夢のサイレンススズカ産駒、ウマ娘世界でターフを駆ける 作:うどんそば
喋りながら話すのは、めちゃくちゃきつい。話すと呼吸が乱れるし、集中力も途切れるし、いいことなんかない……ように見える。
ただ、私はというと、このトレーニングを指示したトレーナーさんに、恨みの気持ちと感謝の気持ちを抱いていた。
なぜかというと……
「ゴアちゃんはいつから走ることが好きだったの?」
にこやかに私とお話してくれるスズカさんがいるからだ。
「そうですね……割と物心ついたときにはもう走ってましたね……」
「そうなの?私もそんな感じだけど……走ることしかしてなかったからちょっと心配されたりして」
「あー、私もありました!結構怒られて精神に来るんですよ……」
「心配してくれているのが伝わってくるから……私もあったわ……」
スズカさんは懐かしむような様子でそう語る。
「……っと、もうこんな時間!そろそろ帰りましょうか」
持ってきていた時計を見ると、今は6時すぎ。出発は3時位なので、約3時間かけて走ってきたことになる。
でも、帰ったときには9時ということ?
「間に合わなくないですか?」
「大丈夫よ。このメニューはね、ここからは全力で帰るのよ」
「え?」
やばい言葉が聞こえた気がする。ここから、ウマ娘がランニングで3時間掛かる道のりを全力で?山も超えたし、県も越えたのに?私てっきりこのペースで帰ると思ってたから体力ないよ?
「……マジですか?」
「ほんとよ?そろそろいきましょ?」
スズカさんは物凄いスピードで駆け出していく、私も思いっきり駆け出す。
ついた頃には私どうなってるかな……
校門をくぐったとき、時計を見てみると7時すぎだった。基本寮の門限が9時までで、それまでトレーニングをするが、許可証を出せば延長もオッケーみたいな感なので、あれから1時間で帰ってきた私達はあと1時間位はまだトレーニングできることになる。
「帰ってきたか」
「ただいまです……」
疲労困憊の私はトレーナーさんに報告する。
「スズカとおんなじ時間に帰ってくるとは予想外だったな」
「ゴアちゃんったら、私にしっかりついてきてたんですよ?息を切らしながら」
少し驚いた顔のトレーナーさんに嬉しそうな顔でそういうスズカさん。
スズカさんのペースは化け物で、私は多少体力に自信があったのに、後半は正直余裕綽々といった様子で走るスズカさんについていくことしかできなかったのだ。
「まあ、ゴアはこれからスズカと同じくらいの余裕を残してこのメニューできるようになるまでずっとこれな」
「ええー!そんなぁ!」
「一緒に頑張りましょうね?」
悪魔の宣告をされ、思わず項垂れてしまう。こんなのずっとしてたら体力が持たないでしょ!
……って、そういえばディープは?トレーナーさんとマンツーマンだったんでしょ?
「トレーナーさん、ディープはどこです?」
「ああ、ディープはそこだ」
トレーナーさんが指さした先には、シートの上で湯気を出しながら倒れているディープがいた。
え?あれ大丈夫なの?
「多分大丈夫だ。しっかりマッサージもしたし、脱力してるんだろう。……あっ!一応言っとくけど、筋肉痛なんて絶対残してならないくらいしっかりマッサージするからな。筋肉痛で休ませないように。」
「マジですか?可能なんですか?」
それ人知超えてない?
「疑うならスズカから聞いてみるといい」
「私はここに来てから筋肉痛はなったことないわ」
まじかよ……!トレーナーさんがバグってない?
「じゃ、寝っ転がって?」
トレーナーさんはシートを引いた上に指をさす。
私はそこに腹ばいに寝っ転がる。
「じゃー、行くぞー」
「はーい。ふぁ!」
変な声が出てしまった……!
ゆっくりトレーナーさんは気持ちいいところを的確にもみほぐしていく。
「ふぅ……うぅ!はぁ……」
「おいおい、勘違いされるから変な声出すな」
「あっ!だって、気持ちいいんだもんっあ!」
「じゃあ、下手に声我慢しないほうがいいだろ」
いやいや、それが恥ずかしいのよ……でも、この声もはずかしいしね……どうせ恥ずかしいなら……
「あ゛あ゛あ゛ーーー!気持ちいいー……」
「ぶあっはっはっは!」
「ふふふっふふ!」
私の声を聞いてトレーナーさんとスズカさんは笑いだす。
……へ?そんな変な声出てた?
「いや、くっ!ははっ!おまえ、おっさんかよ……!」
くふふ!っと笑いながらそう言ってくるトレーナーさん。
トレーナーさんは落ち着くと、もう一度背中に手をおいて、マッサージを始めた。
マッサージがおわると、私は眠ってしまっていたディープを起こし、寮に戻り最低限のことをしたあと気絶するように眠ったが、翌日確かに今までで一番動いたはずなのに筋肉痛は一切なかったことに驚いた。
しばらくずっとおんなじトレーニングを続けて、私も少しは慣れてきた頃、トレーナーさんからダートコースへ来いとのお達しを頂いた。
「トレーナーさん?なんでダートコースなんです?」
「そりゃ、まだお前ダートの記録取ってないだろう?」
そういえばそうだった。最近スズカさんとの走り込みで海に出向き、砂浜トレーニングしてきてから帰ってくる。と、強度を上げたため、正直忘れてた。
「お前忘れてたろ……ま、砂浜トレーニングはダートの練習ってこった。んで、これだけタイム取るまでに時間かかった理由だが……貸し切りするまでに時間がかかったからだ。」
「そういえば、なんで貸し切りのダートコースで取るんです?」
周囲を見渡すと、人っ子一人いない。いるのは私とトレーナーさんだけだ。
「お前のタイムを見られたくないからだ。まだどこの陣営もお前はきっと芝路線で来ると思い込んでる。まあ、まさか混合路線で来るなんて思わないだろうからな。」
そして、トレーナーさんはメモを見ながら話す。
「しかも始めてのダートはBCジュベナイルだろう?アメリカなんてダートの本場……化け物だらけなんだから、マークなんてされたらかなわん。ここにもスパイはいっぱいいるんだ。だからこその貸し切りってわけだ。」
「なるほど……」
たしかにそうだ。私の走り方なんて、潰れる覚悟で全力でハナを取ってしまえば何もできないんだ。トレーナーさんがいて助かった……!
「じゃ、タイム取るからゲート入って。体まだ冷えてないな?」
「もちろん!さっき走ってきたから!」
私はゲートに入ると、しっかり集中する。そうして、ゲートが開いた瞬間、既に私は一歩先に飛んでいた。
よし!スタートはいい。
最初っから飛ばさないと。しっかりとね……!
にしてもふかいねえ、やっぱ芝走ってるのと全然違う。でも、これなら多分、ずっと加速もできる。
芝じゃあ足に負担かかって無理だけど、ダートならね!
どんどんとスピードを上げていく。
コーナーに差し掛かって、思いっきり息を吸い込む。
大丈夫だ。スズカさんとのトレーニングで肺活量も、心臓も、全て強くなった。
思いっきり地面を蹴る。まだコーナー中間だけど、もうトップスピードだ。
少し膨らんじゃったけど、問題なく直線に出て、あとはもう駆け抜けるだけ!
その瞬間、脳裏に景色が流れ込んできた。
黒いコートを着た美しい栗毛の子がいる。
その左には、真っ黒な青鹿毛の子がぶすっとした顔で立っている。
「ふふっ!思ってたよりずっっっと、早くここに来たね」
「ふん!まあな……認めてねえわけじゃねえよ」
「そう言いながらブスくれちゃって……まあジュニアのときの私達よりずっと速いもんね?」
「うるせえ!」
二人はなかよく?会話している様子だったが、しっかりとこっちを見据えてきた。
「はじめまして。クワイエットゴアちゃん?」
「まア、よろしくな」
しっかりと目を見つめてくる二人に私は、云われようのない安心感を感じた。