魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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魔法学校編②「バレンタイン・パニック?」

Side ネギ

 

 

・・・思ったよりも、簡単だった。

ついでに言うのなら、面白くも無かった。

いつもアリアが魔法薬を弄っていたから、何か面白いのかと思っていたけど。

 

 

「・・・魔法薬学の課題は、これで良いや」

 

 

あんまり、興味も無いし。

課題を最低限こなして、単位さえ落とさなければ、それで。

魔法薬なら何でも良いって言ってたし。

 

 

「・・・あ、容器が無いや・・・」

 

 

魔法薬は、専用の容器に入れて保管しなきゃいけないんだけど、その容器が無かった。

えっと・・・。

 

 

材料を持ち出した禁庫(禁止薬物保管倉庫)に戻るのも、面倒だし。

ガチャガチャ・・・ガラス瓶がたくさん入ってる場所に身体を入れて、何か無いか探す。

う~んと・・・。

 

 

「・・・あった」

 

 

適当な空き瓶を見つけた。

この中に入れておけば、良いかな・・・。

 

 

「・・・あふ」

 

 

気が付くと、窓の外が明るくなり始めていた。

今日はもう寝よう。

明日は授業も無いし、これ以上は効率も落ちるし・・・。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「あっれ――?」

 

 

おっかしーわねー、この辺にいつもあるのに。

今日はバレンタイン。

せっかくだし、チョコレートでも作ろうかと思ったのに、ラム酒が見つからないじゃないのよ!

 

 

まぁ、別にチョコレートじゃなくても良いんだけど。

アリアが、「バレンタインと言えばチョコレートですよね」とか、毎年言うんだもん。

町でキャンディボックスでも買った方が、ずっと早いのに。

 

 

「ドロシー、ラム酒知らなーい?」

「お姉さまにお聞きしましょうっ・・・」

「・・・別に良いけど、そのチョコレート、アリアに秘密で作ってるんじゃないの?」

「そ、そうでした・・・!」

 

 

ダメね、ここは私が頑張らないと。

ドロシーはもう、さっきから大量のチョコをかき混ぜるのに必死だものね。

それ以上に、苺ばっかりすり潰してるけど。

そして何より子竜のルーブルが、密かに苺をつまみ食いしてるけど、そこは別に私が言うことじゃない。

 

 

それはそれとしても、ラム酒が無いのよ。

ラム酒が無いと・・・ううん、もうチョコとかどうでも良いわ。

 

 

ラム酒が見つかるまで、私はここを動かないわ・・・!

 

 

「・・・あ、あのっ」

 

 

すると、茶髪の女の子が、大きな瓶を抱えて立っていた。

ロバートの妹にしておくのがもったいないくらいの、可愛らしい女の子。

現在、アリアやドロシー達と一緒に、ロバートの毒牙から守るためにあれこれ教育中。

 

 

「こ、これ・・・」

 

 

ヘレンが小さな身体全体を使って持っているその瓶には、「ラム酒」と書いてあった。

私は、右拳を思い切り握りこんだ。

 

 

「勝ったわ・・・! 何にかはわからないけど、私は勝利したわ・・・!」

「・・・?」

 

 

ヘレンは何もわかってないみたいだったけど、頭を撫でてあげると、照れたように笑ってくれた。

 

 

 

でも、未来の私はこれで後悔することになるなんて、この時点の私にはわからなかった。

もし、私に少しでも注意力とか用心深さとかあったら・・・きっと、違う結果になっていたんだと思う。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ミルクを多めに使って、甘いお紅茶を淹れます。

そして何より重要なのが、熱して溶かしたチョコレートと、新鮮な苺。

フォークで刺した苺を、温かなチョコの中に浸して・・・。

 

 

自分でもわかるくらいウットリとした目で、私はそれを見ます。

そのまま、チョコを垂らさないように注意しながら、苺を口の中へ。

 

 

「・・・ん・・・ふ」

 

 

一瞬の熱。

次いで訪れる、甘味。二種類の異なる甘さが、私の口内で何とも言えないコントラストを・・・。

し・・・。

 

 

「しあわふぇ・・・」

 

 

別にバレンタインでなくとも、苺は切らしませんが・・・。

チョコレートフォンデュもどきも、たまには良いですね。

 

 

たまの休日、静かな時間。

甘い物を食べるこの時間は、私の癒しの時間です。

では、もう一口・・・。

 

 

その時、私の部屋の扉が勢いよく開きました。

 

 

「アリア、頼む、お前しか頼れる奴がいないんだ!」

「しかし、その平和な一時も長くは続かなかったのでした・・・」

「あ、おい! 人が来た瞬間に落ち込んでんじゃねぇよ!」

 

 

私の部屋の扉をもの凄い勢いで開けたロバートは、いきなりテーブルに突っ伏した私に対して、そんなことを言いました。

でも、仕方が無いんです。

大声で名前を呼ばれながら、癒しの時間を奪われた私の気持ちなんて、誰にもわからないでしょう。

 

 

もう、今この世界が滅んでも受け入れるんじゃないかと言う気持ちで、私は上体を起こしました。

見れば、ロバートは許可なく私の部屋に入り、勧めもしないのに部屋の真ん中に座りました。

 

 

「・・・聞いてくれ、アリア」

「ええ、まぁ、聞くだけで済むなら」

「まずは、コレを見てほしい」

 

 

そう言ってロバートが見せてくれたのは、ピンク色の包装がされた小箱。

ハートマークまでついて、零れ落ちたメッセージカードには、「お兄ちゃんへ」と書かれています。

とどのつまりは、ヘレンさんからロバートへのバレンタインチョコですね。

 

 

「ヘレンのチョコだ。可愛いだろ」

「良かったですね」

「ああ、良かった。最高だ。思わずその場であれやこれやしそうになったわけだが、それはまた別の物語だ」

 

 

聞き捨てなら無いことを聞いた気がいますが、あえて良しとします。

 

 

「だが・・・俺は見てしまったんだ。妹が・・・ヘレンが、もう一つ、これよりも大きな箱を持っているのを!」

「それは・・・つまり、ロバート以外に渡す相手がいると言うことでしょうね」

「ちくしょおおおおおおおぉぉぉぉぉ――――――――――っ!!!!!!」

 

 

もの凄い声量で、ロバートが叫びました。

両手を床につけて、まさに「ort」な体勢。

もう、主人公に野望を砕かれた魔王みたいなテンションです。

 

 

「なんでだっ・・・こんなに素敵イケメンな兄がいるのにっ・・・!」

「むしろ私は今、ヘレンさんの兄離れの原因を掴んだような気がします」

 

 

何をしに来たのかと思えば、愚痴を言いに来たのですか・・・。

いつの間にやらロバートは、涙ながらにヘレンさんのチョコを食べ始めました。

まぁ、そう言うことであればと、私も苺のチョコフォンデュを再開しました。

 

 

ああ・・・幸せ♡

 

 

 

 

 

Side ミッチェル

 

「あ、ありがとうございます、アーニャさん・・・」

「良いのよ、毎年のことだし」

 

 

多めに作ったから、と言うことで、アーニャさんは僕の部屋にチョコレートを届けてくれた。

バレンタインの贈り物らしい。

僕も、アーニャさんにカードを渡した。こんな物で申し訳ないけど。

 

 

郵便受けの中に入れられたチョコを、大事に取り出す。

ちなみに、僕は外には出ない。知らない人に会ったら怖いし、アーニャさんとは扉越しに話してる。

 

 

「まぁ、あんまり味は期待しないでちょうだい」

「そ、そんなこと・・・」

「アリアからのじゃなくて、悪いけどね」

「・・・そ、そんなこと・・・」

 

 

ワンテンポ遅れた僕の答えに、アーニャさんが笑った。

クスクスと響く笑い声に、僕は部屋の中で縮こまってしまう。

 

 

「・・・ま、今年もアリアから貰えるといいわね?」

「は、はい・・・」

 

 

アリアさんは、毎年僕にチョコを用意してくれるけど、ここまで持ってきてはくれない。

僕が自分で外に出て、アリアさんの部屋まで行かないといけない。

 

 

正直、欲しい。

でも、部屋を出るのは怖い。

 

 

「あ、アーニャさん」

「ダメよ。あんたもそう遠くない内に卒業なんだから、部屋から出れるようにならないと」

「う・・・」

「じゃーね♪」

 

 

アーニャさんは、行ってしまった。

正直、正論だから言い返せない。

僕だって、いつまでも部屋に閉じこもっているのはよくないって、わかるけど・・・。

 

 

・・・アリアさんと初めて会ったのは、この部屋だった。

というか、引き籠ってたから、出会ってすらいないんだけど。

何年か前、どうしても部屋から出れなくて、初級魔法薬学の授業を病欠した時のことだった。

アリアさんが、課題と、そのための材料を持って来てくれたんだ。

 

 

そう・・・今でも、覚えてる。

 

 

ごそ・・・と、勉強机の引き出しを開ける。

その中には、一枚の紙切れ。

 

 

『課題だけ出しておけば、OKなので。出てこなくても大丈夫ですよ。 アリア・スプリングフィールド』

 

 

出てこなくても、大丈夫。

そんなことを言われたのは、初めてだった。

親も、先生も、皆。

部屋に閉じこもってるなんて、情けないと笑うばかりで。

 

 

皆、僕を部屋から出そうとするばかりで。

 

 

「・・・甘いや」

 

 

アーニャさんのチョコは、甘いけど、なんだか苦かった。

・・・苦い?

 

 

 

 

 

Side ヘレン

 

とっ、とっ、とっ・・・と、廊下を走ります。

あの人のお部屋に行きたいんだけど、道に迷ってしまいました。

 

 

「あうぅ・・・」

 

 

もう、疲れちゃったし、道がわからなくて怖い。

いつもはお兄ちゃんやお姉ちゃん達と一緒だけど、今日は一人だから。

 

 

でも、どうしよう・・・不安になって、涙が出そうになります。

な、泣いちゃダメ。泣いたらお兄ちゃんがまた先生に怒られちゃう・・・。

 

 

「そこに、誰かいるのかね?」

「ひゃうっ・・・!」

 

 

急に声をかけられて、ヘレンはびっくりしました。

振り向くと、大きなおじさんがいました。

名前は知らないけど、たぶん、学校の先生。

 

 

「うん・・・キミは、ロバート君の妹じゃないかね?」

「えぅ・・・お、お兄ちゃんのこと、知ってるの・・・?」

「ああ、良く知っているとも。私は彼の先生だからねぇ」

 

 

おじさんは、大きなお腹を撫で撫でしながら、ヘレンのことを覗き込んできました。

ヘレンは、俯いて、小さくなります。

 

 

「どうしたのかね? 道に迷ったのかな。よし、先生が連れて行ってあげよう」

「だ、大丈夫です・・・」

「遠慮することは無いよ。ほら・・・」

 

 

どうしよう、怖い。怖い。怖い。

おじさんの手が、ヘレンの頭に。

助けて、お兄ちゃん。

 

 

ふぇ・・・。

 

 

「ミス・キルマノック!」

 

 

その時。

聞いたことのある声が、聞こえました。

 

 

「ごめんなさいね。遅くなってしまって」

「・・・お、おお、シオン君じゃないか」

「こんにちは、先生。ミス・キルマノックは私と用がありますので、失礼いたします」

「う、うむ・・・そうかね」

 

 

シオンお姉ちゃんでした。

シオンお姉ちゃんは、私の手を引いて、歩き始めました。

変なおじさんから、助けてくれました。

 

 

いつもお兄ちゃんとケンカばかりしてるお姉ちゃんだけど、助けてくれました。

ぎゅっ・・・と手を握ると、軽く笑ってくれました。

 

 

「それで、どこに行きたいの?」

「え、と・・・」

 

 

私が答えると、シオンお姉ちゃんは、優しそうに笑ってくれました。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・なぁ、アリア」

「なんですか? 私は今、苺のどの部分にチョコをつければ最も美味しいかを考えるので忙しいのですけど」

 

 

およそ5分に一個のペースで、私は苺のチョコフォンデュを楽しんでいます。

しかし苺の数には限りがありますので、いかに美味しく頂くかが、結構な論点なのです。

 

 

「お前って・・・結構、可愛いよな」

「・・・・・・は?」

「うん、いや・・・本当、妹の次くらいに可愛いぜ」

 

 

・・・それは、どう反応したら良いんでしょう。

一応、褒められている・・・のでしょうか。

 

 

見てみると、どうもロバートの様子がおかしいことに気付きました。

何と言うか、こう・・・顔が赤くて、熱に浮かされているような。

い、嫌な予感がします。

気が付くと、ロバートは私の傍に寄ってきていました。

 

 

「ちょ、ちょっと、早まってはいけません、ロバート。貴女にはヘレンさんと言う妹が・・・」

「お前、いつも妹離れしろって言ってんじゃねーか・・・」

「そ、それは、そうですけど・・・」

「お前・・・綺麗な目ぇ、してんな」

「ろ、ロバー・・・」

 

 

ジリジリとにじり寄ってくるロバートから離れるように、私は立ち上がり、壁際まで下がります。

とん・・・と、後頭部が壁にぶつかります。

ロバートは、構わずに近付いて、私の顔の横に手を置きました。

 

 

「お、落ち着いて、ロバート・・・」

「・・・いやぁ、無理だな。お前が可愛すぎるのがいけねぇ」

 

 

こ、こんなのロバートじゃないぃ―――!

ロバートがヘレンさん以外の方を口説くなんて、そんなバカな。

だ、大体、好感度を上げるイベントなんて、何一つ・・・!

 

 

そんなことを考えている間に、ロバートの顔が、段々近付いてきました。

 

 

「アリア・・・」

「え、ちょ・・・ろ、ロバート、だ、ダメ・・・」

 

 

も、もうダメ・・・!

諦めかけて、目をキツく閉じたその時。

 

 

「ぷげらっ!?」

 

 

ロバートの悲鳴が、聞こえました。

・・・?

目を開けると、ロバートが部屋の反対側の壁まで吹き飛ばされていました。

顔面から壁に激突し、ズルズルとずり落ちて行きました。

 

 

な、何があったのでしょう・・・?

そう思い、視線を巡らせてみると。

 

 

「み、ミッチェル・・・?」

 

 

ミッチェルが、そこにいました。

いつも部屋に引き籠っている彼が、呼んでもいないのに、私の部屋まで来るなんて。

いえ、それよりもまず、お礼を言わなくては。

 

 

「あ、ありがとうございます、ミッチェル。助けてくれて」

「・・・」

「・・・ミッチェル?」

「・・・あ、アリアさん!」

「はい!?」

 

 

急に、俯いていたミッチェルが顔を上げ、私の両肩を掴んできました。

年齢の割にミッチェルは身体が大きいので、正直、ビックリしました。

 

 

ミッチェルは、ロバートなど比較にならない程に顔を赤くして、呼吸も荒い感じです。

ロバートと違って、無理に迫ってくる感じではありませんが・・・。

 

 

「あ、あ、アリアさん!」

「は、はい・・・?」

「あ、あのその、ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼ、僕・・・!」

「・・・?」

「ぼ、僕は・・・!」

 

 

僕は・・・何なのでしょう。

何か、もの凄く言いにくそうにしていますけど。

 

 

なんだか、よくはわかりませんが・・・。

私は、ミッチェルの頬に手を伸ばして、なるべく優しく、微笑みました。

 

 

「ゆっくりで・・・良いですよ。ちゃんと、聞いてますから」

「あ、アリアさん・・・」

「はい、なんですか?」

「アリアさん、僕・・・僕、貴女のことが」

 

 

ぐ・・・と、肩を掴む手に力がこもりました。

少し痛くて、私は身をよじってしまいました。

 

 

「み、ミッチェル、痛い・・・」

「え・・・あ、その、ご、ごめんなさい!」

 

 

大慌てで、私から手を離すミッチェル。

その時。

 

 

「不潔ですぅ――――っ!(クルックー☆)」

 

 

窓を突き破り、見たことのある子竜がミッチェルの顔面に突き刺さりました。

その名はルーブル。とある少女を守る竜。

でも今回は、武器として使用されたようです。

 

 

子供とは言え、竜の一撃(一撃と言って良いのかはわかりませんが)を受けたミッチェルは、その場に沈みました。

・・・いったい、何が言いたかったんでしょう。

 

 

「お姉さま・・・! 汚らわしい男に触れられませんでしたか・・・!」

「ドロシー!?」

 

 

窓から入ってきたのは、後輩のドロシー・・・って、ここ結構高い位置ですよ!?

注意する間も無く、ドロシーは私に飛びついてきました。

勢いよく抱きついてきた物ですから、私はその場に尻もちをついてしまいました。

 

 

いたた・・・。

しかし、ドロシーはそんな私にしがみ付き、スリスリと頬を私の胸に擦りつけて来ます。

 

 

「ち、ちょっとドロシー、くすぐったいですよ」

「お姉さま、お姉さま・・・っ」

「な、何ですか?」

 

 

なんだか今日は、同じような展開が続いていますね。

 

 

「お姉さま、大好きです・・・っ!」

「・・・!」

 

 

恥ずかしそうに顔を赤くして、ドロシーは私を大好きだと言ってくれました。

どう言う話の展開かはわかりませんが、それでも、ドロシーの気持ちは伝わってきました。

 

 

私は、身体の位置を整えて、改めてドロシーを抱き締めると。

ゆっくり、ドロシーの頭を撫でながら・・・。

 

 

「・・・ありがとう、ドロシー。私もドロシーが大好きですよ」

「お姉さま・・・♡」

 

 

ドロシーの小さな身体を、できるだけ強く、かつ優しく抱き締めます。

なんだか、ドロシーの手が妙な所に触れている気がしますが・・・。

まぁ、気のせいでしょう。

 

 

・・・それにしても、ロバートもミッチェルも、いったいどうしたのでしょうね?

 

 

 

 

 

Side シオン

 

「・・・お取り込み中のようね」

 

 

ミス・スプリングフィールドの部屋の前で、ノック直前の体勢のまま、私は固まっていた。

ミス・ボロダフキンと抱き合ってる様子なのが、漏れ聞こえてくる会話からわかるのだけど。

 

 

窓を割ったらしいのは後で注意の上、減点するとして。ここで邪魔をする程、私も野暮では無いわ。

手を繋いでいるミス・キルマノックを見下ろすと、不思議そうな目で私を見上げて来た。

純粋なその反応が、とても可愛らしい。

 

 

「ミス・キルマノック。ミス・スプリングフィールドは忙しいみたいだから、用件は後にした方が良いわ」

「アリアお姉ちゃんは、忙しいの?」

「ええ、そのようね・・・しばらく、私と談話室でお喋りでもする?」

「えっと・・・うん!」

 

 

満面の笑顔で、頷いてくれるミス・キルマノック。

本当に可愛い。

ミスター・キルマノックが、過保護なまでに可愛がるのも、無理は無いのかもしれない。

 

 

彼は、行き過ぎだと思うけど。

 

 

「シオンお姉ちゃん、シオンお姉ちゃん」

「何かしら?」

「お姉ちゃんに、コレあげる」

 

 

そう言って、ミス・キルマノックは大きな箱を差し出してきた。

大事そうに持っていた物だけれど、何かしら。

 

 

「これは、何かしら?」

「ちょこれーと!」

「チョコレート? ・・・ああ、バレンタインの贈り物ね」

「うん! アリアお姉ちゃんにあげるつもりだったけど、シオンお姉ちゃんにあげる!」

 

 

なるほど、ミス・スプリングフィールドに何の用かと思ったけれど、コレを渡したかったのね。

でも、そんな大切な物を、どうして私に?

 

 

「シオンお姉ちゃんは、怖いおじさんから助けてくれたから、あげる!」

 

 

怖いおじさんと言うのは、私がこの子と出会う前に、この子に手を出そうとしていた教師のことね。

以前から、女生徒との間でトラブルの噂がある教師だったのだけど・・・。

何度か、職員間でも問題になっていて、今度内密に査定が入るはずよ。

 

 

まぁ、そうでなくとも、あの教師に近付く女生徒なんていないけれど。

ミス・キルマノックが一緒にいる所を見つけた時は、心臓が止まるかと思ったわ。

 

 

そのミス・キルマノックは、私に箱を差し出しながら、ニコニコと笑っている。

本当は他人への贈り物を貰うなんて、良くないことなのだけれど。

この笑顔を前にすると、何とも断れないわね。

 

 

「・・・じゃあ、受け取っておこうかしら」

「うん!」

 

 

大きなチョコレートのようだから、少し食べてみせれば良いでしょう。

その後、私からミス・スプリングフィールドの方に謝っておけば済むことだわ。

 

 

「・・・じゃあ、談話室に行きましょうか」

「はーい!」

 

 

可愛らしく返事をするミス・キルマノックに、私も口元が緩むのを感じた。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

これで大体、校内に残ってる人達には配り終えたかしらね。

私は毎年、先生とか、他の友達の生徒とかにもチョコを配り歩いているの。

なんだっけ、アリアが言ってた・・・。

 

 

「世話チョコと、友チョコと、義理チョコ・・・だっけ?」

 

 

確か、そんな名前だった気がする。

まぁ、後はアリアと・・・って。

 

 

「ネギ!」

「あ、アーニャ」

「珍しいじゃない、あんたが図書館から出てくるだなんて・・・」

 

 

ネギがトボトボと廊下を歩いているのを見つけた。

ネギはいつも図書館の奥で勉強ばっかりしているから、こんな所で会うのは、本当に珍しいのよ。

 

 

「そうだ、アーニャ、これの中身知らない?」

「何の中身?」

「コレ」

 

 

そう言って、ネギが見せてくれたのは、空の便だった。

側面に、見た覚えのあるラベル。

ぶっちゃけ、「ラム酒」って書いてあった。

 

 

さらに言うと、私がチョコ作りに使った物に良く似ているわ。

似ているだけだと思わせて、お願い。

 

 

「・・・ち、ちなみに聞くけど、何が入っていたの?」

「えっと・・・ちょっと特殊な惚れ薬」

「惚れ薬ぃ!?」

 

 

え、じゃあ何?

私が、と言うか私がヘレンやドロシーと作ったチョコレートの中には、その薬が入ってるわけ!?

私、学校中に配り歩いたわよ!?

 

 

と言うか、ミッチェルとかどうなんのよ!

あ、引き籠りだから大丈夫かも。

 

 

「ど、どんな効果があるのよ!」

「詳しくは知らないけど・・・好きな人がいればその人のことがもっと好きになる」

「好きな人がいない場合は?」

「最初に見た人を好きになる」

「効果時間は!?」

「適当に作ったから、知らないけど・・・分量によると思う」

 

 

え、えっと・・・。

3人で瓶丸ごと使ったから、それを校内の人口で割るとして。

え~・・・って、元の効果時間がわかんないと、どうにもならないじゃない!

 

 

「あんた! それの調合表はどこにやったの!」

「禁書庫の中に直したけど」

「あんた、また禁書庫に・・・って、それは良いわ、今は」

「うん。それで、コレ誰が勝手に使ったか知らない?」

「私よ! 何か文句ある!?」

 

 

それどころじゃない。

校内には、惚れ薬(それも、禁止薬物入り)入りのチョコレートが大量に出回ってるってことになるわ。

は、早く回収しなきゃ、と言うか、もうどうしたらいいのか・・・。

 

 

ダメよ。私の手には負えない。

せ、先生達に伝えないと。

 

 

「ネギ、おじーちゃんの所に行くわよ!」

「えー・・・どうして僕が」

「良いから、来なさい!」

 

 

ネギのローブの襟を掴んで駆け出す。

ネギは何か文句を言ってたけど、聞いてあげることは無いわ。

 

 

だって、このバカ、今回だけでいくつ校則違反したと思ってんのよ・・・!

ついでに言えば、私もね! 不本意だけど!

 

 

 

 

 

Side ロバート

 

「いつつ・・・なんだってんだ・・・?」

 

 

アリアの部屋で目が覚めた時、すげー顔面が痛かった。

と言うか、むしろ顎が痛かった。

具体的に言うと、ミッチェルのショートアッパーをモロに喰らったかのような・・・。

 

 

でも、ミッチェルと殴り合った覚えなんてねーし、どうなってんだ?

 

 

「ああ、目が覚めましたか?」

 

 

俺が起きた時、アリアは魔法薬調合用の鍋の前で、何かの薬草を煎じていた。

課題があるわけでもねーのに、何やってんだって聞いたら。

 

 

「タチの悪い風邪が、流行っているようでしてね」

 

 

そう言って、薄く笑いやがった。

その後、なんだかわかんねーけど、薬を貰った。

他の奴には渡してない薬で、良く効いて、しかも副作用は無いんだと。

 

 

じゃあ、他の奴に渡してる薬は何だろうな。

まぁ、それは別に良いが。

ただ、何だろうな。またアリアに迷惑をかけた気がするんだが。

 

 

でもいくら考えても、自分が何をしたか、思い出せねぇ。

記憶が、曖昧だ。

 

 

「気にいらねぇな・・・」

 

 

そんな風にぼやきながら、自分の部屋の前まで戻った。

だけど、俺の部屋の前に、誰かがいた。

長い黒髪の、その女は・・・。

 

 

「シオン」

「・・・ミスター・キルマノック」

 

 

ドアにもたれかかる様にして立っていたのは、シオンだった。

手には、見覚えのある箱が。

 

 

「それは・・・」

「ミス・キルマノック・・・貴方の妹から、頂いたの」

「そ、そうか」

 

 

な、なんだ、彼氏とかじゃないのか。

良かった・・・いや、待て。待つんだ俺。

もし万が一、ヘレンがそう言う趣味だったら・・・?

 

 

い、いやいやいやいや、まさかぁ。

ヘレンに限って、そんなはずは。

 

 

「ミスター・キルマノック」

「あ? ・・・ああ、悪い。なんだよ、何か用か・・・あ、昨日の宿題ならちゃんと出したからな!」

「わかってる。その件ではないわ」

「じ、じゃあ、何だよ?」

 

 

他に、シオンが、この堅物のプリフェクトが俺に用があるとも思えないんだが。

シオンは、なぜか俺をジッ・・・と見つめたまま。

 

 

「・・・部屋に入れてもらっても、良いかしら?」

「はぁ?」

「・・・ダメ、かしら?」

「いや、ダメって言うか、汚いし・・・」

 

 

第一、ヘレン以外の女を部屋に入れたこと、無いんだけど。

アリアやアーニャだって入れたことが無い。

それなのに、なんでシオンを入れるんだよ。

 

 

けど、シオンはどこか、熱っぽい目で俺を見つめると。

 

 

「・・・話したいことが、あるの」

 

 

そう、言ってきた。

眼鏡越しに見える黒い瞳が、なんだか潤んでいるようにも見える。

 

 

その目には、何とも言えない力があった。

 

 

 

 

 

Side ヘレン

 

バレンタインの次の日、ヘレンはいつもと同じように、お兄ちゃんと朝ごはんを食べていました。

学校の朝ごはんは、食堂で皆で食べます。

お兄ちゃんだけじゃなくて、お姉ちゃん達や、ドロシーちゃんとかもいます。

皆で食べるごはんは、とても美味しいです。

 

 

「・・・それで、おじーちゃん達はネギをお仕置き部屋に入れようとしたんだけど」

「まぁ、大方の想像はできますよ。一部の職員がネギを擁護したのでしょう?」

「うん・・・ごめん。解毒剤まで用意してもらったのに」

「良いですよ。別に・・・それよりも、アーニャさんが入れられなくて良かった」

 

 

お姉ちゃん達は、何か、難しい話をしています。

お仕置き部屋は、悪い子が入れられる所だって聞いています。

 

 

お兄ちゃんも入ったことがあるって、言ってました。

この世の地獄だって。

 

 

「お姉さま、私、昨日何をしていたんでしょう・・・?」

「ドロシーは、いつも通りでしたよ?」

「そうね、そこのバカートとは違ってね」

「うっせ」

 

 

でも、皆が楽しそうだから、ヘレンも嬉しいです。

 

 

「失礼するわ」

 

 

そこへ、シオンお姉ちゃんがやってきました。

ヘレンが笑顔で挨拶すると、シオンお姉ちゃんも笑って返してくれました。

 

 

「隣、いいかしら?」

「うん!」

 

 

シオンお姉ちゃんが、ヘレンの右隣に座りました。

左隣には、お兄ちゃん。

 

 

大好きな2人が一緒で、ヘレンはとても嬉しいです。

 

 

「・・・おはよう、ミスター・キルマノック」

「お、おぅ・・・」

「・・・?」

 

 

でも、なんだか、お兄ちゃんとシオンお姉ちゃんは、変な感じです。

アリアお姉ちゃん達も、不思議そうな顔をしています。

 

 

どうしたんだろう・・・?

 

 

「・・・ミス・キルマノック。口の端にケチャップがついていいるわ。はしたないわよ」

「は、はぅ・・・むぐっ」

「あ、バッカ、シオンてめ! いーんだよどーせ最後に拭くんだから!」

「あら、その都度、拭ってあげるのが効率的ではなくて? 貴方のように最後まで好きにさせるから、いつまでたってもテーブルマナーを覚えないのよ」

 

 

私の口元を拭いながら、シオンお姉ちゃんが言いました。

 

 

「これからは、私がミス・キルマノックに生活態度について教えることにするわ」

「はぁ? 何でお前が・・・ヘレンには俺がいれば十分だっての!」

「あら、随分と強気ね。昨日はあんなにアワアワしていたのに」

「ぬぐっ!? て、てめーだって滅茶苦茶ビクビクしてたじゃねーか!」

「あら、何のことかしら・・・?」

 

 

うふふ、と笑うシオンお姉ちゃん。

皆がポカン、とする中、お兄ちゃんとシオンお姉ちゃんは、楽しそうにお喋りしていました。

 

 

ヘレンは、大好きな2人が一緒で、とっても嬉しいです。

 

 




アリア:
アリアです。今回は魔法学校編の第二弾です。
今後、もしかしたら本編にも登場するかもしれない方々なので(魔法世界編とか、確率高いですよね)、出番を稼いでおきたいですし。
バレンタインのお話でした。
イギリスでは、バレンタインとホワイトデーは一緒の物ですので(厳密には違いますが)、ホワイトデーでの特別編はなさそうです。
次に私の学生生活が描かれるのは、いつになることやら。


アリア:
さて、次回は本編、学園祭三日目ですね。
開戦します。何がかは、言わずともおわかりかと。
では、またお会いしましょう。

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