魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第67話「麻帆良祭二日目・ライブ」

Side 釘宮

 

麻帆良祭も二日目、夕方。

あと二時間もしない内に、一般のお客さんの入場が始まる。

いよいよだ・・・そう思うと、緊張する。

 

 

でもそれ以上に、練習の成果を皆に見せたくて、早くやりたいって気持ちになる。

凄く、楽しみ。

 

 

「・・・では、釘宮さん達の出番は、6時20分に確保してありますので」

「ん、ありがと」

 

 

アリア先生と、私達の時間枠の最後の確認をする。

私達は初参加だけど、開始直後の、結構良い順番。

お客さんもあったまってきてるような、そんな時間帯。

 

 

「では、開始後は私も観客席におりますので」

「わかった。アリア先生、本当にありがとう」

「構いません。では、頑張ってくださいね」

 

 

そのまま、アリア先生は書類片手に歩きだした。

あれ・・・?

何となくその手を見ると、銀色のブレスレットが目に入った。

アリア先生、アクセサリーとか付ける子だったかな?

 

 

と言うか、昨日の中夜祭の打ち上げの時は、無かったと思うんだけど。

そう言えば・・・。

 

 

「柿崎が渡した彼氏用のチケットは、使う予定あるんですかー?」

「ふみっ!?」

 

 

・・・コケた。

意外な反応、これはもしかして?

 

 

「・・・え、本当に彼氏いるんですか!?」

「いません!」

「やっぱり、外国の子って進んでるんだ・・・」

「・・・あ、釘宮さん達のグループは出演辞退と言うことで」

「ああ、嘘、嘘。ごめんなさい!」

 

 

手を合わせて謝ると、アリア先生は軽く頬を膨らませたまま、今度こそ歩いて行った。

可愛いなぁ、本当。

 

 

普段はしっかりしてるんだけど、こう、ふとした瞬間に見せるあの可愛さは、何だろう。

狙ってるのかな?

もしそうなら、末恐ろしいんだけど。

 

 

「・・・とにかく、いよいよだね、亜子!」

「はひっ!?」

 

 

少し離れた位置に座ってた亜子に声をかけると、亜子は持っていたコップを地面に落とした。

しかも、私の方を見ながら、涙目でガタガタガタガタ・・・と、震えだした。

え、ちょ、静かだと思ったら、喋れない程緊張してたの!?

 

 

「ちょ、大丈夫?」

「あ、あああああかんて、やっぱうち、あかんて・・・!」

「だ、大丈夫だって亜子、あんなに練習したじゃん。だから大丈夫だって!」

「おか――さ――んっ!?」

「落ち着け!」

 

 

その後も、亜子は「うち無理」とか「くぎみー代わって」とか、すごく取り乱してた。

いや、それにしたって「お母さん」は無いと思うんだけど。

今からこれで、本番大丈夫なの?

 

 

「あ・・・」

 

 

ふと、何かに気付いたように、亜子が固まった。

何、まだ何かあるの・・・?

 

 

「く、釘宮、うちの服、大丈夫かな? その、背中の・・・」

「え・・・あ、ああ~・・・そっか、たぶん大丈夫だと思うんだけど・・・」

 

 

亜子の服は、私と同じ、ノースリーブのステージ衣装。

舞台の上だし、背中向くことってあんまり無いし。

でも、亜子にしてみれば、かなり重要な問題だし・・・。

 

 

「じゃあ・・・控室に半袖タイプがあるから、着替えてきな。時間、まだあるしね」

「あ、ありがと・・・くぎみん」

「くぎみん言うな」

 

 

コツッ・・・と頭を小突くと、亜子は軽く舌を出して笑った。

まったく、調子良いんだから。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

アリアが、アリアドネーに?

魔法世界に、アリアが来る・・・と言うことか。

 

 

ぐしゃり、と、関西に仕込んだ偽物からの報告文を握り潰す。

どうも、腑に落ちないね。

報告によると、クルト・ゲーデルが裏でこの件を主導しているらしんだけど。

彼は、自分の部下に紛れ込んだこちらの工作員は一人残らず消している、それも即座に。

だと言うのに、関西の偽物と同席してそれに気付かないとは思えない。

 

 

「ワザと漏らした・・・違うね、噂を流そうとしている・・・」

「世界情勢は複雑怪奇じゃのぅ」

「・・・キミは、どうして僕について来ているの?」

 

 

赤い服を着た西洋人形、それが、どう言う訳か僕から離れなかった。

アリアが仕事に行った後も、僕について回っている。

 

 

「何、気にするな、人形の一つや二つ、大したことではあるまい」

「・・・人形の身体を、上手く使っているとしか思えないけどね」

「主こそ、大事そうにチケットを持っているでは無いか」

 

 

フヨッ・・・と浮かびながら、その人形―――晴明とか言ったかな、晴明は、僕と目を合わせて来た。

そして事実、僕のポケットには、アリアから貰ったライブのチケットがある。

 

 

『べ、別に、深い意味はありませんからね? 貰いっぱなしって言うのもアレだからってだけで、全然、まったく、これっぽっちだって他意はないんですからね、勘違いしないでくださいよ!』

 

 

・・・と言われて、押し付けられた物だ。

 

 

「愛いのぅ、愛いのぅ、花開く桜の蕾を見ているようじゃ」

「・・・その姿で言われると、大いに違和感を感じるよ」

「違和感? ほう、主は違和感などと言う物を感じると・・・その身体の作りで?」

 

 

僕の側面を周り、耳の辺りに浮かびながら、晴明は僕に囁いてくる。

 

 

「誰が作った、いや創ったのかは知らんが、随分と効率的にできておるのぅ。高い知能、破格の魔力、別格の身体能力・・・そして心を持たぬ器」

「・・・」

「主は心を持たぬ。持たぬが故に複雑な感情を生み出すことができぬ。愛も悲しみも涙も無く、主の目に映るのは、事実の積み重ねのみ・・・違うかの?」

 

 

事実だ。今さら、こんな人形に言われるまでも無い。

僕には心などと言う物は無いし、必要を感じたことも無い。

 

 

これまでも、そしてこれからも。

僕は、「彼」の人形として行動していくだろう。

そこに疑いを抱いたことなど無い。

 

 

「だと言うのに、主はあの、アリアと言う娘に執着しておる。不思議じゃのぅ」

「・・・執着? 何のことかな」

「ふふふ、愛いのぅ・・・執着していないと言うならば何故、主は我の言葉を聞くのかのぅ」

「・・・」

「我があの娘の身内だから・・・じゃろう?」

 

 

・・・僕が、アリアに執着している。

もちろん、違うと言える。

僕は。

 

 

僕は、ただ。

 

 

「そこの者、止まれ!」

 

 

 

 

 

Side 晴明

 

なんじゃ、こやつらは?

西洋式の鎧に身を包んだ黒い集団が、我とフェイトと言う小僧の周囲を取り囲みおった。

ここは野外ステージとやらに程近い路地、人通りは少ないのじゃが。

 

 

我としたことが、小僧をからかうのに夢中で、感知の術式に反応したのを失念したわ。

うむ、うっかりじゃな。

 

 

「我々は、メガロメセンブリア重装歩兵団である! ただちに武器を捨てて神妙にせよ!」

「イベントに本名で登録したのが仇となったな!」

「我々は、麻帆良のめでたい集団とは訳が違うぞ!」

 

 

なんじゃのぅ、どうも三下臭いのぅ。

と言うか、そんな大きな槍を携えて、問題では無いかのぅ。

 

 

どうするかのぅ、めがろ、めが・・・何とかと言う所の奴らと言うことは、あのクルトとかと言う奴の部下なのでは無いのかのぅ。

そうだとするなら、数を減らすのは不味いかもしれんのぅ。

 

 

などと考えておると、目の前に細長い紙が。

 

 

「ぬ?」

「・・・返しておいてくれないか」

 

 

おお、チケットとか言う物じゃったの。

しかし、ふむ?

これを我に渡すと、中に入れんのでは無いかの。

 

 

「どちらにせよ、こうなった以上、一度姿を隠さないといけないからね」

「そうかもしれんの」

「どうやら、少し・・・緩んでいたようだからね、僕も」

 

 

そう言って、小僧は我から離れて行きおった。

少しずつ、めがろ何とかと言う連中の方へ。

 

 

その背中からは、微かに魔力が漂っておる。

・・・少し、からかい過ぎたかのぅ。

 

 

「む、何だ貴様、抵抗を・・・」

「ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト」

 

 

不器用な若人じゃな。

心など無いと言う我の言葉に反応しておる時点で、すでに答えは出ておるじゃろうに。

まぁ、良い、大いに悩め、若人よ。

 

 

・・・それはそれとして、どうするかのこのチケット。

下手を打つと、アリアからキツい仕置きを受けそうじゃし。

魔力はアリアからの供給じゃからの・・・。

 

 

まぁ、女子の尻に敷かれるのも甲斐性の内じゃろ。

・・・ふむ。

 

 

「『石の息吹(プノエー・ペトラス)』」

 

 

少しばかり、付き合ってみるとするかの。

あの娘と、似た魂を持つこの小僧に。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

やはり、こうでなくては。

うん、こうじゃなくっちゃ・・・!

 

 

「アリア先生、『温泉ガメ』の猛の奴が、緊張のあまり胃に穴が!」

「救急施設に連れて行ってください。あとメンバーの補充のアテはありますか?」

「大変ですアリア先生、業者さんの手違いで照明の数が足りません!」

「了解です、こちらで対応しますので、大道具さん達は舞台の最終チェックをお願いします!」

 

 

生徒の方々から寄せられるトラブルを、優先順位ごとに振り分け、対応します。

全部は無理ですからね、現場で対応できることは現場でやってもらった方が良いですし。

 

 

外部の方が絡んでくると、私ではできませんし。

10歳ですから、私。

業者さんと交渉とか、無理ですもの。

他に担当の教師の方々がおりますので、そう言うのはそちらにお願いします。

・・・なので私の仕事は。

 

 

「必然的に、書類仕事になるわけですね」

「・・・誰に言ってるんです?」

「え? いえ、あはは・・・」

 

 

そして今は、仮設の事務所の中で、一般の女性教諭の方と一緒にお仕事です。

ちなみに、高等部の先生だそうですよ。

それにしても、この書類と格闘する感じ、凄く懐かしいです。

 

 

最近は、意地悪な新田先生が仕事回してくれませんでしたからね。

私が「し」と言うだけで「ダメです」って言うんですもん。

 

 

「・・・あ、すみませんアリア先生、控え室の化粧品なんですけど・・・」

「あ、はい、補充してきます」

「私が行くつもりだったんですけど・・・」

「いえ、やはり大人の方が残っていた方が、いろいろと良いでしょうし」

 

 

女子用の控え室は更衣室も兼ねていますから、どうしてもスプレーとか、化粧品とかが必要になります。

他にも、換えの衣装とか女性用品とか・・・いや、これは流石に自分で用意してほしいですけど。

 

 

事務所から出て、荷台に乗せた荷物を押していきます。

どこも人手不足ですから、これくらいは私一人でやりませんと。

荷台はそれなりに重いですが、魔法も何も使いません。

このくらいのことに、一々使う訳にも行きませんし。

 

 

・・・本当、懐かしい。

最初の頃は、これが普通だったのに。

などと考えている間に、女子用の出演者控え室に到着しました。

 

 

ズビョロビロボロ、バギュ――ンッ♪

 

 

「・・・は?」

 

 

突然、部屋の中からギターの音が響いてきました。

誰かいるのは、確かなようですけど。

 

 

ガタンッ・・・どさっ。

 

 

次いで、何かがぶつかるような音と、誰かが倒れるような音。

も、もしかして、家政婦は見た的な展開・・・とか、言ってる場合では無く!

がんっ・・・と、ドアを開けて中へ!

 

 

「・・・和泉さん!?」

「あ・・・アリア先せ・・・うぷっ」

 

 

和泉さんが、蒼白な顔で、鏡台の下で蹲っていました。

口元を押さえて、身体を丸めて・・・明らかに、具合が悪そうです。

理由は不明ですが、上半身が裸ですので、扉を閉めてから傍へ。

 

 

「だ・・・大丈夫ですか!?」

「だ、大じょ・・・あかん、気持ち悪・・・」

「え、ちょ・・・和泉さん?」

 

 

背中を擦りつつ声をかけるも、和泉さんはとても気分が悪そうです。

そう言えば、修学旅行中に私も似たようなことになったことが。

その時は、どうしたんでしたっけ。

確か、茶々丸さんが・・・。

 

 

『喋らないで、そのまま全部、出してしまってください』

 

 

んぐっ・・・と、唾を飲み込みます。

目の前には、具合の悪そうな和泉さん。

私に、できるでしょうか、茶々丸さんのように。

 

 

「・・・あ、頭を下にしてください、それで、できるだけ呼吸を整えて・・・」

「あ、アリア、先生?」

「だ、大丈夫、大丈夫です・・・それから、そうだ、飲み水と、タオル」

 

 

左手で和泉さんの背中を擦りつつ、右手で携帯電話を操作します。

た、助けを求めます。女性教諭限定で。

茶々丸さんも、さよさんに助けてもらっていたはずです。

 

 

大丈夫、と先ほどから言っていますが、半分は自分に言い聞かせているような物です。

大丈夫、できる、私。

 

 

「だ、大丈夫ですから」

「・・・うぇ」

「な、何か楽しいことを考えましょう、そうすれば・・・」

 

 

私は、和泉さんの身体に下手な振動を与えない範囲で声をかけつつ、背中を擦り続けました。

和泉さんが、落ち着くまで。

 

 

・・・厳密には、助けが来るまで。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ここなの、ネギ君?」

「は、はい。この建物から、カモ君の反応が・・・」

 

 

のどかさん、ハルナさん、夕映さんを連れてやってきたのは、学園祭中の賑やかさから少し離れた場所だった。

この界隈だけ、まるで隔離されているかのような、そんな静けさがあった。

どうしてこんな所に、カモ君が・・・?

 

 

僕達の目の前には、塀に囲まれた大きな建物がある。

 

 

「よーし、んじゃ、カモ君救出部隊、行くわよ!」

「あ、あの、流石に不味いのではないでしょうか、ここ、学園の私有地です」

「あ、危ないかもですしー・・・」

 

 

そう、ここは学園の私有地。

それも、校舎とは違うみたいで、許可が無いと入れないみたいなんだ。

でも、カモ君の魔力反応はここからする。

 

 

どう言う訳か、すごく微弱な反応しかしないんだけど。

でも、ハルナさんのことを相談できる相手が、カモ君ぐらいしか思いつかなくて。

タカミチとは、今は話したくないし。

明日菜さんは、美術部で忙しいみたいだし。

マスターは、今どこにいるのか・・・。

 

 

「だって、私も欲しいんだもん魔法のアイテム!」

「だもん!?」

「で、でもハルナー、仮契約には、その・・・ね、ネギせんせーと・・・」

「え、何?」

 

 

あ、あううぅぅ~・・・。

と、とにかく、カモ君のことは、僕が何とかしないとだし。

皆には、ここで待っておいてもらおう・・・。

 

 

「本日も、お疲れさまでした」

「いえ・・・」

「やばっ、隠れて!」

「わぷっ!?」

 

 

その時、誰かが来たみたいで、僕はハルナさん達に曲がり角まで連れて行かれた。

皆で重なり合うように顔を出して、様子を窺う。

 

 

「では、我々はここで」

「はい、送っていただいてありがとうございます」

「いえ・・・では、また明日、お迎えに上がります」

 

 

そこにいたのは、刀子先生だった。他にも何人か・・・。

それに、一緒にいるのは。

 

 

「アーニャ!?」

「え、何、ネギ君の知り合いなの?」

「だ、誰です?」

「えっと、僕の幼馴染で・・・」

 

 

のどかさん達に、アーニャのことを簡単に説明する。

でも、何だか、見たこと無いくらい大人しい感じがする。

一瞬、あれがアーニャかどうか、わからなかった。

 

 

だって、敬語で話してるし、立ち居振る舞いが上品って言うか。

ウェールズの時とか、今朝とか・・・とにかく、同一人物だとは思えなかった。

 

 

「な、なんだか、大人しい子みたいね」

「えっと、あれ?」

「どうしたんですかー・・・?」

「その・・・何と言えば良いか」

 

 

その後、二言三言話して、刀子先生達がいなくなった。

アーニャだけになると、アーニャの雰囲気が変わった。

と言うか、元通りになった。

 

 

「あー・・・外交モード、疲れるわ、やっぱり」

「お疲れ様です、アーニャさん」

「まー、お仕事だし。さっきのお姉さんだって、これから関西の方に行くんでしょ、帰れてる私はマシな方よ」

 

 

肩を抑えながら、首を回すアーニャ。

なんだか、凄く疲れてるみたい。

 

 

「んじゃ、ドネットさんが戻り次第、カモの始末を考えよっか」

「強制送還一択で!」

「あんたのお兄さん嫌いも、相当なもんねー」

 

 

き、強制送還!?

それを聞いた僕は、思わず飛び出した。

 

 

「ちょ、ネギく・・・」

「ネギせんせー!?」

 

 

のどかさん達の制止も振り切って、アーニャを追いかける。

カモ君がいなくなるなんて・・・そんなの!

 

 

「アーニャ、待って!」

 

 

建物の正門を超えようとしていたアーニャの肩に、手をかけた。

次の瞬間。

アーニャの姿が、視界から消えた。

 

 

次いで、首筋にもの凄い衝撃が―――――?

 

 

ぐりんっ、と、身体がひっくり返されて、そのまま・・・。

 

 

「何すんのよ、この痴漢!・・・って、え、ネギ!?」

「ね、ネギせんせ―――――っ!!」

 

 

アーニャの声と、のどかさんの声を最後に。

目の前が、真っ暗になった。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

はも・・・と、超包子の肉まんを食べながら、何となく学園祭の様子を眺める。

流石は、超包子の特製肉まん、とても美味しいアル。

超に貰った、餞別アル。

最後の・・・。

 

 

『古、この2年、良い友人でいてくれて、ありがとうネ』

『超・・・』

『クラスの皆には、内緒で行くつもりだったが、古にだけは言っておくネ』

 

 

肉まんを口に咥えて、かさ・・・と、懐から、超に渡された「退学届」を取り出した。

武道会の決勝戦の後、超は、学校を辞めて故郷に帰ると私に言ったアルネ。

 

 

『ネギ坊主とアリア先生、好きな方に渡しておいて欲しいヨ』

『・・・ネギ坊主は、すぐそこにいるアルが』

『・・・ああ、そうかも知れないネ』

 

 

あの時の超の顔が、忘れられないアル。

ネギ坊主が、少し離れた場所にいるのなら、ネギ坊主に渡せば良いのに。

でも、それをしなかった。

 

 

これをアリア先生に渡して欲しいと、そう言われたような気がしたアル。

でも、それは私の気のせいかもしれないアル。

 

 

「超・・・」

 

 

超とは、2年前からの付き合いで、たまに手合わせもしていたアル。

勉強とか、教えてもらったこともあったアル。

・・・まぁ、私は頭が良くないアルから、そこは効果が無かったアルが。

 

 

とにかく、私は超の事を、大切な友人だと思っているアル。

親友・・・だと、思っているアル。

ネギ坊主のことを抜きにしても、超がいなくなるのは、凄く・・・。

 

 

「・・・寂しいアル」

 

 

はも・・・と、肉まんを食べる。

美味しいはずのそれは、なんだかしょっぱい味がしたアル。

 

 

「あれー? 古菲君じゃないか」

「んむ?」

「奇遇だねー・・・あれ、一人かい?」

「へるひおへんへぇ」

 

 

ムグムグと、口の中の肉まんを飲み込むアル。

改めて、声をかけて来た相手を見るアル。

そこにいたのは。

 

 

「瀬流彦先生」

「なんだか、元気無いみたいだけど、どうかしたの?」

 

 

瀬流彦先生だったアル。

温和そうな顔をしているアルが、アリア先生達にも好意的に見られている大人の男の人。

魔法使いでもある。

 

 

「・・・本当に元気無いね、何か悩み事?」

「べ、別に何も無いアルよ、内緒の話とか、悩みとか・・・」

「・・・そっかー、無いなら、僕にはどうしようも無いけど・・・」

 

 

瀬流彦先生が、パチッと、ウインクしてきたアル。

・・・少し、気持ち悪かったアル。

 

 

「休憩中でね、奢るから、お茶でもどう?」

「・・・ナンパ、アルカ?」

「ええ!? ち、違うよ! だってそれ犯罪・・・」

「冗談アル♪」

 

 

にしし、と笑うと、瀬流彦先生は少し驚いて、それから困ったように笑ったアル。

・・・むむ?

なんだか少し、身体が軽くなったような気がするアル。

うーん?

 

 

「・・・お腹すいたアルか?」

「え? いや僕はそれ程でも無いけど・・・じゃあ、何か食べる?」

「良いアルか!」

「凄い喰いついて来るねぇ・・・」

 

 

瀬流彦先生は、何か苦笑しているアルが。

タダ飯アル!

タダ飯は良い物アルな!

 

 

おお、なんだか元気が出て来た気がするアル!

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

「・・・ん、何の騒ぎだ・・・?」

 

 

やることもねーから、食べ歩きをしていたんだが・・・。

どうも、妙に騒がしい所があった。

そこは、野外ステージらしかった。でかい門に書いてある。

 

 

なるほど、それで屋台も多かったのか。

ま、私には関係ねーな。

 

 

『まいますたー、まいますたー』

 

 

ポケットの中の携帯電話から、「ミク」の声が聞こえる。

イヤホンを着けているから、声が他に漏れることはないが。

こいつら、電子製品なら、どこにでも移動できるらしい。

 

 

電子製品が無いと生きていけない私にとっては、とんだ厄病神だ。

 

 

『まいますたーってばー』

「・・・んだよ、うるせーな」

『な、何か、やさぐれてますね・・・』

 

 

いや、やさぐれもするって。

主原因がそんな、哀れんだ声で言うなよ。

 

 

「それで、何だよ。独り言呟く痛い奴になりたくないんだ、私は」

『すでになってますー』

「・・・ウイルス仕込みてぇ・・・」

『抗菌対策はばっちりです!』

 

 

意味が違う。

 

 

『それでですねー、どーもあのライブ会場、いくつかのグループが体調不良で時間余ってて、お客さんが暇してるらしいんですよー』

「で?」

『歌ってきても、良いですかー?』

「はぁ?」

 

 

そういや、こいつらは元々、歌うために生まれてきたとか説明されたかな。

いや、でも現実には出てこれねーし・・・あ、会場のスクリーン乗っ取れば行けるのか。

 

 

・・・いやいやいやいや、待て待て、落ち着け私。

そんな暴挙、許されるわけがねー。

 

 

『だーいじょぶですよ! 皆さんお祭り気分ですし』

「・・・麻帆良に限って、説得力のありそうなことを」

『それに、今度マスターのHPで歌を作るツール・・・略して「歌ツクール」を開設しようと思いますので、その試運転にもなりますよ?』

「勝手に作んなよ!?」

 

 

というか、なんだ「歌ツクール」って!

略せてもねーし、しかも明らかに、パチモン臭い名前じゃねーか!

 

 

『来訪者数、増えますよ?』

「はぁ? んなわ、け・・・」

 

 

いや、でも確かに、こいつらぐらいの性能があれば、かなり高度なサービス組めるか?

数種類のキャラが歌って踊れる、そいつだけの音楽作成ツール・・・。

確かに、HPの来訪者数は伸びそうなネタだな。

こりゃ、3代目女王の座は確実に・・・って!

 

 

「そうじゃねぇだろ! 私!」

『じゃ、曲作ってくださいね、まいますたー♪』

「ぶっとばすぞお前!?」

 

 

曲作るの、私かよ!

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

「はい、ではそのように・・・」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 

控え室の扉の向こうから、アリア先生の声が聞こえる。

相手の人は、さっきまでここにいた保健の先生。ちなみに女の人。

さっき、また落ち込みスパイラルに入ってしもうて、気分が悪くなって・・・。

 

 

あんまり覚えてないんやけど、アリア先生がずっとおってくれた気がする。

それも、結構な時間・・・。

うちなんかより、ずっとしっかりしとって・・・。

うち、年上なのに、お世話になりっぱなしや・・・。

 

 

「亜子、大丈夫?」

「う、うん。ごめんな・・・」

「良いよ良いよ、亜子ちんが元気ならそれで♪」

 

 

釘宮や柿崎、桜子も、ここにおる。

もうお客さんも入り始めて、そろそろ出番やのに。

うち、色んな人に迷惑かけてしもて・・・。

 

 

何て言ったらええのか、わからへん。

 

 

「釘宮さん」

 

 

アリア先生が、戻ってきた。

寮の管理人をしてた頃から思ってたけど、アリア先生は凄く忙しい人。

忙しい中、うちなんかに時間取らせてしもて、怒っとるかな・・・。

 

 

クラスで聞いたけど、お父さんもお母さんもおらんって。

マンガの主人公みたいな・・・なんて、思ったら酷いんやろうけど・・・。

 

 

「バンドの時間なのですが・・・」

「あ、はい。準備OKで・・・あ、でも亜子が・・・」

「だ、大丈夫や、うち、行ける・・・あっ」

 

 

椅子から立ち上がろうとしたら、立ち眩みが。

ふらっ・・・と身体が崩れ落ちるのを、傍の柿崎と桜子が支えてくれた。

 

 

「あやや、こりゃ無理っぽいかな?」

「そ、そんなことない! ちょっと休めば・・・」

「でもでも、出番10分後だよー?」

「大丈夫やて!」

「あーもー、無理しない!」

 

 

あたっ・・・。

釘宮に、でこぴんされてしもた。

 

 

釘宮は、腰に片手を当てて、もう片方の手で私を指差してきた。

 

 

「頑張ってくれるのは良いけど、フラフラで出られても困るでしょ!」

「う、で、でも・・・」

「でもも何も無い!」

「う・・・」

 

 

そ、そんなん言うても、うちのせいで、そんな。

そんなん・・・!

 

 

「うっ・・・ぐっ・・・」

「え、ちょ、ちょっとちょっと!?」

「な、何で泣くのー?」

「だ・・・だって、だって・・・うちのせいでっ、皆・・・練習・・・っ」

 

 

皆、今日のために凄く練習しとったん、うちは知っとる。

うちなんかよりもずっと上手くて、しかも皆、凄く綺麗やし・・・。

うちのせいで、それが全部ダメになるなんて、そんなん・・・。

 

 

そんなん、うち、耐えられへん・・・!

うちが勝手に落ち込んで、具合悪くなったからやなんて、そんな・・・!

 

 

「何でっ・・・うち・・・!」

「亜子・・・」

「もう、別に良いよ亜子。私達だって、亜子を置いて演奏なんてできないもん」

「だから、泣かないでー・・・」

 

 

桜子が、うちのことをぎゅーって抱き締めてくれる。

嬉しいけど、それが逆に、すごく辛かった。

 

 

「まぁ、ちょっとは残念だけどさ、別に来年高校でやっても良いじゃん?」

「そうそう、実は私も覚えてないコードとかあるし」

「・・・それは、逆にヤバくない?」

 

 

釘宮も柿崎も、皆優しい・・・。

うちの友達は、皆ええ人ばっかで・・・。

 

 

うちは、うちは・・・。

 

 

「ごめん、ごめんな・・・っ」

「もー、良いってばー」

「ん、まぁしょうがないよ」

「何だったら、ストリートでやっても良いしね」

「ごめんっ・・・!」

 

 

謝ってもどうにもならんのに、うちは謝ることしかできひんかった。

皆、ごめんなぁ・・・!

 

 

「・・・・・・あの~・・・・・・」

 

 

その時、アリア先生が、凄く声をかけずらそうにしとることに気付いた。

そうや、アリア先生にも時間枠取ってもろたり、今もお世話になって・・・。

 

 

「その、盛り上がっている所、非常に申し訳ないのですが・・・」

 

 

アリア先生は、何だかモジモジしとった。

そこで、うちだけでなく、釘宮達も不思議そうな顔をし始めた。

 

 

そんな私達の顔を見て、アリア先生は本当に言いにくそうに。

 

 

「・・・演奏、できます・・・よ?」

 

 

・・・へ?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『次は初参加の4人組ガールズバンド! 「でこぴんロケット」!!』

 

 

と言うわけで、和泉さん達は普通に出演しています。

いえ、本当に大したことはしていないのですよ。

 

 

単純に、順番を遅らせただけなので。

元々、体調不良者などが出た際のことも考えて、順番と言う物は考えられています。

実際、彼女達以外にも、いくつか入れ替わりがありましたし。

 

 

と言うか、明らかに具合悪い子がいるのに、歌わせるとか・・・無いでしょう。

出番を一時間ほど遅らせるくらいの対応は、取るでしょう。

むしろ仕事が増えてラッ・・・げふんげふん。

 

 

とにかく、せっかくですから、私は柿崎さんから貰ったチケットの席に。

一応、フェイトさんにも渡しておいたのですが・・・来ないようです。

先ほど、紙でできた鳥が、ヒラリと私の前に落ちてきました。

晴明さんの式神ですが、中身が・・・

 

 

『すまん、うっかりした』

 

 

全然、まったく内容がわかりませんでしたが、一つわかることが。

あの陰陽師、今度会ったらタダじゃおきません。

 

 

「・・・ったく、何で私が」

 

 

自分の席についた時、意外な人物が隣にいました。

3-Aの生徒、長谷川千雨さんです。

正直、こんな所で出会うとは思っていませんでした。

 

 

「こんばんは、長谷川さん」

「あ・・・どうも、アリア先生」

 

 

長谷川さんは私を見ると、急に居住まいを正しました。

何と言うか、あからさまに取り繕われましたね。

 

 

「お一人ですか?」

「え、ええ、まぁ・・・一時間くらい前に、通りすがった所を捕まえられて・・・」

「はぁ・・・?」

 

 

よくはわかりませんが、一時間前ですか。

ちょうど、私が和泉さんについていた頃ですね。

 

 

なんでも『電子の妖精』とか言う、どこかで聞いたようなグループが、飛び入りで釘宮さん達の空けた時間枠を埋めたとか、聞いていますけど。

私は聞いていませんが・・・ネット空間を介した、最新鋭の電子音楽提供ツールを使った、異色のポップミュージシャンだとか、なんだとか・・・。

 

 

『え、え~っと、あの、その私、き、今日は~・・・』

 

 

その時、一曲目を終えた所で、和泉さんがマイクを手に、舞台の中央へ。

うん? 何でしょうね。

 

 

『き、今日凄くお世話になった人に、この場を借りてお礼が言いたくて・・・』

 

 

ほほぅ、お世話になった方ですか。誰でしょうね。

和泉さんは今日、午前はクラスで午後はバンドだったと思うので、その時に何か?

原作と違って、偽ナギは出現していないと思うので。

 

 

『その人は、何と言うか・・・うちと違って主人公みたいな人って言うか、プラスなこともマイナスなことも本当、その人の力になってて・・・正直、羨ましいな、なんて思ってたこともあって』

『亜子! 時間!』

『ふぇ? あ、そっか・・・えっと、とにかく、その・・・』

 

 

あはは、「主人公みたいな人」ですか。

和泉さんが主人公じゃないみたいな言い方はアレですが、その「主人公みたいな人」と言うのも、気になりますね。

すると和泉さんは、釘宮さんに促されて慌てたのか、アワアワしながら。

 

 

『アリア先生、大好きや――――っ!!』

 

 

・・・・・・・・・は?

 

 

『あ、やなかった、えと、あ、ありがとうございます――――――っ!!』

『亜子ちん、何に対してのお礼がわかんないよ?』

『桜子、あ、そっか・・・えー、ずっと一緒におってくれたり、えっと助けてくれたりっ・・・えーっと』

「いや、公衆の面前で何を叫んでるんですか!?」

「先生も、叫んでますよ」

 

 

思わず立ち上がって、片手でビシィッ、と突っ込みました。

その私に、長谷川さんが突っ込みを入れてきました。

すると自然、周囲の注目に私に集まるわけで。

 

 

「あ、子供先生だ」「武道会の子じゃね?」「名前なんだったっけ?」「確か、アリアって名前だったような」

「あ、可愛いー」「と言うか、あの和泉って子が言ってたのって、あの子?」「え、じゃあ何、あの2人・・・」

「嘘、そう言うことなの!?」「いかん、アリア先生がお困りだぞ!」「いや、それは無いでしょー、だって子供だよ?」「俺を弟子にしてくれ!」「てか、本当に先生なの?」「突撃親衛隊、退路を確保するのだ!」「おお、リアルちびっこ天才幼女だ・・・」「誰か、そいつをボコれ!」・・・。

 

 

ひ、ひゃああああああ!?

し、しまった、晴明さんがいないから、私普通に目立つんだ!

今までは、周りがライブに集中していたから良いような物の・・・。

 

 

こ、これはひょっとして、大ピンチ!?

 

 

 

 

 

Side 真名

 

「・・・ふ」

 

 

思わず、口元に笑みを浮かべる。

相も変わらず、騒動が絶えない人だ。

 

 

ライブ会場は今や、ちょっとした騒ぎになっている。

まぁ、そうは言ってもパニックになるような物じゃない。ざわめきが起こる程度の物だ。

と言うか、一部が統制のとれた動きでアリア先生を逃がそうとしているのは、気のせいか・・・?

 

 

『ご、ごめんなさ―――いっ!』

 

 

和泉が未だに何か騒いでいるが、まぁ、楽しめているなら、何よりだろう。

と言うか、今のは案外危なかったんじゃないか?

・・・なんてな。

 

 

チャキッ・・・と、ライフルを肩に担いで、さらにギターケースを手に持つ。

時間を確認すると、このエリアの担当が終わる時間だった。

シスターシャークティーと戦闘までしておいて、我ながら仕事に忠実な人間だ。

 

 

「次は、超の依頼の時間か・・・」

 

 

稼ぎ時とは言え、なかなかに忙しい。

しかし超の依頼は、個人的にも優先してやりたい。

魔法を世界にバラす、か・・・。

 

 

正直、超がどこまで本気でそれを成そうとしているのか、私にも読めない。

大国の一極支配が気に入らないとか言っていたくせに、世界征服は好きとか言う、良くわからない奴だが。

とはいえ、嫌いじゃないしな、別に。

きちんと報酬も支払ってくれているんだ、文句も無い。

 

 

「・・・アリア先生などには、怒られてしまうかもしれないが」

 

 

いや、意外と「そうですか」で済ませてくれるかも。

私がそんな、ありもしない期待をしてしまうこと自体、珍しいことだ。

はたして私は、超に勝ってほしいのか、それとも・・・。

 

 

「さぁ、仕事の時間だ」

 

 

余計なことは、仕事が終わってから考えれば良い。

特にこれからの仕事は、場合によっては今日一番の仕事だ。

 

 

何と言っても、<闇の福音>や麻帆良に集う全ての魔法関係者に喧嘩を売ろうとしているわけだしな。

その中には、元老院議員もいるとか。

ふふ・・・楽な仕事じゃないな。

 

 

しかし、一度受けた仕事は、よほどのことが無い限り完璧にこなして見せよう。

それが、プロと言うものだろう。

 

 

「それではまた、アリア先生」

 

 

おそらくは、また近く対峙することになるでしょう。

その時には・・・。

 

 

「ゆっくりと、狙い撃たせてもらいますよ」

 

 

 

 

 

Side 明石教授

 

ドネットから伝えられた話は、何と言うか・・・。

衝撃的、だった。

いや、ある意味で十分に予想できたことかもしれないけど。

 

 

「その話は、どこまでが本当なんだい?」

「最初から最後まで、全てが事実よ」

 

 

まぁ、ドネットはこう言うことで嘘も冗談も言わない。

そんなことは、昔からわかっていたことだ。

でも、思わずそれを疑いたくなったのは、僕が愚かなのかどうなのか・・・。

 

 

「学園長の弾劾措置を取る?」

「ええ、今の所、こちらの計画の最大にして最後の問題は、学園長と言う不確定要素だから」

「不確定要素って・・・」

「どう動くのかわからない存在を、不確定要素と呼ぶのではなくて?」

「いや、まぁ・・・」

 

 

確かに、学園長は時に意味のわからないことをするけど。

実際、それで僕ら魔法先生の一部も離反したんだけど。

 

 

でも、まさか公的に弾劾される時が来るとは思わなかった。

学園長は仮にも、関東最強・・・そして旧世界有数の魔法使いだ。

それを、本国が弾劾するか?

 

 

「とはいえ、外部勢力の我々が動くと、決定打に欠ける面が出てこないとも限らないわ」

「・・・それは、つまり・・・」

「ええ、貴方・・・と言うより、貴方達麻帆良の魔法使いの協力が欲しいの」

 

 

やっぱりか・・・。

ドネットに呼び出された時も、何だかそんな予感はあった。

こう言う予感は、外れてくれないからなぁ。

 

 

カタッ・・・と、缶コーヒーを飲む。必要以上に甘い。

ここは、魔法先生達が密談に使う小部屋だ。

外部と魔法理論的に分断されているから、中から鍵をかけてしまえば、覗くことも盗み聞かれることも無い。

 

 

「・・・それで、僕に、と言うか僕らにどうしろと?」

「学園長の指揮下から離れてほしい。方法は何でも良いの、ストライキでもボイコットでも」

「これはまた、はっきり言うね」

「表向き、現場関係者との関係の悪化と言うことで、左遷と言う形を取るつもりのようよ」

 

 

・・・学園長ほど、左遷しやすい人もいないよなぁ。

 

 

「クルト議員も、これほどクビにする理由探しに苦労しない人間は久しぶりだと言っていたわ」

 

 

元老院議員相手じゃ、流石にどうにも・・・。

と言うか、何で今まで学園長やってこれたんだろ・・・あ、そうだ。

 

 

「それで、次の学園長職は誰に? 関東魔法協会の理事職は?」

「そう、そのことなんだけど・・・」

 

 

ドネットの口から告げられたその名前に、僕はまた、驚くことになる。

え、大丈夫なのそれ?

 

 

でも、こう言う時、ドネットは嘘も冗談も言わないってことを、僕は知ってる。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・な、なかなか、大変でしたね・・・」

 

 

ライブ会場から逃げ出すのに、結構かかりましたね。

芸能人の気分を味わいました、なんて呑気なことを言っている場合でも無いですね。

 

 

これからは、もう少し行動を慎んだ方が良いかもしれません。

変装でもしますかね・・・?

 

 

「それにしても、和泉さんにも困った物です・・・」

 

 

感謝してくれるのはありがたいのですが、ああ言うのは少し・・・。

 

 

『大好きです!』

 

 

・・・ちょっと、嬉しいですけど。

えへへ・・・。

 

 

あ、そうです、時間。

廊下の時計を確認すると、8時を回っていました。

そろそろ、エヴァさん達との約束の時間ですね。

人目のつかない場所で、仮契約カードを・・・。

 

 

「お勤め、ご苦労様です、王女殿下」

 

 

不意に、私の後ろ―――具体的には、3歩程後ろ―――に、姿を現した人間がいました。

兆候も気配も、全く感じませんでしたが・・・同時に敵意も感じませんでした。

しかし、ある程度は緊張しつつ、目だけで確認します。

 

 

地面に片膝をつき、頭を垂れた体勢の女性が、そこにいました。

年の頃は、30代前半・・・でしょうか。大人の女性の年齢なので、見た目では判別できない所もありますが。

鋭い印象を受ける顔の造りをした、黒髪の女性。

ショートの髪の中で、一房だけ長いのが、印象的ですね。

 

 

右眼で確認した所、周囲に人払いと防諜の結界が瞬時に張られていました。

魔法使い。

それも、私を「王女殿下」などと呼ぶと言うことは・・・。

 

 

「・・・クルトおじ様のお知り合いの方ですか?」

「はい、お初にお目にかかります。私、ジョリィと申します」

「・・・そのジョリィさんが、私に何かご用ですか?」

「クルト様より、王女殿下の連絡係兼護衛として派遣されました。今回は御挨拶と、クルト様からの本日分の言伝が・・・」

 

 

小さく、しかしはっきりと聞こえる声で、ジョリィさんが言いました。

クルトおじ様からですか・・・。

護衛はともかく、連絡係ね。

 

 

「緊急の用件でなければ、先約がありますので、後にしていただけますか?」

仰せのままに(イエス・ユア・)王女殿下(ハイネス)

「・・・あと、私のことを王女殿下とか呼ばないでください」

 

 

こちらは、王族とか意味のわからない物とは無関係の生活をしてきたのです。

と言うか、王女で教師とか意味がわかりません。

 

 

「それは、王女殿下としてのご命令でしょうか?」

「だから・・・」

「そうでないのであれば、立場上、承服できかねます」

「立場?」

「我らオスティアの民にとって、貴女様はアリカ女王陛下のご息女。王女殿下とお呼びするのは当然の道理」

 

 

オスティア人。

ジョリィさんは、自分のことをそう言いました。

オスティアの民・・・アリカさんの国の、国民。

 

 

頭を上げて、その細く、鋭い黒の瞳を、私に向けてきます。

その目に宿っているのは・・・どんな感情でしょうか。

 

 

「特に私のような、女王陛下つき護衛武官だった者にとっては、最優先でお守りしなければならないお方」

「・・・」

「王女殿下、私は」

「少し」

 

 

こめかみに指を当てて、溜息を吐きます。

正直・・・。

 

 

「少し・・・黙ってください」

 

 

正直、気持ち悪いです。

ジョリィさんの私を見る目は、言ってしまえば、オスティアの民が私を見る目でしょう。

今はまだ、私の存在は公にされていないはずですが・・・。

 

 

やはり付き合うには面倒な相手でしたね、クルトおじ様。

まぁ、おじ様自身がどう考えているかは、ともかくとして・・・。

 

 

「・・・クルトおじ様に伝えてください」

「は、何なりと」

「勝手なことを、しないでください・・・と」

 

 

貴方達が、私に何を期待しているのかは知りませんけれど。

私の意思の無い所で、勝手に話を進めないでほしい。

 

 

「貴女もです、ジョリィさん」

 

 

勝手に、私に期待するな。そんな目で私を見るな。

・・・気持ち悪いんですよ。

 

 

私は、期待されることが、大嫌いなんです。

 

 

『・・・アリア、良いか?』

 

 

エヴァさんからの念話です。

私はそのまま、ジョリィさんを置いて、その場から離れました。

 

 

 

シンシア姉様、また一つ、面倒な事実が発覚しました。

 

 

 

アリアは、一部の方にとっては、王女様らしいです。

・・・迷惑極まりない、事実です。

 

 

 

 

 

Side 超

 

魔法先生達の追跡を逃れた後、私はいろいろな場所に、お別れを告げて回ったネ。

量子力学研究会、お料理研究会、東洋医学研究会。

・・・皆、「いつでも戻ってこい」と言ってくれたヨ。

 

 

ふふ、ハカセや五月がいれば、私などいなくても、立派にやっていけるだろうにネ。

たぶん、皆が言いたいのは、そう言うことでも無いのだろうがネ。

 

 

「超・・・」

「皆さんにお別れは済ませて来ましたかー?」

「ああ・・・大体、終わったヨ」

 

 

待ち合わせ場所には、すでに茶々丸とハカセが来ていたネ。

周囲には、誰もいない。

 

 

「まぁ、とはいえ、ただの身辺整理ネ」

「あはは、またそんなこと言ってー・・・でも、本当に帰ってしまうんですか?」

「そうです超、せめて卒業まで皆と・・・」

「世界樹の発光が早まらなければ、そうしても良かったのだがネ・・・」

 

 

と言うか、そこまできっちり計算して、ここに来たのだがネ。

異常気象とはネ・・・。

 

 

「でも、超さんがいなくなると寂しくなりますねー・・・」

「・・・ハカセ、科学に魂を売った我々に涙は似合わないネ」

「ええ、涙!? 私が!? まさか――――っ!」

「いいえ、きっちり目に浮かんでいました。映像再生しますか?」

「茶々丸? 何か最近、AIの進化の方向がおかしくない?」

 

 

まぁ、作った当初はこうなるとは思わなかったヨ。

情操教育と言う物は、AIをも進化させるのかと、ここに来て知ったヨ。

 

 

「でも、良いんですかー? このままだと、ネギ先生には、嫌われて、アリア先生にだってー・・・」

「それは、構わないヨ。と言うか、ネギ坊主に関しては、利敵行為を働いた以上、私が気遣ってやる必要は無いネ」

 

 

おかげで予定よりも早く、高畑先生と戦うハメになったからネ。

あれは、かなりキツかったヨ・・・。

 

 

「アリア先生に関しては・・・まぁ、仕方ないネ」

 

 

いろいろとやってしまったからネ・・・。

嫌われるのも、恨まれるのも、憎まれるのも、仕方が無いこと。

たとえ、そうであっても。

 

 

「誰にどう思われようと構わない。私は、私の目的を果たすまでネ」

「なかなか、良い心意気だな、超鈴音」

「え、エヴァンジェリンさん!?」

「・・・マスター」

 

 

ふわり・・・と、空から箒に乗って降りて来たのは、金髪の少女。

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

・・・不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)

 

 

「・・・<闇の福音>」

「ああ・・・今まで随分と、私をコケにしてくれたな」

 

 

・・・ありゃりゃ。

これは不味いネ。正面からやり合うとちょっと・・・。

 

 

「今夜は、逃がさんぞ」

 

 

殺意のこもった笑みを浮かべながら、エヴァンジェリンがパチンッ、と指を鳴らした。

すると、側の街灯がグリャリ、と歪んだネ。

上を見れば・・・黒髪の少年と、見知った少女。

 

 

あれは、相坂サンと・・・スクナか。

スクナは、相坂サンを抱き抱えたまま、こちらを見下ろしてきているネ。

その瞳は、どこまでも冷たい。

そして、相坂サンは、どこか緊張した面持ちで私を見ているネ。

 

 

「・・・姉さん」

 

 

茶々丸の声に、後ろを見てみれば・・・刃物を持った人形が。

茶々丸の姉・・・チャチャゼロだネ。

正直、夜に会うと一番怖いヨ。

 

 

・・・囲まれたネ。

 

 

エヴァンジェリンは、一枚のカードを取り出すと、何かを呟いたネ。

あれは、仮契約カードカ。

相手は、もちろん・・・。

 

 

「『召喚(エウオケム・ウォース)』」

 

 

仮契約カードの召喚機能。

次の瞬間には、光に包まれて、一人の少女が姿を現した。

白い髪の、少女は・・・。

 

 

「・・・アリア先生カ」

「・・・こんばんは、超さん」

 

 

アリア先生はどこか不機嫌そうな声音で、そう言ったネ。

・・・あ、これ、確実に不味いネ。

 

 

「では、進路相談と行きましょうか」

「・・・実は私、まだ将来の夢とか無くてネ・・・」

「10歳ですが、頑張ります」

「いやぁ・・・」

 

 

なはは、と笑いながら、私は思ったネ。

・・・師姉、私、ここで死ぬかもしれないネ。

 




さよ:
さよです、こんにちは。
二日目もそろそろ終わりそうです。
今回は、アリア先生の視点を中心に、その周囲で動く方々の様子も描いてみました。
オスティアの方に出会ったのは、その際たるものだと思います。
ちなみに、シリアスで終わったためかはわかりませんが、同時上映の「ちび達の冒険」は、今回はお休みです。
・・・というか、なんだろ、これ。


さよ:
次回は、二日目の最後です。
いわゆる、最終決戦の前哨戦、みたいな話になるみたいです。
あわわわ・・・頑張ろうね、すーちゃん!

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