KAN-SENは歳を取らないⅡ   作:ペニーボイス

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ロイヤルへの発注品

 

 

 

 

 

 

 重桜

 海上防衛軍横須賀基地

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「襲撃者はミトロヴィッチがしくじって、あなたがまだ生きていることを知るでしょう…恐らくはもう知っていると考えるのが妥当ですわ。あなたのお母様も襲われたそうですが、幸いにもそちらは素人による襲撃で、お母様はどうにか切り抜けたようです。」

 

 

 オイゲンがフロリダでドアを開けた頃、遠く離れた重桜では新婚夫妻が重桜海上防衛軍の基地で遅めの昼食を取っていた。

 古風な割烹着を着た溌剌とした女性が"海軍カレー"を運んできて、ヨアヒムはその味に衝撃を受けている。

 てっきり重桜はSUSHI、TENPURA、SUKIYAKIの国だと思っていたのだが、まさかこんなモノまで隠し持っていたとは。

 普段から無口のエミリアはもはや一言も話さずに食事をしている。

 なんと恐ろしい、中央情報局に連絡しないと。

 ヨアヒムにとってはそれほど革新的な発見であったが、母親が襲われたと知ると流石にスプーンを置かざるをえない。

 

 

「母さんが?」

 

「はい。これで…あなたの職業に関連している線は消えたと考えて良いでしょう。」

 

 

 ヨアヒム・ルートヴィヒは中央情報局の職員でもある。

 妻には絶対に言えないが、実はこの新婚旅行はヨアヒムの次の任地の事前偵察という側面も持っていた。

 厄介な中東部門においてめげずに職務に専念した結果、ヨアヒムはその功績を認められて東アジア部門へと移動になったのだ。

 この人事異動は少なくとも左遷とは思えないもので、ヨアヒムは喜んでいる。

 近年の東煌の拡大政策によって、東アジア地域における安全保障の危機は日に日に高まっていた。

 中央情報局は何年も前から東アジアでの活動を中東のそれの上位に置いている。

 故に上層部はヨアヒムの能力を評価して、この前線に彼を送り込むと決めたと考えても差し支えはないだろう。

 

 

 天城はスナイパーによる暗殺未遂の原因を、ヨアヒムの職業に由来するものではないと断言した。

 ヨアヒムにとってもそれは妥当のように思える。

 彼はあくまで一介の情報局員であり、能力を認められたことは確かだが、何かの意思決定を下したり、常に重要な情報を持ったりするような立場ではない。

 東煌にとって、重桜におけるユニオン中央情報局の活動が目障りこの上ないことは確かだろうが、たかが情報局員1人のためにスナイパーを雇うとは考え辛かった。

 もしスナイパーがしくじり、ミトロヴィッチのような自害を躊躇ったせいで重桜側に身柄を拘束されれば、東煌政府は制裁の口実をみすみす相手に手渡すことになる。

 東煌がそんな賭けに出る時は余程の大物を狙う時だろう。

 違う。

 ヨアヒムは情報局員だったから狙われたわけじゃない。

 東煌政府が狙うには、獲物があまりに小さ過ぎる。

 恐らくは、ヨアヒムはプリンツ・オイゲンの一人息子だから狙われた。

 

 

「敵の狙いはあなたのお母様を挑発することでしょう。あなたが敵弾に倒れれば、お母様はきっと激昂する。精神的な安定を欠けば、敵も彼女を罠に嵌めやすい。重桜には昔からこんな諺があります。…"将を射んとする者はまず馬を射よ"。敵の本当の狙いは、あなたのお母様でしょう。」

 

「僕らがプロのスナイパーに狙われた理由は恐らくそれだろう。でも…今更母さんが狙われる理由がわからない。…大戦時の戦争に絡んでいるとすれば、嫌が応でもティルピッツ達の耳に入ったはずだ。」

 

「…私の考えを述べてもよろしいですか?」

 

「ああ」

 

「敵の狙いの本丸は、あなたでもあなたのお母様でもありません。きっと"我々"の方でしょう。」

 

「どういうことだ?」

 

「推測になりますが、敵はあなたとお母様を狙うことによって我々の動きを見ているのです。敵の目的はもっと別の方面にあり、私達の情報網がその障害になっている。」

 

 

 ヨアヒムは天城の背後で動きがあったのを見た。

 重桜海上防衛軍の戦闘服を着込んだ6人の男たちがゾロゾロと食堂に入ってきている。

 全員疲れた様子で、背負っていた大きなバックパックを自分の椅子の側に下ろす。

 やがて席に座ってメニュー表を読み始めたが、よほど疲れているのか戦闘帽を未だ目深に被っていた。

 

 

「…とにかく、敵は引き続きあなた達を狙うでしょう。」

 

 視線を目の前の天城に戻す。

 

「どこか安全な場所…例えばこの基地にいる必要があると。」

 

「飲み込みが早くて助かります。ここは重桜海上防衛軍の基地ですから、私の知人も多く働いています。彼らが助けになってくれるはずです。」

 

 

 束の間視線を天城から外す。

 彼女の奥の男たちは未だに戦闘帽を脱いでいない。

 ヨアヒムたちがここにきた時にも他の軍人たちがいたが、彼らは皆戦闘帽を脱いでいた。

 本当に疲れているらしい彼らは未だにメニュー表に見入っている。

 視線を再び天城に戻した。

 

 

「具体的には…どのくらいの期間に?」

 

「分かりません。脅威が無くなったと判断できるまで、となるでしょう。中央情報局には伝手がありますから、私から連絡を」

 

 

 視界の端で6人の男達が一斉に立ち上がったのが見えた。

 何事かと顔をそちらに向けたヨアヒムは、事情を察してこう叫んだ。

 

 

「伏せろッ!」

 

 

 隣のエミリアに覆いかぶさりながら、ヨアヒムは机の下に滑り込む。

 天城の反応も早く、彼らが机に潜り込んでから3秒後には手近の机を全て倒していた。

 

 6人の男たちはバックパックから取り出したMP5Kサブマシンガンで天城やヨアヒム、エミリアに向けて一斉射を見舞い始めた。

 全員が重桜海上防衛軍の戦闘服を着ているが、少なくとも重桜の防衛軍ではMP5Kを装備している部隊など存在しない。

 

 連射音が響き渡り、机には9mmの穴が次々と開いていく。

 と、その時甲高い音がして、6人の内の1人が倒れ込んだ。

 どうやら厨房の方から飛んできた何かが頭に命中し、もんどり打って倒れたらしい。

 

 ヨアヒムはエミリアを庇いながらも厨房の方へ注意を向ける。

 そこには先程"海軍カレー"を運んでいた割烹着の女性がいて、フライパン片手に仁王立ちしていた。

 

 

「ここは神聖なる食堂なるぞ!お主ら男児ゆえに喧嘩もあろうが…やるならば表に出、飛び道具なぞ使わず」

 

「喧嘩じゃありません、襲撃です!」

 

「しゅ、しゅーげき?」

 

 

 天城が叫び、割烹着が惚けた声を発する。

 途端に残り5名の銃口が割烹着に向けられた。

 MP5Kの銃口が再び銃弾を吐き出し始め、9mm弾が割烹着へと向かう。

 だが割烹着はどこか威風堂々とした様子で、フライパンに角度をつけて敵方へ向けながらも回避行動を取り始めた。

 

 

 彼女は横方向へと走り出し、サブマシンガンの銃口がそれを追う。

 2発がフライパンに当たったが入射角が浅かったのか2発とも弾かれる。

 5人の内の指揮官らしき1人がハンドサインを出し、銃撃者達はフォーメーションを取り始めた。

 机の下に伏せながらそれを見ていたヨアヒムには、それが訓練された人間の動きであることを見てとれる。

 こいつらもミトロヴィッチと同じくプロの類だろう。

 

 

 5人の内の1人が、他の4人の援護を受けながら前に出た。

 すると、割烹着は何を思ったかその1人に向け突進する。

 男は突進する割烹着に向けて弾丸を発射したが、その瞬間に割烹着はスライディングをして射線の下に入り込んだ。

 割烹着はそのまま男の膝を蹴り飛ばし、宙に浮いた男の頭をフライパンで叩きつける。

 男は顔面から床に衝突し、グッタリと動かなくなった。

 

 ヨアヒムは顔面から床に叩きつけられた男の手から滑り落ちたMP5Kにどうにか手を伸ばし、そしてサブマシンガンを手にとって机の下から身を乗り出す。

 残りの襲撃者達全員が割烹着に集中していたおかげで、ヨアヒムはそのうちの2人に短い連射を浴びせることができた。

 

 

 これで襲撃者は残り2人となった。

 彼らは状況は不利と悟ったのか、交互に援護射撃をしながら出口へと下がり出す。

 しかしそこには既に比叡がいて、SFP拳銃で1人を射殺すると、そのまま襲撃リーダーの額にまだ熱い銃口を押し当てた。

 

 

「比叡!どこへ行っていたのですか?」

 

「申し訳ありません…少し、()()()()()に。」

 

 

 襲撃者達のリーダーはMP5Kをその場に捨て、両手を恐る恐る挙げている。

 やがては比叡に手首を掴まれると、そのまま床に組み伏せられていた。

 

 

「ゲホゲホ…ヨアヒム様、エミリア様…お怪我はありませんか?」

 

「ああ、ありがとう」

 

「私の方こそお礼を言わせてください。…流石は元海兵隊員ですわ。」

 

 

 ヨアヒムは愛想笑いを浮かべながらも、割烹着の方を見た。

 

 

「ううっ…いたたた……急にあんなことをするものではないな」

 

「お礼ならあの女性に。彼女のおかげで助かった。」

 

「ふふん!礼には及ばぬ。これでもかつては大海原で…」

 

 

 ドヤ顔で何かを語り始めた割烹着を他所に、天城がヨアヒムに彼女の正体を教えた。

 

 

「このお方の紹介がまだでしたわね。我らが落葉会会長にして元連合艦隊旗艦、『三笠』様です。」

 

 

 ヨアヒムは驚いたが、それを態度に出せなかった。

 何よりもついさっきの襲撃で未だに心臓がバクバクなっていたし、未だにドヤ顔で語り続ける天然味のあるこの女性が三笠だと最初は信じていなかった。

 しかし天城がそれ以降発言を訂正しなかったので、冗談ではないと分かり、ヨアヒムはため息を吐く。

 どうやら重桜では1世紀を生きて尚、労働に従事することが求められるらしい。

 

 

 

 

 

 

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