魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第54話「麻帆良祭一日目・既成事実」

Side 古菲

 

一人で木陰に座り、目を閉じていると、自分が透き通って行くような気分になるアル。

周囲の喧騒も、全てが遠く感じるアル。

我が少しずつ消えて・・・自然と一体になる感覚。

故郷では良く、師父の膝の上で感じていた、「世界」。

 

 

考え事をする時はいつも、こうしているアル。

・・・まぁ、私は頭が良くないアルから、あまり良い考えが浮かんだりは、しないアルが。

 

 

「心」

 

 

故郷の師父からの返信には、ただ一言、それだけが書かれていたアル。

心・・・武の道にある者にとって、これほど大切な物は無いアル。

師父はここでの私の行動の一切に言及すること無く、ただそれだけを伝えて来たネ。

 

 

それは、これまで通りで良いと言う意味なのか。

それとも、逆なのか。

どちらにもとれるし、とれないとも言えるネ。

 

 

「菲部長。そろそろ、子供たちが集まる時間ですよ」

「おおっ、もうそんな時間かネ」

 

 

部員の言葉に集中を切って、慌てて立ち上がるアル。

我が中国武術研究会の出し物は、「ちびっこカンフースクール」。

幼い子供達に、中国拳法の「楽しさ」を教えるアルネ♪

 

 

本当なら、ネギ坊主にも参加して欲しかったアルが・・・。

ネギ坊主とは最近、顔を合わせてもいないネ。

私もなんとなく、会いに行く気になれなかったアルし・・・。

明日菜からは、傷は治ったと2、3日前に教えられたアルが。

 

 

「心」

そして、「楽しさ」。

 

 

「菲部長――っ!」

「今、行くアル!」

 

 

私はネギ坊主にそれらを伝えることが、できなかったかもしれないアル。

でも・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「あら♪ アリア先生。わざわざ来て頂いて、ありがとうございます」

「あ、はい、どうも・・・」

 

 

千鶴さんに、天文部のプラネタリウムの入場チケットを渡します。

二枚。

一枚は、事前に渡されていた物ですが・・・。

 

 

「座席は自由ですから、お好きな所へどうぞ♪」

「わかりました」

「・・・うふふ」

 

 

・・・その笑み、なんですか。

大変にこやかで、魅力的な笑みを浮かべたまま、千鶴さんは私から離れて行きました。

そのまま計器の操作に入ったようで、邪魔するわけにもいかず、追撃ができません。

 

 

「・・・生徒の子と話さなくて、良いのかい?」

「ええ、お仕事の邪魔をしてもいけませんので」

「そう」

 

 

おそらく千鶴さんの態度の原因であろう方が、何食わぬ顔で声をかけてきました。

フェイト・アーウェルンクスと言う名前のこの少年は、まぁ、大変な美形さんなので・・・。

 

 

「わ、わ、あの人カッコ良くない?」

「声かけてみる?」

 

 

・・・と言う声が、良く聞こえてくるわけですが。

当の本人は、それに対し何の対策も講じません。

自覚の無い方はこれだから・・・。

とは言え、10歳の私では大した牽制もできませんし、どうした物か・・・年齢詐称薬?

 

 

不意に、手を取られました。

 

 

「え・・・」

「席は、あそこで良いかな?」

「あ、はい・・・」

 

 

そのまま、ゆっくりとした足取りで、座席に誘導されるわけですが。

・・・私が歩きやすい速度。

というか、手を取りはするものの握るまではしないのは、何なんでしょうか。

握りたければ握れと、そう言うことなのでしょうか。

 

 

「・・・あ」

 

 

席の前につくと、手を離されました。

なんとなく、寂しい気分。だからと言うわけではありませんが、この会場、少し肌寒いような。

冷房でも、かけているのでしょうか・・・。

 

 

その時、ふぁさ・・・と、薄い毛布のような物が膝にかけられました。

見ると、フェイトさんの顔・・・ち、近いです////

 

 

「・・・大丈夫?」

「は、あ、えぅ・・・はい」

 

 

ど、どこから出したのでしょうか。

というか、なんですかその気遣い。

貴方、そんなキャラじゃなかったでしょう・・・!

 

 

そして会場の明かりが消されて、プラネタリウムが開始。

薄暗い空間に、星空・・・星座や惑星が。

千鶴さんの解説が、心地よく耳に響きます。

 

 

「・・・ん」

 

 

恥ずかしながら、実は私、昨日あまり寝ていません。

別に忙しかったとか、睡眠時間を削ったとかではなく(別荘ありますし)。

・・・単純に、楽しみで寝付けなかったというか。

 

 

まぁ、一言で言えば、うつらうつらと舟を漕ぎ始めていたわけで。

 

 

「・・・美しいね」

「そう、ですね・・・」

 

 

こちらを見て、声をかけてくるフェイトさんに、そう答えた後・・・。

・・・なんで、私を見ながら?

 

 

星を見るなら、上です、よ・・・。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「わざわざ来て頂いて、ありがとうございます」

「あ、はい」

 

 

生徒と話す彼女を視界に入れながら、天文部とやらの係員に声をかけ、薄い毛布を借りる。

ちなみに、係員は男性を選んだ。こういう場で他の女性と話すのは、可能な限り避けるべきだろう。

なお、チケットは自分で用意している。

 

 

『奢ることがあっても、奢られてはいけません!(暦君談)』

 

 

・・・麻帆良の新聞を読んだ暦君は、そんなことを言っていた。

良くはわからないけど、女性の意見は受け入れるべきだと判断した。

 

 

「・・・生徒の子と話さなくて、良いのかい?」

「ええ、お仕事の邪魔をしてもいけませんので」

 

 

生徒らしき子と話し終えた彼女に、そう声をかける。

毛布は見えないように、彼女のいる方とは反対側に持っておく。

 

 

・・・突然、かすかに彼女の機嫌が悪くなったように感じた。

見た目にはそうでもないけど、なんとなくそんな気がする。

視線を追うと、年頃の女性が僕を見ていた。

 

 

「席は、あそこで良いかな?」

「あ、はい・・・」

 

 

軽く彼女の手を取って、そのまま歩き出す。

握るまではしない、あくまでも決定権は彼女が持つべきだから。

そのまま、彼女の負担にならない早さで歩き、座席に座らせる。

・・・さっきアリアと話していた生徒の子が、しきりに指差していた席。

おそらく、お勧めの位置なのだろう。

 

 

少し寒そうにしてる彼女の膝に毛布をかけると、顔を赤くして、モゴモゴと何か言っていた。

ここの入口の掲示に、雰囲気を出すために中は若干冷えると書いてあったからね。

そして、もう一つは・・・。

 

 

「・・・・・・」

 

 

周囲の男性に、かすかに殺気を込めて視線を送ると、慌てて目を逸らした。

全員が、アリアを見ていた男だ。

石にしてやろうかとも思ったけど、彼女の手前、やめておく。

 

 

アリアの衣装は、上はともかく、膝下からシースルーになっている。

ソックスで覆われてはいるけれど、視線を集めやすい衣装だと言える。

誰が作ったかは知らないが・・・いや、この場合は無自覚な彼女に罪があるのか。

 

 

それからプラネタリウムが始まると、彼女はウトウトとし始めた。

・・・眠いのだろうか。

薄暗い中、星の光に照らされる彼女の横顔は、他の女性に感じたことの無い感情を僕に抱かせる。

 

 

「・・・美しいね」

「そう、ですね・・・」

 

 

いや、顔などではなく・・・美しいのは、彼女の魂か。

彼の意志を継ぎ、その願いを叶えるためだけに作られたはずの僕を、執着させる「何か」を持った少女。

アリア・スプリングフィールド。

キミはなぜ、こんなにも・・・。

 

 

「・・・アリア」

 

 

彼女の上半身に上着をかけて、眠りやすいように、座席の角度を調整した。

もちろん、彼女を起こさないように・・・それでいて、勝手に触れないよう、気を付けながら。

 

 

 

 

 

Side 千鶴(目撃者その①)

 

「あらあら♪」

 

 

アリア先生とは、龍宮さんも交えて良くお茶をする関係だけど、男の子の話なんて聞いたことなかったわ。

それも、あんなに綺麗な男の子を連れてるなんて。

 

 

「可愛い所もあるのねぇ」

 

 

普段は、「私、デキるんです」みたいな態度だけど、今はとっても可愛い女の子だわ。

一緒にいる男の子も、なんだかアリア先生を大事にしてるみたいだし・・・。

本当はいけないんだけど、良い座席を教えてあげた。

 

 

私が他の子とアナウンスを変わってからも、ずっと寝ていたけれど。

目を覚ましたのは、終わってから。顔を赤くして慌てていたわ。

一緒にいる子は、何事も無かったかのようにアリア先生をエスコートして行ったわ♪

目礼でだけど、お礼もしてきて・・・礼儀正しい子。

 

 

流石に、アリア先生は10歳だから、カップルと見られるかは微妙だけど。

でもイギリス人だし、3年くらいすれば、ちょうど良く見えるんじゃないかしら?

 

 

「那波さーん、次の入場、始めても良いですか?」

「ええ、私も手伝うわね」

 

 

天文部の同級生にそう答えると、次のお客様の整理をするために外へ。

ふと、廊下の窓から、外を見てみれば・・・。

 

 

「あらあら♪」

 

 

もうひと組の、可愛いカップルが目に入った。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「あ、小太郎君だ」

「お、夏美ねーちゃん」

 

 

千草ねーちゃんに行ってええよって言われた後、適当にブラついとったら、何やチラシを配る夏美ねーちゃんを見つけた。

夏美ねーちゃんは、何と言うか、妙な格好やった。

何や羽根生えとるし、触角あるし、耳尖っとるし。

 

 

「何や、珍妙なかっ・・・」

「か?」

「か、か・・・それは、何の仮装なんや?」

 

 

あっぶなー、また千草ねーちゃんとの約束を忘れる所やった。

女には変やとか奇妙やとか、会った瞬間に言うたらあかん、らしい。よーわからんけど。

 

 

「あ、これ? これはね、演劇の衣装なんだよ。私、演劇部だから」

「演劇部ぅ?」

 

 

演劇なぁ。

こんなの、とチラシも貰うたけど、やっぱよーわからん。

・・・というか、夏美ねーちゃん、めちゃくちゃ小さく映っとるな。

 

 

「良かったら、小太郎君も見に来てね」

「ん? あー・・・いつや、明日の夜か。格闘大会の時間でもないし、多分行けるわ」

「ホント? じゃあ、チケットあげるよ、何枚・・・って、格闘大会?」

「おう! コレや、『まほら武道会』!」

 

 

夏美ねーちゃんに、ポケットに突っ込んどった「まほら武道会」のチラシを見せたる。

どや、熱いやろ!? 燃えてくるやろ!?

ちなみに、チケットは3枚貰うた。千草ねーちゃん、来れるかな・・・。

 

 

「へ~・・・賞金一千万!?」

「そこかい! そこは割とどうでもええやろ!」

「いや、かなり重要じゃない!?」

 

 

かー、これやから女は、男の戦いの熱さってもんがわかってへん!

金よりも重要なもんが、山ほどあるやろ!?

食いぶちは稼がなあかんけどな。

 

 

「だ、大丈夫なの? これ、すごく強い人とか出るんじゃないの?」

「やから、面白いんやないか! わかってへんなー、夏美ねーちゃんは」

「そ、そうなの?」

 

 

まぁ、夏美ねーちゃんやから、しゃーないな。

んー、どうやったら夏美ねーちゃんにも、男の戦いの良さがわかってもらえるんやろ。

月詠のねーちゃんやったら、方向性は違うけど、なんとなく伝わるんやけど。

 

 

「・・・よっしゃ! なら、俺が優勝すれば、問題無いやろ!」

「え、ええぇ・・・なんでそうなるの!?」

「何でもや!」

 

 

そや、直接見せたればええねんな!

ええねん・・・けど。

 

 

「・・・んん?」

「ど、どうしたの?」

 

 

夏美ねーちゃんに見せるのは、ええねんけど・・・。

何で、見せなあかんねやろ?

というか俺は元々、麻帆良には別の目的で来たはずやねんけど。

何や、色々ありすぎて・・・。

 

 

「なんやったかなー・・・思い出せへんわ」

「・・・? 何かよくわかんないけど、思い出せないってことは、大したことじゃないんじゃない?」

「そうかぁ・・・?」

「そうだよ」

 

 

・・・まぁ、そうやな。

とにかく、夏美ねーちゃんに男の戦いの熱さを教えたらなあかんな!

 

 

「とにかく、俺は絶対、優勝するで!」

「そ、そっかー、じゃあ私も、リハとかあるけど・・・できるだけ応援に行くね」

「マジか!?」

 

 

なら、絶対優勝やな!

なんで絶対かは、よくわからんけど。

 

 

 

 

 

Side あやか(目撃者その②)

 

「あら・・・アリア先生ではありませんか」

「こ、こんにちは、雪広さん」

 

 

我が乗馬部へ、アリア先生が。

わざわざ来て頂けるとは・・・嬉しいですわ。

一緒にいる白い髪の男の方は、どなたでしょうか?

 

 

「アリア先生は、乗馬のご経験はおありですか?」

「いえ、ないです」

「では、初心者コースになりますわ。よろしければ、大人しいポニーも選べますが・・・」

「・・・いや、普通のコースで構わないよ」

 

 

男の方が、不意に口を開きましたわ。

何と言うか・・・物腰の穏やかな方ですわね。

すごく落ち着いてらっしゃいますし・・・。

 

 

「でも、普通のコースと申されましても・・・」

「あちらの2人乗りの方で構わない」

 

 

確かに、2人乗りもできるようになっておりますが。

 

 

「・・・アリア先生は、それでよろしいですの?」

「え、あ・・・はい。お願い、します・・・」

「では、こちらで最低限のレクチャーを受けた後、お楽しみくださいませ」

「ありがとう」

 

 

アリア先生達は、そのまま手を取り合うようにして、馬の方へ。

あの殿方、アリア先生とはどのような関係なのでしょう?

乗馬の2人乗りだなんて、よほど親密でなければできません。

親族・・・とは、違うようですし、もしかして・・・?

 

 

ふぅ、と、自然、溜息を吐いてしまいますわ。

 

 

「私も、ネギ先生に手取り足取り乗馬をレクチャーして差し上げたかったですわ・・・」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

馬の背中と言うのは、意外と高いのですね。

空も飛んだことがあるのに、何を今さらと言う感じですが。

まぁ、今はそんなことよりも。

 

 

「・・・大丈夫?」

「も、問題ありません!」

「そう」

 

 

この距離感の方が、問題です・・・!

せ、背中のぬくもりが、何とも。

 

 

「・・・走らせてみようか?」

「あ、歩くような速さで!」

「そう」

 

 

さ、さっきから、何を言い返しているのかもわからなくなってきました。

・・・歩くような速さで走るって、意味がわかりませんね。

その時、小石を避けた馬が小さく跳ねて、背中にばかり集中していた私は、バランスを崩してしまいました。

 

 

「ひゃっ・・・」

 

 

思わず、側にあった何かを掴んで身体を支えます。

その何かは・・・後ろから伸ばされた、フェイトさんの左腕でした。

その腕に、両手で縋りつくような体勢。

それも、私の身体に触れて支えるのでは無く、あくまでも私の支えになるように。

 

 

「・・・////」

「・・・手綱をしっかりと、持っていて」

「は、はい・・・」

 

 

・・・なんですか。

そんなにも、私に触れるのを遠慮されてしまうと・・・。

私の方から、触れたくなってしまうではありませんか。

 

 

それでも、触れて良いとは言えない、臆病な私がいて。

・・・せめても抵抗に、フェイトさん寄りになるように座る位置をズラしました。

ほんの、少しだけ。

 

 

 

 

 

Side ドネット

 

午前の会談を終え、昼食会に移った。

先ほどまでは、主に麻帆良を始めとする旧世界の魔法学校のカリキュラムについての話をしていた。

既得権益の話や、本国の方針など、色々と妥協の難しい話も出たけど・・・。

流石に、麻帆良の内政に干渉できるような要求は、簡単には通らないわね。

校長からは、場合によってはネギ君とアリアをメルディアナに戻しても良いと、言われているけれど。

・・・あの男。

 

 

「ところで・・・学園長殿」

 

 

クルト議員の前では、その話はしにくいわね。

後でどうにか、麻帆良との二者会談の機会を得たい所だけど。

明石教授の力を、借りる必要があるわね。

 

 

「例の兄妹の姿が、見えないようですね」

「れ、例の兄妹・・・ですかな?」

「ええ、ほら、何でしたか・・・そう」

 

 

クルト議員は、わざとらしい動作で、何かを思い出すかのような仕草をした後。

 

 

「例の、英雄ナギ・スプリングフィールドのご子息2人ですよ」

 

 

そう、言った。

当然、あの2人がここにいることは知っているでしょうね。

ここは、話の展開を静観しましょうか。

 

 

「先ほどの歓迎式典でも、姿が見えなかったようなので」

「ほ、ほほ、あの二人は今、当直でしてな」

「当直?」

「ええ・・・何分、麻帆良祭は大きな祭りでしての、世界樹のこともありますし」

「ああ、例の・・・」

 

 

世界樹の話になると、関西の長、詠春氏も会話に参加してきた。

年頃の娘を持つ身としては、気が気でないでしょうけど。

 

 

「告白の呪い・・・でしたか。対策は大丈夫なのですか?」

「ほっほっ、問題ないですじゃ長殿・・・例年のことなので、警備のシフトなども万全じゃよ」

「よろしければ、私の部下をお貸ししましょうか?」

「ほ・・・信用できませんかの、クルト議員」

「いえ、まさか。もちろん信頼しておりますよ、学園長殿」

 

 

欠片も信頼していない笑みを浮かべて、クルト議員は言った。

何と言うか、典型的な政治家ね。

清潔で、それでいて隙が無く、同時に汚濁に塗れている。

 

 

・・・やりにくいわね。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

面倒臭い連中やな・・・。

まぁ、経験上こう言う話し合いにも何度か居合わせたことがあるけど、今回のはとびきり面倒やわ。

小太郎と月詠はんを、さっさと外に出して良かった。

 

 

子供が見るもんやない。

・・・その意味で、メルディアナのあの赤い髪の子は、よう我慢しとる思う。

何か発言しとるわけでもないけど、しっかりと話を聞いとる。

 

 

「・・・まぁ、仕事と言うことであれば、いた仕方ありませんが・・・」

 

 

・・・というか、お偉いさんが来るんやったら、アリアはんらはおらなあかんかったと思うんやけど。

自分がアリアはんらに影響力が無い言うことを、教えてるようなもんやろに。

クルトとか言う議員さんは、背後の黒服の一人に目配せしながら。

 

 

「・・・滞在中に、ぜひお会いしたい物ですねぇ」

 

 

あくまでも、にこやかに言うクルト議員。

目配せされた黒服が、外に出て行くのが見えた。

これはまた、あからさまやなぁ。

 

 

ドネットとか言う金髪の姉さんも、横の赤い髪の子に何か囁いとる。

今のを見て、反応した言う所か。

麻帆良の方も、何人か見えへんようになっとるようやし・・・。

 

 

「・・・千草君」

「・・・了解や。約束を忘れんといてや」

「わかった」

 

 

長の声に、うちも姿をくらますことにする。

まぁ、お手洗いとか言えばええやろ。

うちの目的のためや、少しくらい長のために動いてもええ。

魔法世界への最初の代表大使の地位、後は・・・。

 

 

クルト・ゲーデルと話す機会とかな。

 

 

まぁ、うちを含めて、小太郎や月詠はんも世話になっとるからな。

個人的な理由で、動くのもええかもな。

・・・さて。

 

 

最後に勝ち残るのは、誰かな。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

あはは、少しはしゃぎ過ぎちゃったかな。

すーちゃんとジェットコースターに乗ったら、調子に乗って3回も乗っちゃった。

おかげで、ちょっと目が回っちゃって・・・こめかみが痛い。

 

 

「どーした姉ちゃん、具合が悪いのかい?」

「なら、俺らと来なよ、介抱してやるぜ?」

 

 

今日の私は、茶々丸さんプロデュースの和風ドレスを着ています。

赤を基調に、裾の方に牡丹の柄があしらってある。

スカートも、袴を意識したデザインになってる。

とても可愛くて、私の趣味にも合ってる服です。

 

 

でもこれ、実は『血塗られたレジネッタ』って言う、ドレス型の魔法具の亜種です。

ダメージを受けると、受けた分の傷をドレスの生地を引き換えにすることで、癒してくれます。

・・・生地が無くなっていくから、最終的に脱げちゃうんだけど。

 

 

「おいおい、何無視してくれちゃって「邪魔だぞ」んどぉえへぷっ!?」

「んだてめ「かける2だぞ」ぇひでぶっ!?」

 

 

ん~・・・エヴァさん達との待ち合わせには、まだ時間があるよね。

 

 

「さーちゃん、お待たせだぞ」

「あ、すーちゃん。ありがとう」

 

 

両手にアイスクリームを持ったすーちゃんが、ニコニコ笑顔で立っていました。

片方のアイス(バニラ)を受け取って、私も微笑む。

ちなみに、すーちゃんのアイスは12段ある。お腹壊すよ?

 

 

「次はどこに行くんだ?(はぐっ)」

「・・・一口で一個食べれるんだ」

 

 

必死になってアイスを食べるその姿は、とても可愛くて。なんだか、おかしかった。

でも、その姿でそれは、やめた方が良いと思うなぁ。

 

 

今のすーちゃんは、アリア先生の作った『年齢詐称薬・スクナ限定+5』で、15歳くらいになってる。

肩で切り揃えられたサラサラな黒髪に、黒水晶のような、艶やかで無垢な瞳。

うん、とってもカッコ良い。

行動が伴ってれば、すごくモテると思うんだけどなぁ。

 

 

「・・・それはそれで、困るんだけど」

「何か言ったかー?」

「ううん、何も言ってないよ?」

 

 

すーちゃんのことを知っているのは、エヴァさん達以外では、私だけ。

他の誰も知らない。

それがとても、嬉しかった。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「んー、せっちゃん。金難と水難と女難と火難、その他諸々、不幸の見本市みたいな結果やで」

「そ、そうなんですか」

 

 

なんと言うことだ、よもやこの身にそこまでの災難が降りかかろうとは。

しかし思い返してみれば、思い当たる節がいろいろと・・・。

 

 

今私は、このちゃんの占いを受けている所だ。

剣道部の出し物の担当も終わり、この後クラスの出し物の担当時間が来る。

その時は、このちゃんが私のお客様になってくれるらしい。

というか、指名するには3倍の値段・・・では、なかっただろうか。

 

 

「あはは、冗談やって」

「そ、そうなんですか・・・」

 

 

このちゃんの占いは、最近軽く聞けないレベルに達しているから、そういう冗談はやめてもらいたい。

・・・このちゃんは、凄い。

ここの所、次々と式神と契約して、その数は日に日に増している。

大半は、鬼や烏族の小物だが・・・中には、酒呑や茨木などの大物もいる。

酒呑や茨木は、京都での強制召喚で繋がりができていたから、できたとも言われるが・・・。

 

 

「でも、女難は本当やから、気をつけてなぁ」

「・・・それは、もう無理なような気が」

 

 

スクナとの契約も、不完全ではあるが、成し遂げている(スクナ的に、80%とのこと)。

魔法使いで言う、仮契約レベルの物だが・・・。

最終的には、千の魔と契約するつもりらしい。

 

 

そして、この急成長の理由は・・・。

 

 

「西洋の占いとは、珍しいのぉ」

 

 

私の膝の上でこのちゃんの水晶玉を興味深そうに見つめる、少女型の西洋人形にある。

陶磁器の肌、二つ括りにされた金色の髪と、青いガラスの瞳。

身に纏っている赤いゴシック調のドレスは、ひどく場違いな雰囲気を出している。

 

 

魔法具『薔薇ノ乙女(ローゼンメイデン)・真紅』。

いや、正確にはそれを依代にしてこの世界に顕現している、稀大の大陰陽師・・・。

安倍晴明。

このちゃんの師であり、最近は天ヶ崎千草にも物を教えているようだ。

 

 

本体(分霊だが)は別荘内に存在し、この依代も普段は革の鞄の中に収納されている。

『ローザミスティカ』と言う、特別な宝石に蓄えられた魔力で動いているらしい。つまりは心臓部で、ネジを巻くことで魔力が供給される仕組みだ。

ある意味で、茶々丸さんと同じ存在と言える・・・科学ではないが。

むしろ、チャチャゼロさんの方が近いか?

しかし、どちらにせよ・・・イメージが。

 

 

「陰陽師にとって、いや私にとって、姿形など不確かな物よ」

 

 

カチッ、とこちらに首の部分を上げながら、人形・・・晴明様が言った。

いえ、しかしギャップと言う物はあるわけでして。

というか、心の声と会話しないでください。

 

 

「ぎゃっぷ、というのが何かはわからんが、あまり失礼なことを考えるべきでは無いな」

「そうやなぁ、晴明ちゃんかて、オシャレしたいもんなぁ」

「このちゃっ、そんなこと言ったら、し、失礼じゃ」

「あー、良い良い、藤原の姫の末裔なら、仕方あるまいて」

 

 

素子様の事と言い、晴明様の事と言い、もしかして、私の対応が間違っているのだろうか?

身分差とか、そう言う物は考えなくて良いのだろうか、いや、そんなはずは・・・。

 

 

「主の伴侶は、小難しい奴じゃのう、藤原の姫よ」

「そやね。そこが悩みでなぁ・・・」

「は、伴・・・!」

 

 

その後、このちゃんに次のお客様が来るまで、散々弄られた・・・。

つ、疲れる・・・最近、自分の価値観に自信が持てなくなってきた。

 

 

そういえば、一応お誘いしたが、素子様は来てくださるのだろうか。

 

 

 

 

 

Side アキラ(目撃者その③)

 

「いらっしゃい・・・って、アリア先生!」

「こんにちは、大河内さん」

 

 

たこ焼きの引換券を渡してはいたけど、来てくれるとは思ってなかった。

素直に、嬉しい。

アリア先生は、いつも忙しそうにしているから・・・。

 

 

「チーズたこ焼き一つ、お願いします」

「わかりました・・・アリア先生は、お一人で回られてるんですか?」

 

 

たこ焼きを作りながら、なんとなく聞いてみる。

アリア先生は、あまり一人でいるイメージが無いから・・・。

でも、アリア先生は少し、顔を赤くしながら。

 

 

「その・・・一人、一緒の方が」

「あ・・・そうなんですか」

 

 

なんとなく、察してみる。

アリア先生も、こんな顔するんだ・・・。

 

 

その後、たこ焼きを渡すとお礼を言って、アリア先生は小走りに駆けて行った。

その先に、白い髪の男の子が見えた。

あの人かな・・・。

アリア先生は、まだ10歳だから、大丈夫だと思うけど・・・心配だな。

 

 

男女交際は、健全に。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

乗馬の後、早乙女さんの所で似顔絵描きをして、四葉さんの所でお昼を頂きました。

フェイトさんの方でも、一応予定は組んでいたようですが・・・ここは、私の我儘を通していただきました。

 

 

「・・・疲れたかい?」

「い、いえ・・・大丈夫です」

「そう・・・でも、あそこのベンチに座ろうか」

 

 

・・・でも、「まぁ、次の機会に」とか言ってたのは、私の気のせいですよね。

というか、私の要望を受け入れてると見せかけて、実は私の知り合いに自分の姿を認知させることで、既成事実化を狙っているのではないでしょうか。

 

 

―――その時、私に電流走る―――

 

 

な、なるほど、それならば、登場時で生徒に見えるように私を誘ったのも頷けます。

全ては、「私の連れ」として自分を認知させるための所業・・・!

な、何と言う策士・・・!

 

 

「・・・何を百面相しているの?」

「ふぇ、フェイトさんには関係ありません!」

「そう」

 

 

それは残念、と、ちっとも残念そうじゃない表情で言うフェイトさん。

私は、なんだか見ていられなくて、大河内さんのお店のたこ焼きをチミチミとつつきます。

 

 

「・・・アリア」

「はい?」

「キミの家族は、この祭りに参加しているの?」

「え、ええ、もちろん」

 

 

あ、そう言えば、フェイトさんには、誰が家族かは言ってませんでしたね。

どうしますか、言っても問題無いような気がするのですが。

 

 

「・・・ちなみに」

「はい?」

「僕の仲間は、来ていないんだ」

「は、はぁ・・・そうなんですか」

 

 

え、と・・・それは、どう言う意味でしょうね?

 

 

「・・・わからない?」

 

 

じっ・・・と、見つめてくるフェイトさん。

う・・・?

 

 

「キミを、奪う」

「・・・っ」

「条件は・・・僕の方が、整えやすいよね」

「は、う・・・・・・っ////」

 

 

あ、つまりはこう言うことですか。

私を手に入れるためには、私の家族を突破する必要があるわけで。

で、その全員がこのお祭りにいるわけで・・・一方、私はフェイトさんを奪う条件がここでは満たせないわけで。

・・・力尽くの問答無用、と言う手段を除けばですが。

 

 

つ、つまり、なんですか。フェイトさんは・・・。

 

 

「・・・こ、攻勢に、出ると?」

「努力はしよう」

 

 

何が面白いのか、たこ焼きを高速でつつき続ける私を、フェイトさんはただ見ています。

と言って、見過ぎているわけではなくて・・・ただ、見守られている感覚。

 

 

「・・・この後の、予定は?」

「え、と・・・さ、三時に待ち合わせが」

「家族と?」

「ぅ・・・」

 

 

え、これ、どうしましょう。どうすれば。

いえ、嫌だとかそう言うんじゃないんです。ほら、絶対にエヴァさんと衝突するじゃないですか。

麻帆良が消滅・・・は良いですね別に、しても。

でも、それでフェイトさんが完全拒否されても困るわけで、あれ、なんで困るんだっけ?

お、お落ち着きなさい、私。別に嫌では無い・・・でしょう?

でもほら、ただ覚悟・・・は、できています。ええ、できていますとも。

でも心の、そう心の準備がまだっ・・・!

 

 

「・・・話は変わるけど」

「ふぇ?」

 

 

気が付くと、フェイトさんはすでに隣では無く、私の目の前に立っていました。

静かな瞳で、私を見ています。

 

 

「アリアポイントって、まだ生きてるの?」

「え・・・あ、アリアポイントですか。はい・・・まぁ」

「そう」

 

 

正直、忘れているのかと思いましたよ。

でも、フェイトさんは覚えていたようで・・・。

フェイトさんは、少し目を細めて遠くを見た後。

 

 

「・・・すまない。急用ができた」

「き、急用?」

「この埋め合わせは、またの機会に必ずするよ」

「え・・・あ、はい」

 

 

麻帆良でこの人が、どんな急用があると言うのかはわかりませんが。

・・・正直、少しだけ、ほっとしている自分がいます。

 

 

「ポイントの交換を、楽しみにしているよ」

 

 

それが、フェイトさんの言い残した言葉。

・・・ポイントを溜めてる自信があるんだ。

・・・・・・そりゃあ、溜まってますけど。

 

 

「・・・あ」

 

 

ずりずりと、お尻の下から一枚の薄い布を引き出します。

白いハンカチ。フェイトさんのです。

ベンチに座る前、さりげなく私の下に敷いていました。

これ、忘れて・・・フェイトさんが、忘れ物?

 

 

「・・・わざと?」

 

 

次に会うための、理由作りまでしていくとか。

・・・も、もぅ~~~~~~~~っ!////

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

・・・時間が無いね。

それが、僕の考えだった。

 

 

アリアと別れた直後、すぐに転移した。

場所は、そう離れていない。すぐ近くの路地裏だ。

僕の目の前には、男の石像が2つ、出来上がっていた。もちろん、僕が彫ったわけじゃない。

 

 

武装こそしていないが、襟元の紋章からして、黒服のメガロメセンブリア兵。

少し前から、巧みに魔力反応を消しつつ、僕達・・・と言うより、アリアの後を尾けていた。

 

 

すぐに消えてくれれば良かったけど、害意を感じてしまえば、放置することはできない。

「完全なる世界」としても、個人としても。

特に・・・。

 

 

「・・・クルト・ゲーデル」

 

 

彼がこちらに来たのには、何か理由があるはずだった。

そしてその理由が、麻帆良の査察などと言うレベルの低い話なわけがない。

スプリングフィールドの子供達に関心があると見て、間違いないだろう。

 

 

アリアにも、近く接触しようとするはずだ。

ネギ君にもするだろうが・・・そちらの対処は、僕の管轄では無い。

 

 

「できれば、待ち合わせ場所とやらまでは、送りたかったけれど・・・」

 

 

ちょうど良い、彼の部下の中に、我々の工作員を紛れ込ませるチャンスだろう。

幸い念話は妨害してあるし、救援を呼ばれる前に石化させた。

これで少しは、向こうの情報も入りやすくなるはずだ。

魔法世界で計画を実行すれば、彼を含めた元老院は敵に回るだろうしね。

 

 

だが、クルト・ゲーデルがアリアと接触するまで、そう時間は無いはずだった。

おそらくは、この祭りが終わるまでの間に、必ず一度は接触する。

可能ならその前に、アリアをこちら側に引き込みたい所だけど・・・。

 

 

『女の子に、無理に迫ってはいけません!(暦君談)』

 

 

・・・時間を、置こう。

その間に、僕はやるべきことを済ませるとしようか。

 

 

完全なる世界と、彼女のために。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・む?」

 

 

茶々丸とチャチャゼロを引き連れて歩いていると、屋台の並ぶ通りのベンチで、アリアを見つけた。

遠目に何をしているのかと見てみれば、何やらノートパソコンを弄っている。

仕事か? と思ったが、どうも違うようだ。

 

 

「こんにちは、アリア先生」

「何を百面相しながら、パソコンを叩いているんだ?」

 

 

チャチャゼロは、茶々丸の頭からアリアの頭へと、落ちるように見せかけて飛び移った。

そして、パソコンの画面の覗き見る。

 

 

「・・・サリゲナイハンカチノカエシカタ?」

「ググってる所です!」

 

 

・・・良くわからんが、誰かにハンカチを借りたのか?

それにしても、普通に返せば良いだろうに。

 

 

「・・・なんなら、私が返してきてやってもいいぞ?」

「第三次世界大戦が始まるので、無理です!」

「・・・意味がわからん」

「微妙な年頃ですから、仕方がありません」

 

 

・・・最近、茶々丸は育児雑誌を良く読んでいることを、私は知っている。

だからかは知らんが、どうも頭のネジが緩んでいるとしか思えん発言をする。

成長の方向性が、やはり、違うのではないだろうか・・・?

 

 

「楽しんでいるようネ?」

 

 

その声を聞いた瞬間、魔力で編んだ糸を飛ばした。

雑踏の中にあろうと、対象を間違えることは無い。

声の主・・・超鈴音を選び、絞め上げる―――が。

 

 

「やめてほしいネ、エヴァンジェリン。もう何度目カ?」

「・・・8度目だ」

 

 

苦々しい思いで、平然と私の前に現れた超を見る。

超を捉えたはずの私の糸は、どう言うわけか、私の感知できないほどの速度で切られてしまっている。

そしてこれは、すでに一度や二度では無い。

教室で、「超包子」で・・・そして今。

 

 

もし私の行動が全て奏功していたらなら、超は5回は死んでいる。

だが・・・。

 

 

「こんにちはヨ、アリア先生」

 

 

だが、こいつは確かに存在している。

この私の手を、幾度となく逃れて・・・。

 

 

「マスター、超」

「茶々丸は、動くな。じっとしていろ」

「そうネ。茶々丸は大人しく待っていてほしいヨ」

 

 

この麻帆良で、茶々丸に対して私と同等の命令権を有する者がいるとすれば、この超だろう。

私の方が上位に設定されているはずだが・・・。

この超、まるで信用できない。

 

 

家族としては、私を優先してくれると信じているが・・・。

負担は、かけたくなかった。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・なんですか、この人は。

 

 

「超包子」の制服に身を包んだその少女の名は、超鈴音。

私の生徒であり、未来人。

学園祭の時点までは何もしないかと思い、特に接触はしませんでしたが・・・。

事実、茶々丸さんを通じて伝わってくる彼女の情報は、原作以上の行動は取らないと言う物でした。

 

 

もちろん、私の存在が影響を与える可能性もありましたが。

しかし、世界樹が発光する段階にならない限り、問題は無い物と思っていました。

実際、ヘルマン卿の件までは、彼女は普通の生徒でしたし。

 

 

ネギにちょっかいをかけるまでは・・・。

エヴァさんが、彼女に疑念を持つまでは・・・。

そして。

 

 

「貴女・・・何を持っているのですか?」

「うん? 校則違反になる物は何も持っていないヨ?」

 

 

今、私が改めて彼女を視るまでは。

・・・昨日まで、こんな反応は無かった。

私の『複写眼(アルファ・スティグマ)』は、確かに彼女の姿を捉えているのに・・・。

 

 

「そう言えば、アリア先生と直接向き合うのは、初めてかもしれないネ?」

「そう、かもしれませんね・・・」

 

 

なのに私の眼には、超さんの全てが映らない。

魔力も、その他の解析できるはずの全てが、私の瞳に映らない。

いえ、「何も映らない」と言う事実が映るような効果が、彼女の身体に付与されています。

・・・こんな、バカなことが。

 

 

「・・・そんなに視られると、照れてしまうネ」

「いい加減その口を閉じろ、超鈴音。さもないと・・・」

「あやや、これは怖いネ。でも、良いのカ? 私は、アリア先生の「生徒」ヨ・・・?」

 

 

エヴァさんは、それなりに本気のようですが・・・超さんは、にこやかなままです。

そのまま、ヒラヒラと手を振りながら、私を見て。

 

 

「エヴァンジェリンが怖いから、用件を済ませることにするヨ」

「殺すぞ、貴様・・・」

「アリア先生に、「生徒」としてお願いがあるネ」

 

 

・・・先ほどから、やけに「生徒」を強調しますね。

というか、この人は誰ですか。

私が知っている「超鈴音」では、無いのですか。

昨日までは、そうだったはずなのですが・・・。

 

 

「武道会に出てほしいネ」

「武道会・・・?」

「実は参加者が集まらなくて、困っているネ」

 

 

超さんは私の両手を握ると、ウルウルとした瞳で私を見つめてきました。

え、ちょ・・・。

 

 

「お願いヨ。先生なら話題性もあるし・・・きっと人も集まるネ。「生徒」を助けると思って」

「え、え、え・・・」

「き、貴様! アリアから離れろ!」

 

 

慌てて、エヴァさんが私と超さんの間に割って入ります。

なんだか、エヴァさんが必要以上に焦っているようなのですが。

超さんは笑いながら、それに逆らうこともせず、私から離れました。

 

 

「う~ん、やっぱりタダじゃダメかネ?」

「タダとかどうとか、そう言う問題では無いわ!」

「・・・なら、もし出てくれたら。そして優勝なんてしてくれたら、良いことを教えるネ♪」

「良いこと、ですか・・・?」

 

 

あはは、と超さんが笑います。

なぜでしょう、とても・・・耳に残る笑い声です。

そんな私の感情を察しているのか、超さんは私のことを、じっと見つめてきました。

 

 

エヴァさんは、憎らしそうな視線を超さんに向けていますし、茶々丸さんは、心配そうな視線を私に向けるばかり。頭の上のチャチャゼロさんは、よくわかりません。

 

 

超さんの口元に浮かぶ笑みは・・・歪な形。

まるで悪魔の笑みのような、三日月の形。

 

 

・・・あはは。

超さんの、笑い声が聞こえます。

そして次の彼女の言葉で、私の世界の時間が、止まる。

止まらざるを、得なかった。

バキンッ、と、ノートパソコンを落としてしまう程に。

 

 

 

「・・・シンシア・アマテルの、死の真相とか、ネ?」

 

 

 

 

・・・シンシア姉様。

今まで何度も、貴女に語りかけてきましたが、一度も言っていない言葉があります。

私は・・・。

 

 

 

 

 

アリアは、貴女に会いたい。

 





アリア:
アリアです。
超鈴音が、謎です。意味がわかりません。
何が目的で、何を求めているのかが見えません。
エヴァさんすら手玉に取り、私の瞳からも逃れる。
そんな力は、彼女には無かったはずなのに・・・。
これも、私がいることの影響なのでしょうか?


今回登場した魔法具は、以下の通りです。
「薔薇ノ乙女・真紅」(ローゼンメイデン):黒鷹様・haki様
「ローザミスティカ」(ローゼンメイデン):haki様
「血塗られたレジネッタ」(C3(シーキューブ)): ヴラド=ツェペシュ様
ありがとうございます!


アリア:
さて、次回はネギグループの動向と、アーニャさんを含めた方々が本格的に裏で動いてくるかもしれません。
もちろん、超鈴音も。
そして、私は武道会に出場するのでしょうか?
では、またお会いしましょう。

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