SAO 〜しかしあいつは男だ〜   作:置物

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おいぃぃ!まだゲーム始まんねぇのかよぉぉ!(某侍風
いや、次こそ、次こそアルヴヘイムが始まるはず…



episode19 キリト「僅かな可能性にも縋りたいんだ」

SAOから帰還して早数ヶ月。

俺は家から自転車で僅か15分で着くほどの距離にある病院に通い詰めていた。

自転車を駐輪場に止め、受付で面会の許可を貰い、すれ違うナースさんと挨拶を交わして目的の病室の前にたどり着く。

病室の扉には『木葉花林 様』と書かれた銀色のネームプレートを見て目的の部屋であることを確認しスライドドアを開いた。

個室なだけあってあまり広さはないその病室の窓際に設置されたベッドの上に、白衣を着たコノハが眠っている。それだけならまだいいが、その頭には俺たちを長年仮想世界(SAO)に縛り付けたナーヴギアが現在も稼働している事を告げる三つの緑光を放っている。

 

 

「なぁ、いつまで寝てるんだよ。寝坊助にも程があるぜ」

 

 

側に置いてある椅子に座り話しかけるが、コノハは目を閉じたまま反応を見せない。

SAOをクリアし、数多くのプレイヤーが長い眠りから覚めた中、コノハを含め約五百人近くは今だに目を覚まさない。それを聞いたのは俺が目覚めてから数時間後の話だ。

エギルからパソコンを借りて各病院の入院者の名簿を覗いている時、総務省SAO対策本部を名乗る男が息を切らせて病室に駆け込んできた。

その大層な肩書きを持った男は頭を下げ傍観する事しか出来なくてすまないと謝ってきたが、それは仕方ない事だ。下手にちょっかいを出して2万人の脳が焼き切れたりしたなら一体誰が責任を取れるというのか。

しかしここで俺は喉元に骨が刺さったような僅かな違和感を感じた。

俺は彼らが尽力し、ギリギリの所でコノハを助け出したと思ったが、傍観しか出来なくてと言った。ならコノハは誰に助けられたのか?

彼らがここに来たのは外からプレイヤーのステータスと座標を観測していたらしく、レベルと位置から上位プレイヤーと思われる俺の所に何があったかを聞きに来たようだ。

俺はそれを教える代わりに俺が知りたいこと、コノハ、木葉花林が今どこにいるかを教える事を要求した。

男はわかったと言って携帯で何度か電話をかけ、困惑した表情でこう返してきた。

 

 

『木葉花林君は、ここからそう遠くない病院に入院しているが、彼はまだ覚醒していない。彼だけでなく、全国で約五百人のプレイヤーが目を覚ましてないようだ』

 

 

最初はサーバーの処理に伴うタイムラグかと思われていたが、ついにこの日まで彼らは帰ってこなかった。

世間では行方不明の茅場晶彦の陰謀が継続しているのだと騒がれていたが、それはないと俺は思っている。

あの時、アインクラッドが崩壊を迎えた時に見た男の顔は陰謀を働こうといった顔ではなく、自身の世界の終わりを見守る静かな表情だった。

 

 

「そういえばエギルの奴、ずっと奥さんに任せてた喫茶店をジム兼喫茶店にしたんだぜ?絶対駄目だろと思ったけど物珍しさからか結構繁盛してさ」

 

 

反応しないコノハに最近あったことを話している途中でガラッと、病室の扉が開く。振り向くと、そこに立っていたのはコノハの父親である桐継さんと一人の男だった。いつも家で見る時のようなボサボサ頭に甚平、気怠げな雰囲気ではなく、髪は整え、メガネをかけ、スーツの上から白衣という研究者スタイルだ。顎に蓄えられた髭だけは変わらずだが。しかし後ろに控えている男は誰だろうか?

 

 

「いつも見舞いありがとよカズ」

「こんにちは、お邪魔してます桐継さん」

「別に邪魔なんて思ってねぇしガンガン来てくれよ。コイツも喜ぶだろうしな」

 

 

そう言って桐継さんは横にコノハの横に立ちコノハを見下ろす。コノハに似た吊り目は、どことなく悲しそうな雰囲気がした。数多くのSAOプレイヤーが帰って来た中、自分の息子が帰って来ていないのだ。やはり寂しいのだろう。

 

 

「おっと、そういやカズは初対面だったな。コイツは俺の上司の須郷だ」

 

 

自分の上司をこいつ呼ばわりするとは…と驚きながら紹介された人物を見る。

 

 

「初めまして、須郷伸之です。君のことは桐継さんから聞いてるよ、桐ヶ谷君」

「初めまして」

 

 

差し出された手に手を出して握手するが、なんだろう、初対面の人に言うのもアレだが、笑顔が胡散臭い。

 

 

「コイツすげぇんだぜ。この若さでウチの会社のフルダイブ技術研究部門の部長にしてALOの管理者だぜ?有能過ぎて羨ましい限りだ」

「ははっ、それほどでもないですよ」

「万年平の俺とは比べモンにならねぇよ。っと、そういや今日は少年ジャンプの発売日だったな。ちょっくら出るわ」

「木葉さん、いい歳した大人が少年ジャンプを読んでるなんて」

「いいじゃねぇか。男ってのは何歳になっても心はガキのまんまなんだよ。それに花林もジャンプ愛読者でな、帰ってきた時に抜けてる週があったら気になって暴れるかもしんねぇしよ。そんじゃ、またなカズ」

 

 

そう言って桐継さんは白衣を翻し、病室から静かに退室した。

残された俺と須郷さんは知り合いの知り合いという繋がりでしかないため、場の空気が重く感じる。

 

 

「桐ヶ谷君は、花林君と知り合って何年だい?」

 

 

場の空気に耐えれなくなったのか、はたまた会話をしたいと思ったのか須郷さんがその言葉を零す。

 

 

「私は5年かな。彼がこんなに小さい頃から僕は彼と桐継さんと親密な付き合いをしていたんだ」

 

 

そう言って懐から手帳を出し、すっと一枚の紙を出して俺に見せてくる。それは男二人が少し目つきの悪い少年の頬を両サイドから指で押している写真だった。

俺は最初なんでこんな写真を見せてきたんだと疑問に思ったが、それは一瞬にして消え去った。何故なら、二人の男は桐継さんと須郷さんだと分かり、真ん中の少年はコノハの面影を残していたからだ。

 

 

「他にもこんな事やこんな事もあったなぁ」

 

 

須郷はその写真を仕舞うと川で釣りをしている企み顔のコノハと桐継さんの写真、須郷さんと将棋を指し苦悶の表情を浮かべるコノハの写真と俺が知らなかったコノハの顔が映った写真を見せては仕舞いを繰り返す。

それらを見せつけられ、俺はぐぐぐ…と音が鳴るほど拳を握る。

 

 

「それで、須郷さんはそれらの写真を見せて何が言いたいんですか?」

 

 

俺は表情と声を平静に保ちながら質問すると、手帳を懐に仕舞って眼鏡を中指でくいっとする。

 

 

「羨ましいだろ?と言いたいだけだけど?」

「性格悪いな!?」

「まぁ2割は冗談だよ」

「8割本気だ!」

「それじゃ、僕は帰るよ。こう見えて忙しい身でね。桐継さんが来たら僕は帰ったと伝えて欲しい」

「もしかしたら桐継さんより先に帰るかもしれないぜ?」

「いや、君は面会時間一杯までここにいるだろう」

「どうしてそう思うんだよ」

「なんとなくだよ。そしてなんとなくだけど、また君とは何処かで会いそうな気がするよ」

 

 

それじゃ、また何処かで。何処かで聞いた事のある台詞と共に、須郷は病室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、シャワーを浴び、コノハの見舞いに行こうと玄関で靴を履いていた時、携帯にメールが届いた。

送り主は筋肉至上主義のエギルだった。また筋肉自慢か?とメールを開くと『これに写ってる人物を見たら店に来てくれ』と書かれた後に写真が一枚添付されていた。

筋肉の写真じゃありませんようにと祈りながら開くと、それは筋肉の写真ではなく何処かの景色だった。いや、特徴のある色合いやライティングからこれは現実世界ではなくポリゴン製の仮想世界だから何かのゲームの景色が正しいか。

大樹の幹を背景に、一つの鳥籠がぶら下がり、中には本棚や机、豪華なベッドがあるのが分かる。そしてベッドに腰掛ける人物が拡大して見ると、その顔に俺は見覚えがあった。

 

 

「コノハ…!?」

 

 

俺は病院に行く予定を取り下げ、病院とは真逆にあるエギルの店へ自転車で全速力で向かった。

エギルが経営する喫茶店兼バー兼ジムは、煤けた黒い木造だ。喫茶店兼バーの飲食部分はシックな造りで、奥に後付けされたジム部屋は近代的なトレーニング用品が敷き詰められている。ジムに通っている人曰く、シャワーも設置されていて、運動した後に軽い物を食べれるから素晴らしいらしい。

肩で息をしながらカランカランと乾いたベルを鳴らして入り口を開けると、カウンターの向こうでSAO時代と変わらないぐらいの肉体のエギルがニヤリと笑った。

俺はカウンターの椅子に座ると、エギルは「駆け付け一杯飲んどけ」と水の入ったグラスを俺に差し出す。それをぐいっと一気飲みし、落ち着いた俺は携帯でエギルから送られてきた写真を開きカウンターに置く。

 

 

「これはどういうことなんだ」

 

 

そう聞くとエギルはカウンターの下から一つのゲームパッケージを取り出し、俺に向けて滑らせる。

それを受け止めて見ると、ファンタジーを思わせる衣装を着た男女が飛んでいるイラストの下に《ALfheim Online》と書かれていた。

 

 

「アルヴヘイム・オンライン。オレたちがSAOに囚われている間に出来たナーヴギアの後継機、アミュスフィアで出来る今話題のVRMMOだ」

「どういったゲームなんだ?」

「アルヴヘイムは妖精の国という意味で、文字通りプレイヤーは妖精になるらしい」

「妖精…。まったり系なのか?」

「いやある意味えらいハードだ」

 

 

ハンドグリップで握力を鍛えながら、エギルは話す。

 

 

「なんでもレベルが存在せず、PK推奨のプレイヤースキル重視らしいからな。戦闘もプレイヤーの運動能力依存、剣技なし、魔法ありのSAOってとこだな。グラフィックや動きの精度もSAOに迫るらしい」

「そりゃ凄いな。PK推奨ってのは?」

「プレイヤーはキャラメイキングでいろんな妖精の種族を選ぶわけだが、違う種族間ならキル有りだと」

「確かにハードだな。けど、そんなマニア仕様でどうして人気なんだ?」

「理由は飛べるからだそうだ」

「飛べる?」

 

 

俺の持つパッケージをトントンとハンドグリップで叩くエギル。その先は少女の背中に薄く見える羽のような物だった。

 

 

「妖精だから羽がある。フライト・エンジンとやらを搭載してるらしくてな」

「へぇ……で、これがあの写真と何の関係が?」

「その写真はこの中で撮られた写真だ」

「な!?」

 

 

俺は手にしているパッケージをじっと見る。この世界にコノハが?いやでも何で?そもそもこれは正規版のゲームだよな?もしかしたら他人の空似の可能性も。俺の中で色々な仮説、可能性、否定が飛び交い始めた時、額に鋭い衝撃が襲いかかってきた。

 

 

「……!?!?」

「落ち着いたか?」

 

 

声の主を見ると、そいつは親指を曲げ、残り四指を開いた、所謂デコピンの放った後の形をした手をこちらに向けていた。つまりさっきの衝撃はこの男からのデコピンということになる。

俺は今も来る額の痛みに恨めしい目でエギルを見ると「すまんすまん」と言う。

 

 

「で、話の続きだが、この写真は世界樹と呼ばれる樹の上らしい。プレイヤーの当面の目標は、この樹の上にある城に到着することなんだそうだ」

「飛んでいけばいいじゃないか」

「いや、なんでも滞空時間ってのがあって、無限には飛べないそうだ。この樹の一番下の枝にすらたどり着けない。だが、どこにも馬鹿なことを考える奴がいるもんで、体格順に五人が肩車して多段ロケット方式で木の枝を目指したそうだ。目論見はうまく行ったが、あと少しの所で届かなかったそうだ。その時に到達した所を写真で撮った物を引き延ばしたのがこれだ」

 

 

もう一度写真とゲームのパッケージを見る。写真に写る人物は、他人の空似と言うには余りにも似過ぎている。ゲームのパッケージの細部を見ながら直接確かめるしかないのか?と思っているとふと、開発メーカーの名前に目が止まる。〈レクト・プログレス》。何処かで聞いた覚えがあるような…。

 

 

「なぁエギル、このソフト借りていいか?」

「行く気なのか?」

「あぁ、僅かな可能性でも俺は縋りたいんだ」

「そうか。なら頑張れよ。もしコノハだったらウチで盛大にパーティしようぜ」

「それいいな。勿論エギルの奢りでだな」

「おいおいそりゃねぇぜ」

 

 

そんな軽い会話をし、俺はエギルの店を出た。




エギルからアルヴヘイム・オンラインを借り、無理やりパーティをすることを約束させたキリト。しかしそんな彼に魔の手が迫っていた!
次回、「キリト死す」お楽しみに!

??「あはっ、何処に行ってたの、お兄ちゃん?」

※ごめんなさい嘘予告です
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