魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第62話「麻帆良祭二日目・心」

Side クルト

 

解説役に利用されたのは気に入りませんが、収穫はありましたね。

 

 

会場の修理の様子を見ながら、私はそんなことを考えていました。

収穫と言うのは、もちろん2人のスプリングフィールドの件も含まれますが・・・。

何よりも、クウネルと名乗る、あのふざけた男の目的を知ることができたのですから。

 

 

「まぁ、わざと聞かせた可能性の方が高いですが・・・」

 

 

腐っても大戦の英雄の一角。

側で話を盗み聞いている私の部下の存在を、見抜けないはずもない。

だが、問題はそこではありません。

 

 

あの男が、ネギ君とアリア君に親の遺言を届けに来たのだと言う。

非常に、興味がありますね。

アリア君はどうだかはわかりませんが・・・ネギ君は、ナギを大層尊敬しているのだとか。

 

 

ならば、ナギからの遺言で間違い無いでしょう。

どうも、母親のことは知らないのではないか、と思われる節がありますからね。

とはいえ、断定はできませんね・・・アリア君が両親をどう思っているのか。

その情報が、まるで無いのですから。

 

 

「・・・茶々丸さん、とお呼びしても?」

「ええ、どうぞ」

「茶々丸さんは、アリア・スプリングフィールド選手のことを、どの程度御存じなのですか?」

「・・・それは、どう言う意味合いでの質問でしょうか」

 

 

おや、警戒されてしまいましたか。

情報によると、一緒に暮らしているとか・・・。

 

 

「いえ、何、まったくもって他意はありません」

 

 

とは言え、警戒してくれた方がやりやすい。

無警戒でいられる方が、事の真偽を見抜きにくいのでねぇ。

 

 

「ただ、噂によれば、ネギ選手は父君に憧れているのだとか・・・ならば、妹のアリア選手も、そうなのかと思いましてね」

「・・・そうした話は、耳にしたことがありません」

「なるほど。そうなのですか・・・これは失礼」

 

 

父親に憧れてはいないわけか。

と、なると・・・。

 

 

「お待たせして、申し訳ないどす」

「千草さん。小太郎さんのお加減はいかがですか?」

「ああ、もうすっかり元気や」

「それは良かったです」

 

 

その時、千草さんが戻ってきた。

背中には、相変わらず月詠選手を背負っている。

ただ、先ほどと異なり、起きているようですが・・・。

 

 

まぁ、いつまでも寝ているわけにはいきませんからね。

 

 

「クルト様」

 

 

その時、私にしか聞こえない声で、部下が囁いてきました。

しかし、私の部下の姿はそこには無く・・・声のみが、魔法で届いています。

 

 

「ふふ・・・何と言うことでしょう、優秀な私は、座りながらにして有益な情報を得てしまうのだから」

 

 

その部下の報告に、私は唇の形を歪めます。

ふふ・・・私が議場を離れれば、動くかとは思っていましたが。

 

 

メルディアナ魔法学校が、関西呪術協会と同盟した。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『二回戦、第二試合を始めます!』

 

 

朝倉さんの声を聞きながら、リングの中央へ。

先の試合の破損は、すでに修復されています。

何と言うか、麻帆良大の工学部はもう学生レベルではありませんね。

 

 

「・・・どこかで技術レベルがインフレしているのですよね・・・」

 

 

魔法を無しにしても、麻帆良の特異性は凄い物があります。

全ては、世界樹の為せる技でしょうか。

そんなどうでも良いことを考えながら、私は目の前に立つ古菲さんを見つめています。

 

 

どこか緊張したような、何かを考えているような古菲さんを。

・・・『ギアス』の痛みに襲われていない所を見ると、どうやら魔法関係では無いようですが。

そのような身体で、何を考えているのやら・・・。

 

 

『それでは、二回戦、第二試合・・・Fight!』

 

 

瞬間、古菲さんが私に突撃してきました。

ぼっ・・・と言う、空気を切るような音が聞こえます。

それはあまりにも直線的で、カウンターに相応しいタイミング。

 

 

迎撃しようと、左手を前に突き出した所で・・・。

びたっ・・・と、古菲さんが動きを止めました。

な・・・?

 

 

一瞬の戸惑い。

その間に、動きを再開した古さんが、私の左手に沿うように己の左手を突き出してきます。

直後、腹部に衝撃。

見れば、古菲さんの右拳が。

しかし、ダメージはゼロ。『歩く教会』の防御は抜けません。

 

 

「む・・・やはり、駄目アルか」

「・・・発想は、悪くありませんでしたよ」

 

 

古菲さんの左手を掴めば、骨折の痛みか・・・かすかに、顔を歪めました。

 

 

「・・・『活力の炎(ホワイトホワイトフレア)』」

 

 

カチッ・・・と、残りの手にライターを創り出し、一瞬だけ白い炎を発生させます。

その炎を、古さんの左腕に掠めさせます。

すると・・・。

 

 

「い、痛くなくなったアル。治ったアルか?」

「ええ、まぁ・・・」

 

 

このまま、倒してしまっても良いのですが。

怪我を理由に言い訳されても、困りますので。

 

 

「では・・・失礼します」

 

 

躊躇せず、『闘(ファイト)』と『気(オーラ)』を発動させます。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

『二回戦、第二試合・・・Fight!』

 

 

朝倉の声と同時に、私はアリア先生に肉薄したアル。

アリア先生も、それを見て、カウンターの構えをとったアルが・・・。

 

 

間合いに入る直前で、私は動きを止めた。

 

 

アリア先生の困惑した様子が、伝わってきたネ。

まさか、本当に戸惑うとは思っていなかったアルが・・・。

 

 

―――アリア君って、意外と突発的なことに弱かったりするよ~?

 

 

以前、何度か瀬流彦先生に相談した時のことを、思い出したアル。

別にアリア先生のことを相談したわけでも、弱点を教えてもらったわけでも無いネ。

ただ話の流れで、聞いただけ。

 

 

とにかく、チャンス。

ダメージの少ない右腕で、渾身の一撃を!

 

 

『炮拳(パオチュアン)』!

 

 

ズンッ・・・と、アリア先生のお腹に、私の拳がめり込んだ。

アリア先生の身体に、かなりの衝撃が走ったのを感じたアルが・・・。

ダメージを受けた様子は、無いネ。

 

 

「む・・・やはり、駄目アルか」

「・・・発想は、悪くありませんでしたよ」

 

 

静かな口調。

アリア先生が、私の左手を軽く握ったアル。

それだけで・・・私の左腕に、鈍い痛みが広がる。

 

 

その時、アリア先生の手の中に、一瞬だけ白い火が灯ったアル。

それが、私の左手を掠めた直後・・・。

 

 

「い、痛くなくなったアル。治ったアルか?」

「ええ、まぁ・・・」

 

 

口元を微かに緩めて、アリア先生が言う。

私の左腕は、もうちっとも痛くなかったアル。

完璧に、治ったアル。

 

 

これなら、なんとか戦えるかも・・・。

 

 

「では・・・失礼します」

 

 

次の瞬間、アリア先生の身体から、強い気を感じたアル。

なんとか勝てるかも・・・とか言うレベルでは無かったアル。

だからと言って、諦めるわけにはいかないアル。

 

 

 

 

 

Side ドネット

 

関西呪術協会との会談は、上手くいきつつある。

もちろん、全てで上手くいっているわけでは、ないけれど・・・。

 

 

目の前に座る関西の長、近衛詠春を見ると、彼はにこやかな笑顔で私を見た。

温和さを滲ませた表情。

しかし、それをそのまま受け取ることはできない。

 

 

何せ彼は、弱体化した組織を率いながら、その組織の存在感を増大させている存在なのだから。

ここの所の関西呪術協会の伸長は、目を見張る物があるわ。

勢力的には、弱体化しつつあるはずなのに・・・。

魔法世界にまで、その手を伸ばしてきているのだから。

 

 

「では、この協定書を持ち帰り、しかるべき機関において承認され次第、具体的な協議に入ると言うことで・・・」

「ええ、お互いに良い関係を築ければと思っております」

 

 

今、私と詠春殿が署名した協定には、メルディアナと関西呪術協会の今後の関係について記されている。

人材交流のための短期留学生の相互受け入れ、情報交換と意思疎通を目的とした定期協議の合意、不測の事態に備えたホットラインの創設など・・・。

これまで何の関係も持たなかった組織同士が合意するには、あまりある内容を含んでいる。

 

 

「我々メルディアナ魔法学校は、早期に東洋魔術・・・陰陽術の学科開設を約束いたします」

「こちらも、そちらの人員を受け入れやすいよう、最大限の配慮を約束しましょう」

 

 

現在、留学生を受け入れるための機関がお互いに存在しない。

なので、今年度中に何らかの形を示すことが定められている。

まぁ、すでに合意した物の細かい点を詰めているだけなので、そこまで驚くことでは無いわ。

 

 

「我々メルディアナは・・・強大で、繁栄し、成功し、地域で一層の役割を果たす関西呪術協会の存在を歓迎しています」

「私達も、メルディアナ魔法学校が旧世界における一勢力として、平和と繁栄、そして安定に努力することを歓迎します」

 

 

とは言え、これは表向きの話に過ぎない。

ウェールズ経由で伝わっている話だと、アリアドネーと関西呪術協会の接触では、アリアに関する問題については、進展が無かったとのこと。

ならば、ここで何らかの妥結を得なければならないのだけれど・・・。

 

 

「詠春殿、よろしければ一度・・・メルディアナへおいでください。歓迎いたしますわ」

「ふむ・・・考えておきましょう。両組織の友好のためとあれば・・・」

「その際には・・・」

 

 

目下の所、我々はスプリングフィールド兄妹のメルディアナへの帰還、並びに再教育、再配置を望んでいる。

だけどそのためには、彼の協力を得なければならない。

こちらが実を取り、彼らが名を取る。

そうした形に持っていければ・・・。

 

 

「その際には、ぜひ、我が校の卒業生にお会いできればと思っておりますわ」

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

卒業生・・・私が知っているメルディアナの卒業生と言えば、ネギ君とアリア君、後はアーニャ君だ。

この場合は、アリア君のことを指していると見て、間違い無い。

関西の利権に直接絡んでいる卒業生は、アリア君だけだろう。

 

 

「卒業生、ですか・・・はは、我々が貴女に会わせられる貴校の卒業生がいれば、の話ですが」

「・・・ふふ」

 

 

あちらの意図は、私にもよくわかっている。

セラス総長との通信によれば、メルディアナはネギ君とアリア君を麻帆良から引き離したがっていると言う。

元々、麻帆良かアリアドネーか、と言う選択肢だったようだ。

 

 

元老院の影響力を遮断できる場所は、他には考えにくいだろうことは、私にもわかる。

しかし今では、アリア君は関西にとっても重要な人物だ。

穏健派の中にはアリア君を引き合いに出して、子女を育てている者も出始めているのだ。

 

 

「我々メルディアナとしては・・・可能な限り早期に、この問題について麻帆良と協議を持ちたいと、考えています」

「・・・そうした状況には、理解を示しましょう」

「ありがとうございます。その際には、ぜひともそちらのご助力をいただきたいのですが・・・」

 

 

助力。

とどのつまりは、アリア君に行動の自由を、と言うことなのだろう。

しかしそうなると、千草君も魔法世界への着任が確実になっている今、木乃香を後見してくれる存在がいなくなってしまう。

 

 

関西に戻したい所だが、残念ながら無理だ。

私はまだ、関西の全てを掌握し切れていない。

先日も地方で小さな反乱が起き、それを鎮めた所なのだから。

 

 

とは言え、アリア君も含め、木乃香をいつまでも麻帆良に置くのも問題だ。

そうなると、アリア君について移動させるのも悪くは無いのかもしれないが・・・。

 

 

「・・・クルト議員は、この問題について何と?」

「議員は、今の所は何も・・・」

 

 

クルト・ゲーデル。

正直な所、彼がどう動くのかがわからない。

一応、裏で連絡は取っているものの・・・。

 

 

彼次第で、ネギ君やアリア君の今後が決まるような気がしてならない。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「『南斗白鷺拳・誘幻掌』」

「ぬ・・・!」

 

 

特殊な足運びで、古菲さんを中心に、円を描くように動きます。

幻術に似た効果を発揮するこれは、古菲さんの視神経を幻惑し、私の姿を捉えにくくしてくれます。

古菲さんは目を細め、私を捉えようとしますが・・・。

 

 

「『南斗紅鶴拳・血粧嘴』」

 

 

古菲さんの背中めがけて、両手の指を嘴に見立てて、素早い突きを連続で繰り出します。

直前で私の所在に気付いた古菲さんですが、『速(スピード)』まで込めた私の拳速にはついて来られません。

 

 

機銃掃射のような私の突きが、古菲さんを襲います。

古菲さんはガードを固め、必死にそれをやり過ごそうとしていました。

 

 

「・・・ふっ」

 

 

私はその間に懐に飛び込み、右の肘で古菲さんの両手のガードをかち上げました。

古菲さんも即座に反応し、逆にその両手を、手刀として放ってきます。

くんっ・・・と身体を下げ、足払い。

 

 

「ぐっ・・・」

「・・・魔法具『氣(フォース)』」

 

 

しゅ・・・と、目の前に新しいカードを創ります。

このカードは、私に『仙術』と言う術式の使用を可能にするカードです。

発動条件として、『気(オーラ)』のカードを一定時間使用して、気を蓄える必要がありますが。

 

 

「『弾・双掌砲』」

「・・・っ!?」

 

 

ぐっ・・・と、両手で押し出すように、古菲さんのお腹に触れます。

それだけで、私の中に蓄えられた気が伝わり・・・古菲さんの身体を、吹き飛ばしました。

本来なら、古菲さんの身体をリング外にまで飛ばすはずだったのですが。

 

 

「・・・ぐ、ぬ・・・!」

 

 

古菲さんは、軽く吹き飛んだ後、転がりつつも、リングの端で止まりました。

膝をついて、お腹を押さえ・・・荒い呼吸で、こちらを見ています。

ふと、自分の右手をみれば、かすかに残る衝撃の感触。

 

 

古菲さんは吹き飛ばされる直前、私の腕に拳を当て、技の威力を軽減しました。

流石は、一般人最強と言った所でしょうか?

しかし、技の勢いを完全に殺すことはできなかった。

 

 

『あ・・・圧倒的――――っ!? 子供先生、チャンピオンを圧倒――――っ!』

 

 

とは言え、古菲さんのファンにこれ以上嫌われるのもアレですし。

そろそろ、終わりにしましょう・・・。

 

 

「つ・・・」

「はい?」

「強いアルな、アリア先生は・・・」

 

 

感慨深そうな、古菲さんの言葉。

 

 

「・・・別に私は、強くなどありませんよ」

 

 

強さ、などと言う物を、私は深く考えたことがありません。

特に今の私は・・・麻帆良に来た時ほどの無茶をしなくなった今の私は。

家族に囲まれ、依存とすら言える関係を押し付けてしまっている今の私は、おそらく誰よりも弱い。

 

 

エヴァさんにも、怒られてばかりです。

 

 

「誰よりも狭量で・・・泣き虫で、我儘な・・・ただの人間の小娘です」

「ふふ・・・ちっとも、わからないアル」

「そうですか」

 

 

まぁ、わかってもらおうとも思いませんが。

古菲さんは、どこか穏やかな笑みを浮かべて、ゆっくりと立ち上がりました。

そのまま、腰を落とし・・・構えを。

 

 

私も、それに対応するように構えを。

 

 

『り、両者の間に、緊迫した雰囲気が・・・!』

「・・・く、ただ・・・」

「は?」

「・・・それだけ!」

 

 

何かを言ったかと、気にかけた瞬間。

古菲さんが、すさまじい勢いで、飛び込んで来ました。

すかさず、右拳でカウンターを入れます。

 

 

ヂッ・・・と、拳が古菲さんの頬を掠めるのを感じました。

直後、腹部に再び、しかし先ほどよりも強烈な衝撃が。

ぐっ・・・と、身体が浮くのを感じます。

 

 

―――ドボンッ。

 

 

次いで、冷水の感触・・・。

どうやら、私は場外に飛ばされたようですね。

腹部には、痛みもダメージも無いものの、衝撃の感触が残っています。

衝撃だけで『歩く教会』装備の私を、ここまで飛ばすとは・・・。

 

 

そっと、打たれたお腹に、触れます。

こぽ・・・と、唇から、空気が漏れます。

水の中にありながら、まだ熱が残っている気がします。

 

 

・・・何かを感じる、一撃だった。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

「強いアルな、アリア先生は・・・」

 

 

本当に、アリア先生は強いアル。

揺るがない気。静かな力。

どうしたら、そんな域に達することができるのか・・・。

 

 

私は、弱いアル。

揺らいで、固まらない気。無駄の多い動き。

さらに言えば、心が定まらない。

 

 

「・・・別に私は、強くなどありませんよ」

 

 

だから、アリア先生の言葉は、私には意外だった。

アリア先生が強くないのなら、私は?

 

 

「誰よりも狭量で・・・泣き虫で、我儘な・・・ただの人間の小娘です」

「ふふ・・・ちっとも、わからないアル」

「そうですか」

 

 

少しも、わからないアル。

わからないことばかりネ・・・。

 

 

師父の言葉も、アリア先生の言葉も。

それに・・・。

 

 

―――う~ん、僕にもわからないや。

 

 

瀬流彦先生の言葉も。

 

 

―――でも、そうだね。もしアリア君と話がしたいのなら。

 

 

構えを、とったアル。

アリア先生も、構えを。

 

 

―――古菲君が、自分で選んだことを、ただ・・・。

 

 

・・・貫く、ただ。

 

 

「・・・それだけ!」

 

 

私は、アリア先生の懐に飛び込んだ。

アリア先生の手が、カウンターを入れてくるのが見えたアル。

見事なタイミング、でも・・・。

 

 

八極拳・左右硬開門!

 

 

身体を小さく縮め、両手を折り曲げて。

カウンターに、カウンターを合わせる。

私に残された全ての気を、ぶつけた。

 

 

―――ドボンッ。

 

 

気が付いた時には、アリア先生の姿が消えていたアル。

朝倉が、何やら騒いでいるアルが・・・。

 

 

どうなったアルか?

 

 

―――ドボンッ。

 

 

次の瞬間、目の前の水の中から、何かが飛び出してきたアル。

それは、空中で一回転すると、すたっ・・・と、リングに降り立ったアル。

 

 

もちろん、アリア先生だったアル。

 

 

さっきまでの白い服じゃなくて・・・。

黒い、タイトな服に変わっていたアル。

タイトと言っても、フリルのついたミニワンピースみたいな衣装。

膝まである大きな黒いブーツからは、言いようも無い力を感じるアル。

 

 

『あ・・・アリア選手の服が変わった――――っ!?』

「修道服の下に着ていただけですよ」

「あ・・・そうだったアルか」

「ブーツは、今履きましたけどね」

 

 

いやぁ・・・それにしても、どうするアルか。

さっきの一撃で、力を出し切ってしまったアル。

 

 

「ええ、見事な一撃でしたよ」

 

 

にこり、と微笑んで、アリア先生が言ったアル。

・・・目は、全然笑って無いアルが。

 

 

「まさか私も、ここまでとは思いませんでした。そしてだからこそ、あえてこの言葉を贈りましょう」

「な、何アルか?」

「・・・あは」

 

 

ニッコリと、笑みを深くするアリア先生。

・・・師父、ここで力尽きる不詳の弟子を許してほしいネ・・・。

 

 

「上を、知りなさい」

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「ゆ、行方不明のお父様を・・・ね、ネギ先生にそんな過去が・・・!」

「アリア先生も、可哀想・・・」

「お母さんも、いないみたいだし・・・」

 

 

・・・事情は、良く知らないが。

アリア先生の過去が、どうも麻帆良中に喧伝されているらしい。

私も機械には詳しくないので、全体を把握し切れてはいないが。

・・・これからの時代、パソコンぐらい扱えるようになるべきだろうか・・・。

 

 

このちゃんは午前の仕事を終え、今、着替えに行っている。

ここから茶々丸さんの野点の時間までは、自由な時間だ。

 

 

私も普通の学生として、学園祭を楽しむ予定だ。

本当なら、麻帆良に来ていると言う長に、挨拶をしておくべきなのだろうが。

長が政治的立場で来ている以上、「普通の人間」である私や、このちゃんが軽々に会いに行くことはできない。

 

 

「この、雪広あやか・・・一生の不覚っ・・・!」

「ただの天才少年&少女だとは、思って無かったけど・・・」

「2人とも水臭いなー、言ってくれても良いのに」

 

 

言ってもどうにもならないから、言わなかった・・・と言う風には、考えないのだろうな。

あるいは、言えない理由があるとか。

まぁ、そこが3-Aの長所であり、短所なのだろう。

 

 

しかし、このまま放置してもおけないだろう。

他ならぬ、アリア先生のことだ。

このちゃんの後見人。

個人情報の漏洩と言う点からも、看過できない。

いったい、誰がこんな情報を・・・?

 

 

知っている人間は、限られている。

その中で、こんな情報を流せる人間がいるとすれば・・・。

 

 

「・・・少し、調べてみるか」

 

 

とは言え、私は動けないし、関われない。

関わるべきでもない。

私は、このちゃんを守る剣だ。

しかし・・・。

 

 

懐から、式神の札を取り出す。

ぽんっ・・・と出てきたのは、私の式神。

 

 

「ちびせつな、スタンドアローンモードです♡」

 

 

当然、一般人に「ちびせつな」は見えない。

 

 

「・・・アリア先生の周辺を見てきてほしい。少し、心配なことがある」

「りょーかいです♡」

 

 

まぁ、情報収集が得意な個体では無いが。

アリア先生が心配だ。

あの人は、意外と抜けている所があるから・・・。

 

 

「せっちゃーん♪」

「このちゃん」

 

 

こちらへと駆けて来るこのちゃんの姿を見て、笑みを浮かべる。

このちゃんの柔らかな笑顔を見ると、自然と顔が緩むのを感じる。

 

 

このちゃんは私を見ると、キョロキョロと周りを見て・・・。

にこっ、と微笑んだ。

 

 

「せっちゃん」

「・・・はい?」

「せっちゃんは、優しいな」

 

 

一瞬、意味がわからなくて・・・少し考えて、得心した。

このちゃんには、敵わない。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

「ふ・・・」

 

 

先ほどまで、動揺した表情を浮かべていた春日が、何かを思い出したかのように笑みを浮かべた。

側の指導員・・・シスターシャークティーを押しのけて、前に出てくる。

 

 

その表情は、自信に満ち溢れていた。

なんだ・・・?

私に勝てる算段でもあるのか?

 

 

「自分に勝てるはずが無い・・・そう思ってるね、たつみー?」

「次にたつみーと呼んだら、引き金を引くことにしようか」

「訂正するから撃たないでください、龍宮さん」

 

 

・・・どうやら、私に勝てる算段は皆無らしい。

そのまま、ゆっくりと私に近付いてきて・・・。

 

 

しゅばっ、と、私に武道会のチケットを二枚渡してきた。

・・・何?

 

 

「はい♡ チケット♪ チケットがあるなら、通って良いんだよね?」

「・・・あ、ああ」

「いやー、双子に貰っておいて良かったよ」

 

 

やられた・・・。

 

 

「悪いね、たつみー♪」

「田中さん、春日を」

「了解致シマシタ」

「だらっしゃぁ――――っ!」

 

 

田中さんをけしかけた所、春日はかなりの超スピードで駆けて行った。

早いな・・・だが。

 

 

「バカな、私の逃げ足について来るだと!?」

「追尾モードデス」

「ミソラ・・・」

「任せて、ココネ。逃げ足では世界最速を自負しているから――――っ!!」

 

 

そのまま、見えなくなった。

・・・春日、認識を改めよう。

あれは、なかなか食えない奴だ。

 

 

自分の指導員を置き去りにしている所とかは、なかなかどうして。

強かじゃないか、春日。

 

 

「・・・注意しなくて良いんですか、シスターシャークティー?」

「構いませんよ。貴女のような方が守っている武道会場・・・おそらく、麻帆良のどこよりも安全でしょう」

「嬉しいことを、言ってくれる」

「それに・・・私は、信頼しているのですよ。これでもね」

 

 

十字架を片手に持ちながら、シスターシャークティーが笑みを浮かべた。

 

 

「あの子の、逃げ足の速さだけは」

「なかなか、奇妙な信頼だことで」

「毎日あの子を追いかけ回している私が言うのです・・・間違いありませんよ」

 

 

私も、愛用の銃を手に握る。

 

 

「貴女達は、あの子を捕らえられない」

 

 

シスターシャークティーのその言葉を最後に、私は引き金を引いた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『ワ・・・1!』

 

 

朝倉さんのカウントが聞こえます。

試合時間も、残り僅かですから・・・結構、粘られましたね。

 

 

「死ぬかと思ったアル・・・」

 

 

私が立っている場所のすぐ横には、古菲さんが倒れています。

身体も、胴着もボロボロ。

後が面倒なので、左腕もまた折らせてもらいましたし。

 

 

カツンッと、黒のブーツ・・・その名も、『黒い靴(ダークブーツ)』の踵を打ち鳴らします。

これは、脚力を増強させるだけでなく、短時間であれば飛翔することもできる特殊なブーツです。

全てが真っ黒なデザインのブーツ。

水の中から飛び出した後は、蹴り技で古菲さんを翻弄させていただきました。

 

 

『・・・4!』

「アリア先生は、強いアルなー・・・」

 

 

どこかすっきりとした顔で、古菲さんは言いました。

その顔には、笑顔すら浮かんでいます。

 

 

「・・・ん。決めたアル」

 

 

古菲さんは、右腕で目を覆うと、吐き出すようにして言いました。

 

 

「故郷に帰るネ」

 

 

ネギ坊主達にも話さないといけないアルなー、と、古菲さんは言いました。

故郷に帰る・・・麻帆良を出ると言うことでしょうか。

 

 

「私はまだまだ、修行不足ネ。誰かに物を教えたり、誰かと戦える程では無い・・・それが、良くわかったアル」

「・・・そうですか」

「とりあえず、師父とも相談して・・・中学くらいは、こっちで卒業するアルよ」

『・・・7!』

 

 

麻帆良女子中を卒業した後、故郷へ。

その場合、また面倒な進路になりそうですね。

 

 

「・・・向こうの学校と、連絡を取らないといけませんね」

「何でアルか?」

「さぁ、どうしてでしょうね」

 

 

古菲さんの言葉には答えず、そのまま背を向けました。

歩いて、古菲さんから離れます。

ゆっくりと。

 

 

「・・・アリア先生」

 

 

答えない。

 

 

「ありがとネ・・・」

 

 

私が貴女に教えられることは、たぶん、何も無いから。

後は・・・貴女の師父に、教えてもらえば良い。

 

 

『・・・10! アリア選手、準決勝進出―――――っ!』

 

 

その先にはきっと、貴女だけの答えがあるはずだから。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

アリア先生の試合の後、マスターの試合が行われました。

ただ、対戦相手の高畑先生の姿がありません。

と言うのも・・・彼は現在、超さんによって囚われているからです。

 

 

先ほど、超から連絡がありました。

よって・・・。

 

 

『えー、大会規定により・・・自分の試合に5分以上遅刻した選手は、失格となります。よって、準決勝第一試合は、マクダウェル選手の不戦勝となります!』

 

 

マスターが、不戦勝で決勝進出を決めました。

しかし、なぜ超は高畑先生を捕縛したのでしょうか。

 

 

「しっかし、ええんかコレ?」

「超からは、そのまま続けて構わないとの連絡が来ています」

 

 

マスター側のトーナメント参加者は、ほとんどが敗退か棄権です。

なのでマスターは、一度の勝利で決勝まで進んでしまったことになります。

本来なら、偏りの是正のために、何らかの対策を講じるべきなのでしょうが・・・。

 

 

「超は、そのままの結果を受け入れると言っています」

「さよか・・・ま、うちはどうでもええけどな。こんな大会」

「何なら、うち出ますえー?」

「やめとき・・・今度はあんたを庇わなならんような気がする」

 

 

月詠さんが棄権したのは、ある意味やむを得ない形でしたが。

しかしマスターが相手となると、今度は立場が逆転しかねません。

 

 

そう言えば、スクナさん達が戻って来ませんね。

 

 

『10分のインターバルを挟んだ上で、続いて準決勝第二試合を開始します!』

「いやぁ、席を外してしまって申し訳ない」

 

 

その時、クルト議員がにこやかに笑いながら、戻ってきました。

さも当然のような顔をしていますが、ここには元々貴方の席はありません。

 

 

「・・・どこ行っとったんや?」

「いえ、何・・・部下がヘマをしたようで、対応に追われていたのですよ。いや、お恥ずかしい」

「まぁ、あれだけ数引き連れてくればな・・・」

「普段は、あれ以上の人数を引き連れていますが」

 

 

千草さんがクルト議員を見る目には、まるで信用の色が見えませんでした。

私としても、この方をむやみに信じるのは、危険なような気がしているのです。

そもそも、彼は何を求めてここに来たのか・・・。

 

 

妖しく笑うその顔の下で、何を考えているのか。

私はそれを、知らねばならないような、そんな気がするのです。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

・・・ふん、タカミチめ。

どうやら、バカをやったらしいな。甘ちゃんのあいつらしい。

 

 

そして同時に、超鈴音はタカミチよりも上位にいると言うことがわかった。

 

 

まぁ、私ですら手玉に取ろうと言うのだ・・・そして、あいつは私とは別の意味で悪人だ。

本来であれば、少しは好ましく思う性質なのだがな。

 

 

しかし、超鈴音。

普通で無いにも程がある女だ。奴はいったい、どこであれ程の・・・。

 

 

「決勝進出、おめでとうございます・・・キティ」

「その名で私を呼ぶな・・・それと、お前に労われても、全く嬉しくも無い」

「それは、残念・・・」

 

 

私を出迎えたアルは、全く残念そうで無い口調で、そう言った。

その隣では、アリアがかなり嫌そうな表情を浮かべている。

どう言う理由かは知らないが・・・。

アリアの頭の上のチャチャゼロがナイフの刃をアルに向けている所を見ると、碌でもない理由なのだろう。

 

 

「原因は、100%お前だ」

「おやおや・・・嫌われた物ですね」

 

 

むしろ、好かれる努力を何かしたのかと言いたい。

まぁ、そんなことはどうでも良い。

 

 

「さて・・・次は、お前とアリアの試合なわけだが」

「ええ、そうですね」

「少しでも妖しい素振りを見せれば・・・貴様の本体を探し出して殺す」

 

 

結局の所、こいつが何をしたいのか、さっぱりわからない。

何でも、「友との10年来の約束」とやらを果たしに来たらしいが。

正直な所、全く信用できない。

 

 

アリアが、こいつに勝てる自信があるようだから、任せようかと思ったのだが。

 

 

「もし、アリアに一筋の傷でもつけよう物なら・・・ここにいる全員でお前を潰しにかかると思え」

 

 

私の言葉に、チャチャゼロ、晴明が反応した。

チャチャゼロは両手の刃物を打ち鳴らし、晴明はそのガラスの瞳をアルに向けた。

ちなみに晴明は、アリアの腕に抱えられている。

 

 

長瀬楓は、いつの間にかどこかへ消えてしまった。

どこに行ったかは知らんが・・・。

・・・案外、そこらに隠れているかもしれんが。

 

 

「・・・良いでしょう。おそらく、私は彼女に指一本触れませんよ」

「信じられんな」

「おやおや・・・」

 

 

肩をすくめて、アルは私の横を通り過ぎて、リングに上がって行った。

ふん・・・全く、嫌な性格をしおって。

私は、アリアの方を見ると。

 

 

「そんなわけだ。殺して構わん」

「まぁ、幻影ですから死にませんがね」

 

 

アリアは苦笑すると、私に晴明とチャチャゼロを渡してきた。

どうでも良いが、こいつらはなぜ自分の足で動かんのだ?

人前だからか?

 

 

「・・・行ってきます」

「ああ、行って来い」

「ナニカサレタラ、ヨベヨ」

「呪の対象は、彼奴の本体で良いのかの?」

 

 

思い思いの言葉を告げて、アリアを見送った。

それにアリアは、また少し笑って・・・リングに上がって行った。

 

 

・・・それにしても、良く似合っている。

『歩く教会』の下の服は、私の服を貸しているのだ。

アリアは、フワフワした服は多く持っているが、シャープな服は少ない。

 

 

なので、私が今着ている服と似たような・・・タイトでありながら可愛さを失わないデザインの服を用意した。

うむ、実に良い。

 

 

「・・・ゴシュジンモ、マルクナッタナ」

「そう言う物かの」

 

 

うるさいぞ、お前達。

 

 

 

 

 

side 夕映

 

「そんなわけで、また左腕を折られたアルよ」

「いや、どう言うわけなの!?」

 

 

本当に、どう言うわけで治された左腕をもう一度折るのでしょう。

のどかとネギ先生が眠る横で、私はそんなことを考えたです。

この部屋にはベッドが二つあり、一つをのどかが、もう一つをネギ先生が使っているです。

 

 

くーふぇさんは、アリア先生との試合結果の報告に来ているです。

どうも、負けた様なのですが・・・。

 

 

「ほ、本気なのくーふぇ。故郷に帰るって・・・」

「うむ。卒業したら戻るつもりネ。実はもう、昨日の内に手紙を出しておいたアル」

「そうなの!?」

 

 

明日菜さんが、驚いたような声を上げますが・・・私も驚いたです。

まさか、すでに行動していたとは。

流石は、くーふぇさんと言った所でしょうか。

 

 

「もう一度、修業をやり直すアル」

「で、でも、くーふぇ、もう十分に強いじゃない」

「いや・・・まだまだアル。私は今日、それを確信したネ」

 

 

どこか穏やかに、それでいて固い決意を滲ませて、くーふぇさんが言ったです。

明日菜さんは「でも・・・」と、納得できていないような、そんな表情。

でも・・・。

 

 

でも、麻帆良から離れると言う選択肢は、悪くないかもしれないです。

 

 

眠るのどかを見ながら、そんなことを思ったです。

考えれば考える程に・・・そして、異常さを自覚した今だからこそ、わかるです。

ここは・・・いえ、3-Aは、どこかおかしいです。

 

 

おかしくない所が無いくらいに。

 

 

「・・・はぁ」

 

 

でも、残念ながら、そこまで身軽に動けるほど、ことは簡単では無いです。

私はただの中学生・・・未だ自分の進退を自由にできる年齢では無いのですから。

 

 

でも、ネギ先生が倒れているこの状況は、次善ではあるですが、好都合かもです。

超さんの危険な計画に、関わることを避けることができるのですから・・・。

 

 

 

「・・・お邪魔するネ」

 

 

 

だから、その声を聞いた時、私は恐怖したです。

 

 

「おや・・・ネギ坊主はまだお眠かネ?」

「ち・・・」

「超さん!?」

 

 

どこからともなく現れた超さんは、私達を見回した後・・・。

にこりと、微笑みを浮かべたです。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『えー・・・それでは、準決勝第二試合です!』

「すでにご存じかもしれませんが・・・私は、貴方の父、千の呪文の男(サウザンドマスター)・・・ナギ・スプリングフィールドの友人です」

 

 

申し訳ありませんが、大して興味がありませんね。

きぃん・・・と、左眼の『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を発動させながら、そんなことを考えました。

それを悟ったわけでも無いでしょうが・・・彼は、一枚のカードを手にしました。

 

 

パクティオーカード。

 

 

『何やら、雰囲気がすでに緊迫しているようなので・・・早速、準決勝第二試合!』

 

 

ざぁ・・・と、アルビレオさんの周囲に、大量の本が出現しました。

ごきん、と右手を鳴らして、いつでも飛びだせるように身体に力を込めます。

 

 

『こ、これは・・・先の試合でも、似たような現象が・・・』

 

 

あれが、アーティファクト『イノチノシヘン』ですか。

右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』で解析しつつ、観察します。

 

 

あのアーティファクトの効果は2つ。

一つは、特定人物の身体能力と外見的特徴の再生。

ただ、使用者よりも強い存在の再生は数分に限定されます。

しかしその条件を無しにしても、なかなか強力なアーティファクトです。

そして、もう一つは・・・。

 

 

「この本・・・『半生の書』を作成した時点での、特定人物の性格・記憶・感情を全て含めての、『全人格の完全再生』です」

 

 

アルビレオさんは、そう言って一冊の本を手にしました。

フードから覗く口元は、笑んでいるようにも見えます。

 

 

「そして10年前・・・私に、まだ見ぬ子供ため、言葉を残しておきたいと・・・ある方が、頼んできました」

「ある方・・・?」

「我が友ナギは、息子に向けて・・・そしてもう一人は・・・娘に向けて」

 

 

ふわ・・・と、手にした本を、宙に浮かべるアルビレオさん。

その本の表紙に、書かれた名前は・・・。

 

 

「時間は10分・・・再生は一度限りです」

「・・・!」

 

 

しゃがっ・・・と、身を低くします。

さらに、『闘(ファイト)』『気(オーラ)』『力(パワー)』『速(スピード)』を重ね掛けました。

余計なことをされる前に・・・仕留めます!

 

 

『Fight!』

 

 

行きます!

しかし、飛び出した瞬間、アルビレオさんの姿が光に包まれ・・・大量の羽毛が、顔にかかりました。

 

 

「わ、ぷ・・・!」

 

 

慌てて羽毛を払いのけますが・・・でも、その時には。

何羽もの白い鳥を見送る、「誰か」の姿がありました。

 

 

フードの下からでも、それがアルビレオさんで無いことはわかります。

たおやかで・・・それでいて、凛とした「誰か」。

その「誰か」が、そっと・・・その細い指先で、顔を隠しているフードに手をかけた。

 

 

・・・やめて。

見せないで。

 

 

でも、身体は動かない。

硬直してしまったかのように、動きがとれなかった。

だけど、顔が歪むのを感じる。

 

 

「主(ぬし)が・・・」

 

 

その「誰か」の声が、耳に届きました。

叫びたくなる。でも、声が出ない。

 

 

ぱさっ・・・とフードが落ち、「誰か」の顔が、視界に入る。

眼を閉じれば良いのに、それができなかった。

金色の、長い髪。

その人は私を見ると、目を細めて・・・。

 

 

「・・・主(ぬし)が、アリア・・・かの」

 

 

逃げ出したい気分です、シンシア姉様。

 

 

 

アリアは、この人にだけは、出会いたくなかった。

 




茶々丸:
茶々丸です。皆様、ようこそいらっしゃいました(ぺこり)。
今回は、アリア先生の二回戦から準決勝までのお話です。
随所での動きも含めて、油断できない状況が続いております。
さらに、アリア先生にとって、出会いたくない誰かと出会ってしまったようです。


今回、新規で使用された魔法具等は、以下の通りです。
活力の炎:ゾハル様提供、マテリアルパズルより。
黒い靴:ゾハル様・黒鷹様提供、ディーグレイマンより。
氣:鈴神様より。
弾・双掌砲:こちらも、鈴神様より提供です。
ありがとうございました(ぺこり)。


茶々丸:
次回は、アリア先生の邂逅の物語。
アリア先生にとって、改めてこの世界と向き合う機会になるかと思われます。
それでは、アリア先生に最高のお菓子を作らねばなりませんので・・・。
今回は、ここで失礼させていただきます(ぺこり)。

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