兄が妹にガチ恋している件 作:妹)
高校生の朝は早い。毎日授業は8時半から始まるし、特に今日は日直で主席簿を職員室から受け取りや花瓶の水換えなどの仕事があるため、さらに早く行かなければいけない。
6時に起きて、顔を洗って、髪の寝癖を直して、友達のおすすめで貰ったメイクをちょっとして、制服に着替えて、同じく朝早くから仕事があるお母さんと朝ごはんを作って、ついでにお父さんと兄さんの分も作って、朝ごはんを食べて、歯を磨いて、ちょっとゆっくりしたらもう7時半を過ぎている。時計を確認した私は宛もなくスマホを弄っていた手を止めて、最後に姿見の前で自分の格好を確認する。
(よし、変じゃない)
お母さんはもう既に出ていて、他の家族が起きてくる気配は無かった。
(お兄ちゃんと鉢合わせとかなくて良かった……)
兄さんは大学生なので、起きる時間は遅い。私が学校に行く前に起きるのは週に一度くらいだ。
昨日の出来事は、私の中でまだ気持ちの整理は出来ていない。あとから考えると、偶然とはいえ兄さんの秘密を盗み聞きしてしまったことにちょっと罪悪感があった。兄さんに話そうかまだ決めあぐねていて、昨晩からずっと悩んでいたせいで寝不足気味だった。
朝ごはんを食べているときも、うっかりあくびしてしまい……
「ふぁぁ……」
「ん? 理瀬どうしたの、体調悪い?」
「あ、ううん。大丈夫。ちょっと考え事してて」
「そ、今日はちゃんと寝るのよ」
「……うん。ありがと」
お母さんはきっと、私と兄さんの不仲は気づいている。でも、なんとなくだけど静観するつもりでいる気がする。たぶん、お母さんは私が兄さんのことで相談したら力を貸してくれる。でも、それは本当に最後の手段だ。
(どうすればいいかは分かんない……でも、兄さんが隠してきたことを私がバラすのは違うよね)
お母さんから励ましを受けて、私は少しだけ元気が出た。
(元気は出た……確かに出たけど……)
どうしようか考えているうちにまたしぼんで、私はとぼとぼと学校に向かうのだった。
「はぁ……」
「5回目」
「え?」
「今日で5回目だよ。理瀬のため息聞くの……あれ? 6回目だっけ?」
「あはは。そう……かな?」
(また無意識に……気をつけないと)
「あくびもしてたし、夜寝てないの?」
「あ、うん。ちょっとね」
気づけば放課後、私は日直の仕事をしながらも頭は兄さんの件でいっぱいだった。
そうして無意識に吐いてしまったため息に反応したのは、私の親友の佐倉亜美。中学生からの付き合いで、放課後や休日もよく一緒に遊んでいて、雑誌を読まない私にファッションやメイクを教えてくれる先生でもある。
「ほんとどうしたのさ。そろそろ話しなよ。今なら誰もいないし」
「そ、そうしたいけど……」
そして亜美は面倒見がすごく良いため、こうして私が悩んでは相談に乗ってくれた。
(そういえば、兄さんと仲悪くなって落ち込んでいた時も、こうして話しかけてくれたっけ)
ちょうど中学生になったころ、兄さんに嫌われて(勘違いだけど)塞ぎ込んでいた私を救ってくれたのも亜美だった。しつこいくらい話しかけてきて、遊んでくれて私の暗い感情を紛らわせて消してくれたことには感謝している。今考えると、初対面の相手にそこまでする? と思ってしまうほどだけど。
(まぁ、それが亜美のいいところなんだけど)
「うーん、なんか見たことある気が……あ、分かった! 理瀬が悩んでるのって、理瀬のお兄さんのことでしょ」
「えっ! なんで……」
物思いに耽っていると、亜美の思わぬ発言でつい大きな声を出してしまった。
「あ……えっと……その」
「そっくりだったもん。初めて会った時の理瀬とさ」
「そ、そうなんだ……」
(そんな特徴的な顔してるのかな……)
ふと今の自分がどんな顔をしているのか無性に気になり、周囲を見渡して鏡を探すが……残念ながら見当たらなかった。
(あ、バッグの中に手鏡があるはず)
「あははは! 変な顔はしてないよ〜!」
バッグを漁り始めた私の奇行が面白かったのか、大笑いする亜美に対して、私はむっとして軽く睨む。
「ふーん」
「あはは、ごめんごめん」
「じゃあ、どんな顔してたの私」
「えーと、恋する乙女……って感じ?」
「えっ…………」
ますます分からなくなった。なんで兄さんのことで悩む顔が恋する乙女になるのか……全く分からない。胸が苦しくなるのは合ってるかもしれないけど。
(それはともかく……バレちゃってるなら相談してもいいよね)
「あのさ……ちょっと、相談してもいい?」
「もっち! 理瀬がそう言ってくるの待ってたよ!」
「あはは。ありがと、亜美」
「あ、やっと笑ってくれた!」
「はっ恥ずかしいってば」
「ごめんよー。それでそれで? お兄さんと何があったの?」
「えっと、私のおに……兄さんがね……」
幸いにして、日直の仕事を理由にすれば部活に多少遅れても問題ない。私は、昨晩の出来事を『兄さんが妹に恋している』部分だけはぼかして亜美に話した。
「へー。あの疎遠な理瀬のお兄さんさんが、実は妹好きかも知れない。しかも好きすぎて妹から距離を置こうとするほど、ねぇ……このブラコン妹にしてシスコン兄あり、とな」
「え? どういう意味?」
「気にしない気にしない。で? お兄さんから嫌われてなかったなんて良かったじゃん?」
「でも兄さんと疎遠なのは変わらないし、どうすればいいのか分からなくて」
「それで?」
「……え?」
私はこれで相談の内容は伝え終えたつもりだった。ほかに話すことも思い付かず、亜美の質問の意図が分からなかった。何を言えばいいか分からずに私が黙っていると、亜美は呆れたという表情で「はぁ〜〜」と大袈裟に息を吐いて言った。
「それで? ってのは、『それで理瀬はどうしたいの』って意味に決まってんじゃん」
「えっと……」
「理瀬がどうしたいのか分かんないと、どうするか決められるわけ無いし」
「……あ」
(……考えたことなかった)
盲点だった。兄さんのことばかり考えて、自分の気持ちなんて考えていなかった。自分はどうしたいのか、そんな当たり前の事を見落としていた自分が途端に恥ずかしくなってきた。
「あ、顔赤い」
「う、うるさい」
「へへ。そんで、答えは?」
そして、質問の答えは考えるまでもなく、いとも簡単に口から出た。
「私は……」
「うん」
「兄さんとまた仲良くなりたい」
「うん」
「一緒に話したい。遊びたい。手を繋いでお出かけしたい。ご飯を食べて、映画を見て、感想言い合って……それで……」
「う、うん」
そうだ。私は兄さんと昔みたいに一緒に過ごしたい、話したい、遊びたい。別に兄さんだけじゃない。私もお兄ちゃんが大好きなんだ。そして、
「そのためには……」
「うん!」
「………………わかんない」
「ずこー」
(本当にずこーって言いながら転ぶ人初めて見た)
私が場違いな感銘を受けていると、亜美は起き上がって制服を直しながら言った。
「そこでつまずくかー」
「……いつも、お兄ちゃんから声かけてくれたんだもん」
「か、かわいい……。なるほどなるほど……っし! この亜美にお任せあれ!」
「ええと、何か思いついたの……?」
「そう、とっておきの名案!」
「…………」
(本当に大丈夫かな……)
相談してる側なのに悪いが、自信あり気な亜美にどことなく不安を感じる私だった。
頑張って3000文字は書きたいです。負けません。