静かな木々がサーっと揺れる。騒然とするHRが終わった後、私は予定通りに校舎裏に来ていた。そうすれば清隆君が会いに来るだろうから。後ろから足音が聞こえる。来たかな?
「非常に愉快だねぇ」
そう話しかけてきたのは清隆君じゃなかった。あえて人気の少ない場所に来たのに。私はここで清隆君の敵となる。そうして、私を介して少しでも感情を知るきっかけになって欲しいから。
清隆君はあの時の私をどう思ったのかなぁ。嫌だって、すごく怒ってくれたら嬉しいなぁ。そうだとしたら、それだけ私のことを友達だと思ってくれていたってことだから。
でも、少し胸が痛いのも事実。私にとってこの関係が大切だったからこそ、それを断ち切ってしまう、裏切ってしまうのが、辛い。ずっと嫌われ続けた私に何の感情も抱かずに接してくれた。そんな優しくて悲しい友達。でも私を糧になったとしても清隆君が幸せになれるなら、それがきっと正解だよね?
苦し紛れの言い訳で自分を隠しながら声の方へと振り向く。そこにはえーと、金髪で派手な人が立ってました。名前はたしか、こ、こ...
「高円寺君、だったっけ?」
「いかにも。私が高円寺六助さ」
よかった。間違ってはいないみたいだね。なんでこんなところに...いや、私を追いかけてきたってことかな。あの作戦に怒っているとかではないみたいだからそれは良かったよ。私自身としてはあまり他の人を巻き込みたくないもん。できれば多くの人になるべく多く笑っていて欲しい。
でもずっと笑い続けることなんてできないんだよね。その過程には、たくさんの苦労があって、泣いちゃうことだってたくさんあって──-。それは私が一番分かってるから。
「それで、どうしたの?私に用かな?」
「まさにの通りだよcheerfulガール。君に賞賛の拍手と謝罪にさ」
「賞賛と謝罪?」
「私は美しいものを好む質でねぇ。クラスでの行動は実に美しかったのさ。特にそれを見るくラスメイトの顔が。だからこうして私が直々に賛辞を送りに来たわけさ」
何を言っているんだろう...この人。クラスのみんなは悲しそうにしてたし、私の行動はすごく酷いことだと思う。褒められることなんてあんまりないと思うんだけどなぁ。
「そ、そうなんだね~。それで謝罪っていうのは?」
「それは私としてではなく、高円寺財閥としての謝罪さ」
「高円寺財閥?なんで?」
嫌な予感がした。あの高円寺君が頭を下げる。私に向かって。あの自分が一番だと信じ込んでいる高円寺君が。そして私は軽々しく聞き返したことを後悔することになる。
「同じ立場としては挨拶しないのは些か不敬だったのでね。だからこの高円寺六助直々のお詫びをしようじゃないか。神谷財閥のご令嬢殿。いや...
──-元ご令嬢神谷うり殿」
「っ」
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで...。なんでそのことを。だってもうあの場所は──-。
「解体されたのはもう3年も前のことになるが、私は神谷財閥を覚えている。あの会社は斬新だったよ。解体されるのは惜しいものだったねぇ。そんな君が今もこんな美しいものを作り出せる。素晴らしい。実に素晴らしい。流石はエンターテインメントを追求する企業のご令嬢だ」
体から血の気が引いていく。嫌だ。膝が震える。息がつまる。怖い。
「昔の話だよ。そ、それで話は終わり?」
やめて。もう聞きたくない。もう私はあそこには戻れない。みんなを幸せにできなかった私には...。もう何も失いたくない。
「私の話は終わりさ。だが君にはまだ、やることが残っているのだろう?それに盗み聞きは好みじゃない。出てきたらどうだい実力者ボーイ?」
「え──-?」
「...」
清隆君がいた。いつも通りの無感情で。ねぇ清隆君、待っててね。あと少ししたら君をきっと幸せにしてあげられる。いつか痛いくらいに笑えるようになるから。
そうして君が笑ってくれたらきっと、私も乗り越えられると思うんだ。でも、これが盲信だとしたら私は──────-。