魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第75話「祭りの後・前編」

Side クルト

 

学生の皆さんは振り替え休日と言うことで、今頃は思い思いの時間を過ごしておられるのでしょうが。

我々大人は、まさに休日にこそ忙しいのですよ。

 

 

イベントで壊れた麻帆良各所の修繕と一部の違反者の記憶改竄、ならびに関係者の拘束と処分、同時に功労者への慰労と一時支給金その他の支給。

それに関係する本国への報告、加えて精霊式超高速通信による関係官僚・議員との緊急討議。

そして、拘束した首謀者とその関係者の、処断。

 

 

「だと言うのに・・・何が悲しくて貴様の陳情など聞かねばならないのか」

『クルト、僕は真剣に話しているんだ』

「そうですか、私は貴様の話など、碌に聞いていないがね」

 

 

目の前には、秘匿通信で私にかけてきている、タカミチの顔が。

話の内容など、説明するまでも無いでしょう。

ネギ君を含めた関係者の助命嘆願、とでも言いましょうか。

だが・・・遅いな。

 

 

「残念だがタカミチ、本国はこの件について、すでに処分を決している」

 

 

本会議にすらならない、小委員会での略式討議で即決。

ネギ君以外については、私に一任。

まぁ、彼らにとっては、ネギ君以外のことは知りませんし、どうでも良いと考えたのでしょうけど。

いやぁ、今まで従順な犬の振りをしてきた成果が、こんな所で出てくるとは。

信頼されるって、大事ですよねぇ?

 

 

「ああ、そうだタカミチ。貴様に一つだけ感謝しておかねばならないな」

『・・・感謝?』

「ああ・・・神楽坂明日菜とか言う少女のことだ」

 

 

いや、「黄昏の姫御子」アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアと呼んだ方が良いのでしょうか?

彼女の情報は、タカミチと彼の師ガトウによって、巧妙に隠されていた。

紅き翼も、役に立つことがあるのですね。

 

 

本国の老害共も、まさか旧世界の島国で堂々と、しかも自分達の管轄する魔法学校の一つに、姫御子がいるとは思いもしなかったようですからね。

 

 

「おかげで、彼女をどうするか・・・私の思うがままだ」

『クルト、もし明日菜君に何かするのなら・・・』

「おいおい、タカミチ。貴様は私に、お願いしている立場だろう? そんな態度で良いのか、ん?」

 

 

画面の向こうで、タカミチの顔が歪む。

もちろん私は、涼しい顔をしていますよ?

まさか、口元を歪めて笑っていたりなど、しませんとも。

私は、至極善良な男なのですから。ただし、相手によりますがね。

 

 

そして実際、彼女は邪魔なのですよ。

神楽坂明日菜でもアスナ姫でも何でも良いですが。

・・・ウェスペルタティアの王位継承の可能性を、僅かでも持っている以上。

今の私にとっては、非常に邪魔な存在です。

世界を守るためにも・・・ね。

 

 

「それにネギ君と仮契約するのは良くて、私が利用するのはダメだなんて・・・随分と身勝手なことを言うじゃないか、タカミチ」

『それは・・・』

「何・・・悪いようにはしないさ。命までは取るつもりは無い」

 

 

アリカ様も、アスナ姫に関しては負い目を感じていた節もありますし。

そこを考慮に入れて、処分を決さねばなりませんね。

 

 

「手足を切断し、舌を切り取って・・・誰にも気付かれない場所で、幽閉する・・・ああ、冗談だよタカミチ、だからそんな目をするな」

『・・・クルト、お願いだ。明日菜君を』

「断る。改めて言うがなタカミチ、私は貴様ら紅き翼が、大嫌いなんだよ」

 

 

そう言って、私は通信を切った。

・・・ふぅ、我ながら感情的になってしまいましたね。

さて、それでは・・・レッツ癒しタイム。

 

 

「我が麗しの王女殿下に、会いに行くとしましょうか」

 

 

 

 

 

Side 真名

 

ち・・・何だか、あのクルトとか言う男が楽しそうにしている気がする。

そのせいか知らないが、餡蜜を食べ進める手も加速しようと言う物だ。

 

 

―――食べ過ぎるのは、良くありませんよ―――

 

「わかっているよ、四葉・・・おかわり」

 

 

私は今、四葉と共に超包子にいる。

なぜ私が拘束されていないかと言うと、クルト議員との間で司法取引が成立したからだ。

 

 

―――そんなに、報酬を取り上げられたのが嫌だったんですか―――

 

「人聞きの悪いことを言わないでくれないか四葉・・・あの眼鏡いつか撃ち殺す」

 

―――いつものクールぶりはどこに行ったんですか―――

 

「しばらくは、タダ働きだよ・・・あのコートいつか血に染めてくれる」

 

 

コト・・・と、新しく目の前に置かれた餡蜜を、すかさず食べ始める。

あの夜、クルト議員は私に、「貴女を雇いたい、もちろん無料で」と言ったのだ。

平和的商談と言いつつ、兵力を嵩に無言の圧力をかけてくるあの姿勢。

評価はできるが、好きにはなれない。

 

 

私自身がやられる側なので、なおさらだ。

「イエス」以外の回答が、あろうはずも無い。

 

 

「見ていろあの変態・・・必要経費の金額で度肝を抜かせてやる」

 

―――あんまり、無理はしないでくださいね―――

 

「・・・む、上手い。流石だな四葉」

 

―――ありがとうございます―――

 

 

はぐ・・・と、餡蜜を口に入れた所で、ふと気付いた。

私はともかく、四葉は何故、拘束されていなんだ?

 

 

司法取引もしていないだろうし、材料も無いだろう。

早い段階から超の計画を知っていたと言うこともあるし、何より超との付き合いも長い。

一般人とは言え、普通は拘束されてもおかしくは無いのだが。

 

 

―――?―――

 

 

じ・・・と見つめると、四葉は首を傾げながらも、ニコ、と微笑んだ。

見る者全てを安心させる笑顔だ。

こんな人間を、捕まえようと考える者はいないだろう。

最も、私達は誰も、「四葉が計画に関与している」などと証言しなかったが。

超も、それを望むだろうからな。

 

 

四葉のような人間は、知らぬ内に色々な人間に助けられたりするのだろう。

これも、人徳と言うのだろうか。

 

 

―――そう言えば、次のお仕事は何なんですか―――

 

「ただの護衛任務だよ」

 

 

まぁ、他にもいろいろとあるが。

一番は、「アリア先生を守ること」。

まぁ・・・あの人が相手なら、専属契約も悪くは無いさ。

 

 

無償だが。

・・・ち、いつか本当に狙撃してやる。

 

 

 

 

 

Side 刀子

 

ネギ先生以外の敵構成員として捕縛されたのは、麻帆良の女子中学生ばかり。

必然的に、女性教諭が担当することになります。男性がやると、色々と問題なので。

 

 

他にも、シャークティー先生やアリア先生が、手分けして尋問を行います。

特にアリア先生は、生徒の事情にも通じている様ですし・・・。

 

 

一人目は、早乙女ハルナさん。

超鈴音の協力者と言うわけではなく、単純に魔法を知っている、と言う生徒。

どうも、ネギ先生が喋ってしまった様なのですが。

・・・なぜ、ここまでの事態になるまで、私達は気付けなかったのでしょうか・・・。

 

 

「それを、他の生徒に話したりは?」

「いやぁ、まさか。言ったって誰も信じてくれませんよ」

 

 

取り調べを受けいていると言うのに、あっけらかんとしている、早乙女さん。

彼女は、罪を犯したわけではありませんので、何とも・・・。

 

 

「ところで、魔法のアイテムが貰える仮契約は、どうすればできるんですか?」

「仮契約は、そんなに簡単にできる物ではありませんよ」

 

 

普通、そんなポンポンとする物ではありません。

特に男女間で行う場合には、良く考えてしなければなりません。

将来がかかっている場合が、ほとんどですからね。

将来・・・ふふ、私はしたことありませんけどね。

まぁ、ピチピチの女子中学生には、わからないでしょうけど。

 

 

ただ、早乙女さんは意外そうな顔で。

 

 

「そうなんだ・・・でも、ネギ君は簡単にできるみたいに言ってましたけど?」

「・・・は?」

「だから私も、ちょちょいと仮契約して、魔法のアイテム♪ とか、思ってたんですけど」

 

 

その後も、早乙女さんは「魔法のアイテム欲しい」と、言い続けてました。

あ、頭が・・・。

これは、生徒に問題があるのか、それともネギ先生に問題があるのか・・・。

ああ・・・両方ですか。

 

 

2人目は、宮崎のどかさん。

ネギ先生と仮契約をしている、パートナーだとか。

・・・さっき私、簡単にする物じゃないと言ったばかり・・・。

 

 

「ネギ先生は、悪く無いんです」

 

 

・・・また、頭が痛くなるようなことを・・・。

 

 

「ネギ先生は、優しい人です。今回の事だって、何かきっと、理由があるはずなんです」

「理由については知りませんが、残念ながらネギ先生は現在、犯罪者として収監中です」

「そんな!?」

 

 

・・・そんな、とか言われても。

ネギ先生の罪状は、片手では数え切れない程なので、収監されて当然だと思いますが。

 

 

「まぁ、良いです。とりあえず、貴女の話・・・」

「ネギ先生を、助けてください!!」

「いや、ですから・・・」

「ネギ先生が、ネギ先生は・・・アリア先生は!? アリア先生はどうしてネギ先生を助けてくれないんですか!?」

「いいから、落ち着い・・・」

「どうして、皆・・・ネギ先生を、誤解するんですか!? ネギ先生はただ」

「いい加減にしなさいっ!!」

 

 

野太刀があれば抜いているだろうと思える程に、私は苛立っていました。

ネギ先生ネギ先生と、他に言うことは無いんですか!?

貴女自身が、罪に問われようとしているのですよ?

 

 

「だって、ネギ先生だけが悪いみたいな、そんな言い方っ・・・!」

「なら、誰が悪いと?」

「アリア先生がネギ先生に、もっと優しくしてくれていれば、魔法具だって、貸してあげれば、それで良いのに。アリア先生がネギ先生を酷く扱うから、だから」

 

 

ぱぁんっ!

 

 

「・・・っ」

「・・・痛くしました。堪忍してくださいね」

 

 

打たれた頬を押さえて、宮崎さんが私を睨みます。

ですが・・・。

 

 

「個人的な理由で申し訳ありませんが、私はアリア先生に一度、命を救われています。アリア先生にそのつもりは無かったでしょうが・・・あの、悪魔襲撃事件の時に」

「・・・」

「貴女も、彼女に救われた一人でしょうに・・・」

「・・・う」

 

 

ううぅ・・・と、宮崎さんは、泣き始めてしまいました。

はぁ・・・嫌な仕事です。

 

 

 

 

 

Side シャークティー

 

最初の生徒は、朝倉和美と言う、2日目の武道会と言うイベントにおいて超鈴音の手伝いをしていたと言う生徒。

その他、超鈴音のアジトに残されていた映像などの証拠があります。

 

 

「えっと、何も知りませんでしたー、とか、無理ですか?」

「アリア先生に代わってもらいましょうか?」

「はい、すみません。もう、ふざけません。マジでごめんなさい・・・」

 

 

アリア先生の名前に、当初無関係を決め込もうとしていたらしい朝倉さんは、急に態度を改めました。

「たぶん、これで行けると思います」と聞いていましたが・・・。

・・・何か、トラウマでも刺激されたかのような怯え様だけど。

 

 

「なぜ、超鈴音の協力者になったのですか?」

「ネタになりそうかなー・・・と」

「・・・他には?」

「いや、特には・・・」

 

 

頭が、痛い・・・。

これだけの数の生徒に魔法の存在が知られていることにも驚きですが・・・。

その資質に問題が多すぎると感じるのは、私だけでしょうか?

 

 

・・・ああ、美空のクラスメートでしたね。

なら、こんな物でしょうか。

 

 

「最後に、ネギ先生はなぜ超鈴音と?」

「え? いや・・・詳しくは知りませんけど、指輪とか、魔法のアイテム貰って喜んでた・・・かな?」

「魔法のアイテム・・・?」

 

 

2人目は、神楽坂明日菜さん。

この方も、非常に難しい生徒です。

ネギ先生と仮契約をしている、と言う面もありますが・・・。

 

 

高畑先生によれば、事前に超側の動きを知らせてくれた、いわゆる内部告発者。

ですが面倒なことに、そのことを知るのは当の高畑先生と、学園長・・・「元」学園長のみです。

そしてこの2人は、現在本国から召還を受けている身。

その証言には、説得力が無く・・・せめて現場の私達にも、言っておいてくれれば・・・。

 

 

神楽坂さん自身も、超と交戦した、と言う類の証言を行っていて・・・。

心情的にはともかく、法的には私達にも、どうすることもできない。

 

 

「最後に・・・なぜネギ先生は、このような暴挙に出たと思いますか?」

「それは・・・えっと、あいつが子供だったと言うか、超さんに騙されて・・・」

 

 

騙された部分が見えないのは、なぜでしょうか。

おそらく、上手く口車に乗せられたのでしょう。

 

 

「それから・・・」

 

 

どこか言いにくそうに、神楽坂さん。

 

 

「・・・超さんの魔法具が、欲しかったんじゃないかな・・・」

「・・・物に釣られた、と言うことですか?」

「ま、まぁ、そう・・・かな?」

「・・・愚かな事を」

 

 

溜息混じりに呟くと、神楽坂さんは、むっとした表情で何か言いたげでしたが、飲み込んだようです。

その代わりに。

 

 

「あいつ・・・ネギは、どうなるの?」

「・・・修行は、停止することになると思います。場合によっては・・・収容所行きかと」

「しゅっ・・・そんな、まだ10歳なのに!」

「10歳でも法を犯せば裁かれます。そんなこともわからないのですか?」

「で、でも・・・でもっ」

 

 

思わず、こめかみに指を当てました。

・・・頭が痛い話です。

しかし、これも主の与えたもうた試練。

 

 

根気強く、頑張って行きましょう

美空の教育に比べれば、まだ何とか・・・。

 

 

しかし、マジックアイテムへの言及が多いですね。

そのあたりに、何か原因があるのでしょうか。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「・・・ごめんなさい・・・」

「あんたが謝ったって、どうにもならんよ」

「それは、そうなのだけど・・・」

 

 

ドネットはんとうちは、今回の件で敵側に回った生徒の尋問の様子を見とる。

3つある尋問の部屋は、それぞれ分厚い壁で覆われとるんやけど・・・うちらがおるこの部屋は、3つの部屋の中間点に位置していて、ここからだけは、中の様子が見えるんや。

 

 

まぁ、とにかく・・・。

ドネットはん的には、何か思う所があったらしい。

急に顔を押さえて、謝り始めた。

 

 

「まぁ、あのぼーやは、そっちの卒業生やからな・・・」

「・・・飛び級制度、無くなるかもしれないわね」

「まさか、あのぼーや1人のために・・・」

 

 

無いとは言えへんのは、恐ろしい所やな。

関西で学ぶ子弟かて、もう少しマシやで。

小太郎とか月詠はん・・・月詠は、怪しいけどな。

 

 

「・・・ま、それに尋問とか言うても・・・結果は決まっとるしな、もう」

 

 

この尋問は、あくまでも事実確認が主や。

麻帆良・・・と言うより、クルト議員の説明やと、すでに処分がほぼ決まっとるそうやから。

 

 

朝倉和美、早乙女ハルナ、綾瀬夕映は、記憶改竄の上、1年間の保護観察処分。

宮崎のどかは、仮契約破棄の上で本国護送、半年間のオコジョ刑。

宮崎はんは、中学の卒業式の翌日に麻帆良に帰される予定や。

加えて、3年間の保護観察期間。

神楽坂明日菜も、仮契約破棄の上で、本国護送。

内部告発者なんやから、もう少し刑を減じてもええと思うんやけど・・・まぁ、お上のやることやから?

それに、具体的な刑はわからんし・・・。

 

 

ぼーや・・・ネギはんは、本国護送の上、裁判を受けることになる。

オコジョ刑100年ですかね☆・・・て、クルト議員は言うとったけど。

 

 

「・・・ま、うちには関係無い話やな」

 

 

その時、部屋の扉がコンコン、とノックされた。

入ってきたのは、糸目の優男・・・瀬流彦とか言うたかな、魔法先生やった。

 

 

「失礼します。そろそろ、明日のことで会議があるとか・・・」

「ああ、さよか・・・じゃあ、行こかな」

「ええ・・・」

 

 

明日、メルディアナとクルト議員の部隊は、ネギはんらを連れて引き上げる。

・・・関西の連中は、朝まで飲んでたから、フラフラやけどな。

うちは、メルディアナの連中とくっついて、英国に行く。

ゲートとか言う所を通って、西洋魔法使いの国へ行くんや。

その前に、メルディアナで陰陽術の授業開設のための仕事せなあかんけどな。

 

 

ドネットはんは、不意にアリアはんの方を見た。

何か、言っておきたいことでもあるんかな・・・。

 

 

『お願いです、のどかを助けて・・・っ!!』

 

 

その時、そのアリアはんの部屋で、騒ぎになっとるみたいやった。

な、何や?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「お願い、おねがっ・・・のどかを助けて、助けてください・・・!」

 

 

目の前で、伏して私に頼み込む綾瀬さん。

尋問も何も無く、ただ、縋り付いてくる綾瀬さんを見て、私が思ったのは一つです。

任された仕事が、遅れてしまいます。

 

 

正直、愉快なことではありません。

まだ後がつかえているのですし、スムーズに済ませたいのですが。

 

 

「・・・お願いされても、私には何もできませんよ」

 

 

淡々と、事実だけを述べます。

綾瀬さんは、かなり痛むのでしょう、頭を押さえながら・・・それでも、椅子に座る私の服の裾を掴んで、同じことを言い続けます。

 

 

宮崎さんを、助けて欲しいと。

 

 

「宮崎さんを助けたいなら、これまでいくらでも、何度でも機会はありました」

「でも、でも・・・!」

「私も、そう言ったはずです」

「でも・・・!」

「この結末は・・・貴女が自分で選んだ物です。私は知りませんよ」

「でも・・・教えてくれなかったではないですか!!」

 

 

痛みを振り払うように、綾瀬さんが叫びました。

 

 

「何が危険で、何がいけないのか、一切の説明をせずにただ一方的にダメと言うだけで、何も説明してはくれなかったではありませんか!!」

「その上で、踏み込むと決めたのでしょう」

「きちんと説明されれば、私だって、のどかはっ・・・ネギ先生が好きで!」

「知っています」

「ならっ・・・ネギ先生が好きなのどかが、ネギ先生の役に立とうと、超さんの側に行ってしまうのは、仕方が無いではありませんか!!」

 

 

だから、酌量しろと?

罪とは知らなかったから、恋心ゆえだから許せと?

バカなことを、言わないでください。

 

 

「アリア先生にだって、責任はあります!!」

「はぁ?」

「ネギ先生は、アリア先生の魔法具が欲しかった・・・だから、それをくれる超さんについたです。ネギ先生さえ、超さんの側に行かなければ・・・アリア先生さえ、もっとネギ先生と対話していれば!」

 

 

私はまだ、ネギに譲歩しなければならなかったのですか。

ネギに魔法具を与えれば、今回の件は起こらなかったと。

 

 

「では綾瀬さんは、私の魔法具が無ければ、今回のことは起こらなかったとでも?」

「そうです!」

 

 

はっきりと、綾瀬さんは答えました。

 

 

「貴女のせいだ、貴女の・・・アナタノ!!」

 

 

誰かに。

ここまでの気持ちをぶつけられるのは、久しぶりでした。

それも、これ程の負の感情を。

 

 

私のせいで、私の魔法具のせいで、宮崎さんや綾瀬さんが、道を誤ったと?

それが、私のせい?

でも、私がいなければ、どうなっていただろう。

何か、変わって・・・。

 

 

「ストップだ、アリア君」

 

 

ふ・・・と、綾瀬さんの目に手をかざして、眠りの魔法を使ったのは・・・。

 

 

「・・・瀬流彦先生」

「あはは、余計なことだったかな?」

「いえ・・・」

 

 

瀬流彦先生は軽く笑うと、綾瀬さんを抱き上げました。

そのまま、どこかへと運んで行きます。

 

 

「次の子で最後だから、それまで休憩しておいてよ」

「あ、はい・・・」

 

 

瀬流彦先生が部屋を出て行くのと入れ替わりに、ドネットさんと千草さんが入ってきました。

ドネットさんは私の傍へ、千草さんは、扉にもたれかかるようにして。

 

 

 

 

 

Side ドネット

 

何と言えば良いのか、わからない。

目の前のアリアは、思っていたよりも、ずっと小さな子供で。

私が、私達が背負わせてしまっている物の重みで、潰れそうになっているように見えてしまって。

 

 

・・・私の、思い込みかもしれないけれど。

 

 

「・・・ねぇ、ドネットさん」

「何かしら?」

 

 

アリアは、さっきの女の子が運ばれて行った方を見つめながら、どこか、儚げな笑みを浮かべて。

 

 

「・・・私のせいなのだそうです」

「それは・・・それは、違うわ。貴女のせいじゃない」

 

 

今回の事件は超鈴音が計画したことであって、アリアが計画したわけではないわ。

アリアには、責任は無い。

あれは、言い方は悪くなるけど・・・あの綾瀬夕映と言う子の、八つ当たりでしかない。

 

 

「でも、私の魔法具が、もしかしたら、一般人の人生を・・・」

「ああ、それはあるかもなぁ、極論やけど」

 

 

天崎と言う関西の大使が、不意にそう言った。

彼女は、懐から一冊のノートのような物を取り出した。

不思議な魔力を感じるけど・・・。

 

 

「こないに便利な物があったら、そりゃあ欲しくなるやろな」

「でも・・・それは使う側の問題であって、結局は当事者の問題よ」

「それはその通りや、ドネットはん・・・けどな」

 

 

天崎さんは、す・・・と目を細めると。

 

 

「世の中にはな、奪ってでも欲しいて言う輩もおるんよ。うちかてそうや。もし二年前に知っとったら、力尽くで欲したやろな・・・今は、そうでも無いけど」

「・・・千草さん」

「これ、返すわ。便利やったで、ありがとうな」

 

 

取り出したノートを、アリアに渡した天崎さん。

アリアは、少し戸惑いながらも・・・それを受け取った。

 

 

「うちには、友達は確かに少ないかもしれんけど」

「・・・いえ、あれはそんなつもりで言ったわけではなく」

「・・・家族が、おるからな」

 

 

だから、これはいらない。

そう言った千草さんの顔は、とても優しげだった。

同時に、誇らしげでもあった。

 

 

強い女性だと、そう思った。

私は、天崎さんのことが、羨ましくなった。

 

 

「さて、家に帰って引越しの準備や・・・子供らの、夕餉も作ったらなあかんしな」

 

 

そう言って、天崎さんは部屋から出て行った。

仕事を済ませに言ったのだろう。

私も、行かなくては。

 

 

「それじゃあ、アリア・・・その」

「あ、はい・・・また、ウェールズで」

 

 

ふわり・・・と、アリアは学生時代から変わらない笑顔を向けてくれる。

でも、私にこの笑顔を見る資格があるのだろうか?

アリアはきっと、「資格って何ですか」と言って、笑うのでしょうけれど。

 

 

この笑顔を曇らせないために、まずは。

まずは、足元(メルディアナ)の掃除から。

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

このような形で会うことになろうとは、思いませんでした、お義父さん。

心の中でそう言って、私はその場に立っていた。

 

 

「・・・婿殿、いや、詠春殿・・・」

「なんでしょう、関東魔法協会・前理事殿?」

 

 

今、この学園長室(学園長の地位にはあるらしい)には、私、お義父さん、そしてタカミチ君がいる。

おそらくは、クルト君に拒絶されたために、私を頼って来ているのだろうが。

 

 

残念ながら、どうすることもできない。

と言うより、手を出してもメリットが無い。

組織としても、個人としても。

私は、クルト君やメルディアナと組むことの方に意義を見出しているのだから。

そこに私情など、挟まない。挟めるはずも無い。

 

 

「ネギ君と、その生徒達の将来性を鑑みて、なんとか口添えを頼めんかのぅ?」

「それは、どう言った立場での要請でしょうか。失礼ながら、学園長殿はこちら側での公的権力を全て剥奪された状態です。これは、そこのタカミチ君も同様ですが」

「詠春さん・・・」

「国には法があり、組織には掟があります。それを曲げてのお話・・・何ら見返りの無いままに、そう言った話を聞き入れるわけには参りません」

 

 

これでも、かなり優しい表現での拒否だ。

完璧を期するなら、そもそもここにも来ない。

 

 

「・・・何を、差し出せば良いのかの?」

「学園長!?」

「良いのじゃ、それで・・・どうかのぅ?」

「そこまで言われるのでしたら・・・」

 

 

我ながら、キツイことを言うとは思うが。

 

 

「日本を、返していただきましょう」

「・・・ほ? どういう意味かね?」

「関東魔法協会の管轄区域全てを、西に返還していただきたい」

「ほぉっ!?」

 

 

詰まる所、関西の傘下に入れ、と言っているわけだ。

別に強硬派に倣う訳ではないが、これくらいでないと、とても周りを説得できない。

それに・・・。

 

 

「これはまだ内密の話ですが、クルト殿はすでに、関西呪術協会と関東魔法協会の合併に向けた協議を進めています。年度内には決着するでしょう」

「ほ・・・き、聞いとらんぞい!?」

「そ、それは本当ですか、詠春さん・・・?」

「この場で嘘を吐く理由がどこに?」

 

 

事実だ。

上手く行けば、今年中に、西と東は統一される。

関東の理事達はすでに、己の地位の安全を条件に賛成に回った。

そこは、クルト君の才腕が光った。

 

 

私は私で、強硬派を分散させて力を奪い、かつ中道・穏健派の支持を得ている。

その強硬派も、度し難いとは思うが、今回のことで私の支持層が増した。

よって、今の私は関西の全てを掌握していると言っても、過言では無い。

 

 

「そして私は、東西統合後の組織のトップを任されることになっています」

「それは・・・」

「まさしく、その通り」

 

 

タカミチ君に対し、私は頷きで答える。

つまりもう、貴方は私に差し出せる物を持っていないのです、お義父さん。

 

 

「私はすでに、日本を手に入れました」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・そうですか、超さんがそんなことを」

「はい、ハカセさんには、とても感謝している様でした」

 

 

少し時間を開けて、今度はハカセさんとお話をしています。

まずは、超さんからの伝言などを。

 

 

ハカセさんは目を閉じて、何か考えている様でした。

超さんとの思い出を、思い浮かべているのか。

それとも、別れの言葉か。

それは私にはわかりませんが、とても穏やかな表情を浮かべていました。

 

 

「・・・それから、貴女の今後ですが」

「ええ、わかっています。今朝早くに、クルトと言う方から連絡を受けていますから」

 

 

胸に手を当てて、ハカセさんは私に軽く頭を下げてきました。

クルトおじ様は、大層仕事が早く・・・すでに、ネギ達の処分を決定したそうです。

私としては、それ程の関心事でもありませんでしたので・・・。

特に口を出したりは、しませんでした。

 

 

ただ、クルトおじ様の良いように、とだけ伝えました。

真名さんやハカセさん、四葉さん等については、少しお願いしましたが・・・。

 

 

「新旧問わず、私が超さんから受け継いだ全ての技術は、アリア先生に無償で提供します」

「・・・そうですか」

「私は今後の一生を麻帆良で過ごすことになるでしょう。公的には、将来の日本の魔法・陰陽師の統一組織に籍を置くことになるでしょうね・・・」

 

 

ハカセさんは、非常に協力的でした。

研究施設と資金を条件に、公権力に従う道を選びました。

超さんが願い、詠春さんが受諾し、クルトおじ様が後押ししました。

ある意味で、一番凄い後ろ盾を得ているのではないでしょうか。

 

 

「茶々丸や田中さんシリーズのメンテナンス・バージョンアップはもちろん、支援魔導機械(デバイス)についても、全面的に協力します」

「お願いします。そこは、こちらではどうにもできないので・・・」

「・・・支援魔導機械(デバイス)が完成すれば、アリア先生が魔法具に頼る比率は、必然的に下がってくると思います」

 

 

不思議な笑みをたたえて、ハカセさんが言いました。

 

 

「私達は、超さんの『志に共感して』協力を決めました。この言葉の意味が、わかりますか?」

「・・・超さんは・・・」

「もちろん、個人的な理由もありますが・・・でもそれはきっと、アリア先生にとっては、とるに足らない、関係の無い話です」

 

 

先ほどの、綾瀬さんの言葉。

そして、休憩中に刀子先生達から聞いた、他の生徒の言動。

加えて、ハカセさんの言葉。超さんの言葉。

 

 

「超さんの残した言葉を、良く考えてくれることを、祈っています」

 

 

それがハカセさんの、今回の件に関する最後の言葉でした。

ある意味、超さんの一番の理解者・同志であったであろうハカセさんの言葉は。

不思議なくらい、私の中に残りました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

コツ、コツ・・・と、腕を組み、指で肘を叩く。

リビングのソファの上で、私はその男と相対していた。

 

 

クルト・ゲーデルとか言う、狐のような男と。

アリアとその家族に、話があって来たと言うことだが。

経験上、こう言う男は味方でも油断できないと知っている。

 

 

「・・・そう、殺気のこもった目で見ないでいただけますかねぇ、<闇の福音>?」

「これはすまないな。私を賞金首に認定していた連中の仲間と、どう言う態度で接すれば良いのかわからなかっただけだよ、針金細工」

「これは手厳しい、たかが一度や二度命を狙ったぐらいで平和的に話し合うこともできないとは・・・やはり精神は肉体の影響を受けてしまう様ですね。合法ロリの悲しい所ですか」

「は・・・どうやら、自分達が何度返り討ちにあったか数えていないらしい。まぁ、皆殺しにしてやったから、数えたくてもできなかったろうがな。賠償金でもセビるか、権力の犬」

「ふ・・・自分が見逃された回数も覚えていないとは、見た目よりも老いが進行しているのでは無いですか? よろしければ良い施設を知っていますから、紹介しましょうか。牢獄と言う名の施設をね、人形好きのお嬢さん」

「・・・死にたいのか、貴様?」

「潰されたいんですか、貴女?」

 

 

はっはっはっ・・・と、談笑する私とゲーデル。

何やら、リビングの隅でさよとバカ鬼がガタガタ震えながら抱き合っているが、そこは知らん。

 

 

「お茶のおかわりは・・・」

「ああ、お願いします。いやぁ、実に美味しい紅茶だ。どうです、私の所で働きませんか?」

「ありがとうございます。ですが私は、すでに主人がおりますので」

「おいコラそこの眼鏡、人の従者を勧誘するんじゃない、殺すぞ」

 

 

私の殺気をこめた視線にも、ゲーデルは小揺るぎもしない。

アリアの話だと、刹那と同じ神鳴流の使い手らしい。

退魔の剣を持つ男。

刀はこちらで預かっているが、神鳴流は武器を選ばない。

かなり、面倒な相手だ。

 

 

「ソレデケッキョク、ナンノヨウナンダヨ」

「まぁ、それはアリア様がお帰りになられてからお話しましょう。正直、二度手間は嫌です」

 

 

さっきから、アリアが帰って来てから話すと言って、うちの茶や茶菓子をバリバリと。

茶々丸は気にした風でも無いが、私はそろそろ限界・・・。

 

 

「ただいま、戻りました~」

 

 

その時、玄関の方からいつものように、アリアの帰宅を告げる声が。

いつもなら、喜ばしい声なのだが、目の前の男のことを考えると微妙だ。

パタパタと茶々丸が出迎えに走るのを横目に、私はゲーデルから目を離さない。

 

 

「ただいまです、茶々丸さん。今日の晩御飯は何ですか? あと、エヴァさんに相談が・・・」

「お帰りなさいませ、アリア先生。本日の晩御飯はピリ辛麻婆豆腐です。あと、リビングにお客様が・・・」

「お客様?」

 

 

徐々に近付いてくる声、そしてリビングの扉が開く。

すると、ゲーデルはいきなり椅子から立ち上がり、まるで主にそうするように、床に膝をついた。

 

 

「どなたです・・・って、クルトおじ様?」

「は、不肖このクルト。本日のためのこんばんはと明日のためのお休みなさいませを申し上げたくて、参上仕りました。普段の油断しきったアリア様も至上の宝であると、このクルトめは胸に刻みつけた所にございます」

「・・・えっと」

 

 

アリアが、困ったような顔を私に向けてきた。

そんな目で見るな、私も困ってる。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「アリア様のアリアドネー行きについて、具体的な詰めを行いたいと思いましてね」

 

 

アリア先生本人も加わったリビングで、クルト議員はそう言いました。

アリアドネー。魔法世界に存在する、厳正中立の学術都市ですね。

そこにアリア先生を・・・と言う話があることは、情報としては知っていましたが。

 

 

事実だったとは、驚きです。

 

 

「何しろ、アリカ様のご息女が魔法世界を訪問・・・いえ、お戻りになるのですから、万全を期さねばなりませんしねぇ」

「・・・私は、承諾した覚えはありませんが」

「おや・・・魔法学校時代の進路希望調査などを見るに、喜ばれるかと思いましたが」

「それは・・・」

 

 

アリア先生は、魔法薬や魔法具の研究がしたいと、日頃から申されていました。

故郷の村人を救うためでもありますが、そもそも研究と言う行為がお好きなようなのです。

書物に埋もれて知識を集め、実験を繰り返して経験を積み。

いつか、まったく新しい物を、「自分の力」で作りたいと。

 

 

そんなアリア先生にとって、魔法世界最高の学府であるアリアドネーは、どれ程魅力的に映ることでしょう。

クルト議員の話によれば、アリア先生の家族である私達も受け入れるとのことですが。

 

 

「私は・・・できれば、今の生徒達の卒業を見届けてから・・・」

「ああ! そうでしたね、アリア様は生徒を愛する心優しき女教師・・・私も、ご自分の生徒との別れを奪う程野暮ではありませんよ!」

「あのー・・・じゃあ、そのお話は無かったことに・・・?」

「いえいえ、そうではありません」

 

 

さよさんの言葉に、クルト議員は否と返しました。

 

 

「それでしたら、アリア様のご都合に合わせて・・夏季休暇中に研修と言う形でアリアドネーを訪問なされればいかがでしょう? ・・・ちょうど、魔法世界では大きなお祭りもあることですし」

「祭りか、上手い食べ物はあるか?」

「ええ、もちろんですよスクナ殿。私が責任をもってご案内させていただきましょう」

「ヒトハキレルカ?」

「場所によっては可能ですよ、チャチャゼロ殿」

 

 

お祭り、それはとても楽しそうですね。

魔法世界のお祭りとは、どのような物でしょうか。

 

 

「いずれにせよ、早い内に来て頂きたいのです。来れる内に」

「来れる内に・・・ですか」

「ええ、いつまでも同じ光景が、同じ世界が広がっているとは限りませんから」

「・・・」

「・・・?」

 

 

アリア先生はクルト議員の言葉に、かすかに表情を曇らせました。

・・・なんでしょう。

今の議員の言葉に、何か気になる点でもあるのでしょうか。

 

 

「気に入らんな」

 

 

しかしマスターは、当然のごとく空気をぶち壊しになりました。

クルト議員が、ゆるやかな動きでマスターを見つめました。

 

 

「何かご不快な点でも、<闇の福音>殿?」

「貴様の面が何より不快だが・・・それ以上に、私のモノに勝手に手を出されるのは、気に入らんな」

「ほう・・・私がいつ、貴女の所有物に手を触れましたかな」

 

 

マスターとクルト議員の間に、再び険悪な空気が流れ始めました。

マスターはアリア先生は「自分のモノ」であると主張し、一方でクルト議員はそれを認めないと、暗に意思表示をしているのでしょう。

直接的に言葉にされるよりも、お2人の立場の違いが鮮明になっています。

 

 

「私としては正直、そのような言動は控えて貰いたいのですがね」

「ふん・・・貴様は知らんだろうがな、アリアは自分で私の所に来て、私のモノになると言ったんだ。どう扱おうと、私の勝手だろうが。貴様ごときに口出しされるいわれは無い」

「・・・アリア様に、上位者は必要ありません」

「アリアには、私達以外の存在など必要無い。余計な荷物を持たせようとするなら・・・容赦はせんぞ」

 

 

マスターは、アリアドネー行き自体には、さしてこだわりは無いようでした。

ただ、クルト議員を信用できないと言っておりました。

彼は、アリア先生にとって疫病神になりかね無いと・・・。

 

 

言葉の意味は、良くわかりませんが。

アリア先生にとって、いったい何が良いのでしょうか。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

結局、エヴァさんとクルトおじ様の話し合いは平行線を辿りました。

ただ、アリアドネー行き自体は決まりそうです。

私としても、夏季休暇中の1ヶ月間だけとは言え、あのアリアドネーに滞在できるのです。

正直、ワクワクが止まりません。

 

 

「エヴァさん、ありがとうございます」

「バカが、礼などいらん。ただ私も、アリアドネーの研究機関には興味があるからな」

 

 

なんでも、期間限定の客員教授と言うか、臨時講師みたいな形になるらしいですが。

どうもクルトおじ様は、最初からその予定で計画していた様なのです。

とにかく、夏休みには皆で魔法世界に行くことになりそうです。

 

 

「だが、あのクルト・ゲーデル・・・アレはダメだ」

「ダメ、とは・・・?」

「アレは、お前に面倒ごとを持ってくるぞ。最終的にはお前が自分で決めることだが、私は認めることはできん」

 

 

王女として私を見ているクルトおじ様。

そして従者として、何より家族として私を見てくれるエヴァさん。

この2人のが仲良くできる構図は、なかなか思い描くことができません。

ただ・・・このまま行くと、嫌なことになりそうな気がします。

 

 

・・・まぁ、まだ考える時間はあるでしょう。

私のことも、家族のことも、生徒のことも、今後のことも。

・・・魔法世界のことも。

それよりも、今は・・・。

 

 

「・・・エヴァさん」

「なんだ?」

「ひとつ、相談したいことがあるんです」

 

 

私の様子を見たエヴァさんは怪訝な表情を浮かべながらも、続きを促して来ました。

 

 

「今回の件で、考えてみたんですけど・・・」

「なんだ、改まって」

「えっと・・・できれば、怒らないで聞いて欲しいんですけど・・・」

「良いから、言ってみろ」

 

 

私の様子がおかしいのか、口元に手を当てて笑いながら、エヴァさん。

茶々丸さん達も、不思議そうな顔でこちらを見ています。

 

 

超さんの言葉。

ハカセさんの言葉。千草さんの言葉・・・。

それらが私の胸の内に浮かんでは、消えていきます。

今までの自分が間違っていただなんて、思っていません。

けれど、今までと同じではいけないとは、思うんです。

 

 

私はきっと、エヴァさんが認められないことを、言おうとしています。

でも、私は・・・。

 

 

 

シンシア姉様、私は・・・。

私は、貴女に貰った物を、一つだって嫌だと思ったことはありません。

でも、もう、それだけでは、ダメだと思うんです。

だから・・・だから、どうか。

 

 

 

「・・・魔法具の使用を、控えようと思うんです・・・」

 

 

 

だからどうか。

アリアを、嫌いにならないで・・・。

 




アリア:
アリアです。
今回は、お祭りの後始末、その前半です。
と言っても、学園祭編はここで終わり、次回の後編は、むしろ夏休み編への導入部となります。


アリア:
では、次回は・・・夏休み・ウェールズ編への導入と、新しい物語を匂わせる描写を少々。
次回、「初めてのケンカ」、始まります・・・。


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