感情を君へ   作:味噌汁豆腐

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やっと書きたいところまで来た気がします。ここからが本領発揮です。


そして恒例になりつつありますが、投稿に間が空いてしまい申し訳ございません。直す気はありますが治せる気がしません。


始まったのは私か、それとも始まっていた私か

 

 

高円寺君がこの場から立ち去り、静寂が訪れる。あまり理解はできないけど、高円寺君がこの場面を用意してくれたということだろうか?だとしたら私にとっては喜ばしいことだと思う。

 

清隆君と二人きり。ここで私の役目は終わる。きっとここから先は清隆君なら私がいなくても進んでいける。私がいなくても。それだけの準備を私はしてきたのだから。

 

 

「清隆君…」

 

喉に溜まった唾液を飲み込む。柄にもなく緊張しているみたい。それもそっか。だって私にとってこれは罪滅ぼし。きっと自己満足で自分勝手なもの。それでも私は助けよう。そう決めたんだ。

 

「隠れて聞いてたの?」

 

「……悪い」

 

「全然いいよ。私が呼んだんだから、仕方ないよ。それより、

 

──────私に聞きたいことがあるんじゃない?」

 

「...ああ、そうだな」

 

「...何から聞きたい?」

 

あまりにも無機質な彼に私は演じよう。醜く、卑劣に。それで君が幸せになるなら、きっとそれが正解だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学当初、私はやり直せると思っていた。自分の境遇も、過去も全部。

 

私は神谷うり。私は昔から誰かを()()()()()のが好きだった。ある時は笑顔に、ある時は幸せに。それが私の喜びになっていたのは間違いない。それは、テーマパークを経営し、生業としている私の家系故なのかもしれない。

 

そんな私は祖父の運営しているテーマ―パークに足繫く通っていた。そこは、財閥ではお払い箱とされていて比較的客足は少ない。それでも常連さんはよく来るし、隠れた遊び場としては有名な場所だった。私はそんな雰囲気が好きだった。なにより、そんな笑顔で遊ぶ人たちを見るのが私の面白さに強く響いた。

 

でも、それはすべて崩れ去った。終わってしまった。テーマパークはあっさり閉園、祖父は病気で亡くなり、後を追うように会社はあっけなく破滅の一途を辿った。

 

それが私の過ちだ。そして誰もが私を嫌った。当然だよ。だってすべての原因は私だから。私が悪いんだ。

 

だから償いとして、この学校で困っている人を助けよう。今まで助けられなかった人たちの分まで私が救おう。そうして償えるなら私はどうなってもいいから。

 

そして、清隆君に出会った。最初は気づけなかったけど近くで目を合わせたら分かった。

 

()()()()()()()()()()()

 

面白さは一概には言えない。そんな面白さは誰かが動けば多少なりとも生まれる。

何かに対する動きがその面白さを作り出す。私はそれを基準としてみんなが面白くなるように生きてきた。でも清隆君には何の面白さも感じない。瞳の奥は常に無機質で何をするにも無表情。

 

私は気づいた。ああ、感情がないんだ、と。

何がそうさせたのかは分からない。でも確かにここに居るのは感情がない人だった。

 

試しに街を連れ歩いてみた。いたるところを回って、清隆君を楽しませてみた。口では楽しいと言ってくれるけど面白さは全くと言っていいほどない。

 

それでも何故か、私はどこか喜びに似た何かを感じていた。きっと、それは純粋なものじゃない。もっと歪んでいて、それでいて少し狂気的な何か。そう、私は清隆君を知的好奇心だけで考えていた。

 

清隆君が感情を取り戻すこと、それがきっと、今までの私を救う唯一の手段なのだ。そう、清隆君が私の罪を償わせてくれる何かなのだと、そのために私と巡り合ったのだと。

 

私は、待ち望んだこのチャンスに気持ちが昂って少し本音が漏れてしまった。変に思われてはいないよね?

 

私は清隆君に期待していた。

 

 

 

 

 

 

 

あれから、私は模索の果てによくない噂されるようになった。清隆君にもそれが及びそうになったのでつい、注意してしまった。実際、清隆君も目立ちたくなかったみたいだったから。でも、私は言葉に詰まってしまった。

 

「神谷さんの横に居る男子とはどういう関係なのかな~って」

 

清隆君とは友達だ。私にとって初めての友達。ただ、そう思ったと同時に()()()()()()が言った。清隆君は私にとって償いをするための手段に過ぎない、と。

 

私は時々、ふと怖くなる。清隆君とっては私のエゴに振り回されているだけで本当は感情なんて取り戻したくないのではないかと。私は罪の意識を感じずにはいられなかった。でもそれを私の中の壊れてしまった何かが私を急かす。私を責める。

 

──-本当に私はこうして幸せな日々を送っていてもいいのかな?こんなのんびりしている暇はあるのかな?今すぐにでも清隆君を助けなよ。彼は今も苦しんでいるのに、あなたはなんで楽しんでいるの?

 

ああ、息苦しい。

 

「...友達」

 

自分でも驚いた。完全に無意識だった。

 

「私の大事なお友達。とても大切な...そうっ!すっごい大事なお友達!」

 

その言葉に呼吸が始まる。そうだ、清隆君は私と友達になってくれたんだ。そんな清隆君が心から笑えることを友達の私が願わず誰が願うんだ。

 

そう思うとなんだか自分が必要とされている気がして懐かしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな楽しい日々も続かなかった。

 

コンビニで上級生の言った言葉の違和感、単なる好奇心で色んな人に聞きまわった。学校中を走り回って情報を集めた。そして私はSシステムにたどり着く。

 

きっかけはA組の坂柳有栖ちゃんってお人形みたいな子とお話した時だった。

 

「父から聞きましたが、この学校は実力主義というのを大切にしているらしいですよ」

 

彼女のお父さんはこの学校の理事長らしくて、驚いたけどそれどころではなかった。実力主義、この意味がそのまま通じるとしたら。

 

私は怖くなった。もしこの学校が私の考えるような学校だったら。その嫌な予感は見事に的中してしまった。

 

この学校は他のクラスと騙し合い、蹴落とし合い、成り上がり、争い合って成り立っていると。Sシステムはそのための明確な指標。ポイントは貧富を表わす視覚的な差。

 

私は知っている。私は誰かを蹴落とすことなんてできない。できることならみんな仲良く誰もを敬いながら生きていきたい人間だ。そんな甘い自分に待つのは退学。

 

それは困るけど大して苦ではなかった。でも、それよりも気がかりなことがあった。清隆君だ。私がいなくなったら清隆君が取り戻す手段がなくなってしまう。それに私の罪の精算も。

 

どうしよう。どうしよう。清隆君が感情を取り戻せなくなる。もう、助けられないのは嫌だ。

 

 

私の中の何かが笑う。

 

──-ほら、今すぐにでも助けなきゃ。自分なんてどうなってでもいいでしょ?あなたが苦しまなきゃ彼は、大切な友達は一生苦しむんだよ?できるよね?

 

そっか。私なんてどうでも良かったよね。

 

 

清隆君に恨まれてもいいから私が全ての悪意を背負ってそのまま退学してしまおう。そうすれば、みんなの苦しい姿も清隆君の感情もすべて解決する。私だけが辛い思いをしてしまおう。

 

 

何故か自分が自分じゃないみたいな気がしてならない。でも今はそんなことどうでもいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は茶柱先生に会いに行った。時間帯は夕方。職員室には茶柱先生しかいなかった。よかった。これを話せるのは茶柱先生しかいない。実は茶柱先生には良くお世話になっている。なんでも私が先生の知人に似ているからほっとけないんだとか。最近は行動について叱られることをしているからなんだろうけど。

 

「神谷か。どうしたこんな時間に」

 

「...」

 

「神谷?どうかしたのか」

 

いつもの私からでは想像もできないような様子でいる私に茶柱先生は頭を傾げる。でも、ごめんなさい。

 

今は()()()()()()()()()()()()

 

「先生、取引をしませんか」

 

「取引?どういう意味だ」

 

「私がSシステムを言いふらさない代わりに私の条件を聞いてください」

 

「...っ!?場所を移すぞ」

 

慌てたように辺りを見渡す茶柱先生。私はそれを手で制止する。

 

「ここでいいです」

 

「っ...、神谷うり、取引とはどういう意味だ?」

 

いつもより冷たい視線が私に刺さる。なんだか酷いなぁ...。そんな冷たい態度じゃなくてもいいのに。なにかするわけじゃないんだし。

 

「私と先生だけの約束をしたいんです。学校に内緒で」

 

「私と、か?はぁ...神谷、お前を私は理解しているつもりだ。お前は問題児ではあるが頭脳では目を見張るものがある。勿論、Sシステムを見抜いたのは賞賛に値する。だが、お前なら契約の仕組みについてもある程度理解があるはずだ。学校に内緒で?あまりふざけない方がいい」

 

怒るのも知ってる。でも私はひるむつもりはないよ。もう、決めたから。

 

「だ・か・ら、取引って言ってるんですよ。じゃなかったらこの学校の仕組みを外にばらします。知ってるはずです。私にその力があるって」

 

「っ...」

 

先生が面白くなる。私にはもう消えたとはいえ、昔は社会的権力があった。つまり、発言はそれなりの重さを持つ。先生はきっとそれを知っている。だからきっと清隆君のことも知っている。あなたはそういう人でしょ?

 

「...契約と言わないのは何故だ?」

 

「学校だと許してくれないかもしれないから。それに、私はきっとこの学校に残り続けることはできないから」

 

「...」

 

先生は黙り込む。無駄な会話なんて一つもない。だけど私は知っている。先生は断らない。知ってるよ?あなたが私に何かを重ねていることぐらい。可愛い生徒のお願いだよ?無下になんてしないよね?

 

「……わかった。要求をのもう」

 

「ふふっ。ありがとう、()()()()()?」

 

「っ!?お前どこでそれを!」

 

「あ、当たりだった?それっぽい感じを演じてみたんだ。あ、じゃあ作戦会議しよっか。会議室行こうよ」

 

「……」

 

黙り込む茶柱先生を背に、会議室と書かれたタグのついたカギを人差し指でくるくると回す。久しぶりに感覚が冴えてくる。さあ、ここから始めよう。()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室につくと私は背を向けていた茶柱先生に振り返る。座ってからでも良かったけどちょうどいいや。

 

「じゃあ、先生。特別報酬許可証ちょーだい」

 

「特別報酬許可証だと?何に使うつもりだ。あれは部活動などで特別な成績を残したときに申請できるものだぞ」

 

そう、これは主に部活動などで成績を残したときに申請できる書類だ。使えるのは主に三つ。Ptの特別付与、物品付与、異議付与だ。Ptは言わずもがな、物品付与は何か高額な物品を特別に肩代わりするもの、異議付与は匿名で不満に対して異議申し立てができる。異議付与は審議で決まる故に確証性は薄いけどね。

 

 

「いーから。これから説明するよ」

 

そう言うと渋々、といった様子で書類を差し出してきた。私はそれを手に取ると得られる権利に目を通す。あった。これだ。

 

「この、異議付与って権利を申請したいんだ」

 

これなら私がやりたいことを実行できる。私がやりたいことは主に二つ。まずはみんなのヘイトを集めること。そして清隆君の過去を知ることだ。過去の思い出、感情を失うほどだ。きっと大変な目にあっているはず。きっとそこに穴はある。

 

「それは上での審議ある以上、反映されるとは限らないぞ?」

 

「そんなこと百も承知だよ?それになすがままな訳ないよ。ちゃんと策はあるの」

 

「...そうか。だがそれだけでは承認できないな。お前にはまだ」

 

「実績がない、でしょ?」

 

分かり切っている応酬はあんまり好きじゃないんだ。ごめんね。でもそんな警戒しないでほしいな。悪いとは思ってるよ。すこしだけね。

 

「...っ、ああそうだ。それに条件自体も相当厳しい。生半可な実績でははじかれてしまうだろうな。それこそ、全部活に参加して好成績を収めるぐらいでないと」

 

「それも大丈夫だよ。だからこの紙貰ってくよ?」

 

もうこれ以上ここで話すことはない。この紙が貰えれば今日のところは目的達成だからね。

 

「じゃあ私は帰るよ。今日はこんな時間までありがと、茶柱せんせーっ」

 

「少し待て」

 

ドアノブに手を掛けた時、そんな声が窓を起点に鳴り始めた雨音をかき消す。あ、雨降ってきたんだ。傘持ってないや。

 

「なにかな?」

 

「私からも条件を出す。タダでは取引とは言わないだろう?」

 

「いやだな~こっちにはSシステムの脅しがあるんですよ?むしろこれだけじゃ足りないぐらいだよ?」

 

「綾小路清隆の過去を私は知っている、と言ったら君はどうする?」

 

「へぇ...」

 

まさかそっちから提案されるなんて思わなかったなぁ。しかも私が清隆君に執着してるのバレてるし。あぁ~あ、うりは演じるのが下手だなぁ。そんなのだから罪を全部背負っちゃうんだよ。馬鹿だなぁ。あいつらの責任転嫁なんて全部無視すればいいだけなのに。面倒くさくなったら潰せばいいしね。

 

まぁ、その内聞き出そうとしてたし好都合だ。とくに断る理由もないし乗ってみようかな。それに、面白そうだもん。

 

「分かったよ。紗枝ちゃんはどんな条件()を私に求めるの?」

 

「DクラスをAクラスにするために尽力してくれ」

 

「え~それ継続系じゃん。私そういうの苦手なんだけど」

 

「勿論、期限は設ける。四月中、それでどうだ?」

 

「四月中にこれ申請できるならそれでいいよ。あ、でも五月の一日には結果が欲しいから調整よろしく」

 

今度こそは扉を開く。準備は上々。さて、これからどんな面白いことが起こるかな?

 

「最後に一つだけいいか?」

 

「もー質問はまとめてからきてよー。社会に出たら常識でしょ──-」

 

 

 

 

 

 

「ー--お前は誰だ?」

 

茶柱先生はそう言う。唐突過ぎて私びっくり。

 

「んっ...急に難しいこと聞くね。でも、まぁ私は私だよ?面白いことに従順で、それをするためなら何をするのも厭わない。素敵でしょ?」

 

私の問いに分かりやすく動きが止まった。ありゃりゃ。これは珍しく墓穴をほったかも。先生はよくうりと関わってたもんね。そりゃ分かるか。

 

「言い方を変える。お前、()()()?」

 

「...ふふっ」

 

あーあ。バレちゃった。そういえば私自身の名前を名乗るのは久しぶりだ~。それこそ最後に名乗ったのは中学の時か。同級生だった子だけに教えたんだよね。まぁその子から名前が漏れることなんて未来永劫にないんだけどね。

 

ああ、懐かしい。思い出っていいものだよね。辛いことや苦しいことが私をかたどっている。

 

「私は()()()()。じゃあね」

 

先生がどんな顔をしていたのかなんて見ていないし、興味もない。だから私は真っすぐ帰った。天候の読めない天気雨を傘も差さずに。

 

「……絶対に退学にはさせんぞ、絶対に」

 

茶柱先生の声はきっとこのときの私には聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、私は五月の一日を迎えた。私のスマホには全員分のptである29.4万ptが入っていた。特別報酬許可証で私が使った異議付与の審査が通ったようだった。

 

私がしたのはただ一つ。Cpをできるだけ増やした。意外と大変だったんだよ。だって全運動部に参加して結果残して、おまけでこの学校にあるお店の無償のお手伝い、ようするにボランティア活動だね。Cpって実績を作ると貰えるんだよ。しかも、なんとお得なことに四月の間は生活態度も評価に入るからいい行いがCpになるんだ。それで98Cpも稼いだ私グッジョブ。

 

おまけで私はDクラスで一番Cpを稼いだんだよね。つまりは一番Aクラスになることに一番貢献したのは私。やったね条件達成だよ。

 

そして色々頑張って満身創痍な私が申し立てた異議はこうだ。

 

クラスでCpを稼いだのは私だけなのに他が貰うのはおかしい、と。

 

しかし、それだけでは信頼性が薄い。だからこその無償のお手伝いでもある。初日に商店街の店を手伝ってて良かったよ。おかげで簡単にそれに気づけた。

 

それらによって私の正当性が上に伝わって今回の結果につながった。

 

さて、ここからはあの子に任せようか。きっと面白くしてくれるはずだからね。いい感じに不信感を煽ってね。

 

 

さぁ、そろそろ教室に入ってくる頃じゃない?あの子には君が遅れてくるように仕向けさせたからね。この惨状を見て君は果たして事なかれを貫けるのかな?私も君に期待している。君がいつか私を見つけてくれるのではないかと、ね。

 

──―ガラッ

 

君がいる。私の手にはあの子がとった90点と君の絵。目が合う。君は私に何をくれるの?

 

 

本当に楽しみだよ

 

 

 

 

 

 

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