王様系美少女がいる終末世界 作:アンコール
「──ギィァァァアァァア!!!」
鳴り響くのは威嚇の咆哮。吹き荒れるのは死を思わせる血の臭いを撒き散らす暴風。
それを放つのは、黒く巨大な狼だった。ダラダラと大量の唾液を垂らし、獰猛な赤い瞳が獲物を貫く。
それを前にするのは、弱々しい獲物──一人の幼い少女だった。
「……ぁ、あ……あ、あ……」
目の前に漂う死の臭いに、少女の
そして、少女の脳裏に絶望が過る。
(わたしは……なん、で……)
僅かに思考するのは何故と言う疑問。死を直前に回る脳は、だがそれしか見出さない。否、見出せない。
少女に記憶はない。ただ一つ分かることは、ここで突然目を覚ましたこと。言うなれば記憶喪失に近い状態であった。
そして、立ち上がろうとし、次の瞬間響いたのだ。己を狙う獰猛なうなり声が。
「……やだ」
身の丈よりも大きな、一口で小柄な少女など丸呑みに出来てしまうであろう黒狼。それは、少女に対する警戒を完全に解いたのだろう。
ガパ、と大きく口を開いた。
「ガァァアアアァア!!!」
そして、やけにゆっくりとした世界の中、歪な鳴き声と共にその黒い喉奥が少女の瞳に映る。
酷い死臭が少女の鼻をつく。段々と迫る鋭い牙が捉えられ、そして少女はポツリと呟いた。
「死にたく、ないです……」
それは弱々しく世界に響く。だがそれを聞き入れる人物などこの黒に染まった大地にはない。荒野が広がり、植物一本すら生えていないこの世界では、『生き物』と言う存在自体が稀であるのだ。
そして、ただ無情にも牙が少女を貫こうとし──。
「──よく言ったわ!!!」
──阻まれた。
ガキン、と。何か固い物にぶつかりガラスが割れるような音が鳴る。同時、局所的な台風が巻き起こった。
次いでバキバキと地面にひびが入る。それは、余りの重量を小さな『何か』が受け止めていたから。
「そうよ!貴女はここで死んで良い訳ないの!! だから安心して後のことは私に任せなさい!!
この世界最強の存在こと──」
少女の瞳に映っていたのは、己より少し年齢の上の女だった。少女よりも長い黒曜石のような漆黒の髪に、爛々とした意思を煌めかせる銀の瞳。のっぺりとした鏡のようなその瞳が、ニコリと笑う。
一目見れば『か弱そう』と言う意見が出てくるであろうその外見と反し、女は閉じようとする巨大な口を無理やり押さえつけながら、カラカラと笑い快活に言い放った。
「──ノア・アンノールにね!!!」