魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第71話「麻帆良祭三日目・戦争」

Side 超

 

あの人に初めて出会った時のことを、私は今でも覚えている。

アレは、私が3歳の時だったネ。

 

 

魔法を自ら行使する力を持たなかった私は、一人だった。

温かい食事も、豊かな教育も、血の通った家族も、心を通わせる友も、私には無かった。

だけど。

光の届かぬ地下深く、冷たい石畳の部屋で、私は。

 

 

『・・・そんな所でしゃがんでいると、危ないですよ』

 

 

飢えと、寒さと、孤独に彩られた世界で。

私は、白い女神に出会った――――。

 

 

 

 

 

それを今、思い出すのは、何故だろう。

・・・現実に、意識を戻そう。

 

 

「がっ・・・ぐ・・・!」

「ゴシュジ・・・」

 

 

私の目の前には、金の髪の少女が、うつ伏せに倒れているヨ。

その魔力供給で動く従者の人形も、魔力供給が切れて、その場に倒れるネ。

 

 

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル・・・<闇の福音>。

掛け値無しに、この時代、この世界で最強の魔法使いの一人。

普通ならば、私如きがどうこうできる相手では無いネ。

だが、『千の未来』が引き寄せる未来と、このアイテムの前には、完全無欠ではいられなかったようね。

 

 

この人が一人いれば、全ての戦況がひっくり返されてしまうネ。

だから、ここで盤上から消えてもらうヨ。

 

 

「ぐ、ぬぅ・・・き、さま・・・!」

「おや・・・まだ動けるか、流石はエヴァンジェリン」

 

 

エヴァンジェリンは、脱力していたように倒れていたガ、身体を震わせながら、起き上がろうとしていたネ。

正直、驚いたヨ。

エヴァンジェリンの胸に刺した魔法具は、それ程の効果を持った物だからネ。

 

 

魔法具、『強欲王の杭』。

拘束封印魔法具で、見た目は、日本刀の柄に真っ白な棒が付いた物。

「刺す」機能しかない代わりに、これに刺された者は一切の力の行使を阻害され、封印される。

とはいえ、実際に傷つくわけでは無いネ。ただ力を封じられ、動けなくなるだけヨ。

私が持ってきた5種の中で、最も強力な魔法具。

 

 

「しかしそうは言っても、今の貴女は力を封じられ、何もできないネ」

「き、さ・・・」

「・・・こういう事態も、有り得ると言うことヨ」

 

 

そう、有り得るのヨ。

私はゆっくりとエヴァンジェリンに歩み寄ると、その髪を掴んで、顔を上げさせたネ。

・・・鬼の形相とは、こう言う物を言うのかもしれないネ。

 

 

チャ・・・と、左手に、時間跳躍弾を構える。

間髪入れずに、振り下ろしたネ。

 

 

「きぃさぁまああああぁぁぁ――――――っっ!!!!」

 

 

ドギュッ――――。

黒い渦が、エヴァンジェリンを飲み込んだ。

 

 

「それではまた、3時間後、私の計画が成就した世界で会おう」

 

 

・・・その時には、私を殴り殺してくれて構わないヨ。

エヴァンジェリンの身体が消えた場所に向けて、心の中でそう告げた。

続いて、エヴァンジェリンの従者の人形を見る。

 

 

「・・・」

 

 

エヴァンジェリンからの魔力供給が切れた以上、アレはもう、ただの人形ネ。

捨て置いて、構わないだろう。

 

 

もう一度、エヴァンジェリンの消えた場所を見る。

胸が痛むが・・・私は、引き返さない。

 

 

「・・・すまない、師匠(マスター)」

 

 

 

 

 

Side 刀子

 

麻帆良湖湖岸で、戦闘が開始されました。

敵の数は目算で2000以上。人型だけでなく、多脚戦車らしき物もある。

こちらは、私達やクルト議員の戦力を含めて、湖岸に50人程。戦力比は40倍以上。

正直、厳しいですね。

 

 

そのようなことを考えつつも、手を止めたりはしない。

神多羅木さんの遠距離無詠唱魔法による援護を受けながら、10体目のロボットを斬り伏せる。

 

 

「メガロメセンブリア重装歩兵・第9分隊構え―――っ!」

 

 

すぐ傍に展開しているメガロメセンブリア正規兵は、一糸乱れぬ動きで、斧剣(ハルバード)を構えていました。

ジャキンッ・・・と、槍先をロボット軍団の戦闘に向けます。

 

 

「撃てぇ―――っ!」

「「「イエス・マイロード!!」」」

 

 

10条程の火属性の攻撃が、ロボット軍団の先頭に直撃する。

ただ、斬ってみてわかりましたが、あのロボットは意外と頑丈です。

中級攻撃魔法でも、数発は当てないと破壊できません。

 

 

「な、なにぃ! 我らの貫通徹甲弾が通じないだと!?」

「はっはぁ! その程度か西洋魔法使い!」

「そんな木偶人形も壊せぬとは、笑止千万!」

「ぬぅ、貴様らは!?」

「「「我らは、関西呪術協会中国支部所属・反乱鎮圧外征チーム!!」」」

 

 

黒い鎧を着たメガロメセンブリア正規兵の間をすり抜けるように、白い狩衣姿の男性が3人、ロボット軍団の中心に突撃して行きました。

その3人は、一人が符術で動きを封じ、一人が足を斬り飛ばし、最後の一人が胴体を吹き飛ばす、という流れを繰り返し、瞬く間に3体のロボットを破壊しました。

 

 

「ふふん、どうだ」「我々の力を」「しかと見届けたか!」

「「「西洋魔法使い!(ビシィッ)」」」

 

 

なぜかポーズまで決めて、不敵に笑う3人。

メガロメセンブリア正規兵は、ザワザワと囁き合いながら、彼らを見ています。

ただ、脅威と言うより、好奇の視線のような気もします。

 

 

・・・あれ、陰陽師っていつから近接戦もするように?

彼らの一人は神鳴流剣士のようですが、残る二人は陰陽師スタイル。

私がいない間に、関西に何が・・・。

 

 

「葛葉!」

 

 

神多羅木さんの声に反応した時には、すでに遅い。

他の状況に気を取られ過ぎた・・・周囲をロボットに取り囲まれた!

 

 

スラッ・・・と刀を抜刀するも、間に合わ・・・。

 

 

「秘剣・・・」

 

 

カ・・・カカカカカカカ!

 

 

「・・・風塵乱舞」

 

 

小気味良い音を立てて、シャープペンがロボットの額に刺さった。

それも、八体同時に。

ロボットの動きが止まる。

 

 

次いで、黒いスーツを着た黒髪の女性が、私の目前に降り立ちました。

その女性は、腰に構えた野太刀を抜き放つと。

 

 

「秘剣・百花繚乱!」

 

 

無数の花弁が舞い、私の周囲を取り囲んでいた八体のロボットが、ことごとく斬り伏せられた。

明らかに、神鳴流剣士。それも、遥かな高みにある存在だと言うことがわかります。

冷たく、鋭く、それでいて裂帛の気の込められた剣筋。

 

 

「あ、貴女は、まさか」

「・・・今はただ、素子とお呼びください。近衛詠春殿の要請により、助太刀いたします」

「お、長の・・・」

「では、行きましょう」

「え、あ・・・は、はっ!」

 

 

間違いない、あのお方は、青山宗家の・・・。

私は、自分の野太刀を構え直すと、素子様の後に続いた。

 

 

 

 

 

Side 夏目(ナツメグ)

 

麻帆良のセキュリティコントロールルーム。

そこでは私を含めて十数名の魔法生徒が、明石教授の指揮の下、学園結界を始めとする麻帆良の防衛システムを管理しています。

最新型二〇〇三年式電子精霊群。最新の魔法技術が、ここには揃っています。

 

 

たとえ敵が科学に秀でているとは言っても、ここのセキュリティを突破することはできないはず。

 

 

「湖岸迎撃部隊、総撃破数500体を超えました、順調です!」

「流石と言うべきか・・・本国・麻帆良・関西呪術協会の混成部隊。正直、どこまで機能するかわからなかったが・・・」

「今の所、競い合う形で撃破数を重ねて行っている様です」

「こんな作戦を考えるなんて、流石はクルト議員だね」

 

 

明石教授も感心されていますが、やっぱり本国の議員さんともなると、違うんですね。

私達だけでは、どうなっていたことか。

 

 

ヴィ――、ヴィ――ッ、ヴィ――ッ!

 

 

「どうした!?」

「え、エマージェンシーです!・・・学園警備システムメインコンピューターが何者かのハッキングを受けています!」

「な、何だって!?」

 

 

そ、そんな・・・。

ここには、最新式の魔法技術の粋が集められているのに!

最強の電賊でも、ここの多層防御プログラムを抜くのには、かなりの時間がかかるのに。

こんな、あっさりと。

 

 

「メインに侵入されるまで気付かなかったのか!?」

「申し訳ありません! すぐに防壁ッ・・・突破されました!」

「第03~第08電子精霊群、解凍!」

「解凍妨害されました! 物理的なシャットダウンにも応じません!」

「な・・・」

 

 

不味い、学園警備システムの中枢へのアクセスコードがもう下8ケタまで・・・12ケタ!?

速すぎます、対処できな・・・っ!

 

 

『こちらで対応します』

 

 

ブゥンッ・・・と、画面の一つに、白い髪の女の子が現れた。

あ、ネットで見た・・・アリア先生?

次の瞬間、学園防衛システムの管理権限を奪われました。

え・・・そんな、一瞬で!?

 

 

「アリア君!? どうしてキミが・・・いや、それよりも対応とは!?」

『詳しい説明は省きますが、現在私は麻帆良の中枢を掌握しています。これを持って、敵のネット上の侵攻を押しとどめます。明石教授は戦場の情報収集と司令部のバックアップを絶やさないようにお願いします』

「ま、待ってください。相手はこちらの防衛プログラムを5割・・・いえ、6割以上突破しています。ここからの挽回は簡単では無いはずです!」

『わかっています。ですが、私以外におそらく、対抗できる手段を持つ者が存在しません。相手は・・・』

 

 

画面の中のアリア先生は、遠くを見るように目を逸らせた後、再び私達に視線を戻して。

 

 

『私の良く知る相手のようですから』

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

ピク・・・と、身体が反応します。

しかし私の思考は、変わることなく目の前の事象に対応することを可能としています。

 

 

相手の防衛プログラムの動きが、明らかに変わりました。

これまでのように、組織的に統制された、ある意味パターン化された対応では無く、一つの意思の下に統一された、柔軟な動きに。

こちらの攻勢に対し、受け流し、防御し、そして逆に攻撃に転じようとしているようです。

 

 

そして、ネットと一体化している私の思考は、向こう側にいる相手を特定します。

 

 

「アリア先生・・・いらっしゃいましたか・・・」

 

 

むしろ、正体を隠す気が無いようですね。

隠しても無駄、と言うのもあるのでしょうが、しかし・・・。

 

 

「お相手いたします」

 

 

ここは、私のフィールド。

いかにアリア先生と言えども、私の優位は動きません。

 

 

自動巡回プログラム、手動に切り替え。

無駄データ収集、終了と同時にD○Sアタックを敢行。

カウントスタート、5、4、3、2、1・・・。

 

 

「発射(ファイア)」

 

 

無駄データで構成された電子ミサイル群が、麻帆良の防衛プログラム中枢に攻撃を仕掛けました。

通常であれば、それで相手のシステムは甚大なダメージを受けるのですが。

 

 

直前、緊急防護(フィルタリング)されました。

しかもただの防御では無く、こちらの無数の無駄データの特性を把握しきった上での行動。

どうやら、こちらのデータに強制介入し、かわされたようです。

 

 

直後、今度はこちらの制圧領域に対して、同様の攻撃が実行されました。

あらかじめ用意していた「茶々丸特製緊急防護(パケットフィルタリング)」がそれを防ぎます。

 

 

「この反応速度・・・人間とは思えません」

 

 

流石は、アリア先生。

しかし、これほどの演算速度、人間の頭脳がいつまでも耐えられるとは思えません。

また、無理をされている可能性が極めて高いです。

おそらく、「ぼかろ」の抜けた穴を埋めようとされているのでしょう。

 

 

これほど高度な電脳戦、アリア先生の成長途上の身体には過ぎた負担です。

しかしだからと言って、私も任務は放棄できません。

・・・だから。

 

 

「可及的速やかに、麻帆良防衛プログラムの全領域を制圧いたします」

 

 

可能な限り素早く勝負を決し、アリア先生に休息をとっていただきます。

いかに魔法具の補助を得ていようと、こと電脳戦に関しては私の方が一枚も二枚も上手です。

 

 

おそらくはアリア先生が私を止めている間に、マスター達が超を倒す、と言う計画なのでしょうが。

残念ながら、アリア先生。

ネット空間にいる限り、私には勝てません。

 

 

勝たせません。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「おお・・・何か、ウジャウジャ来たぞ、さーちゃん」

「そうだね、すーちゃん」

 

 

エヴァさんの家の屋根の上で、私達は周囲を警戒していました。

戦闘開始から10数分、そう遠くない位置に、敵のロボット軍団が姿を現しました。

そう時間をかけずに、接敵することになると思います。

 

 

私のアーティファクト『探索の羊皮紙』も、相手がロボットだと探知できません。

だから、相手の数はわからない。

 

 

「ん~・・・大体、100くらいだと思うぞ」

「わ・・・すーちゃん、わかるの?」

「地面の振動でわかるぞ。足がたくさん付いてるのもあるから、正確にはわからないぞ」

「それでも、凄いよ。地下からはどうか、わかる?」

「ん~・・・来てないぞ」

 

 

良かった。

アリア先生はリビングにいるから、地下からとか来られると、困ったんだけど。

結界は張ってあるけど、床とかは無防備だったりするし。

 

 

今のアリア先生は、意識をネット上に落としているから、自分で自分を守れない。

私達が、頑張らないと。

 

 

その時、すーちゃんがどこか期待するような目で私のことを見ました。

なんだか、ご飯を前にした時と似ている気がします。

なんだろう・・・?

 

 

「さーちゃん、アレ全部やっつけたら、スクナ、カッコ良いか?」

「それは・・・うん、凄くカッコ良いと思「じゃ、行ってくるんだぞ!」うって、早っ!?」

 

 

ドギュンッ・・・と、屋根の一部を吹き飛ばして、すーちゃんが消えた。

次の瞬間、ロボット軍団の中心で爆発が起こりました。

 

 

「す、すーちゃんってば・・・」

 

 

あはは・・・と私が笑う間に、ロボットがどんどん減って行きます。

でも、すーちゃんが討ち漏らしたロボットが何体か、こっちに来ています。

すーちゃんばっかり戦わせるわけにもいかないし、私も負けてらんない!

 

 

「『アヒル隊』、セットアップ!」

 

 

ポポンッと、私の周りに、お風呂で使うアヒルみたいな魔法具が出現します。

前から、『魔法の射手(サギタ・マギカ)』の練習とかに使っていた物です。

 

 

「『突撃ぃ!いっけー!』」

 

 

始動キー宣言と同時に、10数体のアヒルさん達がロボットさん達の突撃します。

一つ一つに、高位の魔法使いが使用する魔法の矢と同等の威力があります。

 

 

「『爆殺・アヒル小隊』、セットアップ!」

 

 

ズラッ・・・と、数十体のアヒルが並びます。

さっきのアヒルさん達よりも、顔つきが精悍で、全員ベレー帽をかぶっています。

そして一つ一つが、高位魔法使いの中級呪文程度の威力を秘めています。

ちなみに、小隊長アヒルさんは左目に眼帯をしています。

 

 

「『一小隊一殺』!」

 

 

始動キーを宣言すると、さっきの『アヒル隊』よりも素早く、高度な動きでロボット軍団に突撃、先頭集団を爆散させました。

真ん中から後方のロボットは、すーちゃんが倒してくれます。

すーちゃんが倒しきれなかった分は、私がなんとかできます。

 

 

最悪の場合はアリア先生の身体を中心に、結界を最小限にして、引き籠ります。

場合によっては、アリア先生の魔法具を使って防護します。

アリア先生の身体は動かせないから、逃亡はできません。

 

 

「でも・・・」

 

 

不安が、口を吐いて出てしまう。

だって、私の手元にある『探索の羊皮紙』には、エヴァさんの名前が麻帆良のどこにも無いから。

脳裏に、超さんの顔が浮かびます。まさかとは思う。

 

 

エヴァさんが負けるとは、思えないけど。

でも、このアーティファクトの正確さは、私が一番よく知っています。

 

 

「エヴァさん・・・」

 

 

ある意味、この世で一番頼りになるはずの人の名前を、私は無意識に口にしていました。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「だぁらっしゃあ!」

 

 

小太郎が、六本足の戦車みたいな奴を下から殴り飛ばした。

狗神つきのその一撃は、戦車ロボットの顔面を粉砕し、胴体を宙に浮かせる。

 

 

「ざ~んて~つせ~ん!」

 

 

それを、高く跳躍した月詠はんが、真っ二つに斬り裂いた。

爆発して、砕け散るロボット。

 

 

ぱっと見、あの2人の連携はキマってるように見えるやろ?

うちもきっと、傍から見とったら、そう思ったと思うわ。

でも、実際には・・・。

 

 

「しゃあっ、ドンドン来いやぁっ!」

「乱戦に紛れて、ひーときーりたーいなー♪」

 

 

実際には、あの2人は他の連中ほっぽって、前進ばっかりしよんねんで!?

と言うか、月詠はんがヤバいこと言うとるし!

 

 

うちらは最初、フィアテル・アム・ゼーとか言う広場で守りについとったんやけど、今やドンドン奥に引き込まれて、完全に孤立しとった。

戦闘開始30分。

・・・有り得へん。早すぎるやろ。

 

 

「あんたらなぁっ! 少しは周りの状況ってもんを」

「千草ねーちゃん、屋根の上や!」

「はぁ!? 屋根の上が何・・・」

 

 

小太郎の声に、苛立つ気持ちを抑えて、上を見る。

すると、左右の建物の屋根の上に、やたらと重そうな銃火器を持ったロボットが。

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドッッ!

 

 

秒間数十発の弾丸が、うちに向けて発射された。

え、ちょ・・・だぁっ!

袖口から、一冊の薄い帳(ノート)を取り出す。

折り込んであったページを開いて・・・。

 

 

「召喚、『大百足』!」

 

 

全長10数メートルもある巨大な百足が召喚される。

その巨体を前面に展開し、壁にする。弾丸はそれで防げたんやけど・・・。

 

 

「千草ねーちゃん!」

「やらせませんよ~、にとーれんげき、ざ~んく~せ~ん!」

 

 

次の瞬間、身体が浮いた。

気が付いた時には、小太郎に担がれとった。

取り残された百足が、黒い渦みたいな物に飲み込まれるのが見えた。

 

 

「千草ねーちゃん、大丈夫か!? 片腕持ってかれてないか!?」

「怖っ!? い、いやでも、アレが何かわからんしな。助かったわ、小太郎」

 

 

物陰まで退避した所で、小太郎に降ろされた。

・・・どうでもええけど、荷物運びみたいに肩に担ぐのはどうかと思う。

・・・他にどう運べって話やけど。

 

 

あ、そや。月詠はんは・・・。

物陰から、顔だけ出して様子を見ると。

 

 

「キャハハ―――、にとーれんげき、ざ~んが~んけ~ん!」

 

 

屋根ごと、ロボット達が吹き飛ばされとった。

・・・楽しそうで、ええことやね。

 

 

とりあえず安心して良さそうやから、顔を引っ込める。

ふぅ・・・と、額の汗を拭う、さっきのは本気でヤバかった。

その時、手に持っとった帳(ノート)が目に入った。

さっき、とっさに使った道具や。

 

 

『友人帳』と言う名前なんやけど、陰陽師には便利なアイテムや。

何せ、3割の力で式神召喚ができるんやから。紙形もいらんし。

 

 

「でも、できれば使いたなかった・・・便利やから、つい使ってまうけど」

「何をブツブツ言うとるんや・・・って、それアリアのねーちゃんから貰とった奴やな」

 

 

そう、これはアリアはんに貰った。

昨日、ベストカップルコンテストの後、妙に上機嫌なアリアはんが、小太郎に世話になったから言うて。

ただ・・・。

 

 

『これで、お友達をたくさん作ってくださいね』

 

 

ええ笑顔で、そう言われた。

他意は無いと、思う。思うけど、なんや言外に「千草さん、友達いなそうですから」って言われた気がする。

うちかて、友達くらい・・・。

 

 

「・・・・・・小太郎、月詠はんと一緒に暴れてこんでええんか」

「え? あ~・・・そやな」

 

 

考えるのを、やめよう。

ええんや、うちは親の仇さえ討てればそれで・・・。

 

 

「千草ねーちゃんとおるわ、俺」

「ええて、まぁ、なんとかサポートして・・・」

「せやかて、千草ねーちゃん守らなあかんやん」

 

 

は?

 

 

「さっきみたいになった時、千草ねーちゃん一人やったら、どうにも・・・なんやね」

「いや・・・ええ子やなて思うて」

「こ、子供扱いすんなや!」

 

 

いつの間にか頭を撫でとったうちの手を、小太郎が乱暴に払った。

まぁ、でも実際、ええ子やと思う。

うちみたいな半端もんには、もったいないわ。

 

 

友達は・・・まぁ、アレかもしれんけど。

でも、ええわ。うちはこの子らの面倒見なあかんし・・・。

 

 

・・・そろそろ、ちゃんとするべき、なんかな。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

私を頂点とする学園防衛魔法騎士団総司令部は、最重要防衛拠点である世界樹前広場に置かれています。

そこには本国から持ち込んだ精霊化情報技術―――わかりやすく言えば、魔法技術と精霊を利用した戦争支援用の装置一式が並んでいます。

流石に、最新鋭の物を持ってくることはできませんでしたが。

 

 

目の前の精霊式広範囲地形把握装置には、麻帆良全区画の戦場の様子が映し出されています。

味方部隊の配置、敵の動向、先頭の規模が一目でわかります。

 

 

「今の所は、予定通りですかね・・・」

 

 

私は政治家であって軍人では無いので、そこまで詳しいわけではありませんが、把握できる範囲では、戦闘は当初の作戦通りに進んでいるようです。

我々騎士団が、10倍以上の規模を持つ敵軍を抑えている間に、アリア様がネットを制圧、そして別働隊が超鈴音を打倒する。

 

 

とはいえ混成軍ですから、個人レベルではともかく、集団ではどこまで持つかわかりません。

現に、湖岸部隊を突破した敵軍は、すでにいくつかのポイントに侵攻しているようですし。

 

 

『こ、こちら麻帆・・・学工学部キ・・・ス中央公園前!』

 

 

その時、ポイントの一つから通信が入りました。

ジャミングされているのか、音声が乱れていますね。

 

 

『て、敵に強・・・体が・・・味方の大半・・・! 至急、応・・・う! 繰り返す、応援を・・・!』

「クルト議員、どうやら応援を求めているようです!」

「捨て置きなさい」

「な・・・!」

 

 

部下の報告に、冷酷に答えます。

残念ながら、ポイントの一つや二つ、時間稼ぎさえできれば落ちても構いません。

ここ以外には最小限の戦力しか置いていないので、そもそも守りきれるとは思っていませんよ。

 

 

と言うか、ほどほどで退けと命令したはずですが。

 

 

「我に余剰戦力なし、現有戦力で対処せよと打電しなさい」

「し、しかし議員・・・!」

「残念ですが、彼らはもう助かりません」

「く・・・!」

 

 

悔しそうな顔で、通信装置を操作する部下。

ふん・・・役に立たない捨て駒達です。

アリア様のための時間も稼げないとは。

 

 

「・・・楽しそうだな、クルト」

「黙れ、タカミチ。情報によれば、命に関わるわけでは無い。だから見捨てても問題は無い」

 

 

と言うか、部下達もどこか楽しんでいる様子です。

一応、世界の危機なのですが。

まぁ、魔法世界で過ごしている彼らにとっては、緊張感に欠ける部分もあるのかもしれませんね。

 

 

『い、苺・・・プリケが・・・!』

 

 

それを最後に、通信が途絶えました。

どうやら、敵にも強力な個体が投入されたようですし・・・。

 

 

「タカミチ、片付けて来い」

「・・・わかった」

 

 

私のモノ言いに苦笑しながら、タカミチが応じた。

ふん、私は元老院議員で、しかも今は関東魔法協会の理事です。

もう、あらゆる方面からタカミチをこき使うことができる。

 

 

「・・・クルト議員!」

「今度はなんです?」

 

 

また、どこかの部隊から救援要請ですか?

 

 

「し、システムがダウンしていきます!」

「何ですって!?」

 

 

しかし、部下の報告の通り、それまで麻帆良全域を表示していた装置が、一つ、また一つと、映し出す区画を減らしていきます。

多数あるサブモニターも、少しずつ「超包子」と表示されて行きます。

 

 

こ、これは・・・!

 

 

 

 

 

Side ガンドルフィーニ

 

「なんだと!?」

 

 

遠くに上がった魔力の柱を見て、私は拠点の一つが落とされたことを知った。

く・・・まだ、一時間も経っていないと言うのに。

 

 

「ガンドルフィーニ先生、工学部前の拠点に展開していた部隊は、全滅したそうです!」

「何・・・そうか、わかった!」

 

 

瀬流彦君からの報告を聞き、歯噛みする。

悔しいが、仕方が無い。それはそれとして考えよう。

幸い、報告に上がっている敵の特殊弾は、命に別状は無いようだ。

 

 

それに私達が守る拠点、麻帆良国際大学附属高等学校は未だ健在だ。

今は、ここを守り切ることだけを考えるべきだ。

幸か不幸か、ここには数十体程度のロボットしか来ていない、今の人数でも十分に守れるはずだ。

 

 

「陰陽師クラァ――ッシュ!」

「陰陽師舐めんなこのダボハゼがぁ――――ッ!!」

 

 

それに、関西呪術協会の人間達の士気が異様に高く、ロボット軍団を圧倒している。

常に3人一組で行動し、簡易式神を囮に特殊弾をかわし、着実に敵の数を減らして行っている。

 

 

錬度が、高い。

我々魔法先生でも、あれ程の連携ができるかどうか。

関西の術者を侮っていたつもりは無いが、認識を改めざるを得ない。

彼らは、こと戦闘に関する限り、我々に勝るとも劣らない。

 

 

「お嬢様返せコラァ――――ッ!!」

「てーか、いい加減に頭下げろゴルァッ!!」

 

 

・・・ただ、敵を殴りながら、私達に対する不満を口にしないでほしい。

こちらの士気が下がる。

 

 

「・・・ぬ!?」

 

 

私がロボットの一体を撃ち抜いた直後、目の前に何かが着弾した。

慌てて一歩下がり、距離を取る。

何だ? ミサイルか、魔法か・・・?

 

 

「・・・やっぱり、精度がまだ・・・」

 

 

声のした方に迷うことなく拳銃を向け、魔法の込められた弾丸を撃ち込む。

校舎の壁に当たった弾丸は、火属性の爆発を生む。

その中から出て来たのは・・・。

 

 

「お前は・・・!」

 

 

先日取り逃がした、超鈴音の仲間。

漆黒のローブを纏った道化師。

顔には、半分が笑い、半分が泣いている仮面を付けている。

 

 

その者は、右手を軽く振るう、それは以前と同じ動き。

 

 

「『來のかたの獣よ、有れ』!」

 

 

瞬間、5体の雷の獣が、奴の頭上で生み出される。

その獣達は、もの凄いスピードで3方に別れ、そして別々の方向から私に襲いかかってきた。

それも、このスピードは!

 

 

「ガンドルフィーニ先生! 僕も・・・」

「下がっていたまえ、瀬流彦君!」

 

 

右側の2体を拳銃で撃ち貫き、上空に1体を無詠唱の魔法の矢で撃ち落とす。

左側から、かすかなタイムラグをつけて、残る2体が襲いかかってくる。

1体はすれ違いざまにナイフで切り裂くが、その瞬間に爆発した。

 

 

衝撃で、バランスを崩す。

そして、残る1体が私に。

最後の抵抗と、銃口を向けるが、間に合わない!

 

 

一撃を覚悟して、歯を食いしばり、息を止める。

そして、衝撃が。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

ズドンッ・・・!

 

 

鈍い爆発音と、鋭い閃光が生まれた。

ガンドルフィーニ先生の姿が、光と、その直後に発生した煙で、見えなくなった。

少しだけ、申し訳ない気持ちになるけど、仕方が無い。

 

 

これも、計画を成功させるためだから。

超さんの計画を成功させて、世界を変えるためだから。

僕が、世界を変えるためだから。

 

 

「が、ガンドルフィーニ先生!?」

 

 

少し離れた所で、瀬流彦先生が、うろたえたような声を出していた。

威力は抑えたけど、もしかしたら怪我くらいはさせたかもしれない。

 

 

右手に装備した『來獣の指輪』を見る。

ガンドルフィーニ先生を、僕よりも年上の魔法使いを倒した道具を、見る。

これ、やっぱり凄い。

普通の人間には視認できない速度で、中級攻撃魔法よりも強い攻撃を、自在に繰り出せるんだから。

 

 

少し扱いが難しいけど、もっと修行すれば。

そうすれば、僕だって・・・。

 

 

 

「・・・あんたさ、殴られたことってある・・・?」

 

 

 

え?

 

 

その時、ゴゥッ・・・と、巻き起こった熱い風が、周囲の煙を吹き晴らした。

煙の向こうには、驚いた表情で固まっているガンドルフィーニ先生。

どう言う訳か、無傷だった。

 

 

そして何よりも僕を驚かせたのは、そのガンドルフィーニ先生の前で、まるで立ち塞がるように立っている、小さな存在だった。

紅い髪が、炎みたいに揺らめいている。

まるで、燃えているみたいに。

 

 

「答えなさいよ・・・殴られたこと、ある?」

 

 

アーニャ。

僕の幼馴染が、そこにいた。

 

 

アーニャは、まるで僕が誰だかわかっているみたいに、話しかけている。

え・・・仮面をつけているのに。まさか。

それに、殴られたことがあるか、なんて・・・。

声は出さずに、頷きだけで答える。これくらいなら、良いよね。

 

 

「そ・・・なら、わかるわよね。殴られたら痛いって。自分が殴ったら相手も痛いって」

 

 

そしてアーニャの周囲に、炎の精霊が集まり始める。

なんだ、あの親和性・・・いつからあんな。

 

 

「そして、一度殴った奴が、殴られたからって文句を言えないってこともね」

 

 

ユラユラと・・・アーニャの髪に炎が纏わりつく。

僕の目には、炎の精霊がアーニャに凄く懐いているように映る。

 

 

そのアーニャは、ゴキ、バキ・・・と、胸の前で拳を鳴らしながら、僕に近付いて来る。

自然と、一歩後退した。

 

 

「だから、今から私が、あんたをボッコボコにしてやるわ・・・文句は無いわよね、『ネギ』」

「・・・ちょ!?」

 

 

な、名前を呼んじゃ・・・!

 

 

「あんたの修行は、ここで終わりよ」

 

 

ゴッ・・・と、アーニャの周囲から、炎が立ち昇った。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

晴明は、ずっと僕について来た。

だけど、一般人の姿が見えなくなって間もなく、逆に僕について来るように言った。

正直、僕がついて行く義理は無い。

 

 

けれど、あれだけお喋りだった晴明が、急に静かになった。

その理由を知ってから離れても、遅くは無いかと思った。

 

 

「・・・なんじゃ、やられたのか、あの西洋の鬼は」

 

 

そして今、僕と晴明は麻帆良の街並みを見下ろせる時計塔の上に。

そこには、かすかな魔力の残滓と、放置されている少女型のドール。

晴明は、そのドールの傍まで行くと。

 

 

「おい・・・ダメじゃな。魔力が完全に断たれておる」

「知り合いかい?」

「まぁの。今、我が厄介になっておる家の者なのじゃが・・・」

 

 

晴明は、少し考え込むような素振りを見せた。

 

 

「・・・うーむ。主について行ったのが裏目に出たの。全体の状況がわからん」

「それを僕に言われてもね・・・」

「それに、ここに捨て置くのものぅ・・・知らん仲でも無し」

 

 

僕について来たのは、晴明の勝手だ。

むしろ僕は、ついて来るなと言ったんだけどね。

 

 

「仕方無いのぅ・・・まぁ、我が死んでも代わりはおるしの」

 

 

うむ、と一人得心した様子の晴明。

・・・一人で何をやっているのだろう。

やはりついて来る意味は無かったね。

そう考えて、僕はその場から去ろうと・・・。

 

 

「フェイトとか言ったかの」

 

 

・・・僕の考えでも、読んでいるのかい?

去ろうとした矢先に、声をかけるとか。

 

 

「できればで良いが、この者を手伝ってやってはくれんか」

「どうして、僕が」

「この者は、あの娘の身内じゃよ」

 

 

そう言えば、武道会で一緒にいる所を、見たかもしれない。

だが、手伝えと言っても、そのドールには魔力供給がされていない。

僕にも都合があるから、形に残る契約などはできない。

 

 

「何、契約など無くとも、魔力さえ供給されれば喋るくらいはできるであろうよ」

「魔力ね・・・でも、それはどこから?」

「それはのぅ」

 

 

ス・・・と、晴明が右手を上に掲げる。

そのまま手首を曲げ、指先を自分へと向ける。そして・・・。

 

 

「ここからじゃ」

 

 

 

その手を、自分の左胸へと突き刺した。

 

 

 

「・・・!」

「ぬっ・・・む、む・・・!」

 

 

ギリ、バキ・・・メギンッ!

陶磁器の肌が割れ、晴明の身体が砕ける音が響く。

晴明の表情も、流石に笑みを浮かべてはいない。

 

 

数秒ほど、晴明は自分の身体の中を弄っていた。

そして、その内に目当ての物を見つけたのか、右手を胸から引き摺りだす。

 

 

その手には、赤く輝く、美しい宝石のような物が握られていた。

赤い線のような物が、まるで血管のように晴明の身体と繋がり、脈打っている。

まるで、心臓のようだった。

そして、そこから漏れている魔力を、僕は知っている

 

 

「『ローザミスティカ』と言う、美しかろう? あの娘の魔力を貯蔵してある」

 

 

そう言いつつ、晴明はその宝石を、倒れたドールの胸に押し付ける。

なるほど、それを与えて、そのドールを起こそうと?

 

 

「・・・それをやると、キミは消えるんじゃないかい?」

「問題は無い。我の本体は別の場所に在る。また身体の代わりもあるが故に」

 

 

ギ、ギ、ギ・・・と、鈍くなった動きで、晴明は僕を見た。

 

 

「フェイトよ」

「なんだい」

「すまんかったの。付き纏って・・・たの」

 

 

ブツッ・・・と、宝石と晴明の身体を繋ぐ線が切れた瞬間、晴明はその場に崩れ落ちた。

ガラスの瞳からは光が失せ、まさに、ただの人形に戻る。

次いで、宝石を埋め込まれたドールの下に、魔法陣が展開される。

 

 

僕は、倒れた晴明を見つめた。

最後に何を言おうとしたのかは知らないけれど、最後まで身勝手な奴だった。

 

 

「・・・セイメイ!?」

 

 

ドールの方が、目覚めたらしい。

はぁ・・・と、自分でも意外なことに、溜息を吐いてしまった。

 

 

いったい僕に、どうしろと言うんだ?

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

いやいやいや、冗談じゃねぇぞ。

私は寮の部屋で一人、パソコンの画面の前で、固まっていた。

 

 

そこには、明らかに技術レベルがインフレしたロボット軍団と、これまた人類の枠から236°程ズレたような動きをする人間の様子が映し出されていた。

武道会と同じ演出とか、使っているらしいが。

そしてその武道会の映像も、かなり流出しちゃいるが。

 

 

でも、屋根がそんな簡単に吹っ飛ぶわけねーだろ。

魔法少女とかが大量発生して良いわけがねーだろ。

魔法オヤジとか、誰が喜ぶんだよ。

そもそも、なんでロボがターミ○ーターなんだよ。

 

 

「これは、明らかに異常だろ!?」

『せまる~、ひにちじょ~♪』

「不吉な歌を歌ってんじゃねぇよ!」

 

 

ショ○カー呼ぶみてぇに非日常を呼んでんじゃねぇ!

と言うか、こいつらの存在自体が非日常なわけだが。

 

 

さらに言えば、こいつらはすでに私のHPに自分達の住処を築きやがった。

仕事が早くて、感激のあまり泣きそうだぜ。

・・・わかってると思うが、皮肉だ。

 

 

「くっそぅ・・・なんでだ、こんなにも一般人を極めた私が」

『こんな素敵なHP開設しといて、今更ですよ、まいますたー♪』

「破棄してぇ・・・これほどクラックしたいと思ったプログラムは初めてだ・・・」

 

 

荒らしはやらねーと言う矜持も、捨てたくなるような状況だった。

自分のだけど、このHP炎上させてぇ・・・。

 

 

『ミクちゃん、そろそろ行こうよ。おねーちゃん達、待ってるよぉ?』

『むぅ? しょーがないですねぇ』

 

 

画面の中で、ミクがランドセルしょった別の「ぼかろ」に、腕を引かれていた。

確か、「ユキ」とか言う奴だ。

 

 

「・・・なんだ、お前ら。どっか行くのか?」

『むふふ、寂しかったりしますかぁ?』

「バカ言え、てか、出て行くなら歌ツクール消してから行け」

 

 

どうやっても削除できねーんだ。

製作者の管理が及ばないコンテンツとか、あっちゃダメだろ。

 

 

『だーいじょぶですよぉ。すぐ帰って来ますから』

「帰って来るとか言うな、まるでここがてめーらの家みたいだろが」

『あっははは~☆』

「ぶっ飛ばすぞマジで」

 

 

ミクは、ニヒヒ・・・と笑った後、葱を片手にビシッと敬礼してきやがった。

・・・何だよ。

 

 

『このままだと、まいますたーの大嫌いな日常がやってきそうなので、ちょっと行って来ます』

「ああ?」

『ついでに、センスの悪いおかーさんも助けて来ます』

 

 

お母さん?

ああ、創造主とか言う奴か、今の私の「社会的に抹殺したい奴リスト」のベストスリーに入っている奴。

ミクは、急にしおらしい表情を浮かべると。

 

 

『短い間でしたが・・・ますたーと一緒にいれて、楽しかったです』

「・・・」

『さよならっ・・・!』

 

 

とか言って、画面から消えやがった。

悪戯かと思って少し様子を見たが、現れる気配が無い。

フェイントでパソコンの前から離れてみたが、反応は無かった。

 

 

いや、さよならって、お前・・・マジかよ。

迷惑な連中だったけど、こんな別れ方をするとは思わなかった。

こんなことなら、もう少し優しくしてやりゃ・・・。

 

 

『グッと来ましたぁ?』

「死ね!」

 

 

再び画面に現れたミクは、ケラケラと笑いやがった。嘘かよ!

やっぱ、こんな奴らいらねぇ!

 

 

 

 

 

Side 超

 

ハカセは、良くロボ軍団を統率してくれているようネ。

今頃は、飛空船で空の上カナ・・・。

市街地を歩き、虱潰しに陰陽師やメガロメセンブリア兵を3時間後に送りながら、随時送られてくる作戦状況について考える。

 

 

すでにポイントの一つは落とした。

さらに、2つのポイントも陥落寸前と聞くネ。

だが残る3つの内、世界樹広場前には敵も戦力を集中しているから、てこずりそうネ。

国際大学附属高校前の拠点には、ネギ坊主がいるガ・・・。

 

 

「ネギ坊主なりに、頑張ってくれると良いがネ」

 

 

まさか、負けるとか言う事態にはならないと思いたいガ。

期待薄ではあるネ。

 

 

「まぁ、最初から期待などしていないがネ・・・」

 

 

ふと、自分の手を見る。

軍用強化服に包まれた手だが、布地の向こうには、肌があり、血が流れている。

赤い血。

ネギ坊主と同じ血が、そこには流れているのだと言う。

 

 

かの「救世の大魔法使い」ネギ・スプリングフィールド様と同じ血が・・・ネ。

・・・・・・・・・。

アハハ・・・。

 

 

「・・・糞に塗れろ」

「それ、どういう意味?」

 

 

・・・ああ、いけないネ。つい乱暴な言葉遣いになってしまったヨ。

女の子は、エレガントでなければ・・・ネ。

 

 

私はその場に立ち止まると、歩道の向こう側に立つ、少女を見つめたネ。

神楽坂明日菜を。

明日菜サンは、その手にアーティファクトのハリセンを持っていたネ。

『|ハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)』、しかし不完全。

 

 

「・・・何か用カナ、明日菜サン」

「あんた、やっぱり・・・ネギのこと、騙してたのね?」

「騙した・・・?」

「とぼけないでよ!」

 

 

ハリセンの先をこちらに向けて、激昂する明日菜サン。

でも私は、本当に明日菜サンの言っていることが、わからなかったのヨ。

 

 

私は、ネギ坊主を騙した覚えなど無いネ。

私はネギ坊主に力を与え、目的を与え、機会を与えただけ。

何かを強要したことも、脅迫したことも無い。

これで騙したと言われても、困るヨ。

 

 

明日菜サンにそう言うと、明日菜サンは表情を歪めながら。

 

 

「あんたが、そうなるように仕向けたんじゃない・・・!」

「それは見解の相違と言わざるを得ないネ」

「ぬけぬけと・・・」

「だが・・・」

 

 

確かに、私はネギ坊主に伝えるべき情報を選んだかもしれない。

もしかしたら、都合の良い解釈を話したかもしれない。

 

 

だが、それを信じたのはネギ坊主ヨ。

選んだのは、彼。

私じゃない。

 

 

「・・・ネギは、どこよ」

「裏切り者に教えてやる義理は無いネ」

 

 

そう言うと、明日菜サンはぐっ・・・と、口を噤んだ。

どうやら、後ろ暗い気持ちはあるようネ。

その程度の覚悟で、ここに来たのカ。

・・・なら、貴女はもう良いヨ、お姫様。

 

 

タァ・・・ン・・・!

 

 

遠くから、銃声。

明日菜サンは、とっさに発動させた「咸卦法」で銃弾を弾いた。

だが、それは龍宮サンが放った特殊弾。

防いだだけでは、凌げない。

 

 

「な、何よコレ・・・!」

「実際に見るのは、初めてだったカナ?」

 

 

いつだったか、明日菜サンにはその弾丸の運搬を頼んだことがあったカナ。

その銃弾で、やられるのだから・・・皮肉な物ネ。

 

 

「さようなら、明日菜サン。おそらくもう、会うことは無いと思うヨ」

「ま・・・!」

 

 

その言葉を最後に、明日菜サンの姿はこの時空間から、消失した。

 




エヴァ:
エヴァンジェリンだ、すまん、不覚を取った。
私も随分、丸くなったようだ。
だが、まだだ、まだ終わらんよ・・・!
と言うわけで今回は、前半戦の様子を描いた。
なにやら超が妄言を吐いているようだが、知ったことか。
このまま終わると、思うなよ・・・!


今回新規で使用された魔法具は、以下の通りだ。
「爆殺・アヒル小隊」:霊華@アカガミ様提供のオリジナルだ。
「友人帳」:水色様提供だ。
『狂乱家族日記』から『強欲王の杭』:司書様提供だ・・・。
お、おのれぇ・・・だが、礼は言っておく。


エヴァ:
さて、次回はおそらく、最終決戦あたりまで行くのではないかと思う。
学園祭も、そろそろ終わりだな。
では、また必ず会おう。
・・・いいか、絶対だぞ! このまま終わらせてなるものか・・・!

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