魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

78 / 90
第70話「麻帆良祭三日目・開戦」

Side クルト

 

私が仕事の合間のティータイムを楽しんでいると、ある方から連絡がありました。

曰く、緊急事態につき、すぐにお会いしたい・・・と。

 

 

普段であれば、人が死のうと企業が倒産しようと世界が明日無くなろうとも、アポ無しの面会は断固拒否なのですが、しかし。

何事にも例外と言う物は存在します。

そのようなわけで連絡から約一時間後、私の執務室にその「お方」はやって参りました。

 

 

「・・・と、言う訳なのです」

「なるほど、用件はわかりましたが・・・」

 

 

透けるように美しく白い髪、見る者の心を見透かすような、赤と青のオッドアイ。

10歳の少女特有の細く、かつ触れれば折れてしまいそうな、可憐な肢体。

我が敬愛するアリカ様の面影を色濃く残す顔立ち・・・。

 

 

魔法世界の、正当なる所有者。

彼女の名は、アリア・スプリングフィールド。

 

 

何たる僥倖、何たる幸福。

よもや、私の執務室(フィールド)にかようなお客様をお招きできようとは。

このクルト、可能ならば感涙に咽び泣きたい所です。

 

 

「・・・あの、クルトおじ様?」

「ええ、クルトはしっかりと聞いておりますよ、アリア様」

「なら、良いのですけど・・・」

 

 

しかし、アリア様のお話には驚くべき点が多々ありますね。

ただし驚愕はしても、面白味に欠けます。

あの武道会の主催者、超鈴音。

裏で何やら、小賢しい動きをしていた様ですが・・・。

 

 

旧世界全体を覆う『強制認識魔法』と、それに伴う民衆への『魔法』と言う存在の流布。

我々・・・と言うより、私としてもそれは面白くありませんね。

 

 

「とはいえ、情報源を明かされないまま、協力してほしいと申されましても・・・」

「クルトおじ様の立場は、重々承知しているつもりです」

 

 

端的に言えば、アリア様は私に戦力の提供と、超鈴音との戦闘のための環境作りを依頼に来たようです。

まぁ、私が麻帆良に連れて来た人数と、関西呪術協会の戦力を合すれば、正規騎士団一個大隊程度の戦力にはなりますからね。

 

 

加えて言えば、私の権限を使えばある程度の環境作りは可能です。

戦場の設定など、簡単なことです。

 

 

ですが、それでは私に何一つ美味しい所がありません。

何か、メリットを頂きたい物ですねぇ。

 

 

「とはいえ、クルトおじ様にメリットが無いのもまた、事実ですから」

「ほう、おわかりいただけますか。でしたら、ここはひとつ私の・・・」

「ええ、貴方の罪を、許して差し上げます」

「ふむ?」

 

 

私の、罪?

アリア様は目を細めると、腰かけている椅子の端に肘を置き、足を組みました。

顎を上げ、悠然と微笑む。

 

 

「勝手に私の将来の予定を組んだ罪を、不問に処して差し上げます」

「む・・・」

「それに今も・・・私の許可なく、人をつけていますね。それも許して差し上げます」

 

 

ジョリィのことですね。

確かに、彼女は今も、この場のどこかにおりますが。

 

 

「だから・・・協力なさい」

 

 

何と言う、上から目線。

地位も名誉も何も無い小娘の分際で・・・この私に。

クッ・・・と自分の口角が吊り上がるのを感じる。

それでこそ・・・。

 

 

ところが、アリア様はそこで高圧的な態度を崩すと、どこか弱々しい、不安そうな表情を浮かべて。

 

 

「・・・お願いしますよ」

「・・・・・・!」

 

 

上から来て・・・下から!?

しかし、私はクルト・ゲーデル。

そのようなことで、この私を動かせるなどと、思わないことですね。

 

 

 

 

 

Side 朝倉

 

私が超りんに協力するのは、武道会の司会まで。

それ以上のことは、私は知らない。

 

 

そして私は、知らないと言うことが我慢できないタチなんだよね。

ジャーナリストですから。

まぁ、そうは言っても、2日目までの情報は貰ってるんだけど、超りんが3日目に何をするかは、知らない。

 

 

「そんなわけで、ここに来たんだけど・・・」

 

 

事件の顛末、その情報の全てを頂きに来たんだけど。

 

 

「あ、こんにちは、朝倉さん」

「よっす、ハカセ。超りんは?」

「超さんは・・・」

 

 

何かの端末を弄っていたハカセの示した部屋に、普通に入る。

もう何度か来てるし、別に警戒とかはいらないでしょ。

 

 

超りんのやってることはヤバい事かもしれないけど、クラスメート同士、危ない事にはならないはず。

 

 

「超りん、入るよー?」

 

 

部屋に入ると、そこは真っ暗だった。

まぁ、そうは言っても、機械とかランプとか画面とか、いろいろと明滅してるから、完全な暗闇ってわけじゃないけど。

 

 

超りんは、その部屋の一番奥に立っていた。

その向こうに、武道会の時に出した「田中さん」が、いろんな機械に囲まれている。

・・・と言うか、胸の苺のアップリケは何なんだろ。

 

 

「・・・朝倉カ」

「よっす、超りん。何やってんの?」

「何、壊された子を修理しているだけヨ。個体数値が他の子に比べて高いのが、気になるんだがネ・・・」

「ふーん・・・」

 

 

超りんはその田中さんを見て、何か考え込んでるみたい。

何を考えているのか、良くわかんないけど。

 

 

「・・・まぁ、それは良いネ。それよりも朝倉、武道会の司会、ご苦労だったネ」

「まー、お仕事だしね。そ・れ・よ・り・も」

「わかっているヨ。私が今日、何をするカ。何故するカ・・・だったナ」

「そうそう♪」

「・・・でも、私は口で説明するのが苦手でネ」

 

 

チャ・・・と、私に背中を向けたまま、ディスクを見せてくる超りん。

それにまとめてあるってわけ。

できれば、直接取材で聞かせてもらった方が説得力があって良いし、情報操作なんてされたら面白くも無い。

 

 

「だから・・・」

 

 

それはそれとして、貰っておくけどね。

近付いて、そのディスクに手を。

 

 

突然、超りんが私の手を掴んできた。

な―――?

そのまま振り向いて、何かを握り込んだもう片方の手を、私の腹部に撃ち込んできた。

ズムッ・・・と、鈍い痛みが。

 

 

「むぐっ・・・!」

「・・・先に行って、見て来てくれないカ?」

 

 

きゅぼっ・・・と、私の周囲に、黒い渦が。

これは、ヤバッ・・・!?

 

 

「協力、感謝するヨ。朝倉」

 

 

最後に見たのは、超りんの冷たい笑顔。

直後、私の視界は黒く染まって・・・消えた。

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

クルト君との連絡も密にしている。

メルディアナとの戦略連携も進んでいる。

戦術的な物はともかくとしても、戦略的な環境は整いつつある。

 

 

麻帆良周辺に伏せた兵力も、私の指示一つで突入できる様になっている。

ここまで来るのに、数ヵ月かかった。

 

 

・・・守るべき物が手を離れてから、組織の長らしくなるとは、我ながらどうしようもない。

 

 

「今さらか・・・」

 

 

窓の外を見れば、ここからでも学園祭の賑わいを見ることができる。

木乃香も、あの中にいるのだろうか。

結局、ここに来てから、会うことはおろか、連絡も取っていない。

人をやって、様子を窺わせることもしていない。

 

 

今、どこで何をしているのだろう。

わかっていることは、刹那君が傍にいるだろうと言うこと。

アリア君達が、それを見守っているだろうと言うこと。

 

 

「できることは、資金援助くらいか・・・」

 

 

後はこうして、できるだけ先を見て、それに備えることくらいか。

お義父さんとのことも、そのために必要なことの一つだろう。

 

 

「・・・長」

 

 

その時、部下が部屋に入ってきた。

少し慌てた様子で、私の傍に来る。

 

 

「長、クルト・ゲーデル氏から、内密な連絡が・・・」

「・・・クルト氏から?」

 

 

今後の行動に関しての基本方針はすでに決まっている。

だから、今から話すことは何も無いはずだが・・・。

 

 

「はぁ、とにかく至急だと言うことで・・・」

「わかりました。受けましょう」

「それと、もう一つ・・・」

「まだ、何かあるのですか?」

 

 

その部下はそこで、どこか言いにくそうな表情を浮かべた。

しかし、そうは言っても、黙っているわけにもいかないと思ったのか、口を開いた。

 

 

「長への面会を求めている方がおりまして・・・」

「私に?」

「は、所属などは明かさなかったそうです。その代わりに、自分の名前を言えば、長にはわかるだろうと」

「名前を? 誰ですか?」

 

 

正直、このタイミングで私に会いに来る人間には、心当たりが無い。

全く無い、とまでは言わないものの、やはり可能性の低い候補ばかりだ。

 

 

「・・・私に会いに来たのは、誰ですか?」

「は、その面会者は・・・」

 

 

その部下は一旦言葉を止めてから、言った。

 

 

「素子、と名乗っているそうです」

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

「お断りいたします」

 

 

刀子君のその言葉に、わしは固まった。

にべも無く、断られた。

 

 

しかし別に、いつもの如き思い付きだから断られたわけでも、わしの命令が無理難題だから断られたわけでも無い。

単に、断られた、そんな感じじゃ。

 

 

「い、いや、しかしの・・・これはタカミチ君からの確定情報でな?」

「信憑性がありません」

「いや、しかし・・・タカミチ君がじゃな」

「個人への信頼を、組織全体の行動指針とすることはどうかと思いますが」

「そもそも、出張から戻ったばかりの人間が何故、そのような情報を掴めたのかがわかりませんな」

「ガ、ガンドルフィーニ君?」

 

 

超鈴音が全世界に魔法を公表しようとしておる。

その情報に基づいて、わしとしても対抗の作戦を考えてみたのじゃが。

 

 

その協力と役割分担のために、魔法先生達を緊急招集したのじゃが。

どう言う訳か、いつも以上に冷たい対応をされておる。

しかも、タカミチ君の名前も効果が無いときた。

 

 

「情報源はどこです?」

「情報源は、どうでもよろしい。それよりもじゃな」

「残念ですが、学園長には以前、情報を秘匿されたために大事になりかけた前科がありますので」

「いや、前科って・・・」

 

 

そう、はっきり言われると、傷つくのぅ。

とはいえ、情報源を明かすと、かなり面倒なことになる。

ネギ君のこととか、明日菜君のこととか、他にもいろいろと後ろ暗いことを話さねばならん。

それは、かなり困る。

 

 

「第一、この、一般参加客で超君のロボット軍団に対抗するの、無理がありません?」

「まぁ、うちの生徒はこう言うの好きそうですが・・・」

 

 

瀬流彦君の言葉を、弐集院君が繋いだ。

魔法先生の手には、2000を超えると言う超君のロボ軍団に対抗するために、学園祭の全体イベントを改造して数千の生徒の力を借りようとする計画が書かれた書類がある。

具体案についてはこれから詰めるが、クルト議員の力などを借りればなんとか・・・。

 

 

「いずれにせよ、情報源を明かされぬまま、こんな計画に乗ることはできません」

「ぬぅ・・・」

 

 

とはいえ、魔法先生達の協力を得られぬのであれば・・・。

その時、学園長室の扉が、勢い良く開いた。

 

 

「おや、これはいけませんねぇ」

「・・・クルト議員!?」

 

 

クルト議員が、そこにいた。

議員は室内に入ってくると、にこやかな笑顔を浮かべながら。

 

 

「いや、これは大変だ。よもや職場問題がこんなに身近な所にあるだなんて、気付きもしませんでしたよ・・・上司に恵まれない時はフリーダイヤル、でしたか?」

「こ、これは議員、このような・・・」

「おや、なんですかこの書類は・・・ふん、無自覚な一般人を兵に仕立てて参戦させると、なるほど」

 

 

瀬流彦君の手から書類を抜き取ったクルト議員は、それを上から下まで見ると、その場で投げ捨てた。

慌てて、瀬流彦君がそれをキャッチする。

 

 

皆が呆然とする中、クルト議員はわしの前に、別の書類を突き出してきた。

な、何じゃ?

クルト議員はわしに背を向けると、両手を広げ。

 

 

「初めまして皆さん、この度、関東魔法協会臨時理事職を兼務することになった、クルト・ゲーデルです」

「ほ!?」

「あくまで臨時ですので、私の理事としての権限は今日から3日間に限定されます。なおその間、近衛近右衛門氏は理事職を解任されることが、昨夜の臨時理事会で正式に承認されました」

「ほぉ!?」

「よって、現時点、現時刻を持って、貴方達は私の指揮下に入っていただきます・・・ああ、それと」

 

 

お・・・おぅ?

クルト議員はわしの方を見ると、何故かとても良い笑顔を浮かべた。

うん、嫌な予感しかせん。

 

 

「貴方の解任理由、その他罪状諸々は後日、様々な方面からいろいろな形式で知らされると思いますので、楽しみにしていてください。具体的には、いたいけな少女に過重労働を強いていた件とか」

 

 

何か、ひどく個人的な理由が見え隠れしておる気がする!?

しかし一方で、魔法先生達は、明石教授の目配せに頷きを返しておった。

 

 

「では皆さん、私が用意した代替案を説明します。一度しか言いませんので頭に叩き込んでください」

「「「「はっ」」」」

 

 

あれ、ひょっとしてすでに、話し合いとか終わっとる・・・?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

開始予定時刻が近付くにつれて、人々が屋内に入って行く。

3日目夜の全体イベントの間は、出店やアトラクションなども禁止される。

屋内の物に関しては、その限りではないが。

 

 

この時期の麻帆良は1日に最大で10万もの人間が出入りし、数万の人間が宿泊していく。

家のある者や、寮生活の者などは自分の部屋に戻ることが義務付けられ、校舎や宿泊施設、ドームなどの施設には一般客が順番に収容されることになっている。

 

 

それは、今から行われる麻帆良全体を使うイベントのための措置だ。

聞く所によれば、一部を魔法で拡張しているとも聞いている。

ありていに言えば、隔離しているとも言える。

 

 

「一般人を巻き込まない、という観点からすれば、ベターなのかもしれないが・・・」

 

 

あまり、聞こえの良い表現では無いな。

それに、元気の良い方々は指示を無視するケースもある。

その場合、魔法関係者によって非常に残念な処置がなされるわけだが。

 

 

本来であれば、私もそうした者達の中の一人として、このちゃんと共に大人しくしているのだろうが。

今回に限り、事情が異なる。

 

 

「せっちゃん」

 

 

その声に、私は意識を現実へと戻す。

私は建物の屋根の上にいて、顔を上げれば、隣にはこのちゃんがいる。

 

 

夕陽を背に、黒髪を靡かせるこのちゃん。

普段は、フンワリとした雰囲気のこのちゃんは、今は異なる雰囲気を纏っている。

どこか透明で、神秘的な雰囲気。

白い狩衣を身に着けたその姿は、まさに「陰陽師」だった。

学園祭の仮装と言えば、それまでかもしれないが。

 

 

「どないかしたん?」

「いえ、何も」

 

 

ぎり・・・と、手に持つ野太刀に力を込める。

しかし、そうは言っても、京都以来の実戦だ。

 

 

しっかりと、このちゃんを守らなければ。

私達の役目は、イベント進行で超鈴音の注意が地上に向いている内に地下に潜り、世界樹にまで到達すること。

人目に触れることのない役目だが、おそらく超さんに勝利するための、重要な役のはずだ。

 

 

細かい点はわからないが・・・アリア先生たっての頼みとあらば、この刹那。

身命を賭して・・・あ、命は大事に。

とにかく、成し遂げて見せます。

 

 

「そんなに気負わんでもええよ、せっちゃん」

「え?」

「うちらは、ただ、世界樹の所まで行ってお茶してくればええだけや」

「いや・・・まぁ、確かに、そう言う言い方もできますが」

 

 

にこっ、と微笑むこのちゃん。

その笑顔に、思わず見惚れてしまう。

 

 

「ほな、行こか。せっちゃん」

「は、はい!」

「もー、せやから、気負わんでええのに」

「い、いえその・・・これは、性分な物で」

 

 

なんだか最近、このちゃんに私の考えまで読まれているんじゃないかと思う時がある。

・・・いや、前からな気もする。

なら、良いか。

 

 

・・・いや、良くは無いだろう!?

 

 

「せっちゃん?」

「今、行きます。このちゃん!」

 

 

 

 

 

Side のどか

 

「全体イベント、どんなのなんだろうね、ゆえ」

「そ、そうですね、のどか」

 

 

夕映とそんなことを話しながら、学生寮の部屋に戻りました。

なんだか、よくわからないけど、生徒は皆寮に戻るように言われたの。

6時から8時くらいの間は、外に出ちゃいけないみたい。

 

 

ネギ先生のお手伝いとかしたかったけど、ネギ先生にダメって言われちゃったし・・・。

それに、今回は私が手伝えることって、あんまりなさそうだし。

 

 

「やっほ♪ お二人さん」

「こんばんはアル」

「あ、ハルナー、くーふぇも」

「せっかくだから、一緒にイベント見ようよ。寮のテレビで説明があるみたいだからさ。ほら、夕映も」

「い、いや私は・・・」

 

 

途中で、ハルナと合流しました。

そう言えば、ネギせんせーと仮契約をしたいって言ってたけど、もう良いのかなー?

ハルナは、暴れる夕映を抱き締めながら、私のことを見ました。

 

 

・・・?

 

 

首を傾げていると、にこっ、と笑顔を浮かべて来た。

な、何だろう・・・?

 

 

「ど、どうしたのー?」

「どうもしないよん♪ さ、行くわよ夕映!」

「は、放すですハルナ。私はこのようなイベントに興味など・・・!」

「まーまー、そう言わずに」

 

 

ハルナはそのまま、夕映を引き摺って行きました。

夕映はしばらくジタバタしてたけど、その内大人しくなりました。

 

 

夕映、なんだか調子が悪いみたいなんだけど・・・。

午後、一緒に学祭を回っている時も、元気が無かった。

なんだか、距離を感じるような気がする。

どうしたんだろう・・・?

 

 

「超包子の肉まんを持ってきたアルから、後で一緒に食べるアル」

「あ、ありがとー、くーふぇ」

 

 

確かに、くーふぇは「超包子」の包みを抱えています。

中を見せてもらうと、ホカホカの肉まんがたくさん入っていました。

おいしそう・・・。

 

 

コレを一緒に食べれば、夕映も元気になるかな。

夕映はいつも私を助けてくれるけど、でも、悩みとかは言ってくれないから・・・。

 

 

夕映は今、どんな気持ちなんだろう。

何を考えてるんだろう・・・。

 

 

そんな思いが、私の中で大きくなっていきました。

夕映の気持ち。

・・・夕映の心。

心・・・。

 

 

「・・・夕映・・・」

 

 

ポケットの中には、ネギ先生と私の仮契約カードがあります。

それを使えば、夕映の心を読むことができます。

でも、それは・・・。

 

 

それはとても、いけないこと。

友達として、親友として、きっとしてはいけないことなんだと、思います。

 

 

いどのえにっき(デイアーリア・エーユス)』。

 

 

でも、夕映・・・。

ごくり、と唾を飲み込んで。

私は、ポケットの中のカードを。

 

 

「のーどか!」

「ひゃう!?」

「・・・どしたの?」

「な、なんでも無いよ!」

 

 

急に声をかけられて、私はごまかすようにハルナの横を通り過ぎて、部屋の中に入りました。

あ、危なかった・・・と、思います。

でも、どう言う意味での「危なかった」かは、わかりません。

 

 

「変な子ねー。まぁ、良いわ、テレビつけるわよ」

「いや、だから私は・・・」

「そこまで嫌なら、見なくても良いと思うアルが・・・」

「だーめよ、くーふぇ。こう言うのは皆で見なきゃ」

 

 

まだ抵抗を続ける夕映に、くーふぇが心配そうな目を向けています。

でもハルナは聞く気が無いみたい。

と言うか、ハルナは普段からあんまり、私や夕映の言うことは聞いてくれなかったりするから・・・。

 

 

そのハルナが、部屋のテレビをつけた。

すると。

 

 

『皆様こんばんは。アリア・スプリングフィールドです』

 

 

アリア先生が、そこにいました。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『受理されました』

 

 

電話の向こうから、電子音とも女性の声とも取れる音声が響きました。

この瞬間、麻帆良祭最終日、全体イベントの変更手続きが終了しました。

 

 

私が手に持っている、やや変わった見た目の携帯電話は、魔法具『ノブレス携帯』。

お金と権力で可能な範疇なら、過程や段取りや具体的な手段をすっ飛ばしてどんな願いでも叶えられる携帯。

この携帯で願いを叶える際、手順は一切謎のまま実行され、同時にその過程においてかかるはずの時間も無視されます。

一種の、「現実社会に干渉するため」だけの概念アイテム、とでも言いましょうか。

 

 

不老不死とか、現実味の無いことは願えません。

あくまでも、お金と権力で叶えられること。

なお、一台の『ノブレス携帯』で使用できる資金は百億円まで。

 

 

『ノブレスオブリージュ。貴女が生徒達を守り切れる、立派な先生たらん事を』

「・・・ありがとう」

 

 

この魔法具の仮想人格「ジュイス」が、電話の向こうから激励の言葉をかけてくれます。

仕様とは言え、こうした言葉は、嬉しくも厳しい。

ビシッ・・・と砕き、『ノブレス携帯』を魔力へと還元します。

 

 

続いて創造するのは、2つの魔法具。

異次元の侵略者(イビルスクリプト)』と、『死線の蒼(デッドブルー)』。

前者は、情報収集用の手袋型魔法具。パソコンのモニターに直接手を入れてハッキングを行うことができます。

後者は、男性用コート型魔法具。電子工学・情報工学・機械工学において、異常なほどの知識と腕を入手可能な上、最高で128台のパソコンを同時に扱える程の同時処理演算速度を得ることができます。

 

 

「それでは、さよさん、スクナさん・・・私の身体を、お願いしますね」

「はい!」

「任せろだぞ!」

 

 

場所は、エヴァさんの家。

ソファに座る私の両側には、さよさんとスクナさんが立っています。

2人とも、完全装備です。

 

 

2人に声をかけた後、私は膝の上に乗せたノートパソコンに手を伸ばします。

元々、「ぼかろ」達の家としての機能を持っていましたが、修理したら「ぼかろ」が消えていました。

どこに行ったのか・・・まぁ、仕方が無いので私が彼女達の役目を代替します。

ズブ・・・と、パソコンの画面に手を入れ、意識をネット上へ。

 

 

「行ってらっしゃい、アリア先生」

「頑張って守るぞ!」

 

 

常時ネットと意識を繋げるので、恐らくは超さんにも気付かれる。

ロボット軍団のいくらかは、ここへ来るでしょう。

でも、きっと大丈夫。

 

 

私は、さよさんとスクナさんを視界に収めて、笑みを浮かべました。

ロボット軍団なんて、心配する必要は無い。

 

 

さよさんとスクナさんが、私の身体を守ってくれますから。

 

 

 

 

 

Side 超

 

『皆様こんばんは。アリア・スプリングフィールドです』

 

 

画面の一つ、否、麻帆良中のモニターと言うモニターに、白い髪の少女が現れたネ。

私のアジトのモニターにまで現れたそれは、間違いなく、アリア先生だったネ。

 

 

「超さん! 何者かがこっちの防壁を抜いて・・・って、アリア先生がテレビ出演!?」

「落ち着くネ、ハカセ! これくらいは想定の範囲内ヨ!」

 

 

今さら盗まれて困るデータは残していない。全て消した。

だから、例えこちらのネットワークを掌握しても意味は無いネ。

ロボット軍団はネットから完全に切り離して動く。これで制圧されることは無いヨ。

 

 

『私に関しての紹介は、すでにネットや学内イベントでご存知の方も多いようですので、省略させていただきます。さっそく、今麻帆良祭の全体イベントの説明に入りたいと思います。今回のイベントは・・・』

 

 

アリア先生が説明したイベントの名は、「火星ロボ軍団VS学園防衛魔法騎士団」。

麻帆良全区画を使用した、魔法使いとロボットの戦闘アトラクション。

麻帆良武道会でも使われた演出を使用するので、爆発などの危険を避けるために生徒・一般客は屋内に退避。

備え付けられたスクリーン・テレビ・パソコンその他で様子を知ることができる。

 

 

「・・・やってくれるネ」

 

 

人々が直接目にしない、画面越しのイベント。

これでは、人々に魔法と言う物の下地を植え付けることが難しくなるネ。

だが、お祭り好きのうちの生徒がそれで納得できるはずが。

 

 

『とはいえ、見ているだけでは面白味に欠けるかと思います。そこで・・・』

「・・・戦闘参加メンバーへの賭け金制・・・?」

 

 

学園防衛側として参加資格を持つのは、アリア先生を含め、「まほら武道会予選通過者」及び予選通過者に推薦される者。

しかしそのどちらも、「学園長」が許可を与えなければ参加資格は無い。

文句や不満は、高畑先生に言うこと。高畑先生が良しと言えば参加可能。

 

 

魔法先生や魔法生徒、クルト・ゲーデルら元老院の部隊。それに関西呪術協会まで巻き込むカ・・・!

屋内にいる人間は、彼らの誰が最も高得点・・・つまり敵を倒すかで賭けをする。

終了後・・・予定時刻8時の段階のレートによって、食券などの景品が贈られるシステム。

当然、違反して外に出た者は権利を失い、「お仕置き部屋」にさよならネ。

さらに、賭け金が一定額を超えると、そのメンバーに「強力なアイテム」が貸し出されるネ。

つまりより多くの賭け金がベッドされれば、それだけ上位に行ける計算。

 

 

つまり、私の行動を「見せ物」にしようと言うのカ。

 

 

戦闘に直接参加するメンバーが制限されるとは、これは想定外ネ。

しかも、「強力なアイテム」・・・思い当たる節が一つしか無いヨ!

 

 

『なお、このゲームの勝敗は、防衛ポイント六ヶ所の争奪戦で決定されます』

 

 

パッ・・・と画面が変わり、麻帆良全体のポイントが示されるネ。

く、こちらの侵攻ルートまでルールの中に入れるつもりカ。

しかし、それにしても何故、いきなりイベントが変更されたのカ?

後援の雪広財閥などの動きは、監視していたのだガ。

 

 

『大方のルールは以上です。随所で隠しルールなども発表するので、楽しみにしていてくださいね』

「楽しみ・・・上等だヨ。戦力比は10倍。強制認識魔法が発動さえすれば、結局は私達の勝ちネ」

「超さん・・・」

「ハカセは、予定通りに進めてほしいネ。龍宮さん達にもそう伝えてほしいヨ」

「わかりました。・・・あの、ネギ先生達はどうしますか?」

「それも予定通りヨ。拠点制圧部隊の一つに加えておいてほしいネ。可能な限り派手に、かつ目立つようにネ」

 

 

頷きを返して、ハカセが駆けて行く。

ネギ坊主は・・・どうせ何も考えてはいまい。

せいぜい、頼りにさせてもらうとするヨ。

 

 

・・・予定時間を早めて攻撃を開始するカ?

いや、ここはあえて向こうの準備が終わるまで待ってやるネ。

正面から、打ち破る。

そのためには、おそらくは向こうの核となっているはずのアリア先生の居場所を知ることネ。

他にも・・・。

 

 

麻帆良各地の映像を映す画面の一つに、目を落とすネ。

そこに、ある意味で最も注意すべき対象を見つけた。

 

 

金髪の髪に、漆黒の服の少女。

<闇の福音>。

ちょうど良い、意趣返しにもなるだろう。

 

 

「・・・まずは、貴女から消えてもらうとするヨ、エヴァンジェリン」

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

いやぁ・・・疲れた。

まだ戦闘は始まってすらいないけど、僕はすでに疲れていた。

 

 

どうしてかと言うと、とにかく元気なうちの生徒や、新田先生を筆頭とする一般教師とか、他にもいろいろと、説明したり説得したりしなくちゃいけなかったからね。

特に、学外の人達とか、報道陣はしつこかった。

図書館島に集められている人達は、暇潰しの本もあるし、特設の大スクリーンで見れるから、割と人気があったけど。

 

 

まぁ、全部学園長の名義で行われているわけだから、大体の不満は学園長に向くしね。

学園長は、表向き「まだ」学園長だ。

ついでに言えば、高畑先生が武力鎮圧してる所もあったし。

 

 

「しゃうらぁ――――っ! やったるどお前らぁ―――――っ!!」

「「「おいさぁおらぁ―――――っ!!」」」

「東の奴らがなんぼのもんじゃオラァ――――――ッッ!!」

「「「あえて言うぞ、カスじゃオラァ―――――ッ!!」」」

 

 

・・・な、何か、異様にテンションの高い人達がいるんだけど。

というか、これから一緒に戦うにしては、不穏当な発言が聞こえたんだけど。

あれは、関西の人達だよね?

 

 

何か、最初に見た時よりも数が多いような気がするのは、なんでだろう?

というか、確実に多いよね?

ついでに言えば、クルト議員(今は理事でもあるけど)の部下の人の人数も、何か多い。

これは・・・。

 

 

「政治力の差かなぁ・・・」

『一概には、そう言えない面もあるかとは思いますが』

 

 

手元の携帯電話から、聞き覚えのある声が聞こえた。

その画面に映っているのは、白い髪の女の子。

 

 

「・・・アリア君、いつからテレビだけじゃなくネットにも配信されるように?」

『いえ、別にそう言う訳では・・・』

 

 

アリア君は僕の言葉に苦笑すると、真剣な顔に戻って。

 

 

『私は現在、ネット上にデータとして展開されています。128のマザーコンピュータを介して、各所の様子をリアルタイムでお伝えします。ありていに言えば、作戦補助が私の役目です』

「そうか・・・じゃあ、今回は僕らで頑張らないとだね」

『私も、全力でサポートします。屋内のセキュリティに関しても掌握済みですので、一般客が外に出る可能性は限りなく低いと考えてくださって結構です。まぁ、100%とは言えませんが・・・』

「そこはまぁ、僕らが何とかするよ」

 

 

ハイテクで管理してる建物ばかりじゃないし、何よりもここは麻帆良だ。

どうしても、不確定要素は出る。

そこはまぁ、お互いが頑張り合うしか無いよね。

 

 

その時、防衛拠点から少し離れた場所・・・湖の方から、爆発音と光。

にわかに、場の空気が緊張する。

 

 

「あれは・・・」

『戦闘が開始されたようです。最前線は麻帆良湖湖岸』

 

 

パッ・・・と、携帯の画面が変わり、麻帆良湖湖岸近辺の様子が地図として映された。

そこには、少数の青(味方)と、大量の赤(敵)が。

数は・・・2500。

敵の、主力部隊だ。

 

 

『開戦です』

 

 

アリア君が、どこか緊張を孕んだ声で告げた。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「ふん、始まったか」

「ソーミタイダナ」

 

 

時計塔の上から、少し離れた位置の様子を見ている。

湖の方で、戦闘が始まったようだな。

 

 

時間は、6時ジャスト。

超め、正攻法で押し潰すつもりか。

まぁ、戦力比は向こうに分があるわけだしな、とりあえずは正攻法、と言うことか。

 

 

今頃下では、ネット上に意識を侵入させたアリアが、雑魚共をサポートしたり、茶々丸とネット戦争でも起こしている所だろう。

私は携帯などの電子機器は苦手なので、アリアのサポートは受けていない。

仮契約カードもあるし、念話だって使えるのだから、別にいらんだろう。

 

 

「スコシクライ、レンシュウシロヨ」

「お前だって使えないだろ」

「ジツハサイキン、ネトゲシテルンダゼ」

「はぁ!? 何だそれは、私は聞いていないぞ!?」

「デスペナガキツインダ」

 

 

ネットゲームする人形って何だ。シュールすぎるだろうが。

RPGで遊ぶ吸血鬼と良い勝負だろうよ。

 

 

「・・・は、まぁ、この件が決着すれば、少しくらいは練習しても良いかもな」

「メズラシイナ、ゴシュジンガ」

「何、ぼーやが超についていると言うしな、これに勝てば完璧におさらばできると言う物だろう?」

 

 

ぼーやだけじゃない。

これまでぼーやに肩入れしていた連中をのきなみ排除できるだろう。

そうすれば、退屈だが平穏な日々に近付けると言う物だ。

 

 

まぁ、それにアリアやバカ鬼や、さよや茶々丸、チャチャゼロなどとの毎日だ。

退屈はせんだろう。

夏休みには、アリアも一度ウェールズに戻るらしいから、それに付き合うのも面白かろう。

いずれにせよ、この戦いに勝てればの話だが・・・。

 

 

「呪いから解放され、絶対無敵チートな状態にある私が、超ごときに遅れをとると思うか?」

「マンシンハシヲマネクゼ」

「慢心せずして、何が最強種か・・・・大体、私は不死だぞ」

 

 

死亡フラグなど、それごと噛み砕いてくれる。

それにアレだ、あのアリアの「お願い」だからな。

主人として、従者の願いを聞いてやるのも悪くない。

対価は、貰うがな。

 

 

「・・・ナニ、ニヤニヤシテンダ?」

「バカな、私はいつでもクールだ。ニヤついてなどいない」

「フール?」

「壊すぞ、ボケ人形」

 

 

しかし、そろそろおふざけも終わりだ。

早急に超を見つけ、泣くまで殴る。

それが、私の役目だからな。

 

 

「・・・さて、移動するぞチャチ」

 

 

 

   ――――ドスッ――――

 

 

 

「ャゼロ」

 

 

その時、突然。

胸の真ん中から、白い棒のような物が生えてきた。

否、違う。

 

 

背後から突き刺されたのだ。

何を刺されたかは知らんが、この程度の刺突であれば、私は。

 

 

「ゴシュジン!?」

 

 

チャチャゼロの声が、やけに遠く聞こえる。

 

 

力が、失われていくのを感じる。

身体が弛緩し、膝が折れる。

何だ。

 

 

何だ・・・コレは。

 

 

「・・・隙アリ」

 

 

耳元で、囁く声。

その声に、私は力を振り絞る。そして、叫ぶ。

その者の、名を。

 

 

「ち・・・」

 

 

怒りと、憎しみを持って。

 

 

「超オオオオオォォォォォ――――――――――っっ!!」

 




アーニャ:
アーニャよ、よろしくね!
今回は出番が無かったから、今日はここを担当することになったわ!
今回は、いろいろと麻帆良内の政治状況が動いたわね。
表向きは、クルト議員が単独で動いたかに見えるけど、実情は関西呪術協会、メルディアナ双方の動きもリンクしていたようね。
大人の世界は、怖いわねー。


今回新規で使用した魔法具は、このくらいね!
異次元の侵略者:司書様、こんな小説作ってごめんなさい様提供。「ネウロ」からね!
「東のエデン」より、『ノブレス携帯』:月音様の提供よ。
ありがとう。

アーニャ:
じゃあ、次回のお知らせよ。
次回以降は、戦闘とか戦争とか、あるいは一般人の反応とかが描かれていく予定よ。
その中には当然、ネギのことも含まれるわ。
じゃ、私、ちょっとネギを殴ってくるから!
また、会いましょうね!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。