夢のサイレンススズカ産駒、ウマ娘世界でターフを駆ける 作:うどんそば
スズカさんとのトレーニングから数日経ち、私達は待ちに待った入学式の日を迎えていた。
「歓迎!トレセン学園で良い成績を残すことを一同願っている!」
壇上では、ちんまりとしたこの学園の理事長、秋川やよい理事長がハキハキと挨拶をしている。
フロアを見ると、シンボリルドルフ会長を始めとする生徒会のメンバーなどもおり、トレセン学園に入学したんだという意識を一層感じさせる。
……はずなのだが、
「ね、みてみて!ルドルフ会長じゃない?」
「……ちょっとディープうるさい」
ディープはさっきから興奮しているのか、なかなかなうるささで、ちょっとした雰囲気の違いすら感じる暇がない。
ほら、周りの子たちもちょっと変なやつ見る目になってるよ?
「それでは!教室に向かってください。これからの指導方針や皆さんの自己紹介をされたりする時間がこれからありますので」
その理事長補佐のたずなさんの声でみんなが一斉に立ち上がり、教室へ戻る。
そういえば、クラスというのはなんでも寮の部屋でだいたい決まっているらしく、私とディープは同じクラスであった。
……よかった。誰も話せない人だったらちょっと怖いしね。ディープとなら話せるし、一人話せる人がいるだけで他の人に話しかけるハードルもぐっと下がるしね。
と、教室についた私達は教師の到着を待ち、到着し次第自己紹介を始め、恙無く自己紹介を終えたのだった。
数日後、私達は春晴れの空の下、せっせと足を動かしていた。
「はい!もっと走らんか!」
教官のこの先生は現役時は重賞を勝っており、一番教えるのが上手な先生という評判だが、その代わり一番厳しいとも言われている。
実際……
「おい!ディープインパクト!前に出すぎだ!」
ディープはいつも前に前に出るくせがあったのをめちゃくちゃに怒られていた。
「お前はそれが治れば天下が取れるんだから!」
最も、明らかにそれが期待ゆえの言葉であることは簡単にわかるので、皆羨ましがることあっても、かわいそうと思うことはなかったんだけど。
「クワイエットゴア!お前はその調子だ!いいぞ!」
……なぜか私も気に入られてるみたいなんだけどね。
「よーし!あと一周したら集合!」
唐突に教官の声が響き、それぞれ一周を終え、教官の前に並ぶ。
「今日はこれから実践形式のタイムを測ってもらう。7人の3組でちょっど21人分だ。組み合わせは……」
教官が名前を言っていき、はい!という返事ともに7人ずつ列をなしていく。
「次!ディープインパクト!その次はクワイエットゴア!」
3組目の1番目と2番目に呼ばれた私達は、思わず目を合わせて笑った。私達はずっと前からいつか競争しようとずっと言ってきたのだ。
他の子たちもなかなか気合十分といったところで、みな教官がなにか言う前に体を伸ばしたりしている。
早速というか、さっきまで走っていた体の火照りが冷めないうちにと早速一番目の子たちがゲートに押し込まれる。
ガチャ、と音がしてしっかり集中して見ていたが、勝負は呆気なく終わった。
アドマイヤジャパンちゃんが好位から抜け出して、大差圧勝。
続く二回目は、ローゼンクロイツちゃんとシックスセンスちゃんが競り合って一着二着、そこから大差。
ちなみにこのレースはすべてが芝2000mで行われており、まだデビュー前のわたしたちには過酷な距離となっている。
そのため、良い走りをしたアドマイヤジャパンちゃんとローゼンクロイツちゃん、シックスセンスちゃんを教官はよく褒め、他の子たちにもスタミナの大切さを説いていた。
そうして、ついに私達の出番だ。ゲートの中で私は闘争心に満たされる。それはディープも同じようで、隣の枠からは食い殺さんほどの圧が感じられる。
ガチャンとゲートが開いた瞬間、数メートル先に飛ぶイメージで地面を蹴る。
その瞬間、私は圧倒的なほど前に飛び出していた。
よし!このまま!私は最初からかっ飛ばす勢い……とにかく自分のペースでレースを進める。
カラカラ晴れの空が気持ちいい。自分の足音以外聞こえない。……ん?これがもしかして……
「これがもしかして、スズカさんが言っていた、先頭の景色?」
実は私は大人数でレース形式をするのが初めてだったりする。
なるほど、スズカさんもそりゃ走るのにハマるわけだ。そう思ってあまりあるほどの高揚感。脳は落ち着いているはずなのに、自然に口角が上がる、
私ならもっと行ける。大ケヤキを通過して、どんどんもっと加速する。
楽しい、楽しい!走るのって楽しい!コーナーも抜けて、視界があのときのように切り替わりかけて……異変に気づく。
後方も後方、それも20馬身では利かないほど遠くから、刺し殺さんばかりの威圧感を感じる。
その瞬間、切り替わろうとしていた意識はレース場に戻ってきた。
私はそれを気にせず、いつものようにスパートをかける。私ならここから差し馬を超えるスピードで上がれる。
思いっきり踏み込んだ足を蹴り出す。その瞬間、とてつもない加速が私を襲う。
ああ、これだよ……!気持ちいい!これが先頭の景色……!
先程までの刺し殺さんばかりの視線は気にならなくなった。
自らが持つ力をただただ出し切る。後ろなんて気にしなくっていいんだ。
私は一着でゴールに飛び込んだ。
続いてディープ、そこからまたちょっと経って他の子たちも飛び込んでくる。
「クワイエットゴア……ディープインパクト……お前たちは……」
教官の方を見ると、教官はただ呆然としてこちらを見てくる。
「全く……タイム!クワイエットゴア!1分56秒5!ディープインパクトは1分57秒6!以下は……」
全員分のタイムを言っていく教官。
「着差は、大差、大差、以下ハナクビ、……そこからは団子でわからん」
教官は深呼吸して講評を行っていく。
「タイムだが……ディープインパクトまで皐月賞レコードを超えている。それにディープインパクトは上がり32秒9。よく最終コーナーから30馬身近くあった差を1秒差まで縮めたな。そして……」
教官は私を呆れたように見る。
「お前は、上がりは33秒9……これだけでも大逃げ馬としてはおかしいが、1000メートル通過が57秒台……そこからはどんどん加速していくんだから……!信じられん。本当に新入生なのか?」
現役を思い出したのか目を輝かせながら私を見つめる教官。
「差足のディープインパクトが勇者なら、絶対に届かせない逃げ足のクワイエットゴアは魔王だな」
それを聞いて、さっきまで真剣な顔をしていた他の子たちも笑いだす。
「あはははは!そうだ!刺し殺す気で加速したのに全然届かなかったもん!」
「刺し殺しに来てたの!?」
だからやけに殺意を感じたわけだ……!
「それにしても、私はもしかすると歴史的な一世代の教官を務めてるかもしれん。……これまでよりずっとお前たちに期待してる。何なら夢を見ているのかもしれない。お前たちが夢を見せたんだ。責任取れよ?」
少しからかうような笑みを浮かべながら、ディープと私を交互に見てくる。
私はディープと目を合わせてふたりで頷く。
「「任せてください!」」