魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第53話「麻帆良祭一日目・開始!」

Side フェイト

 

麻帆良は、結界こそ以前のままだが、入る分には、以前よりもはるかに楽だった。

というか、来る人全てを受け入れているようだった。

なんというか、僕が言えた義理ではないけど・・・。

 

 

危機管理とか、大丈夫なのだろうか。

 

 

『只今より、第78回麻帆良祭を開催します!』

 

 

ロボットやら騎士やら象やら恐竜やら、およそ学生のやるお祭りとは思えない物が、パレードをしている。

 

 

「お休みの際は3-Gカフェへと、どうぞ!」

「各イベント、アトラクションへの投票は、お近くのBOXまで!」

 

 

・・・平和そのもの、だね、

その平和が、どれほど危うく、そして誰によって操作されているのかも知らずに。

その意味では彼らも僕と同じ、人形のような物か。

 

 

「誰にとっての人形かは、わからないけど・・・ね」

 

 

情報によれば、今日、麻帆良にはかなりのレベルの要人達が集まると聞いている。

別に、暗殺などが目的ではないから、僕自身が動く必要は無い。

ただ、僕達の勢力を旧世界に確保しておくために、いくつかやっておくことはあるけれど。

 

 

「そちらは、関西の使節団に仕込んだ偽物(フェイク)の情報を待つしかないか・・・」

 

 

クルト・ゲーデルまで出てくるとあっては、あまり派手な行動はとれない。

彼とは、魔法世界でも何度かすれ違っているからね・・・。

 

 

「ガイドマップです! どうぞー♡」

「・・・ありがとう」

 

 

係員から、麻帆良祭の内部マップを貰う。

・・・思ったよりも、広大だな。把握するのも難しそうだ。

それにしても、人が多い。

のべ四十万人が集まるとも聞いているが、あながち間違いではないらしい。

 

 

「・・・とりあえずは・・・」

 

 

マップ上の一点に目を付け、そこまでの道のりだけを頭に入れた後、ポケットにしまう。

ネクタイを少し緩めて、息を吐く。

6月ともなれば、多少は暑い。だが、だらしない格好をするわけにはいかない。

 

 

流石に以前と同じ背格好で来るのもどうかと思ったから、多少身体を調整した。

以前の感覚と混同することはないけれど、違和感を全く感じないわけじゃない。

まぁ、問題は無い。

 

 

「・・・行こうか」

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

世界樹広場は、もの凄い緊張に包まれていた。

人払いの結界の効果で、周囲に一般人はいない。

 

 

「瀬流彦君、もう少しにこやかな顔をしたまえ」

「ガ、ガンドルフィーニ先生だって、ガチガチじゃないですか」

 

 

というか、この場にいる人間全てが、緊張してると思う。

当直の魔法先生や魔法生徒以外の関係者全てが、ここに集められている。

理由は、関西首脳陣の公式訪問と、さらに大使の公式な就任式。

加えて、急遽派遣が決まったメルディアナ魔法学校からの特別特使の出迎えがあるから。

そして何よりも、本国の元老院議員が麻帆良を視察に来るって言うんだから、緊張しない方がおかしいよ。

議員の方は、タカミチさんが迎えに行ったって聞いてる。

 

 

というか、なんで皆一斉に来るのさ。

イベント目白押しにも、程があるでしょ?

 

 

「学園長、メルディアナの特使がお見えになりました」

「・・・うむ」

 

 

刀子先生の言葉に、学園長が重々しく頷いた。

流石に、真面目な顔をしてる。まぁ、ここでふざけられる人間もいないだろうけど。

・・・頭の中に、何人かできそうな人達が浮かんだけど、ここでは関係無いね。

 

 

厳かな雰囲気の中、特別な術式の転移魔法が発動した。

この魔法は要人の往来などに使われる魔法で、使用のためには厳しい制限がある。

その魔法陣の中から姿を現したのは、きっちりとスーツを着込んだ金髪の女性と、上質なローブに身を包んだ、赤い髪の女の子。その女の子の肩には、白い小動物――オコジョかな――が、いる。

 

 

「ようこそ麻帆良へ。わしは関東魔法協会理事、近衛近右衛門じゃ」

「メルディアナ魔法学校の代表特使、ドネット・マクギネスです。こちらは特使のアンナ・ユーリエウナ・ココロウァ」

「・・・お会いできて光栄です。学園長殿」

 

 

ドネットさんについては、明石教授から聞いてる。

もう一人の子については、よくわからないね。一見、大人しそうな子に見えるけど。

先方からは2人来るとしか聞いていないし。

 

 

特使の細かなプロフィールが知らされてこないって言うのは、メルディアナと麻帆良のパワーバランスを如実に表しているよね。

というか、今麻帆良より立場が弱い機関ってあるのかな。

・・・流石にそれは、言いすぎかな。ありそうで怖いけど。

 

 

「関西呪術協会の首脳陣が、お見えになりました」

 

 

そんなことを考えている間に、次の転移が始まった。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「アーニャ、大丈夫?」

「だ、大丈夫です」

 

 

ドネットさんの声に、ぎこちないけど、なんとか笑って答えた。

 

 

・・・き、キツいわね。

何年か前にアリアに貰った『性格補正薬』でどうにか、この外交モードを保ってられるけど、あまり地の喋り方から離れると厳しいわね。

 

 

「・・・頑張って、アーニャさん。もう少しの辛抱です」

「わ、わかってるわよ、エミリー」

 

 

いつだったかしら、シオンも言ってたもんね。卒業生の自覚を持てって。

とにかく、特使の仕事を引き受けた以上、私はメルディアナの顔として動いてる。

発言と行動には、十分に注意を。

ネギやアリアの様子を見に行くのは、後でもできるわ。

 

 

でも正直、こういう真面目一辺倒な場所って苦手。

今は『性格補正薬』・・・『年齢詐称薬』の性格版でどうにか、凌いでいるけど・・・。

 

 

ちなみに肩のオコジョは、私の使い魔(パートナー)「エミリー・カモミール」よ。

彼女(女の子なのよ?)は、ウェールズでネギに纏わりついていたカモとか言うオコジョの妹さん。

下着ドロの兄貴と違って、すごく真面目で頼りになるパートナーよ。

オコジョだけど、私よりも知識もあって、魔法世界の情勢とかにも詳しいの。

旧世界の情報、情勢まで知ってるんだから、優秀でしょ?

 

 

「直接お会いするのは久方ぶりですね。改めまして、関西の長、近衛詠春です」

「・・・関東の理事、近衛近右衛門じゃ」

 

 

広場の中央では、10人くらいの集団を引き連れて来ている関西呪術協会の長が、麻帆良の学園長と握手してる。

和服って言うのかしら?

全員が、ゆったりとした服を着ているわ。

 

 

ここに来るまでの数日間で、ある程度の予備知識は頭に入れてきたけど。

なんというか、ここの学園長・・・。

 

 

頭、長いのねぇ。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「どうですかの、婿・・・詠春殿。ご息女にお会いしていきますかの」

「いえ、公務で来ておりますので」

 

 

何と言うか、ここの学園長は公私の混同が多すぎへんか?

仕事中にしてええ話題も選べんのか、それともわざとやっとんのか・・・。

 

 

「なー、千草ねーちゃん。俺ここにおらんでもよくないか?」

「うちも、もっと賑やかな場所に行きたいですぅ」

「・・・・・・もう少し、待っとりぃ」

 

 

暫定大使のうちも、端役やけどここにおる。補佐の小太郎と月詠はんも同じや。

もうすぐ、正式大使への引き継ぎが終わるから、その後はこの子らも好きにしたらええ。

思えば、この子らもこんな大きな祭りは初めてやろから、小遣いも多めに持たせて・・・いやいやいや。

 

 

まぁ、うちはこの後来る西洋魔法使いのお偉いさんとの会談に付き合わなあかんから、まだ動けんけどな。

大人は働いて、やることをきちんとやった子供は遊ばせたる。

基本やな。うん。

 

 

「クルト・ゲーデル議員が到着されます!」

 

 

幾分か緊張した声が、響いて、また転移の術が発動した。

術の発動の光に目を細める。

 

 

クルト・ゲーデル。

なんでも、西洋魔法使いの中でも特に偉い、上層部の人間だとか。

前の大戦では、長と共に戦ったって言う話も聞く。

・・・大戦か。

 

 

西洋魔法使いの元締めの一人や言うんやったら、大戦のこともよう知っとるんやろな。

・・・死んだ人間のこととかも、な。

 

 

「・・・ようこそ、麻帆良へ」

 

 

学園長の差し出した手の向こうに、一人の男が現れた。

一見、頼りなさげな優男。ほっそりとした身体にスーツを着込んで、ロングコートを羽織っとる。

細い顔立ち、そやけど、眼鏡の奥の瞳は、鋭い。

 

 

「・・・できるな、あの兄ちゃん」

 

 

小太郎の呟きに、心の中で同意する。

この男・・・厄介そうや。

人の良さそうな笑顔を浮かべとるけど、その下で何を考えとるのか・・・。

はたして、何を考えてここに来たのやら。

 

 

「クルト・ゲーデルMM(メガロメセンブリア)元老院議員」

「丁重な出迎え、痛み入ります。この度は忙しい中、急な訪問で申し訳ない」

「いや、こちらこそ・・・ドタバタして、申し訳ありませんですじゃ」

 

 

あのぬらり・・・学園長が、ガチガチやな。まぁ、仕方ないやろけど。

それは、それとしても・・・。

 

 

「ええと・・・クルト議員、そちらの方々は・・・?」

「ああ、いえ・・・私は幼少時から虚弱体質でしてね。恥ずかしながら、部下がいなければ外遊もできない程でして・・・」

 

 

両手を広げて、クルトとか言うその御仁は、自分の後ろにずらりと並ぶ50人程の黒服の人間を示した。

武装こそしてへんけど・・・全員、明らかに特別な訓練を受けた連中やな。

というか、普通に軍隊やろ、これ。

・・・威圧する気、満々やな。

 

 

「ごくごく、私的なボディーガードのような物です。お気になさらないでください」

 

 

やかましいわ。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「タカミチ君も、ご苦労じゃったの」

「いえ・・・」

 

 

魔法世界での出張の最後に、クルトに会いに行った。

一応、麻帆良は元老院の下部組織だから、いろいろと予定とかも詰める必要もあった。

もちろん、それは名目だ。

実際は、関西が独自に魔法世界と交渉しているとの報告を受けた学園長が心配になって、いらない気を回しただけのこと。

 

 

他の元老院議員とも会談したり、あるいは本国全体での関西の知名度や感触を確かめたり・・・いろいろだ。

僕はマギステル・マギではないけど、一応、それなりに顔はきく方だからね。

ただ僕とクルトは、彼が「紅き翼」を抜けて以来、険悪になっている。

だから会えるまでに時間がかかった・・・というか、ここに来るまでの道中で会話する程度の時間しか無かった。

 

 

とはいえ、本国で集めた情報は、いくつか役にたってくれるだろう。

それよりも、僕がいなかった間の学園のことだ。

僕が出張に出てから、学園長周辺の状況が急変している。

 

 

魔法先生の一部が離反し、関西、メルディアナとの関係は冷却化する一方・・・。

おまけに、ネギ君がアルの下で療養中。

詳しいことは聞いていないけど、アリアちゃんが騒動の中心にいるらしい。

 

 

アリアちゃん・・・。

この場には、いないようだけど。

 

 

「お久しぶりです。タカミチ・・・高畑さん」

「あ・・・と、キミは・・・」

 

 

赤い髪の女の子が、僕に声をかけてきた。

その子は、ネギ君とアリアちゃんの幼なじみの・・・。

 

 

「アーニャです。覚えていますか?」

「ああ、もちろん・・・そうか、キミがメルディアナからの特使なのか」

 

 

ローブに付けられたメルディアナの校章(職員用)を見て、そう判断する。

記憶しているよりも、随分と大人しい印象を受ける。

確か、もっと活発な女の子だったような気がするんだけど・・・。

 

 

「そうか・・・キミももう、そんな役目に付くようになったんだね」

 

 

思えば、僕が師匠に付いて戦場や政争の場に関わるようになったのも、20年も前のことなのか。

20年。

文字にすれば、たった3文字だけど・・・。

 

 

新しい世代が育つには、十分な時間だった。

 

 

「タカミチ君、クルト議員達を案内してやってくれんかの」

「・・・わかりました。じゃあ、アーニャ君も」

「はい、ドネットさんの所に戻ります」

 

 

学園のこと、魔法世界のこと、ナギの子供達のこと・・・。

以前は、もっと上手くやれると思っていた。

だけど現実には、何一つ・・・。

 

 

僕は、何一つ成し遂げられていなかった。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

・・・どうすれば良いのです!?

 

 

私は、今、建物の屋根の上にいるです。

ここは、世界樹広場を一望できる場所で、そこで行われていることの一部始終を見ることができるです、

超さん、ハカセさん、そしてネギ先生が一緒です。

 

 

「ハカセ、画像と音声は撮れているカ?」

「はい、問題なく・・・バレるのも時間の問題だと思いますけど」

「構わないネ」

 

 

そんな会話に、私の焦燥感は増していくばかりです。

これは、明らかに関わってはいけないレベルの話です。

こんな・・・。

 

 

こんな、世界に魔法をバラすなどと言う大事に、手を貸すだなどと!

 

 

無論、超さんの言う「悲劇」を回避するために、魔法をバラす。それは良いです。

わからなくも、ないです。

超さんの個人的な目的のために過去を変えて良い物かどうかとか、そもそも未来人と言う言葉を鵜呑みにして良いのかどうかとか・・・考慮すべき事項はまだありますが。

しかし、自分がそんな大事に手を貸すと言うのは、別次元の問題です!

 

 

「ネギ坊主、身体の調子はどうネ? 渡した薬で身体は全快だと思うが、どうカ?」

「はい、大丈夫です、超さん。超さんのおかげで、左腕も完治しました」

「それは良かったヨ」

 

 

これも事実です。

超さんの提供する不思議な薬で、ネギ先生の怪我は完治したです。

そこは、感謝するべきだと思うですが・・・のどかも、泣いて喜んでいたですし。

でも、しかし・・・。

 

 

「まぁ、この偵察が済んだらしばらく様子見だからネ。ネギ坊主も本屋達とお祭りを楽しむと良いヨ」

「そうですね・・・久しぶりに、クラスの皆にも会いたいですし」

「それが良いネ」

 

 

にこやかに話す超さん。

でも私は、その笑顔を信じることができないです。

その笑顔の奥で・・・何を考えているのか、わからない。

 

 

でも、のどかにとっては、ネギ先生を助けてくれた恩人。

無下にできるはずもないですし、何よりネギ先生本人が超さんに積極的に協力しているとなると。

私としては、超さんの側に付かざるを得ないのです。

 

 

でも、でも・・・のどか。

本当にこれで良いのですか、のどか・・・!

 

 

 

 

 

Side 超

 

夕映サンが、苦悩しているようネ。

まぁ、彼女はネギ坊主の仲間の中でも、理性的な方だからネ。

私の言葉を、そのまま鵜呑みにするはずもないカ。

・・・ネギ坊主と本屋がこちらにいる限りは、動きようも無いだろうがネ。

 

 

「そうそう、ネギ坊主。今夜の格闘大会の予選には出るのカ?」

「格闘大会?」

「そうネ。裏も表も無く、この学園で最強の人間を決める戦いネ。今夜が予選で、明日の昼間に本戦があるヨ」

「う~ん、僕はそういうのは、ちょっと・・・」

 

 

おや、乗り気でないカ?

でも、出てもらうネ。ネギ坊主が出ることに、意味があるのヨ。

学園側の目も、そちらに向けたいしネ。

 

 

「そうカ・・・ちなみに、かつてナギ・スプリングフィールドという名前の10歳の少年が、優勝した・・・と言う話も聞いているヨ?」

「・・・父さんが?」

 

 

ナギ・スプリングフィールドと言う名前に、ネギ坊主の目の色が変わるのが見えたネ。

同時に、夕映サンの顔が歪むのも。

でも、ネギ坊主はそれには気付かないネ。

自分に付いてきた、自分の仲間の苦悩に気付かないままに・・・進むばかり。

 

 

「僕、出ます! 超さん!」

「アイアイ♪ 出資者権限でエントリーしておくヨ」

 

 

本当に、この時代のネギ坊主は、ナギ・スプリングフィールドを追うことにしか関心が無いのだナ。

教師を辞める話をした時も、傷を治療してやった時も。

そして、私の計画でより多くの人間が救えると言う話をした時も。

ネギ坊主は、私の思い通りの答えを返してくれたネ。

 

 

もちろん、後ろ暗い部分や肝心な部分は、何一つ教えていないがネ。

 

 

・・・まぁ、ネギ坊主については、それで良いネ。

 

 

問題は、アリア先生、カ。

格闘大会には出てもらわねば困るのだが・・・。

どう言う条件で、誘うカ。

下手を打つと、その場で殺されるかもしれナイ。

アリア先生にだけは、まだ敵対するわけにはいかないが・・・。

 

 

「うわっ・・・超さん!」

「どうしたネ、ハカセ?」

「バレました!」

「なんと!」

 

 

偵察機が破壊されたネ!

思ったよりも見つかるのが早い。クルト・ゲーデルら要人が来るとあれば、それも当然カ。

 

 

「追手がかかったネ! ハカセと夕映サンはここで迷彩かけて隠れてるネ!」

「で、でも超さん達は?」

「囮になるヨ! 何、大丈夫ネ。こっちには・・・」

 

 

どこか緊張した表情を浮かべるネギ坊主に、視線を向けて、微笑むネ。

ああ・・・嫌だネ、師姉。

私は、嘘ばかりが上手くなるヨ。

 

 

「・・・こっちには、頼れる先生が、いるからネ」

 

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

・・・納得が、できない。

 

 

「ねぇ・・・本屋ちゃんは、本当にこれで良いの?」

「わ、私は・・・ネギ先生がそれで良いなら・・・」

「でも」

「そ、それに、超さんの言うことも、間違っては無いと思いますし」

「そう・・・なのよね」

 

 

そう、それが面倒と言うか、厄介な部分なのよね。

超さん達が用意したって言う、変なロボ軍団を見下ろしながら、そんなことを思う。

ここは、世界樹の地下で、超さん達の隠れ家。

 

 

・・・超さんは、未来人。

カシオペヤとか言う、変なタイムマシンで過去に来たとか何とか・・・。

最初は信じられなかったけど、実際に時間を戻ったり、逆に変な銃弾で3時間後に飛ばされたりされたら、信じないわけにはいかないじゃない。

 

 

それで、未来に起きる「悲劇」を変えるために来た、とか言われちゃあ、さ。

 

 

「協力、しようって言うのが、普通よねぇ・・・」

 

 

でも、心のどこかで、納得ができない部分がある。

なんだろう・・・すごく、気分が悪い。

なんで?

 

 

「・・・ねぇ、龍宮さんは、なんで超さんに協力してるの?」

「教える必要は無いな」

 

 

少し離れた所で、銃弾の入った箱を一つ一つ確認してる龍宮さんに、声をかけた。

・・・拒絶されちゃったけどさ。

 

 

「そんなことを聞いてる暇があったら、神楽坂。自分の仕事をしろ」

「教えてくれたって良いじゃない!」

「知らん」

 

 

そう言うと、龍宮さんは私に背中を向けちゃった。

もう、何と言うか、「話しかけるな」オーラがもの凄く出てる。

・・・なんだか最近、聞いても教えてくれない人にばかり会うわね。

話してくれなきゃ、わかんないこともあるのに。

 

 

はぁ・・・思わず、溜息を吐いた。

ずっと出張に行ってる高畑先生には、連絡が取れないし。

ネギのお師匠様・・・アルさんは、何も言ってくれないし。

肝心のネギは、傷を治してもらってから・・・ううん、お父さんのことを教えてもらってから、超さんに懐いちゃってるし。

 

 

夕映さんは、それでずっと悩んでる。

私も、あんまり良くないとは思うけど。

それに・・・。

 

 

「・・・あいつ、本当に教師辞めちゃうつもりなのかな?」

「そ、それは・・・」

 

 

ネギが、教師を辞めるかもしれない。

その話をすると、本屋ちゃんは表情を曇らせた。

あいつ・・・お父さんのことばっかりで、本屋ちゃんは放りっぱなし。

 

 

・・・もう一度、話、しないと。

でも何を話せば良いのか、わからない。

納得できない、そんな気持ちばかりが、胸の中にあった。

 

 

 

 

 

Side ガンドルフィーニ

 

どういうことだ、これは?

私は、高音君達を率いて、問題児の超鈴音を追って来たつもりだったのだが。

 

 

「・・・キミは、誰だ?」

 

 

学園祭の影響で、いつもよりはるかに多い通行人に被害を出さないよう、超鈴音を路地裏に追い詰めた。

そのはずなのに、そこには別の人間がいた。

 

 

随分と、ふざけた格好をしている相手だ。

子供のような背丈に、漆黒のローブに身を包み、顔には仮面を付けている。

半分が笑い、半分が泣いている仮面。

まるで、道化のような格好・・・。

 

 

だが、高音君の影の使い魔17体を一瞬で消滅させるほどの相手だ。

油断は、できない。

だが、相手から感じる魔力に、かすかに覚えがあるような・・・。

 

 

「・・・『來のかたの獣よ、有れ』!」

 

 

突然、相手が手を振りかざして、何かを叫んだ。

この声、やはり覚えが。

 

 

相手の周囲に、雷でできた獣のような物が数体、出てきた。

使い魔か!? いや、それにしては、意思を感じない。

ならこれは・・・。

 

 

私が次の対処を考えていると、その間に次の動きがあった。

その雷の獣が、突如空中に集まって――――。

 

 

爆発した。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

すごい・・・!

超さんがくれたこの指輪の力は、本当にすごい。

雷の獣を生み出す『來獣の指輪』。

他にも、僕の傷を治してくれた薬とか・・・超さんは、本当にすごい!

 

 

「良くやったヨ、ネギ坊主。見事だったネ」

 

 

小さな爆発を起こして、ガンドルフィーニ先生達の注意を引いた間に、僕と超さんはその場から離れた。

爆発と言っても、目くらまし程度の規模でしかない。

雷獣には、そこまでの魔力は込めていないし・・・まさか、ガンドルフィーニ先生達を傷つけるわけにもいかない。

でも・・・。

 

 

「同僚に敵対するのは、気が引けるカ?」

「は、はい・・・やっぱり、その」

「仕方が無いネ。彼らは魔法を世界にバラすのことを、良しとはしないだろうからネ」

 

 

それは、わかる。

魔法使いは、魔法を秘匿しなければならない。

魔法学校でも、そう習ったから・・・。

 

 

でも・・・どうしてだろう?

なぜ、秘匿しなければならないかは、誰も教えてはくれなかった。

誰も・・・。

 

 

「ネギ坊主?」

「え・・・あ、はい! なんですか超さん!」

「とりあえず、何度か転移を繰り返した後は、格闘大会まで自由行動にするが、良いカ?」

 

 

あ、そうですね。

いつまでも、仮面をかぶってるわけにもいかないし・・・。

 

 

「たまには、遊ばないとネ♪」

「でも、遊ぶって言っても・・・僕、どうすれば良いか」

「んん? んー・・・ネギ坊主は、本当に何も知らないネ」

 

 

建物から建物へ飛び移りながら、超さんはからかうように笑った。

うう・・・なんだか、バカにされたような。

でも、本当に・・・超さんは。

 

 

「・・・超さんは、なんでも知ってるんですね」

「何でもは知らないネ。知っていることだけヨ」

 

 

超さんは、いつもとは違う種類の笑顔で、僕を見ていた。

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

ひゃ~、大忙しやな。

ライブのこともそうやけど、クラスの出し物も大事や。

皆もローテーションで担当時間が決まってるし、こっちも頑張らな!

 

 

「い、いらっしゃいませーっ!」

 

 

3-Aの出し物は、喫茶店や。

元々は、「大正カフェ」って言う喫茶店やったんやけど・・・。

ネギ君やアリア先生の故郷がイギリスやから、紅茶専門のカフェにしてみたんや。

外装や内装も、イギリスを意識してみた。ハルナの力作や。

 

 

なんで紅茶専門・イギリス様式にしたかと言うと、他のクラスに「喫茶店・巫女」って言うカフェがあって、かぶるのを避けた結果や。

 

 

衣装は、中世イギリスのメイドさんの格好、らしい。

なんでか、それぞれ微妙に形が違ったり、丈が違ったりしとるけど。

髪型の指定まである(事前にどんな髪型でやるか、聞かれた)し・・・。

 

 

「同じ衣装でも、個々人によって微妙に差が出る。これは、もはや常識!」

 

 

・・・って言うのが、衣装担当の長谷川さんの言葉。

というか、キャラが違うような・・・まぁ、楽しそうやったし、ええかな。

前夜祭の前日まで、徹夜続きやったらしいし。やから、テンションがおかしかったんかなぁ。

何が長谷川さんをあそこまで駆り立てたんかは、わからんけど。

 

 

それにしても、まだ始まったばかりなのに、お客さん多いわ。

もう、教室の前は行列ができとるみたいや。

 

 

「亜子――っ、次のお客様おねがーい!」

「あ、は――いっ!」

 

 

ええと、次のお客様は・・・。

 

 

「え・・・」

 

 

そこには・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

学園祭期間中は、騒がしい麻帆良もさらに騒がしくなります。

必然、それに伴い各イベント・アトラクションは熱を帯びていくわけですが・・・人間、やはり静かな環境は欲しい物です。

 

 

そこで我々3-Aは、騒がしき他クラスとは対照的に、静かな環境を提供させていただきます。

紅茶専門カフェ『ヴァラノワール』。

静寂と癒しの空間を、貴方に・・・。

 

 

「あは☆ 客引き手伝ってくれてありがとうね、アリア先生!」

「おかげで『ドキ♡ 女だらけのデートカフェ♡』、大成功だよー?」

「・・・そうですか、それは良かったですね・・・」

 

 

椎名さんと明石さんの言葉に、私はもう、笑うしかありません。

静寂と癒しの空間だったはずが、なぜこんなことに?

というか・・・。

 

 

「・・・指名制ってなんですか」

「えー? お客様一人にコンパニオンの女の子が一人つくんだよ?」

「その女の子を、通常の3倍のお茶代を払えば指名できちゃうってわけ♡」

「ぼったくり!?」

 

 

うちの生徒はなぜに、こんなにもお金儲けに情熱を燃やすのでしょうか。

というか、なぜテンションが全ての決定要因になるのでしょうか。

 

 

ま、まぁ、単純にお客様とお茶するだけですから、良いですけどね。

本来の趣旨とは、275度違いますが。

なぜ275度かと言うと、90度とか180度とかだったら、理屈で考え合わせることもできるじゃないですか。

この子達はもう、理屈がどうとかのレベルでは無い気がするので・・・。

 

 

「大丈夫! アリア先生、最高に可愛いから!」

「美幼女教師って、話題性も抜群だよ?」

「それの何で慰められれば良いのか、さっぱりわかりませんよ」

 

 

ちなみに、今の私の格好は、生徒の皆さんと同じメイド服ではありません。

純白のフリルワンピースです。

長谷川さんに私のスリーサイズを教えなかった茶々丸さんが、どこからともなく持ってきました。

昨夜の前夜祭では、ひたすらに「傑作です」とか言ってましたね・・・。

まぁ、確かにすごく作りこまれているのですが。

 

 

襟や袖にニードルレースをあしらった、膝下までのフェミニンなシルキーワンピース。

上品さを出すためなのか、装飾は控えめ。

その代わりに、フリルで縁取りしたケープを重ねています。前合わせのリボンの端には、可愛らしいボンボンがついています。

そして、アイリッシュレースのペチコート。

裾も長いのですが、膝下からはシースルーのフリルレース。同じ色合いのニーソックスが、かすかに透けて見えます。

そして靴は、上品なイメージのローヒールパンプス。

頭には、オフホワイトのヘッドドレス。赤いリボンとバラのコサージュを右サイドのみにあしらっています。バラは中心に真珠を入れたピンク・ピンク・白の3つ。

首にも、照り艶の良いピンクのリボンチョーカー。

 

 

・・・説明が、長い・・・。

これだけでも、どれだけ気合い入ってるんですか・・・な感じですが、下着まで総レースで手縫いとか。

もうこれ、着るしかないじゃないですか。

 

 

・・・男の方の視線が、やたらと集まってくるんですが。

 

 

「あ、アリア先生?」

 

 

その時、和泉さんが店の中から顔を出しました。

なんとなく、顔が赤いような気がするのですが・・・なんでしょうか?

 

 

「アリア先生に、指名が・・・」

「・・・・・・は?」

「うっわ、マジで!? 指名第一号は美幼女教師!?」

「そのフレーズ、やめてください」

 

 

美幼女教師って、なんですかそれ。

ごく一部の客層を狙い撃ったかのようなそのフレーズ。

 

 

・・・いえ、それ以前の問題として、なぜ私が指名対象に入ってるんですか?

 

 

「ふぇ? 入れてないよ?」

「え・・・」

「な、何かな、あの男の子が、アリア先生がええって・・・3番テーブルの人」

「マジで!?」

「どれどれ・・・って、わわっ、カッコイイー♡」

 

 

椎名さん達が盛り上がってますが、ここで指名されるような男の方に、覚えがありませんが。

和泉さんがなぜか少しモジモジしながら、私にメニューを渡してきます。

 

 

「あ、あの男の子、アリア先生の知り合いなん?」

「え、はぁ・・・見てみないことにはなん「はーい、ご指名ありがとうございまーす!」と、も!?」

 

 

明石さんに背中を押されて、店内へ。

なぜか、クラスの視線が私に集中しているような?

 

 

ちなみに、エヴァさん達はいません。

私としても、少し手伝ったら離れるつもりだったのですが・・・。

まぁ、こうなれば、一人相手にして、すぐに・・・。

 

 

「・・・戻ると、しま・・・」

 

 

すか、と言おうと思った、瞬間。

教室の隅、窓際の席に座っているその男性を見て、私は動きを止めました。

自然、姿勢を正して・・・静かに、歩き出します。

 

 

白い髪、感情の見えない無機質な瞳。

窓の外の喧騒を見やるその目は、まるで何も映していないかのよう。

身体が、以前会った時よりも成長しています・・・15歳くらいでしょうか?

身体は成長しても、私の魔眼は「彼」の本質を映しています。

すらりと伸びた身体に、白いスーツが良く似合っています。

 

 

とっても美形さんなのですが、むしろそれがムカつきますね。

腹立たしくなるほどに、綺麗な人。

側にいると、こちらが遠慮してしまいそうなくらい。

すると、私に気が付いたのか、彼が視線をこちらへと向けます。

 

 

無機質な、それでいて感情の色が見え隠れする澄んだ瞳が、私を見ます。

私はそれに、少しだけ首を傾げて、言います。

 

 

「・・・ご注文は?」

「・・・コーヒーを」

 

 

その返答に私は、紅茶専門ですよ、と答えました。

するとそれに、彼は表情は変えないままに、そう、とだけ返してきました。

 

 

そして、少し考えるような素振りを見せた後・・・。

口元に、かすかな・・・ほとんど無表情ですが、わかる人にはわかる程度に、笑みを浮かべて。

 

 

「では、キミを」

 

 

・・・・・・っ////

わ、わざわざ、ワンクッション入れてくる所が・・・////

 

 

 

 

・・・教えてください、シンシア姉様。

な、なんだかレベルアップしてきたこの色男、どうすれば良いんですかっ・・・!

というか、堂々と来すぎですよ、この人・・・!

 

 

 

学園祭、初日・午前。

アリアは、なんだか最初からフルスロットルみたいです・・・!

 

 

 

 

 

 

<おまけ?>

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「レーダーに感アリッ!?」

 

 

時間潰しに仮装パレードを見ていた時、茶々丸が突然意味不明なことを言った。

・・・む。

 

 

そう言う私も、なんだか、今すぐどこかで何かをしなければならないような・・・。

なんだか、焦燥感のような物を感じる。

何と言うか、大事な物を掠め取られるような、そんな気分が・・・。

 

 

「・・・マスター」

「な、なんだ」

「シャッターチャンスを、逃したような気がしてなりません」

 

 

シャッターチャンスって、お前・・・。

昨日の前夜祭で散々、あのドレスを着たアリアを撮りまくっていただろうが。

まだ足りんのか?

 

 

「ケケケ・・・バカバッカダ」

 

 

チャチャゼロは、茶々丸の頭の上と言う、私の手の届かん所で何かを言っているし。

さよとスクナは、二人でどこかに消えよったし・・・まぁ、集合時間までは好きに過ごせば良いが。

今が10時半で、集合がアリアの見回りに合わせて、3時ぐらいだったか。

木乃香達の出し物には、行くとして・・・。

 

 

「・・・バカを言っていないで、下見を続けるぞ」

 

 

アリアもさよも、これほど大きな祭りで自由に動き回るのは初めてだと言うしな。

今のうちに、いろいろと調べておかねばならん。

 

 

それに、超の姿が見えんのも気になる。

結局、私はあれ以来、まともに対峙することもできていない。

茶々丸から、大まかな動きは聞いているが・・・。

 

 

立ち止まっている暇は、無いのだ。

 





アリア:
アリアです。
・・・・・・ど、どうすればいいのでしょうか。
フェイトさんは、いつも突然来るんですから・・・。

ちなみに、今話で登場した私の衣装は、月音様発案です。
ありがとうございます。とても可愛いお洋服です。
カモの妹、「エミリー・カモミール」は、伸様の提供。
ありがとうございます。

アリア:
さて、次回は・・・。
・・・まぁ、言わずと知れているわけで。
で、では、またお会いしましょう。

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