魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第61話「麻帆良祭二日目・意地」

Side 夏美

 

小太郎君、頑張ってるかなー。

 

 

そんなことを考えながら、私は武道会の会場に戻ってきた。

本当は、まだリハーサルの時間なんだけど、私の出番終わっちゃったから・・・。

えへへ・・・脇役だからね。

もう本当、数分くらいしか出番が無いくらいの役だから。

 

 

リハの場所は、公演場所とは別の場所にあって、龍宮神社近くの建物を貸してもらってる。

歩いて10分くらいの所。

下の広場の方に行くと、人が一杯だから、リハ見られちゃ不味いし。

 

 

「うわぁ、すごい人・・・」

 

 

中に入ってみると、人が増えてた。

出て行った時には、こんなにいなかったと思うんだけど。

 

 

さっきメールしたら、ちづ姉が場所とっといてくれるって・・・。

・・・なんでか、葱を持ってるちづ姉の姿が脳裏を掠めた。

ま、まさかぁ。

 

 

『えー・・・お待たせしました。二回戦を始めたいと思います!』

 

 

朝倉の声。

わ、わ、今からなんだ・・・。

小太郎君の試合かな?

 

 

小太郎君。

生意気で腕白な男の子って感じだけど、女の子には優しい。

それで、すっごく強い。

強くて、女の子にモテて・・・。

 

 

まるで、物語の主人公みたい。

後半部分は、なんだか嫌だけど。

 

 

「あら、夏美ちゃん」

「ちづ姉! ありがとー」

「ちょうど良かったわ、今からあの男の子の試合なのよ」

「本当?」

 

 

良かった。間に合ったみたい。

それに当たり前だけど、ちづ姉は葱を持ってなかった。

何考えてるんだろ、私。

 

 

そんなことを考えながら、舞台の方を見た。

その時。

 

 

『二回戦・第一試合・・・始め!』

 

 

小太郎君が、相手の人に殴り飛ばされた。

・・・え?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

二回戦・・・とは言え、下手を打つとこれが最後の二回戦になりそうな感じでもありますね。

棄権の多い大会ですからね。

 

 

「・・・しゃあ! 準決勝で会おうぜ、アリアのねーちゃん!」

「まぁ、せいぜい頑張るが良いでしょう」

 

 

意気揚々とリングに上がる小太郎さんに、あえてそう声をかけます。

その先には、すでにクウネル・・・アルビレオさんが。

原作では、欠片も歯が立たなかったはずですが。

 

 

ついでに言えば、古菲さんが棄権宣告を出していないので、私はまだ準決勝進出を決めていません。

 

 

「一方で私は、準決勝に進んでいるがな」

「何故にそんなに自慢げなのでしょうか」

「ふふん」

「いや、ふふんって・・・」

 

 

チャチャゼロさんを頭に乗せて言っても、欠片の威厳も感じないのですけど。

確かに、晴明さんを膝に乗せている私も、良い勝負かもしれませんが。

まぁ、良いです。

とにかく、小太郎さんの試合が始まります。

 

 

『二回戦・第一試合・・・始め!』

 

 

朝倉さんの宣言と共に、小太郎さんが瞬動で動きます。

そしてその直後に、アルビレオさんに一撃を見舞われ、吹き飛びます。

 

 

『小太郎選手、吹き飛んだ―――っ!?』

「バカか、あの犬」

「まぁ、正面から突っ込むのが好きな方ですからね」

 

 

千草さんの話でも、結局正面突破以外は覚えなかったらしいですから。

それが皮肉なことに、千草さんの指揮能力と言うか、政治力を養う結果になったらしいですが。

まぁ、そうは言っても、直線でしか使えない瞬動をああもわかりやすく、フェイントも無しに使っては、カウンターを貰うのは当然なわけで。

 

 

『クウネル選手、掌底一閃――――っ!』

 

 

多数の分身を活用した攻撃を見せた小太郎さん。

しかし、直撃だったはずの攻撃も、どう言うわけかすり抜けます。

幻影を実体化させているわけですから、虚と現の間を行ったり来たり・・・。

 

 

そして、小太郎さんの身体が、場外へと吹き飛ばされました。

リングを破壊しつつ、小太郎さんは着水。

・・・水の上に立つの、やめてもらえませんかね。

 

 

「水遁の術、と言う奴でござるな」

「いや、まぁ・・・そんなような物かとも思いますが」

 

 

長瀬さんの感想に、そう返します。

原理は同じはずです・・・というか、絶対に忍者でしょう貴女。

 

 

「お前なら、あの男に勝てるか?」

「ええ、もちろん」

 

 

私の『複写眼(アルファ・スティグマ)』には、アルビレオさんの身体の構成が視えています。

さらに言えば、魔法と魔力でできたその身体は、『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を持つ私には、欠片の脅威も与えることは無いでしょう。

 

 

だから。

 

 

「・・・仇は、とってあげますからね、小太郎さん」

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

な、何や、このローブ男。

達人とか、そう言うレベルや無いで。

さっきかて確実に右腕貰たと思ったのに、なんでか、かわされとった。

 

 

何者や、こいつ・・・!

 

 

「・・・降参していただけると、有難いのですが」

「バカ言いなや・・・誰が」

 

 

け、けどそうは言っても、圧倒的な力の差を感じるで。

さっきの一撃で足にもきとるし・・・いや!

 

 

泣き事言うな、男やろ!

それに、絶対優勝するて、約束したんや。

こんな所で、諦めるわけにはいかん・・・!

 

 

「絶対に!」

 

 

狗神!

・・・『疾空黒狼牙』!

 

 

5体程の狗神を出して、クウネルとか言う兄ちゃんを撹乱する。

さらにその間に、瞬動二連。

一気に距離を詰める!

 

 

我流・犬上流・・・。

 

 

「『狼牙双掌打』!!」

 

 

気を練り込んだ両拳を、相手の腹に叩きつける。

直撃、貰っ・・・!

 

 

ガスッ・・・!

 

 

身体の中に、衝撃が走った。

俺はそのまま床に叩きつけられて、動けなくなったしもた。

こんな・・・アホな!

 

 

「ぐ・・・!」

「まぁ・・・貴方はまだ若い。実力の差に気を落とさないでください」

 

 

実力の差とか、そう言うレベルやない。

今の俺の攻撃は、直撃やったはずや。それで無傷やと?

いや違う、攻撃の威力が全部、すり抜けて行きよった。

 

 

あり得へん・・・!

 

 

「ぐっ・・・か、くっそ・・・!」

 

 

こんな所で、負けられるか・・・!

負けるくらいなら、死んだ方がマシや。

 

 

約束したんや、夏美ねーちゃんと。

絶対に、優勝するって。俺は。

 

 

「お、俺は・・・!」

 

 

ビシビシ・・・と、身体を変化させていく。

本当はあかんねんけど、そんなこと言ってられへん。

ここで負けるくらいなら、死んだ方がマシや・・・!

 

 

「おっと」

 

 

次の瞬間、俺の身体にとんでも無い力が。

 

 

 

 

 

Side アルビレオ

 

やれやれ・・・獣化とは。

こんな所でそんなことをされては、フォローができませんよ。

 

 

「まぁ・・・その心意気は、素晴らしいとは思いますが」

『こ、小太郎選手、ダウ――ンッ! カウントを取ります!』

 

 

カウントを取るまでも無く、重力魔法で意識を刈り取ったので、起き上がれはしませんよ。

試合開始から、10分少々・・・案外、粘られましたね。

・・・それよりも、今後のことを考えた方が良いですね。

 

 

けしかけたのは私ですが・・・タカミチ君があれ程、完膚無きにまでにネギ君を倒すとは。

ナギから彼への遺言は、また次の機会にした方が良いでしょうね。

今の彼には、逆効果でしょうから。

 

 

なら、もう片方の方から片付けましょうか。

10年来の約束をいつまでも抱えているのも、窮屈な物ですしね。

 

 

選手席から、射るような視線でこちらを見ているアリア君。

細められたその目線は、かつて見た誰かを思わせますね。

 

 

「小太郎君!」

 

 

その時、観客席の方から、半ば悲鳴のような声が聞こえてきました。

ふん・・・。

 

 

なんでしょうね?

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

「小太郎君!」

 

 

思わず、叫んだ。

自分でも、こんなに大声が出るなんて、びっくりした。

 

 

小太郎君は、すごく頑張ってた。

倒されても、ちゃんと立って、頑張った。

けど、相手の人がすごく強くて・・・。

 

 

「夏美ちゃん・・・」

 

 

私と小太郎君を交互に見ながら、心配そうにしてる。

なんだか、言葉を探しているようにも見える。

 

 

「小太郎く・・・」

 

 

小太郎君は、うつ伏せになって倒れてた。

近くで見なくてもわかるくらいにボロボロで・・・。

もう何を言っても、絶対に無理だって思う。

 

 

「なんで・・・」

 

 

息が、しにくい。

もう、良いよって、言いたくなる。

頑張ったじゃんって、言いたくなる。

でも・・・言っちゃいけない気がする。

 

 

「・・・男の子って、そう言う物よ」

 

 

ちづ姉が、そんなことを言った。

小太郎君、女の子の前では、強がる子だから。

今も、優勝しないとって、思ってるかもしれない・・・きっとそう。

自惚れじゃなければ・・・その理由に、きっと私も入ってる。

 

 

トーナメント表を見る、二回戦、いわゆる準々決勝。

優勝には、全然届いてない。

約束には、全然届かない。

 

 

「・・・小太郎君!」

 

 

別に、格闘とか喧嘩で一番になってとか、言いたいわけじゃない。

そんなんじゃなくて・・・ただ。

私みたいに、目立たない、地味な脇役で終わってほしくない。

そんな気持ちが、私の中にあった。

 

 

「小太郎君!」

 

 

難しいことは、よくわからない。

ただ・・・。

 

 

「た・・・」

 

 

ただ、どうしてだろう。

小太郎君が、このまま終わるのを、見ていたくない。

脇役みたいで・・・私みたいで、でも。

私にとって・・・小太郎君は!

 

 

脇役なんかじゃ、無いんだから!

 

 

「立ちなさいよ、このバカぁ―――――――っ!!」

 

 

その時、ポケットの中のお守りが、かすかに熱くなったような気がした。

 

 

【―――想いは、力となる】

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「立ちなさいよ、このバカぁ―――――――っ!!」

 

 

これは、負けかな・・・そう思っとった時。

観客席の方から、見覚えのある女の子が、身を乗り出して何事かを叫んでいた。

応援・・・しとるんやろか?

 

 

夏美はん・・・やったか。

小太郎の、友達の。

 

 

「しっかりしなさいよっ! 優勝するって言ったじゃない!!」

 

 

そんなこと言うとったんか、あの子。

どこぞのスポ根物の漫画みたいなことを・・・。

 

 

「約束、破ったら承知しないんだから! 早く起きてよ、それで、その妖しいローブの人、やっつけちゃってよぉ!!」

 

 

いや、確かに妖しい。

それに、どことなくムカつく雰囲気纏ってるしな。

でも、それを大声で触れまわるって言うのは、どうなんやろ。

 

 

「主人公でしょ!?」

 

 

は?

 

 

「小太郎君、私と違って・・・脇役じゃ無いじゃん! よくわかんないけど、絡まれた女の子助けて、頑張って練習して、それで二回戦負けとか・・・面白くも何ともないよっ!」

 

 

ど、どういう理屈やね、それ?

最近の若い子は、ようわからんことを言うんやなぁ・・・。

 

 

と言うか、小太郎、うちの知らん所で何をやっとったんやろ。

・・・ん?

 

 

「だから・・・」

 

 

何や、今・・・。

一瞬、あの子と小太郎の間に、何かが走ったような気がするんやけど・・・。

 

 

「だから、だから・・・」

 

 

おおっ・・・と、他の観客も声を上げた。

その視線は、リングの中央へ。

 

 

「頑張れ、小太郎君――――――っ!!」

 

 

そこには、小太郎が。

小太郎・・・!

ごくり、自然、唾を飲み込んだ。

 

 

「良いのですか、応援しなくて」

「茶々丸はん・・・」

「立場上、偏ったことは言えませんが・・・千草さんが応援すると、勝率が上がる・・・気が、します」

 

 

いや、せやかて、うちにも立場ってもんがあってやな。

たとえ手すりを握りしめとっても、身を乗り出しとっても。

大声あげて、応援する言うんは、不味いんやって。

 

 

「・・・っ」

 

 

応援、する、わけには。

 

 

『た、立った―――――っ!?』

「い・・・」

 

 

瞬間、眼鏡を投げ捨てた。

 

 

「行ったれ、小太郎――――――――っ!!」

 

 

 

 

 

Side アルビレオ

 

立った?

これは、ビックリです。

それなりに、強い一撃を見舞ったつもりだったのですが。

 

 

「・・・ふむ、思ったよりも打たれ強かったようですね?」

 

 

外面は平静を装っていますが、内心は結構驚いています。

それにどうも、小太郎君とやらの身体には、先ほどは感じなかった力を感じる気がします。

この感覚は、なんとなく仮契約カードの魔力供給に似ていますね。

 

 

「へ・・・女はうるさーてしゃーないわ・・・」

「レディに対して、そんなことを言うものではありませんよ」

「へ・・・」

「しかし、何度やっても結果は同じです。さっきの攻防でわかったでしょう?」

 

 

彼と私の実力の差は、気合いや根性などでどうにかなるレベルではありません。

ましてや、今の私は幻影体。

申し訳ありませんが、小太郎君では私に触れることすらできません。

 

 

本当は、こうまでして勝ちたくは無いのですが・・・。

友との約束のため、ここで負けてもらいます。

 

 

「は、何回やっても、同じやて・・・?」

「ええ、そうです」

「そんなん・・・やってみんと、わからんやろが!」

 

 

3人に分身し、小太郎君が突っ込んできました。

とはいえ、ダメージは深刻・・・フェイントも何もない、真っ直ぐな攻撃です。

両手で繰り出す掌底で分身をかき消して。

 

 

本体の攻撃は、幻影の実体化を緩めて、かわすことに・・・。

 

 

 

次の瞬間、腹部に鈍い「痛み」が走りました。

 

 

 

「な・・・?」

「うぅらあぁぁっ!!」

 

 

腹部への衝撃に、反射的に身体がくの字に曲がった所、今度は顔面に一発。

もちろん、幻影の実体化を緩めて、かわそうとしました。

しかし、「痛い」?

 

 

ダメージが、通ってる?

バカな!?

 

 

「な・・・」

「だあぁらあぁ―――――っ!!」

 

 

なんでもない、ただのパンチ。

前半は、かすりすらしなかった。

いえ、それよりも幻影のこの身体が、「痛い」とはどう言うことです?

思わず、無防備で喰らってしまいました。

 

 

そしてその、なんでも無いはずのただのパンチが、私の身体に当たる。

ガードした腕に、確かな衝撃を伝える。

麻帆良に来て10年。久しぶりに感じる、感触。

 

 

こ、これはいったい、どう言う・・・!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

【―――想いは、力となる】

私が、夏美さんに手渡したお守りに込めた力です。

一種の概念付与のような物で・・・オガム文字に込められた魔力分、持ち主に力を与えます。

 

 

【―――想いは、拳に宿る】

一方で小太郎さんに渡っている石には、そう刻んであります。

こちらは、夏美さんの石の効果が発動した時にのみ、効果を発揮するように細工してあります。

 

 

具体的には、幻影体であっても、ダメージを通すことができるようになります。

ただ、どちらも、本格的な魔法を込めているわけでは無いので・・・。

保って、3分ほどの力でしかありませんが。

 

 

「くく・・・見たか、あのアルの面喰った顔」

「確かに、ひどく驚いていたようでござるな」

 

 

隣のエヴァさんは、大変上機嫌でした。

よほど、アルビレオさんが慌てている姿を見るのが楽しいようです。

 

 

「くくく・・・しかしお前も、味な真似をするじゃないか。演出好きというか」

「別に・・・まぁ、少しばかりチャンスをあげても良いかなと、思っただけですよ」

 

 

今のアルビレオさんは、通常の方法では傷一つつけることのできない状態です。

言わば無敵モード。

『歩く教会』でガードしている私だって、いくつかの条件をクリアすればダメージを受けるというのに、アルビレオさんだけ無敵というのは、面白くありませんから。

 

 

個人的に、村上さんの悲しむ姿は見たくありませんでしたし。

小太郎さんを応援する気持ちも、多少はありましたし。

 

 

「ただ、まぁ・・・その仕込みも、村上さんが真剣に小太郎さんのことを想っていないと、意味を成しませんでしたけどね」

「ふふ・・・意外と隅におけないじゃないか、あの犬っコロも」

「そう言うことに、なりますかね」

 

 

とは言え、村上さんがどのような感情で小太郎さんを応援しているかは、私にはわかりません。

友愛かもしれませんし、他の何かかもしれません。

ただひとつだけ、言えることがあるとするなら・・・。

 

 

「後はもう、小太郎さん次第です」

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

立ち上がれへんかった。

意識が飛ぶ直前に、夏美ねーちゃんらの声を聞いてへんかったら、確実に落ちとった。

絶対に・・・立ってられへんかった。

 

 

『10カウント寸前で、小太郎選手、まさかの逆襲――――っ!』

「いっけぇ――――っ、小太郎く―――んっ!」

「いてこましたれ――――――っ!」

 

 

うるさいねーちゃんらやな、ったく。

けど・・・約束したんや。勝つって。

 

 

「・・・なかなかです、が・・・」

「・・・っ!」

 

 

ずむっ・・・と、また、身体に何か、重い物を乗せられたかのような感触。

ぬ、ぬぅうあぁ・・・っ!

た、倒れるかっ・・・!

 

 

「・・・なんと!」

 

 

身体が動く限りは、倒れへん!

ねーちゃんらの前では、俺は強いままでおらなあかん!

負けることは許されへん!

 

 

「・・・っどるぅあぁっ!」

『が、ガードの上からクウネル選手を吹き飛ばしたぁ―――っ!?』

 

 

身体はボロボロや、足もガクガク震えとる、マトモに動かん。

気ぃ抜いたら、心臓が止まってしまいそうや。

いや・・・例え心臓が止まっても、魂だけで戦うたる!

魂が消えてしもても、棺桶から這い出て・・・!

 

 

「くぅおぉぉっ!」

『な、何やら黒い物が小太郎選手の右拳に集まり始めたぁ!?』

 

 

あぁんたを、倒す!!

 

 

【―――想いは、拳に宿る】

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「・・・ふぅ・・・」

「おや、休憩ですか、瀬流彦先生」

「あ、刀子先生」

 

 

胃がキリキリと痛む今日この頃。

僕は、遅めの朝食をとる時間を作れた。

・・・10分だけだけど。

 

 

でも、刀子先生も僕と同じか、それ以上に疲れているはずだ。

表向きに麻帆良と関西を繋げるのは、刀子先生だけだし。

実際に、関西の使節団の応対は刀子先生の担当だから。

 

 

・・・目の下のクマを、いつもより濃い目のお化粧で隠しているのを見れば、僕でもわかる。

 

 

「・・・お疲れ様です」

「いえ、瀬流彦先生こそ議員の護衛団のお世話とか、ご苦労様です・・・」

 

 

お互いに、薄い笑みを交わし合った。

本当なら僕は、他の仕事をしていたんだけど・・・。

クルト議員が、50人規模の護衛を引き連れてくるとは思わなくて。

麻帆良祭期間中のこの時期、宿泊先を確保するのも大変なんだよ・・・。

 

 

「・・・ガンドルフィーニ先生は、一人で告白阻止の指揮を取ってるんですよね」

「ええ、先ほど携帯食で栄養を補給している所を見ました」

「・・・辞めておけば良かったかなって、最近すごく思うんです」

「やめてください。本気で泣きたくなりますから・・・」

「・・・すみません」

 

 

謝ってみるも、我ながら空虚な声だな、と思う。

でも、力の無さで言えば、刀子先生の声も良い勝負だと思うんだ。

 

 

「か、関西の人達は、今何を?」

「今はメルディアナの代表特使も招いて、実務的な協議に入っています。どうやら相互に年少者を留学させる制度を設けるらしく」

「そうですか・・・」

 

 

いよいよ、麻帆良が窓口にならない交渉が本格化してきたなぁ。

存在感の低下は、避けられそうに無いね。

 

 

「そう言えば、弐集院先生が、ネットの方に気になる画像が流れていると言っていました。今の所、脅威度は低いとのことでしたが・・・瀬流彦先生も、一応確認しておいてください」

「あ、はい。わかりました」

 

 

それから、アドレスを僕にいくつか教えて、刀子先生は去って行った。

えーと、パソコンパソコン・・・魔法使いが科学に頼るって、何だかなぁって気がしないでもない。

そんなどうでも良いことを考えながら、件の画像を確認・・・。

 

 

「・・・アリア君?」

 

 

その中のひとつに、アリア君に関する情報や画像が。

正確には、ネギ君とアリア君の情報だけど。

でも、これは・・・。

 

 

「ま、不味いんじゃないのかな、これ」

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「アリアのニュースが出てる?」

 

 

メルディアナ特使用の宿泊先に戻った後、エミリーがパソコンでウェールズの官憲(魔法関係)に連絡しようとしていた時に、そんなことを言ってきた。

何か妙な情報が、麻帆良のネット回線を中心に流れているらしいんだけど・・・。

 

 

「正確に言えば、ネギさんとアリアさんの情報が流れています」

「何の情報?」

「これです」

 

 

テーブルの上のパソコンを覗くと、「噂の子供先生、涙の極秘プロフィール」とか、「大会出場の理由」とか・・・。

 

 

「な、何よ、これ」

「わかりません。ただ、誰かが故意にこの情報を流している可能性が極めて高いです」

 

 

そこにはネギとアリアの出生の秘密とか、両親が行方不明だとか、そういうのが書いてあった。

もちろん、魔法とかそういうのは削れてて、そこはボカして書いてあるけど。

それを抜きにしても、この情報は正確すぎる。

 

 

関係者が、故意に流したとしか思えなかった。

 

 

「カモミール、何か知っているでしょう。吐きなさい」

「断定かよ! 何かあると、俺を疑うのやめてくれない!?」

「バカを言いなさい。この世の悪事の3.52%は貴方のせいでしょう」

「微妙な数字がリアルね・・・」

 

 

ちなみにカモは、ペット拘束用格子「懲らしめちゃうぞ☆」(5200ドラクマ)の中に閉じ込めてる。

大きめの虫籠の中に入ってるとイメージしてくれれば良いわ。

外からは誰でも開けられるけど、中からはどうやっても開かないようにできてる。

 

 

「・・・ドネットさんの所に、行かないと」

 

 

私一人で勝手に判断して、行動できる問題じゃないわ。

特使がいつまでも単独行動って言うのも、麻帆良の人達に追及されるかもしれないし。

それに、あっちでも何か動きがあったかもしれない。

 

 

「行くわよ、エミリー!」

「はい、アーニャさん!」

「ちょ、俺っちは!?」

 

 

カモは無視。

・・・え、ちびアリア?

ちびアリアは・・・。

 

 

「おいしーですぅ(ぽりぽり)」

 

 

私の腕の中で、苺のポッ○ーを食べているわ。

何か、文句ある?

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

『小太郎選手、怒涛のラッシュッ・・・クウネル選手、後ずさる―――――っ』

 

 

くっそ、このにーちゃん、さっきから後ろに下がってばっかやんけっ・・・!

こちとら、もう自分の拳に身体がついて行かへんってのに・・・!

 

 

「でぇらぁっ!」

「ふっ・・・」

 

 

ぶぅんっ、って音を立てて、俺の拳が空を切る。

くそったれがっ・・・空振りが一番堪えるでっ・・・!

でも、まだ行ける。

ポケットの中のあの石が、やけに熱を持っとる気がする。

 

 

「・・・っう、くっ・・・!」

 

 

それでも、足が震える。視界も定まってへん。

前半でダメージ、貰い過ぎた。

 

 

「小太郎君!」

「・・・っおぉおらぁあぁっ!」

「・・・っ!」

 

 

ズドンッ・・・と、俺の拳がクウネルとか言うにーちゃんの腹に突き刺さった。

前半は当たらへんかった攻撃が、今は当たる。

相手の身体が、軽くよろめいた。

・・・っ!

 

 

「小太郎、逃がすな―――――――っ!」

「行っけ――――――っ!」

「・・・わぁかっとるは、畜生がぁっ!!」

 

 

頼むでぇ、俺の身体!

あと、少しやからなっ・・・!

最後まで、付き合ってくれやっ・・・!

 

 

『小太郎選手、行ったぁっ! 試合終了まで、あと30秒っ・・・!』

 

 

作り出せる全部の狗神を、右拳に集める。

あと何発撃てるかなんて、理屈はいらん、ただ、殴る!

 

 

「『狗音ッ・・・!」

 

 

でも、これでっ・・・倒れへんかったら。

いや、倒す!

倒れても倒す! 死んでも倒す! 絶対に倒す!

 

 

「・・・爆砕拳』っ!!」

 

 

倒れろぉっ!

そう気合いを込めて、バランスを崩した相手の胸に拳を突き立てた。

それを最後に。

 

 

―――パキン。

 

 

何かが、砕けた音がした。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

ガタンッ・・・。

 

 

「クルト議員?」

「あ、ああ、いえ・・・」

 

 

思わず、身体の動揺を隠せませんでした。

咳払いひとつ、眼鏡を直して、居住まいを正します。

茶々丸さんが、怪訝そうな表情で私を見ています。

 

 

「小太郎・・・っ」

 

 

横では、天ヶ崎千草が声を詰まらせていました。

先ほどまでは、声を大にして叫んでいましたが・・・無理もありません。

小太郎君は、力無く空中に投げ出されているのですから。

 

 

「・・・・・・・・・ふむ」

 

 

しかし、問題なのは、小太郎君を殴り飛ばしたあの男・・・。

フードに顔が隠れて良くは見えませんが。

あの赤い髪、あの雰囲気。

無論、本物では無いでしょうが。

 

 

反応せざるを得ない、その存在感。

 

 

そして、直前に起こったアーティファクトと思われる現象。

あれは確か、彼の・・・。

 

 

「・・・っ」

「千草さん!?」

 

 

たたっ・・・とどこかへ走って行きました。

まぁ、大体予想はつきますが。

 

 

『に、二回戦第一試合、クウネル選手の勝利です!』

 

 

・・・まぁ、親類の見舞いに立場がどうこう言うほど、私も無粋ではありません。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・随分、手こずったようじゃないか」

 

 

リングから戻ってきたアルに、そう声をかけてやった。

フードに隠されていて表情は見えないが、かすかに見える口元には、笑みが浮かんでいる。

だが、口の端にはわずかに血が滲んでいるようにも見えるが・・・さて。

 

 

「心臓が止まる、などと言う感触は、久しぶりに味わいましたよ」

 

 

結論で言えば、あの犬っころ・・・小太郎は、アルには届かなかった。

最後の一撃の後、アリアの石の効果も消えた。

そうでなくとも、魔法世界でも屈指の実力者であるこいつに、随分と善戦した物だ。

それでも最後の10秒で、アルがアーティファクトを使わなければ、わからなかったな。

 

 

実際、観客の声援の多くは、小太郎に向いていたから・・・メール投票にでもなれば、おそらくは小太郎が勝っていただろう。

だが・・・。

 

 

「・・・貴様、最後のあの姿は・・・」

「ええ・・・彼ですよ」

 

 

相も変わらず、嫌な笑みを浮かべて、アルが言う。

しかし、最後にアルの姿が変わり、あいつの姿になった時・・・。

反応しなかったと言えば、嘘になる。

 

 

「今ここで、なってあげましょうか?」

「いらん」

「それは残念・・・」

 

 

欠片も残念で無い声音。

ち・・・やはり、性格の悪さではナギ以上だな。

 

 

まぁ、それは良い。

問題なのは、このままで行けば、こいつが準決勝でアリアと当たると言うことだな。

そもそも、ぼーやがいない今、こいつがなぜ参加しているのかも気になる。

 

 

「・・・心配せずとも、貴方の大事な娘さんには何もしませんよ」

「心を読むな・・・と言うか、誰が誰の娘だ!?」

 

 

いや、確かに年齢差から言って、娘のようだとも言えなくもないが。

ちなみに、そのアリアは今ここにはいない。

お手洗いがどうのと言っていたが、どこに行ったかは容易に想像ができる。

 

 

「ふふ・・・随分と大切にしているんですねぇ」

「よし、わかった。そこに正座しろ貴様。身長差がありすぎて首が切れん」

「あははははは」

 

 

こ、殺してやりたい・・・。

 

 

「・・・それで実際の所、貴様アリアに何の用だ。場合によっては・・・」

「独占欲が強いですねぇ」

「貴様・・・」

「ああ、わかりました。では、お話しましょう・・・」

 

 

・・・ふん。

さて、こいつの言うことの何割を信じるかどうか・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

まぁ、随分と無茶をした物です。

その無茶の時間を引き延ばしたのは、どう考えても私ですがね。

ベッドで横になっている小太郎さんを見ながら、そんなことを思います。

 

 

場所は、医務室。

と言っても、広い空間をいくつかの小部屋に仕切った物なので、個室のような物ですが。

この個室の中にいるのは、千草さんと月詠さん(寝てますが)、村上さんと千鶴さんです。

とは言え、私が『時(タイム)』で時間を止めたその空間で動けるのは、私と停止対象を外れている小太郎さんだけです。

 

 

なぜ、小太郎さんを外しているかと言うと・・・。

 

 

「皆さんにわからないように、治癒魔法をかけるためです」

 

 

誰に言うでもなく、そんなことを言います。

ただ、アルビレオさんの力加減が上手かったのか何なのか・・・重症では無いので。

放っておいても、いいのですが。

 

 

ちら・・・と、村上さんを見ます。

治します。

蛇の目のような物が描かれたお札を室内に貼り、外からの覗き見を防止します。

魔法具『蛇の目』。

 

 

「・・・魔法具『少彦名(スクナビコナ)』。ならびに、『教典』」

 

 

一つは、小さなカードをリング状の留め金で留めた、単語帳型魔法具『教典』。

一枚に一つ魔法の術式を書いておく事で、任意のタイミングでその単語の書かれた紙を切り取り、発動することができます。

今回発動するのは、この世界でも一般的な治癒魔法『治癒(クーラ)』。

 

 

とは言え、この魔法では出力不足。

そこでこの勾玉の形をした魔法具『少彦名(スクナビコナ)』の出番です。

所有者の治癒魔法を強化する力を持つ魔法具で、『治癒(クーラ)』の効果を底上げします。

治癒術の得意な木乃香さんに渡すか、スクナさんと仲の良いさよさんに渡すか、悩んでいるアイテムでもあります。

 

 

とにかく、これで小太郎さんは大丈夫です。

少し辛そうだった呼吸が、楽になったように感じます。

もっと強力な物もあるのですが、急激に治すのもアレなので。

 

 

最後に『ケットシーの瞳』の中から、お見舞い代わりの「武蔵野牛乳」を取り出して枕元に。

しずな先生も愛飲されている、とても美味しい牛乳です。

他意はありません。

 

 

さて、外に出て・・・『時(タイム)』解除。

 

 

数秒の沈黙の後・・・。

 

 

「・・・・・・うぉ!? し、試合はどないなったんや!?」

「こ、小太郎君が生き返った―――っ!?」

「いや、元々死んどらんのやけど・・・」

「あらあら、うふふ」

 

 

その後も、何やら騒がしい様子。

というか、負けたことに気付いた小太郎さんが、ショックを受けて窓から飛び出そうとした所・・・。

千草さんにハタかれ、村上さんに下半身を掴まれ、もの凄い惨事が起こったようです。

・・・葱って何のことでしょう?

 

 

「・・・まぁ、後は良いですかね」

 

 

戻りましょうか。

次は、私の試合ですし。

 

 

そう思い、小太郎さんの病室から離れようとした時。

別の部屋の扉が、開きました。

そこから・・・。

 

 

「ちょ、くーふぇ! その怪我じゃ無理だって・・・」

「・・・大丈夫アル」

「いや、だって左腕・・・あ」

 

 

そこから出てきたのは、左の手足に包帯を巻いた古菲さん。

ただ、胴着は着替えたようで、新しい物になっています。

それから、それを止めようとしているような明日菜さん。

姿が見えないと思ったら、こんな所にいたようです。

 

 

そして、扉を閉めた所で、2人は私に気付いたようです。

・・・数秒、古菲さんと見つめあった後、私は2人に背を向けて歩き出しました。

 

 

「アリア先生!」

 

 

足を止めます。

肩越しに振り向けば、古菲さんがどこか緊張した目で、私を見ていました。

とても、強い瞳でした。

 

 

ふ・・・と目を伏せて、私は再び歩き出しました。

何も言わず、今度は止めることなく、外へ。

・・・一回戦の長瀬さんと言い、まったく。

 

 

面倒な相手ばかりが、用意されますね。

 

 

 

 

 

Side 月詠

 

「・・・おおっ!?」

 

 

なんだか、起きなければいけない気がしましたぁ。

アリアはんが、面白いことになっとる気がしたんどすけど。

気のせいどすかぁ・・・なんやぁ。

 

 

くぁ・・・と欠伸をする。

今、何時どすか。あ、まだ午前中どすか。

 

 

「・・・寝ますぅ」

「ええ加減に、起きぃ!」

「あぅ?」

 

 

近くでいつもの目覚ま・・・もとい、千草はんの声がして、パチクリと目を開ける。

ん~・・・はて、うち、なんでこんな部屋で寝とるんやろ。

うちは、何や白い部屋で椅子に座らされて、毛布をかけられとった。

 

 

「あー、その・・・ごめんな、夏美ねーちゃん。約束、守れんで・・・」

「う、ううん、良いよ。小太郎君、すごく頑張ってたし・・・」

「せやけど・・・あ、貰うた石も、何や壊れてしもて・・・」

「あ、それ私も・・・」

 

 

・・・小太郎はんは、夏美はんと何事か話しとる。

なんというか、すごくバツの悪そうな顔してはるなぁ。

 

 

「・・・あんたが寝とる間に、いろいろあったんや」

「はれ? 千草はん、お仕事どないしたん?」

「・・・・・・き、今日の晩飯は、ハンバーグにしよな」

「わぁーい・・・なんでどすか?」

「あらあら・・・」

 

 

何や、大人っぽいおねーさんがクスクスと笑てはった。

確か、那波はんやったっけ。

はて、何があったんやろ。

 

 

「ふふ・・・小太郎君がどうしてあんなにまっすぐなのか、わかった気がします」

「うちとしては、まっすぐ過ぎて困るんやけどな」

「うちはー?」

「あんたは・・・いや、ある意味まっすぐなんかな・・・」

 

 

うふふ、なんだか褒められたような気がしますなぁ。

 

 

「夏美ねーちゃん・・・」

「・・・小太郎君」

 

 

あの2人、何してはるんやろー。

と言うか、うちらのこと、見えとるんやろか。

 

 

「・・・まだ早いで!」

「うふふ・・・葱かしら?」

 

 

葱は堪忍してくださいー。

・・・なんでか、言わなくちゃいけない気がしましたー。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

「それは本当ですか!?」

 

 

武道会の会場に行く途中、シスターシャークティーが携帯片手に何か叫んでいた。

表情が怖いから、たぶん何かが上手くいってないんだと思う。

もう、面倒事の雰囲気しかしないよ。

 

 

「はぁ・・・今のうちに逃げて良いかな?」

「怒られると思うケド・・・」

「わかってる。言ってみただけだよ」

 

 

肩車してるココネと、そんな会話をする。

逃げられないことは、私が一番良く知ってる。

逃げられた試しが無いんだもん。

 

 

「・・・無理です! 私の身体は一つしか・・・本当なら教会の仕事もしなくちゃならないんですよ!?」

 

 

と言うか、今年は異常に忙しいよね。

シスターシャークティーも、ここの所休み無しだもんね。

私だって、それなりにお休みは貰ってるのに。足りないけど。

 

 

「・・・わかりました。それは、こちらで何とか・・・」

 

 

その時、シスターシャークティーが、溜息を吐きながら携帯を切った。

なんとなく、憔悴しているようにも見える。

 

 

「な、何かあったんですか?」

「・・・高畑先生との連絡が取れなくなったようです」

「マジですか!?」

 

 

確か、高畑先生は、超りん捕まえに行ったんだよね?

それで連絡が取れないとなると・・・あれ、これ逆に捕まったフラグじゃね?

 

 

「・・・どうなったかがわかりませんので、それを調べろとのことです」

「は、はぁ・・・」

「しかし、私はクルト議員を迎えに行かねばなりません。間違っても貴女達に行かせるわけには・・・」

「・・・もしかして、私らで高畑先生探しに行けと?」

 

 

いやいやいや、そんなこと無理っスよ!

高畑先生って、この学園の№2ですよ!?

そんな人が捕まっちゃうような状況に突入とか、絶対無理です!

 

 

「・・・無理なのはわかっています」

「へ?」

「ですが一応会場へ行き、連絡が取れないか可能性を探してみてください・・・」

 

 

力の無い声で、シスターが言う。

いやぁ、可能性とか言ったって・・・。

そりゃ、ココネの特技ならもしかしたらだけどさ。

 

 

「どうしても無理な場合や危険な場合は、遠慮はいらないので逃げなさい」

「・・・へ?」

「なんですか、その顔は・・・」

「いや、まさかシスターの口から逃げて良いなんて言葉が出るとは・・・」

 

 

記憶にある限り、一度も無いんですけど。

 

 

「今回ばかりは、仕方がありません。指導側の不備です・・・責任は私が取りますから、危ないと感じたらすぐに・・・」

「なら、それは今だな」

 

 

不意に、声をかけられた。

でも、私達がいるのは、龍宮神社敷地内の建物の屋根の上。

こんな場所で、誰が・・・。

 

 

「た、たつみー・・・?」

「チケットの無い方の通行はご遠慮・・・って、お前、春日か・・・?」

 

 

そこに出てきたのは、ギターケースを抱えた黒フードのお姉さん(同い年だけど)。

龍宮さん・・・聞いた話だと、裏社会じゃ名の知れたスナイパーで。

しかも、冷酷非情・正確無比の殺し屋さんだとか。

 

 

さっそくの命の危機。

よし逃げよう。すぐ逃げよう。

シスターシャークティーに全部押し付けて、ココネ連れて逃げよう。

 

 

そう思って、こっそり後ろを窺ってみたら・・・。

ガション、と音を立てて、ターミ○ーターみたいなロボットが。

・・・・・・ジャケットについてる苺のアップリケは、何なんだろう。

 

 

「紹介しよう、今回の私の相棒、田中さんだ」

「誰!?」

「機体番号T-ANK-α3デス。ヨロシクオ願イイタシマス」

「意外と礼儀正しい!?」

「茶々丸の弟だ」

「マジで!? でも何だか納得!」

 

 

こ、こう言うのを何て言うんだっけ。

ぜ、前門の虎、後門の狼?

 

 

ど、どうしよう・・・!

 





月詠:
どうも~、神鳴流ど・・・やなかった。
えーと、月詠どす。
千草はんに「名前から言え」って言われとったの、忘れる所でしたぁ。
なんでうちがここにおるかと言うと、本編で寝てばっかやったから、働け言われましたぁ。
そんなわけで、よろしくどすぅ。
今回は、小太郎はんが何や頑張っとったみたいどすなぁ。
彼女さんに心配かけて、あかんことどすなぁ、もう。
はよう養生して、安心させたらなあきまへんえ?
・・・クルトはんかて、今回働いてへんのになぁ。


今回出てきた新規魔法具は、こんなもんどす。
蛇の目:「xxxHOLiC」から、司書はん提供どす。
教典:「とある魔術の禁書目録」から、水色はんどす。
少彦名:旅のマテリア売りはん提案どす。
どうも、おおきに。

ちょっと違うけど、これもどすぅ。
武蔵野牛乳:「とある科学の超電磁砲」から、hakiはんどす。
どうも、おおきに。


月詠:
ほな、次回は・・・えー。
アリアはんの試合どすなぁ。これは、起きとらなあかんわぁ。
相手の子は、良う知りませんけど。
そしたら、うち帰りますぅ。
千草は~ん、はようちを会場まで運んでください♡

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