魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第72話「麻帆良祭三日目・来援」

Side アリア

 

電脳戦と言う物は、高度な物です。

それを正確に伝えようとすると、どうしても専門的な物になってしまいます。

なので、あえてグラフィカルに表現してみます。

 

 

「などと言えるほど、ファンシーでも無いのですが」

 

 

ネットの海の中で、私はそう呟きました。

私の周囲には、現実の海のような空間が再現されています。

 

 

ちなみに私は、現実世界とは異なる服を着ています。

その名も、『エレメントスーツ』。

電脳空間で戦闘をするために着用する衣装でして・・・まぁ、色々と細かい点まで作りこまれています。

数種類があるのですが、現在着用しているのは『ファイアー』と呼ばれる衣装。

真紅の燕尾服風の上着と黒のタイツ、背中にチョコンと付いた小さな羽根がアクセント。

 

 

「赤とかは、私にはあんまり似合わないかもですけ・・・どっ!」

 

 

『ワンド』と呼ばれる杖を振るい、この衣装の固有技能を使用します。

『ファイアー・ウォール』―――その名の通り、炎の壁が出現し、襲いかかってきた無駄データの塊を防ぎます。

でも・・・。

 

 

先ほどから、私を攻撃してくる敵のグラフィックが、効果の割に可愛らしいデザインの物が多いです。

イルカさんは元より、ウミガメさんや子供のアザラシ・・・可愛いです。

 

 

しかし、今は可愛い海の生き物達に癒されている場合ではありません。

先ほどから、敵(おそらくは、茶々丸さん)に良いように翻弄されています。

当初5割まで取り戻した麻帆良のセキュリティコントロールを、今では逆に8割まで奪われています。

それに比例して、現実世界の戦況も悪化しているようですし・・・。

 

 

「イルカさん達の攻撃も、いつまで凌げるか・・・」

『へぇ~、大変ですねぇ~』

 

 

不意に、声をかけられました。

その声が耳に届くと同時に、私は『ワンド』を振るいました。

 

 

「『フレイム・ボンバー』!」

 

 

ちゅどんっ!

嫌にコミカルな効果音と共に、火球が着弾、爆発しました。

煙が晴れた先に現れたのは・・・。

 

 

焼け焦げた葱でした。

 

 

『も~、いきなり何するんですかぁ~』

「デリートしようとしたんですけど」

『怖っ!? おかーさん、怖っ!?』

 

 

そこにいたのは、緑色の長い髪をツインテールにした、16歳くらいの女の子でした。

名を、「ミク」。

人造電子精霊衆・・・「チーム・ぼかろ」の代表格です。

本来、彼女達が麻帆良ネットの防衛・管理・監視を行ってくれるはずだったのですが。

 

 

「今まで、どこをほっつき歩いていたのですか・・・?」

 

 

以前ノートパソコンを破損した際、どこかへと雲隠れしてしまったのです。

おかげで今、面倒なことになっています。

ミクは、てへへ、と笑うと。

 

 

『運命の人を、見つけちゃいました♡』

 

 

死ぬほど嫌な予感しかしません。

と言うか、仕事もせずに何をしていたのでしょう、この子達。

 

 

「まぁ、良いです。とにかく、麻帆良のセキュリティコントロールを・・・」

『良いですよー、そのつもりで来ましたから。じゃ、変身してください♪』

「・・・・・・は?」

『だ・か・らぁ。変身ですよ、変身。そのスーツ、魔法少女よろしく、変身できるじゃないですか』

 

 

確かに、この『エレメントスーツ』は、データをダウンロードすることで種類を変えられます。

その際には、まぁ・・・そう言う風になる仕様でして。

 

 

『相手って、ぐらんどまざーでしょー? 絶対いると思うんですよー』

「な、何がですか?」

『画像が』

「何のために!?」

『勝つために』

 

 

それはもう、ニッコニッコしながら、ミクは言いました。

 

 

『まいますたーの日常を守るためにも、頑張って、おかーさん♡』

「え・・・ほ、本当に・・・? と言うか、マスター登録したんですか!?」

『まぁ、それは置いといてー、負けても良いなら、強要はしませんよぉ?』

「む・・・」

『どうしますー?』

 

 

ど、どうしますって、そんなの。

そんなの、当然・・・!

 

 

 

 

 

Side さよ

 

戦闘開始から一時間弱。

すーちゃんと一緒に、エヴァさんの家に近付いて来るロボットを排除し続けています。

結構、重武装の機体とかあるから、大変です。

 

 

「オスク・ナス・キーナ・カナラック!」

 

 

魔法の始動キーを宣言して、氷と闇の精霊さんにお願いします。

私個人の考えなんですけど、始動キーって精霊さんへの挨拶みたいな物ですよね。

 

 

来れ氷精(ウェニアント・スピリートゥス)闇の精霊(グラチアーレス・オブスクーランテース)闇を従え(クム・オブスクラティオーニ)吹雪け(フレッド・テンペスタース)常世の氷雪(ニウァーリス)!」

 

 

エヴァさんに教えてもらった魔法を、目の前の多脚戦車みたいなロボットに向けて放つ。

 

 

「『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』!」

 

 

黒い氷の渦が、一直線に放たれ、ロボット達を飲み込んで行きました。

エヴァさん程、精度の錬度も高くは無いけれど、動きの鈍いロボットは今ので十分に倒せる。

そこから数歩下がって、『アヒル隊』と『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を拡散させて撃つ。

 

 

う~ん、そろそろ、物量に押されてきた気がする。

屋根から降りて戦い始めてから、段々後退を余儀なくされているから・・・。

 

 

「わっ・・・!」

 

 

ざしっ、と、足を止めた。本当なら、止めちゃいけません。

エヴァさんにも、「戦闘中に動きを止めるな」って良く言われました。

でも、止めてしまいました。

だって・・・。

 

 

畑が。

 

 

その時、多脚戦車の上に乗っているロボット兵が、私に向けてガトリングガンを。

あ、コレ、不味いんじゃ・・・。

 

 

「どぅおおおおおおおぉぉぉぉ―――――っ!?」

 

 

その時、十数m先にいたはずのすーちゃんが、全開の瞬動で、スライディング気味に私を攫った。

そんなすーちゃんの軌道を追うように、弾丸と、黒い渦が追ってくる。

 

 

ドンッ・・・左腕で私を抱え上げたすーちゃんは、右腕で地面を殴りつけました。

すーちゃんの黒い瞳が、金色に染まる。

次の瞬間、周りの地面から植物の根や蔓みたいな物が急速に成長して、私達とロボット軍団の間に壁を作りました。

壁の向こうから、敵の放つ銃撃の音が聞こえます。

 

 

「すーちゃ・・・」

「あ、危ないぞぉ―――っ、さーちゃん、今のは危ない!」

 

 

怒っているのか、困っているのか、驚いているのか、全部なのか。

それ全部が、ない交ぜになったような顔で、すーちゃんが言いました。

 

 

「ご、ごめ・・・でも、畑が」

「おぅ? ・・・ぬぁ!? す、スクナの畑があああぁぁ――――っ!!」

「今気付いたの!?」

「さーちゃんの事しか、考えてなかったぞ・・・」

 

 

穴だらけになった畑を見て、打ちひしがれるすーちゃん。

農耕の神様として、それはどうなんだろう。

・・・顔が少し熱いけど、きっと気のせいだよね。

 

 

『さよさん』

「え・・・あ、アリア先生?」

『・・・伏せてください』

 

 

仮契約カードから、アリア先生の声。

でも、アリア先生は今、エヴァさんの家のリビングに・・・。

 

 

『伏せるんです!』

「は、はい!」

 

 

すーちゃんの身体を掴んで、自分ごとその場に引き倒します。

ちょうど、くっついていたので、良かったかも。

 

 

「『千の魔法』№19、『愛染明王星天弓』!」

 

 

次の瞬間、無数の光の矢が私とすーちゃんの上を通り過ぎていきました。

それらはすーちゃんが作った植物の壁を貫いて、その向こうのロボット軍団を襲いました。

百本はある光の矢がロボットを撃ち貫いて行く様は、ロボットの爆発とも相まって、花火みたいに綺麗でした。

 

 

えーと、エヴァさん語録。

魔法使いは、究極的にはただの砲台である、みたいな。

 

 

「・・・無事ですか?」

「アリア先生!」

 

 

家の方からゆっくりと、アリア先生がこちらに歩いてきます。

その手には、アーティファクトの魔本を持っています。

 

 

「いや、酷い目に合いました。この怒り超さんにぶつけて・・・」

「・・・?」

「・・・あ、何か、すみません・・・」

 

 

アリア先生は、私の方を見ると、急によそよそしくなりました。

心なしか、顔が赤い。

何が・・・あ。

 

 

さっき、引き倒した拍子に、私に覆いかぶさるみたいな格好になったすーちゃんと、目が合った。

すーちゃんは、凄く不自然に目を逸らすと・・・。

 

 

「・・・は、畑が荒らされて、力が出ないぞ」

「ば、バカァッ!」

 

 

思わず、両手ですーちゃんの顔を押しのけました。

それなら、私を抱っこなんてできるわけないでしょ!?

 

 

「あ・・・その、本当にごめんなさい。私、今すぐ超さんの所に行きますので・・・」

「ちょ、私も行きます!」

 

 

行きます、もう本当、凄く行きます!

行くに決まってるでしょ!?

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

「ほえ~・・・」

「もう、夏美ちゃん、何て顔してるの?」

「いや、もう、なんと言うか・・・凄いなぁ、みたいな・・・」

 

 

だってもう、今年の麻帆良祭の全体イベント、凄すぎるよ。

何をどうやったら、こんな演出ができるのか、全然わかんない。

 

 

今でもテレビの画面の中では、建物が壊れたり、ロボットが爆発したり、人が吹っ飛んだりしてる。

と言うか、これ今、外でやってるんだよね?

いや、もちろんテレビ用に演出過剰な部分もあるんだろうけど。

建物とか、本当に壊してるわけないよねー。

 

 

「そんなに画面を見つめて・・・」

 

 

ちづ姉が、腕を組みながら、私を見つめて溜息を吐いた。

な、何よぅ・・・。

 

 

「よっぽど、小太郎君のことが気になるのねぇ」

「え・・・いやいやいやいや、別にそういうわけじゃないよ!?」

「武道会でも、大変だったものねぇ」

「そ、それは、関係ないでしょ!?」

 

 

それは確かに、小太郎君が負けちゃった時は心配だったよ?

でもほら、それはむしろ、年上のお姉さんとして、当然じゃない?

結果的には、怪我も大したこと無かったみたいで、凄くホッとしたけど。

 

 

・・・で、でも、それくらい普通でしょ?

 

 

「そう言いつつ、ちゃんと小太郎君に賭けて・・・」

「いや、賭けて無いよ!?」

「・・・夏美ちゃんにも、春が来たのねぇ」

「お願いちづ姉、話を聞いて・・・」

 

 

涙ながらに訴えても、ちづ姉は「うふふ」と笑うだけ。

しつこくし過ぎると、葱の刑だし・・・。

 

 

「もう、いいんちょからも何か言って・・・」

「・・・ああ、ネギ先生との学祭計画~甘美な夢物語~が、ついに遂行できませんでしたわ・・・」

 

 

いいんちょに助けを求めたけど、いいんちょは一人でお茶を淹れ続けてた。

ただ、湯のみからはお茶が溢れてて、急須は空っぽだったけど。

と言うか、そんな計画考えてたんだ。

本当に、ネギ君のことが好きなんだなぁ・・・。

 

 

「あらあら・・・あやかも大変ねぇ」

「あはは・・・私には、よくわからない世界だけど」

「あら、そうでも無いんじゃない?」

 

 

へ?

何が、そうでも無いんだろ?

 

 

「だって、ネギ先生が好きなあやかと、小太郎君が好きな夏美ちゃん・・・10歳の男の子が相手と言う点では、共通していると思うけれど?」

「いや、別に好きとかそう言う・・・って、えええええええ!?」

 

 

え、嘘。

わ、私ってちづ姉に、「いいんちょと同類」とか思われてたわけ!?

 

 

「ダメよ、夏美ちゃん。女の子がそんな大きな声出したら」

「違うよ!? 私はいいんちょとは違うよ!?」

「なんですの!? 夏美さんがネギ先生みたいな少年がお好きですって!?」

 

 

ああもう、ここでいいんちょが加わると、意味わかんなくなるでしょ!?

でも本当、私は10歳の男の子が特別好きなわけじゃなくて!

 

 

「はいはい、小太郎君だけが好きなのよね?」

「い、いやその、それも違くてって・・・もーっ!」

 

 

ちづ姉には、本当にもう、敵わないよ。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

ち、超あり得ないっス。

超りんが相手だけに・・・。

 

 

「・・・あ、今の上手くなかった?」

「・・・5点ダナ」

「あ、ココネ厳しい!?」

「貴女達! 何を遊んでいるのですか!」

 

 

前を走るシスターシャークティーが、振り向きもせずに怒鳴ってきた。

いや、でも現実逃避もしたくなる状況じゃないですか、コレ。

 

 

私達は、女子普通科の礼拝堂に設定された防衛ポイントを守っていたんだけど、なんだかよくわからない内に、味方が全滅させられた。

どうも、狙撃されたらしんだけど・・・関西の人達もやられちゃって。

 

 

私達だけじゃてんで敵わないし、拠点も落とされちゃったしで、絶賛逃亡中。

しかも、後ろにはターミネー○ーなロボット軍団が。

私は例によって例の如く、ココネを肩車してる。

 

 

「でも、シスターシャークティー、これ逃げ切れなく無いっスか!?」

「くっ・・・確かに、珍しく貴女の言う通りだわ」

「こんな時でも、キツいっスねー、シスター」

 

 

女子普通科の校舎を逃げ回るのも、限界。

それに、相手が多すぎて撒き切れない。

シスターシャークティーは、爪を噛みながら私達を見て、考え込んだ。

 

 

「・・・仕方ないわ、ついてきなさい、貴女達!」

「うぇ、でもそっちは・・・」

「いいから、さっさとしなさい!」

「イ、イエッサー、シスターシャークティー!」

 

 

でも、シスターが向かったのは、さっき落とされた礼拝堂の方角。

いや、正確には礼拝堂から少し離れた位置にポイントがあるから、礼拝堂自体は占拠されていない。

 

 

いぶかしみながらも、一人では逃げ切れないし、ココネも守れない。

だから仕方なく、シスターシャークティーについて行く。

まったくもー、シスターはいつもこうなんだから。

全然説明してくれないし、上から叱り付けるばっかでさ。

 

 

「・・・まいっちゃうよね。皆、マジなんだもん」

 

 

世界がどうとか、魔法がどうとか。

15年しか生きてない若輩者の私が背負うには、重すぎだよ。

重すぎる荷物は背負わないのが、一番良いと思うんだけど。

 

 

皆、どうしてそんなに頑張るんだろうねぇ。

 

 

「ここです」

「へ?」

 

 

シスターにつれられて来たのは、礼拝堂の裏側。

勝手口のある場所だった。ここに、何が・・・。

 

 

「この礼拝堂の中の先頭・・・向かって一番左側の長椅子の下に、地下に通じる抜け道があるのです」

「おお・・・スパイ映画みたいな」

「神聖な教会の抜け道を、スパイ映画と同一視しない!」

「わたっ・・・す、すみません!」

 

 

でも正直、違いがわからないです。

その時、ココネが私の頭をポムポム叩いてきた。

 

 

「来るゾ・・・」

「へ・・・ああ、ロボ軍団!?」

 

 

慌てて見回すと、両側の壁の向こうから、ガショガショと言う音が。

それに気を取られていると、突然、シスターシャークティーが私の腕を引っ張った。

そのまま、礼拝堂の中に押し込まれる・・・と言うか、投げ込まれた。

 

 

ドシンッ・・・と、ココネと一緒に、床に打ち付けられる。

いった~・・・。

 

 

ガチャン。

 

 

文句を言おうと顔を上げた時、勝手口の扉が閉まった。

シスターシャークティーは、いない。

 

 

「・・・え?」

「シスター・・・?」

 

 

ココネと2人、呆然と扉を見上げる。

次いで、銃声。それも何発も。

し・・・。

 

 

「・・・シスターシャークティ――――――ッ!?」

 

 

『逃げたければ、逃げなさい』。

脳裏に、武道会の時に、シスターに言われた言葉が甦った。

 

 

 

 

 

Side 弐集院

 

くそ、冗談じゃない。

建物の影に隠れながら、僕はそう毒づかざるを得なかった。

 

 

「何人残った!?」

「は、半分はやられました!」

 

 

別の建物の影に隠れた魔法生徒の返答に、舌打ちしたくなる。

 

 

フィアテル・アム・ゼー広場で守備についていた僕達は、退くも進むもできない状況に追い込まれていた。

当初、ロボット軍団の単調な攻撃を凌ぎ、着実に数を削っていたのだけど・・・。

 

 

タァ・・・ンッ・・・!

 

 

どこからか響き渡る、銃声。

ロボット軍団の砲撃・銃撃音では無い。

狙撃。

ロボット軍団だけなら、僕達魔法使いの防御・支援と関西の術者(特に神鳴流剣士)の突破力を上手く連携させれば、かなりの効果を見込める。

だけど、僕達が感知できない程の遠距離からの狙撃には、どうしたって対応できない。

 

 

実力云々ではなく、相性の問題だ。

 

 

何せ、敵の狙撃手は障壁を無視してこちらを撃破できる弾丸を使っているようなんだ。

あの黒い渦に飲み込まれた人間がどこに飛ばされるかは、わからない。

普通の弾丸なら、障壁で阻めるのに・・・。

 

 

「通信は戻らないのか!?」

「先ほどから、直りそうで直らない、もどかしい状況が続いていて・・・うぁっ!?」

 

 

通信機器を持っていた魔法生徒も、例の渦に飲まれた。

くそ・・・狙撃手はどこなんだ?

建物の影に隠れている僕達を、正確に狙ってくる。

まさか複数いて、囲まれているわけでも無いだろうし・・・。

 

 

その時、僕の視界に、少し離れた位置の建物の屋根の一部が、火花を散らす様が映った。

・・・跳弾!? 何と言う技術! ここまで来ると、人間技じゃない・・・!

 

 

「く・・・!」

 

 

僕の方に飛来する弾丸。

魔力で強化された僕の視覚は、かろうじてその弾丸を捉える。

でも、身体がついて行かない。やはり、ダイエットするべきだったか・・・!

だけど、仕方が無いんだ、娘が「パパのお腹、ポヨポヨ~」って喜んでくれるから、つい・・・!

 

 

そんなことを考えつつ、覚悟を決めたその時、乾いた音を立ててその銃弾が弾き落とされた。

次いで、僕の横に降り立ったのは。

 

 

「高畑君!?」

「申し訳ない、遅れてしまいました」

「いや、助かった。ありがとう」

 

 

流石は高畑君、魔法世界で数々の修羅場を経験してきただけあって、あの狙撃にも対応できるらしい。

ただ、何で麻帆良に在籍しているのかは、ついにわからなかったけど。

 

 

とにかく、これで何とか立て直して・・・。

 

 

「ターゲット、発見致シマシタ」

 

 

メギッ・・・と、頭上で音がした。

仰ぎ見ると、他のロボットとは、同型ではあるが、雰囲気の違うロボットがいた。

具体的には、胸に苺のアップリケがついている。

そのロボットは、グッ・・・と親指を立てると、告げた。

 

 

「I will be back」

 

 

 

 

 

Side 真名

 

私の狙撃を防ぐとは、驚いた。

流石は、タカミチ・T・タカハタ・・・本国での評判はハリボテではなかったわけだ。

侮っていたつもりは無いが、それでも驚く。

それ程に、狙撃と言うものは防ぐのが難しい。

 

 

事実として、他の敵戦力はほぼ片付けた。

とはいえ、ほとんどは実戦経験も無いような魔法生徒だがな。

 

 

「高畑先生は、最優先ターゲットではあるが・・・」

 

 

しかし、あの個性に富んだロボットは何だ?

茶々丸とはどうも、毛色が違うようだが。

超も、特にシステムを弄った覚えは無いと言っていたしな・・・。

 

 

『・・・龍宮サン、聞こえるカナ?』

「超か」

 

 

噂をすれば何とやら、超から通信が入った。

敵の通信は完全に妨害・傍受できている。

散発的に、一部で管理権を奪還されたりもしているようだが、全体としては、麻帆良のネット面は茶々丸に支配されていると言えるだろう。

 

 

『そちらはどうネ?』

「順調だ。敵の数は減らした。高畑先生は、例のロボットが相手をするつもりのようだ」

『そうカ・・・』

 

 

少し考え込むような、超の声。

 

 

『まぁ、それは良いネ。それよりも龍宮サン、申し訳ないが他の場所に向かってほしいヨ』

「こちらも、まだ陥落させたわけでは無いが・・・」

『例の「田中さん」が時間を稼いでいる内に、魔方陣展開用のロボが中心を制圧するヨ』

 

 

確かに物量作戦に徹すれば、高畑先生さえ抑えていれば問題は無い。

しかし、私をどこに向かわせる?

 

 

『単刀直入に聞くヨ、ネギ坊主の支援とアリア先生の仲間の足止め、どっちが良いカナ?』

「わかった、どの程度の時間足止めすれば良いんだ?」

『少しも迷わなかったネ・・・』

「迷わなかったな」

 

 

苦笑交じりの超の声に、私も同じような声で答える。

だがな超、私としては、より面倒の少ない方を選びたいんだよ。

報酬の金額が変わるわけでもないしな。

 

 

その後、残りの弾数や銃器の確認を済ませつつ、超と短い話し合いを行った。

さて、なるべくアリア先生に怒られたくは無いんだが。

 

 

まぁ、命のやり取りでも無いし、多少のことは勘弁してもらおうか。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

「まったく、ハルナは・・・」

 

 

私は見たくないと言っているのに、何故か絡んできて・・・。

飲み物を買いに行くと言って、部屋から抜け出してきたです。

まぁ、事実として私の不思議ドリンクのストックも切れていたですから、ちょうど良かったです。

 

 

廊下に出ると、それぞれの部屋から歓声だり、悲鳴だり、あと良くわからない叫びとかが聞こえてきているです。

皆、本当に元気ですね。間違って外に飛び出さないと良いのですが。

だって、外は・・・。

 

 

「・・・今の私が、考えることでは無いですね」

 

 

そう、私には、他に考えなくてはならないことがあるです。

たとえば、今回の件が終息した後、いかにのどかを守るかです。

 

 

経緯はどうあれ、一度反体制側に加担してしまった以上、のどかにも何かしかの追及の手が伸びてこないとも限らないです。

と言うか、むしろ絶対に何かあるはずです。それが何かは、わからないですが・・・。

超さんが勝利する可能性は、この際は考えないことにするです。

 

 

「・・・最善は、ネギ先生が全ての罪を引き受けてくれることですが」

 

 

我ながら、度し難い考え方です。

でも仮とは言え、のどかの主だと言うのなら、もっとのどかのことを考えてくれても良いはずです。

・・・10歳の子供に、過剰な期待をしても仕方ないかもですが。

 

 

そして私は、その10歳の子供とやらに、全部押し付けたわけです。

今頃は、戦場で何を思っているのでしょう。

願わくば、のどかの目に入らない場所にいてほしいです。

 

 

ネギ先生は、のどかとは無関係でいてほしいです。

修学旅行以前に、この判断ができていれば・・・。

 

 

「今さらです・・・とにかく、今は・・・」

 

 

ピ、と、自販機でドリンクを購入しながら、考えるです。

今後、私自身がどうすべきかを。

 

 

どうやって、のどかをネギ先生から引き離すかを。

 

 

「え・・・」

 

 

ドリンクを取ろうと、屈んだその時。

私の視界の隅に、よく見知った人間が映りました。

私の親友---のどかが。

 

 

その手には、革表紙の本を開いて。

あ、れは・・・!

 

 

「の、のどか、いつから・・・」

 

 

いつからそこに、と言う言葉を、私は飲み込んだです。

言葉にする意味がないからです。

 

 

のどかは、目を大きく見開いて、私を見ていたです。

驚愕、信頼、悲哀、否定・・・様々な感情が、その可愛らしい顔を彩ったです。

 

 

「・・・ゆ、え?」

 

 

のどかの声は、いっそ、笑いたくなるくらいに・・・。

平坦でした。

 

 

 

 

Side 超

 

龍宮サンとの短い話し合いを済ませた後、強制認識魔法発動のための最終調整に入る。

戦闘開始から、一時間と少し。

すでに、3つの拠点を落としたヨ。

兵力差から考えて、落とした拠点を奪還されるとは思わないネ。

 

 

後は、敵の司令部がある世界樹前広場、国際大学付属高校前、フィアテル・アム・ゼー広場の3つ。

最後の一つは、時間の問題ネ。

残る二つも、物量で押せば良い。やはり時間の問題ネ。

 

 

「さぁ・・・いよいよ、最終段階ネ」

 

 

視線を向ければ、ハカセが世界12ヵ所の聖地及び月との同期のための詠唱を続けていたネ。

ハカセ。

科学で世界を平和にできると信じている少女。

 

 

私は、古のことを親友だと思っているし、古とハカセのどちらが大切かなど、考えたことも無い。

だが、あえて区別をするのであれば、古は親友、ハカセは同志・・・と言った所カナ。

茶々丸は、娘・・・みたいな物カ。

龍宮サンは、仲間・・・カナ。お金はとられるがネ。

 

 

「超さん、終わりました」

「・・・ありがとう。じゃあ、そのまま最後の詠唱に入ってくれて良いヨ」

「仕上げの呪文は11分6秒です。大丈夫でしょうかー?」

「大丈夫ヨ。始めてクレ」

 

 

ハカセは、どこか心配そうな顔で私を見る。

その目は、「このまま進めて良いのか」と、聞いてきている。

・・・無論ネ。

 

 

世界を変えるというのは、いつだって大変な物ヨ。

それが、世界のためではなく、ごく限られた人のための物なら、なおさら。

 

 

「・・・そうは、思わないカ?」

 

 

それに、もはやこの計画の可否を決めるのは、どうやら私では無いようだしネ。

決めるのは・・・「彼」ネ。

 

 

「フェイト・アーウェルンクス」

 

 

後ろを振り向けば、そこには白い髪の少年が立っていたネ。

無機質な瞳が、こちらを見つめてくる。

彼の足元には、小さな水溜り。

 

 

「・・・僕の名を知る、キミは誰だい?」

「何、ただ、知っていた・・・それだけネ」

 

 

と言うより、聞いていた・・・の方が、正しいとは思うがネ。

個人的には、会ってみたいとも思っていた。

しかし、この場面において、「これで私と同じ舞台に立った」とは、言わない。

 

 

なぜなら・・・。

彼は最初から、自分の舞台に立っているのだから。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

高速移動用箒『ファイアボルト』に乗って、空路を進みます。

眼下では、無数のロボット軍団と少数の味方が入り乱れています。

 

 

「ひゃわわ・・・何か、大変なことになっていますねぇ~」

「航空戦力もあったと思いますので、気を付けてくださいね」

 

 

隣には、『青き稲妻』と言う名前の飛行用箒に乗ったさよさんがいます。

下の様子を見て、戦々恐々としているようですが、あまり低空飛行だと対空砲火に晒される可能性もあります。

先を急ぐことですし、支援などはせずに、このまま行きます。

 

 

ところで・・・。

スクナさんはなぜ、さよさんの箒の先にぶら下がって落ち込んでいるのでしょうか。

襟を引っ掛けて、まるで攫われてるみたいですよ?

 

 

「スクナは、超カッコ良くなれなかったぞ・・・」

「はぁ?」

「むしろこの理屈で行くと、恩人が超カッコ良いぞ・・・」

 

 

意味がわかりませんね。

さよさんを見ても、曖昧な表情を浮かべるばかり。

 

 

「さぁ、急ぎますよ。そろそろ超さんが最終段階に・・・」

 

 

タァ・・・ン・・・ッ!

ガギュンッ!

 

 

隣から聞こえた、異音。

振り向けば、黒い渦に飲まれる、さよさん。

・・・強制時間跳躍弾!

 

 

「さよさん!」

「さーちゃん!?」

「わっ・・・え、えーと、け、計画どぉ―――りっ!」

「何がです!?」

「ご、ごめんなさ」

 

 

ギュンッ、と音を立てて、さよさんが消失しました。

おそらくは、3時間後の世界へ。

 

 

しまった・・・何たる失態。

狙撃の可能性を忘れていました・・・いえ、失念していたわけではありませんが、ネットを出る直前に確認できた真名さんの位置とは、ここはまったく別の場所です。

移動してくる可能性を、軽視していました。

 

 

「スクナさん!」

 

 

主を失った『青き稲妻』が、スクナさんごと地上へ墜落します。

しかし私には、それを心配する余裕がありません。

私自身、狙撃の対象なのですから。

 

 

急加速、急停止を繰り返して、狙撃とそれに伴う時間跳躍の渦を回避します。

京都での反省もあって、なるべくなら魔力を温存したいのですが・・・。

 

 

「真名さん相手に、それは贅沢と言う物でしょうか・・・!」

 

 

近くの塔の陰に隠れますが、跳弾を利用した狙撃ですぐに移動を余儀なくされます。

跳弾で狙うとか、意味がわかりません。

どう言う眼をしているのですか!

 

 

『・・・恩人!』

「スクナさん!?」

 

 

回避行動の最中、スクナさんからの念話・・・とは少し違いますね。

あえて言うなら、空間に声を響かせていると言った所でしょうか。

 

 

『先に行くんだぞ!』

「しかし、こうも狙撃されると、どうにも・・・」

『・・・大丈夫!』

 

 

スクナさんは、力強く言い切りました。

 

 

『アレは、「僕」がやるよ』

 

 

次いで、爆発。

真下の地面が吹き飛んだかと思えば、一直線に爆発が動き・・・。

それは1㎞ほど先にある塔の所まで続き、塔が倒れました。

後で修理するの、大変なんですけど・・・!

 

 

しかし、確かに狙撃は止まりました。

これは、好機。

多少、後ろ髪を引かれる思いもありますが・・・。

ここは、スクナさんに任せることにします。

 

 

私は、超さんの所へ。

『ファイアボルト』の柄を強く握り、空を駆けます。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

鬱陶しいわね。

趣味の悪い仮面を付けたネギの周囲を守るように走る、この雷の獣。

速いし、そこそこ硬いし。

 

 

でも、別にそれは決定打にはならない。

炎で盾を作れば、直撃でも貰わない限りは何とでもなるわ。

それよりも・・・!

 

 

「何でっ・・・当たんないわけ!?」

 

 

確実に直撃させたはずの拳が、空を切る。

まるで擦り抜けるように、ネギの身体が擦り抜ける。

決まって、背後に突然現れるの。

それに、たまにネギが投げたり、ぶつけたりしようとしてくる銃弾!

 

 

流れ弾に当たった人が、黒い渦に飲まれて消えた。

なんて物を、使ってるのよ!

 

 

「あんた・・・ネギ、自分が何をやってるか、わかってるわけ!?」

「・・・っ!」

 

 

名前を呼ぶと、反応が激しくなる。

仮面を片手で抑えて、指輪をつけた手を振るう。

魔法も使ってこない・・・使ったとしても、無詠唱呪文。

正体を知られたくない、そういうこと。

 

 

始動キーでバレちゃう物ね。

けど、気に入らないわ。

顔を隠さないとできないことなら、最初からやるな!

 

 

「・・・ああ、もう!」

 

 

炎を纏わせた拳も、空を切る。

フッ・・・と消えるネギ。

何度も、同じ手が・・・。

 

 

「通じると、思わないでよ!」

 

 

胸元の『アラストール』が赤く輝く。

熱を持ったみたいに熱くなるそれは、私の周囲に炎の精霊を充満させる。

そして、その精霊達を押しのけるように、何かが割り込むような隙間が生まれる。

 

 

刹那、その隙間めがけて、振り向きざまに、炎を纏った右拳を放つ。

その拳は。

 

 

メギッ・・・!

 

 

私の背後に出現したネギの顔面に、直撃する。

硬質の仮面を砕く、嫌な音が響く。

 

 

・・・ネギがどうやって、私の背後に急に現れたのかはわからない。

だけど、3度も4度も同じ戦法を使われれば、良い加減カウンターの一つや二つ、思いつくわ。

 

 

ネギは、二度程地面を跳ねて、数m先で倒れ伏した。

その時、殴られた際にネギが落としたのか、奇妙な懐中時計が地面に転がったわ。

ネギの手が、それを掴もうと伸ばされる。

でもそれは、私の懐から飛び出したエミリーがネギの手に噛み付いて、防いでくれた。

 

 

「アーニャさん!」

 

 

エミリーの声に反応して、技後硬直を起こしている身体に鞭を打つ。

足の関節部分に、『アラストール』で熱を生む。

神経が反応し、動く、加速。

 

 

ネギの手が伸びるよりも一瞬早く、私の右足が、その懐中時計を踏みつけた。

ネギが、私を仰ぎ見る。

仮面が、ひび割れて・・・。

 

 

「・・・なんだか、久しぶりに、あんたの顔を見た気がするわ」

 

 

剥がれた仮面の向こうには、泣きそうに歪む、ネギの顔。

泣くくらいなら、最初からやるんじゃ無いわよ。

 

 

グッ・・・と、足の先に炎を灯して、懐中時計を踏み抜いた。

小さな爆発と共に、時計が壊れる。

ネギの顔が、ますます悲愴に歪んだ。

正直、見ていて苛々する。

 

 

「この・・・」

 

 

ごめんね、ネカネお姉ちゃん。

私は、このバカを許せない。

だから、私は。

 

 

「バカネギィ――――――ッ!!」

 

 

ネギの顔面を、右足で蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

相手の行動様式が、明らかに変化しました。

 

 

「・・・これは」

 

 

それまで、散発的で、しかも局地的だった敵の抵抗が、気配を変えました。

アリア先生が途中で離脱され(どうしてか、胸の奥の重みが取れたような心地になりました)、おそらくは「ぼかろ」と思われる電子精霊群が出張ってきただろう、と言う所までは、私も掴んでいました。

 

 

これまで私がアリア先生を圧倒しえていたのは、つまる所、アリア先生が麻帆良の防衛システムと同時に、一般人収容施設のセキュリティ防衛にまで気を配っていたからです。

加えて言うなら、私自身へのダメージを最小にしようと努めていたからでしょう。

 

 

「しかし、これは違います」

 

 

アリア先生が抜けられた後は、私への攻撃の意志をはっきりと感じます。

ですが、気まぐれで優先順位を設けず、ただ悪戯のように攻撃を仕掛けたり、放棄したり・・・。

 

 

「言うなれば、子供が無計画に場をひっかき回す程度の物でしたが」

 

 

それがまた、ここに来て変化を見せてきました。

こちらの要所を的確に叩き、逆に相手が必要としない部分に、こちらの力を割かせようとしているように感じます。

この独創的なプログラミング、どこかで見た覚えもありますが、しかし。

 

 

いずれにせよ、未だ私は麻帆良の全コンピュータの80%を掌握しています。

学園結界も、落ちこそしていませんが、超の儀式を阻害しない程度のレベルにまで落とし込むことには成功しています。

事実として、超とハカセの儀式は完了目前です。

 

 

「ですが、いったい、誰が・・・?」

 

 

あの個性的な「ぼかろ」達をこうまで統率し、使役するなど。

アリア先生や私にも、不可能でした。

「ぼかろ」の家出(?)から、まだ3日も経っていません。

 

 

では、いったい誰が。

私ですらも、「ぼかろ」の後ろにいる人間がわかりません。

まさか、「ぼかろ」達が積極的に隠そうとしている・・・?

 

 

それこそ、まさかですが・・・。

もしそうだとするのならば、誰が。

 

 

一日や二日で、「ぼかろ」達を手懐けられるはずが・・・。

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

「一日や二日で、なんでこんなことになってるんだよぉ――――――っ!?」

 

 

私は今、寮の部屋で一人、叫んでる。

一人で良かったと思う反面、誰か助けてくれ、なんて身勝手なことを考えるあたり、末期だと思う。

 

 

『あ、まいますたー。麻帆良のマザーコンピューターと回路接続しました!』

『今なら、核ミサイルも撃てるわよ?』

「撃つわけねーだろ!? てか、そんなもんどーすんだよ、逆に!」

 

 

というか、学生のパソコンをなんて物とリンクさせてんだよ!

容量とか常識とかを無視すんのも、大概にしやがれ!

ガチャガチャガチャガチャ・・・と、キーボードを高速タイピング。

何をやってるかと言われれば、「悪のロボット軍団から、学園を守ってる」としか言えねぇ。

 

 

・・・いや、違うんだ、私は正常なんだ!

ただ、「やっぱり、ぐらんどまざーには敵わないっス、てへり☆」とか言う葱娘がいてだな。

このままだと、「うぇるかむ、ひにちじょー」とか言いやがるから・・・。

 

 

「でも、何で私なんだよ!?」

『センスが良かったですから~』

「自分の感性を呪う日が来ようとは思わなかったぜ・・・!」

 

 

私のHPや趣味がこいつらを呼んだんだとすれば、本当に呪うしかない。

 

 

「だぁ~・・・いや、コレはゲームだ! そう、ちょっと現実感溢れ・・・溢れずぎだろ!?」

『おお、ノリツッコミですね?』

「ちげーよ、現実逃避ってんだよ!」

『では、ついに我らを現実だと認めてくれたわけで・・・』

『か、感激だよぅ!』

「ええい、黙れ非日常の権化どもめ!」

 

 

8体揃うと、もう手に負えねーよ!

ちっ・・・まぁ良・・・くは無いが、今はとにかく。

 

 

「行くぞ葱娘シスターズ! 夢と現実がごっちゃにされてたまるか!」

『私達がすでに、夢と現実をごっちゃにしてますけどね☆』

『というか、葱はミクちゃんだけですよ』

「良いから、素直にはいって言えよお前らはもぅ――――――っ!」

 

 

なんだ、なんなんだ、こいつらは!

助けてほしいのか、それとも遊びたいだけなのか、どっちなんだよ!?

 

 

「・・・ちっ」

 

 

・・・私だよ。

私が、助けてほしかったんだよ、遊んでほしかったんだよ!

こんな非常識な街で、神経磨り減らすばっかりの毎日。

 

 

やることと言えば、愚痴を言うか、趣味に没頭するかだ。

私だって・・・。

 

 

『私だって、本当はこんな風に騒ぎたかったんだ・・・!』

「いや、ねーよ! 何を勝手に人の心情風景を描き出してんだよ!?」

『え~』

「シャットダウンすんぞてめぇ・・・!」

 

 

実は今の生活が大好きなんです・・・みたいに聞こえるじゃねーか!

どこのヒロインだよ私はよ!?

それにだ、何度でも言うぜ、私は・・・。

 

 

「平凡で退屈な毎日が、大好きなんだよ!」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

すっかり日が暮れて、夜です。

世界樹の発光が、麻帆良の街並みを照らしています。

 

 

『ファイアボルト』に横座り、世界樹を見つめます。

刹那さんと木乃香さんは、世界樹の中枢にたどり着けたでしょうか。

たどり着いているのなら、この戦い、おそらく勝てるのですが。

 

 

「・・・!」

 

 

突然、私の目前で時間跳躍弾が弾けました。

世界樹の様子を見るためにスピードを緩めていなければ、直撃していました。

 

 

視界を転ずれば、茶々丸さんに良く似たデザインのロボットが、銃器を構えてこちらに向かってきていました。

茶々丸さんの妹さん・・・と思われる機体です。

その他、田中さんの兄弟機がゾロゾロと。

 

 

「『一方通行(アクセラレータ)』」

 

 

私の首に巻かれていた黒のチョーカーが、かすかに震えます。

物体のベクトルを操作するこの魔法具は、わかりやすく言えば、私に向けて放たれた、生きるのに必要な物以外の全てを反射してくれます。

この場合は、ロボット軍団の攻撃を、です。

 

 

放たれてきた跳躍弾の全てが、反射され、逆にロボットを襲いました。

この魔法具、高い演算処理が必要なのですが、「ぼかろ」のバックアップを受けている今なら使えますが・・・。

それでも、900秒程が限界ですが・・・。

スクナさんと別れてから装備しているので、そろそろ限界時間です。

 

 

「もうっ・・・!」

 

 

それでも、敵の数が多い。

超さんめ、いったいどれだけの戦力を・・・。

 

 

視界には、超さんがいるだろう飛行船が見えています。

しかしそこに至るまでには、数十機の敵を突破して行かねばなりません。

魔力を気にせずに突き進めば、できるでしょうが・・・!

一人では無理だと、泣き言を言いたくなるのは、私が弱くなったから・・・?

 

 

「それでも・・・!」

 

 

急旋回と急加速、急停止を繰り返し、さらに残り少ない魔法具の時間もすり潰して、先へ進もうとします。

でも、この距離と数・・・!

 

 

その時、私の前面に展開された飛行タイプのロボットが、下方から放たれた火属性の魔法の矢によって、撃ち落されて行きました。

それも、一本や二本では無く、数十の魔法の矢。

これは・・・。

 

 

戸惑っている私の横を、箒に乗った魔法使いが3人、通り過ぎて行きました。

3本編成で、それが3組。合計で9人です。

箒に乗る魔法使いのローブに描かれている紋章、アレは・・・。

 

 

「メルディアナの校章!?」

「きーてくれよ、アリア・・・」

「・・・その声っ・・・!」

 

 

聞き覚えのある声に振り向いてみれば、そこには、赤毛の少年。

箒の柄に仁王立ちしている彼は、私の・・・。

 

 

「ロバート!?」

「・・・助けに来たぜー・・・」

「だったらもう少し、テンション上げてくださいよ・・・」

 

 

助けられる側としては、そんなテンションで助けられたくないです。

彼の名はロバート。私のメルディアナ時代の学友で・・・。

 

 

「だってお前、妹に、ヘレンに彼氏ができたってお前・・・!」

 

 

シスコンです。

 

 

「お前にわかるか、俺の悲しみが・・・苦悩が! わかるか!?」

「久しぶりに会ったと思えば・・・貴方、変わりませんね」

 

 

むしろ逆に、安心しますよ・・・。

ロバートは、テンションの上がらない顔で、私を見ると。

 

 

「・・・ここは俺に任せて、先に行きな・・・」

「うわぁ、未だかつて、その王道台詞をそんなテンションで言った人がいるでしょうか」

 

 

これ程に味方の戦意を削ぐ台詞、初めて聞きました。

しかし、そうは言っても、この救援で上への道が開けました。

私は『ファイアボルト』の柄を握り直すと。

 

 

「ありがとう、ロバート。助けにきてくれて」

「お前の好感度上げても、妹は戻ってこねぇしなぁ・・・」

「撃墜しますよ?」

「冗談だよ、冗談。あと礼はドネットさんに言えよ。あの人、結構無理して俺らの転送許可とったからさ」

 

 

ドネットさんですか・・・。

 

 

「今頃は、下でバトってんじゃね?」

「・・・そうですか」

「ま、そんなわけで・・・こほん。ここは俺に任せて、先に行きな!」

「友よ! とでも叫べば良いですか?」

 

 

ノリの悪い奴、とロバートが笑って。

時と場合を考えてください、と、私は笑いませんでした。

私達は、これで十分です。

 

 

私はロバートと別れて、一気に空へ。

超さんの所へ!

 

 

 

シンシア姉様、いろいろな方が私を助けてくれるようになりました。

一人でやるより、どうしてでしょう・・・。

 

 

 

アリアは少し、楽しいです。

 

 

 

 

 

Side クウネル

 

ドラゴンの悲鳴、と言う物は、結構凄い物があります。

特に、断末魔と言うか、痛めつけられている時の叫び声は。

 

 

「な、なんです・・・?」

 

 

図書館島の地下・・・と言っても、ほぼ世界樹の下と言っても過言ではないこの場所。

あのドラゴンは、世界樹の中枢に至るまでの道ですから、警備のドラゴンもそれなりの力を持ったものです。

何より、ここで休養し始めてからの仲です、愛着もありますし。

 

 

なので、そのドラゴンの悲鳴と言う物も、あまり面白い物ではありません。

というか、ドラゴンが悲鳴を上げるような事態が次に自分に降りかかるかと思うと、憂鬱を通り越して恐怖すら覚えますね。

 

 

その時、入り口の扉が爆発、吹き飛ばされました。

ほ、本当になんです!?

 

 

「どうも~、近衛木乃香です~」

 

 

そこから現れたのは、長い黒髪の、可愛らしいお嬢さんでした。

煤一つ付いていない、綺麗な白の仮衣姿。

どこかで見たような気もするのですが・・・。

 

 

「桜咲刹那と申します」

 

 

続いて、背中に白い羽根を生やした少女。

まるで天使のような佇まいですが、その手には血に染まった野太刀。

それも、人間の血ではありません。

良く見れば、刀以外にも血液を拭ったかのような跡があります。

そしてこちらも、どこかで見たことがあるような。

 

 

・・・どうも、私の家のドラゴンを突破してきたようですね。

それも、かなり力尽くで。

 

 

その2人の女性は、私の方を見ると、片方は笑い、残る片方は視線を鋭く細めながら。

 

 

「「世界樹の魔力が溜まる場所への行き方を、教えてください」」

 

 

そう、言いました。

 




さよ:
さよです、脱落しましたぁ・・・。
そりゃ、空でお喋りしてたら撃たれますよねぇ。
すーちゃんも何だか、大暴れな予感です。
後の片付けとか、考えてくれると良いんだけど・・・。
学園長先生に押し付ければ、良いかもだけど。


今回新規の魔法・魔法具は以下の通りです。
愛染明王星天弓(孔雀王):伸様提供です。
一方通行(とある魔術の禁書目録):水色様、おにぎり様提供です。
エレメントスーツ(コレクター・ユイ):絡操人形様提供です。
青き稲妻(GS美神 極楽大作戦!!):これも絡操人形様提供です。
ありがとうございました!


さよ:
次回は、最終決戦です。
次回を含めて、あと二回で学園祭も終わる予定です。
長かったですねぇ。
本当に長かったです。
では、また会いましょうね!

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