夢のサイレンススズカ産駒、ウマ娘世界でターフを駆ける 作:うどんそば
「ちなみに、これがはじめて本気で走ったダートって本当にすごいからね?」
栗毛の子は興奮したような声で言う。
「認めたくねえがな……」
青鹿毛の子も渋々頷く。
「え……っと?」
私はと言うと、この奇妙な空間、先程まで走っていたはずという意識から、困惑していた。
「ああ、ごめんごめん!はじめまして、だったね。いっつも見てたから、初対面なこと忘れちゃってた!……コホン。私はイージーゴアって言います。多分名前くらいは聞いたことあるんじゃないかな?」
「アタシはサンデーサイレンス……ま、ゴアを知ってるなら知ってるだろ」
私は間違いなく歴史に名が残っている二人に驚愕する。二人は、アメリカの三冠を熱く盛り上げ、伝説を作った二人だからだ。
「ほ、本物……?」
「本物……なのかな?なんだか家でゆっくりしてると、たまーにこっちに飛ばされてくるんだよね」
「それって大丈夫なんですか?」
あはは、と笑ってるゴアさんは、本当に何考えず、まるで楽しそうだからいいよ、といっているようだ。ちらり、とサンデーサイレンスさんを見てみると、こちらは苦い顔をしながらも、満更でもなさそうな雰囲気を持っている。
「そういえば、さっき、やっと来た。っていってましたけど、どういうことなんですか?」
「ああ、あれね。あれはねえ……あ、さっき、たまーに飛ばされてくるっていったじゃん?あれ、私達もなんで飛ばされるのか正しくはわかってないんだけど……私も、サイレンスも、君に力を貸してあげたいくらい気にいっちゃったんだ」
少しニヤリとするゴアさんに溜め息をついて、サイレンスさんも話しだした。
「はあ……気に入ったから、アタシらの力を貸してやるって言ってんの」
「……え?お二人の力を?」
「そうだ。……ま、アタシらが力を貸してやれるのはダートのときだけだ。しかも日本のダートは馬鹿みたいに重いじゃねえか。アメリカなら充分貸してやるが……あんま期待すんじゃねえぞ」
「ビッグレッドと呼ばれた私ですら流石に日本に完全に対応するのは難しいかな。でもさ」
「ああ。アタシらは仮にもアメリカ三冠を分け合い、一つの熱狂を生み出したんだ」
「少しくらい、できることはあるでしょ?」
ゴアさんとサイレンスさんは私に近づいてきて、メラメラと燃えるなにかの珠を私の体に押し込んだ。
「今はこれだけだ。なんにもなしにアタシらが全部貸すことはねえ」
「君が大切なことに気づいたとき……その時には、今度こそ全部貸したげるから」
お二人はまだすべての力を貸したわけではないという。だが、私は体の中から溢れ出る力にびっくりしていた。これがアメリカ三冠を分け合った二人……その底しれなさに、少し恐ろしさを感じる。
「おいおい。そんな怯えた顔すんなよ。アタシらからすると、おめーのが怖えよ」
「そうだよ!だってさ、私達より、ずっと強くなっちゃうような気がするんだもん!」
そこまで聞くと、私は体が透けてきているのがわかった。
「え?」
「おっと、お別れの時間かな?」
「まあ、頑張れよ」
少し寂しそうに笑うゴアさんとぶっきらぼうに応援の言葉をくれるサイレンスさん。私はこの二人に、まるで祖父母に感じるような親近感を覚える。
「ありがとうございました!皆さんに並べるように、一生懸命頑張ります!」
「威勢いいねえ、頑張ってね!応援してるよ!」
「は!俺たちに並びたいんなら、タイムに驚くなよ?」
え?と聞こうとして、声を出そうとして、口を開いた瞬間、目の前の景色は、最終直線に戻った。
体に当たる風を気にせず、さっきのことが気にかかりながら、大きく踏み込んだ。
その瞬間、まるで飛ぶような感覚を覚えた。私は想像以上先に飛んでいき、とてつもないスピードに達した。まるでダートじゃないみたいだ。
ストライドを大きく、大きく使って、テレビで見たイージーゴアさんの走り方を真似する。更にスピードに乗って、これまで感じたことのない爽快感に体を預ける。
ゴールが見えた。そう思った瞬間、私はゴール板を通り過ぎていた。
大きく、大きく深呼吸をする。さっきのがお二人の力だったんだろうか。今までの私のは絶対になかった圧倒的なパワーとフォーム、大きなストライド。そして……
「ゴア、怪我は?」
「特にはなさそうです。少し疲れましたが」
「なら良かった。……ほら、タイムだ」
トレーナーさんから見せられたストップウォッチには、確かに、2分ジャストとあった。
「なあ……ゴア、お前、イージーゴアの生まれ変わりだったりしないか?」
「え?そんなことないですけど……ていうか、まだゴアさん生きてらっしゃるじゃないですか」
「まあ、そうなんだけど……俺が昔、アメリカで見たイージーゴアに、お前がものすごく似てたんだ」
トレーナーさんは私の髪を撫で始める。スズカさんとよく似ているとよく言われ、大好きな髪。
「お前はビッグレッドにはなれないかもしれないが、間違いなくスモールレッドにはなれるかもな」
「もしかして、身長小さいこと煽ってます?」
「さあどうだろうな」
「この」
私はトレーナーさんのスネを蹴る。トレーナーさんはうずくまってしまったが。この学園にいるトレーナーはなぜか皆耐久力がものすごいので、きっとほっとけばケロッとしていることだろう。
ちらっとバインダーに挟まれた紙に目をやる。
トレーナーさん手書きの字で、芝のときのタイム、さっきのダートのタイム、そして無数に書かれた他の子の資料……そして大きな丸とともに、これなら行ける!彼女を信じる。と走り書きされている。
私はそれを見て少し広角が上がる。んふふ……なんだかんだ信頼してくれてんじゃん?
バインダーに挟んであるペンを抜き取り、紙に書き足す。
絶対行ける!私とみんななら!と書いて、トレーナーさん、スズカさん、ディープ、私。そして、ゴアさんとサイレンスさんの似顔絵を小さく書いてトレーナーさんの近くに置く。
「私お水飲んできますね!」
「お、おう……!」
未だにうずくまっているトレーナーさんを尻目に水を飲みに行く。タオルで汗も拭きたいしね。……にしても、ちょっとやりすぎたかもしれない。反省反省。
水を飲んで、トレーナーさんのところへ帰ってくると、さすがにトレーナーさんは復活していた。
「あっ!トレーナーさん。復活したんだ」
「全く……ひどい目にあったな……」
「あはは、私をいじったトレーナーさんが悪い!」
トレーナーさんは少しいじけたように目を逸した。
「黙ってりゃかわいいのに……」
「へ!?」
い、今なんて?
「い、いやいやいや!わ、私なんて可愛くなんてないですって!」
「ちまっこいのもかわいい一端になってるのに……」
だめって!私かわいいなんて言われたことないから恥ずかしい!
「ちょっとトレーナーさん?かわいいっていうのはだめというか……!」
「え?……ふーん」
トレーナーさんはようやく目を合わせると、赤くなった私に気がついたのか、ニヤッと笑って、
「いやあ、ゴアは可愛いなあ」
「うう……」
だめだ。この人振り切れてる!
それから予約の時間が終わり、他の子達のトレーナーさんに注意されるまで、この猛攻は続いた。はずかしぬ。