FILM RED公開一か月記念です!よければ読んでいってください!
ここはナユタケ島。美しい海と風、そして音楽が流れる場所。その島の端っこ、小さな砂浜では、ずんぐりむっくりとした大きなクマがぽつぽつと歩いていました。クマは近くに落ちていた小石を海へと投げて、それからため息をつきます。
「はぁ…もう、オイラはどうすればいいんだろ…もう、ラ・ミュージカまであと一か月しかないっていうのに…」
驚くべきことにクマは人の言葉が話せました。ずっとずっと小さいときに森に落ちていた虹色の木のみを食べてしまってから、なぜだか不思議と人間の言葉が話せたり、分かったりするようになったのです。
「はぁ…、ほんとに、おいらってどうしようもないクマだ…」
そういってまたため息を一つ。クマには自分ではどうしようも出来ないと思ってしまうほどの大きな、大きな悩み事がありました。ここ数日間、ずっとずっとそれのことばかり考えていましたが、あまり、頭の良くないクマには自分がどうすればいいのかがよく分からないのです。
こうして、海まで出てくれば良い考えでも浮かんでくるかと思っていましたが、どれだけこの美しい海を眺めても、どこまでも高く澄んだ空を眺めても、クマの悩みは解決しません。
「あぁ、やっぱり海に来たってなんも分かんないや…」
そう呟いた後、クマは、今までで一番に大きなため息をついて、それから逆の方向に歩き始めました。潮風のせいか、それとも他の何かのせいか、クマの瞳からはぽろぽろと涙がこぼれます。いくつもいくつも白い砂浜に落ちた大粒の涙は、しばらくその跡を残しました。クマにはもう何が何だか分かりません、自分がなぜ泣いているのか、“彼女”のために自分が思っている気持ちは嘘だったのか、その全てが分からないのです。クマはその大きな体とは裏腹に、実際はただの子供でした。まだ生まれて十五年とたっていない子供だったのです。
そうして、逃げるように来た道を戻っていたクマは、不意に、右足で何か蹴ったような感触を覚えました。下を見てみれば、そこの砂だけがやけに盛り上がっています。不思議に思ったクマが息を吹きかけると、その下には白い箱のようなものがあったのです。
「なんだ、これ。こんなの来た時にあったかな…」
クマが少し前、この砂浜を歩いてきたときには、こんな箱はありませんでした。2メートルほどもある大きな白い箱ですから、クマが気づかないはずもありません。それに、波で流されてきたにしてはやけに、綺麗な箱だったのです。気になったクマは、慎重にその箱を調べてみることにしました。丁寧に箱全体から砂を取り払き、少し砂に埋まっていた部分を掘り起こしてみれば、それは昔、人間の葬儀というものを見た時に知った棺にその意匠が似ていることに、クマは気が付きました。箱の側面にはご丁寧にも持ち手のような部分がついています。
「ひぃ…これ、まさか、人間の死体が入ってるんじゃ…骸骨でも、入ってたらどうしよう…おいら、呪われちゃうかも…」
根は怖がりのクマでしたが、しかし、好奇心だけは旺盛でした。恐る恐る、どうぞ、開けてくださいと言わんばかりにつけられた取っ手を引っ張ってみます。がちゃん、と大きな音がして棺が開いた後、クマは体を震わせて中身を覗きました。
驚くべきことに、そこに入っていたのは骸骨でも死体でもありませんでした。人間の女の子だったのです。半分の髪が赤く、そしてもう半分が白い、美しい人間の少女。その少女が、紫と白の綺麗な花たちに囲まれて入っていたのです。クマは急いで、首に手を当てて脈があることを確認しました。そして、その少女が生きていると知って安堵した後に、さて、どうしようかと考えました。
「えっと、さすがにこれ、どうしたらいいのか…」
その場で、しばらくこの少女をここにこのまま置いておくか、それとも自分の家で看病するかをクマは悩みました。そして、さすがにここに置くのは危険だろうと後者を選びました。人間はクマと違い貧弱でちょっとのことでも死んでしまいます。他の人間がここに来るまでに野生の獣にでも襲われたらひとたまりもないのです。それに、棺に眠る少女の顔はどことなく“彼女”に似ていました。じっと知人と似たこの小さな人間を見つめていると、自分が助けてやらねば、という気持ちが湧いてくるのでした。
「おいら、人間の看病何なんてやったことないんだけどな…」
クマはそうぼやいて棺を引きずって歩き始めます。棺は子供のクマにとっては随分と重くて、少し進むだけでも、もう息が荒れてしまいます。しかし、クマは汗一杯になりながら、一歩ずつ一歩ずつ、その棺を引っ張っていくのでした。