魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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今回のお話を読む前に、いくつかご注意を。
・この話は、「とある妹」の「超鈴音」のためのエンディングです。
・作中、「100年後の魔法世界」についての独自描写があります。
・前半は、アリアのバッドエンド的描写があり、場面によっては気分を害するような描写が含まれている可能性があります。そういった表現がお嫌いな方は、最後の部分まで読み飛ばすことをお勧めいたします。
・後半部分は、「超鈴音」にとってのトゥルーエンドになっていますが、本編で同じ未来に到達するかは、確定していません。
あくまでも、私が私の描く「超鈴音」のために用意した、エンディングです。

それをご了承いただいた上で、どうぞ。



番外編④「超鈴音」

その少女が生まれた時代は、戦乱の時代だった。

それまであって当然だった世界が崩れ、人々に破局と破壊をまき散らした大災害から、100年程経った時代。

魔法世界―――火星の人類と、旧世界―――地球人類の、生き残りを賭けた戦争の時代である。

 

 

そんな時代に生を受けたその少女は、生まれながらに魔法が使えなかった。

魔力は強大だったが、体質なのか、あるいは精霊との間に何らかの齟齬があるのか―――。

とにかく、魔法の才能が無かった。

これが、普通の家の出身であったのならば、まだ生きる道もあった。

 

 

だが、少女は「英雄の血」を引く一族の人間だった。

少女の一族は、100年前の災害において、生き残りの魔法世界人類を導き、救った英雄・・・ネギ・スプリングフィールドの血を引く一族だった。

その一族において、「魔法が使えない」など、あってはならない物だった。

・・・そして、加えて言えば、少女の家において。

 

 

精霊の加護を得られないと言うのは、特に禁忌とされていた。

世界を崩壊に導いた<魔眼の魔女>が、精霊に忌み嫌われた、唾棄すべき存在だったからである。

 

 

少女は、昏い地下に幽閉される事になった―――。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

Side 超

 

「・・・別に今更、こんな記憶に用は無いんだがネ」

 

 

何も無い、漆黒の空間の中で・・・。

私は、そう呟いた。

浮いているのだか、沈んでいるのだかわからない空間に、私はいた。

軍用強化スーツを着たままの姿。「あの場」から消えた時のままの姿。

 

 

そんな中で、目の前で展開される記憶の欠片・・・。

・・・走馬灯、と言う奴カナ?

 

 

バタフライ効果だかタイムパラドックスだか、航時法違反だかは知らないガ・・・。

どうも、まだ私の意識は消失していないらしい。

いったい誰の、どんな種類の意志で持って、私の意識が維持されているのかはわからないガ。

 

 

「旧世界入植領ならともかく、魔法世界崩壊に伴い、火星では精霊の数は激減していたカラ・・・」

 

 

魔法世界にしつこく本拠を置く我が家では、魔法の素養が無い子供が生まれても、仕方が無いと思うんだがネ。

それとも、これも一種の先祖の怨念カナ。

わざわざ家訓として、「魔法の才能が無い子供は捨てろ」みたいな条項を伝えているような家だからネ。

 

 

それ程に、アリア先生が嫌いだったカ・・・ネギ坊主?

ネギ坊主が開祖とされるスプリングフィールド王家は、魔法至上主義の家だからネ。

過去の時代を見て来た私には、そうとしか思えない。

そんな家で、私のような精霊と対話できない子供は、さぞ怖かっただろうネ。

 

 

「魔眼は、持っていないガ・・・アーティファクトがアレだからネ」

 

 

まぁ、良いネ。

どうせ暇ヨ・・・つまらない人生だとは思うガ、改めて見るのも悪くない。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

当時は、戦争の時代だ。

人口で旧世界に対し、圧倒的に劣る火星側は、兵士の質で上回る必要があった。

魔法使いであっても、物量には勝てないからである。

 

 

だからこそ、強力な兵士の存在が不可欠であった。

しかし、強力な兵士を育成するには、時間がかかる物である。

訓練と教育、そして休養とケアが必要であった。しかし時間は有限であり、資源も不足している。

そこで、火星側がとった方法は・・・。

 

 

 

人体実験による、強力な魔法使いの創造である。

 

 

 

無論、倫理的な面で反対する者もいた。

だが、「勝てなければ意味が無い、理想や倫理で食っていけるか」と言う考えが支配的な時代である。

社会の裏で、身寄りのない、例えいなくなっても誰も困らない子供に対し、実験の手が伸びるまでそう時間はかからなかった。

 

 

「・・・ぅ・・・」

 

 

昏い地下に幽閉されていたその少女も、例外では無かった。

むしろ魔力が強大だったが故に、格好の実験材料であったことだろう。

精霊を使役できない異端の子供であった点も、この場合は不利であったはずだ。

 

 

「・・・う・・・っく、ぇ・・・」

 

 

実験を施された後は、また別の場所に閉じ込められた。

精霊を強制的に従わせ、無理矢理に魔法を行使させる呪紋を全身に刻まれた少女は、血が止まらない傷口と、そこから絶え間なく襲ってくる痛みに、毎夜のように涙を流していた。

声を上げないのは、誰にも聞こえないとわかっているからだ。

 

 

泣けば助けに来てくれる母親は、ここにはいないのだから。

粗末な食事と、冷たい石畳の上で・・・ただ、涙を流すことしかできない。

膝を抱えて・・・涙が枯れるまで。

鉄の扉が一つあるだけの、光すら無い、広い空間の中で・・・。

 

 

「そんな所でしゃがんでいると・・・危ないですよ」

 

 

ビクッ・・・。

声。

不意にかけられた声に、少女は身体を震わせた。

 

 

「・・・だ、だれ・・・?」

 

 

怯えた声を返して、少女は恐る恐る、周囲を探した。

薄暗く、明かりも無いので・・・目を凝らして、探す。

誰かがいるなんて、思わなかった。

 

 

「ああ・・・薬の副作用か、幻聴かと思っていたのですが・・・」

 

 

ぽぅ・・・と、まるで幽霊のように、暗がりの中に浮かび上がってきた、女性。

それは、少女にとって・・・「白い女神」として、記憶されることになる。

 

 

雪のように白く、身長の倍はあるであろう、長い髪。

そして、それに劣らぬ程に白い肌に、痩せこけた身体。粗末な白い衣服。

あまりにも「白い」その姿の中で、隅々まで文字の描かれた黒い眼帯と、手足を壁に繋ぐ枷が、妙に印象的だった。

年齢は・・・20歳前後だろうか。明らかに成長阻害を起こしていそうな状態なので、見た目ではわからない。

 

 

「・・・この部屋に、貴女のような子供が、何故・・・?」

 

 

見えないはずの目で、その女性は少女を見た。

それが、怖くて・・・少女は、また身体を震わせた。

 

 

「ああ・・・怖がらせて、しまいましたか・・・?」

「う・・・」

「・・・いけませんね・・・これでは、先生失格です、ね・・・」

 

 

はぁ・・・と、息を吐いて、女性は壁にもたれかかった。

どうやら、話すだけで、かなりの力を使うようである。

よく見れば、彼女の姿を暗闇の中で照らしているのは、彼女の下に描かれた魔法陣から漏れる光だった。

 

 

「・・・こちらへ・・・」

「え・・・」

「そこは・・・寒いでしょう、から・・・」

 

 

チャリ・・・と、鎖の音を響かせながら、少女を手招く。

しばらく悩んだ末に・・・少女は少しずつ、這うようにして女性の傍へ。

身体の痛みに耐えながら、時間をかけて、少女は女性の下に到達する。

 

 

女性は、口元にかすかな笑みを浮かべると、片手で少女の頭を撫でた。

少女は、ビクッ・・・と、身体を震わせる。

女性は、そのまま・・・少女の頭を自身の胸に押し当て・・・軽く、抱き締めるようにした。

 

 

「・・・っ」

「・・・少しは、マシになるかと・・・思うので」

 

 

我慢してくださいね、と、女性は言った。

少女は、女性の行動と、その身体の肉付きの無さに驚きつつも・・・。

いつしか、涙を流していた。

誰かの温もりは、とても懐かしい物だったから。

 

 

「・・・っく、ひっ・・・うぇぇ・・・!」

「ああ・・・水分は、大事に・・・しないと・・・」

 

 

女性は、知っていた。

ここには、水と食料は数日に一度、しかも僅かな量しか運ばれてこないのだ。

だから涙を流して、水分を消費するのは・・・避けなければならない。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

Side 超

 

「・・・後で知ったことだガ・・・」

 

 

誰に説明するでも無く、私は呟いたネ。

 

 

「あの部屋は、人体実験の成功体・・・まぁ、生き残りが押し込められる所だったようネ。そこになぜ、あの人が幽閉されていたかは、私にもわからないガ・・・」

 

 

特に私は、かなり初期の実験の被験体だったようだから・・・。

一万人に一人しか成功しない実験の、ネ。

 

 

私以外に、この呪紋の実験に耐えた子供はいなかったらしい。

もし、それが血に宿る才能のせいだとするのなら、まさに皮肉ネ。

嬉しくも無いネ。

 

 

「それにしても・・・」

 

 

溜息交じりに、呟く。

この走馬灯、いつまで続くのカ?

いい加減、自分の記憶を見るのも、ウンザリしてきたんだがネ。

 

 

目の前には、未だ私の記憶が流れ続けている。

まるで、映画のように。

不幸自慢の趣味は無いから、いい加減にして欲しいのだガ?

 

 

家族から捨てられ、人体実験の材料に使われた少女。

まぁ、私のことネ。

当時は、超鈴音とは名乗っていなかったガ・・・。

あの人には、「リン」と呼ばれていたヨ。

鈴の音のような可愛らしい声だから、「リン」・・・気恥かしい理由だヨ。

 

 

そして、地下深くに幽閉された、白い女性。

・・・アリア先生。

私が出会った時には、アリア・アナスタシア・エンテオフュシアと言う名前だったガ。

<魔眼の魔女>などと、呼ばれていた・・・。

 

 

私の、女神。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

その女性―――アリアは、少女―――リンにとって、次第に大きな存在になっていった。

長く続く幽閉生活の中では、同じ境遇のその女性は、リンにとって、唯一の救いでもあったからだ。

 

 

アリアは普段、眠っていることが多い。

それはどうも、本人の意思には関係なく、そうなるようで・・・リンと話せるのは、一日の中でほんの僅かな時間だけだった。

それでも、リンにとっては貴重な時間だった。

 

 

実験の痛みと、孤独と寒さ、飢えと渇きに苛まれる時間の中で、アリアの存在は。

リンにとって、「救い」その物だったのだから。

だが・・・。

 

 

「・・・う・・・」

「ど、どうした・・・の?」

 

 

リンが幽閉されてから、しばらくが経った、ある日。

アリアが、苦しげに呻き始めた。

腹部を押さえ、蹲って・・・身体を、震わせている。

よく見れば、下腹部から血が流れていて・・・リンは、どうすれば良いのかわからず、オロオロするばかりだった。

 

 

その時、普段は人の来ないその部屋に、誰かが来た。

鉄の扉の向こうで、複数の人間の声や気配が。

とっさに、助けを求めようとしたリンの腕を、アリアが掴んだ。

 

 

「え・・・?」

「扉の、横に・・・開いた陰に、隠れて・・・」

「え、え・・・でも」

「早く・・・!」

 

 

ドンッ・・・と押されて、わけもわからぬままに、リンは言われた通りに、移動した。

リンが扉の横に立った、まさにその時。

ガタンッ・・・と、扉が開き、リンはその陰に隠れることができた。

 

 

そして、その陰から・・・覗く。

何が、起こるのかを。

 

 

入ってきたのは、数人の人間だった。

たまに食事を持ってくる人間とは、違う。

暗がりなので、どんな顔かはわからない。

 

 

リンが混乱する中で・・・その人間達は、苦しげに呻くアリアの頭を掴むと、その場に引き倒した。

手足を押さえ付けて、首を掴み、左胸に何かを突き刺した。

リンも、実験を受けていた時に何度か刺された―――あれは、注射器だった。

何かの薬品が流し込まれ、アリアの身体がのけぞった。

その後、アリアの下腹部に向けて、何かの刃物のような物を――――。

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

―――――ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル―――――

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

Side 超

 

カシャァンッ・・・と、音を立てて。

その映像は途切れたネ。

 

 

理由は、2つ。

あの直後、初めて呪紋の力を使った私が、あの人間達を皆殺しにしたから。

その時の記憶は、今も良く思い出せないネ。

 

 

もう一つの理由は、映像その物に、私が殴りかかったからネ。

殴りかかったと言うか、引き裂いたと言うか・・・。

可能だったことに、驚きだヨ。

 

 

「それにしても・・・良い趣味とは言えないネ」

 

 

私の記憶の中では、確かに重要な場面だったとは言える。

私があの人と、仮契約した時の記憶でもあるのだから。

 

 

『痛い? ここが・・・痛い? 痛い、の・・・?』

『いえ・・・痛みとかは無いんです。それより・・・』

 

 

再び浮かび上がる映像の中で、幼い私がアリア先生に縋りついていたネ。

周囲には、私が殺した人間達の血と肉が、飛び散っていたヨ。

アリア先生が、開きっぱなしだった扉を指差して。

 

 

『・・・逃げなさい』

『え・・・い、一緒、に・・・』

『私は、ここを出ると死んじゃいますので・・・』

 

 

これも後で知った話だが・・・アリア先生は、薬品と特殊な術法によって、無理矢理生かされていたらしい。

魔法具と・・・そして、優秀な魔法使いの基となる、卵子の提供者として。

あの人間達は、寿命を延ばす秘術をかけに来たのと、同時に生きたまま卵子を身体から摘・・・。

・・・反吐が出る話だヨ。

 

 

あの後、一緒にいるとゴネる私を外に行かせるために、アリア先生は私と仮契約をした。

カードが生きている限り、私は無事だから・・・と。

いつか、助けに来てくれればそれで良い、と。

当時の私には、アリア先生を生きたまま救う術が無かった。

 

 

だから、一人で・・・逃げるしかなかった。

いつか必ず・・・そう自分に言い聞かせて。

 

 

「・・・まぁ、外に出た所で、力尽きたんだがネ・・・」

 

 

地下から脱し、呪紋の力で必死に駆けて・・・。

途中で奪った転送石で、どこかの街に飛んで・・・。

彷徨う中で、力尽きて。

 

 

『なんだ、この小娘、生き倒れか・・・・・・な!? このカードの名前・・・茶々丸!』

『イエス・マスター』

 

 

エヴァンジェリン・・・師匠(マスター)と出会えたのは、奇跡に近い確率だったヨ。

出会えなければ・・・私は、野垂れ死んでいただろうネ。

師匠(マスター)達は、アリア先生を取り戻すために旅を続けていた。

100年間、戦い続けていた。

 

 

ただ、どこにいるのかが掴めなくて・・・本人達も、賞金首だったからネ。

国・・・世界全てを敵に回している状況では、容易に見つけられなかった。

加えて、アリア先生の家族を守らなければならなかった。

100年前、アリア先生は自分の子供を人質に取られて、捕らわれた。

 

 

師匠(マスター)達は、100年間の戦いの中で、アリア先生の子供の救出には成功していたネ。

それからは・・・守りながらの戦いで、2人では限界だった。

旧世界に仲間はいたガ・・・そちらの防衛で、精一杯だったようネ。

アリア先生の居場所を、必死で・・・探していたネ。

だから、カードを持つ私の存在は、大きかったはずネ・・・。

 

 

「まぁ、そこから映画にして3部作くらいの戦いを経て・・・ようやく、アリア先生の居所を掴めたんだがネ」

 

 

転送石の分析から始まり、師匠(マスター)のしごき。

茶々丸に科学について学び、加えて私が作ったロボットだと説明を受けた。

話を聞いて、師匠(マスター)のしごきが半端ないレベルだったのには、私的な理由があるに違いないと確信したネ。

今なら、理由もわかる気がするガ。

 

 

タイムパラドックス・・・茶々丸を私が作ったと言う歴史があるのであれば、その通りにしてやろう。

そして、アリア先生を、あんな目にあわせないで済むように行動しよう・・・と、心に決めて。

私は、過去に飛んだ。

 

 

「・・・その選択を、後悔したことは無いヨ」

 

 

私の時代でも、最終的にはアリア先生の救出には、成功したガ。

だが、その頃にはすでに、アリア先生の精神(こころ)も身体も、限界で・・・。

 

 

「誰が、どんな意図で、こんな記憶を見せるのかは知らないガ」

 

 

キンッ・・・と、目の前に輝くのは、アリア先生との契約カード。

このカードに誓って、私は・・・。

過去に飛び、たとえ消滅したとしても。

一度だって、後悔などしたことは、無かった!

 

 

同じ選択肢を提示されたとしても。

もう一度、同じ状況に置かれる事があったとしても。

たとえ、何度その選択を迫られようとも。

必ず。

 

 

「必ず同じ道を選ぶ!!」

 

 

同じ選択を、し続ける・・・!

 

 

「わかったカ、これを見せている、何者かヨ!」

 

 

私は、生きたいように生きた!

それに対して・・・誰にも、文句は言わせない!

言わせて、なるものカ・・・!

 

 

だから―――――。

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

―――――そして、せかいはうまれかわります―――――

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

「・・・っ!?」

 

 

カクンッ・・・と、その少女は、乗せていたテーブルから肘が外れて、身体が落ちかけたことで目を覚ました。

どうやら、うたた寝をしていたらしい。

それは、良いのだが・・・。

その少女―――超鈴音は、自分の置かれている状況を一瞬、把握できなかった。

 

 

何か、長い夢を見ていたような・・・。

 

 

身に着けているのは、軍用の強化スーツでは無い。

白を基調とした、ゆったりとしたドレスだ。

どことなく、中華風な気がしないでも無い。

側にあった手鏡を見れば、そこに映るのは自分の顔。

ただし、シニョンでは無く、髪は下ろしている。

艶やかな黒髪が、腰まで伸びている。洒落た髪飾りなど、身に着けて。

 

 

次いで、自分のいる部屋を確認する。

石造りの部屋だ。

ただし、寒くも無いし、暗くも無い。

それどころか、調度品はどれも一級品で、部屋の間取りもやたらに広い。

一目見ただけで、部屋の主は上流階級の出身だとわかる。

 

 

「・・・カシオペア?」

 

 

目の前に、円柱型のガラスケースの中に入った懐中時計。

間違いない、カシオペアだ。なぜか、随分と古ぼけているが・・・。

 

 

「ここは・・・どこカ? 地獄にしては、随分と・・・」

 

 

座っていた椅子から離れて、部屋の外へ。

石造りの、やたらに広い廊下。

まるで、宮殿のような・・・。

 

 

「・・・まさか、ネ」

 

 

呟いて、しばらく歩いてみる。

すると、外を一望できる、広いテラスに出た。

そこから見えたのは・・・。

 

 

「ここは・・・どこかの都市、カ?」

 

 

そこに広がっていたのは、広大な都市。

どうやら、空中に浮いているのか・・・雲海が、やけに近い。

空には不思議な形をした船らしき物が飛行し、遠目に見える市民と思しき人々の中には、どうも人間らしくない姿をした者もいるようだ。

 

 

超の知識の中で、この景色と符合する都市は少ない。

何より、空気中に満ちた、活動的な精霊達。

精霊と対話できない超でさえ、はっきりと感じることができる程だ。

 

 

・・・まさか。

その気持ちが、超の中で強くなり始めた、その時。

 

 

「あ―――――っ!!」

「ひぇっ!?」

 

 

突然、背後から大きな声。

その声量に、超は思わず妙な声を出してしまった。

 

 

「こんな所にいた――――っ!!」

「な、何? 何アルカ?」

 

 

突然の事態に、思わず親友(くー)の口調になってしまう程だった。

慌てて、声のする方に振り向いてみれば・・・。

 

 

そこには、小さな女の子がいた。

腰まで伸びた金色の髪に、オッドアイの瞳。

瞳の色は、左眼がエメラルドグリーン、右眼がサファイアブルー。

身に着けているのは、襟や袖にニードルレースをあしらった、フェミニンな白いシルキーワンピース。

装飾は少なめだが、フリルで縁取りしたケープが、とても可愛らしい。

 

 

「ちゃおちゃお~!」

「ち、ちゃおちゃお?」

 

 

にぱっ、と笑ったその女の子は、超の身体に抱きついてきた。

超の胸に顔を埋めて、スリスリと頬を擦り付ける。

随分と懐かれている様だが・・・超には、心当たりが無かった。

 

 

10歳くらいだろうか・・・?

髪と瞳の色が異なるが、それ以外のパーツが。

年齢と、背格好、そして顔の造りなどが、超の記憶のある人物と、ダブる。

彼女は・・・。

 

 

「アリア、先生・・・?」

「ありあ?」

 

 

その少女は、きょとん、とした表情を浮かべた後、不思議そうに首を傾げた。

それから、「う~ん?」と可愛らしく考え込んで。

何かを思いついたのか、「あっ」と声を上げて。

 

 

「この間、エヴァンジェリンのばーやがお話してた、ご先祖さまのこと?」

 

 

エヴァンジェリンのばーや。

いや、それ以上に重要なのは。

超にとって重要なのは、「ご先祖さま」の方だ。

まさか・・・。

超の心が、ザワついた。

 

 

「ご・・・ご先祖、さま・・・とは?」

「あー、ちゃおちゃお知らないんだ~」

 

 

転がるように笑いながら、女の子は言った。

 

 

「ダメだよー? ご先祖さまを知らないと・・・えーと、たたられちゃうんだよ!」

「そ、そうなのカ?」

「そーだよ! ご先祖さまのことを知らないと、茶々丸も苺ゼリー作ってくれないんだよ!」

 

 

両手を振り上げて、事の重要性を伝えようとする女の子。

実に、コロコロと表情が変わる子供である。

超は、ごくり、と唾を飲み込むと、震える手を女の子の肩に置いて、目線を合わせると。

 

 

「名前を・・・」

「んー?」

「貴女の名前を、教えてくれないカ・・・?」

「えー? ちゃおちゃお、お昼寝し過ぎたの? ポヤポヤなの?」

「そうなのヨ・・・長い夢を、見ていたからネ・・・」

「ふーん?」

 

 

逸る気持ちを押さえて、超は言った。

女の子は、不思議そうな顔をしていたが、怪しんでいる様子は無かった。

ただ、純粋な笑顔を浮かべて、言った。

 

 

「フェリアだよ!」

 

 

フェリア。

その名前を、超は自分の胸に刻みつけた。

 

 

「ふぇり・・・あ・・・?」

「うん、フェリアだよ。思い出したー?」

「・・・・・・ああ、ああ・・・・・・!」

「ふみゅっ」

 

 

頷きながら、超は女の子・・・フェリアを、ぎゅっと抱き締めた。

フェリアは、苦しそうな声を上げるが、超は腕の力を緩めなかった。

 

 

その名前を聞いた瞬間、超の頭の中に、これまでの「歴史」に関する知識が流れ込んできた。

この世界、この時代の自分が何者なのか。

自分が抱き締めているのが誰で・・・過去において出会った人々が、どのような道を歩んだのか。

その全てを、超は理解した。

 

 

「みゅみゅ・・・ちゃおちゃお、苦しーよぅ!」

「ああ、すまないネ・・・すまな・・・っ」

「・・・ちゃおちゃお?」

 

 

ぎゅ・・・と、ただ、抱き締めた。

超は、自分の行動の「結果」を、噛み締めていた。

自分の憧れた白い女神(アリア)には、もう二度と会えないけれど。

それでも・・・。

 

 

「ちゃおちゃお、泣いてるの・・・?」

「ああ、あ、あああぁぁ・・・!」

「お、お腹痛いの? 泣かないで、泣かないでー・・・」

 

 

さわさわと、小さな手が頭を撫でるのを感じながら。

それでも超は、ただ、抱き締めていた。

 

 

「ちゃおちゃお、泣かないでー・・・」

「ああ、ああ・・・フェリア、泣いていな・・・っ・・・!」

 

 

そして柱の陰から、金色の髪の少女と、緑の髪の自動人形が、その様子を見ていた。

ただ・・・見つめていた。

 




超鈴音:
ニィハオ、超ネ。
今回は、私の物語の、いわばプロローグと、エピローグだったネ。
どこの誰が用意したかは知らないガ、随分と面倒なことをしたネ。
おそらく、よほどのことが無い限り本編に再登場することは無いネ。
少々寂しいガ・・・仕方が無いネ。
私は、そもそもあの時代の人間では無いのだから。
私はこれから、この時代で生きて行くことになるネ。

だが、本編でアリア先生が、前半のような目に合うか、あるいはそれ以外の可能性を生み、後半のフェリアのような存在を生むか・・・。
それはまだ、わからないネ。
けれど・・・私は、信じているヨ。

それでは、再見 (また会う日まで)!

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