夢のサイレンススズカ産駒、ウマ娘世界でターフを駆ける 作:うどんそば
タイムをとって、しばらくして、順調にレースについての知識を身につけていった私達はついに選抜レースの時期になった。……が
「ねえ、緊張……する?」
「いいや?しない」
周囲のみんなが緊張しているというのに、私とディープはといえば、いつも以上にリラックスしていた。
なぜだかはわからないが、なんというか、最近よく私とディープが練習しているところにスカウトのトレーナーがしょっちゅう来ているので、もうトレーナーたちがいる目の前で走るのに慣れているからだ。
「あーあ、あんなに緊張して……そんなんじゃ、力出せないよ?」
ディープがつぶやく。
周囲を見渡すと、明らかに緊張による体の震えで忙しない子などもいる。
「まあ、わからくもないけどね?」
ここで結果が残せなければ、トレーナーがつかない、チームに入れない……そして、走れない可能性まであるのだ。メイクデビューすら出られないなんて言うことは流石に避けたいものだろう。
そこまで考えて、次の方ーと呼ばれたので、次の出番である私は立ち上がる。
「じゃ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
ディープはその次。私が勝って、ディープにバトンを繋げますかね。
会場に出たとき、トレーナーさん達は一瞬静かになった。うーん……ぼそぼそ聞こえる声によると、仕上がりが選抜レースのレベルじゃないらしい。……と言われても、別になんかしてるわけじゃないんだけどなあ。
結果は圧勝だった。呆気な。なんか逃げてたら、後ろの子たちはみんな垂れてて、何馬身かわからないほどの差が着いていた。後ろを見たら、まだ誰もゴールしてなかったからびっくりした。それからしばらくして、私のもとに、トレーナさんたちが押しかけてきた。
「どうか私を担当に!」
「海外だって夢じゃない!一緒に凱旋門を目指そう!」
様々な方向からいろいろ言われるが、私は行きたいと思っているチームがある。
「待ってください!私は目指しているチームがあるので!」
そう声を上げると、トレーナーさんたちは残念そうな顔をしながら去っていった。このトレセン学園には、有名なチームがいくつもある。G1級競争を何十勝もしているチームもある。そういったチームに行くと思われてるのか。と思っていると、さっき私に押しかけていたトレーナーさん達から歓声が上がった。
歓声の先を見ると、ディープがありえない末脚で上がって、大差勝ちを収めた瞬間だった。
私を取れなかったトレーナーさん達は、果敢にもディープにアタックしているが、あえなく皆振られているみたいだ。
「おーい、ディープー!」
「はーい!すぐ行くよー!」
ディープは残ったトレーナーさん達に丁寧にお辞儀して、こちらへ走ってくる。
「おまたせ!ゴアはこれまたすごい勝ち方だったねえ」
「いやいや、ディープもでしょ?」
「そう?ありがとね。じゃ、行こうよ!」
「そうだね」
私達は、選抜レース後に、ある場所に行こうと約束していた。
……というわけで、私達は揃って駆け出す。目指すは部室棟。流石に建物内では走らないけど、私達は楽しみな気持ちが抑えれず、ニヤニヤしながら速歩きで先を急いでしまう。おそらく、周囲から見れば、さぞ奇妙な光景であることだろう。
目的の場所にたどり着くと、今になって緊張してきた。
「ねえ……緊張するね」
「うん……」
そうかあ選抜レースのときのあの子達って、もしかしてこんな気持だったのだろうか。そう考えると、あんなに緊張するのも頷ける。
一つ大きな深呼吸をして、ゆっくり扉を開ける。
「ん?……ああ、いらっしゃい」
「ゴアちゃんとディープちゃん?」
中にはのんびりお茶をしているトレーナーさんとスズカさんがいた。
「選抜レースお疲れ様。君たちもお茶どう?」
「あ、いただきます」
トレーナーさんは手際よくお茶を淹れると、カップに注ぎ、私達の前に出した。
「みたよ?さっきの選抜レース。いやいや、君たちはほんとにすごいな。ゴアに関しては、目測20以上はついてたぞ?みんな早々に潰れちゃうし、一人だけものすごい逃げ方するし……
ディープはなに?あの足。びっくりしたなあ。みんな唖然としてたよ。上がりものすごいタイムが出たんじゃないか?
しかも二人共本気で走ってなかったでしょ?君たちの教官の子居たでしょ?あの子と仲良くって、タイムの結果とか教えてもらってたんだけど……控え目に言っても、どっちも世紀に名を残すレベルだよ。」
ゆっくりじっくりとお茶を淹れながら、そう話すトレーナーさん。
「さて……今日来たってことは、入部したいの?」
トレーナーさんは穏やかな顔でそう聞いてくる。
「もちろんです!」
「でも、君たちなら正直引く手数多だと思うし、俺なんてスズカしか担当したことのないひよっこだ。それでもいいの?ゴアはまだしも、ディープは差しが向いてると思うんだが……その差しの経験もない。」
ディープの元気な返事に、諭すようにそう言うトレーナーさん。
「大丈夫です!入学してからずっと、ここに入るために練習してきたも同然ですから!」
それでも、ディープは大きな声で入部の意思を告げる。
「じゃ、いいね。じゃあ、ゴアは……って、その様子じゃ、もう決まってるも同然か」
トレーナーさんは小さくため息をついてこちらを見る。
それもそうだ。真面目な話が繰り広げられている中、私とスズカさんといえば……
「ゴアちゃん?こっちも食べてみて」
「わぁ……!これも美味しいです!」
ふたりで寛いでお茶していたのだ!
「じゃ、この契約書にサインよろしくね」
トレーナーさんは引き出しから2枚入部契約書を取り出し、机に置く。
少し目を通してみるけど、入部することによって、勝利を保証するものではないよ、とか、割と当たり前のことが書かれている。
「なんか当然のことばっかり書いてあるんですねぇ」
「ああ……もし勝たせてやれなかったときに、訴えられたりする人がいたらまずいからそうなったらしい」
「じゃ、私達には関係ないですね」
「へぇ……なんか自信満々だなあ」
「だってトレーナーさん、私達が未勝利で終わること、あると思います?」
「ないな……流石にオープンまでは上がれるだろ」
「でしょ?オープンまで上がれたら文句ありませんよ。それ以降勝てなくたって」
そう。別にオープンさえ上がれれば、たとえそこからいくら負けたとてなんのせいにするつもりもない。そこからは純粋な努力勝負なのだから。
……まあ、勿論野望はある。国際GI10勝したい。多分無理だけど、海外も勝ちたい。スズカさんの背中を追い越したい。うん。
「できたー!これでいいですか?」
ディープはというと、恐らく読んでいないのであろう速度で何枚かの書類のサインを終え、機嫌良さそうにしっぽを振っている。
「一応私もできました」
私もぱっと終わらせてトレーナーさんに渡す。
「よし。これをじゃあ出してくるから、また明日ね。明日はじゃあ……入部パーティーってことで!」
「ゴアちゃん、ディープちゃん。これからよろしくね」
二人からそう言葉をかけられ、ディープと顔を見合わせる。
少なくとも、ここのチームなら楽しくやっていけそうだ。と、二人で笑みを浮かべると、もう楽しい気持ちになっていることに気づいた。