魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第59話「麻帆良祭二日目・子供」

Side アリア

 

―――――ドゴンッ!!

 

 

「・・・む」

 

 

リングの中央から放たれたその轟音に対して、エヴァさんが声を漏らしました。

その表情からは、純粋に「驚いた」と言う色が窺えます。

そして一方で、私が感じている感情は「意外」・・・と表現した方が正しいでしょう。

まさか・・・。

 

 

まさか、タカミチさんがネギに対し、殺しかねない勢いで『豪殺・居合拳』を撃つとは。

しかも、直撃で。

 

 

『た、大砲が着弾したかのようなパンチッ・・・と、と言うか、ネギ君生きてる!?』

 

 

朝倉さんも、アナウンスを中断してしまう程、今の一撃は重かった。

音も、そして感じた気の質も。

タカミチさんは、かなり本気で撃ち込みましたね。

ネギは・・・リングの中央で、砕けた床板に埋もれています。

 

 

その光景に、会場も静まり返っています。

ちらりと、少し離れた位置にいる明日菜さんを見れば・・・。

顔面を蒼白にしてはいましたが、騒ぎもせず、ただ見ていました。

ふん・・・? もっと騒ぐ物かと思いましたが。

 

 

「ぼーやは・・・まぁ、生きているな」

「ええ、残念ながら」

 

 

まさか、殺しはしないでしょう。

そこまではされると、逆に困ります。

まぁ・・・試合開始から5分、と言う所でしょうか?

 

 

「居合拳を打つ前に、何かゴチャゴチャと話していたようだが・・・」

「『どうして超君に協力しているのか』・・・と言っていたでござるな」

「長瀬さん・・・いつの間に背後に」

「ニンニン」

 

 

長瀬さんが、いつの間にか腕を組んで立っていました。

細い目を片目だけ開いて、タカミチさんの方を見ています。

 

 

「かなり小さい声で話していたので、それ以上は聞き取れなかったでござるが・・・」

「なぜ背後に・・・?」

「背後に控えるのが、定石かと思ったでござる」

「何の定石だ、何の」

「ニンニン」

 

 

エヴァさんの言葉に、しゅたっ・・・と姿を消す長瀬さん。

 

 

「・・・また、妙なのに好かれおって・・・」

「ええ!?」

 

 

エヴァさんの言葉に、心外とばかりに驚きます。

今の、そう言うことなんですか?

そういえば、さよさんの時も似たようなパターンだったような。

・・・まさかぁ。

 

 

しかし、それはともかく、超さん関連の話のようですが・・・。

協力と言うのは、ネギが超さんの計画に協力している、と言う理解で良いのでしょうか?

仮にそうだとして、なぜタカミチさんがそれを知っているのか。

 

 

思い当たる節があるとすれば、青い顔で座っている明日菜さんですが。

さて、私の知らない内に何が進展しているのでしょうね・・・?

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「ちょ、ちょ、高畑先生! ここまですることないじゃん!」

「ああ・・・」

 

 

朝倉君の言葉に曖昧に答えながら、僕はタンカで運ばれていくネギ君を見ていた。

意識があるのかはわからない。

けれど、骨の何本かは確実に折れているはずだ。それくらいの威力で撃った。

 

 

本当なら、ナギの息子と手合わせできることを喜び、楽しみたかった。

アルの下で修業しているというネギ君の力を、知りたかった。

 

 

「・・・すまない」

 

 

医務室の方向へ消えていくネギ君に、ポツリと謝った。

それは、何に対しての謝罪なのだろうか。

自分でも、わからなかった。

ただ、彼を救うには、こうする他無かった。

 

 

超君に協力し、世界に魔法をバラす、などと言うことに協力しようとしている彼を救うには。

計画が発動する前に、ここでリタイアさせるしか、無かった。

僕には、他に妙案が浮かばなかった。

明日菜君は大会の後で話すつもりだったと言っていたが、大会の後で話すのでは、おそらく遅い。

 

 

選手席の方の明日菜君を見る。

青い顔で、僕の顔を見ていた。彼女には、辛い役目を押し付けてしまった。

アルに言われてか、あるいは自分で考えてのことかはわからないけど・・・。

僕に相談するのに、どれだけ苦悩しただろうか?

そして今も、どれだけの罪悪感に苛まれているだろうか?

 

 

「・・・ふぅ」

 

 

思わず、息を漏らした。

ネギ君は言った。

超君の計画なら、今も苦しんでいる人達を救うことができると。

父さんでも・・・ナギでも、きっとそうしただろうと。

 

 

・・・まぁ、正直、ナギがどうしたのかは僕にもわからない。

細かいことを考えるような人じゃ無かったしね。

ただ、超君の理屈はわかった。なるほど、彼女は一面においては正しいのかもしれない。

だが・・・。

 

 

「朝倉君」

「な、なんですか?」

 

 

だが、今僕がやるべきことはわかった。

 

 

「超君は今、どこにいるのかな?」

 

 

僕が殴られるのは、それからで良い。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「ね、ネギせん、せ~・・・」

「の、のどかっ!? しっかりするです!」

「うぉ!? リアル失神!?」

 

 

ネギ先生がタンカで運ばれていた時、限界が来たのか、のどかさんが倒れた。

まぁ、想い人のあんな姿を見れば、卒倒の一つもしますよね・・・。

 

 

「さ、さよちゃん、ごめん! 私達のどかを医務室に連れてくわ!」

「あ、はい。わかりました」

「ついでにネギ君の様子も見に行けるし、一石二鳥?」

「そんなことを言ってる場合ですか!?」

「はいはい、あんたはのどかのことになると、いつも真剣ね~」

 

 

逆に、こんな時でも平静でいられるハルナさんの方がすごいと思うんだけど。

と言うか、慌てふためくハルナさんのイメージがあんまり無いです・・・。

 

 

のどかさんは綾瀬さんとハルナさんに両側から支えられながら、医務室の方へ歩いて行きました。

まぁ、一応お大事にと、思っておきます。

私は、エヴァさんとすーちゃんの試合が近いから行けないけど。

ただ・・・。

 

 

「・・・ネギが負けてもーた・・・」

 

 

隣で、小太郎さんが凄く落ち込んでた。

なんでここにいるかと言うと、お客さんが一杯で選手席に辿り着けなかったみたい。

ちなみに月詠さんは、次が試合だから控室に行ったって。

 

 

「マァマァ、イージャネーカベツニ」

「そうじゃそうじゃ。あの小僧は一回で負けたが、主は一回勝ったのじゃろ? じゃあ主の勝ちも同然じゃろ」

 

 

チャチャゼロさんと晴明さんが、私の頭の上と腕の中から小太郎さんを慰めてた。

確かに、小太郎さんは一回戦を突破して、ネギ先生はできなかったけど。

 

 

・・・これ、私が腹話術で子供を慰めてるみたいに見えるのかなぁ・・・。

私も、今日は結構大変なんだけど・・・。

 

 

 

 

 

Side 超

 

「あらら・・・」

 

 

ハカセが、「どうしましょうかコレ」みたいな表情を浮かべていたネ。

大丈夫、私も同じ気持ちヨ。

まさか、ここでネギ坊主が負けてしまうとは思わなかったネ。

 

 

カシオペアは使っていたようだが・・・指輪は使う間も無かったようネ。

・・・まぁ、それは良いが、あの会話はいただけないネ。

ネギ坊主も律儀に受け答えしなくて良いのに・・・。

 

 

「どの程度の情報が漏れたかネ・・・」

「偵察機によると、ネギ先生は超さんの名前だけ出してましたけど」

「問題は、他に誰か漏らした人間がいるかどうかネ。明日菜サンか、綾瀬サンか・・・」

 

 

それによって、こちらの人員がどの程度バレたかどうかがわかるネ。

計画の詳しい部分については、何一つ教えていないから良いとして・・・。

・・・こういう時は、最悪の場合を想定して動いた方が良いネ。

 

 

と言うか、小声とは言え、リングの真ん中で計画についてベラベラ話すのはどうかと思うヨ、ネギ坊主。

 

 

「・・・仕方が無いネ。ハカセは最低限のデータを持ってここを出るネ」

「わかりました」

「龍宮サン、ハカセの護衛を頼むネ」

「了解した・・・が、高畑先生の相手はしなくて良いのか?」

「構わないヨ」

 

 

古との戦いの後、龍宮サンにここで待機して貰っておいて正解だったネ。

けど、申し出はありがたいガ、対高畑先生で龍宮サンの助力は必要無いネ。

 

 

どのみち、いつかはぶつかる相手ネ。

それが少々、早まっただけヨ。

それに・・・高畑先生は、私をご指名みたいだからネ。

一応、「ヴァラノワール」の一員としては、指名には応える義務があるからネ。

ただし、料金は3倍払ってもらうヨ、高畑先生?

 

 

「私一人で、十分ネ」

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「大丈夫、タカミチ君なら、上手く話をまとめてくれますよ」

 

 

クウネルさんは、そう言ってたけど・・・。

でもやっぱり、告げ口みたいで良い気はしなかった。

確かに、高畑先生にはどこかで相談しようと思ってたけど・・・。

 

 

でも、ネギがあんな風にされるなんて思わなかった。

本当なら、すぐに駆け寄りたかった。

けど、クウネルさんに止められた。

私には何もできないって、言われたような気がした。

 

 

高畑先生には・・・全部話した。

ネギが、超さんの手伝いをしてるってこと。

時間も無かったし、私も全員は知らないから、誰が超さんの仲間かは後で話すことになったけど・・・。

・・・と言うか、超さんがどこで何をするまでかは、私も知らないし・・・。

 

 

改めて、思う。

私って、何も知らないんだ。

 

 

『さぁ・・・ハプニング続きではありますが、次の試合は・・・』

 

 

でも、証明してみせる。

私だって、何かの力になれるんだってことを・・・って。

 

 

『今大会の華、神楽坂明日菜選手と天崎月詠選手です! 可愛らしいメイド衣装で登場―――っ!』

「ちょっ、コラ、朝倉ぁっ! 何よこの服!」

『いや、着た後で言われても困るって言うか・・・』

 

 

ぐ・・・確かに、ぼーっとしてて何に着替えてるんだか、わからなかったけど。

でも、クウネルさんに「ぼーっとしてればイケる」って言われたから・・・。

 

 

「いやぁ~・・・照れます~」

「あんたは京都でも似たようなカッコしてたでしょ!?」

「ゴスロリとメイドは別物ですえ~」

 

 

意味のわからない返し方をされた。

何よこいつ・・・京都でも昨日の予選でも怖かったけど・・・。

今は、なんだかほんわかしてるって言うか・・・って。

 

 

「それに、何よそのデッキブラシ! ふざけてんの!?」

「センパイに聞いたら、くれはりました。と言うか、ハリセンの人に言われたくないどす」

 

 

ぐ・・・確かに、ハリセンだけど!

私のはアーティファクトで、ただのデッキブラシのあんたとは違うのよ!

 

 

『はいはい、じゃあ・・・両者の準備ができた所で』

 

 

・・・とにかく、証明してみせる。

私だって・・・!

私だって、あいつのために、何かできるってことを!

 

 

『第7試合、Fight!』

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「・・・なってませんね」

「そうですねぇ。実になっていない」

 

 

月詠はんの試合が始まった直後、茶々丸はんとクルト議員が、同じことを言うてしきりに頷いとった。

何や、うちは月詠はんが暴走せぇへんように見とかなあかんのやけど。

 

 

「「ミニスカにすれば良いって物では(ないでしょう)(ありません)」」

「そこかいっ!」

 

 

何を言うかと思えば、そんなことかい。

いや、確かに丈短いし? 動くたびにチラチラ見え・・・そこ、ガン見しとるんやない!

呪うで、こらぁ!

 

 

「それにしても・・・」

 

 

あの神楽坂とか言う子も、結構やるなぁ。

あの月詠はんと、それなりに打ち合うとる。

月詠はんは、神鳴流の奥義とかを使ってないとは言え・・・。

 

 

「・・・咸卦法」

「は?」

「いえいえ、何でもありませんよ」

 

 

何でも無い言うてるけど、うちの耳には確かに聞こえとった。

咸卦法と。

確か・・・なんやったか。

高畑はんの試合の時にも、何か同じ単語を聞いた気がするな。

 

 

あの・・・気の中に、魔力が混ぜ合わさったような奴が、咸卦法とか言う物か。

どういうわけか、あの子のは、えらい不安定で出力が安定してへんけどな。

確かに多少、力と速さは上がるみたいやけど・・・月詠はんが興味抱く程や無いやろ。

 

 

「これくらいやったら、大丈夫かな・・・」

 

 

正直、暴走するんやないかって不安でしゃーなかったんやけど。

どうやら、安心してもええらしい。

 

 

今の所、は・・・?

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

月詠のねーちゃん、退屈そうやな~。

相手のねーちゃんも、そこそこ頑張ってはおるんやけどな。

相手が悪かったとしか言えへんな。

 

 

「月詠さんって、やっぱり強いんですね」

「そりゃあな。神鳴流やったか? 流派の技は大体使える言うとったし」

 

 

チャチャゼロはんと良く、「キャハハ」とか言いながら斬り合うとるし。

最近は、刹那のねーちゃんにも絡んどるし。

その意味では、結構楽しい生活送っとるんちゃうかな。

 

 

俺も、スクナとか言うにーちゃんと良く喧嘩しとるし。

・・・全然、勝てへんけどな。

負ける度に畑仕事させられるのはなんでやろな・・・たまに変な化物でよるし。

 

 

「月詠のねーちゃんは、何と言うかな・・・読めへんねんな。太刀筋がな」

「アア、ソリャワカルキガスルナ」

「どういうこと?」

「なんと言ったらええかな・・・月詠のねーちゃんは、殺気と言うか、邪気の塊みたいな人でな?」

 

 

こう・・・喧嘩しとると、「決める!」って感じの一撃には、気がこもるって言うか、殺気とか覇気がこもるもんなんやけど。

月詠のねーちゃんは、全身が凶器(てか、狂気)やから、いつが「決める!」の攻撃なのかわからん。

と言うか、最初から最後まで「斬る!」って感じの人やから・・・。

 

 

う~ん・・・さよのねーちゃんにもわかるように言うんは、難しいなぁ。

でも、千草のねーちゃんは「人に説明できんことは自分もわかってへんねや」って言うとったし。

喧嘩とか戦いのことが説明できんかったら、俺何にも説明できひんから・・・。

 

 

「えーと、何と言ったらええかな・・・」

 

 

・・・!

 

 

今、何か・・・。

こう、ザワザワ来るような感じが。

 

 

「あ・・・」

 

 

さよのねーちゃんの声に、視線をリングの方に動かすと。

月詠のねーちゃんが・・・。

 

 

解説者席の方から、誰かが飛び出すのが見えた。

やっば・・・!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・神楽坂明日菜は、咸卦法が使えるのか」

「ええ、そうです・・・言ってませんでしたっけ?」

「ああ、聞いていないな」

「じゃあ、今言ったから大丈夫ですよね?」

「お前な・・・まぁ、別に良いが」

 

 

まぁ、明日菜さんの咸卦法は、マスターであるネギがこの場にいないためか、あるいは修行不足なのか、もしくはその両方か、ひどく不安定で弱い物ですが。

あれでは、常人よりも少し強くなる程度の力しか得られないでしょう。

 

 

「かんかほーってのは、あの、モニャモニャした変な奴か?」

「スクナさんがどんな理解でアレを見ているかはわかりませんが、たぶんそれです」

「それにしても、なぜ神楽坂明日菜が、高等技法である咸卦法が使えるんだ?」

「さぁ・・・私も、詳しいことまでは。才能じゃないんですか?」

「お教えしましょうか?」

 

 

エヴァさんと話していると、無粋にも割り込んできた人がいました。

クウネル・サンダース・・・もとい、アルビレオ・イマ。

 

 

「どうぞ、クウネルのままでお願いします」

「わかりました、アルビレオ・イマさん」

「ふん・・・良いだろう、アル」

「なんだかわかんないけど、わかったんだぞ。変なローブのアルビレオ」

 

 

殺されたって、クウネルとは呼んであげません。

修理中の田中さんにも、そう教え込んでおきましょう。

 

 

「・・・・・・」

「落ち込むな気持ちの悪い。それで、何を教えてくれるって?」

 

 

なぜかいじけたアルビレオさんに、エヴァさんが鬱陶しそうに声をかけます。

まぁ、大体想像はつきますが・・・。

 

 

「・・・明日菜さんについての情ほ「いらん」・・・ほう、ではナギの情ほ「いらん」・・・」

「それで終わりか?」

「・・・理由を聞いても?」

「は・・・」

 

 

アルビレオさんの提供する情報の全てを拒絶したエヴァさんは、唇を笑みの形に歪めると、指を二本立てて見せました。

愉快そうな顔で、一瞬だけ私を見ます。

 

 

「第一に、私はあの神楽坂明日菜に欠片も興味が無い。咸卦法を使えるのは確かに意外だったが、それだけだ」

「なるほど」

「そして第二に、貴様は「ナギが生きている」以上の情報を持っていない。故に交渉の意味が無い」

「・・・・・・」

 

 

そこで、アルビレオさんの表情が初めて変わりました。

なぜ知っているのか・・・そう言いたげな表情。

 

 

お父様が「生きている」ことしか知らない・・・あるいは。

それ以上の情報をここで開示するつもりが無い。

それは、私の『知識』の中にあるもので、エヴァさんにはすでに話しています。

・・・お父様についての情報は、優先的に話してありますから。

 

 

エヴァさんは不死者・・・。

気長に探すと言っていました。

まぁ、なるべく早く見つかると良いですね。

 

 

――――――ぞわり――――――

 

 

わぁっ・・・と、観客が声を上げました。

そして、いつか感じたことのある冷たい感触が、背中を駆け抜けたような気がしました。

何・・・?

 

 

「・・・いけません!」

 

 

アルビレオさんの声に、視線をリングに戻せば。

そこには、巨大な剣を抱えた明日菜さんが、月詠さんに斬りかかろうとする姿。

 

 

月詠さんは右手で顔を覆っていて、かわす様子すら見えません。

でも・・・。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

身体が軽い。力が湧いてくる。

なんで私がこんなに動けるのかは、わからないけど・・・。

と言うかコレ、いつものネギの魔力とちょっと違うような・・・?

 

 

一足飛びに突っ込んで、デッキブラシを弾く。

身体を沈めて、懐に入る。

けどその時にはもう、相手はそこにいなくて・・・距離を取られる。

それについて行く・・・ついて、行ける!

・・・んだけど。

 

 

「・・・あの、クウネルさん」

『はい? なんでしょうか』

「助言とか、いらないんで・・・えっと、やめてくれま・・・ひゃ!?」

 

 

デッキブラシの突きを、上体を逸らして何とかかわした。

あ、危ない・・・。

 

 

『ふむ・・・しかし、貴女はこの試合で自分の力を証明したいのでしょう? ネギ君がもっと、自分を頼ってくれるように』

「だからこそ・・・だからこそ、一人でやらなきゃ、意味が無い気がするんです」

 

 

今回のことだって、私がもっとしっかりしてれば、こんなことにはならなかったはず。

もっと、私が・・・。

 

 

『しかし、それでは勝てない』

 

 

そうかもしれない。

と言うか今でも、押せてはいるけど攻撃は当たらない。

あの子・・・月詠に、反撃する気が無いだけ。

 

 

『それでは・・・ネギ君はずっと、あのままですよ?』

 

 

一瞬、選手席の方を見た。

クウネルさんは、アリア先生達と何か話してた。

 

 

『そうなれば・・・あの子もまた、貴女の前から消えることになる』

 

 

何を・・・。

 

 

『・・・彼のようにね』

 

 

彼?

誰?

だ・・・。

 

 

 

 

 

Side 月詠

 

カラー・・・ン。

 

 

暇やなーとか思って、適当に逃げ回っとったら、なんや・・・。

でっかい剣で、普通に斬られた。

センパイに貰うたデッキブラシ、真っ二つになってもうた。

ま・・・うちには長過ぎて使いずらかったから、ええけど。

・・・この大会って、刃物禁止やったよなー?

 

 

「およよ?」

 

 

カグラザカアスナ・・・長いからアスナでええか。

なんや、でっかい剣を片手で扱うとる。すごいなー。

結構な量の気ぃか何かも出て・・・・・・。

 

 

・・・・・・・・・?

 

 

ツツ――・・・と、顔に生温かい物が流れるのを感じた。

何や・・・随分と、久しぶりな感しょ・・・。

 

 

舌で、舐めとった。

この、味。

 

 

視界が、反転する。

 

 

「・・・ちのあじ」

 

 

・・・うふ。

うふふふふふふ・・・。

うぅふふふふ、うふふふふふふふ、うふ?

 

 

『ちょ、明日菜っ・・・それヤバ―――――――』

 

 

うふ?

何や何や何や・・・。

せっかちなお人やなぁ・・・そんな、うふ、うふふふ。

 

 

そんなおっきな剣、振り下ろしてくれはるなんて・・・♡

わかっとる。うふ。わかっとるよって。

その剣で、殺して欲しいんやろ?

 

 

斬って欲しいやろ?

刻んで欲しいんやろ?

突いて欲しいんやろ?

犯して欲しいんやろ?

身体の隅から隅まで、弄繰り回して欲しいんやろ?

貴女の全てを、うちの好きにしてええて言うとるんやろ?

 

 

せやから、その剣をうちに、渡すために振り下ろしてくれはりよるんやろ?

そうやないと、その剣速の遅さは説明できまへんもんなぁ♡

ああ、でもどうやろなぁ・・・。

 

 

最近うち、ご無沙汰やから、上手くできるか、わからへんわぁ。

ほら、今も何か、身体が動かへ・・・。

 

 

 

「・・・おろろ?」

 

 

 

何や、あったかい物を感じて、視界が戻った。

いつもの視界で目をパチクリとさせると・・・。

 

 

まず、うちはアスナはんを押し倒しとった。

右足の膝で胸を抑えて、それで腕を絡めて、アスナはんに獲物を握らせたまま、逆にその刃をアスナはんの首にかけようかと言う所やった。

あと、ほんの少し力を込めれば・・・首の肉を裂く感触を楽しめる所やった。

アスナはんの引き攣った顔が、せめてもの楽しみかな・・・。

 

 

あと少しで・・・イけそうやった。

なんでイけへんかったのかと、訝しんでみると・・・。

 

 

いつの間におったんか。

小太郎はんが、腕にしがみついとった。

後ろからうちに抱きついとるんは・・・この匂い、千草はんかな。

後は・・・よう見たら、アスナはんの剣に糸がグルグル巻かれとって、これ以上動かんように固定されとった。

はぁ・・・皆してうちの邪魔して。

 

 

・・・また、お預けどすか。

しんどぉ・・・ぃ・・・。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

もう少し、暴れられるかと思うとった。

そうでなくとも、最近は何も斬ってへんかったから。

こういう言い方するんは嫌やけど、溜まっとるはずやから。

 

 

「・・・千草ねーちゃん。月詠のねーちゃん、寝とるで」

「何やね、それは・・・」

 

 

見てみたら確かに、月詠はんは、くーくーと寝息を立てとった。

あんまりにも呑気な顔して寝とるもんやから、そのまま相手の子から身体を引き離して、膝に頭を乗せたった。

そのうち、タンカとか来るやろ。

 

 

ああ、それにしてもヤバかったわ。

今の立場で人斬りとかさせたら、シャレにならんことになる所やった。

いや、そんなんは言い訳やな。

うちはただ・・・。

 

 

「よう間に合うてくれたな、小太郎。正直、うち一人やったらどうにもならんかった」

「月詠のねーちゃんがヤバなったら全部放って止めに来い言うたんは、千草ねーちゃんやろ?」

「・・・そうやな、そうやったわ」

 

 

片手伸ばして、小太郎の頭をクシャクシャと撫でる。

実際、小太郎が来んかったら、あと一歩が届かんかったと思う。

うちのやのうて、他の一歩が。

 

 

『な、なんだか良くわかりませんが・・・神楽坂選手の手にあるのは刃物! つまり失格・・・そして、天崎月詠選手の勝利――――っ!』

 

 

実況の子が何か言うとるけど・・・。

棄権や棄権。月詠はん寝とるし。

武道会なんか知らん。

少しはストレス解消になるかと思って、参加を認めたんやけど・・・逆効果やったかな。

 

 

「あ、あの・・・」

 

 

神楽坂明日菜・・・神楽坂はんが、おそるおそると言った感じで、うちらに話しかけてきた。

なんとも弱り切った顔をしてからに・・・。

 

 

「ご、ごめんなさい、私・・・!」

「ああ、ええよええよ。謝らんといて、鬱陶しい」

 

 

タンカを待つのも億劫になってきたな。

とりあえず、月詠はんを背負って・・・あ、でも医務室には行きたぁないな。

どっか他に、寝かせられる場所無いかな。

・・・ああ、解説者席に居座っとる黒服を三人ばかりどかせば場所作れるな。

 

 

それで行こか。

 

 

「小太郎、ひとっ走り、毛布か何か持ってきてくれるか?」

「俺、次の次の試合なんやけど・・・」

「・・・小太郎?」

「あーい・・・」

 

 

神楽坂はんが、なんとも所在なさそうに立ち尽くしとるけど。

そっちは、どうでもええわな。

うちは別に、あの子を助けるために月詠はんを止めたわけやない。

 

 

うちはただ、月詠はんに人を斬ってほしくなかっただけや。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「流石は高畑先生・・・と、言った所カナ?」

 

 

超君は、謎が多い生徒だ。

2年前に現れた以前の情報が無く、魔法使いのことを始めから知っていたかのような行動をとる。

 

 

「強化服無しとは言え・・・私をここまで追い詰めるとはネ」

「どこのラスボスだい、キミは・・・」

「あながち、間違った表現ではないネ」

 

 

おかしそうに笑う超君。

そんな彼女の周囲は、僕の居合拳で破壊されたコンピュータの残骸が散乱している。

すでに接触して5分、未だ有効打を与える所までは行っていない。

 

 

「・・・超君、キミの目的はなんだ?」

「うん? これはまた、つまらないことを聞くネ・・・」

 

 

本当につまらなそうな顔で、超君は言った。

どうしてだろう、その一連の仕草が、誰かに似ている気がした。

 

 

「私の目的は、先ほどネギ坊主が言った通りネ」

 

 

瞬間、ブゥン・・・と、部屋中に映像が映し出された。

そこには、僕とネギ君の試合・・・と言うか、会話が。

 

 

『・・・タカミチ。確かに、超さんの計画の全てが正しいかどうか、僕にもわからないよ、けど!』

『ネギ君・・・』

『けど、それでも、ありふれた悲劇に苦しむ人を何割か救うことができるなら・・・僕は、迷わずにそれを選ぶよ。だってそれが・・・マギステル・マギの仕事でしょう?』

 

 

それは違う、ネギ君。

それはとても、危険な考え方だ・・・僕達は、万能じゃない。

世界はそんなにも、簡単にはできていない。

何割かを救えたとしても・・・次の瞬間には、別の何割かが、飢餓と貧困に喘いでいる。

 

 

それが、世界だ。

 

 

『なら、どうすれば良いの? その人達を見捨てるの? タカミチは・・・父さんの仲間なのに』

『ネギ君、それは』

『そんな・・・そんなの、父さんなら、父さんならきっと』

 

 

超君はそこで、感慨深そうに頷いた。

 

 

「父さんならきっと、全てを諦めない・・・良い言葉だネ。良い言葉は決して無くならないヨ」

「・・・そんな大それたことじゃない、ただ、彼は、ネギ君は・・・」

「ネギ坊主は?」

「ネギ君は・・・・・・子供だっただけだ」

 

 

あの後、二言三言話した後、ネギ君は泣き喚きながら僕に向かってきた。

何を話したのか、はっきりとはもう、思い出せない。

ただ、愕然とした。

 

 

その姿は、まるでただの子供で・・・いや。

ネギ君が、10歳の子供だと言う当たり前のことを、今さら思い出したのだから。

いや・・・初めて、気付いたと言っても良い。

 

 

「超君・・・キミの目的はなんだ?」

「・・・だから、魔法を世界に公表するのヨ」

「それだけでは、無いはずだ」

 

 

そう、それだけなら・・・酷な話だけど、ネギ君は必要なかった。

いや・・・誰かと組む必要も無かったはずだ。

僕達魔法使いに度々絡んで、警戒させることも無かったはずだ。

 

 

「キミは・・・いったい、何者だ?」

 

 

僕の言葉に、超君はただ、唇の両端を笑みの形に歪めて・・・。

笑った。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

しゅるしゅる・・・と、『ラッツェルの糸』を回収します。

いや、今一歩反応が遅ければ、明日菜さんの首がスッパリ行ってましたね。

・・・明日菜さんが明日菜さんのアーティファクトで斬れるのかはわかりませんが。

 

 

「・・・お節介だな、お前も」

「面倒事は御免です・・・とはいえ、間に合わなければそれまでとも思いましたし」

 

 

『ラッツェルの糸』の糸が、明日菜さんの無効化能力で消える可能性もありましたし。

結果としては、糸自体は普通の糸ですし、明日菜さんに知覚されない範囲でなら無効化されないのかもしれません。

 

 

それはさておき、結局の所、明日菜さんは負け、月詠さんは棄権の方向でまとまるようです。

タカミチさんの姿も見えませんし、これはひょっとして、エヴァさんとスクナさんの試合が事実上の準決勝になるのではないでしょうか。

・・・あ。

 

 

そういえば、次はエヴァさんとスクナさんの試合ですか。

あー・・・どっちを応援した物ですか。

まぁ、ここは無難に「どっちも頑張って」とか言ってお茶を濁しておきますか・・・。

 

 

「ど・・・」

 

 

ところが、最初の一歩で躓きました。

なぜなら、場の雰囲気が「どっちも応援」とか言うレベルの物では無かったからです。

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・ふ」

 

 

どう言うわけか、立ち上がったスクナさんが、上からエヴァさんを見下ろしていました。

眼光は鋭く、金色に染まっていました。

さっきまで両手でマンガ肉をパクついてたくせに、やたらとカッコ良い雰囲気。

エヴァさんはエヴァさんで、足を組み、悠然とその視線を受け止めています。

・・・え、この人達、こんな雰囲気出せたんだ・・・。

 

 

「・・・先に行くぞ」

「ああ・・・」

 

 

そのまま、スクナさんはリングの方へ向かいました。

な、なんであんなにやる気に満ちているのでしょうか?

 

 

「・・・何か、こう、スクナさんから覇気的な物が見え隠れするのですが」

「ん・・・まぁ、何。大した理由じゃないさ」

 

 

何でも無いことのように、エヴァさんは言いました。

 

 

「私に勝ったら、さよをやると言っただけだ」

「ああ、なるほど・・・それはやる気、出ますよね」

 

 

まぁ、すでに熟年夫婦な雰囲気出してますけどね、あの2人。

今さらと言えば、今さら・・・って、えええええええええぇぇぇっっ!!??」

 

 

「やかましいぞ。大声を出すな」

「え、な・・・なんでそんなことになってるんですか!?」

「何でも何も・・・そうでもなければ、あいつが普通の人間も参加する大会に出るわけ無いだろ」

「いや、でも・・・え、さ、さよさん本人の意思は!?」

「もちろん、伝えてある。当人もそれで良いそうだ」

 

 

き、聞いてない・・・!

この展開、聞いてませんよ・・・!

 

 

「まぁ、何・・・安心しろ、悪ふざけで言ったわけではない」

 

 

ぽむっ・・・と、私の頭に手をおいた後、立ち上がるエヴァさん。

その身体からは・・・やる気満々な魔力の奔流が。

魔眼で見ている私には、エヴァさんの小さな身体に凝縮された力が、生で視えています。

殺気と書いて「やるき」と読む感じの。

 

 

「殺してくる」

 

 

そのまま、トコトコと歩いて行ってしまうエヴァさん。

・・・これは。

 

 

これは、私、どうすれば良いのでしょうね、シンシア姉様・・・!

家族間の修羅場とか、勘弁してほしいんですけど。

 

 

アリアは、こんな修羅場に遭遇したことが、ありませんよ・・・!

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「かふっ・・・!」

「いいんちょがショック死した―――――っ!?」

「だから、見せない方が良いって言ったじゃん――――っ!」

 

 

・・・?

なんだか、隅の方が騒がしいな。

何か、パソコンの前で騒いでいたようだが。

 

 

「せっちゃん、せっちゃん」

「は・・・」

「はい、あ~ん♡」

「・・・!」

 

 

電流が走ったかのような衝撃が、身体を駆け抜けた。

 

 

素子様の『紅蓮拳』を喰らった時も、これほどでは無かった。

私の目の前には、和風なデザインのメイド衣装に身を包んだこのちゃんが、私に「いちごのクラフティ」を一掬い乗せたスプーンを差し出している。

 

 

「あ~ん♡」

「あ、あ、あ、あ、あ~・・・んぐっ」

 

 

むぐっ・・・と、口の中に入ってくる甘み。

しかし、具体的な味が何ひとつわからなかった。

 

 

ムグムグと飲み込んでいると、このちゃんが私を見て、ニコッと笑いかけてくれた。

喉に詰まるかと思った。

 

 

ああ・・・何と言う無邪気な笑顔か。

この笑顔のためにならば、私は・・・。

 

 

「じゃ、次はコレ・・・「クリスタルいちごムース」や♪」

「は、はぁ・・・」

「はい、あ~ん♡」

「・・・!」

 

 

さっきから、この繰り返しだ。

どこぞの馬の骨がこのちゃんと食事をするなど看過できようはずもないので、フルタイムで指名したわけだが。

いつの間にか、このちゃんに餌付けされている気分になってきた。

 

 

しかし、どうでも良いことかもしれないが・・・。

壁に貼られているメニューを見る。

 

 

・・・「いちごのチョコレートフォンデュ」「豆乳のブラマンジェいちごソース」「いちごのブッセ」「いちごのヨーグルトムース」「いちごのミルフィーユ」・・・。

 

 

・・・苺、多くないか?

 





エヴァ:
エヴァンジェリンだ。今日は私がやる。有難く思え。
今回の話の特徴は、ぼーやとタカミチの試合をごっそり抜いたことだな。
というか、描写が無い。何を考えているのだかな。
続いて月詠だが、最近は比較的おとなしい。
チャチャゼロと何かしているらしいが、良くは知らん。
あとは、超の奴がいけすかないことをしているようだが、あいつは私がやる。
3-Aのメニューが苺尽くしになっているのは、まぁ、仕様だ。


エヴァ:
次回は、バカ鬼に仕置きをしてやらねばならん。
アリアはもちろんだが、茶々丸もさよも私のモノだ。
ただ「欲しい」と言われてのうのうと渡すつもりはない。
後のことは知らん。面倒な。
では、また会うとしよう。

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