KAN-SENは歳を取らないⅡ   作:ペニーボイス

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必成目標

 

 

 

 

 ユニオン

 フロリダ

 

 

 

 

 

 

 

 ドアを開けてすぐに、オイゲンはアブラモフの部下2人にそれぞれ2発ずつ9mm弾を撃ち込んだ。

 ダブルタップで放たれた弾丸は、それぞれのターゲットの頭と胸に撃ち込まれて彼らを永遠に沈黙させる。

 アブラモフがホルスターに手をかけたが、オイゲンはそれよりも早く還暦の元国家保安委員会の男に向けて疾走し、その口元を抑えてから右膝を撃ち抜いた。

 くぐもった悲鳴がオイゲンの左手を震わせたが、アブラモフは右膝から崩れ落ちてホルスターの拳銃どころではなくなる。

 明らかに"ただの若い女性"のものではないと分かるような腕力で、有無を言わさず崩れ落ちたアブラモフの後頭部を背後の壁に叩きつけた。

 アブラモフはなりふり構わず怒鳴り散らしたようだったが、オイゲンは力を緩めることなく、拳銃のサプレッサをアブラモフの脾臓のある箇所に突きつける。

 

 

「ここを撃ち抜かれたら、相当苦しんで死ぬことになるわよ?」

 

 

 アブラモフは額に大汗をかきながらも、ようやく怒鳴るのをやめた。

 両手を挙げて、しかし目でオイゲンを睨みつけている。

 オイゲンがようやく手を離すと、静かな、しかし確実な殺意を込めた声で話し始めた。

 

 

「バカめ、俺が定時連絡に応答しないと分かったら、ウチの部下がここに殺到する。」

 

「なら早めに話したほうが良いわね。"ログネンコ"さんについて話してちょうだい。」

 

「お前どこに雇われた?随分といいケツの殺し屋が」

 

 

 オイゲンが再びアブラモフの口を抑え、サプレッサの先を脾臓から既に被弾している右膝に移動させる。

 まだ熱の残るその先端を傷口に強く押し当てると、再びオイゲンの左手が震えた。

 

 

「…くそ!くそあまが!」

 

「質問してるのはこっちなんだけど?早く答えてくれる?」

 

 

 アブラモフは悪態をついたが、オイゲンは聞こえていないフリをした。

 

 

「ログネンコの野郎など知ったことか!俺のボスの金主だよ!だから何だってんだ!?」

 

「アンタは元国家保安委員会、アイツも元国家保安委員会………そんな話で私が満足すると思う?」

 

「だったら何だってんだ!?何が知りたい!?」

 

「アンタがログネンコから受けた指令。その辺のゴロツキに、わざわざバージニアの私の家を襲わせた…たんまりと金を払ってね。」

 

「………」

 

「バージニアに住む、しがないシングルマザーを襲わせるには手が混みすぎるんじゃないかしら?」

 

「…くそ、確かに俺が手配した。だが理由は知らねえ!」

 

 

 オイゲンはサプレッサの先端を先ほどより強く押しつける。

 

 

「本当だ!本当に俺は知らねえ!クソがっ!金にならねえような仕事だったし、手間をかけ過ぎたってのは分かってる!だがログネンコの野郎に言われたらやるしかねえ!ボスや俺は奴にデカい借りがあるからな!」

 

「それじゃ、アンタはログネンコの言いなりってわけ?」

 

「俺だけじゃねえ!ユニオンにいる俺たちのような人間は大抵奴の言いなりなんだよ!」

 

「たかが女1人を随分と遠回しなやり方で殺せと言われてもその通りにするのね?」

 

「い、いや、違う!いや、あの…くそ!確かに危害が加えられることは分かってたが、殺せと命じたわけじゃない!ログネンコの注文は、アンタに圧を加えることだった!」

 

 

 オイゲンはここにきてようやく重要な情報を掴んだ気がした。

 ログネンコは別にオイゲンを始末できなくともそれで良しとしたわけだ。

 つまり、ログネンコにとってオイゲンは排除されなければならない存在ではない。

 だとすれば目的は?

 

 大昔に鉄血海軍で学んだことが、今更のように脳裏をよぎる。

 "陽動"

 敵の出方を伺うために、わざと派手な行動を起こすこと。

 ログネンコがオイゲンに陽動をかけたとすれば、奴が本当の目的としていることは何か。

 つまり…もし仮にログネンコがオイゲンの正体を知っているとすれば、奴は戦友会の動きを探っている?

 

 

「ボス!?ボス!?どうしました!?」

 

 

 思考を巡らせるオイゲンを、ドア蹴破って入ってきた男の怒声が現実に引き戻す。

 恐らくはたまたま物音を聞きつけて飛び込んで来たであろうアブラモフの部下がいた。

 オイゲンは素早く拳銃をその男に向けて引き金を引いたが、9mm弾丸が脳髄を破壊する前に男は手に持つAKから1発の7.62mm弾を放つことに成功した。

 その銃撃は半径数キロ以内の人間に発砲があった事を知らせると同時に、銃弾が銃口を飛び出る前にオイゲンに撃たれた射手の体勢が崩れたことで、本来狙っていたであろうオイゲンではなく、その膝下にいたアブラモフの頭蓋骨を破壊してしまった。

 

 

「なっ!嘘でしょ、アンタッ!」

 

 

 せっかく捉えた情報源から脳みそと血飛沫が飛び散り、オイゲンは愕然とする。

 いくらKANSENでも死者を蘇生できるわけではないし、もたついていればいるほど彼女自身には危険が迫ってくるだろう。

 

 アブラモフのオフィスには、ナイトクラブにある全ての監視カメラの映像が中継されるディスプレイがあった。

 目を向けたオイゲンは、表のバンから重武装の男たちが降りてきて、こちらに向かってくることを確認する。

 しかしAK47を手にするその男たちはダンスフロアでパニックに陥る客の波に進路を阻まれていた。

 素早く状況を判断したオイゲンは、ヘッドセットでティルピッツに連絡を取る。

 

 

「ティルピッツ、問題が起きた。」

 

『表の動きは監視してるわ、オイゲン。重武装の連中がそっちに押し寄せてる。』

 

「なら脱出の準備をしてちょうだい。」

 

 

 そう言いながらもオイゲンは手を休めることなくアブラモフのオフィスを漁る。

 案の定、アブラモフのデスクの裏には隠し扉があり、オイゲンがKANSENの筋力に物を言わせてそこをこじ開けると、M240機関銃1丁、FAL自動小銃が1丁、それにハイパワー拳銃2丁が姿を現した。

 

 

「…護身用にしては派手が過ぎるわね。」

 

『何か言った?オイゲン?』

 

「いいからアンタは脱出の準備に集中して!…かなり派手にやるから、早急に離脱する必要があるわよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 アブラモフの"兵隊"の多くは、北方連合地上軍で基礎的な戦闘訓練を受けている。

 隊長は北方連合崩壊前まで曹長をしていた男で、ストックレスのAMD65を掲げながらダンスフロアへと押し入っていく。

 力任せに客の波をかき分けながら、その波とは反対の方向へ向かう。

 銃声が聞こえた瞬間に彼らはバンから飛び降りてボスの部屋に向かおうとしたが、逃げようとする客ともみ合うことになってしまった。

 おまけに若い連中が客をコントロールしようと天井にAKを撃ったが、これはまるで逆効果で客のパニックは酷くなるばかりだった。

 

 相変わらず、ボスに無線で呼びかけても応答はない。

 隊長は焦ったが、結局ダンスフロアへと入れた時には客の波がほとんどいなくなった後だった。

 しかしダンスフロアから避難した客はその後出入り口で再びボディチェックを受けることになっている。

 隊長はそのために部下の3分の1を置いてきたし、AKやUZIの銃口を向けられれば、どれだけパニックに陥ろうと誰でも言うことを聞くだろう。

 

 故に暗殺者が客に紛れていても対処は可能だと踏んでいた。

 このナイトクラブには出口が2箇所しかないし、裏手にも部下を配置してある。

 銃をぶっ放した奴が逃げるには、必然的にそのどちらかに行かなければならない。

 恐らくは敵対組織の攻撃だろうが、ボスと連絡がつかない以上、そいつの仕事は達成されたと見るべきだろう。

 隊長は責任を取らされるが、暗殺者を始末しないともっと酷いことになる。

 

 

 全部で20人の男達はボスのオフィスがある2階への階段に差し掛かりつつあった。

 階段の手前にバーカウンターがあり、そこからはボスがよく階下を見る時に使う小窓を捉えることができる。

 しかし、アブラモフの兵隊達は階段を登ることなく足を止めた。

 バーカウンターの奥から、機関銃の槓桿を引く重々しい音が聞こえたからだ。

 

 

 

 オイゲンは一気に身を起こしてM240を構え、躊躇うことなく引き金を引く。

 1人1人に狙いをつけるのではなく、横なぎにする様に敵の集団に大雑把に撃ち込んだ。

 強力な7.62ミリ弾がアブラモフの兵隊達を貫いて、その半分を肉塊に変えた。

 残りの半分はどうにかダンスフロアの遮蔽物へと身を隠し、オイゲンに向かって反撃を始める。

 

 再びバーカウンターの影に身を隠したオイゲンは、毎分900発の連射速度のせいで早くも弾切れになった機関銃を捨て、高純度のプレミアムウォッカを手に取った。

 実はこれと同じ物を何本か、アブラモフの兵隊達がくる前にダンスフロア中に投げ込んでいる。

 オイゲンは手にした一本に布切れを突っ込むと、バーカウンターに置き去りにされていた電子ライターで火をつけた。

 

 

「………はぁ、上物なのに。勿体ない。」

 

 

 一つだけため息を吐くと、オイゲンは迷うことなくダンスフロアに即席の火炎瓶を投げ込んだ。

 あっという間に火の手が上がり、オイゲンとアブラモフの兵隊達との間に炎の壁ができる。

 オイゲンはハイパワー拳銃で適当に何発か撃ちながら裏口へと向かった。

 

 

 

 裏口は既にティルピッツによって制圧されていた。

 オイゲンは手早くティルピッツと合流すると、彼女のセダンに乗り込む。

 そしてセダンは速やかに発進し、アブラモフのアジトとの距離をグングンと伸ばしていった。

 

 

 

「くそ!まだ聞き出したいことが山ほどあったのよ!」

 

「怒らないで、オイゲン。何事にも予想外は付き物よ………って、何を飲んでるの!?」

 

「アブラモフって男、酒のセンスは悪くなかったようね。プレミアムウォッカを一本頂戴してきたわ。」

 

「まったく、あなたは…それで、アブラモフから聞き出せたのは?」

 

 

 オイゲンはプレミアムウォッカの瓶を口から離し、冷たい炎を喉奥へと流し込んだ。

 

 

「……アイツらの目的は私でもヨアヒムでもない。………戦友会よ。」

 

 

 

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