夢のサイレンススズカ産駒、ウマ娘世界でターフを駆ける   作:うどんそば

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鹿毛の怪物

 

慣れたようにゲートにすっと入ったスズカさんは、ゲートが開いた瞬間とてつもないスピードで飛び出した。

そのまま最内をほぼロスなく正確に、されど大胆にとてつもない速さで走っていく。

ふとスズカさんの表情を見ると、とても気持ちよさそうな微笑みで、本心から走るのが好きなのが伝わってくる。

 

「すごい……」

 

思わず声に出してしまう。恐らく、今私は目が輝いていることだろう。

コーナーに差し掛かり、そのままの勢いで走るが、ほんの少しペースを落として息を入れている。……きた。

カーブが終わり、最後の長い直線に入った瞬間、空気が変わる。スズカさんが地面を蹴ったと思うと、大逃げしたはずなのに差し馬のようなペースで末脚を炸裂させる。

 

「あれが……サイレンススズカさん……!」

 

下ではスズカさんがトレーナーさんといろいろ話している。何でも、あれでもタイムは不十分だったらしい。どう見ても第一線のウマ娘達をも凌駕するスピードのあれでも不十分なんて、一体何を目指しているのか、皆目検討もつかない。

 

先程の素晴らしい走りで放心していると、下から私を呼ぶ声がした。

 

「おーい!お前も測ってみな!どれくらいの差があるか……」

「やります!」

 

私はトレーナーさんがすべてを言い終わる前に走ってトラックへ向かう。

練習用のゲートに入ると、やれやれといった様子でトレーナーさんが近づいてくる。

 

「じゃ、しっかり走れよ?始めてのゲートだろうからいっとくが……しっかり集中しとけばそう間違わない。最後に……スズカにもいつも言ってるが、楽しんで走れよ。それが一番のトレーニングなんだから」

 

私が頷くと、満足そうな顔でゲートの開閉の準備をするトレーナーさん。

ガチャコンと開いた瞬間、私は自然に体を押し出していた。

 

わあ……!これが中央の芝……!私がいつも走っていた広場とは全然違う!

風を切る。涼しい。顔に当たる風圧が心地よすぎる。

足を踏み込むと芝に食い込むような感覚がして、走っているんだと本能に語りかけてくる。

 

一歩足を踏み出す。体がまた加速して、景色がより早く動く。次の一歩も、次の一歩もだ。

そうしていると、楽しみは早く過ぎていく。コーナーに差し掛かり、最適なルートを通るように無理やり持っていこうとして、若干膨らんでしまう。……あれ?ミスっちゃった

体制を立て直しつつ、コーナーの出口に向かって突っ込んでいく。

すこーし息を入れながら、コーナーを抜ける。最後の直線だ。

たのしい!たのしい!たのしい!本当にたのしい!

息だって当然きつい!体もきつい!でもそれよりもたのしい!

その瞬間、目の前がぱっと変わった。

果てしなく続く平原。青鹿毛のウマ娘と栗毛のウマ娘が抜きつ抜かれつのデットヒートを繰り広げている。

そうして、その二人が足を止めた先にはスズカさんが遥か先を走っていた。

スズカさんは一目こちらを一瞥すると、さっさとまた走り出す。

そうか!そっちが……

 

「いいぞ!」

「あ……」

 

気づいたらすでにゴール位置を過ぎていた。

興奮気味でトレーナーさんが近づいてくる。

 

「君、本当にすごいな!見てみてくれ!」

 

トレーナーさんの手元のストップウォッチには、1分58秒ジャストが表示されていた。

 

「本当にデビュー前なのか?これ……ジュニア級ならもう負けないんじゃないか!?ジュニア級の芝2000mのレコードを超えてるぞ!」

「え、えぇ……ただ楽しんで走っただけなのに……?」

「ほんと、才能だな!なんてことだ!トレーナー人生の中で大逃げ差しなんてとてつもない才能を持ってるウマ娘に2回も出会えるとは!」

 

トレーナーさんは全く落ち着かない様子で鼻息荒くどれだけすごいことかを熱弁している。

 

「ちょ、ちょっとトレーナーさん、とりあえずスズカさんのところに戻りませんか?」

「ん!あ、おお、すまん……」

 

自分が興奮しすぎたことに気づいたのか恥ずかしそうに頬を掻きながら、スズカさんの方へ目線を向けると、私はさっきぶりの小柄な鹿毛のウマ娘を見つけた。

急いでそちらへ向かうと、ふくれっ面で、こちらを見つめてくる。

 

「もう!私もスズカさんのファンなのに!なんで一人で楽しそうなことしてんのさ!」

「あー、この子、さっきものすごく話題になっていて……もみくちゃにされていたので助けてあげたらどうも私のファンだったらしくって……って、二人共知り合いなの?」

「はい。さっき会って……おんなじ寮なんです」

 

なるほどと言いながら頷くスズカさんを横目に、トレーナーさんは何やら思考して、

 

「じゃあ、君もやってみようか。」

 

と言って、練習参加が決まった。鹿毛の子の喜びようは凄まじかった。

 

「ところで、二人の名前は?まだ聞いてなかったな。」

 

トラックの予約が終わったとのことで、別の場所へ移動中、そう問われた。

 

「はい。私はクワイエットゴアって言います。ゴアって呼ばれてます!」

 

ぱっと自己紹介を終わらせる。そして、まだ名前を聞いていなかった鹿毛の子を見つめる。

 

「私は、ディープインパクトです。ディープって呼んでください!」

 

へー。すごく強そうな名前……スズカさんもさっき話題になってたって言ってたし、もしかするとすごく強い子なのかもしれない。

 

「そうか……じゃ、俺の名前かな?

俺は天沢大志だ。ご存知の通りサイレンススズカのトレーナーだよ」

 

トレーナーさんは挨拶する……実は私はスズカさんが載っている雑誌などを買い漁っていたので、実はトレーナーさんの名前は知っていた。ディープは知らなかったようで、ほへーと言ってうんうん頷いている。

 

「じゃ、最後に……私はサイレンスズカです。スズカって呼んでもらえたらいいから」

 

最後に全員が唯一最初から知っていたスズカさんが挨拶する。すると、ちょうど目的の場所にたどり着いた。

目的の場所とは坂路である。

 

「んあー、ディープとゴアははじめてだろ?ちょっとスズカを見ていてくれ」

 

トレーナーさんはスズカさんを呼ぶとスズカさんは駆け出し、坂路を駆け出した。スズカさんはどんどん登っていき、登りきった先にいるトレーナーさんは目の前を通過した瞬間ストップウォッチを止めた。

 

「っと、こんなトレーニングだ。じゃ、先にゴアから。まーできるだけ走ればいいよ。58秒位が目安かな」

「はい!」

 

私は坂路のスタート地点に立ち、ゴールを見る。

……意外とあるなぁ、傾斜。

ちょっとやだなぁと思いつつ走り出すと、思いの外いけないことはなかった。

どんどんと登っていくが、流石に平坦な芝よりはきつい。ゴールについたときにはもう息も少し上がり、疲れた。

 

「おー……!すごいな。54秒だ。このペースでバテてないなんて、ホント化け物だな……じゃ、今度はディープ!」

「はーい!」

 

ディープは、元気よく返事をしてスタート地点に立つ。トレーナーさんの合図の瞬間、とてつもない勢いでガンガン登ってきて、ペースは一定だった。

そして登りきってきて、私はてっきり私と同じくらいか、私よりも息切れていると思っていた。そのはずだ。このトレーニングはそれだけきついのだから。

しかし、ディープの顔を見たとき、私は信じられない光景を見た。というか、私もトレーナーさんも、スズカさんさえも信じられないものを見るような表情でディープを見た。

 

「どうしたんですか?」

 

ディープは小首をかしげながらそう聞いてくる。

 

「ディ、ディープ。おまえ、息も上がってないのか?」

 

トレーナーさんが聞く。

 

「はい。なんかあんまりきつくなかったので……もしかしてタイム遅かったですか?」

 

そんなわけない。ディープの時計は私と同じ54秒台。

それなのに、全く息を切らしていないディープは怪物なのかもしれない。

少なくとも、只者ではなさそうであることは確かである。

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