兄が妹にガチ恋している件 作:妹)
「すぅー……はぁー……よし!」
午後8時、兄さんの部屋の前。昨日と違い、締まりきったドアからは何者も寄せ付けない負のオーラを纏ってるようにさえ感じてしまう。でも、それは私の思い込みなんだと今なら分かる。
ついに、ついにこの時が来た。
亜美から兄さんと再び仲良くなる方法を聞いた私の感想は「私には無理だ」という強い否定だった。たしかに実行すれば兄さんは無視できないし、私の気持ちを伝えつつ、兄さんがどう思っているか分かるだろう。でも、ものすごく勇気が必要で、私には絶対できないと思ってしまった。
そして、亜美はそれを見透かしたように、
『これを実行しなかったら理瀬の親友辞めちゃうからね!』
『え……ええええ!!??』
というとんでもない約束を一方的に結ばれた。想像以上の爆弾が仕掛けられたけど、そこそこ長い付き合いでこれは亜美なりの励ましなのは分かっているし、「理瀬ならできる」と言ってくれたような気がして嬉しくもあった。
それに、背中を押してくれたのは亜美だけじゃない。
(兄さんには母さんから部屋に行くと連絡してくれているし、いざとなったらスマホ開いてワンタップで駆けつけてくれる)
今夜は母さんも協力者だ。理由は濁したうえで、協力をお願いしている。母さんも深く聞かず、二つ返事で引き受けてくれた。本当にありがとう。
追加で『絶対に誰にも邪魔はさせない』とも言ってくれた。どういう意味かはよく分からなかったけど、私を応援してくれているようで嬉しかったし、勇気が出た。
(あとは……あとは私の勇気だけ!)
昨日の兄さんの言葉を聞いた後でも、今まで無視……とはいかなくともスルーされてきたことには変わりないし、あの声は幻で、都合の良い夢だったんじゃないかとさえ考えてしまう。でも、たとえ嫌われていたとしても、ここではっきりさせてしまおう。それから仲良くなる方法をまた考えればいい。一番嫌なのは現状維持でなにも変わらないこと。
(よし!いこう!)
私はそっと、ドアを2回ノックした。
トントン、ガチャ
「やっと来たのかよ母さん、待ちくたびれた……え??」
中から声がする……前に緊張しすぎで焦った私は返事を聞くより先にドアを開けて、部屋に入ってしまった。
眼の前には、呆然とした顔の兄の顔。久々に見るその表情に、暫し目を奪われ……かけて慌てて何か言わなければと口を開く。
「え、えっと……お邪魔します……!」
(想定とちがーーう!?)
ま、間違えた。亜美と事前に考えていた「夜分遅く失礼します。兄さんに聞きたいことがあり参りました」とあえて他人行儀で入って反応を伺う作戦ができなくなってしまった……。
(も、持ち直さないと……次の行動は、たしかえーっとその)
幸いにして、妹の私が来るだけで兄は相当驚いているのか、口をポカンと開けて呆けていた。それを見てかわいい……じゃなくて冷静さを取り戻した私は次の作戦を思い出し、慎重に動き始める。
ガチャ、ガチャ
「……エッ」
無言で、後ろ手でドアを閉めた私は、流れるように鍵を掛けた。
脳裏に亜美の言葉が思い出される。
『え、なんで鍵をかけるの?』
『理由は3つ。外から邪魔されないよう、お兄さんが逃げないよう。理瀬自身が逃げないよう』
『最初は分かるけど……残り2つは本当に効果あるの?』
『あるよー。例えば、今私が突然教室の鍵を掛ける。理瀬はどう思う?』
『閉じ込められたって……あ、なるほど』
『そ、心理の問題なの。相手には逃さないぞって伝えて、自分自身には逃げないって覚悟を決めさせるわけ』
(あ、震えが止まった。歩ける!)
正直、1つ目は母さんが鍵を持ってるからあまり意味はないけど、残り2つは効果覿面だった。兄さんは椅子に座って固まったままだし、私は入った時は緊張で震えていた足が泣き止み、今はこうして真っ直ぐに兄さんの方に歩けている。
兄さんの眼の前に立っても、兄さんは一言も何も言わず、私の方を凝視するだけだ。
久しぶりに近くで見る兄さんは、相変わらずカッコよくて、優しそうな目つきをしていた。
(お兄ちゃんがこんな近くに……さ、最後は……)
あとは、手を握って『私のこと、どう思ってますか』と聞けば終わりだ。返事を聞いて、母さんに電話して、それで終わり。終わり……なのに……
(握って一言言うだけ!……なんで!……なんで……)
もはや指一本動かない。固まった理由なんてありすぎて分からない。鍵掛けの魔法も切れてしまった。背中を押してくれた亜美とお母さんが遠い。ここからは自力で、でも無理。なんで、お兄ちゃんは私が好き。怖がる必要なんて
(ないのに……!ないのにぃ……!!)
また、戻ってしまう。でも、それがいい。兄さんもそれを望んでんだ。私と関わりたくなんて…………
ガタ
兄さんが、席を立つ音。どうやら、時間切れらしい。
こんな単純なこともできない私なんて、やっぱり……
ぽん
「『お兄……ちゃん?』」
それは、遠い昔の記憶。
「『大丈夫だよ。理瀬』」
記憶の中のお兄ちゃんが、眼の前の兄さんとはっきりと重なった。
「『
(……そっか。そうだったんだ)
あのとき、あの瞬間からもう既に。私は……
ぎゅっと握りしめて離さない。もう離れたくない。だって私は、
「お兄ちゃん!!大好き!!」
(私も、お兄ちゃんに恋してたんだ)
プロットを見直しました。1話2話大量改稿しました。勢いで書いているので、また変わるかもしれません。ご了承お願いします。