。

アリア:
次回は「魔法学校時代のクリスマス」のお話をしようと思います。
何の脈絡もないような・・・。

では、またお会いしましょう。

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