夢のサイレンススズカ産駒、ウマ娘世界でターフを駆ける 作:うどんそば
「じゃ、がんばれ」
「うん!」
車から降りて、ここまで送ってくれたお母さんにまたねの挨拶をする。
「じゃ!きっと次はテレビで見ることになるよ!」
「そうだったら嬉しいなぁ」
お母さんは少し目を細めて笑うと、
「きつくって帰ってくるなんで言ったらぶっ飛ばすからね!」
といって車を発進させていった。
私はそれをしばらく眺めたあと、その建物に向き合った。
中央ウマ娘トレーニングセンター、略して中央トレセン。
なんか圧がすごい……!さすがすべてのウマ娘が夢見るとされるところ!
立派な校門をくぐると、長い通路とよく整備された樹木、巨大な建築物で様々なところが気を引く。
今日は入寮日なので特にすることはないけど、この時間にもすでに多分同期の子たち?がたくさんいる。真新しいバッグや制服でわかる。
心を浮き浮きさせながら一歩一歩軽い足取りで進んでいく。
「あれ?私、寮どこだったっけ?」
適当に歩いていたけど私、寮どっちだったっけ。
トレセンには栗東と美浦のニ種類の寮がある。それぞれ違うウマ娘がランダムで配置されてるんだけど……
バッグの中にあるであろう紙を探していると、背後から突然声がかけられた。
「どうかした?」
そちらを向くと、小柄で私と同じくらいしかない鹿毛の子が優しい目で立っていた。
「い、いやー、寮がどこか分かんなくって……」
若干の恥ずかしさから、へへへ、と笑いながらそう答えると、その子は手に持っていた寮の配置表を取り出した。
「君の名前は?」
「あ、私、クワイエットゴアっていいます!」
「わかった。……えっと……うん!私とおんなじじゃん!栗東!」
鹿毛の子は嬉しそうにそう言うと、私の手を取って、
「せっかくだから一緒にいこーよ!どうせまだ時間はあるんだしさ!」
「へ、うん?」
私が曖昧に返事をすると、それにニコニコしながら明らかに寮ではない方に進んでいく。
あまりに嬉しそうだったので、特に何も思わずついていくと、どうやらトラックの方面へ向かっているようだった。
「ねえ、トラックに行くの?」
「うん!ここのトラックがどんなものなのかも見てみたいし、先輩たち、一度見てみたくない?」
笑いながらそう言ってくるけれども、少し気後れしてしまうような……
「大丈夫なのかな?」
「全然大丈夫でしょ!それに注意されたら帰ればいいよ!迷いましたっていけばいいしね」
そうしていると、開けた練習場が見えてきた。
トラックがいくつもあって、見渡してもどこもかしこも練習施設で、こんなところで練習できるのかと思わず心が躍る。
「すっごいねえ」
「うん。ほんとすごい」
耳を澄ますと、練習の声がどこかしこから聞こえてくる。
しばらく呆けていると、突然へ!?という声が聞こえて隣を見る。
「あなた、新入生!?ちょっと練習見てかない!?」
「え、えぇぇぇ!?」
鹿毛の子が連れ去られそうになっていた。
「いってらっしゃ~い」
私はそれを見送ると、手をつかんでいたウマ娘の子は即座にその小柄な体を抱え、走り去っていった。
なぜ見殺しにー……という声が遠くから聞こえてくるが、しょうがないよ。あの先輩目がやばかったもん。怖かったもん。
よし!私はゆっくり見学していくかな、と歩き出そうとすると、突然ヒョイッと抱えられ、
「ど、どうしましょう……!かわいいわ……!」
という声とともに連れ去られてしまった。
……え?
抱えられている以上、この人の情報は……鈴を転がすような声、あまりにきれいすぎる栗毛、このスピード感。
……なんか、絶対知ってる人だ。ていうか私ファンだぁ……
うん。スズカさんだコレ!
あまりに良い匂いとスズカさんの近くにいるという緊張とこの謎の状況に混乱しつつしばらく揺られ、降ろされたとき、目の前には困った顔をしたスズカさんのトレーナーさんとスズカさんが目に飛び込んできた。
「トレーナーさん……この子」
「ん?どした?スズカ」
「あんまりかわいくって……連れてきちゃいました」
トレーナーさんは、わけがわからないといった様子で聞き返す。
でも、スズカさんはbotのようにあんまりかわいくって……しか言わないので、トレーナーさんはついに頭を抱えた。
「返してきなさい」
「え!?こんなにかわいいのに……私が面倒見るので……」
「私は動物かなんかか!」
あ、ついに突っ込んでしまった。
スズカさんとトレーナーさんの目がこちらを向き、しばらく眺めてきたあと、二人はぶふっ!っと吹き出して笑ってしまった。
「な、何がおかしいんですか……!」
「いや、面白い子だね!……いやいや、スズカがすまんな。ごめん、迷惑だったかな?」
トレーナーさんは少しこちらを気遣うようにそう聞いてきますが、私からすれば……
「私スズカさんのファンなのでご褒美でした。あっ、サインください」
私がバッグから色紙を出した瞬間、トレーナーさんは今度こそ腹を抱えて笑いだした。
色紙を出した私にスズカさんは丁寧にサインすると、近くのスズカさんのであろうバッグから蹄鉄を取り出して、私に手渡した。
「はい。これは私がいつも使っている蹄鉄よ。……ただ何度か使かってるものだけど……よかった?」
「あ、ありがとうございまふ!!」
嬉しすぎて噛んでしまった……!明らかに挙動不審な私を見て、トレーナーさんは更に笑う。
流石に苛立ってきて、少しすねてみると、少し慌て出した。
「ごめん、ごめん!……えーと、そうだ!今からスズカと練習するか?新入生ってことはトレーニングシューズくらいなら持ってきてるだろう?」
「やります!やらせてください!」
即答である。スズカさんと一緒にトレーニングなんてどんなご褒美ですか!
「お、おう……じゃあとりあえずスズカ、一着トレーニングウェア貸しといてやれ」
スズカさんは再びバッグを手に取ると、その中のトレーニングウェアを一着差し出してくる。
……いいの?まじ?
「あ、ありがとうございます……」
とりあえずそれを着ると、ちょっと丈が長いけどいい感じに着れた。
……うん。運動はすごくしやすそう。生地もサラサラだしね。
じゃ、靴を……あっ!
「どうした?早く靴を出さないと走れないぞ?」
「いや……それが……」
不思議そうに見つめてくるトレーナーさんとスズカさん。
……ええい!こうなればヤケ!
私は意を決して靴を見せつけた!
「……わぁ……!」
「あっ!これかぁ!」
私が取り出したシューズはちょうど半年前にスズカさんがプロデュースしたシューズで、いつもスズカさんが使っているシューズをもとに調整されたものだ。
「使ってくださってたのね……!」
「ああ。俺も始めて見た」
何やらスズカさんが感動した目をしているが……
「これには2つ理由があるんです」
まず1つ目。明らかに自明だが……
「私がスズカさんの大ファンであること」
1つ目は恐らくわかりきったことだっただろう。……が、2つ目と聞き、不思議そうな目を向けられる。
そう。それはこのシューズは、スズカさんがプロデュースしたため、特別な特徴がある。
「全然スズカさんには及ばないんですけど、私、大逃げ差しの走り方をさせていただいてまして……」
そう。大逃げするときは軽く走れるように徹底的な軽量化と形状の最適化を。そして最後の直線でもう一度加速できるように、逃げの邪魔にはならずとも、とてつもない加速ができる様になっている。私のその特殊な脚質、そしてその理想のスズカさんの走り方に最適化されたシューズなのだ。
「へぇ……」
トレーナーさんは目を細めて薄ら笑いを浮かべた。
……というかニヤニヤしている。
「ほんとに面白いなぁ……なあ、チーム決めるときうちにしない?今までスズカ専属だったけど、君なら受け入れるよ?」
「それがいいわ。私と一緒に走りましょう!」
二人共何やら嬉しそうに盛り上がっている。
「あ、あのー……とりあえず体験入部ってことで……」
「そういやそうだったね」
トレーナーさんは自分の背中にかけたリュックから靴を取り出すと、スズカさん渡した。
「せっかくファンな上、そんなにお前が気に入るやつなんだ。ファンサでもしてやれ」
スズカさんは微笑んで頷くと、靴を取り出した。
「ほんとは本番か模擬レースでもなけりゃ履かせないんだ。喜べよ?」
スズカさんは私が今履いているものとよく似ているものを履く。
つまり……勝負服の靴だ。
「スズカ。本気の走り、一回見せてやれ」
「はい。私の走り、見ていてね」
私は目の前のトラックのゲートへ向かっていくスズカさんをただボケっとしながら手を振って見送ることしかできなかった。