魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第60話「麻帆良祭二日目・嫁取り?」

Side 千雨

 

「・・・あ? なんだって?」

『でーすーかーらー!』

 

 

画面の中でドタバタしながら、電子精霊「ミク」とやらが騒いでいた。

どうでも良いが、なんで葱を振り回しているんだ?

 

 

『仕様です!』

「そうかよ・・・それで、なんだってんだ?」

 

 

私は今、適当なカフェでお茶しながら、HPのニュース欄の更新をしていた。

だから画面の隅でピーピー言われると、結構ウザい。

真面目なことを書いてる時とかは、特に。

 

 

『ここにいると、危ないんですよ!』

「だから、なんでだよ」

 

 

昨日の夜から、こいつらは「危ない」とか「逃げろ」とか行って、私を麻帆良の外に押し出そうとしやがる。

私だって別に、学園祭でやりたいことがあるわけじゃねーが・・・。

だからと言って、用も無く外に出るほどじゃない。

と言って、理由を聞いても。

 

 

『禁則事項です!』

「意味がわからん・・・」

『一般人のまいますたーは、知らなくて良いことです!』

 

 

この調子だし・・・。

まぁ、とにかく、ここにいるとヤベーことが起こるらしいが。

というか、一般人って何だ。確かに私は一般人だが。

 

 

異常な連中揃いのこの学校において、かなりのレベルで一般人だと自負しているつもりだ。

 

 

『あ、あ、ちょ、何を調べようとしてるんですか~』

「てめーらが教えねーから、自分で調べんだよ」

『き、禁則事項が~』

 

 

まぁ、とりあえず画像と掲示板でも巡り見てみるかな。

大体は、どうでも良いことばっかだろうけどな。

 

 

『そ、そんな所見ちゃダメです。まいますたーにはまだ早いです~』

「誤解を招くようなこと言うんじゃねーよ」

 

 

パソコンを切ればこいつらは消えるが、だがパソコンがねーと私は何もできねーし。

・・・なんだこの二者択一。

さて、こいつらは私に何を隠そうとしてるのかな・・・。

 

 

どうせ、くだらねーことなんだろうけどな。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

場の雰囲気が、もの凄いことになっています。

いや・・・なっているのは、リングの中央だけですね。

エヴァさんとスクナさんの間だけ。

 

 

というか、睨みあってる2人の間の魔力のせめぎ合いが尋常では無いのですが。

 

 

「わ、私、6億円の賞金首と聞いていたので、もっと怖い人かと・・・」

 

 

佐倉さんが、高音さんを相手に何か言っています。

と言うか観客の皆さんも、一見10歳なエヴァさんに対して、温かな声援を送っていますが・・・。

 

 

こ・わ・い・で・す・よ!

これだから「視えない」人達は。

今、エヴァさんがどれだけ本気か、そしてスクナさんがどれだけマジか。

右眼の魔眼を通してそれが視える私は、もう、怖くて仕方がありませんよ。

 

 

・・・全力で防御態勢を整えた方が良いのかもしれません。

 

 

『それでは、第8試合、Fight!』

 

 

 

次の瞬間、エヴァさんの身体が吹き飛んでいました。

 

 

 

「・・・拙者には、まるで見えなかったでござる!」

「いつの間に背後に・・・いえ、しかし私にも視えなかった」

 

 

私の魔眼でも捉え切れないほどの速度で、スクナさんの右掌底がエヴァさんの横っ面に叩きつけられました。

私はおろか、エヴァさんですらその「入り」に気付けない程の速度と精度の瞬動。

あまりにも静かなそれは、もはや「縮地」と呼んだ方が良さそうなレベルです。

 

 

「ぬぅ・・・!」

 

 

空中で二回転ほどして体勢を整えたエヴァさんは、片手を地面について勢いを殺すと、その場に着地。

しかし、その地点にはすでにスクナさんが移動しています。

やはり、私にその速度は追い切れない。

 

 

「・・・うらっ!」

「ふんっ・・・!」

 

 

今度は、エヴァさんも反応しました。

背後に現れたスクナさんの顔面を右手で払いますが・・・すでに放たれていたスクナさんの右膝が、その小さな身体を空中に打ち上げます。

今のスクナさんは15歳スタイルなので・・・重みの点では、スクナさんに分がありますね。

 

 

「ちぃっ・・・調子に」

「・・・りゃっ!」

「・・・乗るなっ!」

 

 

下から追撃してくるスクナさんに、エヴァさんは魔力を帯びた右手を打ち下ろす・・・と見せかけて、スクナさんの手首を掴み、身体の位置を入れ替え、一回転。

 

 

ずだんっ!

 

 

スクナさんの片腕を抑えたそのまま、エヴァさんはスクナさんの身体をうつ伏せの状態で地面に叩きつけました。

そのまま、掴んだ腕を捻り上げ・・・技を極めようとしました。

 

 

「エヴァさんは、合気柔術の達人です!」

「滑らかな動きでござったな・・・!」

 

 

一度技が極まると、外すのは並大抵ではありません。

それを知っているからでしょう、スクナさんは掴まれていない腕を限界まで逸らせると・・・。

 

 

リングの床板を、叩き割りました!

 

 

ゴガンッ・・・と音を立てて砕けたそれは、エヴァさんの技を外し、かつ次の動きへの布石になります。

鋭い動きで、スクナさんが身体を空中へ。

空へ逃げたスクナさんを、エヴァさんはすかさず追います。

そして。

 

 

ごっ・・・がががががが、がぃんっ!

 

 

眼にも止まらぬ速さで打ち合い、次の瞬間には、2人ともリングの端に降り立ちました。

そこで一旦、2人は動きを止めました。

 

 

はあぁ・・・と、いつの間にか止めていた呼吸を、再開します。

それは私だけでなく、会場の全ての人が、そうだったようです。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

速い、そして重いな。

手の甲に残る鈍い痛みに、口元を笑みの形に歪める。

 

 

「・・・しぃっ!」

「かぁっ!」

 

 

ゴィンッ、ガンッ、ゴンッ・・・!

拳と拳を打ち付け合う音が、間断なく響く。

そこで突然、私はバカ鬼の左腕を絡め取った。

 

 

素早く力をいなし・・・身体を反転。

背負い投げのような形、しかし今の私なら、どんな体格の相手だろうと簡単に投げ飛ばせる。

しゅごっ・・・と音を立てて、バカ鬼が飛ぶ。

 

 

「ふ・・・」

 

 

バカ鬼は投げられながらも体勢を整えると、投げ飛ばされた先・・・観客席の柱に足をつけた。

そして反動のままに、こちらへと跳躍してくる。

素早く構えを取り、迎え撃つ。

下段から、右足で蹴り上げる!

 

 

「よっ・・・」

「・・・ぬ」

「・・・っと!」

 

 

バカ鬼は、直前で虚空瞬動、軌道を変えた。

ふわり・・・と、一回転し、蹴り上げた私の右足に自分の手をかける。

ぐん・・・と引かれた。

あえて逆らわずに、左足のブーツに仕込んだ鉄扇を手に持つ。

 

 

合気、鉄扇術!

 

 

引かれた勢いを逆用し、首を狙う。

しかし読んでいたのか、それとも野生の勘か、バカ鬼は私から手を離して避けた。

そのまま、互いに距離を取り・・・睨み合いに戻る。

 

 

『こ・・・これは凄い、目にも止まらぬ攻防――――っ!?』

 

 

朝倉の実況など、どうでも良い。

どうせ、ついてこれていないだろうしな。

 

 

さて・・・このままでも良いが、私はここでは魔法が使えんし、何よりもここは狭い。

実際、リングの中央はすでにバカ鬼が砕いてしまった。

外野もうるさい。

と、なれば・・・。

 

 

「バカ鬼、私の目を見ろ」

「それはできないぞ。他の女と見つめ合うとさーちゃんに怒られる」

「・・・いいから、見ろ!」

 

 

魔力で編んだ糸を放ち、バカ鬼を囲む。

囲まれる直前、バカ鬼はまた床板を砕いて、それを無理矢理外した。

だが、糸を放つと同時に動いていた私が、すでに目前にいる。

 

 

ぼっ・・・。

左頬をかすめるバカ鬼の腕に、私の腕を絡める。

半身をズラし、肘を腹に撃ち込む。

 

 

「むっ・・・!」

 

 

バカ鬼の頭が下がる。

後ろ髪を掴み、額を打ち付ける。

がすっ、と鈍い音が響く。

 

 

バカ鬼の金に染まった瞳と、見つめ合う。

魔力でも気でも無い、神代の力が渦巻いているその瞳は、引き込まれそうな程に美しい。

だが、「引き込む」のは、私だ。

 

 

『幻想空間(ファンタズマゴリア)』。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

はー・・・。

なんだって面倒って言うのは、向こうからやってくるのかね。

お偉いさんが大挙して押し寄せたかどうか知らないけど、おかげで私みたいな半人前までお仕事一杯。

 

 

「やってらんないよねー」

「何か言いましたか?」

「ま、まっさかー、私が何か言うはず無いじゃないですか」

 

 

シスターシャークティーに睨まれて、私は黙った。

最近、忙しくてストレスが溜まってるのか、前よりも厳しいんだよね。

 

 

さっきまで携帯で電話してたのに、もう終わったらしい。

 

 

「まほら武道会に向かいます」

「武道会?」

 

 

なんでまた、そんな所に。

 

 

「告白阻止の方は、良いんですか?」

「交代要員が来ます・・・貴女達が未熟なままだったので、むしろ安心しました」

「き、キツいっスねー」

 

 

どっこいせ、と、ココネを肩車しながら、アーティファクトの靴を装着。

これで、いざという時に逃げる準備は完璧。

 

 

「私達がやることは二つあります。一つは、会場に入ったと言うクルト・ゲーデル議員の会議場への招聘です。どうやら、至急に彼の裁可が必要な案件ができたようです」

「げ・・・」

「なんですか?」

「な、何も無いっス」

 

 

元老院議員とか、できれば関わり合いたくないって言うか。

私をそんな重要任務に連れてくとか、どんだけ人手が足りないの。

どうせ行くなら、試合見たいんだけど、無理だよねー。

 

 

「もうひとつは、なんですか?」

「高畑先生の援護に行きます。10分ほど前、超鈴音と接触するとの連絡が」

 

 

はい、来たよこれー。

メンドい仕事が来ましたよー。

帰って良いですか? あ、大丈夫、答えはわかってますんで。

 

 

というか超りん、何やったのさ。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

すーちゃんと初めて出会ったのは、京都のホテル。

最初は、可愛い子だなって思った。

実は、凄く年上で、しかも神様なんだって聞いて、とても驚いた。

 

 

お菓子をあげたからかもしれないけど、すごく懐かれた。

そこからは、私がすーちゃんの面倒を良く見るようになった。

エヴァさん達も、特に何も言わなかった。

 

 

『さーちゃんのご飯は、あったかいぞ』

『あれ? 冷ややっことか温かった?』

 

 

ご飯を作ってあげると、いつもそんな風に言って、すーちゃんは笑った。

たぶん、私のお料理のセンスが古かったのが、すーちゃんに合ったみたい。

まぁ、すーちゃんの生きていた時代に一番近いお料理を作れるのが、私だけだったから。

茶々丸さんも作れるけど、すーちゃんは良く私にねだった。

 

 

そのうち、すーちゃんは自分で作物を作るようになった。

アリア先生に肥料をねだったりしてたけど。

でも、作った物を最初に持ってくるのは、いつも私の所だった。

 

 

『こんなのできたぞ、さーちゃん!』

『・・・すーちゃん、この花、口がついてるんだけど・・・』

 

 

いつしか、私も手伝うようになった。

最初は、ただのお手伝い。

放っておくと、何かとんでもない物がエヴァさんの別荘に跋扈しそうだったから。

でも時間が経つにつれて、段々と別の気持ちが芽生えるようになった。

 

 

『スクナは、さーちゃんが大好きだぞ!』

『うん、私も好きだよ、すーちゃん』

 

 

最初は、何気なく返せたその言葉。

でも今は、とてもじゃないけど、口に出せない。

 

 

ご飯やお菓子を作ると、嬉しそうに笑う貴方。

・・・でも、手洗い歯磨きが苦手で、茶々丸さんに怒られる貴方。

鍬を片手に畑を闊歩する貴方。

・・・でも、妙な物を作っては騒ぎを起こして、エヴァさんに氷漬けにされる貴方。

できた作物を抱えて、別荘中を駆け回る貴方。

・・・でも、清潔第一な魔法具の保管庫に入って、アリア先生にお仕置きされる貴方。

 

 

 

そんな貴方だから、きっと私は恋をした。

 

 

 

『り、両選手、かなり際どい体勢で見つめあったまま、動かなく・・・』

 

 

朝倉さんの言う通り、すーちゃんとエヴァさんは、リングの中でくっついたまま動かなかった。

選手席の方を見ると、アリア先生が仮契約カードを頭にくっつけて何かしてた。

あれはたぶん・・・『幻想空間(ファンタズマゴリア)』に行ってるんだと思う。

 

 

「つまらんのぅ」

「マ、コッチカラジャミエネェカラナ」

 

 

袂の中から、アリア先生との仮契約カードを取り出す。

額に押し当てて、夢見の魔法を。

 

 

「オイオイ、イイノカヨ」

「大丈夫じゃ、あらかじめ周囲の目を誤魔化す術を使っておるからの」

 

 

いつの間に・・・でも、今は晴明さんに感謝します。

私が見届けないと、意味がないから。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

マスターとスクナさんは、どうやら幻想空間(ファンタズマゴリア)に向かったようです。

私も見に行きたくはありますが、役目を放棄することもできません。

 

 

「ほらほら、どきぃ! 邪魔や、邪魔!」

 

 

横では、千草さんが黒服の方を押しのけていました。

背中には月詠さんを背負っていて、その月詠さんはどうやら、眠っているようです。

・・・黒服の方が何人か、座席から押し出され、一人は水の中に転落しました。

 

 

「どいてあげなさい」

 

 

クルト議員が軽く手を振ってそう命じると、黒服の方が何人か姿を消しました。

そのまま、どこかへと去っていきます。

あらかじめ、決めていたのかもしれません。

 

 

この人数・・・龍宮さん一人では、カバーしきれないかもしれません。

ハカセが地下に潜ったと言う情報は、秘匿通信で知らされているのですが。

 

 

超・・・。

 

 

超から聞かされた計画の概要はすでにマスター達に伝えてあります。

そして私自身も、リアルタイムで送られている情報を処理し続けています。

ただ、その中に、私が閲覧できないブラックボックスが存在します。

 

 

超やハカセからは、決して触れないように厳命されていますが。

なぜでしょう。

この中には、どうしても見なければならない情報が詰まっているような気がしてなりません。

しかし、私はガイノイド。

創造主の命令には、従わねばなりません。

 

 

「持ってきたで!」

「ん、偉いで、小太郎」

「へへ・・・」

 

 

小太郎さんが、毛布を何枚か抱えてやってきました。

千草さんは、そんな小太郎さんを見てかすかに目を細めた後、手早く毛布を敷き、その上に月詠さんを寝かせました。

 

 

クルト議員は、それをどこか興味深そうに見つめた後、リングの方へと視線を戻しました。

・・・先ほどの高畑先生とネギ先生の会話も、おそらくは聞こえていたはずですが。

今の所、目だった反応を見せてはいません。

 

 

これまで多くの人間を見てきましたが、彼ほど不気味に沈黙を守る人間は初めてです。

いったい、何を考えているのか・・・。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「それにしても、意外だな!」

 

 

我が『幻想空間(ファンタズマゴリア)』の中で、私とバカ鬼は戦いを続けていた。

ルールはそのままだが、ここでなら、私もバカ鬼も全力で戦える。

 

 

「まさか貴様が・・・よりにもよって、人間の女に愛情を抱くとはな!」

 

 

さよの身体はホムンクルスだが・・・その寿命は、普通の人間と変わらないように作られている。

本当なら、寿命など設定したくも無かったが・・・。

さよに、永遠を押し付けるわけにはいかなかった。

少なくとも、肉体的には母親のような物だからな、私は。

 

 

だからこそ、身体を人間形態に変えているとは言え、永遠の生を持つバカ鬼が、さよを欲するのは意外だった。

伝承の中には、確かに神と人が結ばれる物も多々あるが・・・。

 

 

ガズンッ・・・と、バカ鬼が床を砕き、瓦礫を巻き上げる。

先ほどの木屑よりは、よほど効果的だ、が・・・。

 

 

「そう何度も、同じ手が通じると、思うなぁ!」

 

 

バカの一つ覚えではあるまいに。

 

 

「『氷神の戦鎚(マレウス・クイローニス)』!」

 

 

無詠唱で作った氷の塊を下に叩きつけ、瓦礫ごと全てを押し潰す。

バカ鬼は空を飛べん、飛び道具も無し。

だが・・・。

 

 

「・・・瓦礫と氷にまぎれて虚空瞬動を繰り返し、背後に回るくらいはできるか?」

「・・・!」

 

 

まさにその時、私の背後に現れたバカ鬼。

放たれて来た右拳を、左掌で受け止める。

せめぎ合う力が、周囲の空間を震わせた。

 

 

「力では私が上でも・・・私以上に長い時を生きてきた貴様が、なぜ人間の小娘に目をつける?」

「スクナは、難しいことはわからない」

「は・・・だから貴様は、バカ鬼なんだよ!」

 

 

右手に『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』を作り、袈裟がけに斬りつけた。

バカ鬼は私の左手を振り払い、距離を取ろうとするが間に合わない。

障壁に阻まれるのを感じたが、そんな物を無視して、バカ鬼の身体を引き裂いた。

しかし・・・。

 

 

「ほう、器用なことをするな」

 

 

しかし、バカ鬼の傷は瞬時に塞がっていった。

なるほど、傷を負い次第治癒するように自己設定しているわけだ・・・。

 

 

「流石は、医療の神と言った所か?」

「・・・祓うのも得意だぞ」

「何・・・む」

 

 

私の『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』が、まるで虫に食われるように崩壊を始めていた。

は・・・この程度の出力では、話にならんか。

魔を祓い、清める力。

吸血鬼の私には、さぞや効果があることだろうな。

 

 

「スクナは、難しいことを言うつもりは無いぞ」

「ふん・・・その心は?」

「さーちゃんが好き、それだけだぞ」

「は・・・単純にして、明快だな!」

 

 

生きる時間が違うことも、ましてや種族が違うことも、考慮に値しないと?

いや、違うな。考慮した上で欲しい、そう言うわけだ。

欲しいから、頂く・・・そう言う理屈か、ならばわかりやすくて良い。

 

 

「なら、証明して見せろ・・・さよを手に入れるに相応しい男だと!」

「言われなくとも!」

 

 

そう簡単に、認めると思うなよ!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

いや、これなんて戦争ですか?

ついてこられても困るので、長瀬さんに『幻(イリュージョン)』をかけて誤魔化した後、この空間内に意識を飛ばしてきたのですが・・・。

 

 

別荘を模したその場所は、すでに半壊状態でした。

下から時々投げられてる岩や石は、スクナさんでしょうか。

上空から放たれる氷の塊や矢は、明らかにエヴァさんですね。

 

 

「は! 随分と粘るじゃないかバカ鬼、もう9分だ!」

「何分でも持つぞ!」

「そんなザマで良く言ったぁ!」

 

 

というか、あの人達、当初の目的忘れているんじゃないでしょうか?

実はもう、戦いメインになっているんじゃないでしょうか。

 

 

エヴァさんは、流石というかほぼ無傷。

対するスクナさんは、何発か良いのを貰っているようですが・・・脅威的な回復能力によって、即座に全快状態に戻しています。

これは、単純にどちらの魔力が先に尽きるかという勝負ですね。

 

 

「ケド、イチオウジカンセイゲンガアルカラナ」

「暑苦しい奴らじゃのう・・・もう少しこう、すまーとに行けんのか」

「覚えたての言葉を使いたいんですね、晴明さん・・・」

 

 

最近、晴明さんは現代の言葉に興味を示しているようです。

どうやら、さよさんのカードを使って来たようですね・・・私繋がりでしょうか?

それにしても・・・。

 

 

「あの、アリア先生、何か・・・?」

「い、いえ、その・・・」

 

 

じー・・・とさよさんを見ていると、流石に気になったのか、声をかけられました。

 

 

「その、男性が自分を懸けて戦うと言うのは、どう言う気分かな、と思いまして」

「どう・・・って、言われても」

 

 

困ったような表情を浮かべて、さよさんが首を傾げます。

いえ、私としても後学のためにですね・・・ゴニョゴニョ。

 

 

「オ、ソロソロケリダナ」

 

 

チャチャゼロさんの言葉に、見てみれば・・・半壊した別荘の地面に、エヴァさんとスクナさんが立っていました。

時間もすでに残り少なく、次で決めるようですね。

 

 

ビリビリと・・・空間を震わせる魔力に、私の身体がわななきます。

どちらも、人間には出せないクラスの力を迸らせています。

2人の中央で、力の一端がぶつかり合い、弾け合う。

それは、美しくすら見えました。

 

 

「最後にもう一度、聞いておこうかバカ鬼。貴様、なぜさよに拘る?」

「・・・・・・」

「お前を救ったアリアに惚れるならまだしも・・・なぜ、さよなんだ?」

「・・・理由は、いらない」

 

 

ただ好きだ。

スクナさんはそう言って、クラウチングスタートのような体勢を取りました。

四肢を地面に付ける、独特な構え。

 

 

エヴァさんは、それに対して少し笑って・・・その後、表情を引き締めました。

何も言わず、ただ右手を掲げて、冷気を帯びた魔力の剣を形成します。

 

 

「す・・・」

 

 

そして。

 

 

「すーちゃん!」

 

 

2人は、一瞬だけこちらを見た、直後。

 

 

「行くぞ、吸血鬼!」

「来い、バカ鬼が!」

 

 

次の瞬間には、正面から衝突していました。

 

 

 

「最大出力、『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』!!」

「『宿儺・飛騨円空戦斧撃』!!」

 

 

 

衝撃が、駆け抜けました。

 

 

 

 

 

Side スクナ

 

さーちゃんからは、日向の香りがするんだぞ。

お日様は、全ての源だ。

動物の、植物の、作物の、そして全ての。

農耕の神様としてのスクナも、太陽こそが力の源だ。

 

 

人間には、いろんな奴がいる。

吸血鬼みたいに、清廉な夜の気配を漂わせていたり。

恩人のように、お花畑みたいな優しさを感じることができたりする。

 

 

でも、スクナに力を与えてくれるのは、さーちゃんだけだぞ。

さーちゃんの手は、とてもあったかい。

さーちゃんが笑うと、春が来たみたいに、ポカポカな気分になれる。

それが、スクナの力になる。

 

 

そんな人間は、さーちゃんが初めてだった。

 

 

美味しいご飯を作ってくれるさーちゃん。

・・・実は西洋のご飯も好きだけど、内緒なんだぞ。

畑でも、一緒にいてくれるさーちゃん。

・・・実はさーちゃんが喜ぶと思って変な品種を作るけど、内緒だぞ。

できた作物は、一番に見せてあげるんだぞ。

・・・実はさーちゃんを探して駆け回ると、恩人に怒られる。これも内緒だ。

 

 

どうしてそうなったのか、スクナにはわからない。

だけど、さーちゃんでなければ、そうしなかったことだけはわかる。

 

 

そんなさーちゃんだから。

だから、スクナはさーちゃんが好きだぞ」

 

 

「へぅっ!?////」

「へぶ!?」

 

 

突然、冷たい水を頭からかぶったぞ!

な、なんだ!?

 

 

慌てて身を起こすと、それは白い部屋だったぞ。

スクナは、寝台の上に寝ていたみたいだぞ。

・・・横には、なぜかさーちゃんがひっくり返ってたぞ。

 

 

「・・・床で寝るとダメだぞ、さーちゃん」

「あのねっ・・・・・・そ、そうだね、すーちゃん」

 

 

さーちゃんは、口に手を当てて、こほん、とすると、寝台の横の椅子に座ったぞ。

なんでか、顔が赤いぞ。

でも・・・ここは、どこだ?

 

 

「・・・スクナ、負けたのか?」

 

 

なんとなく、そんな気がする。

ここで寝てたってことは、きっとそうなんだぞ・・・。

 

 

「えっと・・・うん、試合自体は、エヴァさんの勝ちってことになってる」

「そっか・・・」

「でもね?」

 

 

なんだか、暗い気分になってるスクナに、さーちゃんは石・・・じゃなくて、宝石を見せてきた。

 

 

「これね、エヴァさんの魔力回復用の宝石なんだって」

「ふん・・・?」

「最後、エヴァさんこれ使って耐えたんだって。でもすーちゃんは何も使わなかったから・・・勝負は、すーちゃんの勝ちだって、言ってた」

「・・・?」

 

 

良く、わからないぞ。

試合は吸血鬼が勝ってるのに、勝負はスクナの勝ち?

でも、スクナはここで寝てたから、結局はダメだぞ・・・。

 

 

「だ、だからね、すーちゃん。その・・・・・・すーちゃん?」

「・・・ごめんだぞ、さーちゃん」

「ど、どうして謝るの?」

「スクナ、ダメだったぞ・・・」

 

 

決まりごととか、難しいことはわからないぞ。

でも、最後に立ってたのが吸血鬼なら、それはきっとスクナの負けだぞ・・・。

 

 

「え、えと、ダメとかじゃなくて」

「スクナ、超鬱だぞ・・・」

「すーちゃんってば、ちゃんと聞いて・・・」

「・・・封印された時よりも残念だぞ・・・」

「すーちゃ・・・・・・もうっ!」

 

 

スクナが落ち込みの頂点に達そうとしていると、さーちゃんが身を乗り出してきたぞ。

驚いて、さーちゃんの顔を見る。

 

 

ぎしっ・・・と、寝台が軋んで。

さーちゃんの両手が、スクナの顔を挟んだぞ。それで・・・。

 

 

顔が。

 

 

 

 

 

Side 楓

 

はて・・・?

気が付いてみると、試合が終わっていたでござる。

 

 

「いや、それにしてもエヴァさんも憎いことしますね」

「やかましい、実際に私はズルをしたんだ。負けを認めて当然だろうが」

「別にあの程度、ズルの内に入りませんよ」

 

 

エヴァ殿とアリア先生が、いつの間にやら拙者の前で談笑しているでござる。

なんだか、とても重要な部分を見逃したような気がしてならないでござるが。

というか、2人ともどこからか人形を持ってきていたでござる。

医務室に行っていたらしいでござるが、そこから持ってきたでござるか?

 

 

「ふん・・・どの道、あの程度も突破できんようでは、さよを任せるつもりは無かった」

「またまたぁ・・・最初から認める気だったくせに」

「苺畑限定で焼き払うぞ?」

「大変申し訳ありませんでした。私は貴女の犬です」

 

 

なぜかアリア先生がエヴァ殿に、身体を直角に曲げて謝っていたでござる。

茶々丸殿に続いて、2人目でござるな。

クラスの出し物のメニューを見ていても思ったでござるが、アリア先生は苺が好きな様子。

今度、さんぽ部で野苺狩りにでも行ってみるでござるか。

 

 

「ところで・・・拙者、先ほどの試合の細かい点が思い出せないのでござるが」

「なんだ、その年でボケたのか?」

「お昼寝には、早い時間ですよ?」

 

 

酷い言われようでござる。

しかし、実際に思い出せないでござるし・・・。

まぁ、良いでござるか。

 

 

「・・・ところで、なんで背後に控えているのですか?」

「ニンニン。何かあれば言ってくだされでござる」

「やはり、変な奴に好かれる才能が・・・」

「そんな才能、いらないんですけど」

 

 

まぁ、おふざけ半分でござるよ。

あそこまで完璧に、力の差を見せつけられたのは初めてでござるからな。

 

 

「その言い方だと、まるで拙者が変な奴みたいに聞こえるでござるな」

「自覚がなかった!?」

「忍者のくせに・・・」

 

 

ニンニン。

ま、まさか、拙者が忍者だなどと・・・。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「ふ・・・ふふ、強いネ。高畑先生・・・」

「・・・踏んできた場数が、違うからね」

 

 

超君は、想像以上に強かった。

妙な方法で僕の攻撃をかわす点は、ネギ君と同じ・・・いや、ネギ君以上だった。

だけど、人を倒そうとする攻撃はパターン化される物で・・・一瞬の察知と判断は僕の方が遥かに上だ。

 

 

「超君・・・キミの意思の強さはわかった。だがもしキミがここで一人の犠牲者も出さなかったとしても、魔法が世界に公表されたその瞬間から、相応の混乱が世界を覆うことになる」

「そう、だろうネ・・・」

 

 

がら・・・と、機械の残骸を踏みしめながら、超君が体勢を整えた。

劣勢にありながら、超君の顔からは笑みが消えない。

でも、じきに援軍も来る。そうなれば、彼女は逃げ切れないだろう。

 

 

「今後10数年間の間に起こる軍事的経済的混乱は、私が管理して見せるヨ」

「仮にそれができたとしても、社会的混乱を防ぐことはできない。新しい差別や対処不能な問題が噴出するだろう・・・キミの計画は、最初から達成不可能だ」

 

 

力がある者ほど、その幻想に囚われる。

自分ならできると。自分なら、世界を救うことができると信じて。

 

 

その時、超君の姿が消えた。

それは、もう何度も見た。

僕には通用しない。

 

 

一歩半ほど前に出て・・・。

背後に、『豪殺・居合拳』を放つ。

 

 

ズンッ・・・!

 

 

「かふっ・・・!」

 

 

そしてそれは、直後に姿を現した超君に直撃した。

もちろん、手加減はしている。

話を聞かなくてはいけないし、何より元教え子だ。

 

 

「ぐ・・・AIが無いとは言え、カシオペアの時間跳躍タイミングが完璧に掴まれるとは・・・」

「似たような攻撃手段を用いる相手と、戦ったことがあるからね」

 

 

伊達に、経験を積んでるわけじゃない。

 

 

「超君、キミを拘束する」

「ふ・・・」

「だけどその前に、もう一度聞きたい・・・超君、キミの目的はなんだ?」

「・・・貴方も、しつこいネ」

 

 

ふぉん・・・と、姿を消し、超君は部屋の隅に姿を現した。

距離を取ったつもりだろうが、この距離なら、僕の攻撃はいくらでも通る。

 

 

「・・・キミは何者だ。超君」

「・・・私は、私ネ。ただ言ってみれば、英雄の子孫というのも大変でネ・・・」

 

 

英雄の子孫?

何の話だ・・・?

 

 

「考えたことは無いカ・・・この先、ネギ・スプリングフィールドがどれ程のことをするカ。そしてアリア・スプリングフィールドがどれ程のことをするカ・・・」

「・・・何の話をしているのかな?」

「こちらの話ヨ・・・まぁ、そうは言っても、ここで捕まるわけにもいかないからネ・・・」

 

 

超君は、どこか嘲るような目で僕を見た。

その手には・・・一枚のカード、あれは。

 

 

「パクティオーカード・・・!?」

「アデアット」

 

 

すかさず、居合拳を放とうとするが・・・それは、超君に届くことは無かった。

その、前に。

 

 

超君の瞳が、紅く輝いた。

 

 

「『千の未来』」

 

 

 

 

 

Side クルト

 

ふむ・・・。

定期的に部下からの報告が入るわけですが・・・。

なかなか、面白い状況になってきたようですね。

 

 

特に、先ほどのタカミチとネギ君の会話とか。

あるいは、<闇の福音>とアリア・スプリングフィールドの関係とか。

その他、麻帆良を含んだそれぞれの動きとか。

 

 

・・・別に、ただダラダラと解説をしていたわけではないのですよ。

 

 

「・・・ま、この場の決定権は私にあるわけですが・・・」

「何か申されましたか?」

「いえいえ、別に聞こえるように独り言を言っているわけではありませんよ」

 

 

隣の茶々丸とか言う自動人形にそう答えつつ、修復されていくリングを眺めます。

その上には、一回戦の様子を映し出すハイライトが。

ふむ・・・超鈴音。

この大会の主催者にして、「より多くを救える計画」とやらを持っていると言う女性。

 

 

さて、どう動くのが一番私にとって都合が良いでしょうか。

ここにいる者達だけでなく、本国の政治屋どものことも考慮せねばなりませんし。

 

 

「・・・っし、次はよーやく、俺の出番やな!」

 

 

先ほど毛布を持ってきた、小太郎と言う少年が腕を振り回しながら、そう言いました。

元気が良い少年ですね、何より単純で。

もちろん、褒めているのですよ?

 

 

「あんま、調子に乗っとると足元掬われるで、小太郎?」

「わかっとる。油断せずに行こう、やろ?」

 

 

天ヶ崎千草との関係は、まさに母子のようですね。

個人間の関係をとやかく言うつもりは無いので、気にはしませんが。

 

 

「大丈夫や。最初っから全力で行く。勝つのは俺や!」

 

 

相手は、あのクウネル・サンダースとか言うフードの男。

・・・アレで正体を隠しているつもりだと言う、まさに失笑物だ。

決めました。この瞬間だけは小太郎君とやらを応援することにしましょう。

 

 

私が打算も見返りも無く他人を応援するのは、本当に珍しいことなのですよ?

ごくたまに、応援している人間を背後から蹴落としたりもしますがね。

 





アリア:
アリアです。
少々お昼寝している間に、私の役目が奪われつつあったようです。
えー・・・今回は。
とどのつまりはスクナさん嫁取り物語です。
物語の大局には・・・たぶん関係が無い、はず。
これが決め手になったら、それはそれですごいですが。


アリア:
さて、次回はもしかしなくとも小太郎さんの出番です。
つまりは、アルビレオさんの出番です。
さて・・・仕込みが上手く行ってくれれば良いのですが。
では、またお会いしましょう。

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