夢のサイレンススズカ産駒、ウマ娘世界でターフを駆ける 作:うどんそば
そこからしばらくして、一通りの練習を体験させてもらうとちょうどお昼時になっていた。
「よし!午前はこんなとこかな……じゃあ、君たちは寮に向かわないといけない時間だろ?解散にしよう。」
「「はい!ありがとうございました!」」
「うん。本当に君たちはすごい。是非チームを決めるときにはうちに来てくれ!」
「本当に楽しかったわ。またやりましょう?」
トレーナーさんとスズカさんはほほえみながら手を振って見送ってくれる。私達はそれを見ながら寮までの道を進んだ。
木々は桜が生い茂り、春らしい心地よい風に運ばれた桜花が度々肩に乗る。
「楽しかったね」
「そうだね―。チームかぁ……楽しみになってきたな!」
私達はまだ入学したばかり。これから基本を教わったあと、選抜レースを通して様々なチームだったりトレーナーを見つけ、長い長い日々を駆けてゆくことになるだろう。不安半分、期待半分といった気持ちだったものは今回の体験で消え失せ、ただただ待ち遠しいという気持ちに支配される。
「……ね、早くトレーニングしたいね!」
「うん!」
ディープも同じ気持ちのようで、目を輝かせながら足取り軽く気持ちの高ぶりを表している。
そうこうしていると、目的の栗東寮が見えてきた。
見た目は一般的な寮と変わらない……事はない。ただ、巨大でちょっと豪華な寮である、と思う。隣には同じくらいの大きさの美浦寮が存在する。
戸が開けられていたので中に入ると、中に見た目麗しいウマ娘がいた。
「君たちは新入生の子だね?」
「寮長さんですか?」
「うん。寮長のフジキセキだよ!」
フジキセキさんは入口で待っており、恐らく今日は夜まで新入生達を出迎えるんだろうな。といった感じ。
「そこに部屋割りがあるから、確認したら部屋に向かったらいいよ。あ、一つだけ。ここのルール。必ず常識は守ること。わかった?」
「わかりました!いろいろわざわざありがとうございます」
「いいんだよ?それが私の役割でもあるわけだし!」
丁寧に教えてくださったお礼をいって、ブジキセキさんが指さした先にある掲示板に貼られていた部屋割りを確認する。
「へ?」
「あ!?」
私とディープで二人でその紙を覗き込んで、部屋割りを見つけた瞬間、驚愕する。
同じ部屋だった。
……うん確かに、なんとなくそんな気はしてたけどね。ともかく!仲良くなれた子と同室なんだからやりやすいだろうなぁと思うとよかった。
「おんなじ部屋じゃん!」
ディープは結構喜んでるみたい。いや、良かったね。多分だけど微妙な顔されてたら心折れてた。
「いやぁ、今日会ってそこそこ仲良くなれたと思うんだけど、まさか同室なんてね!なんか運命みたいじゃない?」
少し目を細めて冗談を言うディープ。
「そうだねぇ。運命かもね?」
私と少し笑って返したあと、記載されていた部屋へ向かった。
部屋はそこそこの広さがあり、ベッド、机、タンスなどの生活必需品は用意されているみたいだった。
見る限り塵ひとつなく、よく掃除されていることがよくわかる。
「きれいだね」
「そうだね。最初は掃除しないといけないと思ってた」
意外そうな顔でディープはつぶやいている。
でも、作業が減るならいいことだ。私達はとっとと荷物を降ろすと、それぞれのテリトリーにものをおいていく。
私が向かって右側。ディープが向かって左側。
大体壁際に設置されている棚や、中心沿いの机に様々なものをおいていく。私の場合は、スズカさんのグッズや、本などが中心だ。
ちらりとディープの方を覗いてみる。ディープの机は殺風景で、ちょこっとの私も持っているスズカさんのグッズや書籍だけ。私の方と比べると、半分以下の荷物しかなかった。
「ディープって荷物少ないね?」
「いやぁ、邪魔かなぁと思ってみんな捨てちゃった。このスズカさんのアクスタは捨てられなくってさ、これだけ?たぶん」
あっけらかんとして言うが、私はこっちに来るにあたってものすごく選別してこれなのだ。
そう考えると私はものすごく必要なものだけを選ぶのが下手なのかもしれない。
っと、私が並べるのを終えると、ディープはベッドの上でスマホを触っていた。
「ねえ、ディープ。連絡先交換しとかない?」
「ん……?いいよ。ちょっとまって……はい」
ディープ自分の携帯番号が表示されている画面にし、私に手渡してくる。
私は手早くそれを登録する。ディープはすぐにLINEを起動させ、QRコードを表示させた。私はそちらも登録すると、試しにメッセージを送ってみる。
「ぶふっ!」
それを見てか、ディープがちょっと吹き出す。
ただ、「シンボリルドルフ会長とオグリキャップの貴重なスケートシーン」という文言とともにありそうでありえないURLっぽい文字列を送っただけなのだが。
ディープがうずくまって笑い始めたので、こっちもつられてきた。
……あっ……これダメなやつ……!
私は我慢していた笑いを吹き出し、その部屋には笑いがこだました。さぞ隣の部屋の子は怖かったことだろう。
私達は笑い終わると、時間も時間だし食堂を利用することにした、
トレセン学園の食堂は有名で、名物と言われるものもたくさんある。特に今日はさっき運動したが、めちゃくちゃ強度のあるトレーニングだったわけでもないので、ものすごく食欲がすごいことになっている。
現に……
ぐぅ~とお腹のなる音がする。音を発しているのは目の前のディープ。全く恥ずかしがらずに、机に突っ伏してただただ頼んだ料理が来るのを待っている。
相当お腹が減っているようで、さっきからうー……と唸ってばっかりだ。
「おまたせしました!」
そうこうしていると、頼んでいたものが届く。
目の前にはそびえ立つのは本当に食べ物なの?と錯覚してしまうほど大きい人参ハンバーグ。
そう。トレセン学園の一番の名物だ。
すっかり復活したディープは目をキラキラさせながら見つめている。
「「いただきます」」
まず上の人参ハンバーグから行く。これはいける!とっても美味しい!トレセンは素材もこだわっていると風の噂で言われているが、ここまでちがうものだったんだ……
気がつくと半分食べてしまっていた。ご飯は何度おかわりしたか覚えていない。ちょっと落ち着いて、ディープを見る。そこには幸せそうな顔でお腹を膨らませてうたた寝している同室の姿があった。
そのお腹を見て、思わず自分のお腹を見る。
そこにあったのは山。当たり前だ。あれだけ食べたんだから……でも
「いやー!」
私はそのあまりのショックさに一瞬で平らげると、すぐに食器を片し、うたた寝しているディープを引っ張ってグラウンドへ直行。トレーニングを再開していたスズカさんの姿が見えると、そちらへ一直線に向かった。
「え?君たちどうした……って、あ!」
驚いたような様子のスズカさんのトレーナーさんも、腹を見て何かに気がついたように憐れみを含んだ目つきで私達を見つめると、
「俺は悪いことは言わない。今からスズカとおんなじメニュー、やろうか」
もちろんその日は、そこから記憶はない。
かろうじて、いくら走っても走っても、気持ちよさそうな顔で、「もっと走りたい……!」というスズカさんに付き合わされ、スズカさんの体力に驚愕したことを覚えている。