兄が妹にガチ恋している件   作:妹)

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一章 エピローグ
S1.理瀬を愛してる


 

(……あれ? ドアが空いてる?)

 

 お風呂あがりに、階段を登って左にある自分の部屋に戻る途中、私の部屋の反対側にある(にい)さんの部屋のドアがほんの少し空いているのが目に入る。

 

(……電気は付いてるし、部屋にいるのかな?)

 

 普段、兄さんの部屋の扉は締め切っていたはずだ。空いている所は見た事ない。きっと閉め忘れたんだろう。

 

(教えてあげたいけど、私だと兄さん機嫌悪くしちゃうかな)

 

 兄さんと私の関係は険悪だ。正しく言えば、兄さんが私を一方的に嫌っていた。家の中ですれ違っても会話はいっさい無く、兄さんは明らかに私を無視していた。多分、いや間違いなく私は嫌われている。私も無視されると分かってて話しかける勇気はない。原因は今までに何度も考えてみたけれど、結局分からなかった。

 

 でも、ドアが閉まってないことにあとから気づくのは疚しいことがなくてもちょっと嫌だ。私は兄さんのことは嫌いではないし、バレないように閉めるくらいはしてあげようと思った。だから、私は気づかれないようそっとドアを閉めてあげようと足音を立てないようゆっくり歩いて兄さんの部屋に近づいて行った。

 

(話し声がする……電話中かな?)

 

 部屋に近づくと、中から兄さんの声が聞こえてきた。話し声はまだ少し遠く、喋っている内容は聞こえなかったが間違いなく兄さんの声だ。

 

(そういえば今日はまだ声聞いてなかったな……)

 

 昨日は夕食を食べているときに、一昨日は登校前に両親と話す兄さんを覚えている。でも兄さんから私に話しかけることはないし、私は無視されるのが怖くて話しかけられないから私達の間に会話はない。

 

 最後に覚えているのは数年前、その頃の兄さんは今とは違って、自分で言うのも何だけど妹思いで優しくて、引っ込み思案な私を色んな場所に連れて行ってくれたのを今でも鮮明に覚えている。私は「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」と引っ付くように付いて行っていた……という少し恥ずかしい思い出でもある。それが、いつからか「ごめん、ちょっと忙しいんだ」と断られることが増えて、兄さんが高校生になってからは一言も会話しなくなり、私の中でも「お兄ちゃん」は「兄さん」に変化して今の疎遠な関係になってしまった。

 

 無視されている原因は分からないけど、きっと私の方にある気がする。私が兄さんに甘えすぎていたんだ。でも別に喧嘩しているわけでもないし、両親に相談するのも違う気がして、どうすることもできないまま気づいたら今になっていた。

 

(通話相手、誰なのかな……)

 

 兄さんの話し声はここ数日は聞いてない楽しそうな声だった。兄さんの友達だろうか、もしかすると……恋人だろうか。正直、その相手がすごく羨ましかった。

 

(何話しているんだろう)

 

 兄さんの声に惹かれるように少し空いたドアの隙間に近づいて…………つい部屋の中を覗き込みたい欲が芽生えてしまった。

 

 

 

 

(……ちょっとくらい、ほんの少しならいいよね??)

 

 ドアを閉めるついでだから……バレないようゆっくり閉めるためだから……と誰にでもなく言い訳してからドアノブに手をかけようとしたその時、部屋の中から小さく、押し殺したような、しかし怒鳴っているような、鋭い声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はな! 妹の理瀬を愛してんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

「………………っ!?」

(………………うぇぇぇぇぇぇ!?!?)

 

 

 

 

 

 

 

 咄嗟にドアに伸ばしかけた手で自分の口を塞いだ。少しでも遅れていたら絶叫していただろうし、本当に声を出さなかっただけ奇跡だと思う。

 

 それほど兄さんの言葉は私にとって信じられない言葉だった。

 

(う、嘘!? 私を嫌っているはずの兄さんが? 私を一方的に無視している兄さんが? そんなはず……)

 

 

 信じられなかった。夢かと思って頬をつねっても痛みしか感じない。同時に「なんで?」という疑問が生まれて……次の兄さんの言葉で、また別の感情が芽生えた。

 

 

「マジで恋してんのよ。特に昨日見た風呂上がりとか、タオル一枚でマジやばかった」

 

 

(は、えっ!? ……た、タオル一枚じゃないよっ!?)

 

 

 何言ってるの!? と心の中で叫んでいると昨日の記憶が蘇ってきた。

 

 昨日の夜、お風呂をあがったときに私は着替えのパジャマを部屋に忘れたことに気づいた。着ていた服を着直すのも嫌だし2回着替えるのを面倒に思った私は、下着姿にバスタオルを巻いた格好で急いで自分の部屋に向かっていた。そして、階段を登った先で偶然部屋を出る途中の兄さんと遭遇。もちろん会話は無く、はしたない姿を見られた私は恥ずかしさも相まってすぐ自分の部屋に向かった。すれ違った訳でもないし、兄さんの顔は見ていなかった。たまにある事だったし、兄さんの方は私を嫌ってるはずだし対して気にしていないと思っていた……けど、

 

 

(そ、そそそんなふうに思われてたなんてぇっ!?)

 

 

 今度は逆に、驚きすぎて言葉が出なかった。全身に血が巡って頬が熱くなり、鏡を見たら自分の顔は真っ赤になっているに違いない。羞恥心でいっぱいになり、頭が真っ白になった。

 

 

(い、妹だよ私!? こ、こい!? 恋してるのお兄ちゃん!? あ、アレだよね恋って胸がドキドキして……みたいな? でもいつから? もしかして話さなくなってからずっと!? え、嫌われていたんじゃないの!? ずっと無視されてたって私の勘違い??)

 

 どうしよう。いろんな感情が混ざり合っては消えて、結局最後にのこったのは喜びだった。こんな状況なのに、喜んでしまっている私がいる。たしかに兄さんに嫌われていると思いこんでいたのは私で、兄さんはそんなこと言ってないし、無視されることを怖がって話しかけなかったのは私の方だった。

 

 

 

 考え事のせいか、浮かれていたせいか、兄さんが喋った内容を聞き逃してしまった。……しかし、兄さんの悲しげな声だけは、はっきりと私の耳に入ってきた。

 

 

 

「別に……こっちから接触しようとは思ってねぇよ」

 

 

 

(あ…………そう、だったんだね……)

 

 

 

 なんで私と遊ばなくなったのか、私が無視されてきたのか、全部の点と点が結ばれて、私の中で線を描いた。

 

 

『兄さんは、妹の私に恋をしていて、それを私に悟られないよう私を遠ざけていた』

 

 

 これは断片的な兄さんの言葉を聞いた私の勝手な思い込みで、実際は違うかもしれない。私がそう思い込みたいだけなのかもしれない。でも……それでも、そう思うと昔の『お兄ちゃん』と今の『兄さん』が重なった気がして、長い間心にあった雨雲が溶けて消えていくようだった。

 

 

「現状維持でバッドエンドかな」

 

 

(おにい……ちゃん……)

 

 

 胸が苦しかった。まるで、兄さんが今抱いている苦しみを私も感じているようだった。気がついたら、

 

(あれ? 私、泣いてる?)

 

 頬を伝う感触で、自分が泣いていることに気づいた。嬉しいはずなのに、心のモヤは晴れたはずなのに、どうしてか私は悲しくて泣いていた。兄さんは電話を終えたのか、それっきり喋り声は聞こえなかった。私はこれ以上長居して兄さんに気づかれないよう、そっと自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

(……あ、ドア閉めるの忘れてた)

 

 

 

 ……さんざん悩んだあげく、再び兄さんの部屋に行くことはしなかった。きっと、泣いた顔を見られたくはなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えっと……お邪魔します……!」

「……はい?」

 

 そして次の日から、私たちの関係は周囲を巻き込んで大きく変わろうとしていた。

 

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