魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第69話「麻帆良祭三日目・決戦へ」

Side アリア

 

「おはようござい・・・まふ」

 

 

眠い目を擦りながら、茶々丸さんが「すぐに背も伸びますから」と用意してくれた、大きめのネグリジェの裾を引き摺りつつ、リビングに降りて行きます。

そこには・・・。

 

 

「あ、おはようございます、アリア先生」

「朝ご飯、もうすぐ出来るえ~」

 

 

お櫃やフライパンを片手に立ち働くさよさんと木乃香さん。

キッチンからは、ほのかに朝食らしき、良い香りが。

 

 

「おはようだぞ、恩人!」

「ケケケ、オッス」

「お、おはようございます・・・」

 

 

窓の外には、庭に作った家庭菜園で土いじりをしているスクナさんと、その頭の上に乗っているチャチャゼロさん。

そして、それを手伝っているらしい刹那さんです。

季節の変わり目ですから、いろいろとやることもあるのでしょう。

 

 

そして、リビングの中央で新聞を広げ、ただ一人何もせずにいるのが・・・。

 

 

「おはようございます、エヴァさん」

「・・・おう、相も変わらず、遅いお目覚めだな」

 

 

まぁ、私が朝に弱いのは今に始まったことではありませんし。

それに、朝食には間に合ったではありませんか。

 

 

でも、昨夜は就寝が遅かったので、確かに眠いですね。

確か、別荘に入ると不味いことになったはずなので、別荘は使用しませんでしたから。

あふ・・・と、欠伸を噛み殺していると、それを見ていたエヴァさんが苦笑しながら、「早く顔を洗ってこい」と言いました。

 

 

それに頷きを返して、洗面所へ向かいます。

洗面所で顔を洗って・・・鏡を見ると、そこには当然、私が映っています。

白い髪に、オッドアイの女の子が。

 

 

「・・・過去を変えたいと思ったことは無いか、か」

 

 

昨日の超さんの言葉。

超さんは、何か変えたい過去があって、この時代に来た。

まぁ、それは別に良いです。

超さんの事情は、究極的にはどうでも良いことです。

 

 

問題なのは、どうも未来の私が関係していると言うことなのですよね。

未来の私が作って、超さんに渡したらしい魔法具もいくつか持っているようですし。

話を聞こうにも、アレから超さんは地下に潜ったまま。

茶々丸さんも、昨夜は帰ってきませんでした。超さんの所でしょう。

・・・晴明さんも戻りませんが、あの人は別に心配することも無いでしょうから。

 

 

「でも、超さんは100年後の未来から来たはずですよね・・・私、不老不死にでもなってるんですかね・・・?」

 

 

可能性は薄いと思うんですけど。

そう言うのは、エヴァさんが許さないと思いますし・・・。

 

 

「・・・考えても、栓無きことですが」

 

 

とにかく、私は超さんの計画を止めます。

そのための準備も進めています。

まぁ、でも手が足りないのは事実なんですよね・・・。

 

 

でも、他の一般人の生徒の方々を、魔法に関わらせるわけにはいきません。

そこは、譲れない一線ですから。

誰とも知れぬ人などを救うために、私の生徒を危険に晒すことはできません。

 

 

だから。

 

 

「・・・貴女を止めます、超さん」

 

 

私の生徒の日常を守るために。

私は、悪を行う。

 

 

 

 

 

Side ハカセ

 

私の目の前には、整然と並ぶロボ軍団。

田中さんシリーズと、茶々丸の姉妹機達。多脚戦車や航空戦力まである。

その数、3000体。

その気になれば、国の一つや二つ、簡単に落とせそうな戦力だね。

 

 

茶々丸も、今はボディを休眠させて、ネットに潜ってる。

学園側のセキュリティを突破するための、最後の下準備をしている所。

 

 

「・・・遅くなって、すまないネ」

「あ、超さん。ねぼすけさんですねー」

「朝には弱いのヨ・・・でも、朝食には」

「間に合ってませんよー」

「む」

 

 

私が指差した先には、超包子のお料理を乗せたお皿がいくつか、ラップをかけられた状態で置いてある。

五月さんが、超さんにって置いて行った物です。

本当、優しい子だよね。

 

 

「でも超さん、本当にここにある戦力だけで良いんですか?」

「どう言う意味ネ?」

「地下に保管されている大型も使えば、簡単にポイントを占領できると思うんですけど・・・」

「確かにそうかもしれないガ・・・それでは、一般人にも被害が出る可能性があるヨ」

 

 

学園の地下には、無名の鬼神が石化封印されてる。

これを科学の力で制御すれば、麻帆良全体に仕掛ける魔法陣の魔力増幅装置としても使える。

計画の成功だけを考えるのなら、使うのが一番良い。

 

 

でも、超さんはこれを使わないで、魔法陣を組み上げるつもりらしい。

魔法陣生成用のロボット兵器も作ったから、十分と言えば十分だけど。

 

 

「一般人への被害は、最小限に抑えるネ。それでいて、彼らにも魔法と言う物を目撃してもらう」

「・・・そうですか」

 

 

超さんがそれで良いなら、私もそれで良い。

この計画は元々、超さんだけでやるはずの物だったから。

だから、どうするかを決めるのは、超さんであるべき。

 

 

「ハカセ」

「はい?」

「・・・計画は、夕方からネ。離れるなら、今が最後のチャンスかも知れないヨ?」

 

 

超さんの言葉に、私は端末から顔を上げた。

きっと、私はきょとん、とした顔をしているだと思う。

それから・・・笑みを浮かべる。

 

 

「最後まで、お付き合いしますよ。言ったでしょう? お手伝いします・・・って」

「・・・そうカ」

 

 

それから、超さんは何も言わなくなりました。

私も、手元の端末に意識を戻す。

コンソールを叩く音だけが、その場に響く。

 

 

言葉は、いらない・・・なんて、ロマンチックを気取るわけじゃないけど。

今さらですよ、超さん。

私は、最後まで貴女の傍にいます。

 

 

貴女とこうしていられるのは、きっと今日が最後だから。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

「・・・え?」

 

 

私の言葉に、ネギ先生は一瞬、呆けたような言葉を発したです。

無理も無いと思うです。

それ程に、私の言葉は愚かだったのですから。

 

 

「・・・のどかに、何も手伝わないよう、言ってほしいのです」

 

 

私が言っても、きっとのどかは聞いてくれないです。

でも、ネギ先生の言葉なら・・・のどかは聞く。

 

 

今からこの学園で起こるのは、どう考えても平和的なことでは無いはずです。

そうなればどの道、私やのどかは足手まといでしかありません。

のどかにも、それはわかっているはずです。

そして、ネギ先生の言葉があれば・・・きっとのどかは納得するです。

 

 

それがたとえ、どんなに酷いことでも。

どんなに、最低な考えだとしても。

 

 

「・・・そうですね」

 

 

ネギ先生は、少し考えた後、私に微笑みかけて来ました。

その顔は、何故か私の胸を締め付けたです。

 

 

これはきっと、罪悪感と言う名の感情。

でも、引き下がるわけにはいかないです。

私は、のどかだけを守ると決めたです。

 

 

「わかりました。元々、夕映さんやのどかさんは無関係ですし、いつまでも迷惑をかけるわけにもいかないですよね」

「・・・そ、そうです」

 

 

私が望んだことではありますが、そうはっきりと、無関係とか言われてしまうと・・・。

じゃあ、何故のどかと仮契約なんてしたんです、とか。

流石に苛立つと言うか、ムカッと来ると言うか・・・。

 

 

しかし、この台詞が引き出せたのであれば、収穫は十分です。

後はのどかを連れて、どこか安全な場所で引き籠っていれば良いです。

 

 

「ゆえゆえ~、ネギせんせ~、飲み物買ってきました~」

「あ、のどかさん、ありがとうございます」

「あ、ありがとです」

 

 

ネギ先生と2人きりになるために、のどかに飲み物をお願いしていたです。

でも、のどかが笑顔で私に飲み物のパックを渡してくれた時。

私は堪え切れなくなって、その場から駆け出したです。

 

 

「そ、そういうことで、よろしくですネギ先生―――――っ!」

「あ、ゆえ!?」

「夕映さん!?」

 

 

私は、間違っていないはずです。

のどかを守るために、他の方法が思いつかなかったです。

頼れる人もいないですし、私がのどかを守らなきゃって。

 

 

でもこれは、のどかに対する裏切りです。

のどかがネギ先生を好きなのに。

ネギ先生に、のどかに自分から離れるように言わせるだなんて!

私は、最低だ!

 

 

何て低劣で、汚らわしい・・・。

 

 

「・・・はっ・・・はっ・・・」

 

 

角を曲がって、壁に背中を押しつけるように、へたり込みました。

動きたくなかった。

でも、まだネギ先生とのどかからそれほど離れたわけでは無いですので、声を出すことはできないです。

 

 

「お、どしたの夕映、そんな所に座って。ネギ君に話があるんじゃなかったの?」

「・・・ハルナ」

 

 

ハルナが、ハンカチで手を拭きながら、こちらに歩いて来ていたです。

お手洗いにでも、行っていたのでしょう。

 

 

「?」と、不思議そうな顔で私を見るもう一人の親友を見て、私は。

私はついに、自分の感情を抑えることができなくなりました。

 

 

「・・・・・・うくっ」

「え、ちょ・・・な、なんで人の顔見ていきなり泣いてんの!? お腹痛い!?」

 

 

お腹は、痛く無いですよ、ハルナ。

ただ、胸が痛くて、仕方が無かったです。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「・・・そうか、結局、僕がしたことは無駄だったわけか・・・」

「い、いえそんな、高畑先生は何も・・・」

 

 

昨日の埋め合わせに、明日菜君を朝食に誘った。

かなり勝手なスケジューリングだと自分でも思ったけど、明日菜君は文句も言わずにOKしてくれた。

僕が言う資格は無いかもしれないけれど・・・優しい子に育ってくれたと思う。

 

 

まぁ、こんなおじさんと一緒に食事なんてしても、面白くも無いだろうけど。

でもそれ以上に、今の彼女の立場には、申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

 

「・・・本当にすまないね。スパイみたいなことをさせて」

「い、いえ、私が自分で相談しただけですし・・・」

 

 

明日菜君はそうは言うけれど、僕がしていることは、そう言うことだ。

けれど、彼女が知っている情報は、超君の計画を止めるのにとても役立つはずだった。

実際、昨日は超君を捕縛する直前まで行った。

そのせいで、超君が今、どこで何をしているかの情報が全く無かった。

 

 

捕縛自体、想像以上に超君の力が強力だったために、失敗してしまったけれど。

超君も、明日菜君やネギ君には、計画の重要な点は教えていなかったようだし。

 

 

・・・ネギ君。

 

 

「ネギ君は結局、超君の手伝いをすることにしたのか・・・」

「す、すみません。私がもっとちゃんと見てれば・・・」

「いや、明日菜君のせいじゃない」

 

 

そう、明日菜君は何も悪くない。

悪いのは・・・僕だ。

 

 

ナギの息子だからと、ネギ君を放置していた、僕が悪いんだ。

僕がもっとちゃんと、ネギ君のことを気にかけていれば。

こんなことには、ならなかったのかもしれない。

 

 

「・・・わかった。とにかく、明日菜君はこのまま、安全な所へ」

「で、でも、私だって何かお役に・・・」

「もう、十分に役に立ってもらったよ」

 

 

グシャ・・・と、明日菜君の頭を撫でる。

すると、明日菜君は真っ赤な顔をして、何かモゴモゴと言っていた。

 

 

そう、十分過ぎる。

これだけの情報があれば、他の魔法先生と連携して、最小限で事を納められるかもしれない。

後はもう、僕の頑張り次第だ。

 

 

学園長と協議して、今後の対応を決める。

 

 

「じゃあ、僕は先に行くよ。明日菜君も後で・・・」

「あ、あの!」

「うん?」

 

 

席を立とうとした時、明日菜君がどこか緊張した顔で、僕のことを見つめていた。

 

 

「が、学園祭が終わったら、こ、個人的にお時間、いただけませんか!」

「え?」

「そ、そのっ・・・お話したいことが、あるんです!」

「・・・話?」

「は、はい!」

 

 

明日菜君は、本当に緊張した様子で。

もう、今にも倒れてしまうんじゃないかってくらい、顔を赤くしていた。

なんだか、よくわからないけれど。

 

 

大事な話がしたいってことは、僕にもわかった。

 

 

「・・・わかった。なるべく早く、時間を取れるようにするよ」

「は・・・はい! ありがとうございます!」

 

 

その時の明日菜君の笑顔は、本当に輝いていて。

僕はきっと、この笑顔を忘れないだろうな、と。

 

 

そう、思った。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

・・・政治ってのは、わからんもんやな。

と言うか、ほんの二か月前には、こんなことになるやなんて思ってなかったわ。

 

 

「・・・戦争でも、仕掛けるおつもりで?」

「そんなつもりは無いよ、千草さん」

 

 

近衛詠春・・・我らが長は、苦笑しながらそう言うた。

けど、うちが今手にしとる機密書類には、麻帆良の周辺に関西の手勢を伏せてるって言う報告が書かれとる。

それも、10や20ではきかんような数の兵力や。

 

 

強硬派の若手を中心とした、関西の遊撃戦力100人。

分散して四方に配置してあるから、祭りに人員を割かれとる今の東の連中には、気付かれへんやろうけど。

 

 

「一応、我々関西呪術協会は不安定とは言え、麻帆良とは友好関係にある。その我々が、麻帆良を攻撃するわけが無い」

「そうどすな。お友達を攻めるはずがありまへんものな」

「ええ、これはむしろ、友邦を助けるために必要な戦力なんです」

「・・・と、言うと?」

 

 

友邦、なぁ・・・。

正直、今の関西に東を友達やと思っとる奴はおらんと思うけど。

 

 

長に書類を渡すと、長はそれに火をつけて、灰皿に捨てた。

証拠隠滅、周到なことやな。

まぁ、それくらいやないと困るけど。

 

 

「今日中に、麻帆良は混乱します」

「・・・なるほど」

 

 

どういうことかは知らんけど、長は今日、ここで何かが起こると踏んどるわけか。

それがどう言った類のもんかはわからんし、どこからその情報を仕入れたかも知らん。

でもそれは、聞くだけ無駄なことや。

 

 

重要なんは、おそらくここで「戦争に近い」ことが起こると言うこと。

その時、長は麻帆良周囲に配置した兵を動かすつもりなんやろ。

 

 

名目は、関西の使節団の安全を保障するため・・・とかか?

 

 

もし実現すれば、と言うかするやろうけど・・・関西の歴史始まって以来のことやろうな。

陰陽師の一軍が、東の本拠地に陣取るわけやから。

本当、少し前までは考えられへんことやったと思う。

兵の構成に強硬派が多いのも、言ってしまえばパフォーマンスのようなもんやろ。

 

 

「・・・あくどいな、あんたも」

「褒め言葉として、受け取っておきますよ。それで、千草さん達は・・・」

「うちらは、勝手にやらせてもらうで・・・と言うか、うちはともかく、他の2人には規律ある行動とか、無理ですわ」

「そうだと思って、自由行動を許可する旨を記した書状をしたためておきました」

「おおきに・・・用意がええな」

 

 

最初から、そうするつもりやったのかは、わからんけど。

この長は、京都での一件の時に比べて、えらい強かになっとる。

 

 

何があったんかは知らんけど。

まぁ、ええことなんとちゃうか。うちにはあんま関係無いけど。

 

 

「ほなら、失礼しますわ」

「ええ、この件が終わった後は、約束通りに」

 

 

長の言葉に頷きを返すと、うちは部屋を出た。

扉の向こうには、小太郎と月詠はんの二人が、退屈そうに立っとった。

2人は、うちのことを見ると。

 

 

「遅いです~」

「千草ねーちゃん、俺、腹減ったんやけど・・・」

「あんたらな」

 

 

思わず、苦笑してもうた。他に言うことは無いんかい。

 

 

「大体、小太郎。さっき朝餉食べた所やろ」

「千草ねーちゃんの飯は、野菜ばっかで腹が膨れへんねんもん」

「京料理なんて、そんなもんや・・・まぁ、育ち盛りやしなぁ」

 

 

特に小太郎は男の子やし、仰山食べなあかんやろな。

う~ん、このくらいの子は、一日に五食は食べるて、どっかの本にも書いてあったような気ぃするし。

 

 

「・・・しゃーない、腹が減っては何とやらや。何か食べ行こか」

「マジでか! うっしゃあ!」

「月詠はんは、何か食べたいもんとかあるか?」

「うちですかぁ? う~ん、あっさりした物が良いですぅ」

 

 

あっさりなぁ・・・したら、うどんでも食べに行こか。

小太郎には、肉うどんとか食べさせたろ。

関西出汁の店とか、あるかな。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

・・・わからない。

昨夜から、同じ言葉ばかりを繰り返している。

僕は、どうして・・・ここにいる。

 

 

「・・・」

 

 

時計塔の上から、麻帆良の街並みを見下ろしている。

魔法使い達が、歪んだ統治を続ける街。

何も知らずに、誰もが平和に過ごしているだけの、旧世界ではありふれた街並みだ。

 

 

それに対して、思う所など何も無い。

ならば何故、僕はここにいる?

どうして、僕はここに来た?

 

 

アリアに、会うために。

 

 

「・・・僕は、人形だ」

 

 

心など無い。必要も無い。

だけど、アリアだけは、あの白い髪の少女だけは。

心を持たない僕を、惹き付けてやまない。

 

 

『フェイトさん』

 

 

・・・引き付けて、やまない。

 

 

アリアと、彼女と触れあう度に、僕の中の何かが変わって行くのを感じる。

変わってしまうのを感じる。

変わってしまってはいけない部分が、変わって行くのを感じる。

最初は、殺してやりたいと思った彼女。

だけどいつの間にか、手に入れたいと思うようになっていた彼女。

 

 

『フェイトさん』

 

 

・・・ノイズのように、彼女の声が耳元で響く。

実際に聞こえているわけじゃない、僕の記憶が、勝手に再生しているような物だ。

幻聴に過ぎない。

 

 

ここまで来ると、洗脳の魔法でもかけられているんじゃないかと、自分を疑いたくなる。

だけど、僕にそんな物は効かない。

 

 

『フェイトさん』

「・・・アリア」

 

 

こういう気分を、何と言うのだろう。

そう・・・この、頭が、そして胸が不愉快に締め付けられる感覚は。

 

 

これは、何だ?

 

 

「・・・苛々、するね」

「その割には、その腕輪を大事そうに身に付けておるのぅ」

「・・・キミは」

 

 

僕の隣には、昨日から僕について回っている、西洋人形、晴明。

そして晴明の言う通り、僕は昨日手に入れたブレスレットを身に着けている。

魔法発動体でもなんでもない、無駄としか思えない装飾品だ。

 

 

「キミは、いつまで僕について回るつもりだい?」

「うん? 何、迷える若人の助けをしたくてのぅ」

「良く言う・・・」

 

 

何故、この人形が僕に興味を抱いているのかはわからないけれど。

ただ、少なくとも善意や好意で動いているわけでは無いことぐらい、僕にもわかる。

 

 

「苛々する・・・のう? いや不思議じゃ。心を持たぬ主が、何故に苛立ちなどを感じるのじゃろうな?」

「・・・さぁね」

「先ほどから一生懸命に、うんざりした顔や、鬱陶しげな顔を作っているが、本当は何も感じてはいないのでは無いか? 心が無いと言う主は、感情の起伏など無いはずではないか」

「・・・僕のことを、キミに説明されなくても、僕が一番良く知っているよ」

「そうかの」

「そう」

 

 

僕には、心など無い。

もし、感情のような物が表れているのだとしても、それは所詮、外面上の話だ。

僕の内に、心や感情などと言う物は、存在しない。

 

 

するはずが、無いんだ。

 

 

『フェイトさん』

 

 

けれど、なら、コレは何だろう。

僕には、わからない。

 

 

「・・・キミは、知っているのかな。アリア」

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

ドネットさんは、忙しそうに色んな所に連絡を取ってる。

もう、お昼に近い時間だけど、すごく忙しそう。

 

 

私は、言ってしまえば形だけの特使だから、こういう正式な仕事になると、手伝えない。

それでも書類整理くらいは手伝えないかと思ったんだけど、やっぱり細かい作業は、その、苦手で・・・。

 

 

「アーニャ、ここはもう良いわよ」

「や、やっぱり役に立たない?」

「え?・・・何言ってるの、貴女は十分に役立ってくれたわ。貴女のおかげで、麻帆良の内実の一部も知ることができたんじゃない」

 

 

優しい笑顔で、ドネットさんは笑った。

その笑顔は、少しだけ疲れが見えたけど・・・でも、とても綺麗な笑顔だった。

大人の女の人の、笑顔。

 

 

「それより、ごめんなさいね。時間を取らせて。後はもう、貴女の好きに動いてくれて良いわ」

「す、好きに・・・って」

「言葉の通りよ。責任は全部こっちで取るから、貴女は、自分の思う通りに行動なさい」

「私の、思う通りに・・・」

「アリアのこと、心配なんでしょう?」

 

 

アリア。

ネギのことは、昨日の夜の一件で、十分にわかった。

でも、アリアのことは結局、何もわかってない。

 

 

麻帆良で何をしていたのか。

や、<闇の福音>とどんな関係なのか。

ネギと、何があったのか。

今、何を考えて生きているのか。

 

 

聞きたいことが、たくさんあった。

 

 

「行って来なさい、アーニャ」

「・・・はい!」

 

 

そう、立ち止まって悶々と考えるなんて、私らしくないわ。

会って、直接話す。

そこから、全てが始まるんだもの。

 

 

私は、持っていた書類を棚に戻すと、そのまま部屋の外に飛び出した。

その時には、部屋の隅で大人しくしてたエミリーも、私の肩に乗ってくる。

・・・そうだ。私は、少しだけ立ち止まって。

 

 

「ドネットさんは、どうするんですか?」

「・・・私は、ここにいるわ」

 

 

静かに笑んで、ドネットさんは言った。

 

 

「もう遅いかもしれないけれど、大人にしかできない仕事をしたいのよ」

「・・・そう、ですか」

 

 

正直、意味は良くわからないけど。

でも、ドネットさんには、きっとドネットさんにしかできない仕事があって。

そして私にも、私にしかできないことが、きっとあるはず。

 

 

「・・・行ってきます、ドネットさん!」

「行ってらっしゃい、アーニャ」

 

 

今度こそ、私は部屋を飛び出した。

廊下を駆けて、外へ。

 

 

胸元の『アラストール』を握り締める。

脳裏に浮かぶのは、白い髪の親友(アリア)。

 

 

「エミリー、探査お願い!」

「はい、アーニャさん!」

 

 

アリアの所へ!

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「はい、カウンター席6名様ご案内しまーす!」

「「「ありがとうございまーす!」」」

「ご注文承りまーす!」

「「「ありがとうございまーす!」」」

 

 

お昼時、せっかくだからと、私とこのちゃんはアリア先生達と昼食も一緒にすることにした。

午前中は、特にすることも無かったし。

しかしそこは、何と言うか、戦場だった。

具体的に言うと、「超包子」と言う名の、戦場だった。

 

 

この時期の「超包子」は、生徒はもちろん、外部の人にも大人気の屋台だ。

ごった返している場を、「超包子」の制服を着た方々が、お客さんの間を縫うように飛び回っている。

私達は、四葉さんのいる屋台のカウンターに通された。

メンバーは、私、このちゃん、アリア先生、エヴァンジェリンさん、さよさん、スクナさん。

チャチャゼロさんもいるが、当然、店員には人数として数えられていない。

 

 

「さーちゃん、スクナはお腹がすいたぞ!」

「うん、たくさん食べて良いよ。・・・なんだか、懐かしいやり取りだね」

「まぁな。ああ、五月、いつものを頼む。人数分な」

 

――はい、少々お待ちください――

 

「超はいないのか?」

 

――今日は朝から、別の場所にいるみたいです――

 

 

相変わらず、独特な話し方をする四葉さん。

エヴァンジェリンさんも四葉さんに対しては、他のクラスメートの方とは違う雰囲気で接している。

その間にも、四葉さんは手際よく調理を進めて行っている。

 

 

もちろん、私達の分だけでなく、他の客の分も含めて。

熱い物、冷たい物、優先順位を決めて、次から次へと完成していく料理。

 

 

「いつもながら、凄いなぁ」

「そうですね。四葉さんの手際は素晴らしい物があります」

 

――ありがとうございます――

 

 

私とこのちゃんも、四葉さんには感心するばかり。

そして完成した料理の全てが、間髪入れずに客の下へと運ばれて行く。

 

 

「6番テーブル、お料理入りまーす!」

「「「ありがとうございまーす!」」」

「2番テーブルのお客様、お帰りでーす!」

「「「ありがとうございまーす!」」」

 

 

四葉さんは、全体の様子を見つつ、しかし声をかけることはしない。

配膳や注文は、全て他の方がやっているからだ。

ただ、お昼時なだけあって、凄く大変そうだ・・・。

 

 

そして、それを見かねたのか、アリア先生が四葉さんに。

 

 

「よければ、お手伝いさせていただけませんか?」

 

 

・・・などと、言った。

いや、アリア先生。貴女はどれだけ働くおつもりなんですか・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「あの・・・よければ、お手伝いさせていただけませんか?」

「アリア、お前な・・・」

「いえ、だって大変そうですし、お仕事たくさんありそうですし・・・」

 

――アリア先生は、本当にお仕事がお好きなんですね――

 

 

四葉さんは、どこか苦笑しながら、私を見ていました。

 

 

――でも、大丈夫ですよ。手は足りていますから――

 

「え、でも・・・」

「他人の仕事をとろうとするのは、感心しないな、アリア先生?」

 

 

不意にかけられた声に振り向けば、そこには。

 

 

「真名さん?」

「こんにちは、アリア先生・・・四葉、私にも軽く何か頼む」

 

――わかりました――

 

 

真名さんが、私達と同じカウンターに腰かけて、料理を注文しました。

真名さんは、たしか超さん側ですから・・・それを言えば、四葉さんもですけど。

 

 

傭兵である真名さんは、仕事以外で何かをするような方では無いので、ここでどうこう、という話にはならないでしょうけれど・・・。

でも、仕事をとるな、なんて。どこかで言われたことがあるような?

 

 

「さっちゃん、ごめん! 8番の注文間違えちゃった!」

 

――すぐにお詫びして、調理し直してください――

 

「五月料理長、塩が無くなったでごわす!」

 

――2番倉庫に予備がありますから、それで当座を凌いでください――

 

「四葉さん、このお料理、何番だっけ!?」

 

――3番カウンターです。落ち着いて配膳してくださいね――

 

 

その間にも、四葉さんは仕事を消化していきます。

いつの間にやら、私達の前にも、料理が並んでいました。

 

 

四葉さんは、方々に指示を出したりはしますが、自分は調理に専念しています。

全てを自分でやるわけではないのに、全てが上手く回っていて。

なんというか、凄いな、と思いました。

 

 

「あれが、四葉の凄い所だな。戦場に出れば、良い指揮官になるだろう」

「五月だからな。当然と言えば当然だろう」

 

――ありがとうございます――

 

 

エヴァさんと真名さんが、炒飯(チャーハン)をパクつきながら、それぞれ四葉さんを褒めました。

でも、確かに凄い。

何が凄いって、自分で何もかもを見ていなくても、それで平然としている所とか。

 

 

私などは、全部自分でやりたがるのに。

それは、他人に任せると不安だったり、あるいは迷惑をかけたりするのが怖いからだったりしますが。

 

 

「四葉さんは・・・」

 

――はい?――

 

「凄いですね。なんというか・・・仕事の任せ方が上手いと言うか・・・」

 

――ありがとうございます。でも、私もまだまだですよ――

 

 

四葉さんは、恥ずかしそうに微笑んで、そんなことを言いました。

 

 

――私は、お料理しかできませんから。皆さんの力を借りないと、何もできないだけで――

 

「何もできないなんて、そんな」

 

――お互いに失敗したりとか、迷惑をかけあったりもしますし――

 

 

私からすると、その迷惑をかけあえる所が凄いのですが。

 

 

「まぁ、役割分担、と言う物さ。アリア先生」

 

 

炒飯(チャーハン)の付け合わせのスープを美味しそうに飲みながら、真名さんが言いました。

 

 

「必要な時に必要な支援を得る、と言うのは、戦場においては重要なことだからね」

「支援・・・手助け、と言うことですか?」

「まぁ、そうとも言うな。あるいは補い合いとも言えるし、長所を重ねた協力プレイとも言えるだろう」

「は・・・軟弱な人間が好みそうな言葉だな」

「エヴァさんは、単独プレイばっかりですもんねー」

「さよ、その酢豚をよこせ」

「ああ、そんなご無体な!?」

 

 

何やら、一部がまさに戦場となっていますが。

 

 

「穿った言い方をすれば、世の中は迷惑のかけ合いが上手い奴が勝つ・・・と、言えるかもしれない」

「本当に穿った言い方ですね・・・」

「私なりの見解さ」

 

 

ふ・・・と、微笑む真名さん。

 

 

「その点、超はある意味で迷惑をかけるのが下手なタイプだ。他人を信じることはできても、仕事を振り分けることができない。最終的には、自分で全てをやろうとする・・・誰かに、似ているな?」

「・・・」

「・・・まぁ、私個人の意見だ。気にしないでくれ・・・四葉、美味かったよ」

 

――ありがとうございました――

 

 

真名さんは、いつの間にやら炒飯(チャーハン)を完食すると、そのまま立ち去って行きました。

・・・何をしに現れたんでしょう?

 

 

しかし、それでも。

四葉さんの話も、真名さんの話も、聞く価値はあったような、そんな気がします。

 

 

『ひよっこが、一人で何かできると思うなよ』

 

 

どうしてか、脳裏にエヴァさんの言葉が甦りました。

一人では、何もできない。

役割分担、迷惑のかけ合い・・・そして、信じること。

仕事を、任せると言うこと。

 

 

超さんを止めるには、どうしても、手が足りないと考えている私。

けれど、それを誰かに言ったりはしなかった私。

言ったとしても、それだけだった私。

誰かと同じ、私。

 

 

「・・・エヴァさん」

 

 

・・・シンシア姉様。

 

 

「チャチャゼロさん、さよさん、スクナさん」

 

 

私は、間違っていたとは、やっぱり思えません。

でも、少しだけ・・・少しだけ。

 

 

「・・・木乃香さん、刹那さん」

 

 

少しだけ。

 

 

「・・・迷惑をかけても、良いですか?」

 

 

アリアは少しだけ、変わってみようかと、思います。

 

 

 

 

 

<おまけ―――――ちび達の冒険④・宇宙(ソラ)へ>

 

広がる宇宙空間、襲い来る侵略者達。

キミは、大切な人を守ることができるか―――!

ライドアトラクション「ギャラクシーウォー」は、星の戦士達を待っている!

 

 

「ちびアリア49の隠し技、『みだれうつぜぇ』ですぅ――!」

「ざんくーせん! ざんくーせん!」

「あははは、2人とも、あんまりオイタしたらあかんえー」

 

 

地下から脱し、場面が急速に変わって、地上。

とはいえ、地上に出るのに一晩を要したわけだが・・・とにかく。

三人の「ちび」は、麻帆良祭のアトラクションの制覇に乗り出していた。

 

 

もはや確実に、主人の命令を忘れている・・・と言うより、無視している。

彼女達の存在意義に関わる問題ではあるが。

 

 

「地球は誰にも渡さねーですぅ―――!」

「ざんくーせん・かい!」

「うふふふ、かわえ~なぁ、2人とも」

 

 

彼女達は、誰にも見えない。

それゆえに、たまたま無人のライドに乗り込み、アトラクションを楽しむことも可能なのである。

決して、人間に幻術をかけたりはしていないのである。

 

 

「危ない、ちびせっちゃん!」

「あうぅ、ありがとうございます!」

「ええよ。うちは、ちびせっちゃんが無事ならそれでええんや」

「ちびこのちゃん・・・」

 

 

その時、ちびせつなに迫った敵キャラを、ちびこのかが間一髪で撃退した。

感激したちびせつなは、ちびこのかにヒシッ、と抱きついた。

 

 

ぱっと見、友情溢れる感動的な一コマかもしれない。

だが、ちびアリアは見た。

 

 

某新世界の神のごとく、ちびこのかの顔が「計画通り」と笑みを浮かべるのを。

 

 

(こ、この新入り、多数派工作に乗り出し始めやがったですぅ・・・!)

 

 

そう、ちびアリアは気付いていた。

三人になったことで、多数決原理の導入が可能だと言うことに。

すなわち、2人になった方が有利だと言うことに。

 

 

つまり。

 

 

(れ、レギュラー落ちの危機ですぅ・・・!)

 

 

新キャラの登場に、ちびアリアの焦りは募るばかり。

しかし、彼女の高すぎるプライドが、媚びへつらう事を良しとはしなかった。

 

 

彼女は、あくまでも戦う道を選んだ。

 

 

「ま、負けねーですぅ!」

「ふぇ? ちびアリアさんは何を言ってるんでしょー?」

「さぁ・・・うちには、わからんえ(ニヤリ)」

 

 

ちび達の結末や、いかに。

 




茶々丸:
茶々丸です。こんばんは(ぺこり)。
今回は、ネットに潜っていたために、出番がありませんでした。
そのため、私が後書きを担当させていただきます。
しかしご心配なく、マスターやアリア先生の様子は、いつでも確認できます。
ネットは膨大ですから。
それはそれとして、今回は、最終決戦前の午前、お昼を描きました。
各勢力の動きが激しくなっております。
アリア先生も、ここからが変化の始まりになるのかもしれません。


茶々丸:
次回以降、最終決戦に入ります・・・が。
次回はバレンタインですね。
おそらく、特別編が入ることになるかと思います。
では、私も仕事に戻ることにいたします。
また、お会いいたしましょう。

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