魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第74話「麻帆良祭三日目・後夜祭」

Side 真名

 

「む・・・」

 

 

不意に、手を止めた。

先ほどまで感じていた超の魔力と、『強制認識魔法』の気配が、完全に消失したからだ。

と、言うことは・・・。

 

 

「・・・負けたか」

 

 

傭兵として、負ける側につくことになるとは、私も勘が鈍ったかな。

志などと言う物を優先した結果が、これか。

 

 

ジャカッ・・・と、両手に構えた拳銃を両足のホルスターに収める。

これ以上の戦闘は、無意味だ。

アリア先生の仲間を足止めするという依頼も、ここまでだろう。

クライアントからの連絡も、途切れたことだしな。

 

 

「・・・それとも、まだやるか?」

 

 

やや上の方を見て、相手に告げる。

そこには、黒髪の少年がいた。

山と積まれた瓦礫の上に立ち、金の瞳で私を見下ろす少年。

 

 

明らかに、人間では無い。

巧妙に人間の姿に偽装されているが、霊格の高さが尋常じゃない。

純粋な力だけで見ても、エヴァンジェリン程では無いが、化物だ。

 

 

「・・・お前、強いな」

「それ程でも無いさ・・・そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな」

 

 

化物に「強い」とか言われるのも、妙な気分だ。

名前を聞いていなかったのは、会話も無しにいきなり襲われたからだ。

別に私に苦手な距離は無いが・・・。

それでも、即座に居場所を特定された上で接近戦を強いられるとは思わなかったぞ。

 

 

昨日の敵は今日の友・・・などと言うつもりは無いが、名前ぐらい聞いても罰は当たらないだろう。

私が狙撃で仕留められなかった程の相手だ。

 

 

「私は、龍宮真名と言う」

「龍宮?」

「・・・?」

 

 

私の苗字を聞いて、その少年は軽く首を傾げた。

私の苗字に、何か気になることでもあるのか。

 

 

「・・・それで、キミの名前は?」

「ん・・・」

 

 

首を傾げつつも、その少年が自分の名を告げようとした、その時。

 

 

「いやぁ・・・素晴らしい!」

 

 

その男が、来た。

いつの間に来たのか、転移でもしたのか・・・とにかく、いた。

細い身体に、眼鏡をかけた優男。

しかし、こう言う目の色は油断ならないと、経験でわかる。

 

 

「途切れ途切れですが、貴女方の戦いの様子は見ていましたよ・・・いやいや驚いたよ驚愕したよ驚嘆したよ。見事な物だ、特に貴女・・・その年齢でその力、まさに千の賛辞に値する」

 

 

クルト・ゲーデル元老院議員。

まいったな・・・こいつが出てくる前に身を隠すつもりだったんだが。

 

 

しかし、クルト議員の登場と前後して、漆黒の鎧を纏った兵士が、私を取り囲んでいた。

強行突破は・・・難しいか。

いつの間に配置していたのか。抜け目が無いな・・・。

 

 

「お前、誰だ?」

「いえ、何。大した者ではありませんよ。貴方にとって大切な方の、大切な者でありたいと願う者です」

 

 

黒髪の少年には、友好的なようだ。

となると、私を捕らえに来たと言うことか・・・やはり、超は負けたのだな。

 

 

「さて・・・問題は貴女ですね、傭兵さん。いやいや、龍宮真名さん・・・いやいや」

「・・・」

「マナ・アルカナ・・・とお呼びした方が、よろしいでしょうか?」

「・・・!」

 

 

その名を、どこで。

クルト議員は、表面上とてもにこやかな笑顔で、私に言った。

 

 

「今宵は貴女に、とても素敵なお話を持ってきて差し上げたのですよ」

 

 

 

 

 

Side 美空

 

世界の命運とか、どうでも良い。

そう言うのは、どこかの主人公が担当してくれれば良いじゃない。

私は、そう言う重い話はパス。

 

 

「いや~、終わったみたいだね!」

「そうダナ・・・」

 

 

世界樹が見える丘の上、そこから街の方を見下ろしてみれば、屋内にいた連中も外に出て騒いでる。

この最終イベントで、いったいどれくらいのお金が動いたんだろーねー。

 

 

「私も誰かに賭けときゃ良かったかなー」

「シスターに怒らレル・・・」

「だーいじょぶだって、バレないようにするって」

「それでいつもバレて怒られるのは、ミソラ」

「ぐ・・・」

 

 

ココネの言う通り、いつも最後にはバレて、シスターシャークティーに怒られる。

でも私だけじゃなくて、ココネも一緒に怒られてくれる。

たまに、私じゃなくてココネが怒られる時もあるけど、その時は私も怒られる。

 

 

ココネと一緒に遊ん・・・修行して、シスターシャークティーに怒られる毎日。

でも・・・そんな日はもう、二度と来ない。

 

 

「シスターシャークティー、貴女のことは忘れるまで忘れません・・・! 具体的には、明日の朝7時くらいまで・・・!」

「ミ、ミソラ・・・」

「ほう、私は主の元に召されたことになっているのですか」

 

 

時間が、止まった。

・・・やだねー、空気の読めない人は、浸ってる最中なのに。

 

 

「よし、このまま明日に向かって全力でダ「美空?」正直すんませんっした!」

「まったく、貴女と言う子は・・・」

「あ、あはははー・・・」

 

 

頭を掻きつつ振り向くと、そこにはいつものシスターシャークティーがいた。

シスターシャークティーだけじゃなくて、超りん達にやられた人とかが、この丘で解放されることになってる。

少し離れた所では、弐集院先生とかが人数の確認とか、混乱の収拾とかやってる。

 

 

本当は私も手伝わなきゃなんだけど。

私が手伝うと、逆に仕事増やしそうだし、何より面倒と言うか・・・。

 

 

「美空?」

「うぃっス! 行ってきます!」

 

 

付き合いが長いからかどうだかは知らないけど、考えてることが読まれた。

これ以上ここにいるとまた怒られそうだし、とっととズラかろーっと。

いつものようにココネを肩車して、その場から走り去る。

 

 

「ちゃんと仕事するんですよ!」

「へーい!」

「へーい、ではありません! 大体貴女は・・・」

 

 

あーもー、戻って来た途端にこれだもんなー。

もう少しくらい、いなくても良かったかも・・・。

 

 

「ミソラ・・・」

「んー、何ー、ココネ?」

 

 

しばらく走った後、ココネが声をかけてきた。

 

 

「何で・・・シスターの言う通りに逃げなかったんダ・・・?」

「んー? 何言ってんのさココネ、逃げたじゃん普通に」

「教会の抜け道、使わなかっタ」

「・・・」

 

 

あの後、私は教会の抜け道から逃げなかった。

だってさ、それがどこに繋がってるかわからないし、ロボットがいないとも限らないじゃん?

だったら、自分の良く知ってる外を駆け回った方が、安全だと思うじゃん?

 

 

隣のポイントまで走って逃げれば、他の魔法先生とかがいるってわかってたわけだし。

私じゃ無理だけど、代わりに倒してくれそうな人に所にまでロボット軍団を引き連れて行けば、何とかなるかなーって思ったわけよ。

それに・・・。

 

 

「ミソラ」

「んー?」

「・・・シスターが無事で、良かったナ」

「・・・ん」

 

 

それに、私が大人しくシスターシャークティーの言うことを、聞くわけ無いじゃん。

へへ・・・お?

 

 

「超りん、どう―――って、あら? 明日菜じゃん」

「うぁっ・・・ここどこよっ! ・・・って、朝倉?」

「おーい・・・マジすか・・・」

 

 

パシッ・・・と音を立てて、見覚えのある顔が2人。

え、嘘・・・ここで出会っちゃう?

謎のシスターで押し通すかな~・・・無視とか、無理だよね?

だってあの2人・・・。

 

 

見つけ次第、拘束しろって言われてんだよねー。

面倒なタイミングで復活しないでよ、もぅ~。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「いい加減にしたまえ、ネギ君!!」

「で、でも、僕は別に、何も間違ったことはしていません!」

 

 

いや、やってるから!

・・・とツッコミたくなるのは、僕だけかなぁ?

 

 

今、僕達がいるのは、魔法使いの旧世界日本支部の施設。

それも、対魔法使い用の呪文封印処理が施された、地下30階の部屋だ。

とどのつまりは、魔法使いの犯罪者を一時的に勾留する施設なんだけど・・・。

まさか、ネギ君とここで会うことになるとは思わなかった。

 

 

「僕はただ、マギステル・マギを目指す者として、正しいことをしようとしただけです!」

 

 

それにしても、何だろう。

頭が痛くなるような話だった。

ネギ君の頭には、「自分は正しいことをした」と言う認識しか無いみたいなんだ。

 

 

魔法使いは、旧世界の人間と無用な混乱を避けるために、魔法を秘匿せねばならない。

それは、魔法学校でも最初に習うはずの、僕達の原則なんだけど。

 

 

 

ネギ君は、それを理解していない。

それに対して「なぜ」「おかしい」と言っても、何も変わらないのに。

これが普通の10歳の子供なら、問題無いのかもしれない。

誰だって、そう言う類の悩みにぶつかる時期があるんだから。

 

 

現実の汚さを嫌悪して、理想の美しさに惹かれ、苦悩する時期が。

僕にだって、あった。きっと、他の人達もそうだと思う。

 

 

「超さんは・・・他の皆はどうなったんですか!?」

「・・・超鈴音とその一味と思われる生徒達は、それぞれ別の場所に収監されている」

「し、収監って・・・なんでそんなことを!」

「今はキミの話をしているんだ!!」

 

 

ドンッ! と机を叩くガンドルフィーニ先生。

うん、正直、かなりイラついてるみたいだ。

おかげで僕は、さっきから「ま、まぁまぁ、ガンドルフィーニ先生」としか発言していない。

 

 

・・・残念ながら、ネギ君は普通の10歳じゃない。

魔法学校を「卒業」して、麻帆良と言う「社会」に教師として出てきた以上、年齢は関係ない。

 

 

「・・・学園長と高畑先生も、本国から呼び出しを受けている。おそらく超鈴音も、近く処遇が決定されるだろう・・・そしてキミも、例外ではない、ネギ君」

 

 

はぁ・・・と溜息を吐いて、ガンドルフィーニ先生は席を立った。

まぁ、かなり興奮してたし、これ以上は話しても、意味が無いのは見ればわかる。

 

 

ちなみに、高畑先生も本国に召還されることになった。

本人はこの尋問に来たがったけど・・・そう言う立場だから、クルト議員から許可が降りなかった。

 

 

「おそらく、麻帆良には二度と戻れない」

「で、でも僕、先生の仕事が・・・修行が!」

「キミの修行は、これで終わりだ・・・いくらキミがサウザンドマスターの息子でも、今回の件での擁護は難しい・・・」

 

 

特に、本国の議員に見られたのが、何よりも不味かった。

学園長(もうすぐ、元学園長になりそうだけど)でも、どうにもできないだろう。

ネギ君と、後一人のパートナーを連れて来たのが、メルディアナの特使だって言うのも、不利だ。

正式に敵勢力として文書付きで引き渡された以上、僕達も相応の対応をしなくちゃいけない。

 

 

「・・・諦めなさい。キミの生徒たちには、もう二度と会えない」

「ネギ君は10歳だし・・・それほど刑は重くならないと思うよ」

 

 

気休めだとわかっているけど、そう言わずにはいられなかった。

たとえ10歳でも、今回の件は・・・ちょっとキツい。

 

 

「ま・・・待ってくださ、僕は・・・っ」

 

 

ネギ君の声を背中に聞きながら、僕達は尋問室を出た。

呪文封印処理の施された、重厚な扉が閉ざされて、何も聞こえなくなる。

 

 

・・・嫌な仕事だ。

心から、そう思った。

 

 

 

 

 

Side ハルナ

 

「お、どこに行くアルか、ハルナ?」

「ちょっとゴメン、夕映とのどかがまだ・・・くーふぇは先に皆と後夜祭行っといて!」

 

 

途中でお手洗いに行ったのどかと、ジュースを買いに行った夕映が、戻ってこなかった。

イベントが終わって、くーふぇや皆と後夜祭に行く話になったんだけど、なんだか嫌な予感がした。

だから、ちょっと探しに・・・。

 

 

「・・・って、案外すぐに見つかったし・・・?」

 

 

最初に来た自販機コーナーで、すぐに夕映を見つけた。

でも何だか、様子が変だった。

 

 

自販機の横の壁に背中をつけて、蹲ってる。

空気が重くて・・・なんだか、近寄りがたかった。

それでも近付いて、声をかけた自分を褒めてやりたくなる。

 

 

「ゆ・・・夕映?」

「・・・」

「夕映・・・ど、どうしたの?」

 

 

膝に顔を埋めて、表情は見えない。

でも、何か呟いている気がする。

ちょっと耳を近付けて・・・。

 

 

「・・・ふ、ふふフ、フ・・・ふふ・・・」

 

 

かすかな笑い声。

正直、かなり引いたわ。親友で無かったらダッシュで逃げてる所だったかも。

 

 

「ちょ・・・夕映!? 大丈夫!?」

「ふふ、フ・・・わかっていたです、そう・・・わかっていたのです」

「な、何が? と言うか、何かあったの!?」

 

 

肩を掴んで揺さぶっても、反応が無かった。

ただ、小さな声で何かを呟くばかりで。

 

 

「こんな・・・こんな醜い私を知られたら、のどかに嫌われるであろうことなど、最初から・・・」

「の、のどか? のどかがどうしたの?」

「なら、ならもう・・・最初の意志を貫徹することを考えるべきです・・・そう、わかってたです・・・」

「ねぇ、夕映!?」

「どうすれば良いかなど、本当は最初から・・・」

「夕映!!」

 

 

大声で呼ぶと、夕映の身体がビクッ、と震えた。

やっと私に気付いたのか・・・私のことを、見た。

 

 

その目は、怖いくらいに虚ろだった。

 

 

「ど、どうしたの夕映。のどかと・・・何かあったの?」

「のどか・・・?」

 

 

夕映は、半笑いみたいな表情を作ると、明後日の方向を指差して。

 

 

「のどかは・・・行ってしまったです」

「行くって・・・どこに?」

「私達の、手の届かない所へ・・・」

「・・・?」

 

 

正直、要領を得なくて、夕映の話がわからない。

わかるのは、夕映とのどかの間に、何か決定的なことがあったってことだけ。

それも、かなり悪いことが。

 

 

「ふふふ・・・もう、私にできることは・・・一つです・・・」

「夕映・・・?」

「わかっていたです・・・助けを、救いを求めるべきが誰かなど・・・最初から・・・」

 

 

夕映の言っていることの意味が、私にはわからない。

わからないから、余計に不安になる。

この子は・・・。

 

 

「・・・たとえ、頭が契約の痛みで割れても・・・」

 

 

泣きながら笑うこの子は、大丈夫なのかって。

 

 

「失礼、念のため確認いたしますが・・・」

 

 

その時、黒服を着た「いかにも」な女の人が二人、自販機コーナーに入ってきた。

・・・あ、何か嫌な予感・・・。

 

 

「綾瀬夕映様と、早乙女ハルナ様でいらっしゃいますね?」

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

はわー・・・皆、盛り上がっとるなー。

全体イベントが終わった後、皆で外に出たら、もう後夜祭が始まっとった。

 

 

所々でキャンプファイアーしとるし・・・皆、飲んで歌って食べて騒いでの大騒ぎや。

柿崎や桜子達も、ジュース(やと信じたい)片手にハイテンションや。

まぁ、イベントの映像を見とる間もソワソワしてたし、実際に何人かは見回り中の先生に見つかって怒られたりとかしてたみたいやけど。

 

 

「え、ゆーな賭けてたの!?」

「もちのロンよ! 全財産突っ込んでやったね!」

「ぎ、ギャンブラーやなぁ・・・」

 

 

今は、世界樹広場で皆で集まっとる。

3-Aのメンバーは、半分くらいおると思う。

まき絵とかアキラとか・・・普段、あんまりお話したことは無いけど、ザジさんとかもおる。

 

 

でも、ザジさんは何故か空中を飛んどる。空中ブランコ的な物で。

キャンプファイアーの真上を飛ぶのは、やめた方がええと思うんやけど・・・。

 

 

「そして手に入れたのがコレ!4位、食券400枚!!」

「マジで!?」

「すごいな・・・」

「アリア先生、サンキュー!」

 

 

柿崎やアキラも驚いとる。

だって、400枚やもん・・・と言うかゆーな、アリア先生に賭けてたんやね。

お父さんの浮気騒動でお世話になってから、仲良くなったんは知っとったけど・・・。

 

 

・・・あ、アリア先生のこと思い出したらライブのこと思い出してしもた。

は、恥ずかしい・・・。

 

 

「ふふふふ、良いこと聞いちゃったな~ゆーな!」

「も・ち・ろ・ん、奢ってくれるんだよね?」

「超高級学食JoJo宛で焼き肉食べ放題やってるんだよー☆」

「ただし、一人食券10枚!」

「え」

 

 

瞬時に、釘宮達がゆーなを取り囲んだ。

ガッチリとホールド。ゆーなの顔が青くなった。

全員に奢ったら、400枚なんてすぐに吹っ飛んでまうもんな。

 

 

「い、いやああぁ――――っ! この食券は私のモンです――――っ!」

「いや違う! これはアリア先生と言う存在があってこその食券!」

「故に・・・私達3-Aの共有財産とすべき物!」

「おーけい?」

「んなわけ無いでしょ!? 私のお金で賭けてんだぞ―――っ!?」

「あはははは、さぁ、皆呼ぼうか?」

「やめて――――っ!?」

 

 

どうやら、この後は焼肉パーティーらしい。

ゆーなの食券に、皆が群がってるから、時間の問題やと思う。

でも、元々はゆーなのお金やから、ほどほどになー。

 

 

「大丈夫、皆、そこはわかってると思うから・・・」

「そうやとええんやけど・・・」

「だって、皆、自分のお財布持ってるから・・・」

 

 

アキラの言葉に見てみれば、確かに、ゆーなと絡んでる子以外は、自分のお財布の中身をチェックしとる。

自分の分は自分で払うつもりなんやと思う。

こう言う所は、皆のええ所やなーと思う。

うちも、お財布の中身確認しとこ・・・。

 

 

それにしても・・・。

 

 

「・・・はぁ」

 

 

あの白い髪の男の人、結局会えへんかったなー。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「さささ、素子様もいかがどす、一献!」

「いえ、あの、私は刹那さ・・・知り合いに会いに」

「ままま、そう言わんと、一杯!」

 

 

青山宗家出身のお偉いさんがおるて聞いたけど、何か、関西呪術協会の宴で皆に囲まれとった。

あんまり失礼なことすると、斬られるんやないやろか。

と言うか、あの肩にとまっとる威圧感バリバリの金色の鳥は何やね?

見た感じ、半端無く格の高そうな式神なんやけど・・・。

 

 

・・・あかん、考えんとこ。

うちは別に、関西の地位が欲しいわけや無いし。

 

 

「あはは、皆さん、楽しんでいるようですね」

「・・・長」

 

 

そこへ、長が駐麻帆良大使・・・西条はんを伴って、やって来た。

敵の特殊弾喰ろうて飛ばされた連中を迎えに来て、そのまま宴が始まったから・・・。

長も、様子を見に来たって所か。

 

 

「・・・お疲れ様どすな、長」

「千草さんも、お疲れ様です」

 

 

柔らかに微笑む長。

その姿からは、麻帆良を事実上占領した組織のトップとは見えへん。

この長、一部の戦力を防衛戦に割かずに、そのまま学園結界のポイントの占領に使いおったからな。

おかげであの通り、関西の連中は大騒ぎや。

 

 

京都の本山では、どんなお祭り騒ぎになっとることやら。

 

 

「占領政策はどうどすか」

「占領ではありませんよ、あくまでも復興支援・・・ならびに、秩序維持のお手伝いですよ」

「お手伝い、なぁ・・・」

「それに、元老院・メルディアナとの共同作業ですから」

 

 

麻帆良が意思決定に参画できひん段階で、手伝いも何も無いと思うんやけどなぁ。

まぁ、うちには関係の無い話や。

 

 

「・・・それで、長。約束のモンはどうなっとりますか?」

「ええ、コレです」

 

 

そう言って渡されたのは、一枚の書状。

中身を確認すると、そこにはうちを「メガロメセンブリア・関西呪術協会出張所・初代所長」に任命するとの通達が書かれとる。

 

 

あのクルトとか言う議員さんのサインも入っとる。

この書状が、魔法使いの国でのうちの身分証になる。

行動の自由を、保証してくれる。

いよいよ・・・親の仇を探しに行ける。

 

 

「それでは、私はこれで・・・皆さん、あまりハメを外さないでくださいね!」

 

 

長の声に、関西の連中のテンションがまたヒートアップした。

今は何言うても、意味無いやろな。

 

 

「ま・・・祭りやしな」

「千草は~ん」

「難しい話は、終わったんかー?」

 

 

聞き覚えのある声に振り向けば、そこには想像通り、月詠はんと小太郎がおった。

小太郎は、骨付きの肉を口に咥えたままやし、月詠はんは何か、顔中に土がついとった。

それを見た時、一瞬呆れて、次に苦笑してしもた。

 

 

袖から白い手拭いを出して、月詠はんの顔を拭う。

まったく・・・。

 

 

「どこに顔を突っ込んどったんや、月詠はん。それと小太郎、物食べながらウロつくんやない」

「素子はんに喧嘩売って来ました♪」

「しゃーないやん、月詠のねーちゃんがウロついて「小太郎?」・・・すんません」

 

 

うちが睨むと、小太郎は素直に謝った。

まったく、子供が大人に口答えしたらあかんて教えたやろに。

と言うか月詠はん、恐ろしいことせんといてんか。

 

 

「そ、それで、何の話やったん?」

「うん? 別に大した話やないよ。ただ、魔法使いの国に赴任することになっただけや」

「おー、それはまた、凄いどすな。千草はん」

「魔法使いの国かー。強い奴、おるかなぁ」

「・・・ついてくる気か、あんたら?」

 

 

うちとしては、このままここで学校に行って欲しい。

前々から折に触れて言うとるんやけど、こればっかりは聞いてくれへん。

学費は、うちのお給金から何とか、とか考えとったんやけど・・・。

小太郎と月詠はんは、きょとん、とした表情を浮かべると。

 

 

「うちは、千草はんと一緒に行きたいです~。だって、面白そうですもん」

「俺もや! 今さら、普通の学校とかめんどいし」

 

 

まぁ、確かに。

この2人のことを考えると、普通の学校に入れるんはな・・・。

 

 

「・・・なら、普通やない学校なら、行くんやな?」

「「へ?」」

「魔法使いの国の学校やったら、行くんやな?」

 

 

調べてみると、魔法使いの学校やったら獣人とか刀持ち歩くとかも、問題視されへんみたいなんや。

もし連れて行くなら・・・と、密かに考えとった。

何のことは無い、うちがこの2人を手放したくなかっただけや。

 

 

この2人を学校に行かせて、学持たせて、いっぱしの職に就けたる。

それが、うちのもう一つの使命やと思う。

 

 

「ま、マジか・・・向こうの学校かー・・・」

「人、斬れます?」

「嫌や言うんやったら、連れて行かへんで」

「む、むー、しゃーないな、面倒やけど・・・」

「なぁなぁ、人、斬れますー?」

「ん、良し。月詠はん、まずはその思考を何とかしよな・・・・・・あー、それでや」

「「?」」

 

 

あー・・・とか言いながら、言葉を探す。

いざ、改めてってなると・・・なんや、気恥ずかしいな。

少し、怖いし。勘違いやったらどうしよて思うし。

 

 

「あー・・・あんたらの立場やけど・・・」

「「立場?」」

「ほら、今のあんたら、うちが身元引受人になっとるだけやけど、その・・・」

 

 

身元引受人は、言葉の通り、ただ身柄を預かるだけの人間や。

でも、それを何と言うか。

向こうでは、関西式の身元引受は効果が無いもんやから・・・。

 

 

一応、練習したんやけど、いざとなると、どうも・・・。

2人が訝しげにうちを見る中、うちは、しばらくしてから意を決して、言うた。

それは全然、洗練されてへん言葉やった。

 

 

「う・・・うちのか、家族、に・・・ならへん、か・・・?」

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「げ」

 

 

私がネギとそのパートナーの子の引渡しを終えて、ドネットさんの執務室に行った時、私は思わずそんな声を出した。

はしたないと感じる以上に、感情の方が勝ったみたい。

 

 

イベント中、ドネットさんからの通信で、援軍と言うか、増員を呼んだ、みたいな話はあったけど・・・。

 

 

「よりにもよって、バカート呼ぶとか・・・」

「あ、おいそこの爆裂娘! 今の発言を公式議事録に記録して抗議すんぞコラ!」

「うっさいわね! あんたの顔見れば10人中10人が同じ反応するわよ!」

「貴方達、相変わらず仲が良いのね・・・」

 

 

ドネットさんが、私達を見て微笑ましそうな顔をしているけど。

こいつと私の仲は、とどのつまりシスコンと反シスコンの立場よ。

馴れ合いなんて、絶対しないわ!

 

 

「まぁ、おふざけはいいわ・・・ドネットさん、その後どうなりましたか?」

「そうね・・・ロバートを含めた箒部隊の到着が、ギリギリ間に合ったから・・・何とか、発言権を維持できそうよ。今後の麻帆良運営にも、意見できるわ」

「へへ・・・」

「なんでバカートが照れているのかしら・・・?」

「一応、そう言う話で進んでいるんだけど・・・他に何か、聞きたいことはあるかしら?」

 

 

ドネットさんの言葉に、その場にいた私、バカート、そしてエミリーが手を上げた。

ほぼ同時に、発言する。

 

 

「アリアと・・・ネギは、どうなりますか?」

「妹の彼氏ブッ転がして良いスか!?」

「兄の処刑はいつでしょうか!」

 

 

・・・私以外、真面目な質問が無い気が。

それでもエミリーのは、まだ良いとして。バカートのは、完璧に私事じゃない!

 

 

「エミリーの兄・・・アルベールについては、本国への移送が決まったわ。ウェールズの牢獄は、一度脱走されているから・・・本国のオコジョ収容所行きになりそうよ」

「そうですか・・・」

「エミリー・・・」

 

 

俯いて、身体を震わせるエミリー。

そのまま、グッ・・・と拳、と言うか前足を上げる。

・・・兄の投獄に悲しんでいる、と言うことにしておきましょう。

 

 

「あと、ヘレンの彼氏だけど・・・もしミスター・カストゥールのことを言っているなら、勘違いだと思うわよ? 彼、故郷に親の決めた婚約者がいるもの」

「へ・・・いや! 二股野郎かもしれねぇ、シオンの分析によると・・・!」

「あんた、まだシオンと続いてたんだ・・・」

 

 

私の脳裏に、キラッ・・・と、眼鏡を指で押し上げるシオンの顔が浮かんだ。

あの子、こんなバカのどこが良かったんだろ・・・。

 

 

「それで、ネギ君は・・・残念だけど、本国に召還・・・いえ、護送されるわ。悪くすると、パートナーの女生徒と一緒に・・・」

「そう・・・ですか」

 

 

あの宮崎とか言う子は、ある意味被害者だから・・・。

できれば、記憶封印くらいで何とかしたいんだけど。

 

 

でも、今回は本当にヤバい事件だったから、無理かもしれない。

ネギのしたことは、それ程のことだったから。

 

 

「それで、アリアは・・・?」

「アリアは・・・そうね。今さらだけど・・・本当に」

 

 

ドネットさんは、そこで数瞬、瞑目すると。

 

 

「彼女が望む通りの道を、歩ませてあげたいと思う」

「でも、アリアは・・・」

「そう・・・そうね。完全に自由にはできないかもしれない。今回のことで、アリアは自分の価値を高めてしまった・・・」

 

 

生まれが、違えば。

そう思ってしまうくらい、アリアを取り巻く状況は厳しい。

それは、私にもわかる。

 

 

ネギがこうなった以上・・・きっと、なおさら。

なおさら、アリアは・・・。

 

 

「それでも、私達は・・・できる限りの選択肢を。アリアが、あの子が、自分の人生を歩めるように」

 

 

ドネットさんが、悲しそうに笑った。

バカ・・・ロバートも、珍しく難しい顔をしてる。

 

 

私は、どんな顔をしているんだろう?

 

 

 

 

 

Side 超

 

自分と言う存在が、少しずつ希薄になっていくのを感じるネ。

時間切れ・・・と言う物が、もしあるのだとすれば。

もう少しだけ、待って欲しいと願うのは、欲深だろうカ?

 

 

気が付くと、カードも魔法具も取り上げられ、身体を拘束されて。

私は、どこかの部屋に入れられているようネ。

目隠しされているからわからないガ、牢屋にしては座り心地の良い椅子ネ。

 

 

「ふふ・・・まぁ、こんな結果だろうとは、思っていたヨ・・・」

 

 

その時、扉が開く音がしたネ。

そのまま、誰かが近付いてくる足音。

さて、尋問官か拷問官カ・・・。

 

 

などと悲観的な考えを持っていると、突然、目隠しが取られたネ。

急に戻った視界。眩しげに目を細める。

そこにいたのは・・・。

 

 

「・・・アリア先生?」

「・・・まだ、私を先生と呼んでくれるのですね」

 

 

アリア先生が、目の前にいた。

しかも、ここは・・・。

 

 

「学園長室?」

 

 

麻帆良学園の、学園長室だったネ。

私は、学園長の椅子に座らされていたようネ。

どうりで、座り心地が良いと思ったヨ。

両腕は、後ろ手に拘束されているようだガ。

 

 

「・・・座り心地は、いかがですか?」

「皮肉カ?」

 

 

私が勝てば、確かにここに座っているのは私だったかもしれない。

まぁ、「貴女の生徒」の将来を危険に晒した私に、今さら優しくしてくれるとは思わなかったガ。

扉の向こうには、人の気配もする。警備兵カ?

まぁ、関係無いネ。

 

 

「それで・・・敗残の身に何のようネ? 言っておくが、いかなる司法取引にも応じる気は無いネ」

「でしょうね・・・その「身体」では」

「・・・気付いていたカ」

「ええ・・・視えていますから」

 

 

そう、ダナ。

アリア先生には、視えているだろう。

私の、消え行く身体ガ。

 

 

歴史へ、過去へ干渉した代償なのカ。

あるいは私の願いの一部が叶い、「私が存在しない未来」が確定したのカ。

わからないガ・・・良い兆候だと、信じたい。

私の行動にも、意味はあったと信じたい。

 

 

「なら・・・なおさら、何の用ネ。私の最期でも見に来たカ?」

「自虐的ですね・・・」

 

 

私の態度に、アリア先生は、かすかに苦笑した。

 

 

「・・・何か、誰かに、言い残しておきたいことでもあるかと、思いまして」

「・・・言い残すコト・・・カ」

「ええ、わざわざ未来から来て・・・何をしたかったのか、聞いても無駄でしょうし。それならば、教師として・・・2年間を共にした誰かに、何かを伝えておきたいなら、聞いておこうかと」

「相変わらず、職務に忠実だネ・・・」

「性分なので」

 

 

過去も未来も、変わらないネ。

自分の「役割」に、忠実な所は・・・。

 

 

言い残すコト、カ・・・。

大体は、事を起こす前に別れは告げてきたガ。

そう、ネ・・・。

 

「クラスの皆には、土産をありがとう、楽しかったト」

「わかりました」

「龍宮サンに・・・世話になったト。報酬はすでに例の口座に振り込んであるト」

「わかりました」

「五月に・・・超包子を頼むト。全て任せるト」

「わかりました」

「ハカセに・・・未来技術(オーバーテクノロジー)については、打ち合わせ通りにト」

「わかりました」

「茶々丸には・・・お前はもう、自立した個体だ。好きに生きろト・・・」

「・・・ありがとう」

「・・・?」

 

 

茶々丸の件で、アリア先生にお礼を言われたネ。

首を傾げていると、アリア先生はかすかに微笑んで。

 

 

「茶々丸さんに出会わせてくれて、ありがとうございます。それだけは、お礼を言いたかった」

「・・・!」

「・・・他に、何かあれば・・・」

 

 

ああ・・・その微笑み。

胸に、滲みるヨ。

 

 

「・・・エヴァンジェリンに、すまなかった、ト」

「ええ、わかりました」

「・・・古に・・・」

 

 

わずかな時間、目を閉じる。

瞼の裏には、古の笑顔。

・・・古、ありがとう、友達でいてくれて。

きっと、もう、二度と出会えないけれど。

 

 

「・・・また、手合わせするネ、ト、伝えて・・・」

「・・・わかりました。一応聞きますが、ネギ達には、何か?」

「何も無いネ」

 

 

ネギ坊主達に言い残すことは、何も無い。

アリア先生は一つ頷くと、他にはないかと、聞いてきた。

それに対しても、無いと答えた。

アリア先生は、そうですか、と答えて・・・私に背を向けた。

 

 

私は、それを視線だけで追いながら・・・椅子に深く身を沈めた。

これで・・・この時代、この世界に思い残すことは無い。

元の場所に帰るのか、それとも別の場所に還るのかはわからないガ、これで・・・。

 

 

「・・・本当に?」

 

 

私は、自分でも無意識の内に、小さな声で疑問の言葉を呟いていたネ。

自分で・・・驚いたガ、しかしそれは、正鵠を射ている気がしたネ。

 

 

本当に、これでお前は満足カ?

何か、言っておくべきでは無いのカ?

それでこそ、お前は何かを為したことになるのでは無いカ・・・。

内なる声が、自分に囁いた。

 

 

その衝動のままに、私は、遠ざかっていくアリア先生の背中に、叫んだ。

身を乗り出して、何と言うつもりだ? 決まっている!

 

 

「茶々丸の!」

 

 

茶々丸、その名前に、扉の直前で、アリア先生が立ち止まった。

 

 

「茶々丸のブラックボックスの中に・・・貴女が必要としている物があるネ」

「・・・私が、とは?」

「・・・ウェールズの村人の石化を解くための鍵」

 

 

私の言葉に、アリア先生が勢い良く振り向いた。

その顔は、驚きで満ちていた。

 

 

「貴女が今、開発している解除方法は・・・効果が無い。いや、あるにはあるガ・・・人間には扱えない術式になるはずネ。それを解決するための支援魔導機械(デバイス)の設計図を、茶々丸のブラックボックスに入れてあるネ」

「そ、れは・・・」

「そしてそのブラックボックスを安全に開くための方法は、古に渡してある私の退学届に書いてあるヨ」

 

 

一言紡ぐごとに、身体が痛む。

ああ、やはり。

これが、歴史を変えると言うことカ。

だが、ここまで来て途中で終われないヨ。

 

 

「そして、それを完成させるためには・・・ハカセの協力が必要ネ。良いカ・・・ハカセの協力が、だヨ?」

「・・・超さん、貴女・・・」

「アリア・スプリングフィールド!」

 

 

力を振り絞って、叫ぶ。

私がここに来た意味を、問いただすように。

 

 

「お前は今日、私を倒すために、いくつの魔法具を使った!?」

「・・・」

「今のまま、魔法具に頼り続ければ・・・いつか、後悔する日が来るヨ!!」

「・・・それは、どう言う意味ですか」

「・・・」

 

 

今度は、私が沈黙する番ネ。

これ以上は、言えない。ここまでが、ギリギリ。

伝えすぎれば、逆にそれが不味い事態を引き起こすかもしれないから。

だから、自分で気付いて欲しい。

 

 

・・・アリア先生。

家族と言う小集団の中で満足していては、いつかより大きな集団に潰されるヨ。

世界から、自分の境遇から逃げないで欲しい。

 

 

父と母の残した負の遺産を煩わしいと切り捨て、今ある物だけを守ろうとする貴女。

シンシアのことを聞かないのは、何故だ?

村の人々の仇が誰かを問い正さないのは、何故だ?

そこに、貴女の歪みの源泉があるのでは無いカ!?

 

 

言葉にはせず・・・ただ、黙して、視線に全てを込める。

お願い、伝わって。気付いて。

お願い・・・!

 

 

「・・・」

 

 

そのまま、どれくらい、見つめ合っていただろうカ。

しばらく経って・・・疲れた私は、再び、椅子に身を沈めた。

限界、だった。

 

 

目を閉じて、深く息を吐く。身体が重い。

とても、眠かったネ。

とても・・・。

と・・・。

 

 

・・・ど・・・リア・・・師・・・幸・・・に・・・。

あ・・・。

 

 

・・・。

 

 

 

 

 

Side エヴァ

 

「あの・・・マスター」

「なんだ、茶々丸」

 

 

茶々丸に酌をさせながら、後夜祭の様子を見つめていた。

場所は、超を捕らえたあの時計塔だ。

正直、事後処理とかは面倒だったから、全部押し付けた。

 

 

つい・・・とお猪口を突き出すと、茶々丸がそれに酒を注ぐ。

銘柄は、『美少女』。

 

 

「私も、超の仲間です・・・しかし、ハカセ達と違って拘束されていないのですが・・・」

「うん?」

「あの、良いのでしょうか・・・?」

「さぁな」

 

 

超に協力した者の中で、茶々丸だけは捕縛されていない。

理由は、いくつかある。

例えば、茶々丸は自動人形で、自分の意思で協力したわけでは無いから、とか。

超やハカセが、茶々丸は無関係だと証言したから、とか。

 

 

そして何より、表に出ていない茶々丸を超の仲間だと断定する証拠が無い。

ネット上で茶々丸を負かせたのは「ぼかろ」だが・・・。

その「ぼかろ」を操っていた誰かが、不明だ。

 

 

「ぼーや達が何か騒ぐかもしれんが・・・どれほど信頼性があるかな」

「マスター・・・」

「お前が自首をしたいと言うのならば、あえて止めん。だが、それは超やハカセが望むことでは無いとも、言っておくぞ」

「・・・私は、どうすれば良いのでしょうか・・・?」

「さぁな・・・自分で考えて、決めるが良い」

 

 

私の本音を言えば、自首などくだらんと言いたいがな。

そんな物、面白くも無い。

 

 

だが私がそれを言えば、「命令」として、茶々丸は受け取ってしまうだろう。

それではきっと、意味が無い。

自分で判断し、自分で決断するべきことだ。

特に茶々丸は、他の姉共とは違う部分があるからな。

魔法を動力としているからかな・・・。

 

 

「ケケケ・・・マルデオヤダナ」

「やかましい・・・途中から役に立たんかったくせに」

「イヤイヤ、ゴシュジンノシラネートコデカツヤクシテタンダヨ」

「なんだ、それは・・・」

 

 

茶々丸の頭の上に乗っているチャチャゼロが、ケラケラと笑う。

まぁ、良いさ。

それに、今回の超との戦いは、私にとっても一つの可能性を提示したしな・・・。

 

 

さらに言えば・・・。

 

 

「あの白髪のガキは、絶対に許さん・・・!」

「マァ、ソウイウナヨ、トーサン」

「バカが・・・そんなおふざけの話では無いわ」

 

 

何が目的か知らんが、アリアに近寄るあの男。

所属不明、だが、実力は最強クラス・・・。

警戒するなと言う方が、無理だ。

 

 

だが、どうもチャチャゼロはあの男が気に入ったらしい。

と言うか、こいつ、自前の魔力を持っているような・・・?

 

 

「・・・茶々丸、酒だ」

「はい、マスター」

 

 

美味いが、酔えない酒を飲みながら・・・。

私は、今後のことを考え始めた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

このお祭り騒ぎの中で、一人になれる空間を探すと言うのは、難しいですね。

結局、麻帆良の街並みを見下ろせる、小さな噴水広場のベンチに落ち着きました。

ベンチに深く腰掛けて、地面に届かない足を、ブラブラと揺らします。

まるで、子供みたいに。

 

 

・・・超さんが、行きました。

眠るように、光に包まれて。

未来へ帰ったのか、それとも別の場所に還ったのか、私にはわかりません。

他の方々・・・クルトおじ様やドネットさん達には、事情を説明してあります。

 

 

主犯が未来人・・・などと公表できるはずも無いので、主犯格が変わるかもしれませんね。

ネギにとっては、責任を押し付ける相手がいなくなって、不幸なことですね。

 

 

「・・・超さん」

 

 

結局、何をしに過去へ来たのか、わかりません。

懐から、一枚のパクティオーカードを取り出します。

私のでは無く、超さんのカード。

表には、瞳を紅く輝かせた、幼い超さんが描かれています。

 

 

・・・このカードは、「死んで」います。

そして超さんが消えたにも関わらず、このカードだけは残っています。

魔法具も全て、消えたと言うのに。

そしてカードが「死ぬ」以前に、裏面のマスターの名前を見ました。

 

 

「・・・あの、名前・・・」

 

 

表記されていた名は、<Aria Anastasia Enthophysia>。

―――アリア・アナスタシア・エンテオフュシア―――。

 

 

・・・まさかと、思いたかった。

そんなはずは無いと、思いたかった。

私の名前であるはずは、無いと。

 

 

でも、私はそのカードを捨てることができない・・・。

破棄することが、できない。

未来の、私は・・・?

 

 

「・・・悲しいの?」

 

 

ざぁ・・・と、風が吹く中で。

白い髪の少年が、私の前に立っていました。

 

 

「キミは今・・・悲しんでいるの?」

「・・・生徒と別れるのは、初めての経験ですから」

 

 

深く息を吐いて、私は彼に・・・フェイトさんに、そう告げました。

そう・・・生徒と別れるのは、初めてだった。

それが例え、敵であったとしても。

それに、最後の言葉は・・・。

 

 

「・・・エヴァさんとは、どうでしたか?」

「問答無用で殴られたよ。3回くらい死んだんじゃないかな」

「あはは・・・」

「キミを連れて行くのは、まだ無理なようだ」

 

 

わかりませんよ、フェイトさん。

今、強引に私の手を引けば、案外簡単に・・・なんてね。

 

 

「・・・悲しいの?」

「・・・どうしたんですか、いつもと違うじゃありませんか」

「・・・」

「もしかして、私を慰めようとでもしているのですか・・・?」

「わからない、ただ・・・」

 

 

フェイトさんは、無表情のままです。

ただ、その中に・・・形容しがたい何かを、見た気がします。

それで・・・。

 

 

―――チクリ―――

 

 

「・・・?」

「・・・どうしたの?」

「いえ、今・・・」

 

 

左眼に、軽く触れます。

今、何か・・・懐かしい感覚が。

 

 

その時、左手を誰かに掴まれました。

もちろん、フェイトさんです。

掴まれる、と言うよりも、優しく触れる・・・と言ったレベルですが。

彼は、私の左手を持ったまま、ベンチの側に膝をついて・・・。

 

 

「・・・今は、ダメです。今、貴方について行けば・・・逃げたことになりますから・・・」

「・・・そう」

「あ、膝枕・・・します? なんて・・・」

「魅力的な提案だけど・・・またにするよ」

 

 

私を静かに見つめながら、フェイトが言いました。

す・・・と、目を細めて。

 

 

「いずれ、全部まとめて貰うことにしよう」

「あ・・・」

「キミの、全てを」

 

 

かすかに、触れ合う手に込められた力が、強くなりました。

その手を、ささやかな力で握り返します。

私も・・・いつか、貴方の全てを奪いに行く。

そんな気持ちを込めて・・・。

 

 

触れ合っていたのは短い時間でしたが、それで十分でした。

刹那の間、私はこの世界で背負う物、背負うであろう物のことを忘れることができました。

我侭なようですが・・・私は、忘却の一瞬を欲していたから。

 

 

その時間が終わった後、閉じていた目を開けば、そこには誰もいませんでした。

フェイトさんも、行ってしまいましたか・・・。

残されたのは、私の腕のブレスレットだけ。

 

 

「・・・王女殿下」

 

 

しばらく経った後、傍に現れたのは、跪く黒髪の女性。

ジョリィさん。

 

 

「クルト様以下、連合軍首脳部が今後の対応を協議したいとのこと。僭越ながら、ご足労願えますでしょうか」

「・・・そうですか」

 

 

囁くように答えて、私は立ち上がりました。

未来で私がどうなったのかは知りませんが。

とりあえずは、明日のために。

 

 

「・・・ですが、まずはエヴァさん・・・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと話をしてきます。彼女は私の主です。彼女の許可無く、公式の場にでるつもりはありません」

「・・・は、しかし」

「私は、エヴァさんの従者で・・・教師です。王女では、ありません!」

 

 

吐き捨てるように、そう言いました。

無意識に・・・いえ、意識してのことです。

私は、エヴァさんの家族。それが第一におかれるべき、私の立場です。

第二に、3-Aの可愛い生徒達の、先生です。

 

 

それ以外の立場なんて、嫌です。

王女なんて・・・。

 

 

ジョリィさんは、そんな私を静かに見つめながら・・・。

 

 

仰せのままに(イエス・ユア・)、王女殿下(ハイネス)」

 

 

あくまでも、私を王女と呼びました。

 

 

 

姉様・・・シンシア姉様、私は、どうすれば良いのでしょう。

どうすれば、良かったのでしょう。

 

 

 

アリアは、望まぬ内に・・・世界に、組み込まれているような気がします。

 

 

 

 

 

<おまけ―――――ちび達の冒険⑤・人間なんて>

 

「虚しいもんですぅ」

「そんなもんやて、人間なんて」

「哀しいですねー・・・」

 

 

戦争は、終わった。

人間達は、ロボット軍団を屈服させ・・・勝利に酔っている。

 

 

しかしここに、その余韻に浸れぬ者達がいた。

それは、人間ではない。

 

 

「人間なんてなぁ、そんなもんなんよ。勝つことばっかり考えて、使ったら後はポイや」

「でもでも、なんだか可哀想です」

「ちびせっちゃんは、優しいなぁ」

「え、えへへ・・・」

「・・・イチャつくなですぅ」

 

 

ちびこのかとちびせつなの仲睦まじさに、ゲンナリした表情を浮かべるちびアリア。

戦争に巻き込まれないために身を潜めている間中、ちびこのかとちびせつなはイチャイチャ・・・。

何度戦場に蹴り出してやろうかと、ちびアリアは思った物である。

 

 

それにしても、とちびアリアは思う。

人間と言うのは、度し難い。

なぜ、あんなにも楽しい物を燃やしてしまうのだろう。

 

 

「「「キャンプファイアーって・・・」」」

 

 

事もあろうに、人間達は、お祭りで使用した物を燃やしているのだ。

有り得ない、ちび達は心からそう思った。

毎日がお祭りでも、良いじゃない。

本気で、そう思った。

 

 

物質主義と消費主義に反対を唱えたくなる光景だった。

彼女達は本気で、遊ぶことしか考えていなかったようである。

・・・彼女達の役目は、なんだっただろうか。

今となっては、誰も思い出せない。

 

 

「まったく、実にけしからんですぅ」

「肯定致シマス」

「おお、お前もわかってくれるかですぅ」

「肯定致シマス」

「おぅおぅ、イエスマンは大好きですぅ」

「・・・あのー、ちびアリアさんは誰とお話してるんでしょー?」

「ふぇ? そんなの・・・」

 

 

ちびアリアが振り向いた先には、奇妙な物があった。

多脚戦車と言う物をご存知だろうか。

アレを、大型犬クラスにまで小さくした物を想像してほしい。

 

 

ちびアリアの横にいたのは、そう言う類の・・・。

ロボットだった。

 

 

「な、ななな何ですお前はぁぁ!?」

「機体番号T-ANB-e3デス」

「えっと・・・つまり?」

「・・・タナベさん、かなぁ?」

「肯定致シマス」

 

 

タナベさんと呼ばれたそのロボットは、喜ばしく返事をした。

・・・ような、気がした。

 




茶々丸:
茶々丸です。ようこそいらっしゃいました。
今回は、最終決戦後のお話です。
戦後処理のお話であると同時に、アリア先生や我々に、新たな道を提示するものでもあったように思います。


今回作中に出た「美少女」と言うお酒は、霊華@アカガミ様提供です。
ありがとうございます。


茶々丸:
次回は、学園祭の後始末、のようなお話です。
これで、名実共に学園祭編が終わることになるでしょう。
そして、新たな場所へ・・・。
私は、それを一番お傍で、見守りたいと思います。
では、またお越しくださいませ(ぺこり)。

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