魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第58話「麻帆良祭二日目・相互理解」

Side アリア

 

「まったく、お前と言う奴は・・・」

「あはは・・・ところで、苺禁止ってナシになってますよね? ね?」

「お前、私の話を聞いていただろうな・・・?」

 

 

もちろん、聞いていましたよ?

つまり、苺は食べて良いってことですよね。

袖の中に手を入れて、ごそごそと『苺の魔大福』を取り出します。

魔法使いの和菓子職人が作った魔力が籠った甘くて美味しい低カロリーな虫歯にならない苺大福です。

まほネットで一部の苺通に大人気です。

 

 

はむ・・・と、口に含みます。

お餅の部分にも苺が練り込まれているので、程良い酸味と苺の香りが。

苺大福の中に籠った魔力には、身体に良い効能もあります。

 

 

はむ、はむ・・・。

・・・どこに持っていたのかって?

単純に、『ケットシーの瞳』から取り出しただけです。保存も効きますので。

 

 

「恩人、スクナはお腹がすいたぞ」

「思い出したように腹ペコキャラに戻る人ですね・・・これでも食べていてください」

「んむっ(ムグムグ)」

「お前ら、こんな所で物を食べるなはしたない・・・と言うか、まず手を洗え!」

 

 

スクナさんの口にターキーを突っ込むと、エヴァさんが口うるさく何か言ってました。

その時、ズン・・・と、私の右隣に、ターミ○ーターみたいなロボットが腰掛けました。

ちなみに、左隣にスクナさん、エヴァさんはさらに隣です。

 

 

『さぁ、第4試合はこの2人! 前年度「ウルティマホラ」チャンピオン、古菲選手! そして対するは、ここ龍宮神社の一人娘、龍宮真名選手!』

 

 

第4試合が始まるようですね。

周囲の観客が、古菲さんを熱狂的に応援しているようです。

 

 

「えっと・・・田中さん、でしたか?」

「・・・正確ニハ、機体番号T-ANK-α3デス」

 

 

おお、返事が返ってきました。

あまり期待はしていなかったのですが、流石は茶々丸さんの弟さん。

礼儀は正しいようです。

 

 

「背中についてるのは、電源コードか何かですか?」

「守秘義務ニ該当シマスノデ、オ答エデキマセン」

「あ、そうですか・・・ごめんなさい、不躾なことを聞いて」

「問題アリマセン」

 

 

ふむ・・・ロボットなら、苺をあげても意味無いですよね。

苺味のオイルとか・・・? やめた方が良い気がしますね。

しかし、初対面は苺からと言うのが、私の流儀。

 

 

「・・・素敵なジャケットですね。破れなどした際には、この苺のアップリケをお使いください」

「コノ外装ハ支給品デス」

「・・・あいつはなぜ、ロボットと相互理解しようとしているんだ?」

「恩人は、変なのとばかり友達になるからな(ムグムグ)」

 

 

失礼なスクナさんですね。

ターキー取り上げますよ?

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

真名は、強いアル。

平和な場所で修練ばかり積んでいた私と違って、いくつもの戦場を潜り抜けてきている。

実戦経験の差だけ見ても、私の敵う相手じゃないアル。

 

 

でも、嬉しくもあるアル。

ここに来るまで、私が本気で戦える相手はいなかったアルからネ・・・。

 

 

「・・・ふふ、大した人気だな、古」

「真名ほどじゃないアル」

「いやいや・・・しかし、これで負ければ、お前のファンがガッカリしてしまうぞ?」

 

 

観客席には、私の応援をしてくれる格闘系の団体の人間が多くいるアル。

でも、私は彼らの声援のために戦ったことは、ただの一度も無いアル。

 

 

我只要和強者闘(我が望むのは只強者との闘いのみ)。

 

 

名声に、こだわりは無いアル。

それよりも・・・。

 

 

「・・・手加減は無用ネ、真名」

「無論だ。私の戦闘における選択肢に手加減などと言う物は無い。お前こそ大丈夫か? 何か悩んでいたようだが」

「・・・問題、無いアル」

 

 

ぐ・・・と、身体に力を込めて、構えるアル。

真名も、右手を腰のあたりに下げる不思議な構えを取ったアル。

そして・・・。

 

 

『第4試合・・・Fight!!』

 

 

そして、額を撃ち抜かれたアル。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

『こ、これはぁ!? 古菲選手が開始早々に吹き飛んだ―――っ!?』

「クルト議員、これは?」

「ふむ・・・あれは『羅漢銭』ですね」

 

 

我ながら、すっかりと解説役にされてしまいましたねぇ。

まぁ、別に良いですが。

 

 

「中国に伝わる暗器の一種。ありていに言えばコイン投げですね。ただし、気力のこもった達人が放てばあのように、ライフルのような狙撃も可能になります。良い子は絶対に真似してはいけませんよ?」

「なるほど、お兄さんとの約束、と言うことですね?」

「まさにそれです」

「・・・あかん。突っ込みが追いつかへん・・・」

 

 

なにやら自信を喪失されている方がいますが、試合の方も盛り上がりを見せているようですし、華麗に無視と言う行動を選択させていただきましょう。

 

 

立ち上がった古菲選手に、雨あられと500円玉が撃ち出されます。

ふむ・・・お小遣いは大丈夫なのでしょうかねぇ。

 

 

『避ける避ける古菲選手―――っ!』

「ふむ・・・どうやら古菲選手は接近戦に持ち込むつもりのようですね」

「と、言いますと?」

「このスリーサイズまで書いてある解説者用のプロフィールによりますと、古菲選手は中国拳法のスペシャリスト、そして龍宮選手は狙撃の名手とあります。つまりは・・・」

 

 

チュインッ!

 

 

「・・・スリーサイズの部分は太いペンで削除するとして、つまりは古菲選手は接近戦に持ち込むことで活路を見出そうとしているのでしょうね」

「なるほど、龍宮選手の狙撃に屈しつつも、見事な解説です。クルト議員」

「いやぁ、照れますねぇ」

「・・・京都人は関西人やないから、突っ込みできんでもええねんや・・・」

 

 

おお・・・!

と、観客席から声が漏れます。

古菲選手が八極拳で言う「活歩」を用いて、真名選手に肉薄しましたが・・・近距離の『羅漢銭』を顎に受けて、吹き飛ばされてしまいました。

そのまま容赦の無い連撃を受け・・・。

 

 

『こ、古菲選手、ダウ――――――ンッ!!』

 

 

・・・ふむ、良いですね。あの龍宮選手。

ぜひとも、うちに欲しい人材です。

こちらの調べでは、フリーの傭兵と言うことですので、スカウトでも・・・。

 

 

ふと、選手席を見れば・・・。

ネギ・スプリングフィールドは、どうやら涙目で試合を見ているようです。

アリア・スプリングフィールドは・・・。

 

 

・・・なぜか、ロボットと談笑していた。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

くぅー・・・やっぱり真名は強いアルねー・・・。

実力の差は、元より歴然だったアルが・・・ここまでとは。

 

 

「く・・・古老師――――――っ!」

「くーふぇ―――っ、しっかり――――っ!」

 

 

ネギ坊主・・・試合前にも、碌に話せなかったアルね。

まだ、私を老師と呼ぶか・・・。

明日菜は・・・結局は、ネギ坊主の側にいるのアルな・・・。

 

 

ああ・・・師父。

心とは、何でアルか・・・。

それは、私には無い物でアルか?

それとも、すでに私の中にある物でアルか?

 

 

はっきりと、私が間違っていると言ってくれれば、楽だったアルに。

師父は、いつだって、私の悩みに答えてくれたことが無いアルから・・・。

この大会に出れば、わかるかと思ったアルが・・・。

 

 

「古」

 

 

真名が、500円玉の束を手に、私を見下ろしていたアル。

トドメを、刺しに来たアルか・・・。

カウントが進むのを待てば良いのに、真名らしいアルね・・・。

 

 

「終わりか?」

 

 

真名は、ちらりと、視線を横に向けたアル。

戦いの場で真名がそう言う行動に出るのは、本当に珍しい行動アル。

自然、私の視線も、真名が見ている物を追う。

 

 

「見ているぞ」

 

 

アリア先生が、こちらを見ていたアル。

アリア先生。

ネギ坊主と同じ立場にありながら、まるで反対の行動を取る女の子。

私が知る限りで、誰よりも強く・・・そして、誰よりもわからないアル。

 

 

とても冷えた目で、私を見ているアル。

何と言うか、どうでも良い物を見るような目。

あの瞳には、きっと私のことなど、映ってすらいないのでアルかな・・・。

ふふ・・・。

 

 

あんな目で見られたままでは、終わりたくは無いネ・・・!

伝えておきたいことが、残ってるアルから。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

古は、立った。

正直、ほっとした。

私は、超から「なるべく盛り上げて負けるよう」に依頼されている。

まぁ、人気№1の古が一回戦で負けるのも問題だからな。

 

 

そして何より、私はアリア先生と戦いたくない。

あの人と戦おうと思ったら、万全の装備でやる必要があるが・・・。

正面からあの人と戦うなど、バカのやることだ。

そして、こんな所で手の内を見せる気も無い。

 

 

『く・・・古菲選手、妙な布を槍のように―――っ!』

 

 

これは、「布槍術」と言うやつか。

とはいえ、左の手足はもう動かないだろう。

そこに集中して撃ち込んだからな。

片手で操る布の槍など、簡単にかわせる。

 

 

「くっ・・・何の!」

「やるじゃないか・・・だが」

 

 

その手足をさらに狙い撃つ。

左の手足に、さらに500円玉を撃ち込んで行く。

ふふ、超め、必要経費を聞いて腰を抜かさなければ良いがな・・・。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

西側の高灯篭の頂上が、爆発した。

何だ!?

 

 

「真名ぁっ!!」

「・・・しまっ」

 

 

しゅるっ・・・と、左腕に布が巻かれ、さらに古が突撃してくる。

自然、舌打ちをしてしまう。

ジャカッ・・・新しい500円玉の束を右手に落とすが、すでに遅い。

古の無傷の右手が、私の胸に。

 

 

「ぐ、ふ・・・っ!」

 

 

ずしんっ・・・と言う音が、身体の中に響いた。

外傷は無いが、すさまじい衝撃が私の身体を駆け抜けた。

500円玉の束一本を古の身体に一度に撃ち込んだものの・・・。

 

 

ばんっ!

 

 

と、音を立てて、私の衣服の背中の部分が弾け飛んだ。

なるほど、これが浸透勁と言うやつか・・・。

初めて受けたが、なかなか凄いな。

 

 

「・・・やるじゃないか、古」

「ふ、ふふ・・・真名こそ、手加減が上手いネ」

「それは、どう、も・・・」

 

 

その会話を最後に、私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

会場から声が響く。

どうやら、第4試合が進んでいるようだけど・・・。

そちらに興味は無い。

今、問題は・・・。

 

 

「て、てめぇ・・・!」

「え、ちょ・・・この人にも迷惑かけたんですか!?」

「ちょ、おま」

「ごめんなさい! この人性根が腐ってて・・・ごめんなさい!」

 

 

なんだかわからないけど、妹の方が全力で謝り始めた。

・・・妹の方は、簡易石化で良いかな。

どちらにせよ、退場してもらうけどね。

 

 

「お、オコジョフラ――――ッシュ!!」

 

 

1匹のオコジョが、突然全身を発光させた。

僕の視界を奪うのが目的だろうけど・・・。

 

 

「きゃ・・・ちょ、触らないでよ変態!」

「ちょ、おま、おち、落ち着けって! 逃げるんだよぉ――っ!」

「はぁ!? ・・・わかった! あの人も貴方の被害者なのね!」

「男の下着に用はねぇ―――っ!」

「じゃあ、あの人の恋人に迷惑をかけたのね!」

「あいつの彼女なんて知らねぇよ!」

 

 

そこまで騒がしいと、逆に本当に逃げる気があるのか、不思議でならないね。

まぁ、そもそも僕に目眩ましの類は通用しないけど。

いずれにせよ、騒がれるのも面倒だ。

 

 

「・・・ヴィシュタル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」

 

 

消そうか。

見つかるわけにもいかないしね。

始動キーを唱え終わる頃には、僕はそのオコジョ達の目前にいる。

人間ならともかく・・・オコジョなら、別に消しても問題ない。

 

 

「んなっ・・・!」

「『永久石化(アイオーニオン・ペトローシス)』」

 

 

石化の魔法を、1匹のオコジョに放つ。とりあえず兄と思われる方。

魔法が完成する、その瞬間。

 

 

「『アーニャ・フレイム・バスター・キイィィ――――ック』!!」

 

 

炎を纏った蹴りが、掲げた僕の右手ごと、屋根を踏み砕いた。

次いで、爆発。

 

 

高灯篭の屋根の一部が、爆発と共に吹き飛んだ。

大した威力だ・・・とは言え、僕の障壁を抜いてくる程じゃない。

 

 

「わっ・・・たったっ・・・このっ」

 

 

どうやら、中途半端に石化魔法が完成していたのか、石化しつつあった右足の靴を脱ぎ捨てた。

ごとっ・・・と音を立てて、靴が下に落ちて行く。

 

 

「あ、危なかったわ・・・エミリー、大丈夫!?」

「大丈夫です!」

「俺っちの心配は!?」

「するわけないですぅ」

 

 

かすかに炎を纏ったその髪は、一瞬、焔君を思わせた。

その腕に・・・小さなアリアを抱いていた。

 

 

「・・・キミは」

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

何なのよ、もう!

エミリー探してたら、何か怪しいことされてるじゃない。

思わず、蹴り入れたんだけど・・・。

 

 

「あ、あんた、あの時の・・・」

 

 

今朝、ぶつかった男の子じゃない。

やっぱり、綺麗な顔・・・って、そうじゃないでしょ私。

ぼぼっ・・・と、魔力で作った炎を髪に纏わせる。

魔法具『アラストール』・・・私の得意属性の「火」の効果を底上げしてくれるペンダント。

卒業式の日に、アリアがお守りにってくれたんだけど・・・。

 

 

「あんた、人のパートナーに何すんのよ!」

「・・・キミのパートナーとは知らなくてね」

「き、気を付けろ! そいつは・・・」

「ゴミ虫は黙ってるですぅ」

「ゴミ虫って酷くないッスか!?」

 

 

うっさいカモねー、女の子の下着盗む奴はゴミ虫で十分よ。

いや、それよりも・・・。

 

 

「キミは・・・アリアの身内か」

「へ? ・・・あんた、アリアの知り合いなの?」

 

 

腕の中のちびアリアを見ると、「ふぇいとさんですぅ~」とか言って、足をパタパタしてた。

・・・知り合いみたいね。

それも、尋常じゃないくらい好かれてる感じの。

だって、ちびアリアが「みちゃや~ですぅ」とか言って、恥ずかしそうに顔を隠してるんだもの。

 

 

「・・・もう、行った方が良い」

「へ?」

「学園側が、ここを調べに来る。その校章・・・メルディアナの人間だろう? ここにいると不味い」

「ぐ・・・」

 

 

た、確かに、私がコレやったって知れたら、結構不味いわよね・・・。

思わずやっちゃったけど・・・もう少し抑えるべきだったかしら。

この人、悪い人じゃないみたいだし・・・。

 

 

「あ・・・あんたは?」

「僕は大丈夫・・・もし気遣ってくれるのなら、見なかったことにしてくれると嬉しい」

「な、なんで?」

「説明してる時間が無い。それと、エミリー・・・君、だったかな、悪かったね」

「い、いえ・・・こちらこそ、うちのカモミールがいつもご迷惑を」

「俺の信頼度ゼロ!? いや、そいつには迷惑かけてねぇよ!?」

 

 

そうこうしてる内に、下の方が騒がしくなってきた。

本当に、時間が無いわね。

もう少し話、聞きたかったんだけど・・・。

 

 

私は、右手にカモを鷲掴みにすると、頭の上にちびアリアを、そして左肩にエミリーを乗せて、その場から消えることにした。

 

 

「え、えっと・・・ありがとう! あ、あんた、名前は・・・」

「・・・フェイト。それより、早く行くと良い」

「わかった! それと、いきなり蹴ってごめんね!」

 

 

最後に謝ってから、『アラストール』で炎を形態変化して足場を作りつつ、隣の建物まで飛んで行く。

『アラストール』は、炎属性の呪文の補助、威力の増幅・操作性の向上、形態変化させる効果がある。

あと、火と熱に対して耐性も付くから、猫舌対策にもなったりする。

 

 

「やっと捕まえましたよ・・・カモミール!」

「はっ・・・し、しまった!?」

 

 

髪が燃えてるみたいになるから、慣れない内は怖かったけど・・・。

 

 

「ポイント付けとかなきゃですぅ」

 

 

・・・何の話?

 

 

 

 

 

Side ハカセ

 

「・・・およよ? 超さ~ん」

「どうしたネ?」

「西の高灯篭に向かわせた災害用ロボが、全滅しました」

「何?」

 

 

第4試合の最中、西側の高灯篭の屋根が爆発した。

偵察ロボが魔力反応を感知したから、それなりに戦闘機能を有したロボを送り込んだんだけど・・・。

 

 

「全滅とは穏やかじゃないネ・・・どういう状況カ?」

「状況も何も・・・だから、全滅したんですよ」

 

 

4機のロボが、ほぼ同時に破壊された。

しかも・・・。

 

 

「・・・石化?」

「ええ、ロボが全滅しても、鎮火されてたんで不思議に思って偵察型ロボを近付けてみたら・・・」

 

 

かすかに残っていた炎ごと、石にされてた。

データベースで照合してみると、どうも石化魔法らしいんだけど・・・。

でも、なんで石化?

 

 

「破壊した相手の画像は残っているカ?」

「今、壊されたロボを回収して調べてる所です・・・武道会はどうしますか?」

「そうネ・・・鎮火されて危険が無いなら、続けることにしようカ」

「わかりました。では、引き続き第5試合を・・・」

 

 

それでも、石にされたロボからデータチップが回収できるかどうか。

まったく・・・ロボが魔法で壊されるなんて、非科学的過ぎるよ。

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

「アリア君を?」

『ええ、そう言う話でこちらに通っているわ』

 

 

麻帆良とメルディアナの会談が続けられている頃、私は別の人物から緊急通信を受けていた。

本当なら、私も会談に加わらなければならないのだが・・・。

相手が相手なので、無視はできなかった。

 

 

「本当なら、昔を懐かしんで挨拶の一つでもと、思うのですが・・・」

『ええ、私もそうしたい所だけど・・・通信が傍受されてもつまりません。話を進めましょう』

「ええ・・・」

 

 

相手は、魔法世界の住人。

アリアドネー魔法騎士団総長、セラス殿。

かつて共に戦った戦友でもあり、高位の術者でもあり、教育者でもある。

 

 

通信の連絡と打診があったのは、昨夜遅くだ。

内容が重要だったので、受けた。

 

 

『メルディアナの方から、非公式の打診があったわ』

「ええ、こちらにも親書が届いています。アーニャ君を通じて、昨夜受け取りました」

『そう、なら話は早いわね・・・』

 

 

メルディアナの親書の内容は、今麻帆良との交渉で切り出している話と、おそらくは同じだろう。

アリア君の卒業を一旦取り消し、別の修行場所と課題を与える。

つまり・・・。

 

 

『我々アリアドネーは、アリア・スプリングフィールドとその「家族」を、受け入れる用意があります』

「しかし、そのためには、アリア君を近衛木乃香の後見人としている我々関西呪術協会の協力がいる」

『ええ・・・もちろん、アリア・スプリングフィールドの「家族」については、こちらで相応の身分を保障した上で、受け入れることになります』

「問題は、多い・・・」

『そうね・・・その内の一つを、貴方が握っています』

 

 

今回、メルディアナは・・・と言うより、メルディアナ校長は泥を被るつもりなのだろう。

なりふり構わず、スプリングフィールド兄妹・・・特にアリア君を麻帆良から引き離すつもりだ。

前回、ネギ君がアリア君を襲撃した際、エヴァンジェリン自らがメルディアナ校長と接触したと聞いているが、何を話したかまでは知らない。

 

 

とにかく、この提案は問題が多い。

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルのこと。

近衛木乃香のこと。

ネギ・スプリングフィールドのこと。

それに・・・他にも多くのこと。

 

 

「・・・そちらの問題は?」

『こちらで処理します』

「となると、本当に問題は、私の側にあると言うことか・・・」

 

 

やれやれ・・・。

関西の強硬派の放逐が少しずつ進んできたと思ったら・・・。

問題と言う物は、次から次へと出てくる物だ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

真名さんが負けるとは、意外でしたね。

まぁ、古菲さんも勝ったとはいえ重傷、これは私、自動で準決勝まで行ったんじゃないですか?

 

 

「フフ・・・ついにこの正義の使徒、高音・D・グッドマンの実力を見せる時が来ましたね!」

 

 

その時、ギシリと音を立てて、田中さんが立ち上がりました。

ああ、そう言えば出番でしたね。

 

 

「頑張ってくださいね。田中さん」

「苺ノアップリケ、アリガトウゴザイマス」

「しかる後、ネギ先生! 貴方をこらしめます!」

「え、えええ! どうしてですかぁ!?」

「貴女もです! アリア先生!(びしぃっ)」

 

 

田中さんは、私が差し上げた苺のアップリケを胸ポケットにしまってくれました。

ふふ・・・私、全力で応援しますよ?

 

 

「学園長の指示に従わないばかりか、マギステル・マギ候補と期待されながら<闇の福音>に関係するとは、何を考えているのですか!?」

「服が破れたら、私が縫ってあげますね?」

「アナタノ為ニ、頑張リマス」

「うふふ、お姉さんって呼んでも良いですよ?」

 

 

この田中さん、生まれた・・・と言うか、作られて間も無いからか、とても素直です。

身体は大きいですが、心は素直。

茶々丸さんの弟さんだけあって、とても可愛らしい方です。

 

 

「ちょっと聞いていますか、アリア先生!?」

「お、お姉さま、やめましょう・・・」

「はぁ・・・」

「た、溜息!? 人と話している時に溜息なんて・・・失礼でしょう!?」

「田中さん、あの人ボコボコにする方向でお願いします」

「了解致シマシタ」

「ちょっ・・・!」

 

 

その後も、高音さんは何かを言っていましたが、その何一つとして私の耳には届いていません。

朝倉さんに呼ばれてリングに上がるまで、高音さんは騒いでいました。

やれやれ・・・あ、リングに行く直前に、田中さんの耳をお借りして、ゴニョゴニョ・・・。

 

 

『第5試合、ファイト!!」

 

 

そして始まる第5試合。

開始直後、放たれる田中さんの・・・。

 

 

・・・『ロケットパンチ』。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「いや、ロケットパンチて!?」

「ふむ・・・見事なロケットパンチですねぇ」

「クルト議員!?」

 

 

田中さん・・・機体番号T-ANK-α3は、私の弟にあたります。

昨夜、トーナメント出場者について説明を求められた際、紹介しておきました。

選手席の様子を見るに、アリア先生と良好な関係を築けているようでした。

 

 

工学部で実験中の新型ロボット兵器です。

現在、自己学習機能の実験のために、何でも知識を取り込む状態にあります。

その吸収率たるや、生まれたばかりのヒヨコの如しです。

 

 

「いや、ロケットパンチて・・・ええんかアレ!?」

「武道会ルールには抵触しません」

 

 

千草さんの指摘に、冷静に解答します。

事実、ルールにロケットパンチを禁止する規定はありません。

 

 

リング上では、高音選手が田中さんのロケットパンチから逃げ回っていました。

どういうわけか、田中さんはビーム兵器を使用しません。

使用制限はかけていなかったはずですが・・・。

 

 

田中さんは高音選手の手足を掴むと、そのまま振り回すと・・・。

場外の水の中に、放りこみました。

 

 

「ほう・・・?」

 

 

クルト議員が、物珍しげに、それを見ていました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・あれは、お前の入れ知恵か?」

「ええ、まぁ・・・操影術は自分の影を操るのが基本ですから」

『・・・3!』

 

 

右眼の魔眼で高音とか言う女を窺いながら、アリアは愉快そうに笑っていた。

確かに、操影術は影がなければ使えないからな。

水の中では、操る影を作るのも一苦労だろう。深さにもよるがな。

リングの方では、朝倉がカウントを進めている。

 

 

「脱がされるよりはマシかと思いましてね」

「脱・・・ああ、昨日茶々丸が言っていたアレか」

 

 

昨夜、茶々丸が田中とか言うあのロボットについて説明していた時、「脱げビーム」とか言う、意味のわからない兵器についても聞いた。

超かハカセかは知らんが、なんでそんな機能を付けたんだ?

・・・ああ、アレか。武装解除の代わりか。

 

 

まぁ、正直、あの女が死のうがどうしようがどうでも良いが・・・同じ女として、尊厳ぐらいは守ってやりたくなったんだろう。

しかし、なんであのロボはアリアの言うことを聞いているんだ?

 

 

その時、水中から黒い触手のような物が幾本も飛び出してきた。

どうやら、それなりに操影術に覚えがあったようで、水中でも作れたらしい。

 

 

それが、田中の両腕を身体と繋いでいたケーブルを切ってしまう。

これで、ロケットパンチは撃てないな。

というか、一般人に見せて言い訳できるのか、コレ。

 

 

「・・・出てくるぞ」

 

 

バカ鬼の声に頷いた瞬間、ざばぁっ、と音を立てて、高音が水中から姿を現した。

がしぃっ、と手すりを掴み、身体を引き上げてくる。

そのまま、手すりの上に立って。

 

 

「もう怒りましたわ! 今から私の真の力を見せて差し上げます! このでくのぼ『・・・10!』う・・・って、へ?」

 

 

手すりの上に立ったまま、高音が呆けたような表情を浮かべた。

一方で、朝倉がカウントを終了していた。

手すりの上で口上など言わず、すぐにリングに戻っていれば、間に合ったろうがな。

 

 

『試合終了――――っ! 勝者、田中選手!』

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

『何スか高音先輩、カウントはちゃんと数えてましたよ? 水に落ちてから10秒間」

「なぁっ・・・!」

『うん・・・? おおっと、両腕を破損した田中選手、工学部の生徒からドクターストップ。次の試合への出場を棄権。これは波乱の展開だ――――っ!』

 

 

・・・どうやら、どちらも一回戦で終わるらしい。

なんとも、締まりの無い結果だな。

高音は、しばらくその場でワナワナと身体を震わせた後、ガクリと項垂れていた。

まぁ、実力はそれなりにあったようだが、性格が災いしたな。

 

 

いずれにせよ、これでぼーやとタカミチのどちらかが、準決勝に進むわけか。

うん?

そのタカミチはどこに行った?

クウネルの姿も見えないようだが・・・。

 

 

「エヴァさん?」

「ん、ああ、いや・・・」

 

 

工学部の生徒に囲まれる田中を心配そうに見ていたアリアが、不意に声をかけてきた。

それに曖昧な笑みを返しながら、やはりクウネル達のことを考える。

 

 

また、何か面倒なことをしなければ良いのだが・・・。

奴らの善意は、こちらにとっては悪意であることの方が多いからな。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「まったくもー、月詠のねーちゃんは、手加減てもんを知らんのやから・・・」

「うふふ、すみませんな~」

「頼むで、ったく・・・」

 

 

月詠のねーちゃんと話しながら、お詫びやとか言うて貰うたジュースを飲む。

言いたかないけど、死ぬほど不味い。

なんやこの、「思い出の夏色ピーチ」て、意味がわからんわ・・・。

 

 

「・・・おろ?」

 

 

自販機コーナーから戻っとる途中で、月詠のねーちゃんが何か見つけた。

何やと思うて見てみると、えーと、高畑とか言うにーちゃんと、クウネルとか言うにーちゃんがおった。

明日菜とか言う、いつもネギと一緒のねーちゃんもおった。

何や知らんけど、医務室の方から出てきたみたいや。

 

 

「・・・何やろ?」

「さぁ~・・・興味ありまへんわぁ」

「月詠のねーちゃんは、相変わらずやなぁ」

 

 

まぁ、そう言う俺も、興味あらへんけどな。

何か、深刻そうな顔で話しとるみたいやけど・・・。

 

 

「あ、小太郎君だ」

 

 

いつもの口調、そしていつも通りのタイミングで、夏美ねーちゃんが登場した。

いつも思うけど、狙っとるんとちゃうか、コレ?

 

 

「良かったー、会えて」

「夏美ねーちゃん、どないかしたんか?」

「ほな、うちは先に戻っとりますよって」

「え、お、おう・・・」

 

 

すすすす・・・みたいな不思議な動きで、月詠のねーちゃんが先に行ってしもた。

後に残されたんは、俺と夏美ねーちゃんだけや。

 

 

「えっと・・・凄かったよ、一回戦。小太郎君、強いんだね」

「お・・・おう! 当然やろ、男やからな!」

 

 

まぁ、正直すぐに終わってしもたから、夏美ねーちゃんはつまらんかったかな、とか思っとったんやけど・・・。

 

 

「相手の子も、助けてあげたりして」

「まぁ、男やからな! 女は傷つけへん主義やし」

「・・・・・・」

 

 

な、なんやね、その目。

ま、また何か俺、不味いこと言うたんかな・・・。

ど、どないすればええんやろ、千草ねーちゃんはこういうの教えてくれてへんし・・・。

えーと、こういう場合は・・・。

 

 

「と、ところで、夏美ねーちゃんは、こんな所でどないしたんや?」

「え・・・あ、うん。それがね、私これから公演のリハ行かなきゃいけなくて」

「・・・試合、見れへんってことか?」

「うん・・・あ、お昼までには、戻って来れると思うんだけど」

 

 

昼か・・・確か、決勝がそれくらいだったはずや。

 

 

「・・・決勝戦には、来れるんか?」

「んー、たぶん。私出番短いし、抜けて来られると思う」

「さよか・・・」

 

 

それやったら、俺が優勝する所は、見せたれるかな。

ある意味、そのために出たような・・・いや、一番は強い奴と戦うためやけどな!

 

 

「小太郎君、アレ持ってる?」

「アレ・・・ああ、コレか」

 

 

ゴソゴソと、学生服の中のポケットから、試合前に夏美ねーちゃんから貰うた石ころを取り出した。

見たことの無い字が書いてあるんやけど、魔力とかも感じひんし、ただの石や。

お守りやて、くれたんやけど・・・。

 

 

「これの何がお守りなんか、ようわからん」

「うん、実は私も」

「なんやそれ」

 

 

言いながら、夏美ねーちゃんも自分の石を取り出した。

それを、俺の石にコツン、と合わせてくる。

・・・何や、こっぱずかしぃわ。

 

 

「何やるんか、未だによーわからんけど。夏美ねーちゃんも頑張りや」

「だから、演劇だって・・・でも、ありがと。小太郎君も、頑張れ」

「・・・おぅ」

 

 

ニコッと、笑ってくる夏美ねーちゃん。

・・・なんや、気恥ずかしゅうて、顔が見れへんかった。

なんでかは、わからんけど。

 





さよ:
相坂さよです。初めまして(ぺこり)。
今回は私です。よろしくお願いしましゅ・・・噛んじゃいました。
え、えーと、今回のお話は、一回戦の二試合ですね。
アリア先生のお友達のアーニャさんが何やら大変なことになっていました。
なんだか、人間関係が複雑です・・・。


今回登場の魔法具は、これです。
アラストール(灼眼のシャナ):haki様提供です。
苺の魔大福:霊華@アカガミ様提供です。
ありがとうございましたー(ぺこり)。


さよ:
えっと・・・次回は、ネギ先生と高畑先生の試合、あと月詠さんの試合があるかもです。
それでは、すーちゃんのご飯を作らなくちゃいけないので、これで失礼しますね。
じゃあ、ありがとうございましたっ。

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