兄が妹にガチ恋している件 作:妹)
「あ、もうこんな時間」
ゆっくり過ごしたつもりは無いのに、壁掛時計はもう8時近くを指していた。たしかに今日の朝ごはんは1品多く作ったから時間はかかったけど、それ以上に昨日の出来事が大きいのは明白だった。
朝ごはんを作る最中にも母さんから、浮かれているのを指摘された。
「上機嫌ね」
「えへへ、昨日はありがとう。母さん」
「そう……頑張ったね」
「うんっ。あ、それでね、お兄ちゃんにコレ作っていい?」
「いいけど、片付けはちゃんとするのよ」
「は~い、ありがと」
その後も終始上機嫌のまま朝食を食べ終えた。
(お兄ちゃんのこと考えてたら、すぐ時間が経っちゃう)
昨日は目的を達成……どころか想像以上の結果となり、お互いの気持ちを再確認できて満足した……というより私がお兄ちゃんに泣き顔を見られたくなくて口数少なく「また明日」「おやすみ」と別れることにした。衝動的に告白しちゃったことで、昨夜はドキドキが止まらなくて少し寝不足だけど、今はそれが気にならないくらい絶好調だった。
ふと2階に続く階段が目に入る。
(お兄ちゃんも、私でドキドキとかしているのかな……あとで聞いてみようかな?)
また、今日も会話できる。そんな当たり前のことだけど、今までできなかったことができるようになったのが堪らなく嬉しかった。
「ふふーん、ふんふーん♪」
らしくもない鼻歌なんて口ずさみながら、自分でも分かる浮かれているのが分かる足取りで登校する。帰って感想を聞くのが楽しみだった。
(美味しいと言ってくれると良いな……)
いつも通りの時間に登校して、自分の席に向かうと、そこには何か信じられないものを見たような顔の亜美が居た。
「おはよっ、亜美っ!」
「お、おはよう。理瀬、機嫌いいね……?」
(そうだった……お兄ちゃんと恋人になれたのは、亜美のおかげなんだよね)
「えっと、何かいいことあった……えっ!?」
亜美には言葉では感謝しきれない、そう思った時には既に亜美を抱きしめていた。
「亜美っ!」
「ど、どうしたの理瀬ぇ!?」
「本当にありがとう! 亜美のアドバイスがなかったら、私、わたし……」
「え、ちょ、ま、周り見てる……声大きい……な、泣かないでよぉ……」
(あれ……あ、ほんとだ)
泣くつもりはなかったのにまた泣いてしまった。せっかくのメイクが崩れてしまった。亜美にも急に抱きついてしまったし、嫌ではないか? それまで絶好調だった私も、亜美から離れると気分が落ち込むのを実感した。
「急にごめんね……亜美……」
「だ、大丈夫? とりあえずここは目立つから……行こ」
亜美に連れられて、私は近くのお手洗いでメイクを直してもらっていた。その時、亜美も別に嫌なわけではなくて、ただ単に驚いていただけだったことを知り、私はホッと安堵した。
「はい、コレでオッケー」
「えへへ、ありがと。亜美」
「いやもー、びっくりしたわ。マジで。心臓に悪い」
「ごめんね、でも本当に亜美には感謝しているんだ」
「昨日のこと? なら、お兄さんと仲直りできたんだね」
「うん、亜美のおかげでお兄ちゃんに……」
「お兄ちゃん?」
「……告白することができたの!」
「 おう、まって頭が追いつかない」
「あ、亜美には説明してなかったね。実は……」
そういえば、亜美にはお兄ちゃんの「愛してる」は曖昧にして伝えていたんだった。でも、今はもう兄だけでなく私自身の思いでもある。だから、親友の亜美なら隠す必要はない気がした。だから亜美に改めて、昨日の出来事から正しく説明すると……なぜか亜美は『やってしまった』と言いたげな顔をしていた。
「だからね、私たちの想いを確認できたのは亜美のおかげだよ」
「(小声)……え、それって私、兄妹同士で付き合うのを助長しちゃったってこと? え、でも私、間違ったこと言ってないよね……というか告白しろなんて一言も言ってないし……」
「……? 亜美? どうしたの?」
「あ、ううん……なんでもない」
「そう? 大丈夫? 顔色悪いよ」
「あ、うん、理瀬は先に戻ってて」
「分かった、また後でね♪」
……理瀬がスキップしてるような軽やかさでトイレから出ていくのを見送った私こと亜美は、まずはこれが現実なのか確認するために自分の頬を捻った。
「いてっ……」
残念ながら、現実らしい。
普段は落ち着きがあって寡黙で、人見知りで臆病だけどとても優しくてちょっとズボラで天然なとこがかわいくて実は人一倍努力家な彼女はどこに行ったのだろうか。少なくともさっきまで話していた人物とは別人なのは確かだ。
そう悲観しながら、さっきまで理瀬が語った内容を思い出す。
ざっくり纏めると……妹にガチ恋している兄がいて、亜美に言われた通り行動したら自分も兄にガチ恋していたことに気づいて勢いで告白した……となった。
は??
ただ私は理瀬とその兄を仲直りさせたいだけなんだが?
誰が恋人になれと言った???
あと『お兄ちゃん』ってなんだ昨日までは『兄さん』って他人行儀だったよね?
言わされてる……? いや更に言うと昨日まで、妹がガチ恋しているとは認識していない。これは本人も言っていたこと…………?
「…………はっ!?」
私は頭に電流が流れたような衝撃を受けて顔を上げ……ちょうど入ってきた女子生徒と目があって赤面して俯いた。
は、恥ずい……と、ともかく……妹は騙されているのではないだろうか??
そうだ。まず理瀬は純粋であり、常識を弁えた優等生ということは間違いない。それこそ、信頼している人物……例えば兄のような家族がついた嘘を簡単に信じてしまうほど。そこに、妹にガチ恋している鬼畜生兄ゴミが漬け込んで、ただ仲直りしにきた妹を口八丁で誑かしたのではないか。
そう考えると、今日の理瀬が理瀬らしくない理由も、兄妹で相思相愛とかいう有り得ない状況も説明がつく。
「理瀬は、騙されているんだ」
たとえ家族の問題だろうと恋人(仮)だろうと、私は理瀬の親友なんだ。親友を騙そうたって、私が許さない!
「理瀬を止めないと」
私は決意を新たにして顔を上げ……それをちょうどトイレを出ようとした女子生徒にまたしても見られ……教室に戻った後も「顔赤いよ、大丈夫?」と理瀬に心配されるのだった。
……明日から頑張ろう
その日の夕食前にて
「えへへ、今日お兄ちゃんに感想聞くの楽しみだなぁ」
「……プリン、ごちそうさま、美味しかったぞ」
「……おとう、さん?」
「ま、間違えて食っちまった。ごめんな、詫びにこの買ってきたプリンを……」
「お と う さ ん?」
「は、はひ」
「そっか、そうなんだ……うっかり間違ったなら、しょうがない、よね」
「いや、あの、ほ、包丁置こう?危ないよ??」
「うっかり手が滑っちゃっても……」
「ほんとうにごめんなさいぃぃぃ!!!!」
「あはは、冗談だよ?土下座なんて大袈裟だなー」
「…………」
「次から気をつけてね、お父さん?」
「二度としましぇん……」
「……私の娘こわ」
赤評価……いいなあ